私欲の心のままに

    作者:幾夜緋琉

    ●私欲の心のままに
    「……ねぇ……あの、さ……僕と、つきあってくれないかな?」
    「あ、お前もかよ! ジェシカちゃん、俺はどう? 俺、絶対に楽しませてあげるから!!」
     学生の声が響く学校内……数十人の男子学生達が、一人の少女を囲む。
     ブロンドの髪と、整った顔立ちの少女へ……次々と告白をする男子学生達。
     そんな彼らの顔は、何処かとろんとしていて……すっかり彼女に心奪われているというのは自明。
     ……そしてそんな学生達に対し、その少女は小悪魔的な微笑みを浮かべながら。
    『うふふ……そうねえ……でも、私みんなの事知らないしぃー……そうだ! それじゃみんなでご飯食べない? みんなの事を聞きたいし、ね♪』
    「OKっ!! 何食べたい? 買ってくる!!」
     ……そんな彼女の小悪魔的な言葉は終わることは無い。
     いや……彼女は小悪魔ではなく、淫魔。
     周りに男達を侍らせつつ……捕食の時を待ち構えているのであった。
     
    「そうですね……皆さんも揃ったようですし、それでは説明を始めさせていただきますね」
     五十嵐・姫子(高校生エクスブレイン・dn0001)は、集まった灼滅者に対し軽く微笑みながら、説明を始めていく。
    「今回、私が皆さんにお願いしたいのは、ダークネスの討伐をお願いしたいんです。そのダークネスは淫魔……色仕掛けなどで人をたぶらかすダークネスです」
    「彼女は今、神奈川県の某所にある高校に、帰国子女として転入を装って、学校に潜んでいる様です。そして淫魔の力を多少抑えつつではありますが発揮し、男子学生達を次々と手駒にしているみたいですね」
    「勿論ダークネスにはバベルの鎖の力による予知はありますが、わたしの予測に従って頂ければ、彼女の予知をかいくぐって彼女に迫ることが出来ると思います。それは……皆様も学生として、学校に潜入する事。そして彼女の美貌に騙されたフリを装い、彼女へと近づく事です」
    「知っての通り、ダークネス自体は強力で、危険な敵であるのは間違い在りませんが……それを灼滅する事こそ、灼滅者の宿命でもあります。厳しい戦いになるかもしれませんが、宜しくお願いします」
     そうして、続けて姫子から、淫魔についての詳しい説明へ続く。
    「淫魔は、いつも4、5人の男子生徒を周りに侍らせている様です。おそらく戦う際にも、その周りには彼らが居る事でしょう……」
    「とは言えこの男子生徒達は、能力の無い一般生徒ですから、皆様が本気を出すまでもなく気絶させる事は簡単に出来るでしょう……しかしながら淫魔自身は、自分が不利になりそうなら囮にする事も考えられますので、その点を注意して頂きたい所です」
    「淫魔自身の能力は、皆さん8人併せての戦闘能力と同等以上はあります。その攻撃手段に含まれる服破りの効果は意外に厄介なものと思います」
    「尚、戦闘場所になりそうなのは放課後、人気の無くなった校舎内です。夕陽が差し込む程度で、障害になるようなものは無いと思います」
     そして最後に姫子は。
    「被害者は居ない……いえ、まぁ……ある意味被害者は既に居るのかもしれませんが……皆さんならダークネスを灼滅して来て頂けると思っています。どうか、宜しくお願いいたします」
     と言って、頭を下げたのである。


    参加者
    藤沢・いすゞ(小学生サウンドソルジャー・d00516)
    仲村渠・弥勒(世果報は寝て待てない・d00917)
    神夜・明日等(火撃のアスラ・d01914)
    凛々夢・雨夜(夜魔狩・d02054)
    蔡宮寺・薫子(小学生サウンドソルジャー・d02300)
    ユミエル・メイ(謎の少女・d05643)
    水無月・天(漆黒ニ沈ム緑・d05964)
    支守・みこと(うたかたびと・d06599)

