がつがつ、がつがつ。
長崎のお土産屋さんで、カステラを強奪して貪る男(?)がいた。あ、はい怪人です。
「カステラうまいんだな~」
平たい顎のシロサイカステラ怪人である。その名通り、カステラをありったけ食べ続ける。その食べっぷりには肉食系も真っ青だ。
「ん~、んまんま。このままご当地パワーを食べつくすんだな~」
のっそのっそと歩き出し、新たな犠牲を求めるシロサイ怪人。カステラがピンチだ!
新たなご当地怪人の存在が察知された。その名もアフリカンご当地怪人。
「そのアフリカンご当地怪人が、全国各地で事件を起こすようなの。あなた達に対応してほしいのは、長崎よ」
長崎のお土産屋さんにシロサイカステラ怪人が現れる。この怪人はカステラに目がないようで、放っておけば長崎のカステラは大変なことになってしまう。
シロサイ怪人は黄色のボディに黒いラインの走ったサイの獣人のような姿をしている。シロサイなのに白くない。といってもシロサイは体色から名前がつけられたわけでもないが。
「シロサイ怪人は戦闘員は連れていないけど、その分、戦闘能力には自信があるみたいだから気を付けて」
怪人の武器は二丁のガトリングガンだ。加えて、シャウトや突進攻撃を行う。いずれも非常に攻撃力がある。普段はノロマに見えるが、戦闘時は本気を出してくる。
こちらが接触できるのは怪人がお土産屋さんを物色している時になる。周りに一般人がいる可能性もあるので、慎重を期すなら対策も必要だろう。
「カステラのない長崎なんて長崎じゃない……は言いすぎだと思うけど、大事件には違いないわ」
こらこら。エクスブレインにツッコミを入れつつ、カステラを守るため、灼滅者達は長崎へ赴くのだった。
参加者 | |
---|---|
一條・華丸(琴富伎屋・d02101) |
苑田・歌菜(人生芸無・d02293) |
シャルリーナ・エーベルヴァイン(ヴァイスブリッツェン・d02984) |
鬼追・智美(メイドのような何か・d17614) |
牛野・かるび(解体牛・d19435) |
ルエニ・コトハ(小学生魔法使い・d21182) |
前田・利英(メディスンバイヤー・d23971) |
水貝・雁之助(おにぎり大将・d24507) |
●カステラくだサイ
九州は長崎、異国文化の根付いた地に奴は現れた。シロサイカステラ怪人はお土産屋を襲撃。カステラを全て貪り尽くそうとしていた。このままでは膨大なカロリー、もといガイアパワーがたぷたぷした体に蓄積されてしまう。
「有名店のカステラだって、美味しそうねー」
「こんなにいっぱいカステラがあって、どれを食べましょうか悩みますねぇ」
だが、そこに苑田・歌菜(人生芸無・d02293)とシャルリーナ・エーベルヴァイン(ヴァイスブリッツェン・d02984)の声が届く。振り返れば、そこにはたくさんのカステラ(とついでに八人の灼滅者)が。罠だとは知らずに、シロサイ怪人はカステラ目掛けて猛ダッシュ。人払いにも気付いていない。
灼滅者達は、少しでも被害を減らそうと怪人を屋外に誘導するつもりだ。アフリカン怪人は他のご当地怪人と違い、周囲への迷惑を顧みない性質を持っているからだ。他の怪人も遠慮してアレかよとか、今はどうでもいい。
「そ、それを寄越すんだな!」
「おっと、そいつぁ問屋が卸しませんぜ」
怪人が掴みかかるのをするりと避け、不敵に笑う前田・利英(メディスンバイヤー・d23971)。今日は富山の薬売りならぬ長崎のカステラ売りである。だが、シロサイ怪人に売るカステラはない。ご当地を蔑ろにするアフリカン怪人には怒り心頭だ。
「とりあえず、アレなんだな。口調が被ってるんだな!」
炎の虎の姿に変化した、否、回帰した水貝・雁之助(おにぎり大将・d24507)が怪人に喧嘩を売る。口調が被ると、詳しくは言えないが、いろいろややこしいのだ。
「じゃあ喋り方変えるサイ。だからカステラくだサイ」
あっさりと口調を捨てた。それくらいカステラが欲しいらしい。
「ダメなのです。全部食べちゃったら、カステラさんを楽しみにしている人が困るのです」
と至極まっとうな理由でルエニ・コトハ(小学生魔法使い・d21182)は拒否。怪人がしょぼくれる。が、それも一瞬。
「ならば、力づくで奪うんだな、コホン、奪うんだサイ!」
そこはアフリカン怪人なので、こうなる。鼻息も荒く、まるで機関車だ。
「へっ、やらせるかよ。お前はここで倒す!」
一條・華丸(琴富伎屋・d02101)はスレイヤーカードから武装を召喚。同時に着物姿のビハインド、住之江が姿を現す。
「行きますよ、レイスち……ごめんなさい、噛みましたぁ」
同じく霊犬のレイスティルを呼び出す鬼追・智美(メイドのような何か・d17614)。名前を噛んでしまうが、レイスティルは慣れた顔で受け流す。なんとなく貫禄という言葉が似合いそうな表情である。
「悪いご当地怪人は退治しちゃうよ! 牛野の家に誓って!」
絶壁なんて言わせない、と息巻く牛野・かるび(解体牛・d19435)。いや、別に誰も言ってないし。こっちも鼻息が荒い。
「では、いただきますサイ!」
灼滅者など眼中にないという態度でガトリングを構えるシロサイ怪人。ここに、長崎の、特にカステラの未来をかけた戦いが始まる!
