アメリカンヤンキー・チームファットボーイ!

    作者:海あゆめ


     ある日の白昼堂々、その事件は動き出す。
    「うっ……がはっ! ぐっああっ……!」
     駅前のファストフード店。ハンバーガーを頬張り、コーラを一口含んだ男が、突然苦しみ出した。
    「おっ、お客様っ! どうなさいました!?」
     気がついた店員が慌てて駆け寄ってくる。この時、他の店員も回りの客達も、この男がハンバーガーを喉に詰まらせただけなのだろうと、特別騒ぎ立てようとはしなかった。
     しかし、次の瞬間、事態は急変する。
    「ぐああぁっ!!」
    「ぎゃああっ! うあぁっ……!」
     席のあちらで、こちらで、次々と客達が苦しみ始めたのだ。
    「お客様! 大丈夫ですか!? いっ、今救急車を……」
    「……っ、ちょっと待ちな」
     苦しんでいた男が、ポケットから携帯電話を取り出した店員の腕を掴んだ。
    「救急車なんて呼ばれちゃ困るな。俺達には行かなきゃならねぇ場所があるのさ」
    「は、はぁ……?」
     先程まで苦しんでいたとは思えない程饒舌に、しかもどこかオーバーアクション気味に喋り出した男を、店員はぽかんと見つめた。
     明らかに様子がおかしい。この男だけではない。苦しんでいた客達は皆、何事も無かったかのように席を立ち、何やらぞろぞろと移動を始めた。
    「そう、俺が」
     必要以上に体をくねらせ、指を鳴らしてリズムをとる。
    「俺達が」
     少し足りてないジーンズの裾から覗いた、白いソックスの足首が軽快にステップを踏む。
    「「「チーーームファットボーーーイ!」」」
     まるで60年代のアメリカ映画のワンシーンのように集まった客達が、一斉にポーズを決めた。
    「イェア」
    「あ、あの……」
    「ヘイ、ブラザー! 出かける前にまずは腹ごしらえだ! おい、この店のコーラとハンバーガーをありったけ持ってきな! ああ、そうそう、ポテトも忘れるんじゃねぇぞ!」
    「え、えぇぇ?」
    「おっと、関係ない奴らはこっから出ていきな! 怪我をしたくなかったら、さっさとお家に帰ってクソして寝るんだ、な! HAHAHA!」
     こうして、突如として結成されたチームファットボーイは、ファストフード店の2階席を占拠してしまう。
     一体、何が起こっているというのだろうか。
     

    「駅前のファストフード店で、なんか変な事件が起きるみたいなんだよね」
    「変な事件……つか、お前のそのでかいサングラスも変だぞ。どうした」
    「まあまあ、ちょっといいから説明聞いてよ」
     斑目・スイ子(高校生エクスブレイン・dn0062)は、掛けていた大きなティアドロップ型のサングラスを外し、近くにいた、緑山・香蕗(高校生ご当地ヒーロー・dn0044)に掛けさせながら、教室に集まった灼滅者達に向き直った。
    「なんかね、ジーンズを履いてて、ハンバーガーを食べたり、コーラを飲んだりしてた一般人のお客さんがね、アメリカン的なヤンキーチームに強化されちゃうの。チームファットボーイっていうんだって!」
    「あん? なんだそれ、どういう事だ?」
     律儀に掛けさせられたサングラスをそのままに、香蕗は訝しげに眉をひそめた。その姿がもうすでにヤンキーのようで、悪戯が成功した子どものようにニマニマ笑いながらスイ子は説明を続ける。
    「原因は、よくわかんない。けど、アメリカンな感じに強化されちゃった人達はね、そのお店とか街とかでヤンキーっぽく暴れて迷惑かけながら、大移動しようとしてるみたい。方角は……えっと、新潟のある方だね~」
    「そうか。じゃあ、行ってそいつらブチのめして正気に戻せばいんだな」
    「うん、そういうこと……っ、んっ、ぷふっ……」
     眉間に皺を寄せ、香蕗は手の平に拳を打ち付けてみせた。垂れたサングラスもあいまって、もう完全にヤンキーの言動である。思わず吹き出すスイ子に、香蕗はバツが悪そうに食ってかかる。
    「あんだよさっきから! つか、なんだこのサングラス! もう外すぞ!」