    ■リプレイ

    ●淫らに誘いし者
     神奈川県某所、傍目からは何の変哲も無い、とある高校。
     姫子から事件解決の依頼を受けた灼滅者達……倒すべくは色仕掛けで迫り、人々を堕落させる淫魔。
     淫魔は己が周りに沢山の男子生徒達を侍らせつつ、その私欲を満たす時を今か今かと待ち構えている……いわば、熟成させ、美味しく実ったところを喰おうという事なのだろうか。
    「しかし……ハーレムですか……」
    「ええ、ハーレムですね……色仕掛けで学生達をたぶらかしていったのでしょうね」
    「……色仕掛けなどで人をたぶらかすなんて……ダークネスでなくても許せないわね! まぁ、あっさり引っかかるのも情けないと思うけれどね」
    「そうですね……皆さん楽しいだけなら良いのですが……いや、楽しいのでしょうか? でも淫魔が関わっているのですから……見過ごす事は出来ませんよね……!」
    「そうです。色気とか何とかは、私にはまだまだな年齢なのですが……とにかく、倒すのみです!!」
     藤沢・いすゞ(小学生サウンドソルジャー・d00516)、神夜・明日等(火撃のアスラ・d01914)、支守・みこと(うたかたびと・d06599)の会話……の一方。
    「わーい、金髪美人なおねーさんー♪ そんなおねーさんが居る高校に乗り込んで囮をするだなんて、ちょっとドキドキするよねー♪」
    「そうだなぁ、しかしさぁ、最初から男二人とかぁ~出落ちぃ~? しかも、中学生と小学生だし~、高校生じゃないんだよねぇ~」
    「全くだよねー。男がオレと天ちゃんしかいないってどーなのよ!?」
    「んまぁ大丈夫じゃねぇ? オレも背は小学生にしちゃぁでけぇし、必要とあれば……ほら、前髪降ろしゃ、少しはマシに見えんじゃね?」
    「ん、だね。んじゃまおとり役頑張ろうねー♪」
     仲村渠・弥勒(世果報は寝て待てない・d00917)と、水無月・天(漆黒ニ沈ム緑・d05964)が頷き合うと。
    「……それでは、二人とも宜しく頼むわね。私達は少し離れて侵入するから」
    「りょーかい。じゃあ行くぜぇ、狩りの時間だ!!」
     ユミエル・メイ(謎の少女・d05643)に、天が拳を振り上げて侵入していく。
     そんな仲間達の後ろ姿を見送りつつ。
    「それじゃぁ私達も準備しましょうか」
    「ええ、解りましたですわ」
     といすゞに蔡宮寺・薫子(小学生サウンドソルジャー・d02300)が頷き、二人はエイティーンを使って18歳の女の子へと身を買える。
     その変身を横目で見つつ、明日等は。
    「そうね。まぁ私にかかれば大人っぽい高校生にだってちゃんとなりきれる筈。バレないかなんて心配ないわ!」
     と、ちょっとした対抗心の様な者をちょっと露わにする。
     そんな明日等にクスクスと凛々夢・雨夜(夜魔狩・d02054)は笑いつつ。
    「まぁまぁ、どっちも綺麗だと思うよ! さぁそれじゃ初以来、頑張りましょう、っと!」
    「ええ。わたくしの初仕事、はりきって参りますわ!」
     雨夜と薫子の言葉に従い、残る仲間達も学校の中へ。
     ……漂う淫魔の気配に、雨夜は。
    (「……淫魔、かぁ……あいつの事をしってるのかな? ……トドメを刺す前に、聞けるかな……」)
     ……己を闇落ちさせた淫魔の事を思い出し、ぐっと拳を握りしめるのであった。

