ヤンキーズ・フロム・ハンバーガーショップ

    作者:君島世界

    「うっ、うおっ! こ……ア……!」
     突然のことであった。とあるハンバーガーショップの、混雑した昼食時。ジーンズを着た若者がひとり、食べかけのハンバーガーと共にもんどりうって倒れたのだ。
     テーブルのコーラを盛大にひっくり返しながら、その若者は床に落ちた。苦しみだしたのは、その一人だけではない。連鎖反応のように、同じくジーンズを着用した若者たちが呻き、直後に意識を失う。
    「お客様! 大丈夫ですか! お客様!」
     カウンターを飛び出した店員が、若者たちの元へと駆け寄った。ジーンズ装備ではない別の客たちも、何事かとその場をうかがい始める。と、肩を揺さぶられた一人が、衆人環視の中でぱちりと目を開けた。
    「……パゥ!」
     若者が叫ぶと、天井の電灯が一つ、粉々に砕け散った。銃声らしきものも、その場にいた全員が耳にしている。若者は唖然とする店員を脇にどけ、『指鉄砲』の先をふっと吹いた。
     ――パチッ、パチッ、パチッ、パチッ――。
     同時に、周囲から指を鳴らす音が聞こえ始めた。見ると、さっきまで昏倒していたジーンズ姿の若者たちが立ち上がり、じっと前を見たままフィンガースナップを繰り返している。
     ただならぬ雰囲気を感じ、店員と他の客たちはじりじりと後ずさっていく。と、指鉄砲の若者が懐からコームを出し、気取ったしぐさで髪を撫で付けた。
    「――オーケー、エヴリバディ! ランボゥ(やっちまえ)!」
    「う、うわあああ!」
     号令と共に、若者たちがばらばらの方向に指鉄砲を突き出した。すると先の光景を見ていた者たちが、半ばパニックを起こしながら逃げ出し始める。
     自動ドアの殺到が一段落すると、変貌した若者たち……『ヤンキー戦闘員』が、いくつかの銃声と絶え間ない指鳴らしの音と共に、姿を現して――。
     
    「あの、みなさん……。あるハンバーガーショップで、ジーンズをはいてハンバーガーを食べたりコーラを飲んでいたりした一般の人が、いきなり『ヤンキー戦闘員』という強化人間にされてしまう事件が、発生しました……」
     園川・槙奈(高校生エクスブレイン・dn0053)は、いつものように遠慮がちな声色で話を始めた。灼滅者たちはそんな彼女の言葉を聞き漏らすまいと、エクスブレインの説明に耳を傾ける。
    「ジーンズにハンバーガー、私もよくお世話になるけど……っと、ゴメンね。続けて?」
     柿崎・泰若(高校生殺人鬼・dn0056)が先を促すと、槙奈は資料をぱらぱらとめくった。
    「あ、はい……。この事件でヤンキー戦闘員にされてしまった人たちは、『古き良きアメリカの若者』然とした雰囲気をまとうようになります……。彼らは徒党を組み、周囲に被害を与えながら、新潟方面に向かって移動していくことが判明しています。
     彼らが現れる場所と時間は予知で分かっていますので、みなさんは事件が起こり次第、その場ですみやかに解決してください……。事件が起こる前に、例えば人々を避難させるなどの対処を行いますと……、事件は発生せず、代わりに予知とは別の場所で事件が起きてしまい、結果として被害が大きくなってしまう危険が、ありますので……」
     ……お願いします、と槙奈は言葉を繋げる。
     
     この事件で現れるヤンキー戦闘員は、その数35体。そのどれもが、ガンナイフに似たサイキックを使うことができるようだ。彼らはアーケード商店街内のハンバーガーショップから出ると、周囲の店や建物に多大な損害を与えながら西へと向かう。カラースプレーで落書きをしたり、窓ガラスを割ったり、商品を盗んだりもするだろう。
     アーケードにいる一般人たちは、その光景を見るとほとんどは一目散に逃げ出す。正義感の強い、あるいは無鉄砲な者がヤンキー戦闘員たちを止めようとすることがあるかもしれないが、サイキックがなければ敵うはずもない。
     強化一般人とはいえ、ヤンキー戦闘員たちは数が多い。だが、彼らはまだ強化一般人として不完全な状態であるため、こちらも彼らと同じように若いアメリカ人のような言動をしたり、あるいはそのようなファッションに身を包むことで、ヤンキー戦闘員に攻撃をためらわせることができるようだ。
     全ての攻撃を、言動やファッションで止めるということはできないが、この性質をうまく使用すれば、かなり有利に戦うことが出来るだろう。
     
