狂ってるからこそ

    作者:猫御膳

    「おー、すっげー。おいおい、こんなでっかいハンマーとかあるぜ?」
    「こっちはワイヤーとかもある。凝ってるなー」
    「やはりチートと言えば日本刀でしょ」
    「王道的には剣だよ。小説だって剣の主人公が多いよ」
     賑やかに、楽しそうに、殺し合いの為の武器を選んでる。だが、誰もが目が空虚に、ただただ濁っている。
     事の始まりは、2時間ほど前の事。目を覚めてみれば、この旧校舎に集められていた。集められた人数は13人。誰もが変わらない年齢で、何が起きてるか分からない様子だった。外に出ようとしても旧校舎からは出られない。外に連絡しようとすれば連絡が付かず、未読のメールのみがあった。
    『おめでとう。お前達は選ばれた。だからこそ殺し合いを始めて貰う。狂ってると思うか? 正解だ。お前等は全員狂っている。1人になるまで殺し合え。勝者のみが本当に選ばれた者だ』
     そんなメールを見て、何人かが取り憑かれたように武器を探して回り、今に至る。こいつらは全員狂っている。俺は違う。だからこそ、俺が生き残らなければいけない。
    「……そうだ、此処を出るのは俺だ。こいつらが生き残る事は許されない」
     そう決意を固めると、先ずは愚鈍そうな男の首を刎ね、次の獲物を探すのだった。

    「……ああ、来てくれたか。正直、今1人で居るのが怖かった。集まってくれて感謝する」
     曲直瀬・カナタ(中学生エクスブレイン・dn0187)は顔を青褪めながら、少しだけ緊張が紛れたように微笑する。
    「六六六人衆が動きがあった。以前、暗殺ゲームでみんなが返り討ちにした分を、どうやら補充しようとしている。その為、一般人を六六六人衆に闇堕ちさせる儀式を行っている」
     その儀式が行っているのが、『カットスローター』こと切宮・顕嗣、そして『縫村・針子』。この2人が関わってるという。
    「カットスローターが六六六人衆の素質を持つ一般人を集め、縫村・針子が創りだした『閉鎖空間』に閉じ込め、互いに殺し合わせる事で、より協力な『六六六人衆』を生み出す力を持っているようだ。閉鎖空間を作り出す能力と、閉鎖空間を総称して『縫村委員会』と呼ぶらしい」
     カットスローターは自分の能力で脱出するらしい、と捕捉する。
    「閉鎖空間で殺し合いをさせられた一般人が、六六六人衆となって、閉鎖空間から出てきてしまう。そして、この儀式で生み出された六六六人衆は、完全に闇堕ちしてしまっている。だから、この六六六人衆を灼滅して欲しい」
     完全に闇堕ちしているので、救えないと断言するカナタ。
    「この六六六人衆の名前は、一ノ瀬・縣。高校生であり委員長という、正義感が強く、真面目だった。だが、彼も狂ってしまったのだろう。自分は狂ってないと言い張り、少しでも気に食わない相手を狂っていると言い、殺そうとする」
     殺し方は自分より劣っている者から殺しに行くらしい、と溜め息を漏らす。
    「能力は殺人鬼、そしてクルセイドソードと咎人の大鎌のサイキックを使う。六六六人衆だけに、強い。生半可な気持ちで挑まないでくれ。ただ、少しみんなが有利な点は、この六六六人衆は殺し合いをして出て来たばかりか、負傷している」
     十分な注意をした後、既に負傷をしていると告げる。
    「戦う場所なのだが、殺し合いが終われは閉鎖空間は解かれる。そこで判断して欲しい。六六六人衆が居る、旧校舎の教室か。それとも、六六六人衆が出てくる校庭か」
     どちらもメリット、デメリットがあるから注意してくれと言う。
    「この六六六人衆は、自分から望んだ訳でも無く闇堕ちさせられたが、同情して油断なんてしないように。みんなが帰って来てくれた方が、私は嬉しい」
     最後に照れくさそう顔を逸らしながら手を振り、カナタは灼滅者達を送り出した。


    参加者
    田所・一平(赤鬼・d00748)
    赤倉・明(月花繚乱・d01101)
    東雲・由宇(終油の秘蹟・d01218)
    更科・由良(深淵を歩む者・d03007)
    斎藤・斎(夜の虹・d04820)
    アレクサンダー・ガーシュウィン(カツヲライダータタキ・d07392)
    ルコ・アルカーク(騙り葉紡ぎ・d11729)
    オリシア・シエラ(アシュケナジムの花嫁・d20189)

