襲来! アフリカの紅い翼

    作者:泰月

    ●赤を貪る紅
     竹崎カニと言うカニがある。
     佐賀県の最南部、有明海の竹崎地区を中心に水揚げされるガザミ――ワタリガニの事だ。
     古くから食べられている、佐賀の特産品である。
     そんな竹崎カニを食べられる食堂に、窓を突き破って何かが侵入してきた。
    「クヮクヮクヮ! 見つけタ。これがキュウシュウの竹崎カニだナ」
     侵入者の頭部は、薄紅の羽毛に覆われ黒い嘴が生えている。
     背中にも大きな薄紅の翼を纏って何故か片足立ちのその姿は、動物園で見るとある鳥を連想させる。
     謎の侵入者はテーブルの上にあった竹崎カニを咥えた。
    「中々美味イ。赤さと言イ、オレに相応しイご当地パワーを感じるゼ……」
     そのまま黒い嘴で、バリバリと赤い甲羅ごと貪り出す。
     何故か片足立ちのままで。
    「アフリカンパンサー様に従い、ガーナからカカオと共に来日しタ甲斐がアッタ」
     まあ随分と遠くから来ちゃったものだ。
    「コノ地のカニとガイアパワーはこの俺、フラミンゴ竹崎カニ怪人が食い尽くシテやるゼ!」
     逃げ出す人々には構わず、声高に宣言する怪人。
     その片手は、いつの間にか真っ赤なカニ爪になっていた。

    ●フラミンゴの赤はエビやカニを食べてるからと言う説もある
    「新手のダークネスが現れるのが判ったわ」
     そう切り出した夏月・柊子(中学生エクスブレイン・dn0090)に、集まった灼滅者達が首を傾げる。
     新手とは一体。
    「ええとね……アフリカのご当地怪人みたいなの」
     ……。
     一瞬、何とも言えない沈黙が降りる。
    「私が見つけたのは、フラミンゴ竹崎カニ怪人よ」
     ……。
     何とも言えない沈黙パート2。
     どっちだ。フラミンゴなのか、カニなのか、どっちなんだ。
    「フラミンゴの怪人……だったんだけど、竹崎カニって言う佐賀県特産のカニと合体したみたい」
     どうしてそうなったかって言うと、カニを食べてご当地パワーを吸収した結果らしい。
    「合体は自分の力を高める為だけ。放っておいたら、竹崎カニはこいつに食い尽くされるわ」
     ゲルマン化やロシアン化よりも性質が悪い、と言えるかもしれない。
     敵の名前はともかく、中身は深刻な事件である。
    「フラミンゴ竹崎カニ怪人が現れるのは、有明海近くの港町の食堂よ」
     押し入った怪人は店中の竹崎カニを貪り始める。
     現場に着けるのは、それからしばらく経っての事。
     幸い、逃げる人々に怪人が興味を示す事はないので怪我人が出る事はない。
    「戦うのは店に踏み込んでも良いし、店の前で待ち伏せて外でも良いわ。時間を置いても、敵の強さは変わらないから」
     店の中は教室とほぼ同じくらい。
     狭いと言う程ではないが、広いとも言えない。ただ、人払いは楽だろう。
     外であれば広さは充分だが、そこは普通の通り。人が通りかかる可能性がないとは言い切れない。
    「敵の戦い方だけど、ご当地ビームは使わないわ。変わりに、炎を使って来るけど」
     はい?
     何故に炎?
    「多分、フラミンゴって名前は、ラテン語の炎を意味する単語が由来とされているからね。あと、片手がカニの爪になってるのと……片足立ちする癖があるわ」
     癖と言うだけあって片足立ちには慣れているが、それでも軸足が一本と言うのは隙になるかもしれない。
    「何で急にアフリカの怪人が現れたのかは判らないけど、ご当地名物の略奪は見過ごせないわ。被害が拡大しない内に倒して来て。それじゃ、気をつけて行ってらっしゃい」


    参加者
    葉山・愛梨(緑一色・d00558)
    犬祀・美紗緒(犬神祀る巫女・d18139)
    相葉・夢乃(幼きトロイメライ・d18250)
    夜桜・紅桜(純粋な殲滅者・d19716)
    雀居・友陽(フィードバック・d23550)
    干潟・明海(有明エイリアン・d23846)
    武藤・雪緒(道化の舞・d24557)
    ザフィアト・シェセプ(幽世のアメンヘテプ・d24676)