    「ヤンキー戦闘員を生み出しているのが、何者であるかはわかりませんが、強大な力を持つダークネスなのは間違いありません……。ただ、ハンバーガーとジーンズは、アメリカを象徴するものですから……、アメリカのご当地怪人、その幹部クラスのダークネスが関係しているかも、しれません……。
     それでは、灼滅者のみなさん。お怪我などありませんよう、気をつけて下さいね」


    参加者
    海野・歩(ちびっこ拳士・d00124)
    リズリット・モルゲンシュタイン(シスター・ザ・リッパー・d00401)
    水無月・弥咲(アウトサイダー・d01010)
    ツェツィーリア・マカロワ(唯我独奏ロコケストラ・d03888)
    大祓凶神・乙女(剣の花嫁・d05608)
    廻夜・時史(羽紡・d15141)
    柿崎・法子(それはよくあること・d17465)
    仲村渠・華(中学生ご当地ヒーロー・d25510)

    ■リプレイ

    ●ヤンキーズ・ハヴ・カム(ヤンキーたちが来ていました)
     事件発生まで残り数分。そのことを知る由もなく、アーケード街の人々はいつもどおりの日常の中にいた。買い物、昼食、暇つぶし――穏やかで代わり映えのしない光景の中に、その時、少々異質な風体の男女が姿を現した。
    「フフフ……は違うな。HUHUHU……こうか!」
    「さすが弥咲様。適応が速くていらっしゃるですことね」
     彼らの先頭を行くは、ジーンズ地のホットパンツとスターズ・アンド・ストライプスの三角ビキニという凶悪なコスチュームに身を包んだ、年頃の少女二名だ。水無月・弥咲(アウトサイダー・d01010)と大祓凶神・乙女(剣の花嫁・d05608)は、その上両名とも上着らしい上着はつけておらず、すれ違う男たちは自然と彼女たちに振り向いていた。
    「Oh、アメリカーンな衣装は人気だな。乙女もよく似合ってるぞ? このコーディネートは、私が特別にしつらえた物だからな!」
    「まあ弥咲様、それは嬉しいニュースですのね! あ、ただ……」
     少々寒いですかしら……と呟く乙女を、弥咲はにやりと笑って肩を抱き寄せた。そんな彼女たちの後ろでは、柿崎・法子(それはよくあること・d17465)と柿崎・泰若(高校生殺人鬼・dn0056)が横並びで歩いていた。
    「ジーンズは穿いた。服装もOK。指パッチンは……」
     指を鳴らそうとする法子は、いつもの服の上に皮ジャンを羽織り、ジーンズを穿いてアメリカンな雰囲気を演出している。指パッチンの方は、残念ながら手袋が邪魔をしてしまうようだ。
    「だめだ、上手くいかないや。けど、それっぽい格好だし、大丈夫だよね?」
    「ノープロブレム! ソレできないアメリカンなんてザラにいますyo、メイビ(多分)!」
     金髪ウィッグの下でサムズアップする泰若は、出発直後からこの調子だった。元々それっぽい服を愛用しているからか、演技に無理をしている感じはあまり無い。
