その生まれつき長い腕で、幾度に渡り盗みを働いたという手癖の悪いその女は。
終に鳥目の精に祟られ、腕に無数の百鳥の目を生ずる鬼――百々目鬼と成ったという。
目が眩む様な赫々たる太陽が水平線の彼方に沈んだ頃。
訪れし夜の闇に不意に現われた其れは、真白の炎。
燃え盛る狼の如き獣――スサノオであった。
その姿は、真白の身体に、尾だけが藍黒色を帯びていて。艶やかな色の長い尾は、切れ込みの深い二股の、いわゆる燕尾形である。
そして宵闇に姿を見せた燕尾の獣が一声、闇の世界に遠吠えして。
炎が消えるかの如く揺らめき、ふっと一瞬にして消え失せた、刹那。
俄かに雲が巻き起こり、白き炎獣の居た場所に、かわりに現われたのは――ぎょろりと見開いた数多の目を腕に持つ、鬼女であった。
●
「壁に耳あり障子に目あり、って諺があるけどさ。不思議と後ろめたいことしてる時って、誰かに見られてるような感覚になっちゃうものだよね」
冷蔵庫に残ってた最後の1個のケーキをこっそり食べちゃった時とかさーと。
飛鳥井・遥河(中学生エクスブレイン・dn0040)はそう灼滅者達にへらりと笑み、集まってくれてありがとーと礼を言った後。察知した未来予測を語り始める。
「今回みんなに集まってもらったのはね、またスサノオが古の畏れを生み出した場所が判明したからなんだ」
その場所は、過去すぐ近くに馬捨場があったという小さな神社。
少々辺鄙な場所にある為か、普段から訪れる人も少なく、暗い夜となれば余計に人の姿などないようなところだというが。
此処に、古の畏れとして生み出された百の目の腕を持つ着物姿の鬼女――『百々目鬼』が現われるのだという。
「昔使われてた銅銭はね、真ん中に穴があいてて鳥の目みたいだから、『鳥目』って呼ばれてたみたいなんだけどさ。この『百々目鬼』は、盗み癖のある女性が、盗んだ鳥目の精……いわゆる金銭の精に憑かれて、次から次へと腕に無数の鳥の目が現れて鬼になっちゃったっていう伝承だよ。そしてまさにその伝承のままの姿の古の畏れがね、今回現われることが予測されたんだ」
小さな神社の最奥に、何処からともなく現われる着物の女。
それは一見、美しい女性の姿をしているが。
ふと女が着物の袖を捲れば……その腕には、数多の鳥の目がひしめいているのだという。
そしてその無数に光る目に睨まれた者は、百々目鬼の強い懐疑心に憑かれ、取り殺されてしまうと言われている。
「この百々目鬼には、暗くなった頃に神社の最奥に足を運べば接触できるよ。辺鄙なところにある小さくて無人の神社だから、今までは幸い被害者はいないけど。このままだったら近い未来、誰かが襲われちゃう可能性も高いと思うし……何より、スサノオの生み出した古の畏れは放っておけないからね。だからみんなに、この古の畏れを退治して欲しいんだ」
百々目鬼はその無数の瞳から発するオーラを纏い、自分の姿を見た人間を数多の目を持つ縛霊手のような腕で襲うのだという。
また、伝承の百々目鬼がむさぼり喰ったという馬の如き配下の存在が2体あり、その馬は体当たりをして襲ってきたり、護りを固めるべくいなないたりするようだ。
百々目鬼たち古の畏れが現われるのは、目に眩しい陽の光が完全に闇に飲み込まれた夜。
古の畏れが出現する場所は小さな神社ではあるが、特に障害物などなく、広さも戦闘に支障はない。しかし月明かりは照ってはいるものの、視覚的に少々暗いと思われる。
そしてこの夜の神社に一般人が訪れることは殆どないようだが、万が一ということもある。犠牲者が出る前に、この古の畏れの群れを殲滅して欲しい。
「それで余談なんだけど、『鳥目』は『御足』って呼ばれることもあるらしくてね。盗人の女に生じる御足……いわゆる『足が付く』って洒落になってるって話もあるんだって」
百目の腕って禍々しいけど、そーいう洒落があるのはちょっぴり面白いよね、と。
未来予測を語り終えた遥河は、そう再びへらりと笑んでから。
