ヒトに最も近い怪人!? ボノボ芋飴怪人来日!

    作者:宝来石火


     鹿児島某所の大型スーパー。そのお菓子売り場の一角に、一人の黒髪の少女が立っていた。
     愛らしい顔立ちに笑みを浮かべて、如何にも上機嫌であるのが見て取れる。
    「カカオに埋もれてここまで来るのは、ちょぉっと大変だったけど……」
     簡素な布地を羽織っただけの凹凸の少ない小柄で細身の体。その肌には、人ならざる黒い体毛が際どいビキニのように生え揃っていた。
     極めて人間に近い姿をしているが、ヒトではない――何を隠そう彼女こそ、ヒトに最も近い類人猿と言われるボノボの化身、コンゴボノボ怪人!
     アフリカンパンサーに付き従い日本を訪れたアフリカンご当地怪人の一人であったのだ!
    「みゅふふふふ! このニッポンってトコも、中々良いじゃない! ちょぉっと森より寒いけど!」
     白く綺麗な歯を剥き出して、ボノボ怪人は嬉々として笑う。
     その両手には袋一杯の薄茶色の菓子――九州名物、芋飴が乱暴に抱かれていた。
    「特に、この芋飴……ちょっぴりベトベトするけれど、とぉっても美味しいわ。
     それに、この強力なガイアパワー……!」
     謳うように独り言ち、ボノボ怪人は腕の中の芋飴を一気に煽るように貪り食った。白い歯に芋飴が纏わりつくのも構わずに、強健な顎で磨り潰すように咀嚼したかと思うと、ゴクンッ、と一息で丸飲んでしまう。
    「あぁ……とぉっても、ホカホカしてきた! もぉっともぉっと、ホカホカしたぁい♪」
     ボノボ怪人の体が淡く光って、その姿に変化が起こる。
     彼女の体をレオタードのように覆う、薄茶色の膜が生じた。更にその膜に振りまかれたような白粒のデコレーション。紛れも無く、芋飴の力がボノボ怪人に宿った証左であった。
    「全ての芋飴は私が食べ尽くしてあげる!
     この……ボノボ芋飴怪人がね! みゅふふふふ♪」
     

    「ボノボの群れはチンパンジーなどとは違い、社会的集団の最上位を雌が占めるそうだよ」
     だからボノボ怪人が雌なのは成程納得できることだね、と鳥・想心(心静かなエクスブレイン・dn0163)はもっともらしく頷いた。
    「現地の芋飴からご当地パワーを取り込んだボノボ怪人……ボノボ芋飴怪人は、鹿児島中のお店を襲って芋飴を収奪しているらしい」
     通常、ご当地怪人と言えばその行動理念は愛するご当地名物の隆盛にこそある。まぁ、大体は愛が行き過ぎてやり方を間違えているのだが、アフリカンご当地怪人についてはそもそも名物への愛、それ自体が見受けられない。
     現地のガイアパワーを吸収できれば、後は野となれ山となれ、といった様相だ。
    「彼女の横暴を阻止し、可能なら灼滅する。その作戦を、君達に任せたいと思うんだ」
     ボノボ芋飴怪人は鹿児島県内のスーパーからコンビニ、商店街の個人商店に至るまで、目につく限り無差別に訪れては芋飴を強奪していくという。
    「その中でも、とあるスーパーのお菓子売り場を訪れた時に襲撃を掛ければ、バベルの鎖をすり抜けられる、という予知が見えた」
     そのスーパーは県下でも比較的大きな店で、いざ戦闘になってもスペースの心配をする必要はない。
     また、ボノボ芋飴怪人は芋飴のガイアパワーを取り込み大いに調子に乗っているので、事前に人払いなどを済ませていても「誰もいないわ、ラッキー♪」ぐらいにしか思われないということだ。
    「もっとも、罠まで仕掛けたりすれば流石に警戒もされる。事前工作は人払いと待ち伏せ程度に抑えておいて貰いたいな」
     そうして戦闘に突入する流れになるだろうが、さて、ボノボ芋飴怪人の用いる技は4種類あり、これが中々多様性に富んでいて、一筋縄では行きそうにない。
     近くの敵を類人猿特有の腕力で殴りつける単純な一撃もあるが、それとは別に、離れた相手をまとめて誘惑する淫魔じみた精神攻撃も得意なのだ。
     その他、芋飴の力を使って敵を絡めとる技や、芋飴を食べて傷を癒やすことも可能だという。
    「野生のボノボは一般によく言われるほどには平和主義者でもないらしい。愛らしい外見に惑わされないようにね」
     そう言うと想心は、灼滅者達に少しだけ意地の悪い眼差しを送ってみせた。


