飾り珠のスサノオ

    作者:相原あきと

     赤く血にまみれた腰巻きを着け、赤子を求めてさまよう死者。
     赤子を産み落とす前に妊婦が死亡すると『産女(うぶめ)』となる。
     差違はあれど各地で伝わるこの伝説であるが、この地に伝わる伝説はまさに先述のような産女の話であった。
     さて、そんな伝説の残る田舎町の少し広めの道が交わる『辻』へと現れるは四足歩行のオオカミ。
     それは日本狼を一回り大きくしたような体躯であり、特徴的なのは左右のもみ上げ部分の毛が長く、途中に飾り珠がついている――飾り珠のスサノオだった。
     日は昇っているがまだ早朝のその時間に、スサノオがよく通る声で遠吠えを行う。
     静けさに耳を傾け、朝日に目を細めつつ何かを待つ飾り珠のスサノオ。
     やがて、最初からそこにいたかのようにその『辻』に女性が立っていた。腰から下は血に染まった白い衣を来て、何かを求めるように悲しい目をした……そう、その女性は伝説の『産女』だった。 
     飾り珠のスサノオは一度だけ産女を見つめると、くるりときびすを返してその場を去るのだった。


    「みんな、ついに飾り珠のスサノオの尻尾をつかんだわ!」
     エクスブレインの鈴懸・珠希(中学生エクスブレイン・dn0064)が少し興奮気味に宣言する。
     スサノオはエクスブレインの予知を邪魔する力を持っているようだが、スサノオと因縁を持つ灼滅者が増えたことで不完全ながらも介入できるようになった、らしい。
    「飾り珠のスサノオが古の畏れを生み出そうとしているのは、とある田舎町にある広い道の交差点……というか、辻、って言うのかしら。あ、地図で言うとココね」
     珠希がその町の地図を取り出し、出現ポイントに丸をつける。
     生み出される古の畏れは『産女』という伝説らしい。その古の畏れは赤ちゃんを見ると強引にさらってしまうと言う。もちろん鎖に繋がれた亡霊だ、生きた赤ちゃんを育てられるわけもなく奪われた赤子は数日もたたずに死んでしまう。
    「飾り珠のスサノオが古の畏れを出現させた日も、朝方そこをちょうど病気の赤ちゃんを乗せた車が通るの……もちろん産女はそれを襲って赤ちゃんを奪うわ……」
     珠希が暗い顔を見せるが、振り払うように顔を上げ。
    「でも……スサノオに介入するのは本当に難しいの、このチャンスを逃したら二度と会えない可能性が高いわ。だから……」
     ――赤ん坊を含む一般人の被害は無視して欲しい。吐き出すように珠希がつぶやく。
     そして。
    「スサノオを灼滅する為に、じつは2つほど選択肢があるの。どっちがやりやすいかはみなで相談して決めて」

    ●選択肢1
     スサノオが古の畏れを呼び出そうとした直前に接触。
     6分以内に灼滅できれば古の畏れは出現しない。
     ただし6分を過ぎた場合は古の畏れが出現する。
     この辻で殺界形成を使えば一般人はやってこない。
     古の畏れが現れた場合、隙があればスサノオは逃亡する。

    ●選択肢2
     スサノオが古の畏れを呼び出した後に接触。
     接触場所は『辻』からかなり離れた林の中。
     林でスサノオを倒した後、辻に向かい古の畏れを倒す。
     スサノオを倒すのに時間制限は無い。
     辻に向かう前に心霊手術を行っても大丈夫(強制ではありません)。
     スサノオと接触して15分後、辻で一般人が被害に遭います。

    「飾り珠のスサノオの攻撃手段は4つ、呪詛のような言葉を紡いで自身の傷を癒し周囲に防御結界を張る業、己の爪を氷でおおって鋭くしながら周囲の敵を切り裂く業、そして不可視の波動で薙ぎ払うと同時にみなの付与効果を打ち消す業、あとはシャウトみたいな回復業よ」
     飾り珠のスサノオは気魄に特化しているらしく、選択肢1を選んだ場合はディフェンダー、2を選んだ場合はクラッシャーとなって襲いかかってくる。
     古の畏れの方は解体ナイフと契約の指輪に似たサイキックを使い、神秘能力がとても高いらしい。選択肢1を選んだ場合も2を選んだ場合もクラッシャーとして弱っている相手から確実に落してくると言う。
    「今回が飾り珠のスサノオを灼滅する唯一のチャンスよ。絶対に油断しないで、お願いね」


