いつか朱に染まるなら

    作者:相原あきと

    「私はただ宝石が好きだっただけなのに!」
     人気の無い港、自身が借りた倉庫の中で1人の女性が半狂乱で叫ぶ。
     彼女は宝石が大好きだった。
     大学を出て働くようになってからはお給料だけじゃ足りず、いつの間にか両親が残した遺産を使い果たし、気が付けば借金にも手を出していた。
    「やっぱり、この力が目覚めた時に……でも、でも……」
     彼女はある日、力を得た。
     自身が化け物に代わるのは怖かったが、それよりこの力を使って欲しい物を好きなだけ手に入れられる事に彼女は歓喜した。
     個人経営の質屋に始まり、小さな宝石店、やがて地方銀行の金庫……。
     なぜかニュースにもならず、彼女の強引で力任せな泥棒稼業は成功し続けた。
     借金もすぐに返し終わり、港の大きな倉庫を丸々借りて盗んだお金や宝石はそこに保管することにした。
     十分な宝石に囲まれる日々……だが、異変はその頃から起き始めたのだ。
    「モ、モドレ!……モド……う、ああ……!!」
     彼女は最近『蒼い化け物』から元に戻るのに苦労するようになっていた。
     ーー悪事を働き続けないと蒼い化け物になってしまう……。
     それは感覚的に理解した真実。
     やがて彼女の心を占めるのは歓喜ではなく恐怖となった。
    「う、うう……私が、私が盗みという罪を犯したから、神様がその代償に自分を化け物に変えようとしているの?」
     涙を流しながら、なんとか元の姿に戻って彼女は呟く。
     だが、その目に浮かぶのは後悔ではなく自分自身に対する言いわけだ。
    「で、でも、強盗はしても今まで人を殺したりはしてないし……警察に自主すれば死刑にはならない、よね」
     完全に元の人間に戻ったのを確かめてから彼女は一人呟く。
    「私は死にたくない……盗みは悪い事だって知ってるよ? でも、それでも死刑になるほどじゃない……」
     それよりも、だ。
    「私は死ぬのが怖い……化け物にもなりたくない、だから……強盗をするのは、仕方が無い、んだ」
     そして今日も彼女は『力』を使い、宝石を奪いに行く。

    「みんな、デモノイドヒューマンとデモノイドロードについては勉強してある?」
     教室に集まった灼滅者達を見回しながら鈴懸・珠希(中学生エクスブレイン・dn0064)が皆に聞く。
     デモノイドヒューマン、それは人としての良心がデモノイドに打ち勝ち、その力を制御した灼滅者だ。それとは逆に悪の心でデモノイドを制御した存在、それがデモノイドロード。
     デモノイドロードは、デモノイドヒューマンと同等の力を持ち、その能力を使って悪事を働く、さらに必要とあらばデモノイド化も可能(しかも狡猾な知性を持ち続ける)で、また好きな時に元の姿に戻ることもできる。ひとつ確実に言える事があるとすれば……彼ら彼女らは『悪人』であるということだ。
    「今回、未来予測で見つけたのは『アヤメ』っていう24歳女性のデモノイドロードよ。力を使って強引に宝石強盗とかをし続けているみたいなの、今のところ一般人を殺すようなことはしてないみたいだけど……」
     珠希は口ごもる。
     今は殺人を犯してない、けれどアヤメはいつか必ずソレをすることになるだろう。
     だから起こる前に灼滅しなければならない。
     だが『その可能性がある』と言うだけで灼滅すると言うのは……。
    「………………」
     珠希もみなにこの依頼を説明するのが正しいのか迷う部分はある。
     なぜなら、その可能性がある、というだけで殺さねばならないのなら……。珠希は自然と武蔵坂学園の校章を握っていた。
     ハッと気が付き、そして説明の続きを再開する。
    「えっと、対象の現状を説明するわね。デモノイドロードは悪意が薄まるとデモノイド化して戻れなくなるの……彼女は一時的に悪意が弱まった時、悪事を続けないとデモノイド化から戻れなくと感覚的に知り、今は戻れなく恐怖をうち払うように悪事を続けているの……」
     悪事を働くための力が、いつのまにか力に飲まれないよう悪事を働くように……目的と手段が入れ替わっているのだ。
    「彼女はもう一般人には戻れないの、だから手遅れになる前に――」
     ――灼滅して。
     そう、珠希はつぶやく。
    「戦闘に関してだけど、彼女はデモノイドヒューマンの力と日本刀のサイキックを使ってくるわ。頭が良いから1人ずつ確実に狙ってくると思う」
     彼女はとある港の倉庫を丸々1棟貸し切っているらしく、その倉庫に夜中に向かえば彼女が倉庫内におり、出会うことが可能だ。
    「彼女は強いわ。だから油断しないで行って欲しいの……それと」
     珠希は一度目を閉じ、意を決して口を開く。
    「もし、彼女を追い詰めたら、たぶんこう言うわ……『化け物にもなりたくないから盗みは続けるが、絶対に人殺しはしないと約束するから見逃して欲しい』って……」
     灼滅者は正義の味方ではない。そして、物語はハッピーエンドばかりではないのだ。


