星形のアザ持つスサノオと異形の妖獣

    作者:J九郎

     太陽が、地に没する間際の黄昏時。
     京都の街を見下ろすビルの屋上に、白い炎がぼうっと灯った。
     炎はやがてニホンオオカミに似た一つの姿を形作る。全身が白い毛に覆われている中で、四本の足の先だけが墨に漬けたかのように黒い。そして異彩を放つのは、額に刻まれた星形のアザ。
    『グルル……』
     白き獣は低く吠えると、何かの儀式であるかのように、黒く染まった四本の足で舞うように屋上を踏みしめる。
    『ワオオーーーンッ!』
     獣が最後に一声高く吠えると。
     空がにわかにかき曇り、雷雲が発生した。やがて雷雲から雷が放たれ、ビルの屋上を撃つ。
     そしてその落雷のあった場所には、いつの間にか異形の獣が姿を現していた。
     サルのような頭部にタヌキのごとき胴体、手足は虎のようで、尾はヘビそのもの。その妖獣の名は――。
     
    「嗚呼、サイキックアブソーバーの声が聞こえる……。スサノオが、“古の畏れ”を生み出そうとしてる場所が予知できたと」
     集まった灼滅者達に、神堂・妖(目隠れエクスブレイン・dn0137)はやや興奮気味な声でそう告げた。
    「……スサノオはブレイズゲートのようにエクスブレインの予知を邪魔する力を持ってる。でも、スサノオと因縁を持つ灼滅者が多くなったことで、不完全だけど介入できるようになったのかも」
     それから妖は、「スサノオと戦うには二つの方法がある」と語り出した。
    「……1つめは、スサノオが古の畏れを呼び出そうとした直後に戦闘をしかけること。スサノオが暗雲を呼び出してから落雷と共に古の畏れが姿を現すまで6分かかる。つまり、6分以内にスサノオを灼滅出来なかったら、古の畏れが現れてスサノオの配下として戦闘に加わることになる」
     古の畏れが現れた後は、スサノオが戦いを古の畏れに任せて撤退してしまう可能性もあるので、短期決戦が必要になるという。
    「……6分以内にスサノオを倒した場合は、暗雲は散って古の畏れは現れる前に消滅するから、短期決戦に自信があるなら、この方法がいいと思う」
     そして、と妖は続ける。
    「……2つ目は、スサノオが古の畏れを呼び出して去っていこうとする所に戦闘を仕掛けること。古の畏れから、ある程度離れた後に襲撃すれば、古の畏れが戦闘に加わることはない」
     ただしこの場合、スサノオとの戦闘に勝利した後、古の畏れとも戦う必要がある。スサノオと戦う場合の時間制限はないが、必ず連戦となる為、それ相応の実力と継戦能力が必要となるのだという。
    「……どちらも一長一短あるから、自分達の戦力をよく考えて、最善と思われる方を選択して」
     それから妖は、スサノオについての説明を始める。
    「……スサノオは、狼の姿をしたダークネス。その鋭い牙に加えて、過去に呼び出した古の畏れの力も使えるみたい」
     かつてこのスサノオが生み出したのは、風を操るうぶめ、糸を使いこなす女郎蜘蛛、そして呪詛で相手を縛る鉄鼠の3体だ。
    「……そして、今回スサノオが呼び出したのは、鵺(ぬえ)という妖怪」
     サルの顔、タヌキの胴体、トラの手足を持ち、尾はヘビという異形の妖怪だ。
    「……妖怪というより、最早怪獣」
     妖怪図鑑の挿絵を示しながら、妖は顔をしかめる。
    「……鵺は、雷を操る力を持ってる。また、その鳴き声を聞いた者は呪われると言われてる」
     また、かなりの怪力の持ち主でもあるようだ。
    「……スサノオと鵺、どちらも危険な相手だけど、この機会を逃したらスサノオを灼滅できる状況が今後訪れるという保証はない。だから、今回で確実に灼滅して欲しい」
     そう言って、妖は頭を下げたのだった。


