クロキバ危機一髪

    作者:J九郎

    ●大分県・鶴見岳
     噴煙を上げる鶴見岳の火口に、異様な集団の姿があった。
     その数およそ40体。シマウマ、キリン、ゾウなど、動物の姿を模した怪人達だ。
     集団の中心に位置しているのは、黒い肌と栗色の髪を持つ、一人の少女。
     少女は、長い植物の茎を火口に突き刺し、まるでストローのように何かを吸っていた。
     少女に促され、40体の怪人達も、おもむろに大地を喰らい始める。

    「おいしいね、おいしいね! カカオ豆に紛れて日本に来て良かったね、みんな!」
    「「「ウッホッホー!!!」」」

     そこに、ガイオウガの異変に気付いたイフリート「クロキバ」が、2体の配下イフリートを伴い現れた。クロキバは怒りも顕に、怪人を統率する少女に吼えかかる。
    「キサマ、其処デ何ヲシテイル!」
    「ガイオウガのガイアパワーを吸ってるんだよ! おいしいよ、おいしいよ?」

    「……許サンッ!」
     今にも飛びかからんとするクロキバの体を、配下のイフリートが抑える。
    「待テ、クロキバ! 敵ノ数ガ多スギル!」
    「シカモアノ女、尋常ナラザル強サダ!」
    「ダカラドウシタ! 俺達ハガイオウガノ血肉ナリ!
     奴等ニ牙ヲ突キ立テズシテ、幻獣種ノ誇リヲ護レルモノカ!」
     クロキバの決意に、二人の配下も覚悟を決めた。元々、衝動のままに振る舞うのがイフリートの本質である。
    「ワカッタ、俺達モ行クゾ!」
    「オォッ!」

    「おおっ、戦いかな、戦いかな!? そういうの、ボクいちばん得意!」
     少女はそう言うなり、右腕に力を集中し始める。
     みるみるうちに力は実体化し、やがて燃え盛る骨の如き武器に変化を遂げた!
    「ガイオウガボーンロッド! 今作った武器だけど、たぶん滅茶苦茶強いよー!?」
    「キサマ、ガイオウガ様ノチカラヲ奪ッタノカ!」
    「あれあれ、ボクのこと知らない? じゃあ最初に名乗っておくね!
     ボクは骸の簒奪者にして力の蒐集者、アフリカンパンサー!
     その背後に居並ぶは、ボクのアフリカンご当地怪人達だよ!
     ご当地幹部に喧嘩を売った無謀無策、あの世で泣いて悔やむといいよ!」