    ■リプレイ

    ●殺し合いの果てに
     夜の旧校舎。『縫村委員会』によって、此処の旧校舎は殺し合いの場となってしまった。目的は、新しい六六六人衆を生み出す為。その為に、一般人は無理やり集められ、完全なる闇堕ちをさせられる。そして今夜、新たな六六六人衆が生まれた。
    「改めて酷い話だな。六六六人衆のやる事には全く共感できないし許すわけにもいかない」
     アレクサンダー・ガーシュウィン(カツヲライダータタキ・d07392)は旧校舎を見上げ、憮然とする。一見は普通の旧校舎だが、中に入ってみれば、血の匂いが充満している。
    「一ノ瀬・縣、ですか」
     斎藤・斎(夜の虹・d04820)は今回の六六六人衆となった者の名前を呟く。共感出来る部分は個人的にあるが、何かを思い出して思わず拳を握る。
    「……私のやってる事って、意味があるのかな」
     黒幕捕まえるどころか、次々に生まれる被害者を灼滅するだけ。そんなジレンマに東雲・由宇(終油の秘蹟・d01218)は呟かずには居られない。
    「同情するに足る敵ではありますが、それを意識する余裕などないでしょう」
     相手は六六六人衆に成ったばかりとはいえ、あの六六六人衆に入れるような実力の持ち主なのだ。それが分かってる故に、赤倉・明(月花繚乱・d01101)を筆頭に、歩くのを止めない。
     あちらこちらに飛び散る血や死体を見つけるが、灼滅者達の目的の縣の姿はまだ見つからない。その死体を今はどうする事も出来ず、気が焦り始めた頃、とうとうその姿を発見する。
    「これで全部か。人数は13人。死体は確かに12人あった。間違いなく彼等は狂っていた。だから生きていてはいけないのだ」
     旧校舎の一室、使われていない教室でも電気は繋がってるようで、一ノ瀬・縣の姿が良く見える。縣は頬に付いた血を拭い、傷ついた腹を手で押さえながら重い溜め息をつく。彼の足元には、二度と動く事も出来ない肉の塊が転がっている。彼こそが新しき六六六人衆。同じ素質を持つ一般人を殺し、一般人から六六六人衆と成ってしまった殺人鬼。
    「……漸く終わった。――とでも思ったのかの、その顔は。悪夢と言うのは簡単には終わらんのが相場じゃよ」
     更科・由良(深淵を歩む者・d03007)が声を掛けた瞬間、縣は武器を構えたままバックステップで距離を取る。その距離を取るという行動が、逃走の手段が削られるように出入口を灼滅者達によって塞がれる。
    「13人、じゃなかったのか」
     忌々しそうに縣が眼鏡を上げながら、縣は8人の少年少女を睨みながら観察する。8人の少年少女とは灼滅者。だが、そんな事が分からない縣は、警戒を強めるしかない。灼滅者達の武器の構え、足運び。自分が殺した彼等よりも、自分よりも、戦い慣れている事を自然に読み取れる。
     殺さなければ、殺される。灼滅者は灼滅するという考えだが、その考えに準ずるのやはり、死。
    「……『縫村委員会』の最後のプログラムを始めましょう」
     ごめんなさいという言葉を飲み込み、オリシア・シエラ(アシュケナジムの花嫁・d20189)はクスクスという笑い声を響かせ、新しい六六六人衆との戦いが始まった。

