集団クラスチェンジ

    作者:叶エイジャ

    ●某所、ファーストフード店にて
    「タリーなぁ」
    「あとでゲーセン行くか」
     店の中は喧騒に包まれている。注文と店員の応答、話し声、陽気なBGM。
     店内の一角を占拠してるのは、ジーンズに、着崩した服の若者たち。だらしなーく座り、マナーもなく我が家のようにくつろいでいる様子は、素行の悪そうな集団に見える。だがあまりに人数が多いうえ、明らかな迷惑行為でもしていなければ、店員とて忙しい時間帯に注意などできはしない。
    「あとでゲーセン行くか」
    「タリーなぁ」
     そんな感じで集団が、運ばれてきたハンバーガーやコーラを食べていた時だった。
    「ショウガイッ!?」
    「ゲンエキッ!?」
     突然、意味不明な奇鳴とともに不良たちが苦しみ出した。どころか、全く関係のない、ジーンズをはいた別の若者たちも倒れていく。
    「お、お客様?」
     突然の事態に騒然となった店内。店員が恐る恐る声を掛けた時――倒れていた者がゆっくりと起き上がる。だが本当の恐怖はこれからだった。
     パチ……パチ……パチン。
     静まった店内に響く音。それは徐々に大きくなっていく。
     起きあがった若者たちは異様だった。髪が金に染まり、目鼻立ちも欧米系に見える。少し前の映画に出てくる、アメリカンヤングのようだった。彼らは無言で、暴力的な視線を呆然とする者たちに向ける。
     パチ……パチ……パチン。
     指パッチンをしながら。
    『Hey』
    『Year!』
     のみならず、足を上げたりスキップしたりと、妙なステップをしながら暴れ出したではないか。
     恐慌をきたした客や店員が店から逃げ出し、開け放たれる扉。その扉をフィンガースナップとステップ移動を繰り返しながら、バーガー片手の異様な集団が、綺麗な隊列で出ていった。陽気なBGMは、おいてけぼり。
     暴れる集団に新たな悲鳴が上がった。
     その光景を、知る者が見れば瞬時に理解したであろう。
     彼らが全員、ヤンキー戦闘員と化していることに。

    「不良たちがヤンキーになる……時が来たようだな!」
     神崎・ヤマト(中学生エクスブレイン・dn0002)が灼滅者たちに告げた。ゲームの話ではない。ついでに進化でも退化でもない。
    「あるファーストフード店で、ジーンズを履いていた集団が突然強化一般人にされてしまった。かなりの人数だ」
     集団はもともと日本人だが、戦闘員となった時には、古き良きアメリカ若者となっているらしい。その全員が、周囲に被害をまき散らしながら新潟方面へと進行していくようだ。
    「新潟っていうと……」
     灼滅者たちの想像に、ヤマトも首肯する。
    「事件の起こる場所と時間は分かってる。お前たちは事件が起こり次第、解決を頼む」
    「そこまで分かってるなら、未然に防げないのか?」
    「いや、事件前に行動……そうだな、例えば被害に遭う一般人を事前に避難させても、予知とは違う場所で同様の事件が起こる」
     そうなっては対策も取れず、結局は被害が大きくなってしまう。行動は事件が起きてから、被害を最小限にして解決すること。この点だけは、注意しないといけない。
    「戦場は店のすぐ前の広場だ。店の中でやってもいいが、思うように立ち回りができない上に、店の被害が甚大だな」
     代わりに広場では十人ほどの一般人がいるが、灼滅者たちが先手を取れるので、避難はしやすい上、ポジショニングなどもスムーズに行える。
     敵は多い。全員強化一般人だが、その数は32人。
    「数の不利は正直、きついだろうな。だが強化一般人になった直後でやつらは不安定な状態だ。弱点がある」
     ヤンキー戦闘員は、攻撃しようとした相手が、自分達と同じヤンキーっぽい雰囲気を出すと、躊躇して攻撃を行わないことがある。
    「確率は約五割。だが、上手くいけば有利に戦闘を運べるぜ」
     服装や言動などを、それっぽくしているといいだろう。
     ただしアメリカ文化について悪口を言ってしまったら、二度と攻撃をためらうことはないだろう。
    「ハンバーガーにジーンズ、どうにもアメリカンだな。犯人が誰だか知らないが、間違いないのはかなり強力なダークネスの仕業だ」
     だから、気をつけてくれよ。ヤマトはそう締めくくった。


