火が出る、ただし角から。でも撫でて

    作者:一縷野望

     時分・焔(ときわけ・ほむら)は、大人しく利発さが前にでるタイプの子供だ。
     両親は、仕事で成果をあげる自分達が好きで、故に焔は金銭的には満たされていたが心は常に餓えていた。
     孤独な焔は、夫と我が子を事故で亡くしたやはり孤独な老婦人と惹きあった。
     縁側で老婦人は猫の子を愛でるように、焔を膝に乗せただただ頭を撫でる。焔はそうされながら学校であったことをたまにぽつりぽつり。
     ……返るのは当り障りない相づち、だからそこに愛情があったかは、わからない。
     わからないままで、老婦人は老衰で亡くなった。

     それから、焔の異変が、はじまる。

     最初は夢だった。
     自分手足が獣めいた毛に包まれて、目の前にある机や椅子が煩わしくて焼き払う、夢。
     ――だが目ざめると、机や椅子が煤けていた。
     ――それは毎日続き、破損具合はどんどん派手になっていった。
     それどころか学校にいる間も、獣がちらつく……そう思っていたら本当に右腕が毛に包まれていた。
     錯乱し学校を飛び出して部屋に籠りきり。
     ……こんな時も親達は仕事から手が離せずに、学校と話し合いをするのは今度の休みに、らしい。
     …………ああ。
     彼らはこんな時でも、僕の頭を撫でてくれないのだ。
     

    「子供を産んだからって、親になれるかは別の話なんだろーね」
     灯道・標(小学生エクスブレイン・dn0085)はどこか諦めたような笑みを浮かべる。
    「ひとりの男の子が闇堕ちしてイフリートになりかかってるよ」
     黒板に綴られたのは『時分焔、小学3年生、男子』の文字。
    「イフリートだからね、理性はかなり欠落してる」
     灼滅か? の問いに、標は逡巡の後、こう返す。
    「抱きしめてあげて、頭を撫でてあげて――そうやって満たしてあげたら、救えるかもしれないんだ。灼滅者の素質があればね」
     逆に言えば、見込みがなければ灼滅しろ、標は遠回しだがきっぱり告げている。
      
     焔に接触出来るのは平日昼間、彼が慕っていた老婦人の家の縁側だ。庭は広く戦うに支障はないし、巻き込まれる一般人もいないので人払いは無用。
     老婦人と過ごした場所で彼は既にイフリートそのものの姿に変じている。
    「言葉は通じにくくなってるから、まずは全員で抱きしめて頭を撫でてあげて」
     それは決して容易くはないけれど。
     ふかふかもふもふのトナカイイフリート。
     その角からは、常に灼熱の炎が吹きだしており近づく者を深く傷つける。
    「具体的には『レーヴァテイン』と『バニシングフレア』相当」
     メタで言った。
     でも必要な情報だからね!
    「懐かれると向こうからすりすりしてくるよ」
     炎の出る角のすりすりですか?! それは大ダメージの予感だ!
     だが裏を返すと心を開いてくれてる証とも言える。すりすり状態になったら、人の言葉も伝わるに違いない。
     そうなったら更に言葉をかけつつもふもふすりすり、でもってジュージューされながらポカリとやっつけてしまえばよいのだ。 
     標は全て伝え終るとこう締めくくる。
    「何を想って彼はこの場所に来たんだろうね」
     ……僅かに残った『焔という人』の欠片を握り締めて。


    参加者
    鷲宮・密(帰花・d00292)
    オデット・ロレーヌ(スワンブレイク・d02232)
    ヴァン・シュトゥルム(オプスキュリテ・d02839)
    天埜・雪(リトルスノウ・d03567)
    逢見・莉子(珈琲アロマ・d10150)
    桐生・秀行(紺碧の意志・d17364)
    庭月野・綾音(辺獄の徒・d22982)
    織家・響(一直線・d24497)