    「……アメリカンの解釈は『人それぞれだよね』。うん、なんとかなるかなあ」
    「お、アメリカらしさの話か? ならば俺たちも負けてはいないはずだ……不本意ながらな」
     声を掛けてくるのは、黒サングラスにUSAと刺繍されたスタジャンを着こなしている廻夜・時史(羽紡・d15141)だ。らしい不良っぽさを目指したと言っていたが、はたして。
    「雨劉も良く似合ってるぞ、その星条旗柄のキラキラベスト――おい、なんで俺を睨む」
    「…………」
     霊犬の『雨劉』は、どうやら若干ご機嫌斜めな様子。もう一人の霊犬使いである海野・歩(ちびっこ拳士・d00124)は、愛犬の『ぽち』とおそろいの格好で、仲良く街を歩いていた。
    「ヤンキーだかアメリカンだか知らないけど、皆に迷惑かける悪いやつはおしおきなんだよっ!」
    「わん!」
     アメリカの野球チームのユニフォームと野球帽を身に着け、時々ガムを膨らませる歩。興味を引かれたぽちが飛び掛ってくるのをかわしていると、そんな少年の頭に手を乗せるものがいた。
    「歩君は野球少年か。でも、私の格好もかっこいいでしょ。どう、歩君?」
     と言うリズリット・モルゲンシュタイン(シスター・ザ・リッパー・d00401)は、『あからさまな』ウェスタンスタイルで身を固めている。加えて大きなカウボーイハットと持ち前の金髪とが合わさり、見た目には完全にアメリカンそのものだ。。
    「うん、かっこよくてだ~いすきっ♪ いつもとちがう格好のお姉ちゃんも、しんせんだね!」
    「うふふ、ありがと。ばーん!」
     リズリットが指を銃の形にして跳ね上げると、歩は楽しそうに倒れる真似をする。その肩を、仲村渠・華(中学生ご当地ヒーロー・d25510)がそっと後ろから支えた。
    「それにしてもみんな、それっぽくできてるよ! 沖縄で軍人さん見てきた華が言うんだから、間違いないさぁ!」
     満面の笑みで言った華は、ふと表情を引き締める。本当のアメリカ人を身近に知る彼女としては、この事件に思うところがあるらしい。
    「だからこそ、それを汚すような真似をする奴らは許せないよ!」
    「……やる気があるのは上等だな。俺の火線を跨ぐつもりなら、そうじゃないと」
     ツェツィーリア・マカロワ(唯我独奏ロコケストラ・d03888)が、既にガトリングガン『Серебряная буря』を肩に背負った風体で呟いた。黒いライダーズジャケットに星条旗バンダナで身を固め、ティアドロップサングラスから氷のように冷たい視線を覗かせる。
     その青い瞳が、ハンバーガーショップからあふれ出す人の流れを捉えた。一瞬で人ごみにかき消された銃声も、ツェツィーリアたちの耳は逃さない。
    「さあ、糞ヤンキー共が来るぞ! Kick their asses, bro!」
    「「「Yeah!」」」
     間もなくヤンキー戦闘員たちの狼藉にさらされる街中を、灼滅者たちは逆上がっていった。