    参加者
    星祭・祭莉(彷徨える眠り姫・d00322)
    彩瑠・さくらえ(宵闇桜・d02131)
    蓬莱・烏衣(スワロー・d07027)
    千景・七緒(揺らぐ影炎・d07209)
    吉沢・昴(ダブルフェイス・d09361)
    ンーバルバパヤ・モチモチムール(ニョホホランド固有種・d09511)
    霧野・充(月夜の子猫・d11585)
    片倉・純也(ソウク・d16862)

    ■リプレイ


    「時間だよ」
     彩瑠・さくらえ(宵闇桜・d02131)が受信したメールを確認しつつ静かに呟けば、霧野・充(月夜の子猫・d11585)が、さくらえと対となるよう扉を挟んで反対側で身構える。
     そして、閉じられた扉の正面に立った星祭・祭莉(彷徨える眠り姫・d00322)が「ガンマちゃん、がんばろうね」と相棒の霊犬に声をかけるとキッと正面門を見つめ、上段に構えた剣を一気に振り下ろしてその扉を破壊したのだった。
    「な、なに!?」
     倉庫内から女性の声があがる。
     天井にある数個のライトに照らされ、身の丈以上に積み上げられた箱や棚、大きめの木箱などが散乱した倉庫内で、正面口から近い場所に声をあげた女性がいた。
     女性――アヤメは入ってきた灼滅者たちを確認すらせず一目散に裏へと回ろうとし――。
     裏口方面から現れた5人にビクリと足を止める。
     正面から3人と霊犬、裏から5人、囲まれた事実にアヤメがパニックを起こし。
    「な、な、なによあなた達! わ、私が泥棒って知って捕まえに来たの? 正義の味方のつもり!?」
     前後をキョロキョロしつつ叫ぶアヤメに対し、いつものペースで答えるのは千景・七緒(揺らぐ影炎・d07209)。
    「正義とかヒーローとか、そういうの大好きだけど、自分がそうあろうとは思わないんだ。そういうのは似合いの奴に任せるさ」
    「なら、何なのよ!」
     混乱するアヤメに、今度は濡羽色に銀や紫が一筋ずつさした印象的な髪の少年が一歩前に出る。
    「罪を犯したんだろ?」
    「え?」
     少年、蓬莱・烏衣(スワロー・d07027)が続ける。
    「もうすぐ戻れなくなるなら殺すしかない……ってか? ハハッ、胸糞悪い」
     誰にともなしにいう烏衣の言葉だが、アヤメはその言葉が自分を差している事を理解する。
    「コ、ロ、ス……? え、私を?」
    「ああ、そうさ。これも仕事ってわけ。仕事ならオレはこなすっきゃないじゃん?」
    「私を殺すのが……仕事なの?」
     やれやれというジェスチャーで肯定する烏衣。
     だが灼滅者達の目的を理解したアヤメは瞳孔が開き黒目部分が小さくなったと思うと、突如右腕が巨大化しそのまま床へと叩きつける。
     轟音とともに衝撃で床の大地が陥没。
    「ふ、ふふふ……驚いたかしら。悪いけど、死にたくないなら逃げなさい。どうなっても知らないわよ?」
     右手だけをデモノイド化させたアヤメが引き吊った笑みのまま通告してくる。
     だが、その程度で驚く灼滅者は誰もいない。ンーバルバパヤ・モチモチムール(ニョホホランド固有種・d09511)は骨や爪で作ったチャームを取り出し、吉沢・昴(ダブルフェイス・d09361)などは鍔の無い愛刀に手を添え、アヤメの言葉など耳に入っていないかのようにゆっくりと居合いの構えを取る。
    「どうして驚かないの!? この手で殴ったらあなた達なんてすぐ死んじゃうのよ?」
    「……そうかもな」
     武器を準備しつつ淡々と言い放つ片倉・純也(ソウク・d16862)。
    「なら逃げなさいよ! 見逃してあげるって言ってるのよ!?」
     純也は目の前のアヤメ以外に業の臭いがしないことを確認すると、そのまま手に構えた武器をアヤメに突きつける。
     私のコレを見て怖くないの? なんなの? なんなのよ!?