    参加者
    風雅・晶(陰陽交叉・d00066)
    透純・瀝(エメラルドライド・d02203)
    桐谷・要(観測者・d04199)
    皇・千李(復讐の静月・d09847)
    柾・菊乃(薊之姫命・d12039)
    システィナ・バーンシュタイン(マスカレイドミラージュ・d19975)
    櫻井・椿(ななじゅうに・d21016)
    災禍・瑠璃(ショコラクラシック・d23453)

    ■リプレイ


     薄暗い雑木林の中を走る白い影が突如足を止めて獣の耳をぴくりと動かす。もみあげ部分に付いている飾り珠が耳の動きに合わせて揺れ、白い影――飾り珠のスサノオは威嚇するように大きく吠えた。
     ガサ……。
     しかし木陰から現れたのは1匹の猫。
     とっさに攻撃しようとしたスサノオだったが、その姿に一度気を抜き……違和感、ただの猫なのに攻撃が当たり辛いと感じたのだ。それは灼滅者やダークネスの持つ命中力予想力の効果。
     瞬後、スサノオが飛び退き、その空間を刀が薙ぐ。
    「鬼ごっこは終わりだ……」
     気が付けば猫が青い振袖に羽織姿の男、皇・千李(復讐の静月・d09847)へと変わっていた。
     一度だけ目を細め、そのまま回れ右をするスサノオ。だが――。
    「行くぜ虹!」
     振り返った先にボーダーコリーのくわえた刃の切っ先と、地面から立ち上がり喰いつこうとしてくる影の連携攻撃が決まり土埃をあげる。
     コンビネーションを決めたのは霊犬の虹と透純・瀝(エメラルドライド・d02203)だ。
    「飾り珠、お揃いじゃん。お前とも分かり合えたら良かったのに……」
     つぶやく瀝だが、土煙が晴れたそこには不可視の球状防御壁にて守られ傷一つ無い飾り珠のスサノオがいた。
    「へぇ~、やるじゃねーか、でもゆっくりするわけにはいかねえんだ。ヒトの命まで、振り回されてたまるかよっ!」
    「その通りです」
     声を発したのは3人目、柾・菊乃(薊之姫命・d12039)だった。
    「先日は座敷童子に逢わせてくださってありがとう御座いました。今日はお礼を伝え……そして」
     お辞儀から直ると菊乃が手にしたカードを解放する。
    「貴方を、滅しに参りました」
     同時、スサノオを包囲するように他のメンバーも姿を現す。
    「あれがスサノオ……なぁなぁメッチャもみあげ引っ張りたいんやけど」
     現れた内の1人、櫻井・椿(ななじゅうに・d21016)が言えば、バカにしているのかとばかりにスサノオが睨んでくる。しかし椿はニヤリと笑うと「死の幕引きこそ唯一の救いや」と殲術道具を出現させる。
    「さぁ、最初っからクライマックスやけど、赤ん坊助ける為に飛ばしていこか!」
     椿の声とともに灼滅者達が一斉に動き出す。
    「咲誇れ、凍華……」
     最初に飛び出した千李が朱色の鞘から愛刀を抜くと、その軌道を伝うように氷の華が咲きスサノオへと迫る。
     それが、ついに尻尾を掴んだ飾り珠のスサノオとの戦いの始まりだった。