    参加者
    ミルフィ・ラヴィット(ナイトオブホワイトラビット・d03802)
    近衛・朱海(蒼褪めた翼・d04234)
    撫桐・娑婆蔵(中学生殺刃鬼・d10859)
    祟部・彦麻呂(夢見る乙女・d14003)
    十六夜・深月紅(哀しみの復讐者・d14170)
    ミスト・レインハート(晩霞に溶けゆく影・d15170)
    平戸・梵我(蘇芳の祭鬼・d18177)
    久条・統弥(ネギ・d20758)

    ■リプレイ

    ●白き炎獣
     鵺を呼び起こしたスサノオは、屋上から飛び降りると、跳躍を繰り返し、やがて鴨川の中洲に降り立った。
     再び大地を蹴り、高く跳躍しようとしたスサノオだったが、突如飛来した銃弾が、スサノオの腹部を射抜いていた。
    「ようやく、元凶を、殺せる、ね」
     川岸にて契約の指輪を構える十六夜・深月紅(哀しみの復讐者・d14170)が、力を解放した証である血の涙を左目から流しながら、そう言い放つ。
     スサノオと鵺の両者と同時に戦うリスクを避けるため、まずはスサノオを討つ作戦を、灼滅者達は選んだのだ。
    「グルル……」
     深月紅を敵と認識したスサノオが、彼女に飛びかからんと脚に力を溜める。だが、
    「ここで逃がしたらチャンスはもう来ない……必ず仕留める!」
     いつの間にかスサノオの背後に回り込んでいたミスト・レインハート(晩霞に溶けゆく影・d15170)が、その脚を巨大な刀――孤狼斬月で切り裂いていた。
    「アオーンッ!」
     態勢を崩され、跳躍できずに苦鳴を上げるスサノオ。
     そんなスサノオに、平戸・梵我(蘇芳の祭鬼・d18177)が首に掛けているヘアバンドで前髪を上げつつ、近づいていく。
    「ったく、随分と振り回してくれたもんだが……さて、行くぜ痩せ狼、血祭(まつり)の時間だ!」
     まるで人が変わったように凶悪な笑みを浮かべた梵我の全身から殺気が放たれ、スサノオを飲み込んでいった。
     さらに、そこへ飛び込んだのは近衛・朱海(蒼褪めた翼・d04234)と撫桐・娑婆蔵(中学生殺刃鬼・d10859)。
    「炎の獣を狩るのは私の役目! 娑婆蔵さん、合わせて!」
    「よござんす!」
     二人が同時に放った抗雷撃が、スサノオの体を高々と宙へと吹き飛ばす。だが、スサノオは空中で体を反転し態勢を整えると、
    「ガルッ!」
     前脚を振るい、突風を巻き起こした。風は刃と化し、娑婆蔵を襲う。が、素早く娑婆蔵の前に立ちはだかった久条・統弥(ネギ・d20758)が、WOKシールドで風を受け流した。
    「仲間は絶対守る!」
     統弥はシールドを広域に展開させ、自分だけでなく仲間もかばえるように配置する。
    「それにしてもスサノオって多いよね……。分裂したのか元々たくさんいたのか……」
     目の前のスサノオも含め、増え続けるスサノオに統弥は興味を抱いていたが、今は戦いに集中すべきだと、意識を切り替える。
    「グルル……」
     灼滅者達とやや距離を取って着地したスサノオだったが、どこからともなく流れてきた歌声に、うるさそうに首を振った。
     それは、ミルフィ・ラヴィット(ナイトオブホワイトラビット・d03802)の歌う女神の如き歌声だ。
    「クインハート家メイド、ミルフィ、推して参りますわ。いざ!」
     歌い終えたミルフィは、鞄形態だったクロックラビットブレイカーをバベルブレイカー形態に変形させ、戦闘態勢を取る。
    「アオオーンッ!」
     スサノオが高く咆え、それが合図だったかのように灼滅者とスサノオの戦いが本格的に開始される。
     いつでも仲間達を癒せるように、後方に下がって戦いを見守る祟部・彦麻呂(夢見る乙女・d14003)はしかし、スサノオという存在が気になって仕方なかった。
    (「スサノオって何考えて生きてんだろ。大神ってのになりたいのかな。なったら次はどうしたいんだろ。知らない事が多すぎる」)
     何を考えているのか、何を目的に行動しているのか分からない相手だからこそ、彦麻呂はスサノオのことを知りたいと思う。
    (「やっぱり、殺すしかないの? 仕方がないよね。放っておけば死者だって出るかも知れない。でも……」)
     スサノオに噛み付かれた深月紅を癒しの矢を放って癒しつつ、彦麻呂は悩み続けていた。