    ■リプレイ


     頭から紅蓮を二つ咲かせる獣は、主死した庭で取り残されたように佇んでいる。
    『モウ、イナイ』
     片言で絶望を編むように。
     闇は少年の形をしていた心へ指を伸ばす、はやく躰をわけあたしてしまえ、と。お前に気持ちを向ける存在は、もう何処にも……。
    『イナイ』
    「そんなことはありませんよ」
     炎で閉ざされた迷路の中、路示すように鈴が啼く。それは鷲宮・密(帰花・d00292)が発した声だった。
    「君を見てくれる人はちゃんといる」
     そう伝えたい。
     そんな密の、いや皆の気持ちを現わすように、八名がそれぞれの微笑みを獣へ注いでいる。
    「……」
     歩み出た烏羽髪を切り揃えた少女は華奢な指を伸ばす。近づく鼻先、赤く腫れる手の平、けれど天埜・雪(リトルスノウ・d03567)は苦を漏らさない。
    「怖がらないで、焔。助けに来たのよ」
     オデット・ロレーヌ(スワンブレイク・d02232)は警戒を解くように腕広げて近づく。その真っ直ぐさは陽に向う向日葵のようで。
    「ああ、俺たちはおまえの味方だ。心配しなくていいぜ」
     異形へと躰が変ずる不安は身に染みている、だから桐生・秀行(紺碧の意志・d17364)は、はっきりとそう告げた。あの日の灼滅者達を思いだしながら。
    「うん。大丈夫だよ」
     庭月野・綾音(辺獄の徒・d22982)は、指焼く熱さも気に止めず伺うように小首を傾けた。さらりセミロングの髪が零れる。
     頭上の熱で生じる蜃気楼。
     ゆらゆらうつろう『焔』を捉えるように、五人はトナカイの胴体や頭や頬を梳るように撫でさする。
     熱くて痛くて、でも……柔らかな毛足の手触りは愛しさを喚起する。
    「これからは私達が一緒にいます」
     眼鏡を外したヴァン・シュトゥルム(オプスキュリテ・d02839)は、静逸な声音で続けた。
    「あなたはもう、一人ぼっちではありませんよ」
     向けられた優しさに戸惑うように後ずさる様は、身を焦がす炎に気圧されぬ彼らとは対照的だ。
    『イラナイ。カエレ』
     近づきたくない張り巡らせた壁、本当は乗り越えて欲しいのに。つけ込むように闇は少年を捉え、凶暴な炎をまき散らさせた。
    「熱いのは割と平気」
    「1番、響いきまーす」
     ウインクする逢見・莉子(珈琲アロマ・d10150)の影から飛びかかったのは、織家・響(一直線・d24497)、もちろん目的はもふもふ☆
    「ほら、お揃いなのよ」
     莉子は指先に炎を招き見せる、怖がる事はないと教えるように。


