Wandering Phantom

    作者:那珂川未来

     都会の喧騒の中。歩く、というよりは滑るように、一人流離う。
     悪戯に色彩を反射する瞳は、好奇心に満ちていて。行き交う人の姿を写すたびに、幻夢浮かぶような揺らぎを湛え。万華鏡の煌めきの中、何かを探すみたいに。
    『んー。ちょっと好みじゃねぇかな?』
     翻って、また何かを探すように。あてもなく街を歩きだす。
     どこか独特の雰囲気を醸し出す少女の顔。知っているものが其処にいたとしたら、行方不明の月舘・架乃(ストレンジファントム・d03961)と確信するに違いない。
     けれどそれが本当の架乃ではないということは、まるで鏡に映したように、髪の結び目も利き手も正反対。そして普段は黒いゴシックパンクの装いは、真逆の白だから。
     気まぐれに人波を泳いでいた架乃だけれど――不意に視線を向けた先、路地裏にたむろする男達を見て立ち止る。しゃがみこんで煙草ふかし、辺りを無意味に威圧している、どうみても素行の悪そうな、そんな男達。
    『また、いやがった……』
     零す言葉に溢れんばかりの怒気。明らかに、このようなガラの悪い男達だけには、過度な反応をしていた。
     架乃は不穏な笑みを浮かべながら、ずかずかと男達の前へと。
     男達は架乃の接近に気づくと、顔面の筋肉をフル動員して強面作り、
    「なんだコラ?」
    「何見てんだねーちゃん」
     今にも掴みかからんばかりに、顔を近づけて。
    「ガキが粋がっ――」
    『くっさい口近付けてんじゃねぇよ』
     男の威圧は、顔面を殴られたことによって遮断される。架乃の怒りを体現しているかのような、禍々しい腕の数々によって。

     馬鹿にされた。
     馬鹿にされた。
     あんなダークネスなんかに!!

    『粋がってんのは、テメーのほうじゃねぇか!』
     激昂する架乃。空間を埋め尽くすほどの影の腕が、男達をアスファルトの中へと潰してゆく――。
     
     
    「月舘・架乃ちゃんの行方がわかった」
     この報を待っていた人もいただろう。仙景・沙汰(高校生エクスブレイン・dn0101)はすぐに説明へ。
    「架乃ちゃんは現在、月舘・架蓮という名を名乗っている。これは闇堕ちして出てきたシャドウの名前。そのシャドウである架蓮は、この都市の繁華街を歩いている」
     自分好みのソウルボードを探しているらしい。一応人間世界の常識やマナーなとはわきまえており、そして年頃の少女の興味も持ち合わせたままなので、普通にウインドウショッピングしたりして、時を過ごしていたらしい。
     それだけならまだまだ害がないと言える範囲――だったのだが。
    「先日の闇堕ちゲームで、闇堕ちの末に灼滅できた呉・彗龍の捨てゼリフに、かなり神経を逆なでされたらしい。そのため、彗龍の様なガラの悪い男を見ると、苛立ってしまうんだろう」
     言っちゃえば、八つ当たり、なのである。
     その苛立ちをぶつける相手がいなくなったせいで、それと似たものにぶちまけているのだ。
    「架蓮も、最初は悪戯程度だった。悪夢を見せたり、小さな怪我をさせたりね」
     けれど、だんだんエスカレートしてきている。腕を折る、深く斬る……いずれ人を殺してしまうのも、そう遠い未来ではないと。
    「だから、ダークネスとしての残酷性が上回る前に、救出しなければならない。現時点での架蓮は架乃ちゃんを双子の肩割れの様な認識でいるみたいで、架乃ちゃんが戻りたいと願うなら戻してもいいと思っている。けれど……人を殺せばいずれ架乃ちゃんそのものを押し潰し、架蓮はそんな片割れなんていう気持ちも亡くして完全なダークネスとなってしまう」
     だからこのチャンスを逃すわけにはいかない。
    「接触するには、夜の八時に、この付近の路地で待っていればすぐに見つけられる。駆け寄っても逃げないから、接触も容易なんだけど……」
     時間帯やら駅前繁華街ということもあって、ガラの悪そうな男は結構多いらしい。
    「だから、普通に話しかけただけじゃ、そう言った男を見つけ次第、こちらを後回しにして、ガラの悪い男へと攻撃を仕掛けるだろう」
     そうなったら大変。周りの一般人も巻き込まれ、皆殺し前提の大惨事。下手な方法で止めれば、更なる激昂を誘うかもしれない。
    「なので、何らかの方法で上機嫌にするか、苛立ちを解消すればいいんだけど……」
     沙汰は思案した揚句。
    「架蓮も架乃ちゃんと同じで甘いものが好きみたいだね。だからそれを持って皆でたむろするとか」
     例えば、鯛焼きやら、クレープやら、ポップコーンなど……外で食べていても変じゃなものを用意して、
     甘いものでも食べて落ちつけよ!
     とか。
    「彗龍に対しての苛々を解消させるとか……」
     あんな負け犬の苦し紛れの捨てゼリフなんて気にしちゃ、女がすたるぜ!
     とか。
    「あとは、架乃ちゃんのお友達、いい解消法あれば、それを提案してもらえば」
     それが上手くいけば、腕試しと称して、人気のない場所に移動してくれる。
     そこで、架乃へ言葉と思いを込めながら戦い意識を浮上させ、勝利すれば、架蓮はきっと架乃を返してくれる。
     その際の注意点。
     決して架蓮を否定しない。悪だと決めつけた物言いはしない。そもそも返さないなん言っているわけでもないため。
     そのうえで架乃を皆が待っているという前向きな言葉を投げかけてあげれば。
     接触時さえなんとかできれば、かなりの確率で戻せる。もしも失敗したら、完全に闇落ちしてしまい、おそらく、もう助ける事はできなくなるだろう。
    「皆なら、きっと架乃ちゃんと一緒に帰って来てくれるって、信じてるよ」
     