    ●殺人鬼
    「おめでとうございます。最後は私達が相手ですよ。これは終わりであり、始まりなのです」
     蛍光灯の明かりの下、ルコ・アルカーク(騙り葉紡ぎ・d11729)が楽しそうにそう言い終わると、田所・一平(赤鬼・d00748)と由宇が同時に動く。
    「おい、殺すのは楽しかったかよ?」
    「1人になるまで殺し合え、でしょ?」
     一平がWOKシールドを大きく広げ、仲間達の前へと障壁を展開して包み込めば、由宇がJudicium Universaleから破邪の白光を放ち、強烈な斬撃を繰り出すと同時に白い光を身に纏う。縣は片手のクルセイドソードで受け止め、もう片方の手で構えていた咎人の大鎌を振り上げるようにカウンターを食らわそうとする前に、騒音に背後から聞こえる。
    「させるか。行くぞ、スキップジャック」
     アレクサンダーがライドキャリバーのスキップジャックに騎乗しながら突撃する。狭い教室内となのにその走行は滑らかで、素早く縣の背後を取る。
     スキップジャックのフルスロットルによる騒音で気を逸らし、アレクサンダーは騎乗したまま縣を両手で掴み上げて、床に叩き付ける。叩き付けられる縣に追撃するように、オリシアがテンプル・マウントでのジェット噴射で飛び込み、死の中心点へと穿とうする。
    「鬱陶しい」
    「くっ…!」
     テンプル・マウントに穿たれながらも、クルセイドソードで跳ね上げるような斬撃を放ち白い光を纏う。その斬撃に明が無理やり割り込み、縛霊手に炎を纏わせ、浅く腕を斬られながらも相殺する。
    「まあ、怖いお顔」
    「つ、強い……。早く逃げましょう!」
     先程の苛烈な攻撃をしている時でも張り付いた笑顔でクスクスと笑うオリシア。そして明は怯えたようなフリをし、慌てて距離を取りながら武器を構え直す。その2人の陰から飛び出すように斎が影業からクルセイドソードに持ち替え、破邪の光を放ちながら強烈な斬撃と共に白い光を身に纏うが、その斬撃は軽くいなされる。
    「身体能力はこちらが上。1人1人は大した事は無い、が……連携は上手い。この殺し合いの中、連携が上手いという時点でおかしい。狂っている」
     先ずは1人、とそう言いながらいなした斎の首筋へと、死の力を宿した断罪の刃を振り下ろす。
    「狂人で結構! 狂人故に、殺さなければ止まらんぞ!」
    「狂人呼ばわりする前に、アガタくん。敵は8人居る事をお忘れ無く」
     由良は分裂させた小光輪で盾を結成させ、その断罪の刃を僅かに弾き、ルコがWOKシールドで横から突撃して撥ねるように弾き飛ばす。その攻撃で距離がお互い取れ、互いの攻撃を警戒する中、斎が縣へ向かって告げるように言葉を紡ぐ。
    「凶器を手にしている以上、狂人の誹りは受けますが」
     縣との目線を合わせ、逸らさず、ハッキリと口にする。
    「それでは、貴方の正気は一体どなたが保証して下さるのですか?」
     斎の皮肉を交えた台詞を、縣は理解出来なかった。その言い方ではまるで、自分が狂っているようではないか。
    「『狂人の真似とて大路を走らば、即ち狂人なり』。身を守る為だろうがその手に武器を持ち人を手にかけた時点で、お前もお前を襲ってきた者達と変わらない『人殺し』だ」
     あの狂ってた彼等と同じ、自分も狂っているとアレクサンダーに指摘され、人殺しと言われる。それは自分だけは違うという必死に否定していたものを、突き付けられる。
    「は、はははは……狂い人達が、俺を……決めつけるな!!」
     先ほどまで作業のように殺そうとしていた縣の目には、確かな殺意が宿り、灼滅者達を獲物でなく敵と見据える。しかしその目は殺意と同時に、獲物以上の楽しみを見出した意思が感じられた。

