古い記憶の凶刃

     男は、ぼろきれのような汚れ傷んだ着物を纏っており、手には血に汚れ、刃こぼれしたむき身の刀を握っていた。
     体を動かすと鎖が擦れて耳障りな音を立てる。その鎖は男の体を幾重にも巻き付け、大地の奥深くへとつながっており、男を大地に縛り付けていた。
     古い伝承の中から呼び起こされた男はすぐに自分のすべきことを思い出し、口元をつり上げて残酷な笑みを浮かべる。
    「ずっと待ちわびた……はやく俺の元へと来い、真喜姫……」
     男はそう独語し、刀を強く握りしめながら夜の町を歩き出す。
     獲物を求めてさまよいだした男を、近くの民家の屋根の上から見下ろしているモノがいる。スサノオと呼ばれるその狼は、たなびく白い炎で覆われており、ときおり蝋燭の火のように赤みがかった色に染まりながら風にゆらめいていた。
     狂気の武士が夜道を進む姿を見届けると、スサノオは星空に咆吼を響かせ、余韻を震わせると、そのまま闇夜の中に姿を消した。

    「またスサノオが古の畏れを呼び起こし、事件を起こそうとしているんです」
     神立・ひさめ(小学生エクスブレイン・dn0135)はそう切り出すと、集まってくれた仲間達を1人1人見つめた。
    「福岡の郊外にある原町……原町とかいて『はるまち』と読むみたいですが、そこに坂の下地蔵尊というお地蔵様があるんです」
     ひさめは哀しそうな顔をしながら古く伝わる話を語った。
    「簡単にお話しすると、昔その土地の長者さん夫婦と3人の娘さんが居たそうなんです。その2番目の真喜姫さんという娘さんがある武士にしつこく求婚されていたらしいですが、長者さんは断り続けて結局隣町の家にお嫁に出したそうです。その武士は逆恨みして後日長者さんの家に押し入って、家族全員殺してしまい、さらにお母さんが急病だというウソの伝言を真喜姫さんに送って、慌てて駆けつけた真喜姫さんを細道で待ち構えて斬り殺してしまったそうなんです。そしてその土地の人達がかわいそうに思って供養のために建てたのが坂の下地蔵尊です」
     話し終わると目を閉じて間を置いたひさめは、くっと顔を上げた。
    「土地にずっと伝わっている話なんですが、その地に伝わっている記憶のなかの武士がスサノオによって呼び起こされ、女の人に無差別に襲いかかって斬り殺そうとするんです」
     用意していた地図を広げ、説明を続ける。
    「古の畏れはこの地蔵のあるところから現れて、斬りかかる女の人を求めて町の中を歩いています。時間は深夜0時過ぎではあるんですが、この道は住宅地に沿っている上に夜でも車も人も通る生活道路で、その場で戦うのは少し問題があるかも知れないです。武士は女の人を見つけると襲いかかるので、住宅地の奥ある小さな河原か、300メートルくらいかな、少し離れた小学校の校庭とかに誘導するといいかもしれないです。私よりはみなさんの方が戦う事にお詳しいので、そこはお任せします」
     そこまで言うと、ひさめは古の畏れの戦い方などを説明してゆく。
    「武士は刀で斬りかかって攻撃してきます。力任せですが、その分強力な攻撃みたいです。斬った相手の血をすすったり、気合いというのかな、そんな感じのモノを飛ばして遠くの人にも攻撃したりします」
     続けて細かい事を話し終えると、ひさめは深く頭を下げた。
    「スサノオが何を考えてこんな事をしているのかはわかりませんが、起こしてゆく事件を阻止していけば、必ずスサノオのところまでたどり着けると思います。どうか、スサノオの企みを阻止するために、みなさんの力を貸してください」


    参加者
    イオノ・アナスタシア(七星皇女・d00380)
    篁・凜(紅き煉獄の刃・d00970)
    九条・龍也(真紅の荒獅子・d01065)
    久瑠瀬・撫子(華蝶封月・d01168)
    姫宮・杠葉(月影の星想曲・d02707)
    御盾崎・力生(ホワイトイージス・d04166)
    逢見・黎(それが代役だとしても・d25449)
    午傍・猛(高校生ストリートファイター・d25499)