    参加者
    墨沢・由希奈(墨染直路・d01252)
    結島・静菜(清濁のそよぎ・d02781)
    洲宮・静流(蛟竜雲雨・d03096)
    射干玉・闇夜(高校生ファイアブラッド・d06208)
    黒岩・いちご(ないしょのアーティスト・d10643)
    秋山・清美(お茶汲み委員長・d15451)
    狩生・光臣(天樂ヴァリゼ・d17309)

    ■リプレイ


     小腹が空いて何か食べたいと思う時刻。ファーストフード店には大勢の人がいた。店からは焼き立ての肉と、からりと揚げたポテト、それに温かいチーズの匂い。
     店前の広場は平穏な空気に包まれている……はずだった。行きかう人々は、広場で待機する灼滅者たちを横目にしながら、通り過ぎていく。
    「ファーストフードで急にアメリカンになるなんて」
     今回の敵は突如ヤンキー戦闘員と化した若者たちだ。ファストなだけに早変わりでしょうか――そう言葉を発したのはエクスティーヌ・エスポワール(銀将・d20053)。普段は和風お嬢様然とした彼女だが、実は庶民派。チーズバーガーが好きで……
     今、フラガール姿で店を見つめている。
    「不良がアメリカンか。多国籍というか無国籍な感じだな」
     洲宮・静流(蛟竜雲雨・d03096)の双眸は、サングラスに隠れ窺えない。ジーンズに、背に水龍の刺繍されたジャケットを着ていた。引き結んだ口元は、硬派な不良を思わせる。
     そんな彼がフラガールの横にドン。更に近くには、
    「ヤンキーで、戦闘員」
     身体を包むハクトウワシのタオルから、生足をのぞかせた墨沢・由希奈(墨染直路・d01252)がいる。隣はカウガール姿の黒岩・いちご(ないしょのアーティスト・d10643)だ。
    「ステレオタイプで、ご当地怪人っぽいですねぇ」
    「そう? ご当地怪人のセンスってよく分からないかも」
     微笑もうとした由希奈は、いちごのビハインド、アリカを見て止めた。主と揃いのカウガール姿のアリカは、さりげなく二人の間に入り主に寄り添う。しっしとばかり揺れるアフォ毛に、由希奈の表情が僅かに硬くなった。
    「どうしたの?」
    「ううん……迷惑だから、止めようね」
     由希奈の言葉はヤンキー戦闘員に対して。だが不思議と、別の意味にも聞こえる。
    「新潟に向かうんなら戦力を削ぐ意味でも、此処で止めないとな」
     ロシア勢力と今回の事件が無関係とは思えない。狩生・光臣(天樂ヴァリゼ・d17309)は厳しい表情――しかし足先がリズムを刻んでいた。そんな彼に秋山・清美(お茶汲み委員長・d15451)が声を掛ける。
    「ヘイ光臣サン! 気合入ってマスネ!」
    「ナノ!」
    「……その件については断固ツッコむぞ」
     ハットを被って嬉しそうなナノナノ、サムワイズを連れた清美の姿は、エプロンドレスにメイクでそばかすをつけている。アメリカの野暮ったい女の子といったところか。
     ちなみに清美はエセ外国人口調を自らに強いている。気合が尋常でない。
     かくいう光臣も、カウボーイ姿なのだが。
    「けっこう、凝ってるんだな」
    「そうですね。みなさんやる気満々です」
    「いや、俺が言ったのは……」
     言葉を濁す射干玉・闇夜(高校生ファイアブラッド・d06208)に、結島・静菜(清濁のそよぎ・d02781)が首を傾げる。その顔にはアメリカ国旗のフェイスペイント。カラフルに染まったサイドテールが揺れている。国旗の星を意識したのか、星型のビーズで彩っていた。腰のスカーフも星柄だし、服もスプレーでダーティなヤンキー仕様である。
     外見は大人しげだったのだが――静菜は直情的というか、とことんやる性分のようだ。
    「俺も普通にヤンキーっぽいはずなんだが」
     ダメージ加工のジーンズやジャケット、物々しいチェーンアクセと、闇夜もヤンキーファッション度は高い。
     が、いかんせん女性陣(一人男性だが)の振れ幅が大きい。一体何の集団なのか、イベントでもあったかと一般人が見やり、やがてバベルの鎖の効果か何事もなかったように歩みを再開する。
     その歩みを止めたのは、店から響き渡った悲鳴だ。
     店からは客も店員も関係なく飛び出てくる。事情を知らぬ物はすわ何事かと、広場は一瞬騒然となった。静流が低く呟いた。
    「現れたな」
     パチ、パチ、パチンッ。
     小気味良いフィンガースナップを響かせ、独特かつ規則的なステップで現れたのは古き良き欧米系の若者、三十二名のヤンキー戦闘員たち。
     現れた集団は灼滅者たちを認め、止った。灼滅者たちを敵と認識し、そして――


