ちかっぱ、若鷹ごぼ天うどん怪人!

    作者:志稲愛海

     やたら白地に赤いラインのバスがずらりと並びまくる、福岡の市街地にて。
    「食べても食べてなくならん、このごぼう天の乗った魔法の博多うどんを食い尽したら……俺様のガイアパワーも、ちかっぱバリバリ上がるやろ!」
     そう高笑いしつつ、ひたすらうどんを食べているのは――タカ!?
     いや、タカはタカでも、決して地元民に非常に親しみ深いあのタカではない。
    「あ、あんた何者……!?」
    「俺様か? 俺様はガーナからカカオと共に来日した、ご当地幹部アフリカンパンサー様の配下・『若鷹ごぼう天うどん怪人』とよ!!」
     その名も、若鷹ごぼう天うどん怪人!?
     ガイアパワーを吸収して、博多弁もバッチリとよ!
     ……ですが。
    「はぁ? 『ごぼう天』??」
    「『ごぼう天』ってなん言っとうとよ、それ言うなら『ごぼ天』やろ!」
    「それに、ごぼ天うどんにはかしわおにぎりやろ! あんた若鷹の格好しとうくせに、ちかっぱにわかやん!」
     所詮はアフリカン……地元民からの総ツッコミに合う。
     そして。
    「く……ふんぬぅーー!! せからしかぁぁあああーー!! きさんら、くらすぞ!!」
    「え、わあぁぁあああッ!!」
     入れ放題のネギをドバッと大盛り入れて、食べても食べてもなくならない軟麺のうどんを頬張り続けながらも。
     キレてうどん屋で暴れ出す、ごぼう天……いや、ごぼ天うどん怪人。
     そして、逃げ惑う博多っ子達を後目に。
    「アフリカンご当地怪人は、その地域のガイアパワーを略奪して力を蓄えるとよっ! やけん、ごぼう天……いや、こぼ天うどんは俺様が全て食い尽くすっちゃけんね!!」
     ご当地パワーを吸収すべく、ごぼ天をはむはむと食べ尽くすのだった。
     

    「『ごぼう天』ではなく、『ごぼ天』だ」
     何気にそう改めてツッこむ、祖母の家が九州にある綺月・紗矢(小学生シャドウハンター・dn0017)に、飛鳥井・遥河(中学生エクスブレイン・dn0040)は福岡のグルメ本に目を落としてから。
    「福岡って、ラーメンだけじゃなくてうどんも名物なんだねー。軟らかい麺なんだ、ちょーおいしそー!」
    「ああ。何気に福岡の人は、ラーメンと同じくらい良くうどんを食べるな」
     ラーメンは硬麺だが、うどんは軟麺なんだ、と言う紗矢や集まってくれた皆に、予知した未来予測を語り始める。
    「この『若鷹ごぼ天うどん怪人』とかいう、アフリカから来たっていう怪人なんだけどさ。福岡の市街地にあるうどん屋を片っ端から回って、名物のごぼ天うどんを食い尽くしつつガイアパワーを略奪しようとしてるみたいなんだ。それで、博多っ子から総ツッコミされてキレて、店で暴れだしたりもするようだからさ……この傍迷惑な怪人を、やっつけて来てくれないかな」
     今回事件を起こす『若鷹ごぼ天うどん怪人』は、ガーナからカカオと共に来日した、ご当地幹部アフリカンパンサー様の配下だと名乗っているというが。
     その名乗りの通り、アフリカにいるようなタカの見目をしていて。
     来福した際に手に入れたのか、黒に黄色のツバをしたキャップ帽を、タカであることをいいことに、あざとくかぶっているのだという。
    「この怪人はね、みんなが福岡市内のうどん屋に到着した時、ひたすらごぼ天うどんを食べてるよ。店の中は狭くはないけど、昼時で他のお客さんもいるし物もあるから、周囲のお客さんのかわりに煽って誘導したりして、なるべく被害を出さないよう配慮しつつ倒して欲しいんだ。この怪人は、ご当地怪人のサイキックと、巨大な黄色いメガホンのような無敵斬艦刀、食べても食べてもなくならないうどんみたいな鋼糸を使ってくるよ」
     奇妙な見目をしているが、相手は圧倒的な力を誇るダークネス。
     決して油断せず、全力でボコボコにして欲しい。
     