    ●ヤンキーズ・ゴー・ウェスト(ヤンキーたちは西に行きます)
    「「「ビーレィッ(邪魔だ、どけ)!」」」
    「う、うわあああぁぁ!」
     右・左・左の三拍子ステップを踏み、唐突なY字バランスから方向転換する彼らは、一斉に懐から指鉄砲を取り出す。蜘蛛の子を散らすように逃げ出す一般人の背後に、見えない弾丸がいくつもの跡を刻みつけた。
     指鉄砲を上げキザに構えた戦闘員たちは、大きく空いたアーケードの道を進もうとする。その足取りが、途中で止まった。
    「HAHAHA……ワッザ(なんだ)!?」
     前方に現れた『同類』を見て、明らかに戸惑う戦闘員たち。勿論それは、ヤンキーの格好に身を包んだ灼滅者たちである!
    「何としてでも新潟には行かせないよ。ロシアンだけで十分だっていうのに!」
     腕を組み仁王立ちになった法子が、吹き付ける向かい風に革ジャンの裾をはためかせる。と、近くの商店から、髪を逆立てたパンク風の若者が飛び出してきた。
    「ヤロォ、ウチの商店街(シマ)でナメた真似するんじゃねーぞォ?」
    「あ、ちょっと! ここはボクたちに任せて!」
     その若者を、法子は何とか呼び止める。立ち止まった若者の正面を横切るように、するとツェツィーリアがガトリングガンを突き出した。
    「Cherry boyにゃ荷が重いだろうよ。ケツ振って逃げなベイビィ――Lock'n load!」
    「な……なんだそりゃあ?」
     信じられないものを見る視線に構わず、ツェツィーリアはトリガーを引く。鉄と硝薬とが燃える匂いを残して、即座に銃弾の群れが駆け出していった。
    「Yipee-yi-yay、この匂いだ! 灼ける匂いは勝利の香りだろ?」
    「おい、おい! そりゃあマジモンの銃か! 何やってんだよお前等!」
    「何でもない、『ただのヤンキーの抗争だよ!』」
     言っている間に、反撃の弾丸が幾つかこちらへと飛んできた。法子がWOKシールド『無骨な手袋』でそれらを防いでいると、若者はまろびながらも逃げ出して行く。
    「オウ、逃げる人が結構あっちこっちだネー。大丈夫カナー?」
    「泰若さん、殺界形成は一通り。そちらのフォローは、俺たちが行けるはずだ」
    「サンキュー! では、ハデに行きまshowカ!」
     同行する中学生殺人鬼の少年が告げると、泰若はガンナイフをくるくると回してからポイントする。集中し、一呼吸で六発を撃ち放つと、物陰にスライディングで滑り込んだ。
    「シュート、シュート! ビーハイヴ(蜂の巣)にしてやれ!」
     それらに対し、戦闘員たちは迷いがあるとはいえ反撃してくる。一斉射の弾痕が駆け上がってくる線上に、ポケットに片手を突っ込んだ時史が立ちふさがった。
    「やっと人目がなくなるか……。この格好でいるの、結構恥ずかしいんだからな!?」
     時史は踵を上げると、殺到する弾幕をその身一つで切り抜ける。擦過の煙を立てる縛霊手を、彼はそのまま高々と掲げた。
    「皆の背中は俺たちが守る……力を貸してくれ、雨劉!」
    「ワン、ワン!」
    「――あ、できれば吠えるときはWow wowにしてくれるか?」
    「Wow!」
     戦いとなれば、主従は抜群のコンビネーションを見せる。あっという間に、時史の負った傷が癒されていった。そして守護者の横から、華が鋭く切り込んでいく。
    「『琉・鳴・装!』 蒼き海の心が煌めく! クールドメール参上!」