    「嗚呼、サイキックアブソーバーの声が聞こえる……。鶴見岳で、ご当地幹部のアフリカンパンサーと、イフリートのクロキバが戦闘になり……クロキバはその命を絶たれる、と」
     集まった灼滅者達に、神堂・妖(目隠れエクスブレイン・dn0137)は深刻な表情で衝撃的な内容を語った。
    「……知ってると思うけど、クロキバはイフリートの王たるガイオウガに仕えるイフリート達のまとめ役的存在。それだけに、ガイオウガの天敵の出現に、冷静さを失ってるみたい」
     とはいえ、今回の事態はあくまでダークネス同士の抗争だ。一切関わらないという選択肢もあり得る。
    「……でも、クロキバ一派と武蔵坂は現在比較的良好な関係にある。戦いに介入しないまでも、クロキバの無謀な突撃を止めてあげるくらいはした方がいいかもしれない」
     さらに、クロキバが敗れることで、アフリカンパンサー率いるアフリカン怪人勢力が勢いづく可能性も見逃せない。
    「……新たに日本に上陸してきたアフリカンパンサー達には不明な点も多い。クロキバを説得して戦いを思い止まらせることができれば、何か有益な情報を得られるかもしれない」
     そのアフリカンパンサーとその配下だが、アフリカから来たばかりで多少弱ってはいるが、数が多く、ガイオウガの力を吸って力を取り戻そうとしている為、普通に戦って勝てる相手ではなさそうだ。
    「……おそらく、全員が闇堕ちしてクロキバと共に戦ったとしても、勝てる可能性は5割以下。もしアフリカンご当地怪人を全滅させられたら、クロキバたちとより強い友好関係を築けるかもしれないし、いろいろと情報が聞けるかもしれないけど……よほど自信がない限り、お薦めはしない」
     だから、戦闘を回避しつつ、クロキバを説得する事が重要になってくる。
    「……ただ、クロキバはガイオウガの力が奪われた事で、冷静さを失ってる。下手すると、説得しようとした所を攻撃されてしまうかもしれない」
     また、もし説得に成功して撤退することになった場合でも、状況によってはアフリカンご当地怪人の追撃が行われる可能性がある。
    「……その場合は、クロキバ達が撤退できるように、アフリカンご当地怪人の足止めを行う必要があるかも」
     説得に行く場合でも、万一に備えて戦いの準備を怠るわけにはいかないようだ。
    「……鶴見岳は今、一触即発の危険な状況。最悪の場合、クロキバの事は諦めて撤退することも視野に入れた方がいいかもしれない」
     それから妖は、真剣な顔を灼滅者達に向ける。
    「……クロキバが生き残れるかどうかは、みんなに掛かってる。どう行動するのが最善なのか、よく考えて。そしてクロキバ達だけでなく、みんなも無事に帰ってきて」
     妖の言葉に、灼滅者達は強く頷き返すのだった。


    参加者
    漣波・煉(いと高き所に栄光あれ・d00991)
    堀瀬・朱那(空色の欠片・d03561)
    辰峯・飛鳥(紅の剣士・d04715)
    月雲・螢(線香花火の女王・d06312)
    マリナ・ガーラント(兵器少女・d11401)
    真神・蝶子(花鳥風月・d14558)
    齋藤・灯花(麒麟児・d16152)
    双葉・幸喜(魔法力士セキトリマジカル・d18781)

    ■リプレイ

    ●クロキバの怒り
     ガイオウガの異変に気付き駆けつけたクロキバ達が、怒りも露わにアフリカンご当地怪人に咆えかからんとした、まさにその時。
    「ちょーっと待ったー!」
     クロキバ達とアフリカンご当地怪人達の間に割って入るように、飛び込んできた者達がいた。辰峯・飛鳥(紅の剣士・d04715)達、武蔵坂学園の灼滅者達だ。
    「邪魔ヲ、スルナッ!!」
     ガイオウガの危機にクロキバは完全に我を見失った様子で、鋭い爪の生えた手に炎を纏わせ、立ちはだかった飛鳥目掛け振り下ろす。
    「ちょっとお邪魔しますよって!」
     そこへ堀瀬・朱那(空色の欠片・d03561)が割って入り、縛霊手でクロキバの爪を受け止めた。たちまち縛霊手にヒビが入り炎に包まれるが、今は気にしてなどいられない。
    「気ぃ削いだのはゴメン、でも邪魔しに来たンじゃないンだ」
     わずかだがクロキバの注意が自分に向いたのをチャンスとばかりに、朱那は言葉をぶつける。
    「大事なものが踏み躙られるンは、我慢ならないヨね。けど、ちょいと話聞いて欲しいンだ、お願い」
     決してクロキバの行動を否定することなく、その心情を知った風な振りをするでもなく、まっすぐに。
    「頼むから少し話を聞いて欲しい。石板の件とかで知らない仲というわけでもないだろ」
     いつもは不遜な態度の漣波・煉(いと高き所に栄光あれ・d00991)も、今はクロキバ達を刺激しないように言葉を選んで。
    「おまえらも、リーダーの無謀を止めなくていいのかよ!」
     クロキバに従う二人のイフリートにも説得の言葉を投げかける。
    「ニンゲンノ貴様ラニ、我ラノ何ガ分カルッ! 俺達ハガイオウガノ血肉ナリ! ガイオウガノ為ニコノ身ヲ投ゲ出スノハ当然ノコトッ!」
     だが、迸るクロキバの憤りは、その程度の言葉では収まらなかった。
    「クロキバさんはガイオウガに身を捧げる前に『簒奪者』の白の王セイメイを倒さなくちゃいけないんじゃないの?」
     猛るクロキバの目をじっと見据えて、真神・蝶子(花鳥風月・d14558)が諭すように言葉を紡ぐ。宿敵たるセイメイの名を聞き、クロキバの動きが止まった。腕から噴き上がっていた炎が、わずかに弱くなる。
    (「少しは、落ち着いたかな」)
     飛鳥は内心でほっと息を吐いた。本来こういう駆け引きは苦手なのだが、そうも言っていられない。今クロキバが倒れたら、イフリートたちの統制がとれなくなって大変なことになるかもしれないのだ。
     だが、まだクロキバを落ち着かせることに成功しただけだ。これからが本番だと、飛鳥は気を引き締め直した。

