深夜。夜闇が深い。
場所は宮崎県高千穂町の荒立神社。木々の中に飾り気なくたたずみ、人の気配は全く感じられない。
そんな頃合を見計らったかのように、いくつかの靴音が聞こえてきた。固く重く規則正しく。
それを聞きつけた人物が一人いた。灯篭の陰へと素早く身を隠す。銀の髪の少年、彼の名は七塚・詞水(ななしのうた・d20864)。伝説の彫師事件との関連性を考え、この場の調査に訪れていた。
風に下草が揺れた。軍服に身を包んだ男女が、彼に気付くことなく行き過ぎる。動きに隙がない。
(「やはり」)
詞水は胸中で呟いた。
(「あれは、彫師の屋敷にいた強化一般人……」)
だとしたら。
(「あの時撤退した者達は、ここに来ているのかもしれません」)
しかし石段を上る靴音は一つではない。息をひそめ、それらが遠ざかるのを待った。さらに詳しい情報を得ようにも、自分一人では危険すぎる。
枝葉が騒ぎ、絵馬掛けの絵馬がカラリと鳴った。軍靴の靴音が遠ざかる。
一旦帰って、もう一度来よう。詞水は意を決し、音もなく身をひるがえした。
沈丁花の香る午後。五十嵐・姫子(高校生エクスブレイン・dn0001)が教室へと現れた。
「彫師の屋敷から撤退した者達に関して、続報が入りました」
春めき始めた日差しがまぶしい。やんわりと目を細め、皆へと告げる。
「鹿児島の北、宮崎の神社で、軍服を身に着けた強化一般人の姿が見受けられたようです」
そこで招くのは詞水。並んで皆へと向き直った。
「詳しくは、発見者の七塚・詞水さんにご説明願います」
その言葉を受け、詞水が口を開く。
「僕が調査に向かったのは、アメノウズメゆかりの神社です。夜遅く、あの彫師の屋敷にいた強化一般人と同じ者たちが集まっていました」
姫子が訊ねた。
「人数はどのくらいでしたか?」
「複数だけど、それほどの人数はいないようでした。日中は活動せず、深夜になってから動き出しています」
「何らかの関係があることは間違いなさそうですね」
詞水が頷く。
「一つの手がかりです。皆さん、どうか調査を行って頂けませんか」
姫子が頭を下げた。そして言葉を継ぐ。
「状況から考えるに、昼間、参拝客に紛れて情報を集め、深夜になってから踏み込むのが良いと思えます。参拝客に被害が出るのは避けたいですし、かといって参拝客を避難させてからといった作戦をとると、敵に察知されて逃げられてしまうかもしれません」
緩く握った拳を口許に当てて考えた。
「昼間の調査も、できるだけ目立たずに行うことが肝心だと思います」
両手を降ろした姫子は願う。
「何があるのかわからないのですが、ぜひ皆さんのお力をお借りしたいのです。一人には難しいことも、力を合わせればきっとかなうと信じます。慎重に、そして大胆に様子を探ってきて頂けませんか?」
細い糸を継ぐように、そっと指先を握り締めた。
参加者 | |
---|---|
杉下・彰(祈星・d00361) |
巨勢・冬崖(蠁蛆・d01647) |
天羽・梗鼓(颯爽神風・d05450) |
神護・朝陽(ドリームクラッシャー・d05560) |
オリキア・アルムウェン(翡翠の欠片・d12809) |
綾河・唯水流(雹嵐の檻・d17780) |
七塚・詞水(ななしのうた・d20864) |
鷹成・志緒梨(高校生サウンドソルジャー・d21896) |
●真昼の顔
この地はかつて日向と呼ばれたところ、宮崎。緩み始めた日差しが柔らかい。
俯きがちに歩く鷹成・志緒梨(高校生サウンドソルジャー・d21896)の足許で、木漏れ日が揺れる。
「こ、ここ」
「……?」
肩を並べた神護・朝陽(ドリームクラッシャー・d05560)が、もの問いたげな仕草を見せた。彼へと上げかけた視線を逸らし、志緒梨が続ける。
「縁結びの神社なんだってね」
また落ちる眼差し。初々しい。脇を行く年配の夫婦が、まぶしげに目を細める。