    ■リプレイ


    「んじゃ、準備おっけー?」
    「ああ。逃げ遅れた人もいないようだ。始めていいんじゃねえか?」
     雀居・友陽(フィードバック・d23550)の問いかけに、周囲の様子を見ていたザフィアト・シェセプ(幽世のアメンヘテプ・d24676)が頷く。
     犬祀・美紗緒(犬神祀る巫女・d18139)の放った殺気によって、近辺の人通りはすっかり途絶えていた。
    「戦う前にガイアチャージといきたいとこだけど、今回は我慢だね」
    (「 敵を倒すのに来たのであって遊びに来たんじゃないからね!」)
     葉山・愛梨(緑一色・d00558)の背中に佐賀県のガイドブックが隠されている事は内緒だ。
    「有明海の平和を乱すのは、この私が許しません! 変身! ワラスボガール!」
    「いくよっ、夜桜!」
     干潟・明海(有明エイリアン・d23846)や夜桜・紅桜(純粋な殲滅者・d19716)の声が響く。
     全員が戦闘準備を整えた所で、ガラッと勢い良く食堂の扉を開いた。
     先ず聞こえて来たのは、バリバリと何か硬いモノを砕く音。
     目に入って来たのは、薄紅色のシルエットと、カニの腕!
     無駄に片足立ちして誰かが頼んだ定食の竹崎カニだけを貪っている、フラミンゴ竹崎カニ怪人である。
    「うっわ、フラミンゴの分際でワタリガニ食べてるよ」
     まずは愛梨から先制の一言。
     しかし怪人、気にせずに次のカニの皿を取る。
    「安易に混ざった上に安直な名前にしやがって。フラミンゴに誇りはないのかカカオ豆臭いアフリカン野郎が!」
     続けて武藤・雪緒(道化の舞・d24557)も怪人を挑発に掛かる。
     店の外から怪人を挑発し、外に誘い出して戦う。それが灼滅者達のプランであった。
    「うルサいゾ」
    「やーい、羽根汚いー。赤色薄いー。ほとんど真っ白ー」
     雪緒の言葉にもこちらを見ようとしないので、今度は明海が少し方向性を変えてみる。
    「普段からカロチン摂ってるのに何その色、みったくない」
     愛梨も外見を突く方向で、再び挑発。
    「何なンダ。見タクないナラ見なケりゃイイダロ」
     三度目の正直。若干イラっとした様子で、片足立ちのまま器用に灼滅者達の方を振り向く怪人。
     みったくない、はカッコ悪いとかそんな意味の北海道弁なのだが、アフリカの怪人には通じてないようだ。
    「大体、食事中ハ静かニすルノがマナーだブフゥッッ!?」
     あ、吹いた。
    「ナナナ、ナんダお前ラ! イフリート? ジャッカル? それに……ナんダ?」
     怪人が驚愕に目を見開いて、人造灼滅者達を見る。
     西洋の物語に出てきそうな炎の魔人と言った風体の友陽。
     エジプトの壁画からアヌビスが出て来たかの様な獣人姿のザフィアト。
     有明海が誇る珍魚ワラスボが頭のワラスボ人間、つまりワラスボガールな明海。
     髑髏の頭にスライムっぽい何かなボディと、もう人間的な形ですらなくなってる雪緒。
     うん、見た目のインパクトは勝ってるんじゃないかな。
     どうしてこうなった。
    「やいフラカニィ! オメーのしてることはオカシイぞ! 力が手に入りゃご当地なんかどこだってイイってのか!」
     目を白黒させる怪人に、友陽が内面を突く形で挑発を重ねる。
    「佐賀って、カニの名産品……あったのですね。何となく、山のイメージがあったので……ちょっと意外……です」
     その後ろでは、相葉・夢乃(幼きトロイメライ・d18250)が感心した様にやり取りを見守っていた。
    「有明海は日本最大の干潟で、他の海とはちょっと違う感じだよ。特にこの辺りは干満の差が最大6mほどある地域なんだよ。月の引力が見える町って言うのも、潮の満ち干きからなの」
     この辺りが出身の美紗緒の口から、すらすらと出てくる有明海解説。
    「アフリカから、わざわざカニを食べに来られたのですね……。ご苦労様ですけど……独り占めはよくない、です」
     解説に頷いて、夢乃がそう言った直後。
     くぅと小さく音が鳴った。
    「……違いますよ? お腹は、鳴ってません」
    「うん、良くない。まあ、迷惑だよね。この前はチョコレートで巨大化して、今度は外国のご当地怪人なんて」
     恥ずかしそうに首を縮めた夢乃の仕草に小さく笑みを浮かべ、紅桜は話の矛先を怪人に戻した。
     と、その直後。
    「これだけ言っても食い続けるとは、随分と食い意地の張った下品な怪人だな。ボスであるアフリカンパンサーの器も知れるというもんだ」
    「貴様ラ……アフリカンパンサー様をブジョクするとドウなるか、このフラミンゴ竹崎カニ怪人が思い知らセてクレるワ!」
     ザフィアトの一言が決定打となり、ついに怪人が両足を付いて外に出て来た。
     戦いの火蓋が(やっと)切って落とされようとしていた。


