「テングサか……」
「テングサっていうとトコロテンの材料だっけ?」
「そうだ。テングサを水で煮て、それに酢を入れて濾して、冷蔵庫で冷やせば完成だ」
何故か詳しい……まあ、海岸が近い家では、自分でテングサを採ってきて自家製のトコロテンを作る場合があると聞く。
何故そんな話をしているかというと、ベルタ島から採取してきてくれた海草類の中にテングサが含まれていたからだ。
「トコロテンか……今は寒いからね」
「そうだな。だが、暑いベルタ島で食べれば旨そうだな」
「そうですね。酢醤油でつるっと食べたいですね」
「何を言っている。黒蜜が基本だろう!」
無駄に白熱するトコロテン談義。まったく、黒豆が無いとは何という事だろうか。
「それはともかく、採取してもらった魚介類や植物類から何か分かったのか?」
「ああ、色々な事が分かっている」
言葉は頼もしいが微妙な表情で答える。
「……具体的には?」
いぶかしげな表情で具体的な報告を促す。
「……季節的に夏であるという事以外に、具体的に報告すべき内容は無い」
まあ、つまりベルタ島だからといって新種が発見出来たり、通常と異なる生態系を持っているという事は無いのだ。
「そ、それだって重要な事だ。通常と異なるならば調査に向かってもらった灼滅者に何らかの悪影響がある可能性が微粒子レベルで存在するかもしれない。だから、この調査は無駄では……」
「はいはい、無駄だなんて言ってないだろ」
そんな『問題点はありませんでした』という結果が報告されるのでした。
「そして、また気温上昇が発生しているね」
「だか、今回は緩やかのようだね」
前回のデータと比較しても、今回は比較的ベルタ島の温度は低そうだ。32度~34度といったあたろだろうか。
「温度のデータは顕著だから、より詳細なデータが欲しいね」
「うむ、それなら『熱とろど~くつ』の温度を調べたいな」
「そうだな……だが、あの中は危険だぞ?」
「入り口だけでもいいだろう。ちょうど、以前の探索の際に西岸からドーナツの森への道を作ってくれただろ、そこの穴のおかげで洞窟を通らずに行ける」
「なるほど!」
という事で、『熱とろど~くつ』の西岸付近の入り口と、ドーナツの森の入り口に温度計を設置してもらう事にするのだった。
参加者 | |
---|---|
斎賀・芥(漆黒の暗殺者・d10320) |
鏡・エール(ダークオブリビオン・d10774) |
竜崎・蛍(レアモンスター・d11208) |
縛野見・火和理(代変する者・d13137) |
黒木・唄音(幻影の歌・d16136) |
黒水・薫(浮雲・d16812) |
瀬河・辰巳(宵闇の幻想・d17801) |
レミ・ライゼンシュタイン(血を愛する者・d20396) |
「ねえ、暑いんだけど」
ここはすでにベルタ島の周囲で気温が上昇している。開口一番に率直な感想を口にするのは竜崎・蛍(レアモンスター・d11208)。少しフランクすぎる口調に周囲は微妙な反応。
「ちょっとしたバカンスだと思えば楽しいのだけれどね?」
そんな蛍の言葉に黒水・薫(浮雲・d16812)が答える。しかし、そんな薫の顔からも汗が流れる。
「そうだよね」
そんな薫に同意する鏡・エール(ダークオブリビオン・d10774)だが……その海老天フードは何だろうか。
「さて、計画確認です」
そんな話をしている皆の中で一人、場の空気を読んでいないのか、それとも逆に読んでいるからこそなのか、唐突に今後の予定について確認を始める縛野見・火和理(代変する者・d13137)。ノートパソコンを開きながらの説明。
さらに……その火和理の背には怪しい棺桶が……それを火和理はずっと側に置いているようだ。
「まずは、これからベルタ島の西岸に上陸、それから荷物をベースキャンプに置いてから温度計の設置」
無表情で淡々と説明する火和理に、ある意味楽しげに雑談していた皆も耳を傾ける。
それこそが隙だった。
「うおぅ!」
執事服で火和理の説明を聞いていたレミ・ライゼンシュタイン(血を愛する者・d20396) の姿が船の上から消える。次の瞬間に響く水音。その横で満面の笑みを浮かべる蛍。
「落とされる前に落とすべきだよね」
その蛍を狙う黒木・唄音(幻影の歌・d16136)だが、蛍はその満面の笑みのまま、一瞬で後方に避ける。
「それは同意ね。蛍さんも落としてあげてよ!」
そして一緒に蛍を狙い始める薫。
