着こなす男

    作者:八雲秋

    ●出会いの季節
    「ほう、これは」
     生徒会会計の中本君は生徒会室の自分の席に置いてあった新入生歓迎会用の衣装を手に取った、はずだったのだが。
    「メイド服か、いいだろう」 
     臆せず彼は袖を通した。
     着替えを終えた彼が戸を開け廊下に出る。と、そこにはたまたま通りかかったアーミーコスの男子高校生三人組。
    「ばかな、学校内でパーフェクトメイドに出会えるとは!」
     一人が声を上げると、もう一人が眉を顰め。
    「だが男では」
    「いや。見たまえ、吉田君、清潔なショートカットにカチューシャ、物腰がやわらかながらも下賤の我らを少し見下すような眼鏡から見える冷たい目。 パーフェクトだ。男、女、そんな事はどうでもいい」
    「そのとおり……」
     頭を寄せ合い、ひそひそ話す3人に、腕を組み仁王立ちのメイド服の中村が居丈高に。
    「一つだけ問おう。お前たちはこの私を崇拝するものか、それとも」
     反射的に3人は彼の前に跪く。
    「「「我らお仕え致します!」」」
    ●新入生歓迎会を守れ
    「本当は上級生たちが各々コスプレをして新入生を迎える会で、生徒会は男子が執事、女子がメイドでお出迎えするはずだったんだ。だけど彼の手元には謎のメイド服が渡ってしまった。そして中本君は強化一般人になってしまい、更にその姿を見た三人が彼の味方となってしまった」
     エクスブレインが説明を続ける。
    「君たちがその学校に着く頃には中本君と愉快な下僕たちが体育館に向かって歩いて行っている事だろう。体育館に着いてしまったら最後、会場は悲惨な事になる。その前に彼らを、正確に言えばフライングメイド服を倒してほしい」
     学校の潜入方法は二つと指を立てる。
    「一つはこの高校の2,3年の振りをして仮装して忍び込む。もう一つは一年生の振りをして学生服で侵入する。学生服はこちらで用意しているか心配ない、どちらを選ぶかは各自で自由で構わない」
    「じゃあ、僕は学生服にしようかな」
     木梨・凛平(中学生神薙使い・dn0081)は学生服を受け取った。 
    「君たちの戦闘場所、戦闘する相手の能力について説明しよう。まずは場所。彼らと出くわすのは体育館に行く途中の大廊下辺り。 広さは横幅は6人並べるぐらい。長さは20メートルぐらい。広さに問題は無いと思う。学内の一般の人が通る事はないはずだ」
     それと彼らの戦闘能力だがと続け、
    「はっきり言って弱い。 三人組吉田君、澤田君、橋田君は手持ちのサバイバルナイフで前へ前へと攻撃してくるが、そんなに強くない。ただ、中本君のどSな叱咤で何故だか彼らは回復して能力が上がる。当の中本君は手にしたモップを振り回し、その雫を君たちに向け振りまいてくる、それは毒液だから気を付けてくれ。あるいは近接戦になればモップは普通に棍として使ってくる、覚えておいてくれ」
     では最後にと彼は呟き、
    「そんなわけで、そんな危険な任務じゃないが、万が一失敗して被害が出ないように。あと、フライングメイド服を倒した後は服を着てないまま呆然としている中本君とその場で倒れてる3人組がいるからそのフォローについて考えておいてくれ。健闘を祈る」


    参加者
    天鈴・ウルスラ(踊る朔月・d00165)
    墨沢・由希奈(墨染直路・d01252)
    フィクト・ブラッドレイ(猟犬殺し・d02411)
    御神・白焔(死ヲ語ル双ツ月・d03806)
    蓬莱・烏衣(スワロー・d07027)
    ファリス・メイティス(黄昏色の十字架・d07880)
    桜乃宮・萌愛(閑花素琴・d22357)
    水霧・青羽(舞えど散らせぬ青い羽根・d25156)