    ●六六六人衆
    「相手が狂ってる、自分が生き残らなければならないから殺す? 面倒な奴だなぁ。殺しなんて趣味でやるモンなんだよ。俺みてぇによ」
    「一緒にするな、狂い人!」
     一平の挑発に縣は叫び返しながら、互いの死角へと潜り込み急所や足を狙い合う。
    「こういう事は、貴方の専売特許ではありませんよ。全力で、存分に殺し合いましょう、殺人鬼」
     更に其処に明が割り込む形で死角から斬撃を放つ。2人は押し切る形で足や急所を斬り裂くが、一瞬の隙を狙われ、一平の足が大きく斬り裂かれて片膝を着いてしまうが、構わず口元を笑うように歪ませて言う。
    「狂ってると思うか? じゃあ聞くが、誰かに言われるまま平和的解決を考えもせず、人を殺したお前は正しいのか? いいや。お前は俺と同類だよ。ただの狂った人殺しだ」
    「何人手に掛けたのか知らんが、一人だけ生き延びる等、虫が良すぎるじゃろう。儂等か、お主か―――誰が狂っているか等は関係ない―――お主の息の音が止まるまで、儂等とダンスじゃ!」
     分裂させた小光輪で仲間を回復しながら守る由良も嘲笑うように、心底楽しいような声が響く。挑発がエスカレートして行く度に、縣の言動に熱が篭もる。灼滅者達が連携をしながら徐々に包囲網を完成してる事に気付く事も無い。だが、縣の攻撃は熾烈増すように激しくなる。
    「今の貴方、とても酷い顔。素敵でしてよ」
     オリシアは縣の背後へと耳にこびり付くような笑い声を浴びさせ、血塗れな身体でも構わずヴィア・クルシスを押し当てながら魔力を注ぎ込み爆発させる。短く苦悶の声を上げる縣。
    「その、笑い声を止めろ!」
     振り向きざまに灼滅者達に狙いを定め、どす黒い殺気を無尽蔵に放出し、締め付けるような威圧を掛け、灼滅者達を蝕む。
    「チッ! 攻撃の要を狙いやがる!」
     ルコを筆頭にディフェンダーの3人がそれぞれ庇い合い、幸いながらもまだ誰も倒れていない。ルコは自分の血に顔を顰めながら、WOKシールドをより強力なものに変えて守りを固める。
    「俺は狂ってない、最後に選ばれる勝者なんだって言うなら、逃げないよね?」
     由宇は逃さない為に、更に挑発を重ねながらもTonitrusを握り締め、縣の懐へと飛び込み反応出来ない速度で押し当て、全力で魔力を流し込み爆発させる。
    「同情はします。ですが、人を殺したのであれば、人を殺すものとしてしか扱えません。残念ですが」
    「変わらんよ。狂っていようと、狂ってなかろうと、既に手遅れだ」
     斎が妖の槍の妖気を変換し氷柱を穿つように撃ち出し、アレクサンダーがチェーンソー剣で斬り掛かり、同時にスキップジャックが機銃掃射で連射する。それを縣はどす黒い殺気を無尽蔵に放出し、締め付けるような威圧で氷柱を砕き、チェーンソー剣を弾くように機銃掃射を飲み込むように相殺する。
    「人を殺そうとも、俺は狂っていない! 俺は正しい事をしたんだ! 狂っているのは、お前等だ!」
     前衛に居た灼滅者の頭上を何も無い空間から覆い尽くすような刃がギロチンのように降り注ぐ。この攻撃に、避けれないと判断した明とルコは覚悟を決める。
    「これは……由宇!」
    「くそったれが! やるしかねぇか!」
     明は由宇を。ルコはオリシアを。防御しても戦闘不能になるならば、という判断の元、2人はそれぞれのクラッシャーを庇い、血溜まりの中に沈む。倒れた2人に思わず灼滅者達は声を掛けるが、2人は微かに反応するだけで動けない。
     由良、斎、アレクサンダーがまだ比較的大丈夫だが、逆に危険なのが一平、オリシアである。
    「正しい? 正しい事とは何かのう。その血塗れの武器を持って、何を正しいと言うか。正義の味方になったつもりじゃろうか。反吐が出る」
     これ以上誰も倒れないようにと、由良は一平に分裂させた小光輪で覆うように回復しながら守りを固める。
    「そうね。私達の様な学生が武器を手に殺し合うこの世界、マジ狂ってる」
     仲間が倒れ、それでも殺し合いに身を投じないといけない理不尽な世界。
    「でも、だからこそ。世界を正常に戻す為に、何時か平和を掴む為に……私達は戦うの」
     由宇はJudicium Universaleを非物質化させ、霊魂と霊的防護を破壊するような斬撃を放とうとするが、縣が死角から弧を描くように死の力を宿した断罪の刃で胴体を切斬り裂こうとする。
    「『殺人は許されざる罪である』。例えどんな状況だとしても、殺しは罪なのだ」
     自分達も、お前も罪人だ、等と亡き父親の言葉を思い出しながら呟き、その刃に一平が割って入る。このタイミングでは決して避けれない。
    「お前は正しくなんかないぞ」
     その刃を避けようともせず、闘気を雷に変換して拳に宿し、元から負傷していた腹へと傷口を抉るように突き上げると同時に、Judicium Universaleが縣の白い障壁と共に、霊魂まで破壊しながら薙ぎ払う。腹と口から血が溢れ出せ、縣は大きく仰け反り仰向けに倒れ、何度か痙攣しながら咳と共に血を吐き出す。そして急に静かになり、それからは二度と動く事も無くなった。

    ●『縫村委員会』
    「逃走も許さず、灼滅も成功。……じゃが、『縫村委員会』というのは実に気に食わんのじゃ」
     誰もが闇堕ちをしなかった事に安堵していた由良だが、やはり後味が悪いのか不満そうに言う。ちなみに携帯電話は探しても何故か見つからず、残念ながら手掛かりも得られなかった。
    「こんな形でしか救えなくて、ごめん……願わくば、平和な世界で、また……」
    「今は黒幕には届かないが……どうか安らかに眠れ」
     由宇やアレクサンダーが祈る姿に、何人かもそれぞれの想いを胸に少しの時間を祈り始める。そして心霊手術も終わらせ、何とか立ち上がるようになった仲間に肩を貸して、ゆっくり旧校舎から離れる灼滅者達。
    「災難だと思いますよ、ええ。ですから、黒幕も直ぐにそちらに送って差し上げます」
     ルコは最後に旧校舎を振り返り、少しだけ真顔の後に、またいつものように笑うのだった。

    作者:猫御膳 重傷:赤倉・明(月花繚乱・d01101) ルコ・アルカーク(騙り葉紡ぎ・d11729) 
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2014年3月16日
    難度:やや難
    参加:8人
    結果:成功!
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