     ヴァンにより音零れを封じられた庭で、獣へと堕ちゆく少年へ指を伸ばす。
    「あなたにとっては本物の家族よりも老婦人の方が大切な家族だったのですよね」
     妾腹と蔑まれたヴァンは、血の繋がりあろうが想い通じぬ哀しみを知っている。
    「突然繋がりが切れて、寂しかったのですよね」
     死という無慈悲な絶ちきり鋏で。
     すんなりと伸びた首筋から背中を馴らすように手を滑らせて、頬が煤けるのも構わずに。
    『寂シイ……』
    「……気付くのが遅くなって申し訳ありません」
     ――ごめんね、ママお仕事入れちゃったの。
     ――約束してたっけ? すまん、父さん仕事だわ。
     両親の発する『ごめん』より本物である事は確かだ。当然だヴァンは真っ直ぐに焔と向き合っているから。
     しっぽがはたり、縋るような瞳が揺れた。
    「あなたはもう、一人ぼっちではありませんよ」
     孤独を重ねた分だけより強く優しいつながりを築きたいと、ヴァンはちょんと鼻筋に触れてやる。
    『……きゅ』
     何か言おうとしたらひどく不安定な啼き声しかでない。もう人に戻れないのかと怖くなったら、頭から勢いよく炎が吹きだした。
     焔を怯えさせないように剣を躰の影に隠し、綾音は仲間の火傷を祝福で繕う。
    「ナノ~」
     あわせて莉子のナノナノもオデットにハートを飛ばした。
    「わたしたちがいてあげるから落ち着いて。あなたは一人じゃないからね」
     みんな一緒、仲間。
     ヴァンとハモる台詞に屈託なく笑うと、莉子はもふっと胴体に抱きついた。炎色の毛にしっとりと包み込む感触を楽しむように、ぎゅ。
    「多分怖かったのよね」
     橙より赤なる熱の脇に唇寄せて、熱さ堪え宥めるように囁く。
    「大丈夫よ。わたしは全部わかってあげられるから」
     血を火に変える者が背中合わせの身を灼く熱と獣の衝動、
    「戻ってきたら全部教えてあげるからね」
     そう囁き額を撫で撫で。
    『戻ル。違ウ……戻ラナイ!』
     暴れもがくはダークネスか。
    「小難しい事言わんと、なぁ?」
     はぎゅ!
     全身で胴体に抱きついた響は思う様モフモフモフ!
    「うちな響いうんよ~あんさん焔やろ、仲ようなりたくて来たんよ~」
     地面を踏みしめる右前脚を持ち上げ握手、人の形を思い出させるために。更にわしゃわしゃっと全身を丹念に撫でまわせば、自分も至福で一挙両得。
    「ええ撫で心地。モフって……熱い!!」
     思わず溢れた悲鳴。だが不安げな獣の眼差しに赤く爛れた手の平をぺろりと舐めサムズアップ。
    「火傷? そんなん唾つけときゃええやし、こんくらい大丈夫や」
     モフ熱いー! そんな嬉しそうな響に負けられぬと、秀行も前へ。
    「愛情とか優しさとか、正直俺にはよく分からない」
     響の肩越しに此方を見るつぶらな瞳へ、しゃがんで視線をあわせる。
    「だけど、俺はおまえを見てるぜ」
     いるのは『焔』
     人の『焔』
     炎に包まれた角を優しく握り指を滑らせる。焦げる肌の痛みを厭わず、そのまま頭頂に触れたらなぞる様にそっと撫でる。熱傷の痛みは奥歯を噛みしめ堪えた。
     こんな熱さで怯えてられるか――焔の心はまだまだ温もりが足りないはずだ。
    「おまえはちゃんと、ここにいる」
     慈しむような言葉のままに、いつでもいつまでも撫でて撫でて、寂しいを埋め尽くしてやる。
    「うん。これからもずっと、焔君のこと、ちゃんと見てるよ」
     綾音はあやすように背中をぽふぽふ。弾ませるように撫でれば、ふかふか、その感触に思わず笑みが溢れた。
    『ホム……ラ』
    「うん、焔君」
     確かめるような声には穏やかな謳のように名を呼び返す綾音。
    「当たり前にあるような、ちょっとした事すらして貰えないのは寂しいよね」
     焔が求める親にはなれないけれど撫でる事はいくらでもできるよと囁けば、縋るような瞳。
    「きっと、まだまだ辛い時は、寂しい時はあるだろうけど」
     どんな時でも撫でてあげるよ、約束するよ。
     ――支えるよ。
     そんな風に代わる代わるに頭に触れる掌。それはこの縁側で差し伸べられたしわくちゃとは、違う。
     ……でもどれも、欲しいもの。
     そう望めば、ますます頭上の炎は燃えさかり彼らを傷つけた。
    『きゅ……きゅー!』
     制御できぬ行いが焔の心に楔を穿つ。
    『全テ、消セ! 壊セ!』
     自分じゃない自分は嗤っている。その絶望が爆ぜ、心寄せた庭へ夥しい炎がぶちまけられた。
     ……それでも誰ひとり膝を折らず、笑みは消さない。
     音のない咳で雪は煤を吐いた。気遣わしげな父の眼差し。安心させるように頷いてから、最初と同じく手の平を獣の鼻先で、開く。
     おずおずと近づいてくる鼻先は最初よりずっと近く。雪は無垢な笑みを深くすると、頬から耳の後ろにかけて擽るようにちょんちょんとつつき撫でた。
     ぴくん。
     耳が跳ねるようにぱたつく。同時に跳ね返る火花が更に身を灼くけれど、構わずぎゅっと抱きついた。
     毛皮にひとさし指で綴る「だいじょうぶだよ」
     唇だけの「だいじょうぶだよ」
     安心して欲しいから、雪ができる限りのやり方でそう伝える。
    「ねえ、焔さん」
     和装だからだろうか? いや恰好だけなんかじゃない。密の身からふわりふわり立ち上る気配は、穏和でいつも微笑みを浮かべていた老婦人を蘇らせる。
     近づこうとして、けれど肩口から焼けただれた密の姿にトナカイは引いた。
    「大丈夫、よ」
     焔の孤独に比べれば痛くもないと、密は腕を伸ばす。
    「愛されないとか、独りで抱え込まないで欲しいな」
     首を支えるように撫でれば、くるると鳴る喉。じゃらすようにきゅっと抱きしめて続ける。
    「私で良かったら君の隣に居るから」
     ね?
     視線をあわせて頷く様が、まだ元気だった頃の老婦人を思い起こさせる。
    『僕……は…………』
     膝に抱かれ頷くだけだったのは、元気が無くなったからだ。知り合った頃はこうやって目を見て話しかけてくれた。
     友達は家族が迎えに来て帰ったのに、帰れない僕を招き入れてくれたのがきっかけだった。
    『愛されて……』
     でも愛してくれたお婆さんは、もう、いない。
     崩れそうな嗟嘆、でもダークネスつけ込むことができなかった。
     何故か?
     焔が求めたのが灼滅者達だからだ。
    「焔」
     ぎゅううう。
     決して無理矢理にならぬよう優しい抱擁を心がけて、オデットはふかふかの背中に頬を寄せた。
    「柔らかくていい毛並みね。でも、人のあなたも撫でてあげたいわ」
    『離セ!』/『離さない……で』
     消え入りそうな語尾、それは灼滅者達が真摯に向き合って呼び覚ました焔の欠片。
    「ええ、離してなんてあげないわ。だから安心してね、焔」
     振り払うようにどんなに暴れられても絶対離さないと、オデットは強い意志を示すように孤独な少年にしがみついた。
    「焔、よく今まで一人で寂しいのを我慢したわね」
     でも、とオデットは区切るように続ける。
    「そういう時はいい子でいちゃダメ。泣いてでも、ちゃんと言葉で僕を見てって伝えなくちゃ」
     今みたいに感情をぶつけて、決して封じてしまわないで――何処か祈るように、オデットはひとさし指を立て言い聞かせる。
     焔。
     時分君。
     焔君。
     熱さに躊躇わず伸びる腕、呼ばれる名前。
    「……」
     だ・い・じょ・う・ぶ――雪もそう唇を動かして頬を緩めた。
    『きゅ~』
     沢山伸びた腕がぎゅうと抱きしめてくるその時、焔を縛り付けるナニカが、壊れた。