「ていうか、もう何度も予測されてはいるんだけどさ……この事件を引き起こしたスサノオの行方は相変わらずブレイズゲートみたいに、予知がしにくい状況みたいなんだよね……」
そう首を傾けつつ、モーヴを帯びた瞳をふっと細めた後。
「でもさ、起きる事件をひとつづつ解決していけば、必ず事件の元凶のスサノオにつながるとオレは思ってるんだ」
根拠はないけど、なんだかもうすぐ掴めそうな気がするんだよね、と。
信頼する灼滅者達をもう一度見回して。
気をつけていってらっしゃい、と皆を見送るのだった。
参加者 | |
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菫野・ほのか(漆黒の猟兵・d01257) |
立見・尚竹(雷神の系譜・d02550) |
蓮咲・煉(錆色アプフェル・d04035) |
千景・七緒(揺らぐ影炎・d07209) |
逢見・莉子(珈琲アロマ・d10150) |
蓮条・優希(星の入東風・d17218) |
久瀬・隼人(反英雄・d19457) |
灰神楽・硝子(零時から始まる物語・d19818) |
●其れは或る盗女の末路
真っ赤な夕陽の色が、腕に犇く百の目には眩しすぎるからか。
それとも、人の目を避け盗みを働いてきたその習性故にか。
暗闇に覆われたその時、女は現われるという。
腕に無数の百鳥の目を生ずる鬼――百々目鬼が。
そして『古の畏れ』としてこの鬼女を生み出したのは、白き獣・スサノオ。
スサノオはこれまでも日本各地で、このような古の畏れを発生させているが。
(「どうにもスサノオの行動原理とかよくわからないのよね」)
逢見・莉子(珈琲アロマ・d10150)の思う様に、その目的はおろか、スサノオの行方を掴むことさえも容易ではない。
だが。
(「とにかく古の畏れだけはなんとかしないと」)
このままでは生み出された古の畏れによって、いずれ被害が出てしまうだろう。
気になることは多々あるが、まずは人害を成す存在を退治することが先決。
月灯りを頼りに、ナノナノを伴って、予測された神社へと向かう莉子。
(「前も古の畏れを相手にしたけど。地道に手掛かり探すしかない、か」)
ゆらり揺れるランプが仄かに照らすその道筋を辿りながら。以前、別の古の畏れと対峙した事がある蓮咲・煉(錆色アプフェル・d04035)も、まずは足を取られない様気を付けないと、と深い暗闇の先を茜の双眸で見据えて。
莉子も何か手がかりになるものがあればと、周囲を調べるべく、ナノナノと一緒に闇へと瞳を凝らした。
今回、スサノオが生み出したのは、妖怪・百々目鬼。
腕に百の目を持つという禍々しき鬼であるが。
(「腕に目ってちょっとカッコいい。どきどき」)
何だか邪気眼的な格好良さにちょっぴりときめきたいお年頃ではあるものの。
(「けども一点を見据えるにゃ、顔の二つで充分さ」)
千景・七緒(揺らぐ影炎・d07209)の両の目に、迷いはない。
そして道標となる輝きを中心に、くるり星が巡る空の如き頼もしい相棒を構える。
今回も頑張ろうか、ナビガトリア、と。
事の元凶である燕尾のスサノオの行方は、いまだ掴めていないというが。
手にした双眼鏡で敵が現われるだろう方角を注意深く見つつ。
(「こういう妖怪の話は、ばあちゃんから色々聞いた」)
蓮条・優希(星の入東風・d17218)が思い出すのは、小さい頃夢中になって聞いた、沢山のお話。
それは今でもひとつひとつ、よく覚えているから。
(「だからかな、不謹慎かも知れないけど……俺、今、物凄くワクワクしてるんだ!」)
優希は突き抜けた空のような青の瞳を、子供の様に輝かせる。
おばあちゃんの話を聞いていた、あの頃と同じように。
そして百々目鬼の伝承に、同じくどこか懐かしさを覚えているのは、立見・尚竹(雷神の系譜・d02550)。
(「今回の事件でよくよく調べてみたら、故郷の栃木に縁のある妖怪だったのだな」)
幼い頃の記憶に残る、沢山の眼がある瓢箪のお面。それはこの百々目にまつわる鬼面であったということに気付いて。