    ■リプレイ

    ●潜入
    「存外、すんなり入れたでゴザルな」
     天鈴・ウルスラ(踊る朔月・d00165)が魔法使い姿で校内を歩く。
    「ああ、このまま全てが問題なく行けばいいのだが」
     普段戦闘の時に着慣れている軍服姿のフィクト・ブラッドレイ(猟犬殺し・d02411)が隣で頷いた。
    「お、あっちにいるのは新入生みたいだな、一寸サービス」
     つばめなだけにツバメの着ぐるみを着た蓬莱・烏衣(スワロー・d07027)が遠くにいた新入生に向かってバック宙を決め、手を振る。
     桜乃宮・萌愛(閑花素琴・d22357)が呟く。
    「フライングメイド服……こう頻繁にあるのは需要があるってことなんでしょうか、迷惑かけなければいいとも思うんですが……」
     だがフライングメイド服は着ている本人が楽しい、と言うだけでは済まず。
    「結局、迷惑、なんですよね」
     やはり倒すしかない存在。
    「新入生歓迎会に上級生がコスプレ…ね。ユニークな学校だな……と」
     ファリス・メイティス(黄昏色の十字架・d07880)が足を止め、前方を見やりながら言葉を続ける。
    「一番ユニークなのは、メイド服の彼みたいだけど」
    「始めるぞ、塵も残さぬ殲滅戦を」
     フィクトが解除コードを唱える。彼の足元から伸びた影業は、まるで背中に蝙蝠の羽の形を描くように展開していった。戦闘開始。