    参加者
    ライラ・ドットハック(蒼の閃光・d04068)
    弥堂・誘薙(万緑の芽・d04630)
    炎導・淼(武蔵坂学園最速の男・d04945)
    森沢・心太(二代目天魁星・d10363)
    物部・七星(一霊四魂・d11941)
    御影・ユキト(幻想語り・d15528)
    久瀬・雛菊(蒼穹のシーアクオン・d21285)
    齋木・桃弥(星喰む夜叉・d22109)

    ■リプレイ


    「みゅふふふふ♪ あぁ、とぉってもいい気分! ガイアパワーが満ちていくわ!」
     スーパーはお菓子売り場の一角に、コンゴボノボ怪人あらためボノボ芋飴怪人の高笑いが響き渡った。
     腕を伸ばして棚に並んだ、芋飴の袋をがさりと纏めて掻っ攫う。
     どういうわけか、この店には邪魔をしたりやたらと騒いだりする人間が一人も居ないので、彼女は大いに上機嫌であった。
    「ここの芋飴もぜぇんぶ、私のモノーっ!」
     味わうのではなく、貪るように。なんなれば袋ごと口の中に放り込まんとするボノボ芋飴怪人。
     その、彼女に向けて、音もなく駆け寄る影が二つある。人の姿の意ではない。それは文字通り、床へと落ちる黒い影。
    「……みゅ!?」
     怪人の笑顔が、驚愕に歪んだ。
     地を這う二人分の影がぐにゃりと歪み、怪人の腕を、脚を、腰を捕らえた。ぎちり、と怪人の関節が音を立てて軋み、その手の内から芋飴の袋がバサリと零れる。
    「これは――灼滅者!?」
    「油断が過ぎるな」
     並んだ棚の一方の陰から姿を見せたのは、齋木・桃弥(星喰む夜叉・d22109)だ。冷静な顔付きながら、怪人を見据えるその眼差しは鋭く、熱い。
    「奇襲に気づけないほど、芋飴に夢中なんですね」
     そして、もう一人。御影・ユキト(幻想語り・d15528)が怪人を挟み撃ちにする形で、桃弥とは逆の側から静かな足運びで現れる。
     内に熱を込めながら、その振る舞いは極めて冷静。
     どことなく、似た雰囲気のある二人が怪人の前後から放った影縛りは果たして、怪人が油断していなかったとしても躱せたものだろうか。
    「芋飴……おいしいですよね」
     ユキトの声は飽くまで平静。しかし、続けて発せられた言葉には、抑えきれない憤りが轟々と滲み出ていた。
    「自分の、楽しみの一つです。
     それを潰そうとする奴は、許しません――絶対に」
    「みゅ……っ」
     気迫に圧され、怪人は苦笑いを浮かべて後ずさる。一見して外見通りの少女的なメンタルの弱さの証左にも思えるが、同時に二人の灼滅者から四肢を拘束されたままで自然に動いてみせる、ダークネスの強大な力も伺わせた。
    「ちょ、ちょぉっと……何マジになってんのよ」
    「……そう、マジよ」
     棚を飛び越え現れた、ライラ・ドットハック(蒼の閃光・d04068)の表情もまた、冷静沈着な無表情。その、構えた手には一振りの長剣が握られていた。
     一見して瀟洒な装飾の施された長銃のよう。しかしその銃身に当たる部分に埋め込まれているブレードが異形の長剣も兼ねていることを表していた。
    「……芋飴を食べ尽くすのはあなたではない。このわたしよ!」
    「っておい、そうじゃねぇだろ!?」
     同時に怪人に飛び掛かっていた炎導・淼(武蔵坂学園最速の男・d04945)の声が果たして届いていたのかどうか、
     翳したG-Blade【ミストルティン】に纏われる光線。振り下ろされる閃光の刃は霊魂のみを断ち切る神霊剣の一撃。
     勿論、怪人の周囲に散らばる甘味には一欠片たりとも被害は出ない!
     ――ッ!!
    「ギィ……っ!」
     刃は音もなく、影に囚われた怪人の肩を袈裟に斬る。
     怯んだ怪人に淼はすかさず躍りかかり、その首根っこをがしりと掴んだ。そして持ち上げ、叩きつける。烈火の如き勢いの地獄投げが怪人の頭をゴムタイルの床へと一直線に突き落とす。
     轟音が響き、床が割れる。その一方。
    「つッ、た――痛いじゃないのォ!?」
     投げっぱなしで床に沈んだ怪人は勢いそのまま手足を使って跳ね上がり、一息で天井に向けて跳ね上がった。
     そのまま、天井に激突する寸前で逆さになって足を天に向け、勢いを殺す。
     瞬間、同じ高さで怪人と、森沢・心太(二代目天魁星・d10363)の目と目が合った。
     怪人と同じタイミングに、同じ姿勢で天井に飛びついた心太はパチクリ、と目を瞬かせて、口を開く。
    「この気配、あなたも森育ちですか?」
    「……アンタも、そうみたいね」
    「やあ、わかります?」
     片や密林、片や山林。気候群生は違えども、生い茂る木々を梯と使う、その三次元的感性には似通ったものがあるのだろうか。
    「じゃ」
    「戦り合いましょう」
     怪人と心太は同時に技を繰り出した。