    ■リプレイ


     その道路は夜の遅い時間でも何台もの車が行き交い、そのたびにヘッドライトの明かりが生み出す影が伸びては縮み、浮き出しては闇に埋もれていた。
     そんな影のひとつが、異様な空気を纏っていた。夜の闇よりも濃い影は決して辺りに埋もれる事はなく、照らされれば影を伸ばして獲物を求めてさまよった。
     『それ』には名前がなかった。土地に長く伝わる民話の中で語り継がれていた『それ』の名は遙か昔に失われ、古の畏れとしてスサノオに呼び起こされた記憶の中にも残っていなかった。ただ武士としか呼ばれない、そんな哀れな存在だった。
     武士は薄汚れた着物を纏い、刃の欠けた抜き身の刀を握りしめながら道の片隅を歩いている。血走った目は左右にさまよい、身勝手な恋慕の情を押しつけている女性、真喜姫を探し求めている。彼女の家族全員を惨殺したその凶刃で、真喜姫の命を奪い自分だけのものにするためだ。
     そんな武士の前に、久瑠瀬・撫子(華蝶封月・d01168)はその身をさらすようにして行く手を塞いだ。
    「お……おぉ……真喜姫ぇ……」
     武士は震わせながら空いた手を伸ばす。その濁った瞳は、命を奪ってまで求めた相手の顔も見極める事もできず、前に立つ女性を真喜姫だと信じ込んで口元を歪ませた。
    「御侍様、お母様のお加減は!」
     撫子は事前に話し合っていた計画通りに真喜姫として振る舞い、演じて武士の注意を引く。
    「やっと……やっと見つけたぞ。さあ儂の元に来い、真喜姫」
     武士はそう誘いかける士に、撫子は首を振って拒絶した。
    「私は既に夫を持つ身。御侍様の物には成れませぬ」
    「……そこま儂を嫌うか……これだけ想うておるのに……」
     武士はうなだれ、そしてゆっくりと顔を上げる。その目には狂気が浮かび、刀を握る手に力が込められていく。
    「やはりこれしかないか……真喜姫、お前の父や姉妹の血を吸ったこの刀で果てるがいい。お前は儂のものだ、誰にも渡さんっ!」
     そう言い放つと、武士は走るように飛びかかりながら乱暴に刀を振り上げ、型もない粗雑な動きで刃を叩きつけた。
     その凶刃は、しかし、『真喜姫』は届かなかった。撫子の身を守るために控えていた御盾崎・力生(ホワイトイージス・d04166)が間に入って立ちはだかり、身を挺して受け止めていた。
    「真喜姫には手出しをさせんっ」
     護衛の者として振る舞う力生は、そう言い放って武士を押し戻し、間合いを空けた。
    「おのれ……邪魔するなっ!」
     そういって怒りにまかせて再び刀を振りかぶった武士は、はっとして身をよじり、午傍・猛(高校生ストリートファイター・d25499)の攻撃の手を回避した。
     避けられた事に舌打ちした猛は、気を取り直して撫子の前に身構える。
    「久瑠瀬の姐さんよぉ! 護衛は任せてくれよな!」
     武士は怒りに歯を食いしばり体を震わせながら、守られている『真喜姫』を睨みつける。
    「ゆるさんぞ……ゆるさんぞ、真喜姫ぇ!」
     狂ったように吠える武士の姿を見た囮役の3人は互いに頷いて、少し離れた小学校の校庭に待機している仲間達の元へと一斉に走り出した。怒りにおぼれた武士は、ただ感情のままに『真喜姫』を追いかけてゆく。