    参加者
    竜胆・藍蘭(青薔薇の眠り姫・d00645)
    ギィ・ラフィット(カラブラン・d01039)
    ジュラル・ニート(デビルハンター・d02576)
    雨柳・水緒(ムーンレスリッパー・d06633)
    パニーニャ・バルテッサ(せめて心に花の輪を・d11070)
    エール・ステーク(泡沫琥珀・d14668)
    リネアリス・フランチェーゼ(蛍色の銀雪・d24525)

    ■リプレイ

    ●Search
     きらきらと輝く人口の光が、夜の街を賑やかにして。行き交う人々も、その雰囲気を楽しんでいる。
     けれどそこには、当然のように暗い部分も潜んでいて、それは人の世の中にわだかまる闇はもとより、人の形をした闇も今もこの辺りを泳いでいた。
    「架乃……」
     久し振りに見る友達の姿を見て、パニーニャ・バルテッサ(せめて心に花の輪を・d11070)は無意識に名を呟く。
     真っ白なゴシックパンクを纏う架蓮は、繁華街という闇に迷い込んだ幻夢のよう。今ここで見失ったら、あっという間に闇に溶け、二度と見つけられないと感じるほど――どこか人ではない危うさを滲ませている。
    「ま、後は連れ戻すだけだわね」
    「うん。戻ってこれなくなったら、それこそ負けだと思うんだ」
     最初からそれ以外の選択肢、持ち合わせてないもんでとジュラル・ニート(デビルハンター・d02576)。淡々と頷くエール・ステーク(泡沫琥珀・d14668)。
     彼女を知る者たちの言葉を耳にしながら、リネアリス・フランチェーゼ(蛍色の銀雪・d24525)は初めて会う架乃という人物の強さを改めて知り、決して亡くしてはならぬと思う。全てを守る為の勇気、自らを闇に落とす決断。それは尊いもの。
    「今度は私たちが、貴女を守ってあげよう」
     ふわり。
     甘い香が街中に流れる。