    「あん、待って待って! 外しちゃダメだってば、ちゃんと意味があるの! みんな、見て見て! こういう感じ! 今回はね、みんなにもこういうヤンキーな感じで挑んで欲しいの!」
     スイ子が言うには、今回、事件を起こそうとしている強化一般人達は、チームファットボーイと名乗る総勢30名程度。街を移動する前に、ファストフード店の2階席を乗っ取り、腹ごしらえを決めこむらしい。
     店の店員達は、チームファットボーイの要求に応えるため、1階の厨房に篭って大量のハンバーガーやポテトを作っており、他の客はといえば、彼らに店を追い出されてしまっていて一人もいない状態だという。
     そんな迷惑な行動を起こしているチームファットボーイではあるが、強化一般人としてはまだ不完全な状態で、彼らと同じように、アメリカ人の若者、特にヤンキーのような言動や服装などで近づけば、攻撃をためらわせる事ができるのだという。
    「もちろん、それで全部の攻撃が防げるわけじゃないんだけど、みんなでやれば戦いもかなり楽になると思うよ!」
     たかが強化一般人とはいえ、数が多い。有効な手段があるならば、使わない手はないだろう。
    「いろいろ参考になりそうな雑誌とかも用意しておいたよ、はいコレ!」
     古き良き時代のアメリカンファッションを特集した雑誌や記事の切り抜きを灼滅者達に手渡して、スイ子は悪戯っぽく笑ってみせる。
    「にひっ♪ 対抗してみんなでチーム結成してみてもいいかもね♪ あ、そうそう、ひとつ、気をつけてもらいたいんだけどね、事件が起こる前に店の人を避難させたりは、残念だけどできないの」
     そうしてしまうと、起こるべき事件は起こらず、別の場所で別の事件として起きてしまう可能性がある。なので、必ず事件が発生してから、速やかに解決に向かって欲しいのだと言って、スイ子は灼滅者達に向かって頭を下げた。
    「みんな、よろしくお願いね! にひひっ♪ みんなのヤンキー的武勇伝、楽しみに待ってるよ♪」
    「おう、したっけ行くべか! ……しっかしまあ、何なんだべな、この事件」
    「うん~、ジーンズにハンバーガーにコーラでアメリカン……アメリカのご当地幹部さんが動き出したのかもね?」
    「アメリカのご当地幹部、なぁ……」


    参加者
    仙道・司(オウルバロン・d00813)
    敷島・雷歌(炎熱の護剣・d04073)
    椿・深愛(ピンキッシュキャラメル・d04568)
    川原・咲夜(吊されるべき占い師・d04950)
    天瀬・ひらり(ひらり舞います・d05851)
    アンドリュー・ハダノ(ご当地模索中・d20292)
    ファニー・ロス(三代目ストライプガール・d23843)
    在原・八重香(おばあちゃん・d24767)

    ■リプレイ


     ぴったりしたジーンズに身を包んだガラの悪い若者達が、山のように積まれたハンバーガーにコーラ、ポテトを喰らう。
     どこにでもある、日本の駅前のファストフード店。この日、この店の二階席は、突如として結成された、チームファットボーイに占拠され、素敵にアメリカ化してしまっていた。
    「そして、俺は言ってやったのさ! そんなもので腹が膨れるか! チェリーパイでも持ってきな! ってね!」
    「HAHAHA! マジかよ兄弟! たまんねーなぁ!」
     飛び交うアメリカンジョークも、笑いどころがよく分からない。ゲラゲラと下品な笑い声が渦巻く店内。その時突然、ギュィーン! とギターの音がけたたましく鳴り響いた。
    「ワッツ!?」
     チームファットボーイの面々が、音のした階段付近を一斉に振り返る。そこにいたのは、こちらもまた素敵にアメリカ化した灼滅者達。首から下げたギターを掻き鳴らしながら、天瀬・ひらり(ひらり舞います・d05851)が、ずずいっと身を乗り出した。
    「YOYOYO! ココハミータチノテリトリーネー!」
     特攻服に飾ったアメリカンなフリンジが、ナイスに揺れる。
    「なっ、なんだぁ!? テメーらはぁぁ!?」
     慌ててケンカ腰になるチームファットボーイに、敷島・雷歌(炎熱の護剣・d04073)は大げさに肩をすくめてみせる。
    「チームコロちゃん、だ。おいおい、まさか知らねえボーイはいねえよな?」