    「……さて、お姫様と悪い虫を待つとしようか」
     真っ赤なコートを身に纏った篁・凜(紅き煉獄の刃・d00970)は『斬魔・緋焔』の長い刀身を弄びながらつぶやいた。
     夜目に慣れた姫宮・杠葉(月影の星想曲・d02707)は辺りの視界を確かめて頷く。
    「これなら必要なさそうね」
     そう言ってヘッドライトをしまい込んだ。もしもの為にと凜と杠葉は照明を用意していたが、学校に沿って並んでいる街灯の明かりが夜の校庭を照らしており、戦うのに十分な明るさだった。
     戦う準備を整えて待っていると、道路を行き交う車の音に混じって誰かが走ってくる音と、獣のような叫びが聞こえてきた。
     逢見・黎(それが代役だとしても・d25449)は固定してあるバベルブレイカーに反対の手を添える。殲術病院から学園に来て初めての戦いとなるが、緊張するでもなく、落ち着いてその時を待っていた。
    「なかなかの強敵のようですね、相手にとって不足はありません。まぁ私は謙虚なので不足があっても一向に構いませんけど」
     イオノ・アナスタシア(七星皇女・d00380)はふふんと笑みを浮かべながら謙遜してみせた。
     その時、校庭の門を塞いでいる柵を猛達3人が跳び越えてきた。そして後を追う武士が柵の上に立つと、着地している撫子に襲いかかった。
     力生が庇おうと立ったその前に、九条・龍也(真紅の荒獅子・d01065)が立ちはだかり、日本刀を抜いた。龍也の『直刀・覇龍』を自分の刀で受け止めた武士は、刀越しに睨みつける。
    「わりぃなぁ。こっから先は通行止めなんだよ。あんたわ」
     不敵な笑みを浮かべている邪魔者に、武士は油断できない気迫を感じた。数歩下がって布陣を張る敵達に対峙し、身構える。緊迫する空気の中でゆっくりと刀を構えると、武士は狂ったような雄叫びを上げて襲ってきた。


     『真喜姫』へと向けて、棒でも振り回すように横なぎに斬りかかってくる武士を迎え撃ったのは、鬼神変で強化した杠葉の拳だった。膂力にあふれる一撃が武士の顔にめり込み、爆発的な衝撃で後方に仰け反った。どうにか倒れないですんだ武士は、血走って眼を相手に向ける。
    「執念は視野を狭める……言っても無駄だろうけどね」
     会話する価値もない外道と見切りをつけ、淡々と言い放つ杠葉の横を、撫子が駆け抜ける。体から沸き上がる炎を流れるような動きで弧を描く槍へと集約し、舞い散る花びらのようにたなびかせながら武士の方に突き刺した。
    「ぐおっ……真喜姫っ!」
    「御侍様! 何故このような事を、お父様やお母様は関係なかったのに!」
     未だ演じ続けながら、撫子は哀しげな眼差しを武士に向けた。
    「おのれ……しねぇっっ!」
     振りかぶった刀をななめに叩きつける。
    「……ここは僕が護らせてもらうよ」
     仲間を守るために控えていた黎が身を固めながら間に割って入り、身替わりとなってその一撃を受け止めた。
     左肩からななめに向けて激痛が走る。それでも耐えながら次の攻撃に備えて意識を集中した。
     龍也が自らの拳にチカラを集約する。体に纏ったオーラが雷へと変換し、握りしめた拳のまわりでバチバチと爆ぜる。
    「打ち抜く! 止めてみろ!」
     そう言い放つと武士の目の前でしゃがみ込み、バネのように跳び上がって武士の顎を打ちあげた。
    「ぐふっ」
     体が浮き上がって動きに隙ができた武士の背後に凜が素早く回り込んだ。仲間との連携を意識した動きで死角に入った彼女は、自らの刃を振るう。
    「彼女は永遠に君の物にはならない。これまでも、これからも、だ」
     鋭い刃が一閃し、武士の筋を斬り裂いた。
    「ぐっ……おのれぃっ!」
     下からすくい上げるように震った武士の刀が身を守る撫子の体を傷つけた。噴き出し、刀から腕にまで降り注いだ血飛沫を音を立てて舐めはじめる。
    「ふふふ、生き返るわい……もっとだ、もっとその血を飲ませろ、真喜姫」
     後方に下がって視野を広く取っているイオノは素早く状況を判断して回復のサイキックに意識を集中した。撫子の前に力場のシールドが現れ、傷を癒しながらその身を守る盾となった。
    「ロシアではメディックのことをブラチラと言います! つまり今の私は! スーパーブラチラタイム!」
     言い放つと同時にポーズを取るイオノ。後光のような輝きと効果音がついていそうな、それほど堂々とした姿だった。
    「こういう武器は、知らんだろう!」
     力生は腰だめにガトリングガンを身構える。そしてトリガースイッチを引き絞って回転する銃身から大量の弾丸を武士に浴びせた。
    「あいにく今は2014年。武士の世の中は終わったんでな」
    「っ……くぅ!?」
     嵐のように降り注ぐ弾丸に身を固めて防御している武士。そこに猛がたたみ掛ける。
    「これでも喰らいな!」
     そう叫びながら武士へと向かって体ごと飛び込む。同時に腕に装着したバベルブレイカーの噴射口から爆発的な推力を噴き出し、バベルの鎖の1番弱い死点に向けて巨大な杭を打ち込んだ。
     古の畏れとして呼び起こされた武士は強烈な衝撃で後方に飛ばされ、地面に転がる。だが、次の瞬間に体を起こし右手を前にかざした。鋭く息を吸うと裂帛の勢いで声を発する。
    「かあぁぁっ!」
     空気を圧縮したような衝撃波が撫子に襲いかかる。身を守るシールドを打ち壊し、ドスンと響く衝撃が全身に浸透する。
    「まだだ……お前を儂のものとするまで決して倒れぬぞ……真喜姫ぇっ!」
     ゆらりと起き上がった武士は刀を引きずる様にしながら地面を蹴り、身勝手な想いをぶつけるために刃を振り回しだした。