    ●Confection
     人々は何かそわそわと、言いようのない不安に脅かされている様な。まるでここにいる全員が、虫の知らせでも聞いたみたいに、家路を急ぎだす。
    『あれ……おかしいな』
     その様子に、ぴたりと架蓮が歩みを止め、辺りを警戒するように視線巡らせている。
     例えダークネスであろうとも、はっきりと殺界形成の使用を感じることはできない。けれど繁華街に起きた明らかな様子の変化が目に見えてわかればそれと察知され、警戒を始めてしまう。
     路地に佇み、マーテルーニェ・ミリアンジェ(散矢・d00577)はますます言葉に慎重さを持たせようと意識する。全ては架蓮に残っている人間のような感覚を頼りに、眠っている架乃が消えてしまわないために手を尽くしているだけなのだが――彼女はダークネス。灼滅者とは宿敵同士であるが故、自分を灼滅するために、事前に人払いをされたと勘違いされたら大変。
    「どうしよう。ひとまずガラの悪いのは個別対応する?」
    「しばらく実力で何とかしよう」
     パニーニャに頷いて、リネアリスはすぐに殺界を解いて。人払いを買って出てくれているサポートの人たちの力も借りて。
     右手にチョコバーを、左手にドーナッツの箱をぶら下げて。ギィ・ラフィット(カラブラン・d01039)が先頭をきって近づく。
    「お久しぶり。それとも初めまして?」
     掛けられた声に、警戒を強めた顔つきのまま、歪な影の腕を現実に具現化させて威嚇しながら振り返る架蓮――だったのだけど。
    『あれ……?』
     まさかのチョコバーの剣にドーナッツの箱の盾を装備している、架乃の所属するクラブの部長さんだったものだから、歪な腕を一度影の中へと沈めて。
    「架乃……いえ、架蓮ですかね、僕達のことは覚えてないでしょうか」
     架蓮に微笑みを向けて、竜胆・藍蘭(青薔薇の眠り姫・d00645)がたくさんのポップコーンが入ったキュートなプラスチックケースを抱えたまま、戦いに来たのではないのですよアピール。
    『うん、知ってる……んだけど』
     ドーナッツの箱とポップコーンケース、ガン見の架蓮。
     スイーツ好きとして、捨て置けない問題が其処に。架蓮曰く、お前何故そんなものを持っている(いい意味で)、だ。
     ぐっと拳握りしめる藍蘭とギィ。
    (「好感触ですね」)
    (「このままお菓子包囲網で、ガラの悪い男どもから架蓮さんを守るっすよ(罪を犯させない的意味で)」)
     けれど灼滅に来た可能性も捨ててはいないのか、ちらちらとこちらの様子も伺いながら身構えているものだから、雨柳・水緒(ムーンレスリッパー・d06633)は早々に目的を告げる。
    「架蓮さん、危なかった架乃さん達を助けてくれたことに感謝しています」
     ぺこり。丁寧に頭を下げる藍蘭。
     助けて当然じゃないかと架蓮。
     けれど彼女はダークネス。その真意が本当の意味での愛情なのかと言えば――悲しいことにいずれ歪みを起こしてしまうのは避けられない事実。
     架乃の魂が弱っていくほどに、架蓮はシャドウになる。いずれはソウルボードに引きこもって、いもしない片割れと姉妹ごっこに興じたりしながら、人の精神を荒廃させてゆくかもしれないのだ。
     そんな理不尽な悲しみに、きっと気付いていない架蓮を、寂しくも思いながら、水緒は鯛焼きとクレープが詰まった可愛いクラフトボックスを差し出して、
    「今日はそのお礼も兼ねて、貴女に会いに来ました」
    「こちらは手土産です」
     水緒がクラフトボックスの蓋をあければ、ふんわり漂う甘い香り。畳み掛ける様に、クラスメイトの桐人がキュートなカラーのマカロンをはいどうぞ。
    『わ』
     チョコバーにポップコーン、鯛焼きナドナド。更に増えたあまーいお菓子。架蓮はたくさんのスイーツにどきどき。ソウルボードを転々としていたから、リアルお菓子は久し振り。
    『一つくれるのか?』
    「一つと言わず、二個でも三個でも。あんまんもお一ついかがです? 私的には粒あんオススメなんですけどねー」
     こしあんもありますよーと、ジュラルは普段の調子を崩さぬまま、飄々とした態度でほかほかあんまん取り出せば、ぱああーっと目を輝かせながら、あんまん受け取る架蓮。
    『サンキュー』
     早速ぱくっ。
    『んまっ、これ美味しー♪』
     そして絶賛。久し振りに食べたあんまんの甘さが染みて、架蓮は嬉しそう。
    「あの、買い食い立ち食いはあまり……」
    「それに皆でお話ししながら食べると美味しいですから」
     感心できるものでもないですからと、マーテルーニェは場所を変えませんかと提案。藍蘭が移動を後押しすれば、意外にすんなりと、架蓮は了承してくれた。