     トナカイはぐるりと見回すと、戸惑いをぽいっと捨てて八人の元へ突進していく。
    「よっしゃー拳で語り合い! うちの本領やし、がつんと来てみい!」
     左手に右の拳をがつんと当てて響は大きく胸を反らす。そこにすかさずトナトナタックル☆
     すりすりすりすりすりすりすりすり。
    「ええ毛並みやけど、ホンマめっちゃ熱いなぁ~」
     と、目尻が垂れまくりの響だが、握った拳を喉元へ――抗雷撃の構え!
    「でも、可愛いなぁ~」
     喉元ごろごろ、輝く拳。
    「ああああ、可愛いです可愛いです!」
     てこてこ寄ってきてすりすり。
     そんな仕草の愛らしさを叫びに変えて、密は炎をそぎ落とした。
    『きゅ?』
    「いくらでもこうやって抱きしめてあげる。ううん、抱きしめさせて」
     もふもふと埋もれる密の傍ら、チョコレートの髪を靡かせて莉子が駆け寄ってきた。
     ぽっ。
     角から溢れた炎に莉子は大きく頷いた。
    「うん、元気で結構!」
     同じく炎で返し、破顔。
    「わたしたちとくれば寂しさなんか感じる暇もないから。きっとね!」
     だからおいで、一緒においで。
     闇から解くには攻撃が必要で、でも近づくとまず撫でてしまうとヴァンは口元を綻ばせる。そんな彼にも焔は頭をすりつける。
    「あなたの居場所、私達と一緒に、これから作りましょう」
     大切な人と焔が過ごした『黄昏』を祝福するように、喉元に当てた杖から力を注ぐ。
    「温もりを、幸せを諦めてしまわないで」
     もう我慢しなくていいと聖なる剣で撫でるように切るオデット。
    「何を感じてたの。どう思ってるの。全部吐き出して、ちゃんと受け止めるから」
     そう声を張り上げて。
     雪の元へ駆け込む焔、両腕を精一杯広げて待ち受ける小柄な躰の前に、モーニングコートの男性が割り行った――父、雫だ。
    『きゅ?』
    「……」
     ひょこ。
     父の影から顔出す小さな面差しは「だいすき」な笑みのまま。哀しさが消えたトナカイを、雪は「とん、とん、とん」と軽く打つ。
     ……苛烈な攻撃を受けているはずなのに、みな焔が懐くのが嬉しくてたまらない顔。柔らかな毛皮の感触を堪能しながらぽかりぽかり。
    「ね、戻っておいで」
     天使の声で響を癒した後で、近くに来た焔へ綾音は語りかけた。
    「ちゃんと、人としての焔君を撫でたいな」
     ぽっ。
     吹き出す炎を捉えるように撫でさすり、綾音はもう一度「焔君」とその名を呼んだ。
    『お姉さんの、みんなのお名前……ハ?』
     綾音と焔の間で成立する会話に、ふにゃりと秀行の頬が緩む。慌ててぺちぺちと叩きいつもの仏頂面へ。
    「俺は秀行。撫でてほしいなら、俺がいつだって好きなだけ撫でてやるよ」
     先程と同じく緩やかに開いた腕で抱きしめて愛しげに撫でさする。
    「おまえの気持ちも炎も全部俺が受け止める。だから――戻ってこい」
     鞘に収めた日本刀を掲げ秀行はその名を呼ぶ「焔」と。