    「それにしても博多には、食べても食べてもなくならない魔法のうどんの都市伝説とかあるんだねー」
     一通り説明を終えた後、そう言った遥河に。
    「え? いや都市伝説ではなく、福岡のうどんは本当に食べても食べてもなくならない、魔法のうどんなんだ」
     きょとんと、紗矢はそう返した後。
     もし怪人を倒した後に時間がありそうなら、ごぼ天や丸天などが有名な博多のうどんをみんなで食べて帰ってもいいな、と頷いて。
    「しかしよりによって、タカの格好で福岡の街を荒らすとは……これは、くらさないかんな」
     ぐっと、博多を愛する身としても大食いの身としても許すまじな怪人の行動に、拳を握り締める。ちなみに博多弁で『くらす』とは、殴るっていう意味なのです!
     そしてそんな紗矢や皆に、うんうんと頷いてから。
    「見た目はへんてこな怪人だけど、相手はダークネスだからさ……気をつけて行ってきてね!」
     遥河はそう、灼滅者達を見送るのだった。


    参加者
    雨谷・渓(霄隠・d01117)
    花守・ましろ(ましゅまろぱんだ・d01240)
    一・葉(デッドロック・d02409)
    森田・依子(深緋の枝折・d02777)
    蕨田・優希(ぷるぷにワラビなお散歩ガール・d20998)
    ラツェイル・ガリズール(ラビットアイ・d22108)
    ブリジット・カンパネルラ(金の弾丸・d24187)
    二重・牡丹(キラーマンティス・d25269)

    ■リプレイ

    ●にわか、お断り!
     福岡ではごく日常的な、やたらバスだらけな大通りと。
     そんな道沿いにずらり並ぶ、沢山のうどん屋。
     博多はラーメンのイメージが強いが。実はうどん発祥の地でもあり、地元民よくうどんを食べるのである。
     そして今は昼時。この日も沢山の博多っ子がうどん屋を訪れている。
     だからこそ……にわかなど、論外。
    (「にわか仕込みの怪人に、博多の力を渡す訳にはいかない」)
     しかも福岡の平和を脅かそうとしているアフリカン怪人は、よりによって鷹であるという。
     鷹は鷹でも、此処での主役は別に存在するのだから、と。雨谷・渓(霄隠・d01117)は、言語道断な怪人が居る店へと仲間達と急いで。
     そんな渓に、頑張りましょうねと声を掛けるのは、彼と同じクラブの仲間でもある森田・依子(深緋の枝折・d02777)。
     にわかというだけでも、十分許されないのに。
    (「ご飯処で暴れるなんて、万死ですよ?」)
     飲食店で厄介事とかけしからんです!
    (「HKT六六六とか、刺青彫師とかで大変なのに、その上アフリカンご当地怪人まで来ちゃうなんて」)
     最近、何かとダークネス事件が頻発している九州。
    (「でも、これ以上九州の平和を乱させないのだ、よ」)
     花守・ましろ(ましゅまろぱんだ・d01240)はそう思いつつも、……はぅ、美味しそう、と、あずきをぎゅっと抱き締めて。うどんの良い匂いに、お腹がぐぅ。
     二重・牡丹(キラーマンティス・d25269)も、到着した店の駐車場やその周囲を見回し、避難ルートを確認しながら。
    「実家は九州やけど、県外にはあんまし出らん――出なかったから、ごぼ天うどん、食べてみたい……」
     方言があまり出ないよう心がけつつ、美味しそうなうどんに興味津々。
     そして福岡に祖母がいる綺月・紗矢(小学生シャドウハンター・dn0017)は、牡丹は同じ九州出身なのか、と嬉し気に笑んで。
    「福岡のうどんはばりうまいとよ。うどんの為に、早よ怪人を倒さないかんな!」
     ぐっとそう、気合を入れる。
     うどんのため……いや、九州で暴れる怪人は許されんけんね!
     だがそれは、九州に限った事ではない。
    (「おのれ……アフリカン怪人! ガイアパワーを強奪するやと?」)
     アフリカン怪人達の所業に怒りを隠しきれないのは、蕨田・優希(ぷるぷにワラビなお散歩ガール・d20998)。
    (「ヒーローかて怪人かて、そこに愛があるからご当地ってつくんや! それを無理矢理うぼーて我が物顔とか、マジで許せん!」)
     アフリカからやって来て不躾にこの地のガイアパワーを奪い、さらにご当地を名乗る怪人達に、優希は今までになく憤りを感じていた。
     縁深いその地の食べ物、名産品、土地柄、人――それを愛し大切にする心こそが、ご当地だから。
    「段ボールに積めて空輸で送り返したる!」
     ご当地を名乗る資格のないアフリカンは、日本から出て行って貰います!
     そして灼滅者達は、うどん屋の周辺をざっと確認した後。
     アフリカンご当地怪人がいるという店の中に、足を踏み入れた。