     この戦いを一言で要約するなら「苛烈」の一言につきるだろう。
     飾り珠のスサノオがいてつく波動を放ち、さらに氷爪にて前衛たちを蹂躙すれば、壁役のシスティナ・バーンシュタイン(マスカレイドミラージュ・d19975)と瀝(と相棒の虹)がカバーに入り、即座に全員がお返しとばかりに攻撃を行う。
     まるでノーガードで打ち合うようなサイキックが乱れ飛ぶが、回復役の椿と状況を見て回復も行う菊乃が灼滅者側に最低限の治癒を施す。
     そして幾合かの撃ち合いの後――。
     乱戦状態の灼滅者達の隙間を、針の穴を通す正確さで一条の光が貫く。
     それは鮮やかな赤い髪に深い緑の瞳を持つ少女、桐谷・要(観測者・d04199)の制約の弾丸だった。スサノオのこめかみへクリティカルヒットしブチリと飾り珠の一房がちぎれ飛ぶ。
     重たい一撃に思わず悲鳴が漏れるスサノオ。自然、灼滅者の包囲が薄い場所を視線で探す。――だが、スッと顔に影が降り慌てて後ろに飛びすさる。
     頭上からの踵落としを避けられたのはシスティナだが、目的はそれじゃない。
    「逃がさないよ」
     システィナの蹴りを避けたせいで、再び包囲網の中心へと移動してしまった事にスサノオが唸り声を漏らす。
     そこに追い打ちをかけたのは災禍・瑠璃(ショコラクラシック・d23453)だ。まるでやってくるのが解っていたかのように、タイミング良く断罪の大鎌が振り下ろされ避ける間も無くスサノオの前足が大きく切り裂かれる。
     激痛とともにバランスを崩すスサノオ、なんとか踏ん張り顔を上げた時……だがそこには小太刀を左右それぞれの手に持った風雅・晶(陰陽交叉・d00066)がいた。
     それは舞いのごとく。
     右手には、鎬に白い筋の通った黝い肉喰。
     左手には、鎬に黒い筋の通った白い魂結。
     思わず見惚れるスサノオ。

     ――斬ッ!

     そしてそれが、飾り珠のスサノオが見た最後の光景となったのだった。


    「ふー」
     髪の毛を払って息を吐きながら、時間を確認するのはシスティナだ。
     時計の針は5分を差すまであと30秒ほど残していた。
    「皆、怪我の具合は?」
     灼滅者達は5分以内にスサノオを灼滅でき、体力が5割を切っていなければ休憩を取らずに連戦する考えでいた。
     システィナの問いに8人中7人が大丈夫だと頷く。晶と要、千李とシスティナは6割、瑠璃と菊乃、椿はぎりぎり5割といったところだ。神采配とも言えるポジショニングがこのダメージ量で踏み留まれたと言える。だが……。
    「透純先輩は……無理そうですね」
     要の指摘通り、1人立て膝をついて座っていた瀝に視線が集まる。
     瀝は仲間を守るよう動いていた。システィナも同じだったがサーヴァント持ちはどうしても他者より体力が劣る。
     ポジションが神懸かっていたコト、全員が攻撃優先で戦ったコト、そして霊犬の虹が瀝を庇って消えていなかったら……この結果は違っていただろう。
     要が誰もが言い辛い事を口にする。
    「救える人がいるなら救いたい。その気持ちはわかるけれど、感情に捉われて本来の目的が果たせなければ無意味……休憩するべきだわ」
     長く相談する時間は無い。
     全員の体力が5割以上でないならやめるべき……それは正しくもある。
     だが、その言葉に明らかに反論を唱えそうになり(そして言葉を飲み込む)メンバーも数人いた。
     つまり……神采配故の、微妙な判断ライン。
    「正直一般人の被害に目を瞑るんが一番やねんけど……」
     そんな中、準備運動をしつつ言うのは椿だった。
    「赤ん坊を見捨てるんわ……キツいわ」
     対して真っ向から反論したのは千李だ。
    「人命には……興味無い……」
    「なっ!?」
     無表情な千李だが、その意見に同意するメンバーも数人いる。
     相談する時間は無い。
     そして――。
    「あー! ったく! 理屈も、道理も、俺だって分かってる!」
     叫びつつ立ち上がったのは瀝だ。
    「だけど俺は行くぜ! 誰の命も最初から諦めたくねえんだ! 俺が足手まといになるかもしれねーが10分経てば虹だって復活する。それなら問題ねーだろ!」
    「だが……」
    「ソコをどけ」
     言うが早いか走り出す瀝、「ウチもや」と走り出す椿と一度頷いてから椿に併走して付いて行くシスティナ。
    「……理解はします。とても愚かな選択だと」
     一歩前に出て言うは菊乃だ。
     可能なら闇堕ちしてでも先に走って行きたかった。しかし、ピンチでも無い状態で闇堕ちなどできるはずもなく、菊乃にとって5分でスサノオを灼滅できた今、迷うべき選択肢は無い。
    「それでも……今救えるかもしれない命を、私は諦められません。でなければ私は灼滅者の……いえ、人である意味が無い」
     そう言い捨て菊乃が3人を追うように走り出す。
    「言ったよね。無茶をするならみんなでって……もちろん、隊列や戦術を変えるのは忘れずに。大丈夫、なんとかなるよ」
     笑顔を残し、白衣を翻しながら瑠璃も走り出す。
     もっとも、瑠璃の中では1つだけ後悔もある。先ほどのスサノオ戦、瑠璃はバッドステータスを付与するジャマーとして戦ったが、短期決戦を目指すなら別の役割の方が効果的だっただろう……だから、次こそはという気持ちが無いわけでもない。
     残ったのは3人。
     晶が要と千李を見てわずかに首を傾げて促す。
    「手伝わないとは……言っていない」
    「私だって助けたいです……それに、確率がゼロというわけではないですしね」
     そして残った3人も、休憩せずに走り出したのだった。