    ●Persuasion
     案内された場所は、冬季休業中のアスレチックのある公園。丸太のブランコと東屋の付近で、甘いお菓子を広げて。
    「彗龍との戦いがどんなだったか話には聞いてるけど、灼滅されて勝ち逃げも何もないよね――あ、これ温かいうちが一番美味しいんだよ」
     エールは頬杖つきながらクレープ食べつつ、ほかほか鯛焼き架蓮に勧め。
    『そう思うだろ? ヤロウ、オレにボッコボコにぶん殴られてボロッボロのくせに、偉そうでさ』
     受け取る鯛焼き、頭から盛大にあむっと。共感者を得た架蓮の主張に力も入る。
    「ただの捨て台詞だよね」
     七葉の同意に、リネアリスもクレープを食べながら頷いて。
     完全に、ピクニックに来た女子高生がお菓子広げて駄弁ってますの図。
     とにかく、和やかである。
     けれど肝心な話はまだ。架乃を目覚めさせるための切符を手にしなければならない。そう思っていた矢先、御馳走様でしたと、架蓮は両手を合わせると、
    『さてと……本題に入ろうか』
     真面目な面持ちで、灼滅者をぐるりと見回した。
    「そうですわね。灼滅者の接触がどういうことか――架蓮さんなら、わかっていますわよね……」
     架蓮だってただお菓子に釣られていたわけじゃない。シャドウである架蓮が、そんな食い意地だけで動くわけもない。当然目的だってわかった上で、敢えてここに居るのだ。
     ただずっと見ていた。この灼滅者たちは、架乃の『姉妹』である自分にどんな態度で接してくるのか、そしてどんな態度で架乃に接しているのか。
     これも架乃に対する愛情か。
     それとも――自身を現実に繋ぎとめるモノを本能的に潰すための手段としたのか。
     それは誰にもわからないが。
     マーテルーニェは立ちあがると姿勢を正し、深々と頭を下げた。
    「実は、お迎えにあがりました」
     助けに来たという言葉は、下手をすると最悪の結果になるとマーテルーニェは気付いているから。だから、どうしても駄目なときのまで、決して言わないように慎重に言葉を選んで。
    「架蓮さん。架乃さんの中にいて楽しかったでやしょう? ならもう一度架乃さんに身体を返して、架乃さんが泣いたり笑ったりする情景を見てる方が絶対いいっすよ」
     だから、どうかお願いできないっすかねとギィ。
     架蓮は眉間寄せ、
    『折角架乃がここへ呼んでくれたんだ。オレだって架乃と一緒に世界を楽しみたい』
     あくまで、架乃は片割れで、今も自分に寄り添っていると主張する架蓮。架乃はこっちへ返して、架蓮はそれを硝子越しに見ていて欲しいという言い方は、仲間外れにされる様に聞こえたのだろうか。
     その時、すっと和真がやってきて。
    「月舘さんのおかげで彗龍を倒すことが出来た。あのときの子供たちも救うことが出来て、俺達も助けられた。だから、会ったらまずはお礼を言おうと思ってたんだ」
     和真は深く頭を下げると、
    「ありがとう、俺達とあの子たちを助けてくれて、ありがとう」
    「架蓮さん。そのお礼を、架乃さんにも言わせてくれないかな? 陽和にとって架乃さんは恩人、つまり僕にとっても恩人だから」
     ここにいる誰もが、あの時のお礼を架蓮と一緒に架乃にも言いたいのだと朔夜。
    「さっきのマカロン、架乃の口にも合うと思う?」
    『うん』
    「片割れなら半分あげてもいいよね?」
     自分の手で、このマカロンをあげたいのだとアシュは言って。
     ここにいる灼滅者は、架乃とも一緒に帰りたいんだって。
     しばし考えていた架蓮だったが、一つ頷き、
    『わかった。アンタ達がオレに直接お礼を言いに来てくれたように、架乃にもその言葉を届けたいっていうなら……』
     ぴょんと、架蓮はベンチからから降りて。
    『その資格があるか、やってみろよ』
     架蓮の足元、歪な闇が幾つも伸びてきて――真っ白な架蓮の姿に、鮮明に映えた。
     相手はシャドウ。現実世界に苦労無く実体化していられるような、まだまだ若い存在とはいえ、ダークネスの中ではヴァンパイアやノーライフキング、六六六人衆と並ぶ危険な種族。
     苦戦必至。そのため架乃の目覚めは必須。
     油断せずに構え、エールは強い眼差し向けて。
    「絶対に呼び戻すよ、こんなに架乃先輩を思ってくれてる人が居るんだから」
     架蓮はその言葉に偽りがないかどうか試すような視線を向ける。
     そして――闇に純白踊る。