     お客さんも多い昼時の店の中で、一際浮いているその見目。
    「食べても食べてなくならん、このごぼう天の乗った魔法の博多うどんを食い尽したら……俺様のガイアパワーも、ちかっぱバリバリ上がるやろ!」
     未来予測通り、ひたすらごぼ天うどんを食べまくっている『若鷹ごぼう天うどん怪人』の姿がそこにはあった。
     そんな奇妙な格好の怪人に胡散臭さ感じつつも。
    「貴方が似非ごぼ天怪人ですか。その格好も某球団マスコットの真似ですか?」
     そう渓は、怪人に冷ややかな目を向けて。
    「因みに博多が饂飩の発祥地で、茹で時間が他地方と比べて長いのも、怪人を名乗る位ならご存知ですよね?」
    「は? そんなの知らんったい! でもこの俺様はな、なんと、ガーナからカカオと共に来日した、ご当地幹部アフリカンパンサー様の配下・『若鷹ごぼう天うどん怪……」
    「ごぼう天? ……中途半端な知ったか程恥ずかしいものはないですよね。食べ方も名前も、いっそ地元の方に素直に聞けばいいものを」
    「アフリカから来たにわかもんが、ごぼ天うどん怪人を名乗るなんて百万年早いんだ、よ!」
     渓に続き、すかさず依子とましろが怪人のにわかっぷりにすかさず突っ込んで。
     そうだそうだ、あんたちかっぱにわかやん! と野次る周囲の一般人達。
    「ガイアパワー略奪しようにも、アウェー感すげぇな」
     地元民おっかなす、と。一・葉(デッドロック・d02409)はダークネス相手にまでお祭り気質を発揮する博多っ子達を見回して。
    「あなた達の気持ちは僕らがしっかり代弁しますので、少し静かにしていてくださいね?」
     ラブフェロモンを展開し、怪人の怒りが矛先が一般人達へと向かわぬようにと。ラツェイル・ガリズール(ラビットアイ・d22108)は、一先ずそう博多っ子達へと、シーッのポーズ。
     そして、素直に黙った人々を確認した後。
    (「友人知人の故郷で暴れるのを見過ごす訳にはいきませんからね」)
     同行してくれた友人達と、アイコンタクトを。
     それに合わせ、紗矢と共に一般人達を誘導し始めるのは、奏恵と響。
    「福岡の地を危険に晒す、ダークネス許すまじ! ながーく過ごしてたから地理には詳しいよ!」
     にわかには負けないのです! と怪人を見遣る妹に頷きつつも。
    「人の地元で好き勝手やってくれるよな。ごぼ天食い尽くすとか、さすがに聞き捨てならんぞ」
     若鷹ならバットくらい持てよと、博多っ子としてけしからん似非若鷹にツッコミを入れずにはいられない兄。
     そして七尾も被害が出ぬよう、店内の客達を誘導し集めて。
     あ、あんまり目立つとは、好きじゃなか、けど……と、呟きながらも。牡丹も一般人達の意識を怪人から自分に向けさせるよう、ラブフェロモンを発動する。
     その間に、さらに怪人を煽るべく。
    「ドヤ顔で誤当地語ってどんな気持ち? ねぇ、どんな気持ち?」
     ブリジット・カンパネルラ(金の弾丸・d24187)は、くすりと大袈裟に笑んで。
    「悔しいでしょうねぇ……悔しいでしょうねぇ! こちらは肩腹大激痛よ! 笑いが止まらないわ」
    「ご当地パワーを取り入れようと、にわかはにわか。紛らわしいのでまずはその帽子をとりましょう……おや? 取れませんか? もしかしてその下は……そうですか、禿鷹でしたか」
    「な、なんやて!? 俺様はな、禿鷹やなくてカンムリクマタカとよ! くらすぞきさん、ちかっぱむかつく!」
    「え? くらす……? 禿鷹さん、なんて?」
    「ラツェくん、禿鷹さんは「ぼこぼこにするぞ貴様、すごく頭にくる!」って言ってるんだよ!」
     大きく首を傾げたラツェイルに、すかさずそう博多弁を通訳する奏恵。
     ちなみに博多の人は、博多弁は限りなく標準語に近い方言だと信じて疑っていません。
     そして。
    「ていうか、禿鷹さんやないし! カンムリクマタカ!!」
     そうムキになる禿鷹……いえ、カンムリクマタカさんに。
    「なるほど。そこまで言うのであれば禿鷹さん、表で白黒つけようではありませんか」
    「悔しかったら駐車場まで来なさい、禿鷹さん」
     続けて嫌がらせしつつも、さり気なく店の外へと促すラツェイルとブリジット。
     そして、ぐぎぎぎ、と割り箸を握り締める怪人は。
    「俺、ごぼ天食ったことねぇんだよ。ちょっとごぼ天のどこが良いか、外で直接ご教授おなしゃーす」
     ようやく『若鷹ごぼう天うどん怪人』としての真価が発揮できると、葉へと一瞬、パッと期待の視線を向けるも。
    「まあ、たぶん聞いてもわかんねぇけどな」
    「聞いときながら、わからんのかい!!」
     さらなる怒りで、顔を真っ赤にして。
    「口で勝てないからと力押しとは浅はか。まあ、お相手しなくもないですが、ここでは全力出せませんので」
    「図星を指された激昂なんて、にわかと認めたような。こらえ性もないのですか。言いたい事もお相手もいくらでも、表でしましょう?」
     いまにも暴れださんとする怪人に煽り文句を浴びせる、渓と依子。
     そして、上等やん、表に出てきさんらくらす! とまんまと息巻く怪人に、渓は眼鏡の奥の瞳を細めて。
    「怪人としての誇りを掛けて正々堂々勝負でも」
     怪人を誘導し、仲間達と共に駐車場へ。
    「そっちは危険やけん、向こうに」
    「こっちこっち! こっちは安全だよー!」
     響と奏恵がその間に、怪人から一般人客をうまく遠ざけて。
     戦闘の邪魔にならぬよう店の奥に客達を固めながら、がんばってな! と声を掛ける七尾に頷き、紗矢も駐車場へと向かう。
     そして、怪人が奪いとらんとするガイアパワーに横からアクセスしてみた優希は、その妨害こそできなかったものの。
    「あんたも怪人の端くれなら、こないな狭いとこで喚かんと表に出ぇ……」
     ご当地ヒーローとしての誇りを胸に。
     HとTのマークが入ったそのキャップを改めてぐっとかぶりなおしながらも、店の外へ。