●その血は卵
シロサイ怪人一体に対し、灼滅者はサーヴァントを含め、前衛が六、中衛が一、後衛が三の布陣だ。
先手を打ったのは、シロサイ怪人。二丁のガトリングが火を噴いた。一緒に出た煙からは硝煙の……ではなく焼き立てカステラの甘い匂いだった。狙いは雁之助。しかし、智美が代わりに弾丸を受け止める。
「させませんよ!」
レイスティルの回復を受けつつ、反撃に移る。足元の影が無数の触手に分かれ、シロサイ怪人を絡め取った。動きが一瞬止まる。
「サイのお肉もきっと美味しいよ! だから、解体されて」
かるびは危ない笑みを浮かべて、炎の斧でシロサイ怪人に斬りかかる。ちなみにサイは保護動物なので用途を問わず狩猟は認められていない。なので食べたければ鶏のサイ(腰肉)を食べよう。
「なんのこれしきサイ!」
炎で焼かれ、香ばしい匂いを放つ黄色ボディ。くそ、お腹が減ってしまう。
「ちぃと失礼……一発キメて差し上げやしょう」
利英の殺人注射の中には毒液がたっぷり。両肩に突き立てれれば、おふぅ、と気持ちよさそうな、それでいて苦しげな呻き声を上げる。けっこう肩が凝っているようだ。だからどういということもないが。
「喰らうのです。カステラさんの仇!」
この腹にどれだけのカステラが消えていったのだろう。カステラの無念を思い、ルエニはシロサイ怪人に聖剣を振りかざす。切り口から黄色の粘度の高い液体が噴き出し、顔にかかる。これは……卵黄? 血は卵黄だというのか!?
「隙ありサイ!」
ミサイルじみた突進。ルエニの小さな体はやすやすと宙を舞う。防御できても、ダメージは相当なものだ。そこにすかさず雁之助が光輪を飛ばす。
「しっかりするんだな。終わったらカステラが待ってるんだな!」
そう、怪人を倒せばカステラパーリィだ。簡単に倒れるわけにはいかない。
「パワーばかりが力じゃないって、思い知らせてあげる」
単純な能力だけなら怪人が圧倒的に上だ。だが、能力が勝敗を分けるとは限らない。重要なのは、いかに相手を弱らせ、仕留めるかだ。歌菜の影の刃が黄色ボディを断ち、防御力を下げる。
「住之江、サポート頼む!」
ビハインドの射撃と同時、華丸は怪人の懐に潜り込む。霊縛手に炎をまとわせ、たたきるける。再び香ばしい匂いがした。胃が、痛いほど食べ物を欲しがっているのを感じる。これほど早く終わってほしい戦いが今まであっただろうか。いや、ないこともないだろう。
(「ちょっと美味しそう?」)
シャルリーナは攻撃を兼ねて、注射器を突き刺す。そしてピストンを引くと、黄色い液体がシリンダーに溜まった。見る限り、どうやら砂糖も入っているらしい。凄まじいカロリーの塊であることは容易に想像がついた。エナジーだけ奪ってあとは捨てる。
「カ・ス・テ・ラぁーーーーー!!」
灼滅者の猛攻に、たまらず回復を行うシロサイ怪人。だが、まだまだ余裕はありそうだった。
●原材料、小麦粉、卵、砂糖(水あめ)そしてサイ
シロサイ怪人は見た目通りタフだった。そして攻撃力もある、厄介な敵だ。まるで小さな要塞を相手にしているようだ。だが、灼滅者は怯まない。カステラパー……いや、長崎の平和のために!