    ●trial
     炎走り、砂塵が舞う。
     闇夜に弧を描く血の軌道が、星を結ぶように流れ、刃は闇裂き目覚めを呼び込む様に光る。
    「その命吸わせてもらいます」
    「架乃さんには随分と場を盛り上げて頂きやしたからね」
     水緒が大地を滑るように走りながら鮮血のオーラぶち当てて、ギィの漆黒の火炎が架蓮の純白を飲みこむ。
     架蓮は歪な影の腕をしならせて、絡め取りながら確実に攻撃を当ててくる戦法だ。
     魔力を畏縮させる様な力が、リネアリスの胸を穿つ。
    「……高速演算モードに切り替え」
     バベルの鎖の力を一時的に上昇させながら、縛霊撃にて純白の闇に戒めを。
    「僕達の事を思い出して下さい、いつも笑顔で楽しい貴女に戻って下さい」
     クラブのみんなも待っていますと藍蘭。
    「架乃達と一緒に鋭利へアクセスした時の事は、よく覚えてるわ。手伝う……ってメール、とても嬉しかったし……お蔭で鋭利へのアクセスも実行できたわ」
     これからもまた、架乃と一緒に困難乗り越えたいとパニーニャは思いを乗せて螺穿槍。
    「架乃さんは大事な部員。絶対皆の所へ連れ帰るっすよ。それが部長の責任っす」
     ギィのレーヴァテインが闇に混じる。
    「クラスのみんなも帰りを待っています。一緒に帰りましょう!」
    「わたしも、架乃ちゃんに帰ってきて欲しい! ね、一緒に帰ろう!」
     水緒の攻撃に合わせて、クラスメイトの飛鳥が後方支援とともに思いを放つ。
    『そう思ってるの、アンタ達だけかもしれないじゃん』
     友達だと思ってたら、友達じゃなかったなんて、よくある話。そう言いながら架蓮は、トラウナックルで水緒を穿つ。
    『架乃がオレを呼んだのだって、そこからの決別するいい機会だと思ってたら、どうする?』
     垣間見える、人の闇や不安を探り、煽るシャドウの本質。架蓮は跳躍しながらリップルバスターで前衛陣を薙ぎ払う。
    「戻ってきてもらわないと部長が寂しがるだろうし、なにより女の子の闇堕ちは世の中の損失だ」
     わたどりのねどこの仲間として推参したレクトが手早くエンジェリックボイスで、主力の手助けを。
    「なんとしてでも連れて帰るよ!!」
    「学園に戻ったら、久しぶりに会いに行きます。だからその時はまた雑談でもしましょう」
     朝嘉と太郎もマーテルーニェの援護を行いながら、声を張り。
     トラウナックルの置き土産はあえて無視して、ジュラルは二の腕を伝う血を払うと、イオン砲を構え。
    「というかアレですよ、連れて帰れるよう全力尽くすとか言ってきた手前、『失敗しちゃったテヘッ』とか言えないんですよこっちは」
     禍々しい影纏わせるPunishmentの一撃を、ジュラルはスレスレでかわすと、至近距離でのバスタービーム。
    「このまま戻らなければ最初の挨拶が最後の挨拶になってしまうだろう……?」
    「あんたを馬鹿にした奴はとっくに消えたわよ。いつまでも拗ねていないで戻ってきて欲しいんだからね」
    「何よりも人を思いやれる優しい貴女があんなダークネスの言葉に踊らされるままに彷徨うなんて、耐えられません」
     影もぐという場で出会ったばかりの架乃と、これっきりだなんて寂しすぎると雛菊。明日等が戻ってほしい気持をてんこ盛りに乗せ、バスタービームを撃って。まだまだお話ししたいことがいっぱいあるのだと、陽和は必死に声をあげて。
    「ライブハウスに一緒に出られないのは寂しいですわ」
     それ程沢山言葉を交わしたことがあるわけではない。クラブ活動を共にする仲と言われてしまえば、それまでだけど。だけどマーテルーニェは言葉を紡ぐ。
     同じ志を目指した者としての絆。そして――、
    「私にはない活発さ明るさ、それを持っているあなたが失われるのが、ただ、寂しくて悲しい。だから」
     戻ってくださいませ。