    ●ご当地たるもの
     きさんら、くらしちゃるけんね! と博多弁で鼻息荒く言いながらも。
     灼滅者達に巧く乗せられ店の駐車場へと出てきた、ごぼ天怪人。
     だが……ガンガンくらす勢いで戦いに臨むのは、灼滅者達の方だ。
    「郷に入っては郷に従えっつーがよ。アフリカのご当地怪人ってのは節操ってもんがねぇのか」
     葉の纏う冷気の如きオーラが氷結の夢をみせるかのように揺らめき、手に握る槍から螺旋の軌道を描く鋭撃が繰り出されて。そんなんじゃ、どこ行っても受け入れてもらえねぇぜ? と、眼鏡の奥に潜む瞳で奇天烈な見目の怪人を見遣る。
     そんな葉に、怪人は鼻で笑って。
    「ここのご当地パワーは良い感じやけんね、全て食い尽くしちゃるとよ!」
    「節操なしですか、あなたは。アフリカへの愛は何処に行ったのです、誇りのない」
     殺界形成を展開して人払いを済ませた後。呆れたようにそうふるふると小さく、依子は緩やかに編まれた黒髪を揺らしてから。傷のついた小ぶりの一振りに炎を宿し、敵を燃やさんと、ぶった切りにかかれば。
     依子と連携し動きをみせたのは、渓。
    「此の地のガイアパワーは奪わせない」
     灰の瞳に、先程までとは違う好戦的な色を微かに宿しながら。敵の身を穿ち貫かんと、孤を描くその槍の切っ先を向ける。
     そしてましろはサウンドシャッターで戦闘音を遮断し、異形巨大化させたパンダのような拳を振り上げながらも。
    「アフリカンパンサーやアフリカ怪人達が九州にやってきた目的って、何なのかな? 地域のガイアパワーを略奪して何を企んでいるの?」
     そう、問いかけてみる。
     そんなましろの拳を受け止め、ふはは! と高笑いする怪人は。
    「目的? ここの良いガイアパワーをいただく為って、さっき言ったやろ? そしてそれは全て、世界征服の為、グローバルジャスティス様の為やろ!」
     そう、ご当地怪人の模範例みたいな返答を。
     その間、ラツェイルは己の魂の奥底に眠る闇を指輪に宿し、戦闘態勢をより万全にするべく前に立つましろへとその力を注いで。
    「福岡のごぼ天は日本一、ガーナのカカオは世界一!」
    「やはりアフリカンのにおいが抜けてない……」
     どう見ても誤当地怪人です。ありがとうございました。
     というわけで!
    「ここで私たちにやられちゃいなさい!」
     ブリジットの、ドリルの如く高速回転する得物が唸りをあげて。その肉体をねじ切らんと怪人に突き刺さる。
     続く灼滅者達の猛攻。だが、油断はない。
     巨大化怪人で懲りとうしな! と大きく地を蹴った優希は。
    「負けられへん……九州から新潟まで……その進路上にはうちの故郷もあるんや!」
     相手の進軍経路にある大切な地への思いを乗せた必殺ビームを怪人へと見舞って。
     牡丹と菊も、揃いの大鎌を同時に振るい、敵の攻撃の手を鈍らせにかかる。
     だがいくら敵はへんてこな外見でも、ダークネス。これまでの灼滅者達の攻撃にも倒れる気配なく、逆にお返しといわんんばかりに、戦場内にうどんのような鋼糸を張り巡らせて。
    「このうどんに絡め取られんのってなんか屈辱だよな」