    「ハァン? 何だって?」
     雷歌とチームファットボーイがメンチを切り合う。
    「チームコロちゃん、だぁ?」
     チームファットボーイの視線が、灼滅者達の中心にいた、緑山・香蕗(高校生ご当地ヒーロー・dn0044)へと集まった。
     垂れたサングラスを掛けたガタイのいい男が、腕組をして立っている。それだけでも威圧的だが、その回りでアメリカンでヤンキーなヤング達がポーズを決めている。チームファットボーイの間にどよめきが走る。
    「……で、どうすりゃいいんだ俺は」
     サングラスの下では、正直困ったといった風な目をしている香蕗に、在原・八重香(おばあちゃん・d24767)は、ぽむりと肩を叩いてやる。
    「なあに、ただリーダーらしく、ドンと構えておれば良いのじゃ」
     そうして言いながら、八重香はおもむろに着ていたパーカーを脱ぎ捨てる。
    「Check it out!」
     星条旗模様の、ちょっぴり大胆なビキニが露わになる。
    「オー! ノー! 何のマネだいガーール!?」
     この時、衝撃を隠しきれないチームファットボーイの間に更なる衝撃が走ろうとは誰が予測しただろうか。
    「ヘイゆー! ハンバーガーお待ち!」
     むき出しのハンバーガー片手に走ってきた、仙道・司(オウルバロン・d00813)が、それをそのままチームファットボーイのひとりの顔面へと捻じ込んだ。
    「オーー! 火傷しちまうよ!!」
    「ああっ、大変! お客様!!」
     騒ぎ立てるボーイに、今度は、川原・咲夜(吊されるべき占い師・d04950)がローラースケートでトレイにのせたドリンクを運んでくる。
     ああ、こんな場面、古い映画か何かで見たことあるなと思ったのも束の間、トレイの上のドリンクが勢い余って飛んできて、熱がりボーイの頭に直撃した。
     しかも中身は惨いことにミルクである。
    「ノーーー!!!」
    「口に合わなかった? ごめんなさい、ウチに貴方のママは置いてないんだ」
     軽快にローラースケートのブレーキを利かせ、ピタピタのジーンズが眩しい足を交差させてみせる咲夜。その白々しさもなかなかにアメリカンだ。
    「ショーの始まりデース! 『コロポックルの皮を被ったヤンキー』コロちゃんとその仲間達が、お前達をコロコロ転がしちゃうデース!」
     にっと笑いながら星条旗を広げ、大きく振る司。
     チーム同士の戦いのゴングが、たった今鳴ったような気がした。
    「ヘイヘイヘイ! 俺達チームファットボーイにケンカ売ってるのかい? ええ? 皮被りのチームコロさんよう!」
    「"Phat Boys"? Ha! デブ野郎の間違いじゃないの?」
     ファットボーイ達の軽いジャブに、椿・深愛(ピンキッシュキャラメル・d04568)が重たいカウンターを返す。
    「なっ……!?」
     一瞬、何を言われたのか分からなかったらしいボーイが、目を剝いて深愛を見やった。
     ペチコートスカートにスニーカーが愛らしい、カラフルポップなアメリカンガールだと思って甘く見てはいけない。ポッケに両手を突っ込んで、お行儀悪くガムをクチャクチャさせながら深愛は続ける。
    「あたしはteamKOROの狂犬ミーア。ゲーム開始よ。かかってきな、豚野郎ども!」
     一体何の影響を受けたのだろうか。辛辣である。
    「シィィット! 言わせておけば……」
     ファットボーイ達が怒りに憤慨しかけた、まさにその時である。彼らにとって、本日何度目になるか分からない衝撃が走る。
     バリバリ、ガシャーーン! と派手な音を立てて、窓ガラスが割れたのだ。
    「ワッツハプンッ!?」
    「ヘイ、バッドボーイズ! アイムストライプガール!」
    「Hi,Guys!  I am StripeGirl's Sidekick "StarKid"!!」
     アメリカンな星条旗のヒーロースーツに身を包んだ、ファニー・ロス(三代目ストライプガール・d23843)と、アンドリュー・ハダノ(ご当地模索中・d20292)が、ビシッとポーズを決めていた。