     凛とした一閃。それが響いたかのように、架蓮は思わず頭を押さえ顔しかめ。
    「ジェラル――!」
    「はいよっと」
     藍蘭は意識の浮上を直感して。クルセイドソードの柄をしかと握って特攻仕掛け。飄々としながらも、鋭く向けたイオン砲。
     藍蘭とジュラル、息のあった連携に、架蓮はくらりとよろめいた。
     軽く顔をしかめる架蓮。何か苛立つような顔のまま、歪な腕で、迫るギィを狙い打ち。
    「避ける気ないっすよ。これもお二人との意思疎通っすから」
     血が流れようとも、零す笑みは鮮麗で。無敵斬艦刀が大気を歪ませる勢いで振るわれる。
    『うっ!』
     溜まらず地に手をつく架蓮。次いで入るマーテルーニェの放つ神霊の一閃。架蓮の周りに蠢く闇を切り裂き、消滅させて――。
    「子供達の命を守れたこと、それは架乃先輩の勝利にはなりませんか? 貴女の帰りを待ってる人が沢山居るんです」
     どうかこの声が少しでも架乃先輩の心に届きますように。一葉が、霊犬・犬夜と共に、癒しを大気に溶かす。
    「アイツに次はないけれど、架乃先輩は次がちゃんとあるんだよ。だから戻ってきて欲しいな、皆のところに」
     たくさんの人が待ってるよ。そんな思いを込め、エールが捻り出した螺穿槍の矛先が、架蓮の右肩に深々と。次いで迫るのはパニーニャの影。
    「ムカつくむむむ衆の事なんてソウルボードからポイして、スイーツでも一杯食べて、学園、一緒に戻りましょ!」
     影の尖端が、架蓮の半身を切り裂いて。
     痛みに架蓮が呻いて、右肩を押さえた。
     まるで右利きの架乃の心配をするように。それでいて――その魂を押さえこむかのようにも見えた。
    『……架乃、起きるのか?』
     架蓮は静かに目を閉じ、囁く。
     開かれた目には。残念そうな、嬉しそうな。どちらとも言えない感情湛え。
     必死に、必死に、架蓮は架乃を繋ぎとめようとしているけれど。
     それは、叶わない。
     今も、この先も。
     彼女はシャドウであるから。
    『わかった……』
     あれほど流麗に動いていた架蓮が、ぴたりと動きを止めて。降りかかる全ての攻撃を身に受けた。
    「月館、架蓮……」
     リネアリスは一撃を押し込んだまま、最後にその名を囁く。
     架蓮の意識が、急速にしぼんでゆくのを感じたから。
    『次は……承知し……』
     二度目は無い。そう暗に言い含めて。
     覆っていた何かが消滅し、純白の服に色が戻る。
     髪飾りは解け、何もかもが逆転する。
     彼女の世界が――。
    「みんな……」
     涙に濡れた紫の瞳が久方ぶりの世界を写す。
    「架乃さん」
    「よかったぁ!」
     水緒はつい涙腺を緩ませ、パニーニャは感激のあまり架乃へと抱きついて。
    「架乃さんお帰りなさい」
     溢れるたくさんの言葉。 闇の中を魂の片割れと共に彷徨っていた架乃も、今ようやく現実の世界へと生還を果たす。
    「……ありがとね」
     本当に、心から。
     架乃はたった一言にたくさん思いを乗せて。溢れる思いは涙と共に。
     喜び泣く仲間たちの顔にまた涙。
     そして――。
     例えダークネスのきまぐれで、それは刹那の姉妹の感情だとしても。
    「……架蓮も、ありがとね?」
     架乃は誰にも聞こえないような声で呟いた。

    作者:那珂川未来 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2014年3月25日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 1/感動した 2/素敵だった 11/キャラが大事にされていた 0
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