いいねえ、若い人たちは。そんな風に見守られる中で、二人は足許を見つめ放題だ。
(「不自然な足跡は……」)
それらしきものは目を凝らしても見つからない。が、駐車場の入り口に乾いた泥の跡が見られた。太いジグザグ。大型車両のタイヤ痕だ。
巨勢・冬崖(蠁蛆・d01647)が参道入り口でカメラを構え、二人の視線を追う。青い髪はニット帽の中。素朴な鳥居を撮影し、何気ない素振りでタイヤ痕へとレンズを向ける。データ入手成功。
通行人がふっと彼を見た。オリキア・アルムウェン(翡翠の欠片・d12809)が、すかさず視線を阻む。
「縁結びの神様なんだってー、絵馬はあるかな?」
さりげなく冬崖を促すと
「ああ、それならば向こうだ」
と上手くその場を離れる。やり過ごせたようだ。
共に境内へと向かった天羽・梗鼓(颯爽神風・d05450)は、まずはお参りから。両手を合わせてまぶたを降ろす。
(「彼との縁が長く続きますようにっ」)
願い事は胸の内。祈願を終えると拝殿の脇へ。散策を楽しむ顔で落ち葉を拾い、くるりと首を捻って建物の下を覗く。
(「これなら行けそう」)
床下が少し高くなっている。人には無理でも、猫ならばもぐり込めるに違いない。
その姿を見届けて、七塚・詞水(ななしのうた・d20864)は、一枚の板木の元へと向かった。七福徳寿板木と呼ばれるこの板は、心を込めて叩けば恩恵を授かるのだという。
木槌を手にして額の前に上げ、力いっぱい振るう。コーンと通る音は全部で七つ。
(「全員無事戻れますように、依頼が成功しますように」)
黒いかつらのせいで別人の面持ちだが、想いに変わりはない。
縁結びのお守りを手にしたオリキアが、清々しい音に顔を上げる。
(「少しでも何かを掴みたい……。そして、絶対に全員揃って情報を持ち帰る……! そのために」)
「がんばらなくちゃ」
神職が現れて目尻を緩め、彼女の背後に視線を止めた。振り返ったそこにいたのは、杉下・彰(祈星・d00361)と綾河・唯水流(雹嵐の檻・d17780)。
「お待たせしました。どうぞ、こちらへ」
ご祈祷が始まる。二人が招かれたのは拝殿。楽しげに周囲を見回す唯水流は
(「デートみたい……」)
そんな感想を抱きながらも、異変を探して注意を怠らない。世界は常に動いている。
(「この作戦をきっちり成功させて、後ろに繋がなきゃね」)
彼の思いは固い。ガイドブックを手にした彰が、周囲を見回して口を開く。
「この辺りはパワースポットだとうかがいました。やはり、どこか特別なのでしょうか」
「そうですねえ……」
神職が語るのはこの社の由来。手馴れた話しぶりには翳りがない。特に異変を感じてはいなさそうだ。
考え込む彰を見て、どうされましたかと神職が問う。
「幸せでいて欲しい、迷惑になりたくない、その為に自分には何ができるのか……と」
本当の気持ちが転がり出た。榊を運んできた巫女が微笑む。
「お、お友達の事、ですよっ」
「はい」
神前の空気が、ふわりと解けた。
ご祈祷を終えた二人が境内に戻ると、周囲を一周した志緒梨たちが戻って来たところだった。裏手には特に変わった様子がない。
ところでアメノウズメノミコトは、一体どこに奉られているのか。朝陽が訊ねると
「あちらに木像がございます」
巫女が境内の一角を示した。木の素肌がどこか清楚な社だった。
冬崖が戻ってきて、そちらもカメラに収めた。買い求めた縁結びのお守りをそっと懐にしまう。
「行こうか」
調査終了だ。あとは皆の成果を突き合わせ、夜に備えるのみ。
●夜半の顔
陽が落ちた。春先の強風に木々が騒ぐ。
大型のワゴン車が闇の中から現れ、神社の駐車場で停まった。降り立つ者たちは、皆、軍服を身に着けている。
(「来た」)
物陰に身を潜めた一行が、視線を見交わす。さあ、始めよう。
