スサノオと枝垂れ桜――色は匂へど 散りぬるを

    作者:猫御膳

     3月となり、桜の蕾がほころび始める。此処は桜の名所となる場所。街から離れているとはいえ、見事に桜を咲かすと評判で、毎年観光客が集まるほどである。しかし、今は未だ蕾も咲かす事も無く、訪れるのは地元の人のみ。それでも既にライトアップの設置もされて、人々の期待は高い事を窺わせる。
     そんな最中、誰も居ない夜に1匹の白いオオカミ、いや、額には赤色と金色の色違いの二房があるスサノオが訪れる。スサノオが目の前にするのは、一本だけ違う、枯れ果てた枝垂れ桜の木。もう何十年と花を咲かす事も無く、ただただ朽ちていくだけの運命を待つ。その枯れ木にスサノオは、小さく遠吠えを上げる。
     アオォォォォォンッ、と桜並木に響き渡る遠吠え。その遠吠えはまるで、崇め奉るようなものが感じられる。その遠吠えが終わる頃、目の前の枝垂れ桜が満開となっていた。そして気づけば、色鮮やかな白に桜模様が描かれた小袖を着た、美しい女性が佇んでいた。その足元には鎖が繋がれており、それだけが違和感を発している。
     女性を讃えるように、枝垂れ桜は風に揺れていた。

     昔々のお話。
     この辺りには1つの大きな武家屋敷があった。その武家屋敷の1人娘は枝垂れ桜が好きで、人々にも愛されるほど優しかった。しかしある時に、この武家屋敷は理不尽にも戦に巻き込まれ、消えた。栄華を誇った屋敷も消え、それを嘆いた人々が桜を植えるようになった。そして安らかに眠って欲しいという事で、他の桜とは違う枝垂れ桜を一本だけ植えたのだった。
     これは遠い昔のお話。

    「みなさん、集まってくださりありがとうございます。とうとうスサノオを、突き止めました」
     五十嵐・姫子(高校生エクスブレイン・dn0001)がそう言うと、灼滅者達が身を乗り出して聞く。
    「スサノオは今までと同様に、古の畏れを呼び起こそうとしています。そして、その時こそスサノオと接触出来るのです」
     スサノオとの因縁を持つ灼滅者が多くなった事で、不完全ながらも介入出来るようになったと説明する。
    「そこでスサノオと戦う方法は2つあります。1つは、スサノオが古の畏れを呼び出そうとした直後に、襲撃を行う方法です。この場合、6分以内にスサノオを撃破出来なかった場合、古の畏れが現れてスサノオの配下として戦闘に加わります。こうなると、スサノオが戦いを古の畏れに任せて撤退してしまう可能性があります」
     故に、短期決戦が求められる。
    「もう1つの方法は、スサノオが古の畏れを呼び出して去って行こうとする所を襲撃する事です。古の畏れから、ある程度離れた後に襲撃すれば、古の畏れが戦闘に加わることはありません。ですが、スサノオとの戦闘に勝利した後、古の畏れとも戦う必要があります」
     もう1つの手段は時間制限は無いが、必ず連戦になる。
    「どちらとも一長一短はありますので、良く話し合ってください」
     どちらにしても協力しなければ大変ですから、と姫子は言う。
    「他のスサノオと違うのは、赤色と金色の色違いの二房がある事。スサノオ自体は白い炎の狼型ダークネスとなります。能力ですが、今まで呼び起こした古の畏れの能力に似たサイキックを持っています。鎧武者の月光衝、大袖姿の少女の予言者の瞳、蛟の結界糸。それと、自異常状態を回復しながら周囲に攻撃する、遠吠え。そして荒々しく噛み千切る、噛み付き」
     どれも強力でありながら厄介な攻撃である事は違いない。
    「古の畏れですが、年齢は私ぐらいでしょうか。足元に届きそうなぐらいの黒髪に、白い小袖に桜の柄が描かれています。能力は、魔導書と殺人注射器のライフブリンガーに似た攻撃をしてきます」
     スサノオも古の畏れも、灼滅者全員に匹敵する力を持ちますので、注意してください、と締め括る。
    「みなさんの頑張りで、このスサノオを突き止める事が出来ました。そしてこのスサノオを倒せるチャンスです。ですから、必ず倒してください」
     そして無事な姿を見せてくださいね、と姫子は灼滅者達を見送った。