     まあ、今日はそもそも非常事態だ。窓ガラスが……とか、ここ、二階なんですけど……などという細かい事は、気にするだけ野暮というものだろう。
    「フッ……ユータチモナカナカヤルネー」
     何だか良い笑顔で乱入してきたヒーロー達に握手を求めるひらり。
    「ハハッ、このくらい、ウチじゃ何時もの事さ!」
     日常茶飯事だと言わんばかりに、余裕の笑みを漏らす咲夜。皆わりとノリノリである。
    「オー、ガッシュ……何だコイツら……」
    「ヤベェな、マジもんのクレイジーだぜ……!」
    「さあ! ワタシたちスターズ&ストライプスが来たからには、それ以上のおイタは許さないヨ!」
     震え上がるボーイ達を指差し、ファニーは宣戦布告する。
    「Slayers! Battle Stations! HEROのてっけんをくらえー!」
     拳を握りしめ、アンドリューがその場を踏み切った。
    「いいねえ! どっちが多く倒せるか勝負しようぜ、ヒーローズ! 『テキサスのダブルコンドル』と呼ばれた俺たちのパワーを見せてやるZE! レッツパーリィ!」
     ビビハインドの紫電と共に、雷歌も続いて飛び出していく。
     チームファットボーイVSチームコロちゃん、および、アメリカンヒーロースターズ&ストライプス。混沌としてきた戦場だが、灼滅者達の目的はひとつ。アメリカンヤンキーと化してしまったボーイ達を正気に戻すための戦いの火蓋が、今切って落とされた。


     チーム同士の抗争大勃発かと思いきや、灼滅者達のアメリカンヤンキーな出で立ちに、チームファットボーイの中には戸惑いを隠せない者も多い。
    「おい……どうする? ブラザー?」
    「あ、あんなキテる奴らを本気で相手にするのか、ヘイ、ブラザー?」
     頑張った甲斐があった。効果はかなり出ている。
     だが、如何せん数が多い。負けん気の強いボーイというのもいるものだ。
    「ヘイ! どうしたんだブラザー! あんな奴らやっちまおうぜ! アォッ!」
    「そうだぜブラザー! なぜなら俺が!」
     ボーイ達が、くねくねと動き出す。
    「俺達が!!」
     あまつさえ、指を鳴らしてポーズも決める。
    「「「チーームファットボーーーーイ!!」」」
    「イェア」
    「なにそれ! Americaをばかにしてるの? そういうのやめてよねー」
     つくば育ちの自分が言うのもなんだけど、とは思いつつも、やはりどうしても気に入らない。アンドリューはポーズを決めたボーイのひとりに迫り、遠心力に任せてハンマーを思いっきり振るった。
    「フッ……この際、アメリカでもアフリカでもどんと来いですよ!」
     悟りの境地に辿り着いたかのような咲夜の顔つき。さすが、過去に長いことゲルマン化していた者の言葉は重みが違う。そうして放出された黒い殺気が、荒ぶるボーイ達を飲み込んでいく。
    「ハーイ、ココカラハミーノショータイムネー!」
     すかさず、ひらりがギターを構えた。
    「ミーの歌声でシビれるがいいねー!」
    「オーー! イッツクレイジー!!」
     ぐいぐいくるエレキなリズムに、ボーイ達も卒倒寸前。
    「ヘーイ! お次はボクの歌をリッスンするデース!」
     続けざまに、パンクロックにきめた司がギターを掻き鳴らす。
    「ヒーーハーー!!」
     被ったハットをくいっと上げて、ノリノリのナンバーをご機嫌に。若干ヤケ気味ではあるが、司の全力が、今ここに極まった。
    「ヤバいぜ! コイツらマジでイカれてやがるぜ!」
    「ヘイ! ひよってんじゃねーよブラザー! こういう時は弱そうなチビっ子を狙うんだ! GOGOGO!!」
    「ふふん、先にやられたいのはアンタかい?」
     噛んでいたガムをプッと吐き出して、深愛は手にした魔道書をめくり上げる。
     凝縮された魔力が、はじけ飛んだ。駆け込んできていたボーイ達に襲い掛かる、爆発の嵐。
    「チビだからって舐めた奴から丸焼きにしてやるっ」
     くるりとターンを決めて、深愛はちょっぴりニヒルに笑った。
    「オイオイオイオイ! シャレになってねーぜブラザー!」