    ●第一の決着
    「ガルルッ!」
     スサノオが前脚を中洲に激しく叩きつけると、スサノオを中心に蜘蛛の巣が広がり、前衛で戦う灼滅者達を絡め取っていく。
     動きの取れなくなった梵我にスサノオが噛み付かんと跳躍するが、
    「貴方の、身体の【時】を狂わさせて頂きますわ!」
     蜘蛛の巣の範囲外にいたミルフィが、バベルブレイカーをスサノオに全力で突き刺した。するとバブルブレイカーの側面の懐中時計の針がカチリと動き、突き刺した杭が高速回転を始める。
    「アオーンッ!」
     スサノオの動きが、時が止まったかのように停止した。
     その間に、朱海のセイクリッドウインドと彦麻呂の清めの風、二種類の風が蜘蛛の巣を吹き飛ばし、前衛を解放していく。
    「グ、ルル……」
     だがスサノオも、硬直を自力で解き、舞のような動きで自らの傷を癒していった。
    「ガルッ!!」
     スサノオが咆えると、額の星形のアザが輝き、放たれた呪詛の黒い霧が、朱海と彦麻呂を呪縛していく。
    「こちらの回復役に狙いを付けるなんて!」
     シールドを展開させた統弥が二人の前に立ち、呪詛から二人を庇い。
    「私は全ての獣を焼く剣! 白炎朱に染め灰に還す炎を……顕現せよ、炎刃!」
     朱海は、手に持つ剣――刀纏旭光に炎を纏わせ、自らを縛る呪詛を断ち切る。かつて家族を殺したイフリートと、目の前の白き炎を纏うスサノオの姿を重ねて。彼女の胸の内で憤怒、憎悪が燃え上がる。
    「ヒコの姉御を襲うたぁいい度胸でござんすね!」
     そして、スサノオの注意が後衛に向いた機を逃さず、娑婆蔵が動いた。手にするは毛抜型太刀『暁光』。その暁光を、大上段から振り下ろす。
    「グガオオオッ!」
     背中を切り裂かれたスサノオが悲鳴を上げ、飛び退こうとした。しかし、孤狼斬月を構えたミストが、スサノオの背後に回り込み、退路を断つ。
    「俺たちにできるのは全力で戦うことだけだ。――今、この瞬間を生き残るために!」
     そして放たれたミストの気魄を乗せた一撃が、スサノオを切り裂き、
    「今回がラストチャンスになるなら、絶対に負けられない!」
     さらに剛槍『示一口田』を構えた梵我の放った強烈なひと突きが、スサノオの額の星形のアザを貫いた。
    「アオーーーンッ!!」
     スサノオが、激痛にもだえ暴れ始める。
    「古の、畏れとか、面倒な、もの、呼び出されるのは、鬱陶しい、から、確実に、殺さないと、ね」
     深月紅が、虹色に輝く炎を纏った二振りの解体ナイフを、目にも見えぬ速さで振るった。次の瞬間、スサノオの純白の体が、どうっと中洲に倒れ伏した。
     戦う力を失ったスサノオに、彦麻呂がゆっくりと近づいていき、そっとその額に手を当てる。そして接触テレパスで語りかけた。
    『あなたの目的は何? 私たちは本当に戦わなきゃいけないの? ダークネスだから、相容れないから殺す。これじゃ本当にただの戦争だよ』
     スサノオの目がわずかに開き、彦麻呂に向けられる。その目に邪念や敵意はなく、何かを訴えようとしているように、彦麻呂には感じられた。
     だが、それも束の間。
     一瞬後にはスサノオの全身は白い炎に包まれ、そして消滅していった。
     その様子を見守っていたミルフィは、疑問を感じずにはいられなかった。
    (「しかし、何故こうもスサノオがここまで出現しだしているのですかしら……?」)