「サイサイサイ!!」
二丁ガトリングの零距離射撃が、再びルエニを吹き飛ばす。だが、今度はうまく着地してみせた。灼滅者の士気は高く、それは彼も例外ではない。
「僕のカステラは僕のものなのです! 大切なおやつなのです!」
小学生にとっておやつがどれほどの意味を持つか、怪人には分かるまい。怒り(と食欲)が光の刃となって黄色ボディを貫いた。
「サイを殺してサイコロステーキ! って、パッ……フリスビーが!」
斧を振り下ろした衝撃で、かるびの胸からパッドみたいなお椀型のフリスビーが舞い上がった。何枚も入れていたものだから、花弁みたいにひらひらと宙を泳ぐ。風流とは言い難いが。
「だ、大丈夫ですか!?」
智美のメイド属性が発動し、なんとか拾おうとする。が、かるびに睨まれてやめる。智美はなぜかるびが服にフリスビーを入れているかは分かるまい。だって天然ものなんだもん。世界は不平等だ。レイスティルが憂いに満ちた視線を空に投げかけた……ようにも見えるかもしれない。
それはさておき、戦闘も佳境になってきた。お互いに消耗し、勝敗を決めるのは心の強さだけ。どちらがよりカステラが食べたいか……ゲフンゲフン、灼滅者の平和を愛する心とシロサイ怪人の欲望、どちらが勝つか。
「カステラくだサーイ!」
突進。限界に近付きつつも、住之江は耐えきった。パートナーに報いるべく、華丸は全身全霊をこの攻撃に懸ける。
「暑いところから来たみてぇだが、この温度はどうだろうな?」
炎が怪人の全身を包んだ。香ばしいを通り越して、焦げた臭いが周囲に満ちる。そろそろ潮時だ。
「早くくたばってよ。こっちは予定があるんだから」
杭を打ち込まれ、怪人の腹から卵黄が噴き出した。歌菜のガイドブックには付箋がたくさん貼ってある。自ら守った長崎を満喫するのもいい経験になるだろう。怪人がおまけとか、ついでとか、面倒とか、そんなことは断じてない。
「知らないサイ! カステラは全てサイのものだサイ!」
「いえ。カステラは私達の……みんなのものです」
雷光のようなオーラがシャルリーナの足に集まり、刃を形成した。次の瞬間には怪人の頭上に現れ、かかと落としの要領で斬撃を放つ。サイの角が鈍い音とともにへし折れた。完全に余談だが、サイの角は体毛が進化したものらしい。
「へっへっへ。お注射しときやす」
締まりのない笑みを浮かべる利英。見る人が見たら逮捕されそうだ。今度の薬品は、仲間に癒やしを、敵には痛みを与える殉教者ワクチン。全身を駆け巡る痛みに、シロサイ怪人はたまらず悲鳴を上げる。
「痛い、痛いんだなー!」
「また口調が被ってるんだな!」
もう回復は不要と判断し、雁之助も攻撃に転じる。アフリカン怪人の焼畑農業的ガイアパワー吸収は許せない。怒って怒ってお腹が空いてしまった。なので、気の砲弾でさくっと引導を渡す。
「も、もっと、カステラ食べたかった……どん」
最後にキャラ崩壊を起こしながら、シロサイ怪人は長崎の大地に消え去った。
●落ちるといいな
シロサイ怪人を倒した灼滅者一行は近くの公園へ。怪人を釣るために買ったカステラを食べるためだ。べ、別に自分たちのために買ったんじゃないんだからね!
シートを敷いてピクニック気分。ちょっと肌寒いが気にしない。
「「いただきます!」」
お手頃価格から高級品までいろいろなカステラがこんなに。みんな張り切ってたくさん買ってきた。経費で落ちるといいなぁ。
「お茶をご用意してますよ」
メイド属性を発揮し、紅茶やコーヒーを振舞う智美。レイスティルにもカステラをちぎって分けてやる。ついでに頭をなでてやると、気持ちよさそうに目を細めた。
「こうしてみると、いろんな種類があるんだな。……これは!」
中には製法や素材にこだわったものもある。聞くところによれば、熟練の職人にしか焼けないらしい。華丸も思わずうなる。
「ついに念願のカステラなんだなー!」
やっとカステラにありつけた雁之助は口いっぱいにカステラを頬張っていた。おにぎり片手にご満悦。
「おやつ、おやつ♪」
同じくカステラに大喜びのルエニ。急いで食べるとのど詰まっちゃうのでゆっくりね。
「カステラは栄養価が高くて、結核患者の栄養剤としても使われたんですぜ」
それは栄養価の高い食品が手に入りづらい時代のこと。利英自身も栄養が足りてなさそうな顔つきなので、丁度いいかもしれない。
「カステラに牛乳をかけて食べることもあるらしいよ!」
と言いつつ。どば、とかけるかるび。栄養が一部に偏るといいなー、とか思っていない、はず。戦闘中のバイオレンスさはすっかりなくなっていた。
「長崎のカステラ、美味しいですねぇ」
今シャルリーナが食べているのは、贈答用の高級品だ。生地はしっとりとふわふわ、口に入れれば優しい甘さが広がる。予算が許せばお土産にも買っていきたいところ。
「んー、しあわせ」
熱いカフェオレを息で冷ましつつすする歌菜。灼滅者としても学生としても忙しい日々だが、こうしていると心が休まる。ずっと続けばいいのに、とも言ってられないけれど。
かくして、シロサイカステラ怪人は滅び、長崎の平和は守られた。ご当地怪人との決戦もそう遠くないのかもしれない。けれど、今くらいは甘いひとときに身をゆだねてもいいだろう。
作者:灰紫黄 |
重傷:なし 死亡:なし 闇堕ち:なし |
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種類:
公開:2014年3月20日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 0/感動した 1/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 3
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