藪の中に身を屈めた梗鼓のシルエットがゆらりとぶれた。瞬く間に茶トラの猫の姿へ。首に下げているのはボイスレコーダー。もう一匹の猫、詞水と共に建物の下を目指す。
オリキアがコートの内ポケットに触れた。
(「リデル……兄さん、何かあったら護ってね」)
揺らぐその身は蛇の姿へ。もう一匹の蛇、唯水流と共に目指すのは建物の上部だ。
足音を殺した志緒梨と彰が境内に向かうと、朝陽は参堂の物陰伝いに辺りを注視する。軍靴の靴音は彼らに気付くことなく鳥居をくぐった。向かう先は境内だろう。
最後に残った冬崖が、一人、他とは逆に動く。無人の駐車場には、敵の足である大型ワゴンが残されていた。屈み込むこと数分。タイヤに深い切れ目を残して、仲間の背を追う。これで相手の機動力は落ちたはずだ。
朝陽と合流すると、前方に軍服の背が見えた。
「不審な点はないか探せ。見つけたならば迅速に排除せよ」
掠れ声の女が、この場の指揮官のようだ。
「はい!」
全員、敬礼。
「散開!」
靴音が散り、それは人間が隠れそうな場所へと向かう。灯篭の陰を覗き
「こちら異常なし」
と離れた。手水舎の陰で志緒梨が息を抜く。その瞬間
「そちらは見たか?」
マグライトの光が、彼女のすぐ目の前へと届いた。
(「……!」)
「はっ。いま、ぬぉあっ?!」
向かおうとした下士官が、素っ頓狂な声を上げた。
「なんだっ」
「足許を何か、く、くにゃっとしたものがっ」
「……くにゃぁ?」
指揮官はがっかりし、灼滅者たちは固唾を呑む。下士官の足許をすり抜けたのは追尾していた唯水流、であるところの蛇だった。闇に紛れて太い柱を目指す。するりと上れば、こちらのものだ。
「ここはお化け屋敷か。もう良い。他の者は? 報告!」
異常なしの声が各所から上がり、一人首を傾げる部下をよそに指揮官が告げる。
「よし。各員、持ち場へ回れ。そこ、駆け足!」
「は、はいっ!」
強化一般人たちが周囲に散った。潜入成功だ。一際強い風が吹きぬけ、梢が騒ぐ。揺れる灯篭の明かり。そして。
気付けばそこには、幾つもの人影があった。ある者は浅葱色の袴を着け、ある者は格衣を羽織り、神職であるかのような者たちの頭に見られるものは、黒曜石の角。羅刹に違いない。
薄明かりの、あるいは暗視ゴーグルの緑の視界の中で何かがさらりと揺れた。羅刹たちの中心に、長い長い黒髪の少女が佇んでいる。その頭にはやはり、黒い角。腕にのぞく刺青、指先に並ぶ長い爪。
あれが――うずめ。
灼滅者たちの瞳が、一時、瞬きを失う。
●夜中の顔
タタッ、タタタッと小さく軽い足踏みの音。最初は緩く、次第に速く。
うずめが舞い始めた。鋭い爪で夜空をなぞり、細い踵で地を撫でる。月明かりに仰け反る白い喉、千早をすべり落とした華奢な肩。解けた帯で渦を描き、落ちた衣を蹴り払い。
薄明かりに震える睫を持ち上げると、空を仰ぐ瞳は緋色。見つめる先にふわりと何かが浮かび上がった。
(「あれは?」)
物陰の灼滅者たちが眉根に力を込める。あれは何だ。
最初は輪郭も定かならぬ墨絵と思えたものが、次第に明確な線を象り始める。その図案、件の彫師を見たことのある者ならば、こう言うだろう。
『彫師の体に入っていた刺青だ』
タン! と地を蹴ったうずめが月影に弧を描き、舞い降りる。地に伏せて立ち上がった時には、肌蹴たはずの衣文は白い肌に連れ添い元の通りに戻っていた。
彼女の朱唇が動く。
「ウズメ様は言いました。はかなくなった彫師の代わりをつかわそう……と」
うずめの長い爪が翻った。指し示すのは、一体の羅刹。瞠目したその者へ、虚空の刺青が襲い掛かる。
「ヒ、ギァッ!」
襲い掛かられた羅刹の全身が血に染まり、どぅっと地に倒れ伏した。地に黒い染みが広がり続ける。じわり、じわりと。周りの者は言葉もない。
「ウズメ様は言いました。彫師の死を贖う為に、贄を捧げよ……と」