     少し広めの道が交差する『辻』に1人の女性が立っている。
     真っ白な衣の下半身を血に染めたその女性は、スッと四方へ伸びる道の1つを見つめる。
     その視線の先から1台の車がやってくる。
     車の運転席には焦った表情の母親、時折チャイルドシートに乗せた赤子を心配そうに見していた。
     そして、まるで車内の赤子が見えるかのように辻に立つ女性が。
    『赤ちゃん……私の、赤ちゃん……』
     だが次の瞬間、車を運転する女性が無意識にハンドルを切り、途中で曲がって別の道へと行ってしまう。
    『あ……』
     辻の女性が車が曲がった方へ向おうとするも、足に絡まる鎖が女性を辻から逃がさない。
    『私の……』
    「いえ、あの子はあなたの赤ちゃんではありません」
     急に自分へと掛けられた否定の声に、辻の女性――古の畏れ『産女』が振り向く。
     そこには息を切らせた8人の少年少女がいた。
     産女に声をかけた少女、菊乃が殺界形成を使用したまま「間に合いましたね」と呟く。
    「ああ、それに……」
     心から安堵しつつ瀝が足元をチラリと見つめれば、時間が巻き戻るかのように霊犬の虹がそこに出現する。
    「こっちも準備OKだ」
     瀝の声に返事をする虹。
     現れた闖入者を感情の無い瞳で見据えていた産女だが、興味無しとばかりに再び車が来ようとしていた方へと身体を向き直り。
     ドッ!
     その鼻先をオーラが掠める。
     それはサイキックで牽制を放った瑠璃。
     ゆっくりと産女が振り向き、その顔には明らかな敵意が浮かんでいた。

     灼滅者達は残りの体力に合わせ最適解と思われるポジションへと役割を変えていた。要・晶・システィナ・瑠璃・菊乃は変わらずだが、瀝が回復役へ周り、代わりに椿が攻撃役へ、千李がカバーリング役へと役割をチェンジする。
     だが、事前の情報通りに産女は弱っている相手を狙い攻撃してくる。
     最初に狙われたのは瀝だった。
     石化の呪いが込められた視線と、長く伸びた爪が容赦無く襲いかかる。
     もちろん、その攻撃を素で通す灼滅者達ではない。霊犬の虹が、千李が、システィナが交互に庇う。
     だが確実に誰かしらが庇えるわけではない。
     虹が瀝を庇って消滅した次の攻撃で、ついに産女の爪が瀝の胸を貫く。
    「ぐ……は……」
     そのまま倒れて動かなくなる瀝。
     ズルリと爪を引き抜く産女だが、その隙を狙ったかのように要が紅蓮撃を叩き込まれ仰け反る産女。
    『お、おお……』
     産女の全身からサイキックエナジーが立ち昇り、ゾクリと何かを感じた要が慌てて距離を取る。
    『おお、おおおあああああああっ!』
     産女の叫びと共に呪いという名の猛毒が前衛達へと襲いかかる。
     すでに瀝を庇って肉体の限界をとうに越えているシスティナと千李が、目も合わせず攻撃役の前衛達の前へと身を踊りだす。
    「システィナはん……」
    「あ、あとは……たのみ、ます……」
     身を呈して仲間を守りつつ、システィナがゆっくりと大地へ。
     ガシッと椿がその身体を支え。
    「もちろんや」
     そのまま壁際へシスティナを寝かせる椿。
     問題は仲間を庇って限界が来たもう1人だった。
     明らかに倒れる寸前なのに、ゆらりと耐えたままドス黒い殺気を放ちだす。
     銀のカフスに触れる千李の瞳に、少しずつ紅がさしていき、心の底から闇が鎌首を上げ始める。
    「それをしたら、元も子もなくなります」
     産女を見つめる千李の視線を遮るよう手をだし、晶が言う。
     虚ろになりつつある瞳で晶を見上げる千李。
    「もう少しだけ、仲間という物を信じてみてはどうです?」
     晶の言葉に千李の瞳にわずかに色が戻ってくる。
    「まだ、諦めるには早いですから」
    「な、ら……必、ず……」
     そして3人目の犠牲者として千李が倒れたのだった。