    参加者
    帆波・優陽(深き森に差す一条の木漏れ日・d01872)
    霈町・刑一(本日の隔離枠 存在が論外・d02621)
    刀狩・刃兵衛(剣客少女・d04445)
    桜庭・翔琉(徒桜・d07758)
    リュカ・シャリエール(いばらの騎士・d11909)
    比良坂・逢真(スピニングホイール・d12994)
    黒谷・才葉(鬼のようだが犬っころ・d15742)
    巳葦・智寛(蒼の射手・d20556)

    ■リプレイ

    ●災厄を呼び起こすもの
     桜並木が近くにある、夜の川沿い。2週間後にはきっと此処らも桜が満開となって人々を楽しめるだろう。だが今では、桜は蕾のままで風景としては物足りない寂しさがある。そこに灼滅者達は集っていた。
    「桜とともにリア充を散らす予定が、件の白わんこ発見とはちょうどいいですね。個人的にはリア充との戦いの前哨戦! しっかり畏れ共々爆破せねば」
    「何でこちらを見ながら言うんですか」
     何やら物騒な台詞を呟く霈町・刑一(本日の隔離枠 存在が論外・d02621)に対し、比良坂・逢真(スピニングホイール・d12994)は言い返すように声を上げる。
    「いえいえ……他意はありませんよ他意は……」
     じゃれ合う2人は他所に、他の灼滅者達も既に準備を整えて居る。
    「最近、スサノオの事件が頻発しているけれど、何故彼らは畏れを生みますでしょうか。それも自然や昔話に因んだものばかり」
    「災禍の根源は絶てるときに絶つ。貴重なチャンスだ、無駄にはできんな」
     つい呟いてしまうが今は考えても仕方ないと思考を切り替え、リュカ・シャリエール(いばらの騎士・d11909)は今の内に人数分の懐中電灯を配り、巳葦・智寛(蒼の射手・d20556)は他の灼滅者と同様に身を潜めながら、覚悟を決める。
     アオォォォォォンッ、と桜並木に響き渡る遠吠え。それから暫く待てば、
    「来たみたいだな」
     桜庭・翔琉(徒桜・d07758)の言葉に、潜みながらゆっくりと窺う灼滅者達。そこには真っ白なオオカミが川沿いを歩いて、こちらの方角へと向かってくる。
    「あれがスサノオ?」
     オオカミと大きく違うとなる部分は、白い体毛と思えるものはまるで炎のように周囲を歪ませいる事が遠目でも分かる。そんなスサノオの姿に目を奪われる黒谷・才葉(鬼のようだが犬っころ・d15742)だが、直ぐに見張る事に集中する。
    「もう少しこちらに来たら、一斉に動く?」
    「ああ、そうしよう」
     帆波・優陽(深き森に差す一条の木漏れ日・d01872)がタイミングを伺い、刀狩・刃兵衛(剣客少女・d04445)が既に武器をスレイヤーカードから取り出し、頷く。直ぐに飛び出さないのは、古の畏れとスサノオを十分に離れさせる為。その為に多少離れていても息を潜める灼滅者達。
     スサノオが近くに来た瞬間、光源を確保してタイミングを合わせて一斉にスサノオを囲むように飛び出す灼滅者達。直ぐ様スサノオが警戒するような唸り声を上げる。
    「漸く捕える事が出来たスサノオ、もう逃しはせぬぞ。――いざ、推して参る!」
    「初めまして、スサノオさん。相手をしてね」
     スサノオが動く前に刃兵衛が駆け出し、御神刀の風桜を構えて納刀状態から一瞬にして抜刀し薙ぎ払い、優陽は足元から影業を伸ばし炎を纏わせながら斬り上げて炎上させる。
    「その身に纏え」
    「先ずは足止めを狙おう」
    「そいではでは、いっちょRB式に爆破しますかね~」
     翔琉がWOKシールドを大きく展開し自分を含む灼滅者達に纏わせ、死角へと踏み込んだ逢真がスサノオの足をクルセイドソードで斬り裂く。斬り裂かれて怯んだ所を、動きを合わせた刑一が螺旋の如き捻りを加えて妖の槍を突き出し、穿つ。
    「スサノオ。……是より対象の殲滅を開始します」
    「これが、スサノオ。業を喰らい、畏れを生み出す神獣か。もっとも、相手が何であれ倒すのみ……着装」
     そしてリュカが腰から下げた紺碧宿した手提げランプを点ければ、瞳から光が消えて機械的な口調となってCqF616に炎を宿して斬り掛かり、智寛が青い光と共に強化装甲服を身に纏い、HBSR-05 伍式重破壊狙撃銃から魔法光線を発射する。
    「逢神っ!」
     才葉が影業を狼の形にさせてスサノオを飲み込むが、スサノオが影から飛び出して瞳に力を集中させて視ようとしながらも傷を回復させる。そして赤色と金色の色違いの二房を揺らし、徐ろに吠えるのだった。