    「ヒューッ!」
     ――思わず喝采を上げていた。
     人は見た目から――どうやら灼滅者たちが発するアメリカンな気配は、好印象のようだ。
    「まだ店に近いな。中央まで誘導するぜ」
     闇夜が提げた機材からロックンロールの音を流す。ゆっくり後退する灼滅者たちにヤンキー達は顔を見合わせ、やがて先頭に立つリーダー格がアゴをしゃくった。途端、小集団に別れ灼滅者たちを囲もうとする。静菜が殺界形成を放つが、一般人の足取りはやや遅い。
    「まずいね――みんな逃げて!」
    「皆サン、この人たちは札付きの不良デス。危険ですから逃げてくだサイ」
     いちごがテレパスを送り、清美も警告を発する。タイミングを合わせて静流が王者の風を巻き起こした。無気力になった者は警告に従い、先のESPも合わせ、一般人は我先へと逃げていく。
     広場に残ったのは八人とそれを囲む三十二人だ。
    「Go!」
     アメリカンな奇声を上げて、ヤンキーが襲いかかってきた。静流はサングラスを正し、ゆっくりと前に出、構える。
    「俺と、殺りあうか?」
     短く静かな声。だが一喝されたかのように敵は止まった。上位者は声高に叫ばず。静流の姿はヤンキーと大差ないが、ヤンキー戦闘員たちに明らかな格の差を見せつけてるようだった。まだ吹く王者の風も雰囲気として、一役買っているかもしれない。圧力に耐え殴りかかってくるヤンキーは、少ない。力任せに叩きつけてくる拳を、静流は危なげなく避け――生じた隙へと、波濤の如き力を流し込む。
     直後振るった手は、周囲を敵ごと氷獄に変えた。過冷却に霜が生じて、陽光に煌めく。返り討ちにあった仲間に、ヤンキーたちが動揺の声を上げた。
    「シット!」
     戦闘員は指を鳴らしとステップで統制をとろうとする。そのリズムに合わせ、ギターの旋律が広場を彩った。演奏者は、いちごだ。
    「私たちのセッション、行きますよー♪」
     いちごは注目を集めたところで、弦を繰る速度を僅かに速めた。戦闘員が慌てて指を鳴らす速度を合わせる。即興ながら卓越した技巧が、リズムの主導権を奪っていった。いちごは隣に立つアリカと同時に構えた銃に合わせ、音の衝撃波を放つ。
    「私も、奏でますね」
     エクスティーヌがウクレレを取り出し、曲に合わせる。敵が敵なら、こちらも古き良きアメリカンミュージカル調で勝負。旋律に、由希奈が意を決した顔となった。
    「無粋な相手だけど……せめてこっちは小粋に決めないとね」
     空に舞うハクトウワシ――柄のタオル。
     右胸に煌めくのは星。左胸を走るは赤と白の縞。すなわち星条旗だ。更に下はジーンズ地という、由希奈も際どいと認めるデザインのビキニだ。パレオはない。
    「うぅ、恥ずかしいよぉ……」
     着用者は自由と開放的、そして大胆な女性とされるこのビキニだが、由希奈はなんとも慎ましやかに顔を赤くし、歌っていた。ギャップというか、先祖譲りの青い瞳も含め、一種の和洋折衷が成立している。着用を勧めた者は、そこまで計算していたのだろうか?
     ヤンキー達が好色な口笛を連発した。ニヤついて仲間の肩を叩いている。万国共通のやらしー感情か。幾人かが星条旗よ翻れと特攻野郎と化すが、そこに行進曲とともに、二つの影が立ちはだかる。