     産女との戦いは続く。
     右手の肉喰が産女の繰り出す爪を受け止め、左の魂結が隙の出来た脇腹を切り裂く。舞うように確実なダメージを重ねる晶だが、チラリと倒れた仲間をみやる。
     つい先ほど、集中的に狙われた椿が倒れた所だった。
     残っているのは自分を含め4人、つまり最初に決めていた『撤退条件』を満たしたのだ。
     小太刀二刀で産女の攻撃を捌きながら、仲間に視線だけで問う晶。
     その視線を受けて答えたのは冷静な要だった。
     魔導書からサイキックを否定する魔力を放ちつつ。
    「言いたい事は解ります……でも、今回は少しくらいなら、無茶をしましょう」
    「そうですね」
     要が同じ事を考えていた事に晶も頷く。
     2人は最前線で戦い続けていた。産女があと少し……そう、仲間達が全員で1度ずつ攻撃を命中させられれば倒せる程度には弱っていると確信していた。
     底が見えない敵との戦いならここは迷わず撤退だろう。だがあと少しで倒せる今、ここで撤退するのは――。
     晶が、要が、そして菊乃と瑠璃の残った4人が覚悟を決めて殲術道具を構えると、一斉に産女にへとびかかる。

     あと1撃ずつ!

     だが、運命の歯車はここで最悪のランダム結果を導く。
    『おお、おおおあああああああっ!』
     産女が呪いの邪毒を叫びと共に撒き散らす。
     それは単体攻撃が主だった産女が唯一持つ範囲攻撃。
     瑠璃の放ったオーラが産女の胴を撃ち、死角から殴りつけた菊乃の黒死斬が産女の頭部にヒットする。
     しかし、叫びの呪いをモロに受けた要と晶はその攻撃を届かせる前に大地へと転がる事となった。
     まさにタッチの差。
     そしてそれは、絶望という名の壁となって菊乃と瑠璃の前へと立ち塞がる。
     攻撃役の2人が1回ずつ攻撃できれば倒せるほどまで追い詰めておきながら、しかし残った2人の攻撃力では、それぞれ1回、いや2回は攻撃する必要がある。
     だが、その前に産女の攻撃で1人ずつ落され……。
    「手数が……足りないわね」
     瑠璃が悔しそうに呟く。
     菊乃も唇を強く噛みしめる。
     そういう間にも再び産女が攻撃モーションに入る。両手の爪が伸び地面を滑るようにこちらへと向かってくる。
     だが――。
     産女の爪による攻撃は菊乃達の手前で空を切る。
    「外した?」
     よく見れば産女の身体を縛る影がその身を捕縛し、産女の爪が届かなかったのだ。
     そして訪れるは千載一遇の、チャンス!
    「さっきのスサノオ戦は後悔しましたが……これで、名誉挽回できたでしょうか」
     言いつつ瑠璃の影がさらに産女を締め上げる。
     そこに菊乃の影から生まれた顎持つ影達が殺到する。
    「値千金だと思いますよ」
     菊乃の影達が産女の胸を食い破り、そして……。

     戦いは綱渡りの連続だった。
     正直、現場での判断としても迷う部分はあった。
     だが、ギリギリまで最善を得るために考えたからこそ、薄氷を渡りきりこの結末へと辿りついたと言える。
     産女が消滅した辻に座り込み菊乃と瑠璃は息を吐く。
     仲間達は皆重傷だ。
     自分達もあと少しで全滅か、誰かしら闇堕ちしていてもおかしくなかった。
     しかし、それだけのリスクを負った結果――。

     スサノオ・古の畏れ――灼滅。
     一般人の被害――ゼロ。

    作者:相原あきと 重傷:風雅・晶(陰陽交叉・d00066) 透純・瀝(エメラルドライド・d02203) 桐谷・要(観測者・d04199) 皇・千李(復讐の静月・d09847) システィナ・バーンシュタイン(罪深き追風・d19975) 櫻井・椿(発育はいいほう・d21016) 
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2014年3月21日
    難度:やや難
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 23/感動した 1/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 0
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