    「おいおいGuys,ステイツじゃ力こそパワーだZE?」
     慌てて近くにあったコーラとハンバーガーを引っ掴んだボーイの目の前で、雷歌は瓶コーラの王冠を指で弾き飛ばしてみせる。
    「ストローでチューチューしてるお子様はバックホームしな! いくぜ、オヤジ!」
     にやりと笑って、雷歌は斬艦刀を担ぎ上げ、床を蹴った。アメリカンに飾った服が、この空間に鮮やかに映える。一緒に飛び出したビハインドの紫電も、戦後の日本で見かけたどこかの提督のように着飾っていて実にダンディーだ。
    「ヘイ、ボーイ! よく見ときな! これがテキサスのダブルコンドルの力だZE!」
     クロスする激しい攻め。
    「イエッサーー!!」
    「……ッ! ソー……クーール……!」
     ボーイ達も思わず賞賛の声を残し、ぶっ倒れていく。
    「ヘイ、情けないぜブラザー! うおおぉ!」
     そんな中でも、健気に己を奮い立たせたボーイが、メリケンサックをしっかりと握って突っ込んでくる。
    「ハン、効かぬな」
     八重香は風船ガムを膨らませながらボーイの拳を受け止め、やれやれと首を横に振って肩をすくめた。
    「シット!! ようしブラザー! こうなったらスペシャルな奥の手を出すぜ!」
     そう言いながらコーラを引っ掴んだボーイは、ふりふりと瓶を振り回し、一気に王冠を開けてコーラをスプラッシュさせた。
    「流石だぜブラザー!」
    「ブラザーのスプラッシュは最高だぜ! ヒャッハー!!」
     降り注ぐコーラの飛沫に、チームファットボーイは歓喜の渦に包まれる。
    「HAHAHA! アイツ、マスかいてやがるゼー!」
     思いっきりバカにして、ファニーは笑ってやった。しかも、女の子から出たとは思えないお下品な言葉も添えて、だ。
    「ヘイ、ボーイ! 我慢できなくなったんなら大人しくおうちに帰るんだネー!」
     歓喜から一転、ぽかんとしてしまっているボーイ達を尻目に、アンドリューが汚れのない瞳でファニーを見上げ、小首を傾げる。
    「Funny? ますってなーに?」
    「だーーっ! ストップ! やめろやめろ! 女子供が使っていい言葉じゃねぇよ!」
     香蕗が大慌てでファニーとアンドリューの間に割って入る。
    「なんかよくわかんないけど、今がチャーンス! くたばれ、ファッ……」
    「ぎゃー! こらっ! 深愛! お前もか!!」
     灼滅者達のアメリカンヤンキーなりきり完成度は高すぎた。あっちこっちで、まるでピー音が仕事をしない。
    「…………っ」
     アホか! なんやねんこの状況! とツッコみたいのを、手伝いに来ていた七音はぐっと堪えている。
     自分も巨大なラジカセを担いだラッパーのような出で立ちだ。今ツッコんだら完全にノリツッコみになってしまう。
    「当店おススメトッピングですお客様」
     そんな中、イヴの行動は素早かった。どうやら、ボーイ達が食べるために置いてあるハンバーガーに激辛トッピングを施しているようだった。
     おかげさまでチームファットボーイも攻撃をためらってばかりいた。あんなにいた人数もだいぶ減り、ここまでくればもう灼滅者達の一方的な展開だ。
    「行くヨ、スターキッド!」
    「うん! りょうかいだよ、StripeGirl!」
     思いっきり飛び上がったファニーの後ろで、アンドリューはバベルブレイカーを構えた。
    「オーマイガッ!!」
     正義のジャスティスダイナミックと、激しい撃ち込みがボーイ達をなぎ倒す。
    「ロケンロー! あいあむじゃすてぃす!」
     ロックが極まり、ギターを歯でギュインギュイン言わせてから、そのままそのギターでボーイをぶん殴る司。
    「ヒュー! クーーール! イカすロックねー! シャケナベイビー!!」
     歓声を上げるひらりも、飛んだり跳ねたり踊ったり。ノリノリで激しく動き回りながらも、しっかりと声を音楽にのせて仲間たちへの支援も忘れない。
    「チィッ! やってられるか! おいブラザー! ズラかるぜ……はん?」
     堪らず逃げ出そうとしたボーイの手に、何か柔らかいものが当たる。
    「…………OK?」