    ●騙された心
     そして学校内。
     弥勒と天の二人は淫魔の気配を鋭く感じ取り、学生達を侍らせている教室へと近づく。
    『あはは♪ もうみんなバカねぇー? そんなの引っかからないわよぉ♪』
     色っぽい、艶々といた声が教室内から響き、その周りに居る学生達が、少しでも自分に興味を持って貰おうと努力する。
     勿論叶わない願い……というか、むしろ叶うわけもない願いに対して、必至に努力している学生達を見ていると、何処か空しくも感じてしまう。
     更にそんなジェシカから離れた所には、この学校の女性陣。ジェシカに対し侮蔑のまなざしを向けているが……勿論彼女が意に介する事は無い。
    「んー……と、それじゃいいかなー?」
    「OKOKぇーい」
     弥勒と天が頷き合い……そして扉を開き入る。
     視線は当然二人へと向くが。
    「はろはろー♪ 美人なおねーさんが居るって効いてきたんだけど、オレらも一緒に遊んでいーですかー?」
    「ジェシカちゃーん、一緒にあそぼうよぅー♪」
     とても軽い感じで入ってくる二人……男達からすれば邪魔な奴らが来たという事にもなる訳で……疎ましげに睨み付けてくる。
     しかしそんな睨み付けに対し、天は……ガンを飛ばしにらみ返す。
     そのガン付けに、ひぃ、と引きつった声を出す2人の学生……そのまま視線で、出て行けと言わんが如く仕向けると。
    「あ、ご、ごめんオレちょっと用事思い出したんだ。ま、またねジェシカちゃん!!」
    「オレもオレも、ごめんね!!」
     そんな感じで、二人は教室の中から一目散に脱出していく。
     しかしまだまだ六人の学生達が、彼女の周りに居る……そして彼らは完全にジェシカに心奪われており、例え天がガン付けても意に介さない。
     そして。
    「ねーねージェシカちゃん、コレで遊ばない? 結構時間忘れて遊べるんだよねー、これ。せっかく美人さんとお近づきになれるんだから、楽しまなきゃねー♪」
     弥勒が持ち出したのはトランプ。それに天が。
    「それいいねぇー♪ あ、負けたヤツはジェシカちゃんの指定するモノを買ってくるって事にしね?」
    「そうだねー♪ ジェシカちゃん、何か欲しいのあるー?」
    『そうねぇ……ちょっと喉渇いたから、それじゃ炭酸の飲み物でも飲みたいわねぇ♪』
    「了解。それじゃ負けたヤツは買ってくるんだぜー!」
    『OK-!!』
     声が揃う学生達。
     ……そしてトランプでババ抜きとか、神経衰弱とか、ダウトとか……そんなトランプゲームをやっていく。
     勿論負けるのは、二人ではなく学生達……そして約束の通り買い物に行く為に、教室を出た学生を、後から潜入した女性陣が手分けして、戻らぬ様に細工する。
     例えば雨夜は……飲み物を買って、戻ってくる所に。
    「ねぇねぇ、そこのお兄さんっ! ちょっと、道を教えてくれないかな!?」
     と、上目遣いで気を引き付け、腕を退いて教室とは真逆の方向へと引っ張っていったり。
     みこと、いすゞも、出て行った学生達に対して声を掛けて、気をそらしてみたり。
     ……そんな細工行動に、着々とジェシカの周りにいる男性陣は減っていった。