    ●骸の簒奪者
     一方、火口でガイオウガのガイアパワーを吸収しているアフリカンパンサーの前にも、灼滅者達が姿を現していた。クロキバの説得が成功するまでの、時間稼ぎのためだ。
    「會津がご当地ヒーロー! 灯花、推参です!! かっこいい怪人がいるときいて来ました!」
     元気よく名乗りを上げたのは、齋藤・灯花(麒麟児・d16152)だ。ヒーローが名乗りを上げるのがルールなら、怪人がそれに対して名乗り返すのもルールだと、そう信じて。
    「ボクは骸の簒奪者にして力の蒐集者、アフリカンパンサー! その背後に居並ぶは、ボクのアフリカンご当地怪人達だよ!」
     果たして、アフリカンパンサーは律儀に名乗り返してくれた。それから、小首を傾げて、
    「きみたちは何者かな、何者かな? わざわざボクたちに殺されにきたのかな?」
     無邪気な様子で、ごく自然に物騒なことを口にする。
    「突然ごめんなさい。私達に敵意はないのよ? アフリカの雄大さに興味があるの」
     月雲・螢(線香花火の女王・d06312)が、アフリカンパンサーを持ち上げるように言うと、アフリカンパンサーは満更でもなさそうに顔を緩めた。
     その様子に、マリナ・ガーラント(兵器少女・d11401)は周囲を見回す仕草をした後、
    「えっ? ガイアパワーって、食べてすぐに吸収できるものだったのかおっ!?」
     驚いた表情を浮かべてみせる。
    「ふふんっ。ボクたちアフリカのご当地怪人は、他の国の怪人達とはひと味もふた味も違うんだよ!」
    「凄いです! 雄大な自然や豊富な天然資源の所有などは当然。インフラの整備により経済的にも急成長を遂げ、世界から注目を浴びているアフリカ……。そんな所から来たご当地幹部となれば恐ろしく強い筈!」
     すかさず双葉・幸喜(魔法力士セキトリマジカル・d18781)がアフリカンパンサーを褒め称える。出来ればこのまま、気をよくした彼女が幹部キャラのお約束で、計画を喋ってくれないかと内心思いながら。