「私を落としたら任務失敗だぞ! いいのか!?」
二人から狙われたら対処仕切れないと理解したのか、今回の依頼で重要アイテムである温度計を手に持ち、人質……ならぬ物質を取る。
「なお、今回の温度計は防水加工があり、多少の水では問題無い」
こんな状態でも確認を続けている火和理がちょうど、温度計の取り扱い方法を説明していた。
「落とす者は落とされる覚悟がある者だけだよね」
次の瞬間には同時に響く水音3つ。蛍を落としたのと同時に飛び込む唄音と薫。
「はぁ……火照った体に海水が気持ち良いわ……」
「水も滴るいい男ってことで……あはは」
そして思わずため息を付く薫。その隣では執事服のまま泳いでいるレミ。
気持ち良い海を早速堪能している姿を見ると……。
「私も行くよ」
「灰になるまえに……だね」
いや、ダンピールだからって日光では灰にならないだろう。ともかく、一緒に飛び込む斎賀・芥(漆黒の暗殺者・d10320)と瀬河・辰巳(宵闇の幻想・d17801)。
「……そろそろ到着ですね」
確認を終了してノートパソコンを閉じた火和理。そして8回目のベルタ島の探索が開始されるのだった。
「ふう……割と重い」
拠点へ荷物を運び込むと同時にため息を付くエール。エールの荷物はかなり多く、大きい物はガスコンロとその交換用のガス。さらに飲料水のペットボトルに調理器具など。近くに川があり飲用にも適するが、それでも飲料水の方が安全である。
「海に入った人はクリーニングします」
レミは海から上がってすぐに自分の服を軽く叩くと、一瞬で汚れた体と服を綺麗にする。これがESPクリーニングの効果。これがあるから、最初から元気良く遊んでいるのだ。
「こんなものだな」
荷物を置いてから、近くの石や木材を集め釜戸を作る芥と唄音。コンロもあるが、雨が降れば暖を取る必要もある。その場合は薪を使える釜戸の方がいいだろう。
「あーつーいー」
釜戸の設置が完了したところで、唄音は暑そうに胸元をぱたぱた。気にする人がいないと思っているのか、ちょっと油断な行動。そんな胸元に視線が引き寄せられるのは男にとってはどうしようもない事。誰の視線が唄音の胸元に引き寄せられたのか……それは本人の名誉のために秘密です。
「道具を充実させておきましょうか」
そして持ってきた道具を洞窟へ置く薫。LEDのライトを8つ。さらに手動式充電器を4つを拠点のテントにシュートする。
「置く場所あるか?」
芥は保存が出来る調味料を一式用意していた。気が付くと、この洞窟も色々な物が置いてある。今回持ってきた物だけでも、LEDライト8つ、手動充電器4つ、調味料一式、釣り道具一式、テントに寝袋。
「……ところで、この棺桶どうしましょう」
火和理が荷物と一緒に持っていた棺桶。どうやら、部長から持って行けと言われたようですが、その用途は不明。とりあえず悩む火和理だった。
「ねえ、暑いんだけど」
ことある毎に自己主張する蛍。それをスルーして辰巳は持ってきた釣り道具などを拠点で整頓するのだった。
「さて、やることはさっさとやっちまいましょうか」
エールの言葉通りに、やるべきことを先にすませるべく、出発する灼滅者たち。最初の目的地は『熱とろど~くつ』の西岸付近の出入り口だ。まあ、歩いてすぐの場所なのだが……。
「こんなもんかな?」
そして、持ってきた温度計をセットする。電池式で動き、現場で温度の推移を記録し続ける。さらに、少し離れた場所にももう一台セットする。
「洞窟へ入っちゃ駄目ですわよ」
「へいへい」
洞窟付近で中に興味ありそうな雰囲気の蛍。今回の依頼では洞窟に入るのは禁止されている。なので、釘を刺す薫。そんな事を言われると何かしたくなるのが人というもの。ささっとレミの背を押そうとするが、華麗に避けられる。
「おっとっと」
その勢いで中に入ってしまいそうになるのを薫が引き留める。同時に響くシャッター音。
その様子を写真に撮った……訳ではなく、資料のための写真を撮る火和理。
「後でデータ保存しておきましょう」
そんな蛍や薫の楽しそうな様子を無表情で保存する火和理だった。
「では、もう一つの出入り口へ行きましょう」
レミの言葉で南側、ドーナツの森の出入り口を目指す。本来、西岸からは『熱とろど~くつ』を通らないと南側へは行けなかったのだが、今は前々回の探索班が作った道がある。
「……これすごいね!」
「すごいけど、暑いんだけど」