    「ね、ねえ、聞いてくれない? 実は私、宝石を盗み続けなくっちゃいけない理由があるの!」
     灼滅者達への恐怖を必死に抑えながらアヤメが土下座する。
    「知ってるよ。そうしないと戻れなくなるんだよね」
     祭莉の相槌に「なぜ知ってるのか?」との疑問が浮かぶが、アヤメはコクコクとうなずき。
    「そ、そうなの! だから仕方なく盗みを続けているの! でも信じて! 私はこの力で人を殺してはいないし、これからも絶対にしないわ!」
     アヤメの言葉は恐怖こそ感じられるが、とても嘘を言っているようには思えなかった。
    「それも知ってるよ。でもさ、好きなものにお金をつぎ込んだのは自分の責任だし、そのために色々なものに手を出して借金までしたのは心の弱さだと思う」
     祭莉の言葉に顔を上げるアヤメ。しかし次に祭莉から告げられた言葉に。
    「結局、化け物になっても仕方ないよね?」
     呆然とするアヤメ。
     だが、すぐに我を取り戻し。
    「仕方ない……? どうして! 盗みを働いたら殺されるの!? おかしいじゃない! 私は誰も殺してないのに! 殺されるほどの罪なの!?」
    「善悪じゃない」
    「……え」
     冷たく言い放った昴を見つめるアヤメ。
    「被害者か加害者か……それだけだ」
     瞬後、いつの間にか昴が目の前にいた。それは無拍子と間合殺しの歩法を組み合わせ最適化された殺しの技術。
     そして、音もなく放たれた居合いが蒼い異形の腕を音も無く切り落とした。
    「い、いやあああああああっ!」
     落ちた腕を見て恐慌するアヤメ。
     まるで弱者を一方的に殺すような感覚、思うところはあれど昴は自分には似合いの依頼か……と心を凍てつかせる。
    「な……何よ、何なのよ!? どうしてこんな事するのよ!?」
     落ちた腕の付け根を抑えつつ泣き叫ぶアヤメ。
     対して笑顔で仲間を見回してから告げたのは七緒だった。
    「代表して言わせてもらうね。僕は武蔵坂の灼滅者、ファイアブラッドの千景七緒。それが僕の意義で矜持」
    「むさしざか? ふぁいあぶら……なに!? 意味わからない!」
    「キミはワタシ達のことを理解できないかもね……でも、キミの抱く恐怖は理解しているよ」
     同じだから――と、さくらえが呟く。
     自分の味方になってくれそうな物言いに、アヤメが一瞬安堵の表情を見せる。
    「私も、同じです」
     さくらえと同じように理解者としての言葉を紡ぐのは充だ。
    「私も同じ立場だったら、きっと生きたくて、私自身でいたくて、抗うでしょう」
    「ええ、ええ……私は死にたくない。化け物にもなりたくない。ただ、それだけなの!」
     一転してさくらえと充に対して必死に頷くアヤメ。
     だが。
    「それでも、アヤメ様は自己に負けて罪をおかし続けた……それはよくないこと」
    「え……」
    「傲慢かもしれませんが、せめて、あなた自身でいられる間に」
     小さな充に拒絶されたと知り、アヤメは最後の希望と言うようにさくらえを見る。
     しかし、そこには黒地に赤の彩りを持つガンナイフを構えるさくらえがいた。
    「キミだって本当は解ってるんだろう?」
    「な、にを……」
    「恨めばいい。闇に魅入られた己の不運と。キミの気持ちと命を踏み躙る僕らを」
     アヤメの顔が絶望に染まる。
     それと同時、純也の放った光の刃がアヤメの身体を刺し貫く。
    「はぁうああぁッ」
     痛みから漏れる悲鳴とともに膝を降り、左腕で光の刃を身体から抜き取る。
    「はぁ……はぁ……や、やめて、お願い……」
     人の身である身体に空いた穴から血を流しつつ、アヤメが謝り続ける。
     その姿を見て烏衣は心の中に芽生えそうになる意識に、わざと気づかないようかぶりをふる。
     邪悪な相手ならよかった。
     人を殺し慣れ、戦い慣れてる相手ならよかった。
     しかし、目の前にいるのは……――。
    「おい! 戦わねぇのかよ! オレ等はお前を灼滅する、お前もオレ等を殺す気で来い!」
     苛立ちとともにバベルブレイカーを構えたまま叫ぶ烏衣。
     その横をオーラの塊が飛び、助けてと言うアヤメに直撃。
     そのまま吹き飛び転がるアヤメ。
     オーラキャノンを放ったンーバルバパヤが、仕方ないヨ? とばかりに倒れたアヤメに言う。
    「ンーたちも化け物になりたくないヨ。だから貴方を灼滅するヨー」
     灼滅者達の一斉攻撃が始まる。
     そして――。
    『ガアアアアアアアアッ!』
     まるで暴走するようにアヤメがデモノイド化したのだった。