    ●耐えるべき時
    「ガイオウガの力を奪われて怒るのはわかる。目の前に居るアフリカンパンサーたちは倒すべき相手だ。でもそれは今じゃない」
     飛鳥は、クロキバの行動を決して否定しないように、理を諭す。
    「デハ、奴ラノ勝手ヲ、黙ッテ見逃セトイウノカ!」
    「じゃあ、あの数相手に勝てんのか? 仮にアンタが負けたらアンタの願いはどうなるんだ」
     煉の言葉にクロキバが押し黙った。が、今度は配下のイフリート達が騒ぎ出す。
    「俺達ハ、ゴ当地怪人ナド恐レナイ! 例エ勝テズトモ、一矢報イテミセネバ気ガ済マヌ!」
    「じゃあ、ガイオウガの力で倒れて、アンタ達の力まで利用されたらドウすんの?」
     朱那がすかさず切り返す。
    「よく考えてくれないかな? このまま突撃しちゃうとクロキバになった目的は果たせないよ」
     蝶子は、白の王セイメイとの因縁を思い出すようにクロキバへ訴える。
    「それに、アンタが死んだら残ったイフリートはどうするつもりだ」
     さらに、煉が言葉を重ねた。ここでクロキバ達が死んだところで、所詮自己満足に過ぎない。その結果残された、アカハガネ達イフリートがどうなるのか、考えの及ばないクロキバではないだろう。
    「奪われた力を取り戻したいなら、まず敵を知らなくちゃ。誇り高きイフリートなら、闇雲に突っ込むべきじゃないと思う。ここに居ない他のイフリートたちだってきっと戦いたいはずだよ。今は耐えて、みんなを集めよう? 本当にガイオウガのためになることを考えて欲しいんだ」
     クロキバの葛藤を見て取った飛鳥が、ここぞとばかりに説得の言葉を紡ぐ。
    「きっと武蔵坂の中にもクロキバさんに協力してくれる人がいるよ」
     蝶子は、武蔵坂からの協力もほのめかし、
    「それに、アンタに死なれんのは、イヤだ」
     朱那は最後に、理屈も何も取っ払って、率直な気持ちをぶつけた。
    「……イイダロウ」
     長い逡巡の末、クロキバが口を開いた。
    「オ前達ノ言ウ通リダ。生キテイレバ奴ラニ愚行ヲ後悔サセテヤル日ハ必ズ来ル。ガイオウガ様ノ為ニモ、今死ヌワケニハイカナイ」
     クロキバの全身から漏れ出る炎が、胸中で燃えさかる怒りを伝えている。それでも、クロキバは苦渋の決断をしたのだ。
    「そうと決まったら長居は無用だ。奴らが追ってくる前に、撤退しようぜ」
     煉の言葉に、イフリート達と灼滅者達が、同時に頷いた。
     