依然の探索者が作った道に驚く唄音だが、蛍にとってはそれよりも暑い事のほうが重大な問題のようで、何度も何度も『暑い』を繰り返していた。
「ここがドーナツの森か……」
その反面、作られた道を通りドーナツの森へ入ると静かに元気になるのは辰巳。その外見は油断なく周囲を見渡しているだけだが、内心ではテンションが上がっている。
(「ああ! 木がいっぱい! 幸せ!」)
だが、それは内心だけの話で、実際には耳を済ませ周囲を注意深く警戒しているのだった。
「静かに……」
そんな辰巳の耳に、何かの足音が届く。他の者もその様子に、息を飲み警戒する。
そして、ゆっくりと動く辰巳。木を避け、葉を両手でかきわけると……そこには、静かに草を食べるウサギの姿があった……。
「地図を確認する」
ウサギを確認して一安心したところで、芥は地図を開き、ESPのスーパーGPSを使用して現在地を確認する。
「こっちだ」
そして、地図を確認してから『熱とろど~くつ』へ向かうのだった。
問題なく、ドーナツの森側の熱とろど~くつの出入り口へ到着した灼滅者たち。すぐに温度計を設置する。
「なんだろう、この跡……」
辰巳が注意深く足下を調べるとその周囲に、何か大きな物が引きずられたような跡……いや、違う別の……大きな何かが這った跡。
「何かいますね」
辰巳と一緒に周囲を警戒していたレミの背中に冷たい汗が流れる。薫は即座に周囲に視線を走らせる。
そして……何か細長い物が木とぶつかる音。まるで、鋭い鞭で木を殴る、そんな音。
「上ですわ!」
次の瞬間に、何か円形の物が地上から空へまるでバネのように飛び上がる。円形の物は空で円がほどけ、紐のようになり、灼滅者たちを狙って何かを降らせる。
「攻撃が来ますわ!」
薫の声で皆、回避運動を取るとその場所に降り注ぐ小さな火の粉。
「キシャァ!」
奇襲が避けられたからか、奇声を上げるのは蛇型のイフリートの眷属。最初は長い蛇なのかと思ったら尾をくわえて3体が長く見せてるだけだった。
「こんなクソ暑い中、襲ってこないでよ!」
思わず叫ぶ薫。確かに暑いが、それは敵には関係無い。だが、それ以上に暑いからか普段と口調が変化している薫に、一歩引いてしまう仲間たち。ともかく、戦いの開始だ!
「こっちですよ!」
レミは意図的に洞窟から距離を取るように手裏剣を大量に投げる。それは温度計を敵の攻撃から守るため。
「キシャアアアァ!」
レミの思惑通り洞窟から離れる旋蛇。何発か手裏剣が命中するも、レミを狙い体をバネのように動かし飛びかかる。
「とりあえず速攻沈んでよね!」
そんな飛びかかる旋蛇をエールが螺旋の捻りを加えた突きで迎撃し穿つ。
「ん、邪魔だからさっさと消えろ」
冷徹な雰囲気を漂わせながら辰巳はどす黒い殺気を無尽蔵に放つ。その殺気は旋蛇を覆い殺気で貫く。
「シャアアア!」
殺気の中から逃げ出すように旋回して飛翔する旋蛇だが、そうはさせまいと唄音の影が刃となり旋蛇を切り裂く。それでも、旋回するたびに周囲に火の粉を散らし、軽微ながらも灼滅者たちにダメージを与えていく。
「はああああーー」
そのダメージを癒すためか魂を燃え上がらせて肉体を活性化させる蛍。
「ふざけんじゃないわ叩きのめしてあげてよ!」
旋蛇たちを中心に、温度を急速に奪う魔法を使用する薫。その怒りの声は蓄積してきたダメージゆえか、それとも暑さゆえか。
「♪~♪♪~」
予想よりも苦戦をする灼滅者たち。攻撃重視の予定だったが、旋蛇の火の粉で蓄積したダメージを癒すために、活力の沸いてくる演奏を響かせる火和理。
「終わりだ」
だが、それでも何とか一体ずつ倒し、最後の一体を芥の矢が貫くと旋蛇は動きを止めた。灼滅者たちの勝利だった。
さて、戦いを無事に終えて戻ってきた灼滅者たち。遊ぶ者は海へ走っていく。
「何で斎賀さんとか……イケメンどこ……」
海へ走る芥を見て蛍が残念そうに呟く。そう言うが、芥だってレミだって格好いい男子だ。蛍のイケメン基準が厳しいのだろうか。
そんな芥は、慣れた手つきで銛を手にしている。その服装は薄手の長袖パーカー。海の中の様子をよく見ながら銛を構える。そして、狙い済まして銛を放つと、狙い違わずに魚を打ち抜く。
その側にはESPの水中呼吸を活用して、海に潜る火和理。手には防水仕様のカメラ。さらに食べられそうな海藻を採っている。
「魚を追い込んで」
芥は火和理に指示を出すと、言われたように動く。そして、魚を追い込みそれを芥が銛で突く。二人のコンビプレイでかなりの大漁になりそうだった。