     心太の抗雷撃が雷を纏い、唸りを上げる。そして怪人は、やはり森に馴染んだボノボの腕力を――用いない!
    「チィッ!」
    「これは……!」
    「……ッ、甘いわ!」
     淼、心太、ライラの体に叩きつけられた粘り粘着く薄茶色――そう、それは紛れも無く、程よく甘くて美味しいけれど口の中でべたつく芋飴そのものだった。
    「……甘味だわ」
    「みゅふふふふ♪ 森を知ってる相手に、わざわざ森の技で相手する義理はないわ」
     そう言って、ボノボ芋飴怪人は歯を剥き出して笑う。芋飴の力を取り込んだ彼女は、体から出した芋飴を自在にコントロールする力を得ていたのだ。
    「いきなり襲ってくるなんて、ニホンザルはちょぉっと野蛮すぎない?
     さっさとこの辺の芋飴を独り占めしないと、あんまり何度も襲われたら面倒ね」
    「――日本のご当地怪人は……間違った方向とは言え、貴女達の様に己が欲望の為『だけ』に行動しない」
    「なに、まだ居るのぉ?」
     わずかに訛りを残した声を耳にして、怪人は心底不快げに眉根を顰める。
    「それに引き換え貴女達は……『ご当地』を名乗る事すら、おこがましい」
     その眼差しの向く先に立つ、久瀬・雛菊(蒼穹のシーアクオン・d21285)が大きく口を開いた。
    「変身!」
     掛け声と同時、雛菊は駆け出した。
     紫のスーツに覆われた雛菊――否、明石の誇るご当地ヒーロー、シーアクオンが一拍の間で怪人の懐へと肉薄する。
     服らしい服も着ていない怪人の胸ぐらを強引に掴み上げ、くんっ、と身をひねり、跳ね上げる。
    「絶対、生かして帰さん」
     流れるように繰り出された柔の奥義、山嵐――そしてそこに宿る、ご当地の力。
     シーアクオンが自ら宿す明石のそれではない。そう、それはこの鹿児島の大地で分け与えられたガイアパワー――しろくまのオーラを纏った、しろくまダイナミック!
    「何よっ、この程度――」
     綺麗な――綺麗過ぎるその技に、ボノボの身軽さを持つ怪人は素早く受身の姿勢を取る。が。
    「言うたはずなんよ……生かして帰さんて!」
    「ンゲッ!?」
     怪人の頭部がえぐい角度で地に落ちる。主を庇い、その全身を芋飴に塗れさせたライドキャリバーのイカスミが、投げられ落ちる怪人の頭上めがけて突撃を敢行したのだ。
     受け身のタイミングを外され、怪人はまともに致命傷を負わされる。
    「久瀬さんのその技、以前戦った白くまのご当地怪人を思い出します」
     防護符を展開しながら、弥堂・誘薙(万緑の芽・d04630)は言った。
    「あの人の方が、ずっとご当地愛に溢れていました」
    「っつ~……、知ったこっちゃないわよ、そんなの……」
     二度も脳天を床へと叩きつけられたボノボ芋飴怪人の、その起き上がりざま。
    「犬ッ!?」
     すかさず風のように駆け抜けてきたのは、霊犬の五樹だ。口に咥えた斬魔刀を翳して、一跳び、二跳び――十、二十。犬の誇りか、猿には負けぬとばかりに跳び交って、刃を突き立てる隙を狙う。
    「こっ、のぉ……邪魔よぉ、邪魔ァ!」
     先手で捕らえた影の触手も少なからず怪人の体を縛っている。たたらを踏んで際どいところでステップを踏む怪人の――その、細い脚が突然、バチリッ! ――と、響く雷光に、撃たれた。
    「グッ……!」
     ガクン、と膝を落とした怪人の脇腹を、五樹の刃が薙ぎ払う。
    「わざわざ足を止めて頂いて……お陰様で、狙いやすかったですわ」
     戦いの始まりより、じっと息を潜め狙いすました瞬間に轟雷の一撃を撃ち込んだ、物部・七星(一霊四魂・d11941)の瞳の色は、細められたまぶたに隠れて怪人からは窺い知れない。
    「……みゅふふふふ♪ いいわ、よぉくわかった……アンタ達、けっこぉ良い群れみたいじゃない?」
     そう言って膝をつき、怪人はその場に俯き、座り込んだ。
     あまりにも、露骨に晒しだされた隙。何らかの策を警戒し、灼滅者達の踏み込みが一歩、否半歩遅れ――。
    「……また食べたわね!」
     ライラの声に答える代わり、怪人はバサァ、と天井近くまで跳び上がった。勢いそのまま、立ち並ぶ棚の上を前後左右に跳び交って見せるその脚には傷らしい傷は残っておらず、体を縛っていた影の触手もボロボロと零れ落ちている。
    「みゅふふふふ♪ どう!? 私の体は芋飴に癒やされて、逆にアンタ達は芋飴に捕らわれて! 戦いが長引けば――」
     甲高い怪人の言葉を遮るように、一陣の風が戦場に舞った。
     柔らかく優しく、暖かく清らかな風。その風は、灼滅者達を襲った傷を、その体を覆った心なき粘りを、静かに風へと溶かしていく。
    「僕がいる限り、お前の思い通りにはさせぬ」
     桃弥の立ち居振る舞いは、徹底してクールだった。
    「みゅ、みゅふふふふ♪ ホカホカしてきたわ……!」
     歯を剥き出して笑う、ボノボ芋飴怪人の笑みは明らかに引きつっていた。