     デモノイドと化したアヤメは戦い慣れてこそいなかったが、純粋な強さは事前情報通りだった。もし盾役とのポジション交代などを視野に入れずに戦っていたなら、仲間の闇堕ちや、または即座にアヤメが逃亡して終わっていただろう。
     だが事実は違う。
     しっかりポイントを抑えた作戦を立てた灼滅者達は、アヤメを圧倒しこのまま戦えば確実に勝てると予想し始め……だが、そこで異変は起きた。
     ボコボコとデモノイドの蒼い筋肉が収縮し、左腕と両足だけ蒼い異形のまま、顔も身体も胸も人間のアヤメへと戻ったのだった。
    「さ、さっき、言ってたわよね? 私を、殺さないと……自分が化け物になるって……」
     アヤメはンーバルバパヤを見つめるが彼女は答えない。ほかの灼滅者達も同様だ。
    「ああ……やっぱり、そうなんだ……」
     理解するアヤメ、彼らは強者であり、自分は殺されるだけなのだ。
    「なぜ私が殺されるのか……あなた達も私と同じなのね……自分達が化け物にならないため、その為に私を殺す……私が宝石を盗み続けるのと同じ……」
     誰もが反論したかった。
     だが、後ろめたい過去を持つ者は押し黙り、そうでなくとも闇堕ちと背中合わせな灼滅者なのだ、『いつか人を殺す可能性があるから』と言うには胸が痛い。
     アヤメがどこか諦めた瞳で呟く。
    「私は、あなた達の自分勝手な理由で、殺されるのね……そんなの、ごめんだわ!」
     アヤメが積んであった木箱の方へ突っ込むと、それらを破壊しながら逃走する。
     キラキラと降り注ぐ宝石類と、紙吹雪のように舞う紙幣。
     咄嗟に灼滅者達の視界を遮ったアヤメは、棚や木箱の隙間を抜けて倉庫の奥へと素早く進む。目指すは裏口だ。
    「ガンマちゃん!」
     祭莉の声が響くと同時、アヤメの目の前を霊犬が加えた刀の切っ先がかすっていく。
     それと共に進もうと思っていた方向を塞ぐように、霊犬を従えた祭莉とバベルブレイカーを構える烏衣が立ち塞がる。
    「人を殺さなければそれでいい、と思ってるんだろ?」
     烏衣が言いながら杭をドリルのように回転させながらアヤメへと突撃する。異形の腕で必死に止めようとするアヤメ。
    「そいつは違うぜ? お前はいつか人を殺しちまう……だから、その前にテメェを殺す」
     ギンッと手から血をまき散らしつつ烏衣のドリルを弾いたアヤメが。
    「私と同じような力を持ってるくせに……あなた達だって同じじゃない!」
     叫びつつ跳躍するアヤメ。そのまま一番高く積み上げられた木箱達の上へと飛び乗ると、異形の腕を手刀の形へ変え天井に向かって一振り。月の如き衝撃が天井のライトを一斉に破壊する。

     ――暗転する倉庫内。

     だが。
    「いずれは誰かに回るツケなら、僕らがやろう」
     七緒が自らの血を手で拭うと、そのまま流れるように空中へ四散。
     小さな血の一粒一粒が炎へ代わり倉庫内が一気に明るくなる。
     さらにその明かりで照明を準備していた他のメンバーたちもLEDライトやランプなどの灯りを迅速に点灯させた。
     灼滅者達の冷静な行動に驚くアヤメだが、その胸を赤きオーラが逆十字に切り裂いた。
    「貴方の、罪を……きちんと、認識しなくては」
     充だった。
     高く積み上げられた木箱の頂上でよろめくアヤメ。
     そのタイミングで狙っていたかのように七緒が手を挙げ、次の瞬間アヤメの足下の影が立ち上がりアヤメを飲み込む。
    「いつか僕らも染まると言うなら、報いはその時にでも」
     七緒の言葉と、そして暗闇に紛れて逃走する作戦すら破られ、アヤメはガックリと木箱の山の頂上で膝をつく。
     嗚咽を漏らすアヤメの前、スッと音も無く立つ影は昴だった。