     そして、かなりジェシカの周りに居る男性陣が減り、女性陣も教室から呆れて出て行く。
     再度女性陣は集合し……そして中に居る弥勒と天に合図を送る。
     残る男性陣は後2人。そろそろ頃合いだろう。
     弥勒がその合図に返すと……女性陣の内、いすゞ、明日等、ユミエルの三人が教室内に入る。
     女性陣が入ってくる事に対し、何か反応するという事も無い。
     ……そして、天が。
    「ねぇねぇー。そーいやさぁ、知ってる? 最近さぁ、男をたぶらかしてる悪い女が居るんだってさぁ」
    「ああ、聞いたことあるねー♪ 何だっけ……たぶらかせて、喰っちゃうんだよねー……もしかして、ジェシカさんもそうなのかなぁー?」
     ……その言葉を聞いた瞬間、ジェシカ……いや、淫魔は。
    『ふふ、面白い事言うわねぇ……』
     そのまま、手近にいた男を囮にしようと動く。
     しかしそれを即座に雨夜が接近し……手加減攻撃でノックダウンさせる。
    「まぁ貴方たちも被害者ではあるんでしょうけれど、自業自得よね」
    「そうだねー。ほーら! ジェシカねーさん、オレともっと遊んでよ!!」
     と弥勒はジェシカと生徒の間に入り、壁となる。
    『っ、邪魔よ!!』
     その行動に、ジェシカが攻撃。
     かなりのダメージに傷つくものの、その表情は変わる事は無い。
     そしてその戦闘音と同意に、教室外で待ち構えていた仲間達も次々と教室の中へ突入。
     各自が己の立場へ配置すると共に。
    「私の歌は誰かの為に……」
    「ショウタイム、参りますわよ!!」
     みこと、薫子はそのかけ声と共に戦闘態勢。
     他の仲間等も戦闘態勢を取り、そして。
    「……この糸に、絡み撮られなさい!」
     ユミエルが封縛糸で捕縛の効果を与えると共に、明日等、みこと、天の三人が。
    「バスターライフルの腕は、見せかけだけじゃないんだからね! これ以上、貴方に好き勝手させないわ!!」
    「……人の好意を弄ぶ行為……許せません。必ず、倒します……!」
    「まぁおれも同じさ。ジャック、頼むぜ!」
    『ガウゥウ!』
     明日等のバスタービーム、みことのディーヴァズメロディ、そして天は霊犬のジャックを前に出して攻撃を嗾けつつ、己はブレイジングバーストで炎を淫魔に向けて撃ち放つ。
     ……そして、薫子といすゞの二人。
    「これが、色気のある女性の姿ですか……確かに魅力だらけですね。でも、悪さをしているなら倒すしかありません。後ろからもどんどん行きますよ、覚悟してください!」
    「そうですわね。いすゞ様は攻撃を継続して下さいませ。私で回復は間に合いそうですし」
    「了解、食らいなさい!!」
     いすゞがソニックビート、薫子は攻撃を受けた弥勒にエンジェリックボイスで回復を施す。
    「ありがとー♪ それじゃこっちももーっと頑張っちゃうよー♪」
     ニヤリと微笑みながら、弥勒がガトリング連射で追撃を伴う攻撃。
     掃射に蜂の巣になったかと思ったが……ジェシカはある程度を回避。
    『もう、危ないわねぇ……本当、こっちだって本気になるわよ』
     ジェシカの目から、今までのような雰囲気が消え失せる……。
     次のターンからは、ジェシカの情け容赦ない攻撃開始。
     ただそれらの攻撃は弥勒、雨夜と、明日等のライドキャリバー、天の霊犬という二人と二体体制でその攻撃を交互に受け止めていく。
     前衛陣が確実に攻撃を受け止める体制を取る事で、中衛、後衛に位置する仲間達が、淫魔に対する集中砲火。
     ともかくまずは、大量のバッドステータスを重ねるために、攻撃手段を次々と切り替えながら重ねていく。
     プレッシャー、炎、毒、捕縛……そして、服破り。
     それら効果を重ねていく事で、灼滅者以上の能力を持つ淫魔を確実に追い詰める。
    「かなり……効いている様ですね」
    「ええ……仕掛けるわ」
     みことに頷きながらユミエルが放つは斬弦糸。
     ジグザグの効果で、バッドステータス効果を更に上昇させる。
     ……そして、そのバッドステータスで鈍ったところを見定めて。
    「さぁみんな、たたみかけるよっ!!」
     雨夜の宣言に灼滅者全員が頷き、猛攻。
    『っ……もう!!』
     甲高い声で、ほぼ怒り状態で、高い攻撃力の反撃を食らわせるのだが。
    「予測済みですわ!」
     薫子、そして時折いすゞもエンジェリックボイスで回復し、ダメージを極限まで抑える。
     併せて10ターン近くが経過すると……最早ジェシカの体力は残り少なくなっていて、肩で呼吸をしている。
    『はぁ……はぁ……』
    「……もう終わりよ」
     たった一言、ユミエルの宣告。
     渾身のジャッジメントレイの一撃が放たれ……悲鳴を上げて、片膝を落とす。
     ……そんな彼女の元へ雨夜は近づき、そして馬乗りになりながら。
    「ジェシカさん、サヨナラっ。これで悪さは出来ないね! ……ねぇ、知ってる、アイツの事……」
     雨夜が告げた淫魔の名前。
     ……しかしジェシカは、その名前に対し、首を振る。
    「そう。知らないのね……仕方ないわ……なら……トドメよ」
     纏ったバトルオーラを拳に込めて、神薙刃。
     その一撃を食らい、ジェシカは断末魔の悲鳴を上げて、その姿は消失していったのである。

    ●想い出
     ……そして、完全に淫魔の気配が消え失せると共に。
    「……終わった……んですね?」
    「ええ、これにて完了、ですわね……まぁこのわたくしがいますもの、当然ですわね!」
     いすゞに薫子が頷き、そして周りの仲間達が笑う。
     ……ただ、そんな中、一人ユミエルは……淫魔が先ほどまで居た場所に顔を向けると共に。
    「……」
     言葉無く、軽く黙祷を捧げるユミエル。
     その表情は仮面故に見えない為、何を思い黙祷を捧げているのかはうかがい知る事は出来ないが……。
     ……数秒の黙祷を捧げ終わると、ユミエルは。
    「……それじゃ、お先に失礼しますわ」
     と言って、学校を後にする。
     ……そんな彼女を送り出しつつ、倒れた学生達を介抱するみことにいすゞ。
     一時的に意識は失っているモノの……うぅ、と呻き声を上げる。
     そんな彼らに。
    「大切な一人を、見つけて下さいね……」
     とみことは切に願う。
     ……そして介抱を終え、そして帰路につく。
     そんな中……いすゞはぽつりと。
    「でも、女性は外見が全てではないと思いますね……。私はまだまだ色気なんて気にする歳ではありませんが、少しでも綺麗な女性になれるように頑張りたいと思います……」
     誰へという訳でも無く、呟いたその一言。
     色気は憧れるものの……人をたぶらかす手段でもある訳で……。
     そんな複雑な存在である色気を思いつつ……夕闇に暮れた帰路を歩くのであった。

    作者:幾夜緋琉 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2012年9月11日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 6/感動した 1/素敵だった 3/キャラが大事にされていた 1
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