     戦いは、文字通り一進一退を繰り返していた。
     しかし、そうなれば最終的に押しこむのは灼滅者達の側だ。怪人が自らの回復に気をやる隙に、前線に立つ者達が一息に攻め立てる。手数の差は決定的な瞬間を迎え入れようとしていた。
    「そうそう、一つ聞きたいのですが、あなたは元々コンゴ共和国ボノボ怪人? それともコンゴ民主共和国ボノボ怪人なの?」
     不意に七星がそんな問いを発したのは、前線に立ち続けていた淼が一発、テンプルにいいのを食らってしまった時だ。
    「……は?」
     ポカン、と呆けた声を出す怪人を前にして、七星は抑揚をつけた言葉を続ける。
    「あら、わかりませんか?
     自分の出自がハッキリしないなんてご当地怪人として不完全極まりないですわねえ――この半端者が!」
     罵倒の言葉を天使の音階に乗せ七星は謳う――が、怪人は幼げな眉を顰めてその声を聞き流した。
    「――バカにされたみたいでムカつくから、教えてあげる。
     ボノボはコンゴ川の左岸、つまり民主共和国の側にしか居ないのよ」
    「あれ? 意外と賢い!?」
    「ご当地怪人に関わると、色々な知識に触れられるな……」
     誘薙は心底意外げに驚き、桃弥は本気で少し感心している様子である。
    「おや……流石に、ボノボについての知識は、それなりにおありのようで」
     そう言って、口元を隠して笑う七星の顔を真正面から見据えて、怪人は歯を剥き出して笑った。
    「そもそも、私達に人間基準の国や縄張りなんてカンケーないし、挑発になってないわね。
     挑発っていうのは……こうするのよ♪」
     そう言うと怪人は、纏った衣を脱ぎ去ってその少女のような体を揺らし、灼滅者達を挑発してみせた。
     立ち昇る淫気は淫魔のそれに引けをとらない。長い発情期を持ち、同種族間の争いを雄雌問わず性行為で収めるとまで言われるボノボの名を冠する怪人ならではの強烈な求愛行動。
     この技で、回復や遠距離からの狙撃に終始する後衛の灼滅者達を催眠状態に引き込めれば勝機はある――。