     にこり、と清々しい笑顔でその手を掴んだ八重香が、間髪入れずにボーイに斬りかかる。
    「まったく、よい度胸じゃ」
     仕上げにバッチンと平手打ちもかまして、八重香は大きく息をついた。
    「畜生ッ! コーラだ! コーラが足りねぇッ!!」
    「少々お待ち下さいお客様! 今コーラをキンキンに冷やしておりますので、お客様もぜひご一緒に!」
     店内をドタバタ走り回るボーイ達に合わせてローラースケートを走らせ、咲夜は手の中で術式を練り上げる。
    「ファットボーイだかなんだか知らないけど、さっさと帰ってママのローファットミルクでも貰いな!」
     解き放たれた魔力が、残っていたボーイ達の体を凍り付かせていく。
    「オー、ノー……ッ」
     騒がしかった店内が、しんと静まった。
     チームファットボーイ、解散の瞬間である。


     アメリカンヤンキー・チームファットボーイへと変貌を遂げ、ヘンテコになっていた客達は、気を失っているものの、元の姿へと戻っていった。
     目が覚めるまで彼らをこのまま静かに休ませてあげようと、灼滅者達は静かに荒れた店内の掃除を始める。
    「……気休め程度だな。けどまあ、後は何とかなる……か?」
     店内を見渡して、雷歌は微妙な顔で笑った。やはりちょっと派手にやり過ぎた感が否めない。けどまあ、もっと大きな事件の発生を防げたのだ。このくらい、お天道様も笑って許してくれるはずである。
    「皆、お疲れさま。ゲルマンパワーも大概だったけど……本当に迷惑だよね」
    「ええ、まったくもって、その通りだと思います」
     僅かだが、皆の負った傷の治療に当たってくれているいろはの切実な呟きに、咲夜も大いに同意する。
     どうしてこう、ご当地怪人絡みっぽい事件はハタ迷惑なものばかりなのだろうか。いや、それでこそご当地怪人と言うべきなのか。
    「アメリカのご当地幹部……ハッ! まさかアイツが日本に!?」
    「ねぇねぇFunny、せっかくだから、あまってるCokeとHamburgerたべようよ!」
     何となく、ただ言ってみたかったセリフをノリノリで言うファニーの腕を引っ張って、アンドリューはテーブルの上を指差した。
     そこには、チームファットボーイが残したポテトにハンバーガー、コーラがまだ山積みになっている。
     無論、先ほどの抗争で駄目になっているものもあるが、無事なものもわりと残っているようで……。
    「んんん……ハンバーガー美味しそう……ああ、でもでもピザも食べたい……!」
    「勿体無いでのう。少し貰って帰るとするか」
     指を咥えて眺め、葛藤するひらりの横で、八重香は無事なポテトやハンバーガーをせっせとタッパーに詰め込んでいる。
     まあ、このくらいも、お天道様は笑って許してくれるはずである。たぶん。
    「さて、と、このまま解散も味気ないですし、皆で遊びにGOデース! いかがですか?」
     パンクなミニスカートをひらひら揺らして、司は皆に向き直って笑ってみせた。
     せっかく皆でアメリカンにおめかししているのだ。これで終わりは少しもったいない。
    「わーい! さんせーい! あっ、でもその前に……ねぇねぇコロちゃん! みんなも! こっち向いて!」
    「んあ?」
     深愛が構えた携帯電話のカメラが、カシャ、と小気味よい音を立てた。
     画面の中に、アメリカンでナイスなヤングの灼滅者達が映し出される。
     いろいろ大変なこともあったけれど、事件も無事に解決できた。これはこれで良い思い出になることだろう。

    作者:海あゆめ 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2014年3月20日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 2/感動した 1/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 2
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