     横なぎに振り回す武士の刀が空を斬り裂き、前に立つ灼滅者達を斬り裂いてゆく。
    「……っ」
     何度も続く撫子中心の攻撃を身替わりに受け続けた黎は、とうとう膝をつき、ゆっくりと倒れていった。
     倒れた仲間を横目に見ながら、龍也は大きく息を吸い、裂帛の呼吸で力を発した。
    「まだだ!」
     声を発すると同時に体に刻まれた傷口が閉じ、体に絡みつく衣服を吹き飛ばした。まだ続く戦いを前に、龍也はさらに昂揚し、本心から楽しそうな笑みを浮かべている。
     同じようにびりびりになって体にまとわりつく衣服を自ら引き裂き、破り捨てながら、力生はチカラを集約した。
    「相手が誰かもわかっていない…そろそろ目を覚ましたらどうだ、この雷でも浴びてな!」
     その言葉と同時にかざした魔力の杖から雷撃が走り、武士の体を貫いた。
     聖なる光を仲間に浴びせて傷を順に癒していたイオノは、咄嗟にその光を仲間にではなく武士に照射する。癒しの輝きは裁きの光となって武士の体を焼き焦がした。
    「ぐっ……」
    「騙し合いは私の勝ちですね!」
     膝をついた武士だったが、すぐに立ち上がって刀を振り上げる。その動きは、しかし、突然硬直したように一瞬止まり、そして振り下ろした時には相手は身をかわしており、空を斬った。
    「奏でしは闇夜、織り成すは封縛が檻……凶刃に自由を与える道理はない」
     そう言い放つ杠葉の手には鋼糸が幾筋も伸びており、街灯の明かりにわずかに照らされながら武士の体を縛り付けていた。
     杠葉が締めつけながら頷いてみせると、タイミングを合わせた猛が体ごと体当たりするように武士に向かって突進する。絡みつく糸を振り払った武士の力を利用してその体を持ち上げた。
    「どぉーりゃー!!」
     叫びながら持ち上げた敵の体を空中で回転させ、頭を下にして地面に叩きつける。
     ゴキリ、という耳障りな音を響かせ、変な角度に首が曲がった武士の体を放り出して、猛は素早く後ろに下がった。
     苛烈な攻撃を立て続けに受けた武士は、地面に突き刺さったような体勢のまま動かない。灼滅したか、と言う空気が一瞬流れたその時、壊れたおもちゃのように不自然な動きで武士が起き上がった。
    「おおおおのののののれれれぃぃぃぃ……まぁぁきぃひぃめぇぇぇぇぇっ!」
     まともに歩けなかった脚でたどたどしく、それでもまっすぐに撫子の元へと近づいてゆく。そして、いきなり今までで1番素早い動きで踏み込み、渾身の力で刀を振り下ろした。
    「……ああぁっ!?」
     肩口から袈裟斬りに大きく斬り裂かれた撫子は、激痛に意識を失いそうになりながらも必死に耐え、まっすぐに立つ。黎にも守られ、できるだけ防御に徹していたが、すでに限界に近かった。
    「はぁっはぁっはぁっ……真喜姫……いまこそ……儂のものへとなれ……っ」
     武士が欠けた刃を今一度振り上げようとしたその時、炎を纏った凜が地面を蹴った。
    「紅蓮の炎よ、その妄執を……灼き砕けッ!!」
     翼のように広がった炎を手にした剣の刀身に集約し、燃える刃で今や名前も残されて無い武士の首を両断した。
     サイキックの炎はそのまま転がっている体と、地面に転がる武士の頭を燃やしてゆく。それでも、古の畏れとして呼び起こされた昔の武士の首は何かを求めて視線を泳がし、かすれてよく聞き取れない声で真喜姫の名を呼び続けた。
     撫子は傷ついた体を引きずる様に歩み寄ると、哀れな首の前でそっと言った。
    「もうお止め下さいませ。お武家様の要求には答えられません」
     その言葉が聞こえたのかどうかはわからなかったが、武士はぱくぱくと動かしていた口を閉じ、目を閉じるとそのまま炎に焼かれて崩れ、あとには真っ黒な粒子だけとなってそのまま霧散した。
     切り離された体の方も後を追うように焼き崩れ、古の畏れとして縛り付けていた鎖だけがあとに残る。そしてその鎖も、耳障りな金属音を響かせながら大地の中へと消えていった。