これも何かの縁だろうか、と。改めて、手にした『雷上動』を握り締めた尚竹は。
「こんな所で夜戦とは雰囲気満点だな。では、始めようか」
もう一度弓矢で勝負を付けてくれる、と矢を番えるのだった。
辿り着いた神社の最奥に現われた、妖の姿を視界に捉えて。故郷に伝わる百目鬼の伝説にて悪鬼に見事矢を突き刺したという、藤原秀郷公に倣って。
いつの間に現われたのか、小さな神社に佇むその姿は、着物の女。
(「百々目鬼か。小悪党の成れの果てっつー伝承だな」)
百々目鬼は元は、常に人の銭を盗む手癖の悪い女性で。盗んだ銭に祟られ、腕に無数の鳥の目を持つ鬼となったというが。
久瀬・隼人(反英雄・d19457)はくすんだ色を帯びる髪をざっとかき上げ、吐き捨てるように呟く。
「しょうもねェやつ呼び起こしやがって」
それは女盗人の、みみっちい悪に対する嫌悪感。
そしてその小悪党を射抜く鋭き瞳は、芯の通った、だが歪んだ正義で爛々と彩られている。
それから尚竹が漆黒の殺気を解き放つと同時に、煉のサウンドシャッターが展開され、人が迷い込まぬよう戦闘音を遮断して。
各自それぞれ準備した明かりが、女の姿を捉える。
――その時だった。
女がスッと、おもむろにその着物の袖を捲れば。
「……!」
そこには、びっしりと埋め尽くされた無数の鳥の如き目。
その禍々しさに、一瞬だけ瞳を見開く灼滅者達だが。
「皆さんの支援、きっちり勤めなくちゃ……」
ちょっぴりその妖怪の鳥目は気になるものの。灰神楽・硝子(零時から始まる物語・d19818)はぐっと気合を入れなおし、ライドキャリバーのカーボを前へと送り出す。
このような古の畏れを、こうポンポン産み出されては……いずれ大惨事を招きかねないから。
「ほな、ちゃっちゃか倒しに行きまっか~」
そうおどろおどろしい雰囲気を吹き飛ばすように響く、明るい声。
菫野・ほのか(漆黒の猟兵・d01257)と霊犬の迅も、揃って地を蹴り、前へと躍り出る。
妖しいオーラを纏う古の畏れを、退治する為に。
●暴馬猛る
夜の静寂を破るのは、猛り暴れる馬のいななき。
そして暗闇に光る、百々目鬼の無数の目と禍々しいオーラ。
だがそんな妖怪の群れに一切怯むことなく。
莉子が戦場に構築したのは、霊気で編み上げられた捕縛の結界。
ナノナノも一生懸命灼滅者の前に立ちはだかり、主人と共に頑張って馬目掛け、たつまきを巻き起こして。
莉子とアイコンタクトを交わした隼人がすかさず続き、馬の顔面に異形巨大化させた拳をぶちかます。
そして刹那轟くは、煉の繰り出した雷光の一撃。強烈な拳が叩きつけられた馬の顎が、今度は大きく天へと跳ね上がって。
その隙に確実に敵を仕留めんと、雷上動をぐっと引き、自身へと矢を解き放つ尚竹。
だが勿論百々目鬼も、ただじっと立っているだけではない。
「!」
百目の腕を掲げた瞬間、目の前に位置取る灼滅者達の動きを纏めて、衝撃を伴う結界で抑制しにかかる。
さらに1体の馬のいななきが戦場に響くと同時に、もう1体の馬が鼻息荒くつっこんでくる。
だが、その強烈な体当たりの軌道上にすかさず割って入ったのは、七緒。
仲間の代わりに身を呈し、その攻撃を肩代わりしたのだった。
そして微かに滲んだ赤を光に照らし、よりいっそう暗闇に、燃える炎の彩りを灯しながらも。
「スサノオより霊犬の方が可愛いもん」
ねーっ、と、にこにこ迅に目を向けてから。
「……いつまでもエクスブレインの目から逃げられると思うなよ」
再び、ねーっと、仲間達へと笑顔を宿す。
七緒が、友であるエクスブレインを信じて今、戦場に赴いているように。エクスブレインもまた、絶対的な信頼を寄せて戦場へと皆を送り出している。
だから……いつまでも逃げ遂せることなど、できはしないと。
ひとつずつ古の畏れの事件を解決して、いつかきっと辿り着いてみせると。
灼滅者達は、スサノオが生み出した古の畏れ達へと、得物を振るう。例え百の目に睨まれても、畏れを恐れぬ、強い気持ちを持って。
とはいえ、古の畏れは強敵。
戦場に耳障りないななきが何度も轟き、なかなか倒れぬ馬達。