    「行くよ、こま!」
     刃を咥えた霊犬を従え、自身も輝きを剣を構えて美紗緒が躍り出る。
    「燃えテしマエ!」
     しかし斬りつけるよりも早く、かぱっと開いた怪人の嘴から轟と猛る炎が放たれた。
    「クヮークヮクヮ! 直げ……ナニィ!?」
     騒がしく勝ち誇りかけた怪人だが、爆炎の中から飛び出して来た美紗緒の破邪の光を纏った刃に、斬魔の刃に連続で斬り付けられ、今度は驚愕に口を開く。
    「その程度で驚くのか? なら、もっと驚かせてやろう」
     笑みを浮かべた紅桜の展開した夜霧が、炎を消して何人かの姿を虚ろにぼかしていく。
    「どんどん行くよ!」
     雷気を纏った愛梨の拳が、嘴を打ち上げる。
    「んなコンセプトの定まってないゆるキャラ認めねーぞ! 焼却テイン!」
     頭から伸びる大量の管を揺らして、友陽が炎を纏わせた杭の一撃を横から叩き込む。
    「炎には……炎、です」
     更に、夢乃の放った爆炎の弾丸が追い討ちとなり、怪人を炎の中に飲み込んだ。
     既に戦いの音は遮断済み。派手に戦った所で、誰かに聞かれる心配もない。
    「この程度! ……ん?」
     バサバサと翼を鳴らし怪人が炎の中から出てきた所で、雪緒と目(?)が合った。
     バベルの鎖を集中させている為か、髑髏の眼窩の中がぼんやりと光っている。
    「……オイ、コッチ見んナ」
    「おい、ちょっと聞きたい。エジプトのご当地幹部というのを聞いたことはないか」
     若干引いた様子の怪人に、ザフィアトが問いかける。
    「お前ラの様なワケの判ラン奴らに答エると思うカ!」
     まあ直球で聞いた所で、怪人が答える筈もない。
     故郷の事なので気になりはしたが、ザフィアトだってさほど答えを期待した訳ではなかった。
    「そうか……まあ、どうあれ『病院』の敵には変わりない、灼滅してやるぞ。あと、お前が言うな」
     確かに、フラミンゴ+カニの爪の怪人だって充分ワケの判らん外見だ。
     思わず全員が頷く中、ザフィアトは試しに足元を狙ってサイキックを否定する魔力を放ってみた。
    「オ、オォ?」
     片足立ちの足を撃ち抜かれ、怪人の体が僅かにぐらつく。
    「その安定感のなさが、ご当地性の揺らいだ証拠! どっち付かずの身を恥じて下さい!」
     その隙を明海は見逃さなかった。
     ぶつかるつもりでワラスボな頭から勢い良く怪人の懐に飛び込む。
    「ワラスボ――ダイナミック!」
     抱えて跳び上がり――頭部のワラスボの尾でぬるっとはたきつつ、思いっきり地面に叩き付けた。