     四つん這いでいる自分に違和が強くなる……。

    「おかえりなさい」
     身を起こした焔をすかさず密が抱きしめた。
    「あ……」
     気恥ずかしさよりも安堵が胸に満ちて焔は瞼を下ろしてじっと身を委ねる。
    「お疲れさん~。しんどいとこないかぁ?」
     覗き込む響にはしっかりと頷く。
    「大丈夫」
    「説明するって約束だったよね」
     莉子が噛み砕いた言葉で焔の身に起こった事を話す。
    「困ったり不安な気持ちはありませんか? なんでも話してください、力になりますから」
     眼鏡をかけたヴァンは焔の手を勇気づけるように握った。
    「……と、そんな私達が集っているのが『武蔵坂学園』って言う所だよ」
     続きは綾音が引き取った。雪は説明にあわせて液晶タブレットに呼びだした『武蔵坂学園』の写真を見せる。
    「ねえ、学園に来ない?」
     腕を解き密は柔和な笑みで問い掛ける。
    「パパとママが仕事で忙しいなら、私がお姉ちゃんとして傍にいるわ」
     ――おはよう鶏の時の声、一緒に聞こう。
     胸に手を置くオデットが触れたのは世代を超えて受け継いだ懐中時計。
    「ええっと……」
     さぞや面食らってるんだろうなあと一歩引いた所から見ていた秀行と焔の目が、あった。
     ……撫でてー。
     目は口程にモノを言う。
    「ちょっとだけだぞ……」
     そっぽ向きつつ手を伸ばす秀行は満更でもない様子。
    「私も撫でたいわ」
     オデットを皮切りに皆で撫で撫で。それはさっきと何一つ変わらない、優しい熱。
    「みんなにそばに居て欲しい、です」
    「うん。これから宜しくね」
     ぽふり。
     弾くように撫でてくれた綾音には、はにかみ笑い。
     暗闇の中の手の平、今度は僕が誰かに差し伸べたい――だから。
    「あの……」
     でもまずは、みんなをいっぱいいっぱい撫でてもいいかな?

    作者:一縷野望 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2014年3月13日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
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