    ●パンサーの戯れ
    「ゲルマンシャークって名前のご当地幹部が、その地域をドイツ風に改造してたから、幹部はみんな改造しちゃうと思ってたけど違うのかおっ?」
     マリナが好奇心満々といった様子でアフリカンパンサーに問いかける。 
    「そういえば、何故ガイオウガのところに来たのですか!?」
     さらに灯花がそう尋ね、
    「そもそも、どうやってガイオウガの力を探知したのかしら?」
     螢が疑問を重ねた。
     灼滅者達からの質問攻めに、始めはおだてに乗って上機嫌だったアフリカンパンサーの表情が、次第に不機嫌そうなものに変わってくる。
    (「これは、少しまずいかしら」)
     アフリカンパンサーの表情の変化に気付いた螢は、話題を変えることにした。
    「ところで、その燃え盛る骨の武器も素敵ね。その素晴らしさも皆に知って欲しいのよね」
     螢が武器を褒め称えると、アフリカンパンサーはころっと表情を一転させ、得意げな笑みを浮かべる。
    「これかな? これはガイオウガボーンロッド! さっき作ったばかりの武器なんだけど、たぶん滅茶苦茶強いよー!?」
    「その場で武器が作れるなんてすごいおっ! 食べてすぐパワーに出来るのって、やっぱりアフリカ怪人だからなのかおっ?」
     マリナが、オーバーなアクションで驚いてみせると、アフリカンパンサーはにっこりと微笑んだ。
    「凄いでしょ、凄いでしょ! どのくらい凄いか、ちょっと味わってみるといいよ!」
     そして、唐突にボーンロッドを振り上げ、マリナに叩き付けた。
    「えっ!? おっ!?」
     何が起きたか分からず困惑したままマリナの小さな体が、吹き飛ばされて宙高く舞い上がり、そして地面に叩きつけられた。マリナはそのまま、動かなくなる。
    「なっ!?」
     突然のことに、幸喜達は身動きが取れなくなった。
    「おまえたち、やーな感じするよ」
     アフリカンパンサーの目は、既に笑っていない。あわよくば情報を聞き出そうという灼滅者達の下心を、本能的に見抜いたようだった。
     アフリカンパンサーがボーンロッドを構えたのを目にして、灯花は撤退を決断した。相手はご当地幹部。さらに周囲には40体ものアフリカン怪人がいる。ここは退くしかない。
    「さよならです!」
     灯花は後方に飛び退きながら、撤退の合図となる鈴を鳴らそうとした。だが、
    「遅いね、遅いね! そんなんじゃ、ボクからは逃げられないよ!」
     それよりも速く、アフリカンパンサーは驚異的な脚力で灯花に迫り、ボーンロッドを振るっていた。燃え盛るロッドが鈴を砕き、そのまま灯花を強打する。
    「きゃあっ!」
     強烈な一撃に、灯花の体が地面にめり込む。
    「動きを封じさせてもらうわ!」
     だがその刹那に、螢はゴシックドレスを靡かせながら、制約の弾丸を放っていた。アフリカンパンサーの注意が灯花に向いた一瞬をついた、必中の一撃。
     だが、驚くべきことにアフリカンパンサーはその攻撃を、振り向くことすらなく回避して見せた。
    「ボクの野生の勘を、舐めないほうがいいんだよ!」
     そう言い放つや、ボーンロッドを大砲のように螢に向ける。
    「どーんっ!」
     そして放たれた極太の光線が、螢を飲み込んでいった。
    「うっ……」
     それでもなんとか光線を耐えきった螢だったが、
    「とどめだよ! パンサーキーック!!」
     続いて放たれた跳び蹴りにまでは耐えることが出来ず、くずおれるようにしてその場に倒れ伏した。
    「さて、残るはキミだけだね?」
     アフリカンパンサーが、残された幸喜に目を向ける。
    (「どうしよう……絶対に逃げられない!」)
     アフリカンパンサーの力を目の当たりにし、幸喜は今できる最善策を必死に考えた。一人残された彼女に出来ることと言えば――。
    「さ、流石はアフリカンパンサー様! その力、感服しました!」
     幸喜は跪き、必死でアフリカンパンサーをおだて始めた。彼女がおだてに弱いことは、先程までの会話で分かっている。案の定、その顔に、得意げな笑みが戻ってくる。
    「ご当地パワーの収奪なんて、ゲルマンシャークの強制闇堕ちよりも恐ろしい力です! そしてその称号……白の王セイメイや青の王コルベイン並、いや、それ以上の存在だと言うのでしょうか!」
     気圧されたように、必死でおだてる幸喜の姿に、アフリカンパンサーもついにボーンロッドを下ろし、戦闘態勢を解いた。
    「フフン、分かればいいんだよ! ボク達はね、ゴッドモンスターの力で世界征服するんだよ。逆らう者は皆殺しだね!」
     調子に乗ってさらりと恐ろしいことを言うアフリカンパンサーに、幸喜は内心では戦々恐々だった。
    「でも、キミは気に入ったから、ご当地怪人になったらお気に入りの配下にしてあげてもいいかな!」
     その言葉で、幸喜はとりあえず危機を脱したらしいことを知り、安堵する。
     だが、
    「こっちは説得成功だ! そっちも撤退しろっ!」
     クロキバの説得に向かっていた煉の声が響き渡ったのは、丁度そのタイミングだった。
    (「まずい!」)
     幸喜は咄嗟に逃げだそうと、動き出す。が、その時にはもう、アフリカンパンサーは彼女の後ろに回り込んでいて。
    「もう! いいひとかと思ったのに、ボクの事、だましてたんだね!」
     後頭部を強打された、と感じた次の瞬間には、幸喜は意識を失っていた。
    「命は取らないでおいてあげるけどさ! これに懲りたら、ボクの邪魔はしないことだね!」
     腰に手を当ててプンプンしながら、アフリカンパンサーは撤退していくイフリートと灼滅者達に目を向ける。
    「みんな、おいしい食事の時間は終わりだよ! ガイアパワーを奪いつつ北上開始! あの黒いのは、適当にやっちゃっておいてね!」
     彼女の指示を受けたアフリカン怪人が10名ほど、クロキバ一行を追撃していく。
     アフリカンパンサー達が去った後には、気を失った灼滅者達だけが横たわっていた。