     注射針と縛霊手の爪に切り裂かれ、薄紅の羽毛が舞う。
    「背中がガラ空きダぞ!」
     軽い手応えに友陽と明海が外したと悟った次の瞬間には、背後から怪人のカニ腕が振り下ろされようとしていた。
     友陽に当たる寸前、白い影が飛び出してカニ爪を阻む。
    「こまっ!」
     カニ爪の一撃を受けた霊犬が地面に叩きつけられるが、美紗緒の声に応える様に素早く跳ね起きる。
    「くそっ……ちょこまかしやがって」
    「むぅ……カニ腕で片足立ちってバランス悪そうなのに」
     予測を上回る怪人の動きを捉えきれず、友陽と明海が悔しさを露わにする。
     片足立ちで余裕のありそうな顔の怪人が、余計に小憎らしい。
    「その程度カ?」
     逆に、怪人の攻撃は的確に灼滅者達を捉えて来ているのを、友陽の肩の傷から噴き出す炎が物語っている。
     出だしこそ優勢と思われたが、そうあっさりと勝たせてくれる相手ではないと、既に全員が感じていた。
    「こまの傷はどう?」
    「大丈夫、ボクが癒すから」
     紅桜の問いに答えた美紗緒の掌中で、オーラが癒しの力に変わり始める。
     それを見た紅桜は弓を構えると、少し考えてから、明海の背中へと癒しの力を持つ矢を放った。
     その矢は傷を癒すだけでなく、攻撃の感覚を研ぎ澄まさせる。
     更に効果を重ねれば、怪人の動きを容易に捉えられるようになるだろうが――癒し手は紅桜1人。
     どうしても支援よりも回復を優先せざるを得ないのが実情だ。
     だが、まだ勝機は充分に残っている。
     スライムボディと言う見た目を裏切る意外な機敏さで、雪緒が怪人の真後ろに回り込んだ。
     距離を取っている事も手伝って、怪人は気付いていない。
     スライムボディの中からうにょーっと出てきたのはライフルの銃身。
     その照準を、怪人の足元より少し上に合わせる。
     暗い想念を集めた漆黒の弾丸が、怪人の膝裏を直撃した。
    「ク、クヮァーッ!?」
     衝撃で大きく体勢を崩され、怪人の表情が一変する。
    「武藤ちゃん、ナイス! それローン!」
     麻雀用語を叫びながら飛び掛った愛梨が、避ける暇を与えずに怪人を押し込む形で投げた押した。
    「フラミンゴが、かっくんされてやんの。……怒った?」
     ここぞとばかりに怪人を挑発しながら、愛梨の視線はその向こうで、うにょーっと銃身をしまい込んでいる雪緒の姿を見ていた。
    (「……なんか視線を感じるね。怖がられてはいないみたいだけど」)
     その視線は、愛梨の小学生心が刺激されまくって気になってるが故なのだが、当の雪緒は液晶に『?』を浮かべるばかり。
    「こ、この!」
     バサッと跳ね起きた怪人が、再び口を大きく開く。
     また片足立ちだった。まあ、フラミンゴがそうだしね。
    「足元がお留守だぜ」
     距離を取っていたザフィアトが、そこを弱点と見て取り、今度は魔導書(の角)を怪人の膝裏に叩き込んだ。
    「クワァーッ!?」
    「かわいそう、ですけど……その羽毛、少しだけ……貰います」
     また体勢を崩した所に、鈴を転がしたような声がした。
     言葉とは裏腹に、夢乃の影は容赦なく怪人の薄紅の羽毛を斬り裂き、毟っていく。
    「クッ……ヨクも俺ノ羽毛を!」
     怪人の怒りに満ちた視線を受けて、夢乃の肩がビクリと跳ねた。