だが灼滅者達は息を合わせ連携をはかり、1体ずつ攻撃を集中させ、ダメージを重ねていく。
「好き勝手できると思わないで下さいね! カーボ! ぶちかましなさい!」
百の目が眩んでしまうのではないかというほど煌々と、搭載されたライトで敵を照らし出して。ひらりふわり、舞踏会で王子様と踊るかのように、主人の硝子がキラキラ白銀に煌めくオーラを放ったと同時にけたたましいエンジン音を鳴らして、馬へと突撃するカーボ。
そして馬力勝負では負けないと叩きつけられた勢いのある衝撃にぐらり揺らいだ馬を、迅を伴うほのかの影が喰らえば。
「向かい風だ、受けて見ろっ!」
ぐっと握り締めた拳に雷を宿し、漲るオーラの風に乗り。馬の巨体ごと顎を跳ね上げたのは、優希の放った突き上げる一撃であった。
百の目がぎょろりと捉えたその姿は、すぐ目の前にいる尚竹。
そして強烈な拳が唸りを上げ、放射する網状の霊力がその身を縛るべく戦場に張り巡らされるも。
衝撃を見切った尚竹は素早く身を翻し、拳をいなすように避けて。
「斬る!」
短き声と同時に閃いたのは、暗闇に照る月の如く冴えた、死角からの斬撃。
戦場に映える鮮やかな紅白の隊章に宿す思い。
俺達は強い、だから絶対に勝つ――そう自らと仲間を信じ、皆が馬を倒す間、百々目鬼の抑えを担う尚竹。
「今回復しますね!」
そんな尚竹が受けた衝撃や状態異常を打ち消さんと、硝子の指先に癒しの光が満ちれば。
次々に戦場を照らす彩りは、それぞれ異なる色。
静かに、だが激しく燃え盛り揺れるのは。北極星煌く空に宿る、灼熱の陽炎。七緒の噴出させた一撃が、馬の身体に延焼し駆け巡って。
そして風に揺れ夜空を流れる飾り紐の色は、青。清らかな風を思わせる細身の槍から放たれた優希の螺旋の軌道を描く鋭撃が、敵の身を穿たんと唸りを上げた。
灼滅者達の集中攻撃に、馬はたまらず悶え天を仰ぎ啼くも。
「いくで、迅!」
次に咲き乱れるは、ヴァイオレットの弾丸。
愛用のバスターライフルで狙いを定め、斬魔刀で斬りつける迅を伴って。ほのかの撃ち出した漆黒の弾丸の嵐が、馬の身に降り注ぐ。
だがそれでもしぶとく倒れず、体当たりしてきた馬の動きを見切って。纏う至純の黒を翻し、その髪に燻る硝煙を靡かせながら、素早くその懐に入り込んだ煉は。暴れ馬に輝きを宿す凄まじき拳の連打を叩き込んで。
友人である莉子の癒しの霊力を受け、馬の圧力から解き放たれた隼人が。颯爽と全身のナイフを戦場へと投じながらも、コートに潜ませた針の如き鋭い杖を手にし、馬の急所を狙い突けば。刹那、馬の身体が内側から大きく爆ぜ、赤の飛沫とともに、その巨体が地に沈んだのだった。
これで残る敵は、百々目鬼のみ。
●鳥目の祟り
馬2体を打ち倒し、百目の鬼女と相対する灼滅者達。
だが戦闘開始時から、その姿勢は変わらない。
回復は決して怠りはしないが、積極的な攻めの布陣。
「!」
百々目鬼も禍々しい腕を振るい、灼滅者を纏めて薙ぎ払わんと、結界を成しながら天に甲高い奇声を上げるも。
「カーボ! 皆を護って!」
硝子の言葉と同時に灼滅者を庇ったカーボが、衝撃を肩代わりし消滅する。
癒せぬ傷も徐々に深くなってきてはいるが。
しかしそれは、百々目鬼も同じ。
敵のすぐ目の前の前衛に人数を集めている為、無傷な者こそいないが。
強烈な畏れの攻撃威力がその分分散され、灼滅者で倒れるに至る者はまだ出ていない。
もうあとは、全力を持って敵を叩くのみだ。
「あの目じゃグラサンは無理っぽいよね、ふふ」
七緒はそう隼人と百々目鬼を見比べながら、霊犬の迅と莉子のナノナノにもう一回、ねーっ。
そして隼人は、ハッ、と悪役のようなアンチヒーローらしい笑みを宿して。
ふっと細めたサングラスの奥の眼光鋭い瞳を古の畏れへと向けると、The Emperor――荘厳で巨大な皇帝の槍で、容赦なく百々目鬼の身体をぶっ刺す。
七緒も続け様に、死角からの素早い斬撃で急所を絶って。
「残念、足が付いちゃったね」
足取りの鈍った盗人に、どこか影のある微笑みを。