    ●屋上の雷獣
     鵺は、呼び起こされた時のまま、ビルの屋上にいた。
     もう日は落ち、辺りは闇に包まれている。その屋上に、いくつかの光が差し、鵺の姿を浮かび上がらせた。
    「あの古の畏れは、かの源頼政が弓で射抜き、退治したといわれる妖獣、鵺ですわね」
     ミルフィは鵺の姿を捉えると、魅惑の歌を歌い始める。その歌声に、鵺は戸惑ったように周囲を見回していた。
    「それじゃ、源頼政よろしく鵺退治と洒落込みますか……っと」
     梵我は木刀を構えつつ、念のために殺界形成を用いた。これで、一般人が紛れ込んでくることはないはずだ。
    「鵺の鳴き声は不吉を呼ぶと言うからね。音も封じておこうか」
     さらに、ミストがサウンドシャッターで外部へ音を漏れることを防ぐ。
    「みんな、畏にも臆するんじゃないわよ」
     スサノオに抱いていた激情を、味方を叱咤鼓舞する息吹に変えて朱海が叫ぶと、
    「合点承知でさぁ、朱海の姐さん!」
     頭にオウル・アイという特製のフラッシュライトを括り付けた娑婆蔵が威勢良く応じる。
    「古の畏れも、灼滅するしかないんだろうけど……」
     同じくオウル・アイを用意してきた彦麻呂はしかし、先程のスサノオの目が忘れられないでいた。
    「鵺は確か強い妖怪だったはず。戦えるのが楽しみだ!」
     一方、統弥はやる気充分で。
    「四肢を、掲げて、息、絶え、眠れ、無望の、仔」
     夜目の効く深月紅はライトを用意することもなく、静かにスレイヤーカードを解放していた。
     スサノオ戦で受けた傷は、ここに来る前に心霊手術を用いて可能な限り癒してきている。連戦ではあるが、万全に近づけたはず。
     その時、鵺が口を開いた。まるでミルフィの歌に合わせるように、『ヒョー、ヒョー』と不気味な鳴き声を上げる。
    「体が重い……! これが鵺の呪いの鳴き声って奴か!」
     体の異変に気付いた梵我が舌打ちする横を、娑婆蔵が赤い巨大右籠手“がしゃどくろの右腕”を構えて駆け出した。
    「なら、その変な鳴き声は止めさせていただきやしょう!」
     そのままがしゃどくろの右腕を、鵺の猿顔に叩きつけようとするが、鵺は巨体に似合わぬ素早い動きでその攻撃を避けると、虎の前脚を娑婆蔵に叩きつけた。力任せの無造作な一撃。だがそれだけで、娑婆蔵の体は吹き飛ばされ、屋上のフェンスに激突する。
    「娑婆蔵くん、しっかり!」
     彦麻呂が、リングスラッシャーを娑婆蔵に周りに展開させ、傷を癒すと同時に盾代わりにした。
    「スサノオは、消えた。あなたも、とっとと、消えて?」
     同時に、次の標的を求めて目を彷徨わせていた鵺に、深月紅が迫る。鵺は先程のように素早い身のこなしで深月紅の拳をかわそうとするが、無数に繰り出される彼女の拳を避けきることはできず、何発かの直撃を受けて、呻き声を上げた。
    「よし、畳みかける!」
     さらにそこへ、ミストが孤狼斬月を構えて飛び込む。振り下ろされた孤狼斬月は確かに鵺に命中し、血を飛び散らせる。が、
    「手応えが浅い……。こいつ、結構頑丈だ」
     そう独りごちたミスト目掛け、鵺の蛇の顔持つ尻尾が迫っていた。
    「させるもんか!」
     そこに、強引に統弥が割って入り、蛇はミストではなく統弥の腕に噛み付く形となる。
    「う……毒が!」
     即効性の毒なのか、統弥の顔が見る見る青くなっていった。すかさず朱海が防護符を飛ばし、解毒を試みるが、その間に鵺の本体が統弥へと向き直り、虎の脚を振り上げていた。
    「やらせるかっ!」
     そこへ、梵我が飛び込み、剛槍『示一口田』を鵺の虎の脚に突きつける。その隙にミルフィが統弥を引っ張り、安全圏に移動させていた。
    「流石は伝説の妖獣、手強いですわ。この戦い、長引きそうですわね」
     ミルフィの言葉通り、戦いは長期戦の様相を呈し始めていた。
     