     博多のうどんのように何だかやわやわに見えるその見た目に、葉はそう思わずぽつり。
     だがその威力は高く、うどんっぽくても決して油断はならない上に。繰り出すごぼ天ビームにメガホンの如き刃の一撃は、にわかながらも強烈だ。
     だが戦線をしっかりと支えるのは、ラツェイルの放つ裁きの光条やブリジットがもたらした優しき浄化の風。
    「回復は任せてください! 皆さんは禿鷹怪人に集中を……!」
    「今、禿鷹怪人からもらった状態異常を消して身軽にするよ!」
    「く、禿げ禿げって、せからしか……ッ!」
     それからごぼ天怪人は、宿敵ご当地ヒーローである優希に対抗するかのように彼女に攻撃を集めるも。
     それ故に生じた隙を逃さず。鷹の羽を毟るように、影を宿した『1/f noise』で葉は怪人をぶん殴る。
    「俺、ご当地じゃねぇけどさ。ガイアパワーってのは奪うもんじゃなく、分けてもらうもんだろ?」
     まあ、奪いたきゃ俺達を倒してからってのがお約束な、と。怪人の前に立ちはだかりながら。
    「中途半端で知っとる気になっとるとが……一番いかんとよ!」
     牡丹も大きな赤のリボンと漆黒の髪を九州の空にひらり靡かせて。
    「わかっとらんなら……ご当地パワーを得る権利は、なか!」
     菊と共に容赦のない断罪の刃を、この地の平和を乱さんとする敵へと浴びせる。
     そして地元民……いや全国の人々も知っている、福岡定番のあの応援歌が、ずっと頭の中でぐるぐる再生されている依子だが。
    「歌えなそうですよね、この怪人さんは」
     いざゆけと言わんばかりに、ましろと呼吸を合わせ、鋭い牙を剥いた影を同時にぐんと伸ばした。
     いや、たとえその応援歌をこの怪人が歌えたとしても。
    「知識のみで思い入れない者が、ご当地怪人にはなり得ません」
     渓の言うように、その土地に愛のない輩に、ご当地を名乗る資格はない。
     刹那、渓が握る槍から立ち昇る妖気がつららとなり、鷹を捉えんと打ち出されて。
     『弾丸のブリット』というその渾名通り、勢い良く飛び出したブリジットから繰り出されるのは。
    「フォース……ぶれぇえええいくっ!」
    「なんの! って、ちょっ!?」
     残念! 必殺のフォースブレイク……と叫びつつ放った、ジャッジメントレイでした!
     そんなフォースブレイクという名のジャッジメントレイを受け、これまでしぶとく倒れなかった怪人の上体が、大きく揺らいで。
    「トドメはご当地に任せるわ。いっちょかましたれ」
    「しばきたおされたいか、どつきまわされたいか、どっちか選びぃ……」
     葉の言葉に頷き、優希はぐぐっと改めて得物を握り直すと。
    「えっと……しばかれるのも、どつかれるのも、くらされるのも、ちょっと……」
    「ご当地の皆に代わって……代打蕨田優希があんたをスタンドまでかっ飛ばしたる!」
    「え、ぎゃああぁッ!?」
     ご当地を愛する者達の怒りや気持ちを込めたフルスイングで。
     ごぼ天怪人のお尻の中心点にバベルブレイカーを突き刺した後、全力でかっ飛ばしたのだった。