そしてすかさず莉子の指先から放たれた浄化の輝きが、体力が低下した仲間を包みこんで癒しを与えて。ナノナノも、ナノ! と頼もしくきりりとひと鳴きしつつ、一生懸命皆の盾となる。
それから盗みを働く小悪党へと叩き込まれたのは、風に乗るかの如く素早く間合いを詰めた、優希の凄まじい拳の連打。
「ばあちゃんも言ってたけど、一文惜しみの百知らずってさ」
さらにその名の通り、ほのかのViolaからスミレの如く毒を宿した弾丸の花が戦場に咲き乱れ、迅の浄霊眼が闇夜に赤々と血を燃やす七緒の傷を塞いだ。
百々目鬼は灼滅者達の猛攻を浴び、潰された複数の目から、涙のように血を流しながらも。煉へと振るった拳から眩い霊力を編み出し、その身を縛らんとする。
だが一歩も引かず、ぐっと握り締めた得物を夜空へと掲げて。
「目が百個もあったら余計なものばかり見えて、本当に大事な事、見失うんじゃない?」
煉はお返しと言わんばかりの魔力を帯びた一撃を、百々目鬼へと見舞う。
たった二つでも、そうなんだから、と。
「どちらにせよ、今日ここで、全て潰す」
その赤き二つの瞳で、しっかり相手を見据えながら。
刹那、百の目を持つ鬼の体内で、注ぎ込まれた煉の魔力が大きく爆ぜる。
そして、思わずよろけた敵の隙を見逃さずに。
「ガラスの靴、オーバードライブ!」
ガラスの靴から迸る光に包まれ、満を持して闘衣を纏った硝子が。
「ガラスの靴、オーバーフロー! いっけぇぇぇ!」
両手に集結させた眩き輝きを、百々目鬼目掛け解き放ったのだった。
そんなガラスが弾けたような眩い光の衝撃に。百々目鬼は満身創痍ながらも、極僅かな体力で踏みとどまって。しぶとく妖しい百目から放つオーラで、傷を塞がんとするも。
だがそれはもう、無駄な足掻き。
利き腕を巨大な刀に変えて。機を逃さず、風に乗るように地を蹴ったのは、優希。
「暴風雨、抗い切れるかっ!!」
「伝承通りだね。炎に巻かれて苦しむがいいさ」
そして同時に動いた七緒の炎が風に煽られ逆巻き、百々目鬼を燃やし尽くして。
最後に、物の怪を見事討ち取ったのは。
「この一矢必中させる! 我が弓矢に悪を貫く雷を――彗星撃ち、轟雷旋風!」
『……! が、があぁぁ……!』
稲妻の如き鋭く、彗星の如き強烈な、尚竹の渾身の一矢。
やはり百目鬼伝説の伝承と同じように。妖しく輝く其の目を貫いた、弓矢の一撃であったのだった。
●白き焔の足跡
古の畏れを倒し、静けさと暗闇が戻ってきたその中で。
(「……百々目鬼。図書館で調べたら、度重なる説教で改心ってあったけど……あんたにとって盗みってなんだったんだろ」)
煉は戦闘で少々荒れた神社を出来る限り元通りに直しながら、そうふと思ってみるも。
(「……気取られる訳にもいかないし、片付け終わったら帰ろうか」)
既にその盗人は白き焔のように夢まぼろしと消えている今、その答えは永遠に分からない。
そしてこの辺鄙な場所にも何が意味があるから神社が建てられたのかもしれないと。黙々と月の下、神社を整える仲間と一緒に。念のためスサノオの痕跡を探し、情報収集を試みる隼人。
「今回も「御足」を付かせる事が出来たか」
尚竹も、皆で無事に古の畏れを仕留めた、その武勲を誇りながらも。
(「スサノオめ、どこまで古の畏れを顕現させるつもりなのだろうか……」)
事の元凶・白き焔獣を追う様に、柔らかに光を放つ静穏な月を見上げたのだった。
作者:志稲愛海 |
重傷:なし 死亡:なし 闇堕ち:なし |
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種類:
公開:2014年3月18日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 4/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 3
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