    「ハイ! お触りはご法度デース」
     清美とナノナノだった。清美が歌うのはアメリカで愛国心の象徴とされる行進曲。あまりにアメリカンな直球に、ヤンキーたちは即座に胸に手をあてた。そして口を開く。歌うつもりか――と思いきや、口パク。抗うヤンキー数名が騒いだ。
    「ヘイ、シーイズノットボイン!」
    「オゥ……マジで?」
    「ああ、ノーアメリカンサイズ――ハッ!?」
     半ば素で会話していたヤンキーが、閃いた拳にKO。怯える別のヤンキーの視線の先に、にっこりと笑う清美がいた。
     アメリカ風に言うとデヴィルキヨミ。
    「アメリカでセクハラは即裁判デース!」
     ついでに問答無用で私刑判決だ。再びの閃光に沈むヤンキー。でも清美の心もKO。
    「サム、もうみんなやっつけちゃって!」
    「ナノ!」
     サムワイズが元気良く声を上げた――その時。
    「サム?」
    「サムだと?」
     ヤンキーが我先に集まってくる。囲まれたサムワイズは不安げにヤンキー達を見上げた。
     小さな体が掴まれ宙を舞う。
    「ナ、ナノー!?」
    『サム!』
    『サム!』
    「ナノー!?」
     何のどこが琴線に触れたのか。群がったヤンキーたちに胴上げされていた。ナノナノは困惑してされるがまま。
    「……仮に、僕の名前がサミュエルならやっぱり胴上げされるのか?」
    「その流れだと、私がサマンサで同じ現象が起こりそうですね」
     光臣の疑問に、静菜が呟く。謎かつ微妙に微笑ましい現象だが、まだ敵数の多い現状ではチャンスだ。
    「つーかアイツら、さっき口パクしてたな。さっきの行進曲もこの曲も、今日の為に一生懸命覚えてきたのに!」
     曲は次の演目に入っていた。こちらは軍歌の作詞を女性が務めたという、愛国賛歌である。
     カウボーイ姿で力強く歌う光臣。その腕のデモノイドがガンマンよろしく変形し、口径は砲台並みのリボルバーを生み出す。
    「よう兄弟達、約束の地で栄光となろうか!」
     歌にも負けず、カウボーイ姿にも負けずに突貫してきたヤンキーたちへ、砲身と化した光臣の腕を跳ね上がる。放たれるは毒の光線。派手な爆発こそないが曲と相まって、南北の争いで大砲に蹂躙される兵士たちに見えなくもない。
    「パソコンは女性である」
     日本語訳で歌っていた静菜はそう切り出した。その身が沈み、頭上をヤンキーの蹴り足が通過していく。しゃがみ込んだ静菜が旋回し、回し蹴りに足を刈られたヤンキーが綺麗にひっくり返った。立ち上がった静菜が続けるのは、アメリカンジョークだ。
    「どんな小さなミスもいつまでも記憶し、すぐに親(開発元)に報告する――そしてあなたは固まって下さい」
     伸ばした腕の縛霊手が祭壇を――何故かどぎつい国旗カラーだったが――展開した。紡ぎだされた結界式がヤンキーを捕捉し、縛鎖となって自由を奪っていく。
    「人生において守るべきことは二つ。一つは、大事なことは他人に全部教えない事、です」
    『もう一つは?』
    「……」
     意味を理解できなかった哀れなヤンキーを裏拳で黙らせ、静菜は駆けた。腰の星条旗模様が翻る。ヤンキーの鼻柱に、高くなった分だけ元に戻すかのように拳を叩きつける。
     手加減攻撃なので舞ったのはきっと、トマトケチャップに違いない。
     アメリカンジョークはエクスティーヌも言いたかったらしい。ウクレレ片手に歌っていた彼女は振るった蛇腹剣の刀身を分割させ、まだ胴上げするヤンキー群へ攻撃。そしてバスケットボールを取り出した。
    「トムが言った『ジョン、ボールの扱いが雑だ。ボールは友達のように扱えよ』」
     手近なヤンキーにパスすると、彼女は続けた。
    「ジョンは頷いた『ああ。だからいつもお前だと思って扱っているんだけどな』――どうですかっ?」
     目を輝かせ、期待の眼差しのエクスティーヌ。ボールを受け取ったヤンキーは、困惑した表情。やがて彼女の目が潤んできたのを見て天を仰いだ。
    「……ダメですか?」
    「ソーリー。バット――」
    「シッティングシルバー・ビーム!」
    「アバー!?」
     腰掛け銀の力がビームとなって、ヤンキーを貫いた。転がったボールは彼女の手に戻る。
    「持久戦模様――予想はしてました。根気強くいきましょう」
     そして新手のヤンキーを見据えた。
    「トムが言った『ジョン――」
    「エ、エンドレス!?」
     慌てて逃げ出すヤンキーたちを、小脇にウクレレ抱えたフラガールが、ドリブルしながら追いかけ回す光景。
     登録、なるか。