    ●スサノオ
    「吹き飛べ!」
     逢真はクルセイドソードの鞘尻を押し当て、一気に魔力を注ぎ込み爆発させようとするが、魔力が注ぎ込む前にスサノオは即座に離れて回避する。
    「LGG-06、オンライン。目標へ制圧射撃を開始する
    「お前はどうして畏れを生み出すの?」
     智寛は大型ガトリング砲のLGG-06 六式大型機関砲でスサノオに向けて連射し、才葉は一呼吸遅れて影業の形を変え、スサノオを縛り上げようとする。だがスサノオはその攻撃が分かっているようにガトリングの弾丸を避け、自身を縛ろうとする影を噛み砕き霧散させる。
    「あれはあの古の畏れの……その力を破壊する!」
    「ne peut pas être aidé」
     全てを視るような瞳とあの動きは、まるで大袖姿の少女では無いかと刃兵衛の脳裏に過ぎる。その考えを振り切るように、己の片腕を異形巨大化させ、凄まじい膂力と共に殴り飛ばせば、リュカは癒しの力を込めた矢を前衛に放ち、力を高める。
     スサノオが大きく唸り声を上げれば、川から幾重も水の糸が飛び出し編み込まれ灼滅者達を覆う。
    「これは龍神様の……皆!」
     優陽が逸早く気付いて仲間に注意と防御を促し、浄化をもたらす優しき風を招き仲間を包み込み癒やす。水の糸は結界となって灼滅者達を閉じ込めて切り裂き、動きを制限させる。上手く防御したのかその結界から2人が飛び出し、
    「その足を頂く」
    「弁慶の泣き所付近をそいや!」
     翔琉と刑一が同時に駆け出し、それぞれお互いが死角に入るように日本刀と形を変えた這い寄る裁きのナハツェーラーで薙ぎ払い、斬り裂く。
    「アオォォォォォンッ!!」
     反撃とばかりスサノオが遠吠えすれば体から炎や傷が消え、前衛達に衝撃波が襲い掛かり何人かが吹き飛ぶ。
    「あれって反則技だよね。俺も欲しい」
    「ああ、あれは厄介だ」
     クルセイドソードを非物質化させ、逢真はスサノオの霊魂と霊的防護だけを直接破壊するような斬撃を放ち、刃兵衛は激しく渦巻く風の刃でスサノオを捉え斬り裂く。
    「後ろは任せてもらおう。損耗は極力速やかにカバーするつもりだ」
     その隙を逃さず智寛は治癒の力を宿した温かな光によって前衛を回復させ、才葉はオーラを癒しの力に転換して前衛を回復し、2人で前衛を維持する。
    「畏れの力の一部を使うという事は、スサノオさんが畏れを復活させればさせるだけ力を増していくという事なのかしらね」
    「かもしれんな。故に、此処で灼滅する」
    「白わんことは厄介なのですねぇ」
     契約の指輪から魔法弾を放ち、優陽はスサノオの動きに制約を加え、翔琉は日本刀を上段の構えからまっすぐへと早く重い斬撃で断つように斬り裂く。刑一は羊の頭部のようなゴートロッド2014で殴ると同時に魔力を注ぎ込み、爆発させる。スサノオは傷を負いながら無理やり灼滅者達の動きに割り込み、その姿が掻き消えるような速度で前衛を飛び越え、両手の爪や牙を煌めかせる。
    「くっ! 守れ、逢神っ!」
    「comme、おサムライさん」
     冴え冴えしい月の如き衝撃の斬撃が後衛達を襲う。才葉が影業を黒い狼の形にして斬撃に割り込ませて軽減させ、リュカもLa fin du mondeの形を変えて見た事があるように防ぐ。
    「後衛まで狙って来ましたね~」
    「この後にまだ古の畏れが残っている。早く終わらせるぞ」
     クラッシャーである2人が挟み込むような形で動きを合わせ、刑一が妖の槍を旋回させて螺旋のように激しく捻りながら突き穿ち、刃兵衛は擦れ違い様に風桜を抜刀し、一閃させる。
    「Uccidere. è la fine」
     リュカは幻想的な黒い茨をの影を刃に変えて逆袈裟斬りに斬り裂く。その攻撃によってスサノオは弱々しい鳴き声を上げ、最後に枝垂れ桜の方を見ながら消えていくのだった。