     居合い、一閃。

     それはトドメの一撃。
     胸から真一文字に血を吹き上げながら、アヤメが詰みあがった木箱の上から落下、ガラガラと木箱の山も崩れていく。
     終わった……。
     そして、誰もが最後に言葉をかけようかとアヤメが落ちた場所へと集まり……その場に、アヤメの大量の血溜りこそあれ、彼女の姿はなくなっていた。

     最初にソレを見つけたのは業の臭いが消えていない事に気づいた純也だった。
     致命の一撃を受け肉体は限界。
     しかしその女、アヤメは立っていた。
     物陰を選び正面扉へ向かっていたが足が思うように動かず純也に見つかったのだ。
     そして、純也と挟むようにさくらえが現れ。
    「逃がさないよ。キミがどんなに足掻いても、運命はキミを絡めとる」
    「あ、あなた達は……何様、よ……どうして私を殺す権利が、あるの?」
     ボロボロのくせに強い意志を秘めた瞳で睨んでくるアヤメが返答も聞かずに。
    「私は、あなた達の都合で殺されるなんて、まっぴらよ。まっぴらごめんよ! 私は生きたい! 死にたくない! そしてこれからも、宝石と共に生きていく!」
     アヤメの強烈な意志に僅かにさくらえが逡巡し、純也は表情こそいつもの仏頂面だが、内心では微妙に感情が揺れ……無意識に一つ質問をしていた。
    「どうして……そこまで宝石を?」
     一瞬、呆然と純也を見つめたアヤメだが、瞳の色が少しだけ優しくなりどこか遠くを見つめる。それは何か思い出でも懐かしむような……。
    「たとえどんな理由があろうと、キミはちゃんと殺してあげる」
     女性物の着物を着たさくらえが高速で懐へ入り込み、今度こそトドメとなる一撃を心臓へと突き立てる。
    「僕へ……しっかり恨みを抱けるように、ね」
     アヤメはダークネスへと足を突っ込んでおりもう戻れる可能性は無かった。
     そして自分たちは灼滅者だ。
     だが、それが何の免罪符となろう。

     灼滅の名を借りても、人を殺すという現実は決して変わらないのだから……。


     祭莉達が集まった時には、アヤメは足の先から崩壊を始めていた。
     まだ意識があるのか、時折と嗚咽が漏れ聞こえる。
    「手遅れだったんだよ、ね?」
     霊犬のガンマちゃんを撫でつつ、崩壊を始めるアヤメから目を離せずに仲間達へと呟く。
    「あ、ああ……これで良いんだ」
     自分に言い聞かせるように答える烏衣。
    「そう? 良いわけないと思うよ?」
     反論したのは七緒だった。
     烏衣にニコリと笑顔を見せ、しかし七緒は続ける。
    「でも、間違っているとも思わない。ふふ、ろくな死に方しないかもね、僕たち」
     そんな仲間達を見て昴が言おうとした言葉を飲み込み背を向け倉庫から去っていき、いつも元気なンーバルバパヤも無言で去り、他の仲間達も1人、また1人とアヤメに背を向けて去っていく。
     そして、塵となって消滅するさまを最後まで目を背けず見送ったさくらえも踵を返し、ふと最後に振り返った純也はキラリと光る何かを見つける。
    「古い……ブローチ?」
     それは他と違い明らかに使い古されたものだった。ついている宝石の輝きもにぶい。もしかしたら元々の持ち物だったのかもしれない。
    「いいと、思いますよ」
     アヤメが消えた場所に一礼していた充が言う。
     明らかにソレは盗んだ物じゃないと思いますし、と。

     誰もが倉庫を去り、最後に扉を閉めながら充は思う。
     自分たちは、闇に飲まれるからと言う理由で彼女を殺した。
     なら、いつか闇に飲まれるかもしれない自分達は……。

     灼滅者は正義の味方ではない。
     そして世界も、ハッピーエンドばかりではないのだ。

    作者:相原あきと 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2014年3月28日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
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