    ●愛すべきごぼ天うどん
     無事、アフリカンご当地怪人を灼滅して。
    「ガーナ生まれなら自身の故郷を誇り、其方の怪人になるべきだったのでは」
     渓はそう小さく呟いてから。
    「みんなでごぼ天うどん食べに行こー♪」
    「うち、食ったことないねん♪」
     ましろや優希やブリジットに続き、依子と並んで。いざ、ごぼ天うどんを食べに!
    「一仕事した後のうどんて、なんか社畜ぽいがそこがいい」
     この場合、学畜か、と席に着きながら。葉は紗矢に訊いてみる。
     おすすめのごぼ天おせーて、と。
     そして、ちかっぱこの入れ放題のネギを入れ、スープが減ったらそこのやかんに入ってる汁を注ぎ足しつつごぼ天にも汁を吸わせて柔らかくして、あとはできればかしわ飯も一緒に頼むとより良いな、と。
     そんな説明を、日本文化ならではなご当地グルメに興味津々な依子と、一緒に聞いていた葉は。
    「……ところで、ちかっぱってどーゆー意味?」
     そう、今まで抱いていた疑問を訊ねるのだった。
     ちかっぱとは、『すごく』とか『力いっぱい』とかいう意味の博多弁なんです!
     そしてサポートしてくれた皆も勿論一緒に、ごぼ天うどん!
     七尾も紗矢と並んで座って手を合わせて……いただきまーす!
    「サクサクのごぼうがうどんのお汁を吸ってふにゃふにゃーになるのがおいしーの! あと、福岡のうどんはやーらかいんだよ!お汁も透明でねー天かすがちょっと多め」
    「本当に柔らかいですね! 美味しいです……!」
     奏恵の言葉に、ひとくち食べてみたラツェイルも、うんうんと頷いて。
    「俺はあんまり衣着けない店が好きだけどな。素揚げって言うのか?」
     都内のうどん屋にごぼ天が無かった時の悲しみは俺は今でも忘れない、と。響も、歯触りの良いごぼ天をぱくり。
     そしてこれを機会に、ごぼ天を武蔵坂学園の学食にと、切実に願う博多っ子な兄妹に。
    「学食メニューの追加、あれば良いですけどね……」
     ラツェイルは目を輝かせ、たまに出る博多弁の訛りに首を傾げつつも、奏恵達や皆と、会話やうどんを楽しんで。
    「博多んうどんは、ほなごつうまかね」
     猫のぬいぐるみの花火を抱きながら。
     牡丹も、食べても食べても増え続ける博多うどんを、おなかいっぱい堪能するのだった。

    作者:志稲愛海 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2014年3月20日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
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