    「天に普く浄化の風よ……」

     ――その考えは、これまでの戦いの中で既に打ち砕かれていた。
     怪人のサイキックを警戒していた灼滅者達は、誰が催眠状態に陥ろうとも素早く異常を取り除ける布陣でこの戦いに臨んでいたのだ。
    「もう、僕たちにその求愛は無駄ですよ!」
     ユキトの吹かせた清めの風で、惑う間もなく正気を維持していた誘薙が、手にしたクルセイドソードの祝福の言葉を風へと溶かす。
     初めてこの求愛行動を受けた時は大いに動揺していた誘薙も、少なからず抵抗力を付けつつあった――頬は赤いが。
    「みゅふふふふ……あーあ。やっぱダメかぁ」
     諦観したように呟く怪人に、心太が飛び掛かる。床で跳ね、棚で跳ね、天で跳ねる。
     森の中、いうなれば怪人のホームグラウンドで見慣れた軌道を描くその攻撃を、しかし怪人は躱し損ねて棚の中へと吹き飛ばされた。
    「読まれた呼吸の外し方、掴みましたよ」
     祖母のお守り……「不撓不屈」壱式を強く握って、心太は笑う。
    「そういうわけで……お返しだ!」
    「……あなたは芋飴を舐めた!」
     淼の閃光百烈拳とライラの鬼神変――二種の拳が怪人の体を打ち、撃ち、埋めた。
    「約束は、きっちり守る……貴女は、ここで終わるんよ」
     身動きの取れぬ怪人に向け、シーアクオンは跳んだ。高く、鋭く、水を切るように。
     必殺の飛び魚キックは狙い違わず、怪人の心臓を穿ち貫く。
    「あぁ……アフリカンパンサー様と……ホカホカしたかったなぁ……」
     そう呟き、笑い。
     ボノボ芋飴怪人は爆発四散した。


     戦いを終えた灼滅者達は、ひと通りの後始末を済ませた後、鹿児島甘味ツアーへと繰り出していた。
     雛菊と七星が事前に調べた店々はそのいずれもが名店良店。行く先々で芋飴にかぎらず、様々な鹿児島名産・銘菓を味わうことが出来た。
    「小みかんと……それに、お茶請けのお菓子も。かるかんに、げたんはに……」
    「悪くないな……お茶請けなら、僕はこの紫芋の羊羹が気になっている所だ」
    「へぇ……色んな銘菓があるんですね。ううん、どれをお土産にするか、迷います……」
     ユキトと桃弥は気がつけば、ここでも肩を並べてお茶請けに合う菓子を探っている。そのやりとりをふんふんと聞きながら、心太は多すぎるお土産候補を前にして、嬉しい悲鳴を上げる羽目になっていた。
    「……芋飴も美味しいけど、やはり鹿児島を堪能しないとね。おかわり」
    「あの……ライラ先輩? このお店薦めた身としては、あんまり荒らすような真似されるんは……」
     運ばれてくる和菓子を千切らずに投げ(口の中に)、千切らずに投げ(胃の中に)、ライラは凄まじい勢いで出される甘味を消費していく。
    「次に行く予定のお店は、特にかるかんが絶品だそうですわ」
     実は事前に自らの舌で検証済みの情報を、あたかも伝聞事であるかのように七星が笑って耳打ちすれば。
    「……このお店を食べ尽くしたら、すぐに行くわ。おかわり」 
     などと、無表情のままで至極当然のように言葉を返した。
    「言ってること怪人と変わんねぇぞ、もはや」
    「今回の戦いは、怪人とライラ先輩の甘味をめぐる生存競争だったんよ……」
     淼と雛菊は軽い頭痛と胸焼けを覚えながらも、甘味を楽しむライラの姿を暖かく見守っていた。

     ――鹿児島の甘味巡りを堪能する面々を見渡して、誘薙は感慨深く呟いた。
    「海外の怪人は、ひどく日本を扱き下ろしてますけど……。
     こんなに一杯素晴らしい名物があるなら、日本の怪人も外国色に染まることなく、頑張ってくれそうで安心ですね!」
     霊犬五樹は主の言葉にワンと同意の一吠えを――上げかけ、ブルブルブルと首を振った。
     和製ご当地怪人だからといって、別に安心できるわけではない。

     かくして、灼滅者達は大いに甘味を堪能し、また、学園の仲間達へのお土産でその両の手を塞いでの凱旋を果たしたのである。

    作者:宝来石火 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2014年3月20日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 1/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 5
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