     そのような調子で、灼滅者たちはヤンキー戦闘員の数を減らしていった。
     サーヴァントも含めた全員がアメリカンを意識したため、被害はかなり抑えられた形で進行した。誰もが知る歌曲を合唱で使ったのも効果が高い。
     そして今、最後の一騎打ちが始まろうとしている。
    「この人数差を超えるか、やるな」
    「日本語喋れるのか」
     リーダー格のヤンキーと闇夜が、言葉を交わす。ヤンキーはバーガーを取り出し頬張った。
    「勉強したからな。ジャパニーズなんてふごふぁごふごふぁが――っはぁ、やっぱうめえなバーガーは!」
    「……」
     いやお前元は日本人だろとか、頬張りながら喋るなよとか、最後まで言えよとか、諸々湧いた感情を押し殺し、闇夜は疾った。眼前へと迫るストレートを縛霊手でガード。その隙に放つ闇夜の蹴りは、しかし余裕を持って防がれる。リーダーなだけに手強い。
     だが、致命的な弱点を持っていた。
     互いの拳と縛霊手が交差した瞬間、闇夜が告げる。
    「お前の敗因は、そのバーガーだ」
    「てめぇ、アメリカ文化を馬鹿にするかよ」
     ヤンキーの激昂に、闇夜はしかし首を振った。
    「そのバーガーも元は日本製。やっぱ本場アメリカのじゃなきゃ、ダメだろ?」
    「――確かに!」
     思わず頷いたヤンキーが、次に迫る一撃に目を剥いた。
    「終わりだ!」
     斧に宿りしレーヴァテインがヤンキーを焼き、そして消える。
     後に残ったのは、横たわる一般人だけだった。

    「み、見ないでぇっ」
     歌っている時や戦闘中は忘れていたのだろう。由希奈が我に返った途端赤面ししゃがみ込む。いちごはその意図を察し――というか意識していたこともあり――目を逸らした。アリカの頭を撫でて労う。
    「ありがとう。怪我はない?」
     しかしその気遣いに、アリカがこっそり、由希奈へ優越感のこもった微笑を向ける。由希奈の顔に羞恥とは別の朱が昇るが、さりとて構ってと言えるわけもなく。
    「ナノォ~」
    「ふふ、お疲れ様でした」
     もみくちゃにされ、半泣きのナノナノを撫でる清美。静流がサングラスをとり、長い息を吐いた。
    「どうにかなったな。ヤンキーはあまり知らないから、誤魔化せるか心配だった」
     純和風な環境で育った静流は、能などの舞台芸能を頼りに、イメージしたヤンキーになり切ったのかもしれない。
    「いろいろ歌ったな……で、少しお腹が空いたかな」
     熱唱していた光臣。ポッケからキャンディを出しつつ、視線は近くの店を探し始めている。近くに店はあるのだが、人払いのせいで中には誰もいない。やがて人も戻ってくるだろう。それまで待つか否か。
    「俺はエビバーガーが食べたい」
    「うーん、今バーガーはちょっと」
     闇夜の言葉に苦笑するエクスティーヌ。さっきまで豪快に食べているのを目にしていだだけに、気持ちは微妙のようだ。
    「食い意地じゃないけど――私も何か食べたいかな」
     由希奈にタオルを掛ける静菜。周囲には食欲をくすぐる香りが漂っている。
     不意に覚えた空腹感。できればどうにかしたかった。

    作者:叶エイジャ 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2014年3月20日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 1/感動した 0/素敵だった 2/キャラが大事にされていた 3
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