「はっ」
集った羅刹たちは、次々に膝をつく。地へと額を落とし、畏れ奉りながら平伏した。
一つ頷くうずめ。そして更に爪を振ると、刺青はその先の羅刹へと襲い掛かる。
「グゥオッ!」
血飛沫が赤黒い雨となって飛び散り、二人目の羅刹も事切れた。前のめりとなり、ゆっくりと崩れ落ちる。
「ウズメ様は言いました。次代の彫師に力を与える為に、贄を捧げよ……と」
梢が騒ぐ。夜風が、灼滅者たちの許にまで微かな嗚咽を運んで来た。
「ぅぁ、ぅぁ、ぁっ……」
見るからに下っ端の羅刹が一人、地についた手指を握り締めて震えている。膝と爪先で這って逃げようとしているが、立ち上がることすらできていない。それでも必死だ。気持ちはここから逃げ出したい。
うずめが、小さく首を傾げた。怖気づいた者をじっと見つめ、爪の先をそちらに向ける。
「ゥァ……ッ、ダァ!!」
ゴトリ。
その音が、ボイスレコーダーに記憶される。
切り落とされた羅刹の頭は、まだ唇を震わせていた。イヤダ、イヤダと。そしてついには動かなくなり、頭を失った首は真っ赤な噴水と化す。それは軒下の猫たちの鼻先まで飛んできたが、動くことはならない。
うずめがもう一度爪を掲げた。
「ウズメ様は言いました。さすれば、新たな彫師に力を与えよう……と」
示す先は巫女装束の羅刹。緋袴の色が鮮やかだ。刺青が爪の動きに従い、その羅刹の身にまとわり着く。まとわり着きながら殺すことなく、やがては素直に肌へと添い、その身の彫り物と化した。彼女こそが新たな彫師。
うずめが踏み出し、彫師たる羅刹へと手を差し伸べる。連れ立ち行く二人を見送って、その場に残った羅刹たちが頭を上げた。
「やはりうずめ様の神降ろしは恐ろしいの」
儀式が終わったと見て、そっと呟く。
「だが、これで、新たな兵士がいくらでも作り放題だ」
「屋敷を襲った灼滅者どもも、新たな彫師が生まれたことには気づくまい」
難を免れた安堵からか、口々に囁き始めた。よほど重要な儀式だったのだろう。囁き声は未だに小さい。神降ろし……恐ろしい能力だ。
それでも、最後まで気付かれることなく垣間見る事はできた。ボイスレコーダーは今も働いている。
●大切な何かを引き裂かれても
朝陽が眉根をひそめた。
(「だけどよ」)
この場には立ち去ったばかりのうずめと彫師の他にも、何十人もの羅刹がいる。現状の戦力では、瞬く間に殲滅されてしまうだろう。全員が闇堕ちを決断しても、だ。
冬崖が唇を動かす。
(「撤退だな」)
頷いた朝陽は、境内の内を透かし見た。まずは、重要な情報を手にしている動物変身組の退路確保が重要だ。
周囲は強化一般人でぐるりと取り囲まれている。奥の羅刹たちを避けるには、手前の者たちが戦うしかないだろう。駐車場まで行き着けたら、車両を当てにするはずの相手を巻くことができる。
彰と志緒梨が、物陰を伝って二人と合流した。万全の備えで足音は立てない。
行こう。
四人が鳥居の外へと駆け出した。その場を守る強化一般人が、目を剥いて銃口を上げる。
「なんだっ? きさ、っ」
その銃身を冬崖がつかんで逸らし、朝陽の影が動きを鈍らせる。臓腑を揺るがす銃声一つ。だが、その時には志緒梨のサウンドシャッターが効いていた。
「ぐ……っ」
冬崖が至近から腹に食らって地に転がり、それでも朝陽につかまえられた相手から小銃をもぎ取った。彰がすかさず矢を番え、癒しの一矢を放つ。
目視で異常に気付いた敵が二人、彼らの許へと駆け込んできた。そちらの守りは手薄。向かうなら、今だ。
まず、首にかけたボイスレコーダーを背にたなびかせて梗鼓が駆ける。
「うんっ?」
足許をすり抜けられて、強化一般人の一人が動きを止めた。その注意を逸らすように、続く猫型詞水が別方向へ。右へ左へジグザグに跳ねて駆ける。
「なんだ、野良猫か」