     一瞬で着装を完了させた華は、敵陣にビシィと指を突きつけた。
    「アメリカって、いいよね! ビーチパーリーにはバーベキュー、チャンプルーにだってスパム……まさしく、沖縄とアメリカの絆の賜物さぁ!」
    「シュア(もちろん)! HA・HA・HA!」
     盛り上がる戦闘員たちを前に、クールドメール――華は、闘志を秘めて『琉鳴槍』を構えなおす。
    「その思いを、キミたちがバカにしてるんだぁっ!」
     ズォァアッ!
    「HA……アーウチ!」
     蒼の一閃が、だらしなく笑う一人の戦闘員を吹き飛ばした。ブラー効果つきで建物の壁に叩きつけられたその戦闘員の上方、二階の窓を、別の戦闘員が指を指す。
    「ルック(見て)! 二階の窓に、窓に!」
    「カブキか? ゲイシャか!?」
    「いや……カウガールだ!」
    「ざんねん、灼滅者なのよね!」
     いつの間にか高い所に登っていたリズリットである。彼女はそこから、躊躇なく飛び出した。
    「ゆー、えす、ええええぇぇぇぇいっ!」
     虚空に日本刀がきらめく。着地したリズリットが刀を収めると、キンという高音と共に、また一人の戦闘員が床にくずおれていった。
     ジャジャジャジャカッ!
    「ヘイガール、フリーズ(動くな)!」
    「フ……撃つつもりならそうしなさい。それでも、私のクイックドローの方が速いわよ」
     周囲から指鉄砲を向けられたリズリットは、刀の柄に手を添え見栄を切る。一触即発の鉄火場に、鼻歌を歌いながら、弥咲らビキニおんなたちが乱入した。
    「まあ待て待て。そいつはアメリカの敵じゃない。アメリカの敵はドイツもどこにもオランダ! なんつってなHAHAHA!」
     最初の攻撃はアメリカンジョーク――これがなぜか大ウケであった。
    「HAHA、ナイスジョーク! いつからここはジョークアヴェニューになったんだい?」
     などと、ノリの良い戦闘員がつられて笑う。思った以上の反応に気を良くして、さらに笑みを深める弥咲を、乙女が下から大きく手を広げた褒め称えのポーズで飾った。
    「キレッキレのアメリカンジョークなのだわ弥咲様! ――あ、ヤンキーに隙が」
     その姿勢のまま、乙女は振り向いて後ろの敵を見る。影業が、地を滑って彼を捕らえた。
    「弥咲様、今ですことよ!」
    「イェア! 重撃突破、クラーッシュ!」
     目をきらりと光らせた弥咲が、足止めされた敵を問答無用でなぎ倒していく。戦闘員たちは砂煙の向こうでオーウとかなんとか叫びながら、何人かが直立姿勢のままで射出された。
    「すっご~い! これが、アメリカンなんだねっ!」
     その光景を、キラキラした瞳の歩が見つめている。つい夢中になる少年を、傍らのぽちが短く鳴いて呼び戻した。
    「わうっ、わん!」
    「……っと、そうだね! えへへ~、一気にいくよ~っ!」
     歩は気を取り直して、飛びそうになる野球帽を抑えながら突っ込んでいった。併走するぽちはぴたりとくっついて、じゃれつくような距離で敵弾除けの役を買って出た。
    「わっふ~、貫け~なのっ!」
     勢いを全て乗せた一突きが、仲間に負けじと盛大に敵を張り倒す。オーバーリアクションで断末魔を上げる戦闘員――しかし、彼らはまだまだ大量に残っているのだ。
     Click、Click、Click……。
     指を鳴らしながら、なおも戦闘員たちは向かってくる!