    ●戦闘
     ウルスラがしげしげと中本の姿を眺め、
    「フムン、何の躊躇いも無くメイド服に着替えるとは中々見上げた漢でゴザル。ブシの情け、大ごとになる前にキッチリ正気に戻してやるデース」
    「ミズハ思うんだけどぉ、コスプレ衣装の分際で着用者を逆に着るのはおかしいと思うな☆……つか、メイドって傅く側だろ。なんで男三人侍らせてんだよ。使用人失格じゃねーか……つまり、結論!」
     水霧・青羽(舞えど散らせぬ青い羽根・d25156)が潜入よりバシッと決めていた衣装でポーズをとる。
    「やっぱ時代はナースだよな!」
     彼の中に芽生える謎の対抗心。
     下僕3人が中本を守ろうと前に出る布陣、後衛から彼が言う。
    「そこをどいてもらおうか君らも知ってるだろうが我らは会場に……」
    「ええい、体育館には行かせんでゴザル」
     皆まで言わせぬ勢いでウルスラの縛霊手が除霊結界を作り出す。
     メイド服男子、聞いてはいたが、実物の迫力は違う。墨沢・由希奈(墨染直路・d01252)は動揺を隠せない。
    (「……仮にも女物の服にためらいもなく『いいだろう』って余りに潔すぎるよね!?」)
    「ああ、でも」
    (「私が好きな人も見た目完全に美少女で、いつも服は女物だから……そういうものなのかな」)
     好きな人の姿を思い浮かべたりしながら、うーんとこめかみに両の人差し指を当て、ぐりぐりさせ考えをまとめようとするが、一層混乱するばかり……普通って、常識って何だっけ?
     だが考え込んでる場合ではない、彼がメイドと言うのなら自分は。
    「和洋の奉公人勝負、だねっ」
     由希奈は割烹着で対峙する。手の中でくるくると操るマジカルロッドがまるではたきのようだ。
     友達に押しつけられた、コスプレ衣装がこんな所で活躍するとは嬉しいような悲しいような。
    「もう出てきていいよ、シェリル…って、あれ!? 気のせいか」
     ナノナノの姿を見てファリスが目をこする。今、シェリルが執事姿だったような。腰に手を当て胸を張って現れた姿がそんな錯覚を見せたのかもしれない。二人並んで執事服だったら面白かったのだけれど。
    「また今度一緒に着てみる? なんてね。それより今は戦闘か。シェリルはディフェンダーで頼むよ!」
    「それにしてもメイド服渡されてそれ着ちゃう度胸すげーよな……オレ、流石に無理だわ」
     ツバメの着ぐるみこと烏衣がいやいやと羽を振りながら、そう申しております。
     ところで、と御神・白焔(死ヲ語ル双ツ月・d03806)が首を傾げ、
    「メイドなら使用人ですから、仕えさせるとかではない筈なのですが」
    「そうだそうだ、誰かに傅かれた時点でメイド失格だろうが」
     青羽もそれに続く。中本は薄ら笑みを浮かべ、
    「それは彼らに言ってくれませんか、彼らが勝手に従っただけの事、そうだな、お前たち!」
    「「「はいっ、メイド長!」」」
     下僕らが喝を与えられたように、能力を底上げする。
    「想像以上に高飛車だな、だけどな、そう都合よくはいかせねぇよ」
     烏衣が鋼鉄拳を繰り出せば、白焔もそれに続き、由希奈とフィクトは神霊剣で彼らの能力をブレイクさせていく。
    「おのれ、これでも食らえ!」
    「つっ!」
     烏衣の肩口をナイフが切り裂く。
    「大丈夫!?」
     ファリスがすかさず治癒の力を持つヒーリングライトの温かな光で彼を包む。
    「ありがとうよファリス、悪いな、確かに着ぐるみのまんま戦闘なんて舐めすぎてたよな」
     烏衣がツバメの頭を外し、投げ捨てる。
    「ふぅ、暑いったらねぇぜ!」
    「お前もだ、いくら貴様が綺麗なメイドさんだからって我らの忠誠心は揺るがぬ!」
    「なんの!」
     澤田が突き出したナイフを白焔はジャンプし蹴りで牽制しつつ、よける。彼の軽く裾を押える仕草に、
    「メイド服では裾が気になりますか、まだまだ、甘……」
     中本がメガネに手を遣りながら言いかけると、吉田が脇から遮り断言する。
    「違います。あちらのご仁は我らに絶対領域までは晒さない事に拘ったのです。つまり己に危機が迫っても我らの夢は壊さぬという熱い思い」
    「流石わかっているようですね部下の皆さんは。そこが貴方に足りない所ですよ」
     白焔はよくできましたと言うように、吉田に優しい眼差しを向ける。
    「な、ん、だと」
     愕然とする中本に萌愛はおずおずと手を上げ、
    「それに……」
     普段、人の趣味には口出ししない主義の彼女だが、それでも言わずにはいられず、目を伏せながらも中本に告げる。
    「やっぱり、女性の服って似合う許容範囲はあると思うのです……見た目……たぶんあなたはアウトです」
     その言葉に彼は顔を青ざめさせ、モップを振り上げ、
    「嘘だ……嫉妬だろ、なあぁ、僕に嫉妬してるんだろ?!」
     闇雲に振り回しだした。意外にショックだった模様。
     怒りに駆られての攻撃故、命中率こそ低いが毒液を撒き散らすのは厄介だ。
    「凛平君、清めの風を」
     萌愛の指示に凛平と璃耶が癒しを送る。
     そちらがモップの毒液を撒き散らすというのならと、ウルスラは魔導書を掲げハイテンションで叫ぶ。 
    「ヒャッハー、ヤバいものは纏めて消毒……もとい灼滅デース!」
     ゲシュタルトバスターが横並びの下僕たちにダメージを与える。
     由希奈は前衛で下僕を相手に応戦、割烹着を翻しながらもその裾も襟元も乱れない。
    「お前も服は乱さないというこだわりがあるのか」
    「こ、これは普段から友達にコスプレさせられて身についた、立ち居振る舞いの賜物、かな……?」
     答えながらも心中で、こっそり付け足す。
    (「あんまり、嬉しくはないけどね」)
    「ふん、他人に強いられての物など」
    「そうやって奉公人なのに、他の人を見下す視線は良くないと思うよっ」
     由希奈の返しにうぐっと中本が言葉を詰まらせた。
    「そんなんじゃ皆が本当にはついてきてくれないんだから!」
     勢いで澤田に切りつける。クルセイドスラッシュの聖なる光が敵も彼女自身も照らした。
    「うっ……日本のお手伝いさん、なかなかあなどれず……母の姿を見た」
     澤田が倒れ伏した。
    「今のはほめられたのかな……ちょっと微妙な気が」
     由希奈は複雑な表情で首を傾げた
    「さぁ、あんたもそろそろ倒され時みたいだな!」
     烏衣のフォースブレイクが吉田に炸裂する、よろよろと足元をふらつかせながらも、一寸待ってくれと手を上げ、
    「どうせなら止めはメイドさんにさされたい……いや、しかしナースも捨てがたい」
    「悪いが時間がない」
     フィクトの言葉と同時に吉田の足元から牙が生える。
    「そんな……うわっ」
     急に暗くなった頭上を下僕が見上げると、彼の影の翼が巨大な上顎に形を変え、そのまま彼に襲い掛かり。
    「うわーっ!」
     吉田を食らった。
    「あーやっちゃったのぉ?」
    「やはり、まずかったか」
     フィクトに青羽は頬に手を当て首を振りながら、おどけた調子で、
    「んー、でもぉメイドかナースか悩ませることは出来たしぃミズハちゃんのナース洗脳作戦成功、みたいな」
     橋田は全員を見比べながら、
    「えとえと僕は誰に止めを刺してもらおうか……服装にこだわるか、それとも女の子に」
    「橋田! その装束はただのこけおどしですか、最後まで堂々と戦いなさい!」
     中本のその叱咤に橋田は背筋を伸ばす。 
    「しょ、承知しました! 橋田行きます!」
     目の前のナノナノに彼は襲い掛かる。
    「シェリル! 危ない!」
     ファリスが後方からオーラキャノンを放つ。
     よろける橋田に重ねてウルスラがオーラからの連打、閃光百裂拳を浴びせる。
    「これでとどめデース!」
    「ぐっ! ……魔法使いより、どうせなら魔法少女のほうが……いや、これはこれで!」
     そんな絶叫と共に橋田は倒れた。
    「部下の教育も碌にうまくできず、もはや貴方一人ですか。これでは貴方を雇う主も大いに困るでしょうね!」
     白焔が挑発の言葉と共に抗雷撃を食らわせる。
    「……このまま倒されるなどっ」
     中本はせめて一人でも倒そうという気か萌愛にモップを振り下ろす。
    「貴様は僕のメイドが似合わないと言ってたな、僕は自信を持って着ていたというのに!」
     カシーン! モップと妖の槍が打ち合わさり、高い音を立てる。
    「えっと……あるいみ、その思いっきりの良さは男らしいです!」
    「それはフォロー、なのか?」
    「ですです! ですからここは男らしくいさぎよくやられてください!」
    「ぐはっ!」
     螺穿槍が中本の腹をつく。彼は勢いよく吹っ飛び、そして仰向けに倒れた。