     凜は懐から一輪の花を取り出し、古の畏れが燃え尽きた跡に投げた。
    「君の最期に、花を。在るべき場所へ、帰りたまえ」
     そう言い残して真っ赤なコートを翻して仲間達の元へと歩いて行った。
     撫子はしばらくその場を見つめていたが、同じように踵を返して追いかける。
    「お疲れ様でした。如何でしたでしょう、私の演技は?」
    「それより傷は大丈夫かぃ、久瑠瀬の姐さん」
     猛は心配そうに問いかける。確かに傷は深かったが、癒しのサイキックを受けてかなり良くなってきてはいるようだった。
     攻撃を受けすぎて気を失っていた黎もすでに意識を取り戻し、体に残った痛みに怯みながらも自力で歩けるまでには回復している。
     全員が動けるようになったあと、スサノオの痕跡を調べるために坂の下地蔵尊へと向かったが、時間をかけて丹念に調べても何らかの手がかりになるようなものは何も残っていなかった。つまり、スサノオによる事件はまだ解決していないということだった。
     地蔵尊を前に、杠葉は口に出さないままで遙か昔に犠牲になった真喜姫やその家族達の冥福を祈ると立ち上がった。
    「こっちも痕跡は残ってないようだな」
     力生が地蔵尊の周辺を調べに行って戻ってきた。龍也はそれに肩をすくめてみせる。
    「まあしかたねぇな。そろそろ限界が来てるのもいるし、そろそろ帰ろうぜ」
     そう言ってイオノに目を向ける。同じようにして小さな仲間に視線が集まると、そこにはまぶたを重たそうにして壁に体を預けているイオノの姿があった。
    「おねむです……ポカポカお風呂に入ってあったかいおふとんで眠りましょう~」

     戦いが終わり、灼滅者達が立ち去っていた小学校の校舎の上に、白くたなびく炎のような何かが現れたしばらく戦いのあとを見つめていたそれは、そのまま音も立てずに身を翻し、たなびく白い炎の残滓を残して、夜の中へと姿を消していった。

    作者:ヤナガマコト 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2014年3月18日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 3/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 1
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