    ●イースト・オブ・ニイガタ(新潟の東)
    「星条旗立てても国歌流しても、やる事変わらないのは迷惑だね。愛国心がないのかな」
    「かもな。ま、俺らは依頼メンバーの助けになれればいいさ」
     サポートに来た殺人鬼の少女と青年が、商店の前でヤンキー戦闘員たちに睨みを利かせる。泰若がそれらの内の一人を地面に引き倒し、銃口を向けた。
    「ハーイ、サプラーイズ(びっくりだね)♪」
    「ノ、ノオオオオォォ!」
     パ、パンと、泰若はダブルタップで敵を黙らせる。戦力で大幅に上回る灼滅者たちは、順調に戦闘員たちの数を減らしていった。
    「あきらめが悪いなあ、もうっ!」
     それでも進行を止めない奴らを見据えて、華は眉をしかめる。ここが堪え時と槍を構え、ヒーローは相棒を呼ぶ声を上げた。
    「出番だよ、シーサー君っ!!」
     すると後方から、自走するライドキャリバー『シーサー君』が姿を現した。コミカルに笑うフロントのシーサー顔が、この時ばかりは守りの牙を剥く!
     グォオオオオオン!
     両目を模したヘッドライトの軌跡が、逃げ惑う戦闘員を執拗に追い掛け回した。めちゃくちゃにかき混ぜられる敵陣内で、さらに攻撃を受け弱った敵がへたり込んでいく。
    「アイムタイアード(疲れました)……ギブミー、サムシン(何かありませんか)……」
     その中の一人に、リズリットが手元で何かをもてあそびながら近づいた。
    「何かって? あなたにはあげないわよ、このピーナッツバター入りチョコバーはね」
    「ザット・イズ(それです)!」
     力を振り絞って襲い掛かる戦闘員を、リズリットは難なく切り伏せる。刀を納める前に、彼女はチョコバーの包装をちょんと切り開けた。
    「わふ~、リズお姉ちゃんからチョコとピーナッツのいい匂いがするの~っ」
     溢れる匂い、歩がくんくんと鼻を鳴らす。気づいたリズリットはしかし、チョコバー満載のポケットをそっと叩いて閉じた。
    「あら歩君、これはまだダメよ。チョコとガムは相性悪いんだから」
    「あ、そっか。これを終わらせないと、僕ガム食べるの止められないんだよね~♪」
     歩は新しいガムを口に入れ、攻撃を再開する。連打で敵を沈めると、一際大きくガム風船を膨らませた。
    「そろそろ戦いも終盤でございますことね。でも、気を抜かずに参りましょうですわ!」
     強い表情で言いながら、乙女は護符揃えから防護符を引き剥がす。前線の弥咲へと投じようとした直前、当の弥咲がぎゅるんとこちらへと振り向いた。
    「言ったそばから弥咲様、余所見は危ないことですのよ?」
    「いーんだ、いーんだって! 私はこの時を待っていたんだ!」
    「……?」
     意図をわからぬまま、乙女はアンダースローで符を放つ。当然、その動きの影響で乙女は大きく『揺れる』わけで――弥咲は、ここに来て己の見立ての確かさを完全に確信した。
    「アメリカの素晴らしきファッション! 眼の保養、自由の象徴、サイッコー!」
    「「「「イエーーーッ!」」」」
     死に体の戦闘員が、先のアメリカンジョークを超える勢いで大盛り上がりする。そして拳を突き上げるヤンキーに、やはりと言うかなんと言うか、弥咲が腕まくりして止めを刺しに行った。
    「見ない、見ません、ボクは絶対見ないからね……」
     法子はそんな活気を場違いと思ったか、あるいは別の理由からか、目を反らして仲間の治療に専念している。多くの傷を負った時史を、問題なく戦線復帰できるまでに回復させた。
    「すまん、手間をかけるな」
     頭を下げる時史の背を、法子はパシッと叩いて前へ送り出す。
    「構わないよ。それより、不良のコスプレならそれらしくしたほうがいいんじゃないかな」
    「コスプレ、コスプレか……ああ、なるほど」
     言われて時史はサングラスを指で押し下げ、気合の篭った上目遣いで周囲を睨んだ。動死体のように囲んでくる戦闘員たちを、法子も不敵に微笑んで迎え撃つ。
    「ようやく、この妙な感覚を例える言葉に合点が行った」
    「それは何より……ところでキミたち、落ち着いてクールに振舞ったらどうだい?」
     ババババババン!
     連続して足元に打ち込まれる弾丸を、両名は回避して二手に別れた。追おうとする戦闘員たちの背後に、ガシャ、ガシャと重金属の足音が響き始める。
    「Fxxk、fxxk you rednecks! 新しい穴は上と下のどっちに欲しいか言いなbitch!」
     それは凶悪に口角を上げるツェツィーリアと、バベルブレイカー『鋼穿杭』とが奏でる、鉄色の歌だ。ゆっくりと進撃する彼女が、次の瞬間、羽が生えたかのように姿を消す。
    「遅いな――You messed up! 自業自得の後悔抱えて、地獄までブッ潰れてなァ!」
     戻るはずの無い返答に焦れて、ツェツィーリアは告げた通りの攻撃を行ったのだ。猛威に晒された戦闘員は、選択の余地なく戦闘不能にまで追い込まれる――。

     ――戦い終えて。
     現れたヤンキー戦闘員たちは、35名全てが完膚なきまでに叩きのめされた。この撃退を狙った灼滅者としては、間違いなく勝利と断言できる。
     とはいえ……アーケード街は惨憺たる有様だ。その大部分が戦闘員たちからの流れ弾によるものなので、こればかりはどうしようもないことだろう。
    「窓ガラスの散乱に、落書きまで……掃除でもした方がいいかな?」
     法子は言うが、既に殺界形成が解除されたらしく、一般人が続々とここへ戻ってくる。溜息をつき、それでも清掃活動を始めた彼らから、灼滅者たちは後ろ髪引かれる思いで去ることとした。
     ダークネスの起こす事件の理不尽を、しかと胸に刻んで。

    作者:君島世界 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2014年3月20日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 1/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 7
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