    ●枝垂れ桜
    「……思ったよりも厳しいな」
     この後はスサノオに匹敵する古の畏れと戦う事に楽観出来ないと、改めて気を引き締める。
    「古の畏れとの距離はあるし……大丈夫っぽいね」
    「一先ず、心霊手術を始めましょう」
     才葉が枝垂れ桜の方を見て言えば、優陽が提案する。灼滅者達は頷き、衝撃ダメージを回復しながら各々がヒールサイキックを破壊しながら心霊手術に集中し、殺傷ダメージの回復に努める。
     10分後、各自で自己申告をしながらポジションを変えるかどうかを話す灼滅者達。これによって、優陽は何とかディフェンダーを継続。刑一はスナイパーに変更。刃兵衛は何とかクラッシャーを継続。翔琉はディフェンダーを継続。
     リュカはクラッシャーに変更。逢真もクラッシャーに変更。才葉はメディック継続。智寛もクラッシャーに変更、という風に攻撃にバランスを傾ける形となった。
     休憩も終わり、警戒しながら枝垂れ桜の方角に歩いて行くと、遠目でも枝垂れ桜だけが満開なのが分かる。ライトアップされた枝垂れ桜は、人工的な光で照らされたとはいえ、どこか幻想的に映える。風に揺れて桜の花びらを舞わせ、どうしても目を追ってしまう。そしてそれ以上に目を引きつける人物が、枝垂れ桜の根本に立っていた。
     非常に顔が整っている目の前の女性は、髪と小袖を風に揺らして灼滅者達に向けて微笑み、威圧を放つ。先程まで静かで幻想的な雰囲気が一瞬にして崩れる。
    「話し合いは……出来そうにないわね」
     優陽は蛟と同じような威圧を放つ古の畏れに対し、武器を構える。古の畏れは静かに頷き、足元の鎖を引き摺りながら前に出る。
    「狂い咲く桜に捧ぐ我が剣舞にて、この地に縛る想いから解き放とう」
     刃兵衛がそう言いながら武器を構え、灼滅者はお互い目配せをしながら一斉に動き出した。
    「油断はなし! 全力で行くぜー!」
     才葉がクルセイドソードを片手に駆け出し、破邪の光を放ちながら斬り掛かりながら白い光を纏う。古の畏れは避けずに、手の平で受け流す。
    「兵器システム、異常なし。これより攻撃を開始する」
     智寛は周辺環境や弾道計算を行うべく、脳の演算能力を高速化・最適化させながら囲むように移動する。
    「ムッムッホァイ!」
     刑一は妖の槍を携えて後衛から飛び出し、足を大きく踏み出すと同時に螺旋のような激しい捻じりを加えながら突き刺す。それには反応が出来なかったのか、古の畏れの白の着物が血で汚れるように染める。
     古の畏れは僅かに苦笑するように表情を崩し、逢真に音もなく近寄り柔らかく自然に手の平を押し付ける。余りの自然さに反応出来なかったが、体を貫くように悪寒が走る。咄嗟にクルセイドソードの鞘尻を逆に押し当て、魔力を注ぎ込み爆発させる。
    「逢真君!」
    「チッ! 障壁よ、その身を守れ!」
     影業を伸ばし、2人の間に割り込ませた影で縛り上げようとし、翔琉がWOKシールドを大きく展開し自分を含む灼滅者達に纏わせ、割り込ませて弾く。これによって古の畏れは下がって距離を取る。
    「今のは危なかった。利用されて無理やり呼び出されただけの奴を相手ってのは、どうにも殺る気が湧かないと思ってたが、訂正するよ」
     残念そうにクスクス笑う古の畏れに対し、にやりと笑う逢真。その古の畏れにリュカと刃兵衛がそれぞれ、鮮血の如き緋色のオーラをCqF616に纏わせて斬撃を放ち、己の片腕を異形巨大化させ、凄まじい膂力と共に殴り飛ばす。
    『……良いな』
     誰に対して、何に対して分からないような古の畏れの呟きは誰にも聞こえない。厳しい連戦は始まったばかり。