     燃やすのではなく凍らせる冷たい炎を操るザフィアトの姿は、まさに冥界の神アヌビスの様だ。
     低く放たれた炎が、怪人の膝から下を薄くだが凍らせる。
    「隙ありです、ワラスボキック!」
     それでバランスを崩した所に、明海が蹴りを叩き込んだ。
     片足立ちをすれば狙われる。
     そんな事は怪人だってとっくに気付いている。
     故に、片足立ちの頻度は戦闘開始時と比べ、明らかに減っていた。
     けれども。気をつけていても、うっかりやってしまうのが癖と言うものであり――灼滅者達はそこを逃さない。
    「ク、クそう!」
     バランスを持ち直した怪人が、嘴を開く。
     嘴の中に、炎が生まれるのと同時に、雪緒のスライム体からにょきっと生えたガトリングガン。
     嘴と銃口。同時に放たれた爆炎が空中に炎を咲かせる。
     奇怪な殲術道具の使い方だが、雪緒の命中精度は8人の中で最も優れていた。
     相殺の隙を逃さず、夢乃の影が地を這って伸びた。
    (「フラミンゴとカニが合体したら、味は……どうなるのでしょう」)
     膨れ上がった影が怪人に喰らい付いて、飲み込んで、覆い尽くすのを見ながら。夢乃がそんな事を思う。
     怪人を食べたいとは思わないけれど。
    「ハ、ハイエナ!? 何故コんナ所ニ!?」
     影の見せたトラウマは、アフリカの獣であったのか。
     影から抜け出してきた怪人の表情に、焦りの色が見え始めた。
    「ナゼだ……コノ竹崎カニのパワーを得た俺が、こんナ奴ラに……!」
     押されている現実を否定するかのように、真っ直ぐ振り下ろされるカニ爪の前に、美紗緒が割り込んだ。
    「ご当地への愛がないからだよ」
     鋭いカニ爪に斬られながらも、紫の瞳が怪人を見据える。
    「愛も無く竹崎ガニを貪っても、ただ力を貪る者になんて、ご当地のガイアパワーは味方する筈ないんだよ!」
     言い放つ後ろから、紅桜が歌声を響かせた。
     天使を思わせる歌声が空間に共鳴し、高く高く響いて美紗緒の傷を癒していく。霊犬も魂を癒す視線で支えていた。
    「竹崎ガニやこの町を愛し、誇りに思う人たちがいる。その思いを踏みにじり汚そうとするお前は、ここで滅びろ!」
     その言葉とともに、小さな拳が鬼を思わせる巨大な拳に変貌し、怪人を殴り飛ばした。
    「うん、ご当地愛って大事だよね。卓上の平和が荒らされたら、私だって怒るもん」
     趣味が高じて麻雀関係のご当地ヒーローとなった愛梨が頷きながら振るった光の刃が、真っ直ぐに怪人を斬り裂く。
    「言わセてオケば……自然界デハ弱肉強食ガ全てダ!」
    「だったら、てめぇを串刺しにして焼き鳥にしてやる!」
     踏みとどまった怪人の懐に、腕から炎を噴き上げた友陽が飛び込んだ。
     ジェット噴射の勢いを乗せて放たれた杭が、怪人のバベルの鎖の弱い所を貫く。
    「有明海の力を一身に集め、外来生物にご退場願います!」
     ふら付く怪人の背後に、ぬらりと明美が現れる。ワラスボな瞳がきらりと輝いた。
    「必殺! ワ・ラ・ス・ボ――ビィーム!」
     放たれたワラスボ色の光に貫かれ、怪人が倒れ伏す。
    「ク、クソ……コんナワケの判ラン奴らニ……アフリカンパンサー様ァァァァ!」
     己の仕える幹部の名を叫び、フラミンゴ竹崎カニ怪人は跡形もなく爆散した。

    「おーい」
     それが自分に向けられた呼び声だと美紗緒が気付くまで、少し時間を要した。
     声の方を向けば、なにやら手に荷物を持った仲間達。
     はて、と首を傾げる。
     張り切る明海の案内で観光に向かってから、まだ1時間も経っていない。
    「折角ですから、お昼は干潟を見ながら皆で食べる事にしました! 色々買ってきたんですよ、ワラスボ寿司とか!」
    「え、そっち? 竹崎カニよりそっちなの?」
     やっぱりワラスボな明海に思わず突っ込んだ雪緒のロングヘアが、海風に揺れる。
    「干潟、オレ、カニ食べたい」
     友陽が素直に欲求を主張する一方で、愛梨が無言で竹崎カニ定食セットを自分の方に引き寄せる。
    「私は……須古寿しが、いいです」
     小分けに区切り色とりどりの具を載せた郷土寿司に手を伸ばす夢乃。
     ぽかんとした美紗緒が何か言う前に準備は着々と進み、干潟を見渡せる場所で昼食タイムが始まった。

     そして――。
    「しかし最後までワケの判らんと言われたな……」
     あらかた食べ終えた所で、竹崎カニの爪を咥えてザフィアトが少し不服そうな顔をする。
    「それなんだけど」
     嬉野茶を一口飲んで、紅桜が声を上げた。
    「ボクら灼滅者だって言わなかったんじゃないかな?」
     紅桜の一言で、全員が記憶を遡る。
     ……。
     うん、言ってなかったですね。

    作者:泰月 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2014年3月20日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 3/キャラが大事にされていた 7
     あなたが購入した「複数ピンナップ(複数バトルピンナップ)」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
     シナリオの通常参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。
    ページトップへ