「いくよ!」
海で楽しく遊ぶ辰巳。どこで見つけたのか、大きな海藻を手にレミへ投げつける。
「お返しです!」
それをレミが受け取り、さらに別の海藻を絡ませて大きな海藻にして返球。
「お返しだよ!」
唄音も海藻投げに参加して段々大きくなる海藻。
「気持ち良いわ……」
その海藻が……ゆっくり泳いでいる薫に命中。
「だ、大丈夫ですか!」
「大丈夫よ」
思わず皆の背中に冷や汗が流れるが、火照った体を冷やした薫は機嫌良く、一緒に海藻投げに加わるのでした。
イケメンがいなくて残念な蛍はのんびりと砂浜を散歩。途中で綺麗な石を見つけてはポケットに入れているのでした。
何人かは早めに海から上がり夕食の準備を開始したのか、拠点の側では楽しそうな声が響いていた。
「トントントントン♪」
リズムよく、包丁を使いながら自分でも歌のように口ずさむエール。
結構自由気ままにマイペースに振る舞う人が多い中で、丁寧に仕事をこなしているエールは料理の支度も担当している。
「何で口でも『トントン』言うのですか?」
そんな歌うように口ずさむ言葉に思わず聞いてみる火和理。
「『トントン』言いながらやると効率良いらしいよー」
そんな火和理の言葉に笑顔で答える。
「なるほど」
そして、手際よく野菜を切っていくエールたちの隣で、唄音が何か作っている。探索の途中で集めてきたキノコや雑草を集めて……それを丸めて、こねて、そしてくるっと一回転させると、出来上がる不思議なスープの素……ブイヨン。
そんなブイヨンを素に創意工夫を重ねた結果……色々なスープを作り上げる。材料として使われた色々な調味料はともかく……袋で持ってきた砂糖が半分以上無くなっているのが気になる。他にも酢やトウガラシや抹茶などがあるが……一番不安な大量に砂糖を消費したスープはどうやら自分用の様子。
「うん、美味しいね」
そしてあまあまスープを飲んでご満悦な様子。
「芥も薫ちゃんもどうぞ~」
そして他のスープを皆に勧める。
「……いただく」
色々な想いを飲み込み、緑色なスープに手をかける芥。そして一口……その味は形容しがたい味であった。だが、不思議と不味くはない。それは『どんな料理にも合う』ESPブイヨンの効果だろか?
それはともかく、楽しく響くエールの歌と一緒に出来上がっていく料理。作っているのは、シチューのようだ。芥と火和理が採ってきた魚を一緒に煮込む。
「ご飯はこれでいいですね。それにしても暑いですね……」
そして、ご飯を炊いていたのはレミ。執事服で華麗に料理しているが、さすがに暑いのか胸元を開いている。そこに流れる汗が、怪しく光っているような気になってしまう。だが、執事服で胸元を開き腕まくりをする、その姿は……一言で言うと……。
「汗も滴るいい男……」
思わず呟くレミ。自分で言っては、一瞬で三枚目への急降下。
「ってことで……あははは」
だが、それに気が付かないほど暑さでちょっとお疲れの様子でもあった。
「どうぞ」
そんなレミへスープを差し出す。そのスープは謎の赤色。
「ああ、もらうよ」
汗を大量にかいているから、すぐにスープを飲むレミ。そして、一瞬硬直して……口から火を吐くのであった。
「これくらいだね」
芥の突いた魚を綺麗に処理する辰巳。下処理された魚と唄音のブイヨンを合わせてシチューに仕上げるエール。すごくいい香りが漂うのでした。
「いただきます!」
皆で声をそろえて『いただきます』をしてから一斉に食べ始める。今回のメニューはエールの作った具沢山のシチューとレミの炊いたご飯。
「やっぱりご飯は美味しく食べないとね!」
そして、皆でご飯を食べる灼滅者たち。エールの言う通り、皆で食べる食事というのは美味しいものだ。
「これ綺麗だろ」
そんな中でさきほど砂浜で見つけた石を自慢する蛍。その姿はとても童心に帰った子供のようだった。
そんな皆を見ながら空を見ると……一番星が輝いていた……。
作者:雪見進 |
重傷:なし 死亡:なし 闇堕ち:なし |
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種類:
公開:2014年3月21日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 3
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