    ●古の畏れ
    「システム正常……稼動状態はまだ良好だな」
    「Angriffe fortsetzen」
     HBSR-05 伍式重破壊狙撃銃で狙いを定めた智寛は魔法光線を発射させ、その古の畏れの焼き貫き、リュカはLa fin du mondeを影の刃に変えて、斬り裂く。
    「困ったわね。回復が追いつかないわ」
     優陽が浄化をもたらす優しき風を招いて、仲間を包むように癒して炎を消し、才葉もまた剣に刻まれた祝福の言葉を風に変換し開放して吹かし、仲間を傷を癒して炎を完全に消す。やはり連戦が響いており、徐々に焦りを見せ始める。古の畏れのドレインも中々嫌な方向に響いている。
    「まだです、まだ終わりませんよっと!」
     裂帛の叫びと共に、炎を打ち消しながら回復する刑一も、決して安心出来ない。それでも飄々とする態度は変わらない。
    「行くぞ、徒桜」
    「合わせるぞ! このまま押し切れ!」
    「二度と利用されないよう、完全に葬ってやるよ」
     翔琉が古の畏れの側面の間合いに入り、中段から日本刀の名を呼びながら一気に袈裟斬りをすれば、刃兵衛と逢真同時に己の片腕を異形巨大化させ、凄まじい膂力と共に殴り掛かる。その攻撃に対して古の畏れは炎の障壁で自身を覆うとするが、3人の攻撃は炎の障壁を突き破り、そのまま古の畏れを斬り裂き殴り飛ばす。
    『貴方達が居てくれたらな……』
     寂しそうな笑顔を浮かべ、目の前の3人に向けて指を差す。いや、3人の間に指を刺して、魔力の光線を撃つ。狙いは才葉。
    「ッ! 逢神っ! 守れ!」
     反応が間に合い、黒い狼のような影業を割り込ませるが、影業ごと貫かれて倒れ、倒れた才葉から血が溢れ出す。致命的な一撃で意識を失ったのだ。
    「仕掛けるべきだ」
     才葉を見て、この場で倒す、という逢真の強い意志を汲み取った灼滅者達は一斉に攻撃を仕掛ける。智寛がガトリングを連射し、優陽とリュカが影で縛り上げながら斬り裂き、刑一と逢真が同時に魔力を注ぎ込み爆発させる。
    「徒桜。終わりにさせるぞ」
    「一気に畳み掛ける!」
     翔琉と刃兵衛が同時に動き、瞬時に死角の間合いに入り抜刀しながら急所を薙ぎ払い、瞬時に横を通り過ぎる際に風桜を抜刀し、一閃させる。枝垂れ桜を背にしていた古の畏れの体から血飛沫が舞い、枝垂れ桜に飛び散り、桜のような花弁が描かれる。
    『……また、忘れられるのでしょうか。ごめんね……あなたにも無理させて』
     愛しそうに枝垂れ桜を抱きしめ、古の畏れは消えていった。
     古の畏れを灼滅出来たと事を確信し、灼滅者達はその場で座り込む。
    「サイワさんは大丈夫ですでしょうか?」
    「今回復させる」
     リュカが才葉の顔を覗き込み、智寛が心霊手術を始める。生きてる事に全員が安堵する。
    「ずっと枯れていた木が花を咲かすとは不思議だな。スサノオが起こした事でもこれなら悪く無い」
     座りながら枝垂れ桜を見上げ、痛む体も忘れて感嘆な声を上げる刃兵衛。
    「桜が好きだから色んなのを見て来たが、これは見事だな」
    「桜とは散るから美しいのですよ。そう、散るからこそです」
     目を細めながら見上げる翔琉。そして散るという言葉を強調する刑一に、逢真は若干呆れた顔をする。
    「本当に愛されていたんだね。どうか安らかに……」
     優陽が魔法瓶からアップルティを注ぎ、微笑みながら全員に差し出した後に、魂鎮めの風を使い、桜の優しい香りと舞い踊る花びらを楽しみながら冥福を祈るのだった。
     昔も今も、この枝垂れ桜の下に、人は笑顔で集まる。

    作者:猫御膳 重傷:黒谷・才葉(ナイトグロウ・d15742) 
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2014年3月19日
    難度:やや難
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 3/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 8
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