    ●戦闘終了
     倒れるとともにかつで服だった布きれは風に舞い、そして消えていく。残されたのはパンツ一枚の中本君。
    「おっと」
     青羽がさりげなく前に出て女性陣から中本君のあられもない姿を隠した。
    「あとは男子勢に任せるデース」
     ウルスラが全力で顔を背ける。
    「さっさと片付けるか」
    「まぁ男だし大丈夫とは思うが」
     白焔とフィクトが話していると、
    「ん……こ、これはどうした事だぁ!」
     我にかえった中本が声を上げる。
    「み、見てないからっ!」
     彼が倒れた瞬間に背を向けていた由希奈が慌てて告げる。
     ほい、と彼に烏衣が衣装を渡し、
    「どうやら間違ったやつが行ったらしいんで、ちゃんとしたやつ用意したぜ、お、お前には絶対こっちの方が似合うぜ!」
    「これは執事服」
    「か、仮縫いのが間違って中本君の所に行っちゃって! あの、その……ごめんなさい」
     由希奈の言葉にファリスも重ねて、
    「服の仕立てが万全じゃなかったみたい。…そんなことよりほら、急がないと会に遅れるかもよ?」
    「さっさと着た方がいい。裸のままじゃ季節的に風邪ひきかねんしな」
     青羽も勧める。ナース服なだけに説得力があるようなそうでもないような。
    「ここの倒れてる人たちは?」
    「あ、ああ、何かあんたが服脱げるのを見てびっくりして倒れた。大丈夫、保健室にでも連れてくから」
     正気になれば彼らは今の事件は忘れているだろう。
     萌愛がこれだけは言っておかなければと彼の方を向き、 
    「潔いのは結構ですがこれから周りへの確認もしましょうね。そうしたら間違いは減ると思うんです」
    「確認……仮縫いの事か?」
    「えーと、それに本当にこれが自分の服なのか、とか」
    「なるほど」
    「さあ、手早く支度して式に向かいまショウ? もうすぐ時間デース」
    「君たちもだろう」 
    「勿論行くよ、これだけ気合い入れてるんだしな」
    「でも生徒会役員さんは遅刻したらまずいでしょ開会式とか、だから先に、ここの倒れてる人たちも私たちが何とかするから」
    「そ、そうだった、頼む」
     中本君は慌てて走り出した。
    「うん、やっぱりあの人は執事服の方が似合うみたい」
     萌愛は安堵の息をつきながら彼の背を見送っていた。

    作者:八雲秋 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2014年4月21日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
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