    ●第二の決着
    「ウオオオーンッ!」
     鵺が咆えると同時に、空の雷雲から雷が降り注ぎ、統弥を直撃する。思わず膝を折る統弥に朱海が防護符を飛ばして傷を癒すが、鵺は既に、狙いを娑婆蔵に切り替え、虎の鋭い爪を振るっていた。
    「よござんす! 鵺の攻撃、全て受けきってご覧にいれやしょう!」
     その爪を辛うじてがしゃどくろの右腕で受け止めた娑婆蔵だったが、もはやその全身はボロボロだった。スサノオとの戦いの後の鵺との長期戦で、鵺の攻撃から仲間を庇い続けていた統弥と娑婆蔵の体には限界に近いダメージが蓄積している。
    「ちょっと時間がかかりすぎていますわね。このまま長期戦が続くと、こちらの体力が持ちませんわ」
     ミルフィは懐中時計を取り出し、戦闘開始からの時間を確認していた。せっかちな彼女には、持久戦はあまり好ましい状況ではないのだろう。
    「みんな、奮い立て! 心折れれば待つのは死だ。勝ってみんなで学園に帰るぞ!」
     連戦で沈みかけていた仲間達を奮起させるべく、ミストが叱咤激励の声を上げる。そして孤狼斬月を振るい、鵺の脚を切り裂いていった。戦闘開始当初ならかわされていたかもしれない攻撃も、度重なる攻撃で弱った今の鵺には、避けられない。
    「長期戦は、必ずしも、私達だけが、不利なわけじゃ、ない」
     深月紅は七色の炎を纏わせた解体ナイフで間断ない攻撃を繰り出していく。スサノオのような回復手段を持たない鵺にとっても、長期戦はつらいはずなのだ。
    「そろそろこいつは仕留めねぇとな!」
     梵我が木刀で鵺の蛇の尾を打ち据えると、木刀を通じて送り込まれた魔力が爆砕し、蛇頭を吹き飛ばした。
    「ウオオオーンッ!」
     鵺が苦痛に前脚を振り上げ、叫びを上げる。
    「さあ、そろそろお開きのお時間ですわ」
     露わになった鵺の腹部を、ミルフィの影が槍となって刺し貫いた。
    「鵺の鳴く夜……その帳さえ下ろさせるものか!」
     朱海がここぞとばかりに、ミルフィの影が作った傷跡に剣を突き刺した。刃に旭光の如き朱の炎を纏う剣は、鵺の腹部に半ばまで埋まり、
    「グガアッ!」
     痛みのあまり振るわれた虎の腕が、朱海を捉える。
    「くっ!」
     激痛に顔を歪ませながらも、朱海は剣を鵺に全て埋め込んでいった。
    「お引きくだせぇ、朱海の姐さん。後はあっしが、撫で斬りにしてやりまさァ!」
     朱海が飛び退いた後に飛び込んできたのは、娑婆蔵だ。彼の電光石火の斬撃が、鵺の全身を斬り刻んでいく。そして、
    「鵺を仕留めるのは弓矢っていうのが、平安の昔からのお約束みたいだからね」
     天星弓を引き絞っていた統弥が、狙い澄ました一撃を放つ。矢は狙い違わず鵺の額を射抜き。
    「ヒョーッ!!」
     奇声と共に、鵺の巨体がくずおれた。次の瞬間、雷雲からこれまでになく激しい落雷が発生して鵺の体を打ち据える。
     眩さに一瞬目をつむった灼滅者達が目を開けた時には、鵺の体は跡形もなく消え去っていた。
    (「戦う以外の道は、本当になかったのかな」)
     すっかり静けさを取り戻した屋上で、彦麻呂は消えていったスサノオと鵺に、手を合わせていた。
    (「僅かにでも可能性があるならそれに賭けたい。可能性が無いなら想い続ける。誰もが諦めていたら、そんな未来は永遠に予知されないって思うから」)
     ともあれ、星形のアザを持ったスサノオと、彼の呼び出した古の畏れによる事件は、一旦幕を閉じたのだった。

    作者:J九郎 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2014年3月13日
    難度:やや難
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 8/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 1
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