軍服男は目をすがめ、植え込みに飛び込む猫たちの背を見送った。その隙に柱を這い降りた唯水流とオリキアの蛇二匹は闇を縫い、羅刹たちの視界から去る。
鳥居の外では、突破口を作った四人が強化一般人三人と対峙していた。動物たちが境内を出たのならば長居は無用。撤退に転じるが、敵の立て直しも早い。
「逃すな!」
銃声が二方向から轟いた。
「く……っぁ!」
足許を打ち抜かれた志緒梨と朝陽を、冬崖が受け止めた。背を丸めて参道を転がり、皆で着弾ショックを殺す。ぬらぬらと地を這う鮮血の跡。薄闇の中では黒い。
志緒梨がナイフを引き抜き、中空へと振った。すぅっと生じるのは、朧な夜霧だ。薄絹のように彼らを取り囲み、その内に紛れさせる。
(「絶対皆で一緒に帰る!」)
泥まみれで立ち上がる彼女の胸元へ、軍刀の切っ先が突き込まれた。冬崖がその刀身を肘で打ち、拳を突っ込む。吹っ飛んだ軍服男を朝陽が蹴り止め、巨腕を振るった。
「ギ……ッ、ア!」
喉笛を引き裂かれた強化一般人は、両手で傷口を押さえて身もがく。
「フェイクスター!」
命を受けた仮面のビハインドが、別の敵の前に出た。だが、もう一方からも靴音が聞こえる。
「ウォラァァッ!!」
軍刀を抜いた巨漢が倒れた味方の刀も拾い、全身で突っ込んでくる。
まずい。
ザクッ、という一閃を受け止めたのは、しかし、もう一体のビハインドだった。リデル。オリキアが人の姿を取り戻して灯篭の陰に立ち、予定の集合場所を指差している。急いであちらへ。
二体のビハインドを犠牲にしたが、それでも強化一般人たちの動きは鈍らない。儀式を知った者を逃すまいと、決死の勢いで斬り込んで来る。
その上、無慈悲な声が響き渡った。
「侵入者発見。全員、鳥居の前へ急行せよ」
強化一般人の一人が通信機に向かって告げる語だった。ばらばらと聞こえるのは軍靴の靴音。
来る。
彰が、最後尾で足を止めた。腹の出っ張った中年男が、軍刀の切っ先を天へと向ける。
「一人も逃すな!」
「はいっ!」
押し寄せる敵の前で、彰は両腕を開いた。その手が華奢な少女のシルエットを失い、見る間に膨れ上がり始める。きゅっと唇を噛み締め、そして、告げた。
「ここは通しません」
怖いものは怖い。優しくしたいものには優しくありたい。とても普通の娘が、その普通を捨てた。めきめきと禍々しい音が額で響く。生じたものは一つの角。
先頭の強化一般人が、慌てて足を止めた。背で玉突き事故を作り上げる。
「なにぃっ?!」
顔つきも声も混乱している。切っ先を落とした。
ただ一心に駆ける仲間たちは、息を噛んで足を叱咤する。止まってはならない。次に何が起きるかのをわかっても。
「ギ、ァァァッ!!」
薙ぎ払われる敵の悲鳴は酸鼻を極める。切り裂かれ、貫かれ、首を落とされて。戦場の風は生臭い。その真っ只中にあるのは闇に身を投げた彰。
彼女の仲間たちは、全てを耳に突き立てながら走った。振り返ることも、耳を覆うこともできない。
生きながらに引き裂かれたのは、敵の四肢だけではない。
目に見える以上の痛みを背負いながらも、彼らは走った。帰るべき場へと。
そして――
血の匂う成果が、学園へと届けられる。
作者:来野 |
重傷:なし 死亡:なし 闇堕ち:杉下・彰(祈星・d00361) |
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種類:
公開:2014年3月24日
難度:やや難
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 31/感動した 2/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 4
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