    ●撤退
    「みんな、撤退だ! 防御を固めるよ! ……着装!」
     飛鳥が赤い強化装甲服を身に纏い、怪人たちと向き合ったまま後ずさる。
    「くそっ! そういえば声上げて呼びかけたらこっちの存在知らしめるだけだよな」
     煉は連絡手段の詰めの甘さを悔やみながらも、先頭に立ってESP『隠された森の小路』で道を切り開いていった。
     その後に、クロキバ達イフリートと蝶子が続いて撤退していく。
    「飲み込まれちゃえ!」
     殿を務める朱那は、追撃してくるアフリカン怪人の足止めを最優先に、自らの足が止まらないよう注意しながら影縛りや除霊結界をばら撒いていった。
    「ウッホッホー!!!」
     ガイオウガのガイアパワーを吸収して力を蓄えたアフリカン怪人達は、アフリカンビームで撤退の足止めを図る。そのうち何発かがクロキバ配下のイフリート達に命中し、
    「オノレ、許セン!」
     頭に血が上った二人のイフリートは、反転しアフリカン怪人達に向かっていこうとした。
    「だめだよ! 頭を冷やして!」
     激昂するイフリート達の間を、蝶子の放った癒しの風が吹き抜けていく。
    「オマエ達、今ハ耐エル時ダ! 俺達ノ命ハ、ガイオウガ様ニ捧ゲル!」
     クロキバにも諭され、イフリート達は再び撤退の隊列に戻っていった。
    「まずい! 正面に一人回り込みやがった!」
     戦闘を進んでいた煉が舌打ちしつつ、影縛りで正面に立ちふさがる巨大なゾウ怪人の動きを封じる。
    「正面の一体に集中攻撃!」
     飛鳥が掛け声と共にJS-03 参式斬撃刀でゾウ怪人の牙を切り飛ばし、クロキバが鋭い爪に炎を纏わせ腹部を貫いた。さらに二人のイフリートが両手から放った炎がゾウ怪人を包み込み、
    「私達は、絶対に無事帰るんだ!」
     蝶子の防護符が、ゾウ怪人が鼻から放った苦し紛れのビームから皆を守る。
    「他人の力を踏み躙るやり口、気にくわないンだよネ!」
     そして最後に、朱那の放ったペトロカースが、ゾウ怪人を石像に変えていった。
    「今のうちに、逃げ切るぞ!」
     煉が叫び、全員が頷く。幸い、あまり真面目に追撃する気がないのか、アフリカン怪人達の攻撃は散漫だ。
     こうして1時間後、灼滅者達はクロキバ達と共に、無事鶴見岳からの撤退に成功したのだった。

    作者:J九郎 重傷:月雲・螢(線香花火の女王・d06312) マリナ・ガーラント(兵器少女・d11401) 齋藤・灯花(麒麟児・d16152) 双葉・幸喜(正義の相撲系魔法少女・d18781) 
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2014年3月20日
    難度:やや難
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 65/感動した 2/素敵だった 4/キャラが大事にされていた 3
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