晩餐会館~はんばーぐ

    作者:つじ

     それは突然訪れた空腹。
     サイクックエナジーの枯渇とはまた違った感覚を楽しみながら、ハートの形をしたシャドウは考えた。
    「ハンバーグが食べたい」

    ●おなかがすいたよ
    「ハンバーグと言えば、まずは肉だ」
     口の一つがそう謳う。
     そのシャドウの体表には、小さな口がいくつもついていた。複数の口は大きさもまちまち、部位にも法則性は見られない。
     ただ顕現しては消えていく、先程とは別の口が言葉を継いだ。
    「肉質、肉感。良質である事は勿論だが、ある程度の量が欲しいな」
     言いながら、シャドウは長大な腕を顕現する。片手で一つ摘み上げ、もう片方で追加の一つを吟味する。
    「合い挽きにするならタイプの違う肉が良いか」
     言葉を続けるのはまた別の口。取った獲物を数えるように、シャドウは食材を並べていく。
    「欠かせたくないのがタマネギだ。肉の間で甘みを引き出す助演役だな」
    「こちらは肉体派のモノと違って剥いても剥いても終わりが来ない厚着さが欲しいところだ」
     口は変われども声色は同じ。それはさも当然のようでいて、気味の悪い光景だった。
    「色白のパン粉と、生まれて間もない新鮮さが命のタマゴ」
     浮かんでは消える口達が。
    「この二つにはつなぎとしての力も欲しいな。他の食材と上手く連携を取ってくれなくては」
     連綿と続く言葉を紡いでいく。
    「ソースも重要だな。一番上にかける分、これがダメだと全部台無しになってしまう」
     これも異口同音と呼ぶべきだろうか。
    「ジューシーに、熱く。血の気の多さが決め手になるか」
     そんな奇妙な独り言。
    「さて、最後に忘れてはいけないのがつけ合わせだ」
     最後に残った二つを摘み上げ、シャドウは少し考える。
    「インゲンとニンジン辺りが良いか。色取り鮮やかながら主役を補い、引き立てるのが役割だ」
     そう言って、並べた八つの食材を満足気に見下ろした。

    「くっ……ふざるけなよ」
     そこに初めて、別の声色が混ざる。
     言葉を発したのはシャドウのどの口でもなく、一番最初に摘み上げられた食材だった。
    「空腹だと? その程度の理由で……!」
    「三大欲求に縛られた君達が言うととても説得力がある」
     黙らせるように肉その1を掴み上げ、シャドウは調理器具を模した腕を顕現する。
    「この……虫食い野郎が!」
    「良い名前だ」
     ハートの表面に浮かんだ無数の口が、揃って皮肉げな笑みを浮かべた。
    「不愉快な名称だが、君は少しは良い肉になりそうだから特別に許そう」
     会話はここまでとばかりに、包丁と腕が軽やかに舞う。
     丁寧に皮を剥ぎ、縦横無尽に刻みつけ、粉々のそれを一心不乱に混ぜ合わせ、執拗なまでに炙り立てる。
     八つの食材……もとい、八人の灼滅者の正に悪夢のようなひと時は、皿の上に乗るまで続いた。

    「それでは、いただきます」

    ●いらっしゃいませ
    「で、先輩はその直後にイマイチって言われたらしいぜ。ショックだよなー」
     得てして目上の人間の失敗と言うものは噂話として広がりやすい。それは普通の高校生にしろ灼滅者にしろ同じ事のようだ。
     教室内に声の大きな生徒の言葉が響き、『情報』は貴方の耳にも届いてきた。
    「なんだ、お前も興味あるの? 晩餐会館に出るっていうシャドウの話」
     目が合ったのを幸いにと、その声の大きな生徒は貴方向けにもう一度話し出す。既に何度も披露しているのか、その語り口はとても滑らかだ。

     ブレイズゲート『晩餐会館』。それはかつて一世を風靡した料理店である。
     熟練の腕を持つ店主の拘りは、活きの良い至高の食材を厳選する事。単純かつ明快、そして妥協を許さぬその姿勢が来客に極上の味を提供していた。
     しかしそれも、店主が健在の内の話。彼の突然の死をきっかけに味は落ち、評判も転げ落ちた末、廃業するに至ったという。
     その後の処遇は権利者の間で揉めているらしく、看板を下ろしては居るが店構えもそのままに、晩餐会館は町の片隅にひっそりと佇んでいる。
     情報に寄れば、最近その場所を中心に一体のシャドウが活動を開始したらしい。
     曰く、そのシャドウは訪れた人間を料理して食べてしまうと言う。
    「それで、先輩達が調査に出かけたわけなんだけど……」
     どうやら見事返り討ちにあったらしい。
     敗北した彼等は、シャドウに調理し食される悪夢の中、ぼろぼろの状態で館から弾き出されていたという。
    「何か最初に『美味しく無さそう』とか言われて、すごいぞんざいな扱いを受けたってさ。気に入られれば違うのかな?」
     しばし予測の話をした後で、その生徒はまた別の話題へと移っていった。

     件の場所の情報は得た。仲間を募り、試しに挑戦してみるのも一つの選択だろう。


    参加者
    梅澤・大文字(張子の番長・d02284)
    鏑木・カンナ(疾駆者・d04682)
    松下・秀憲(午前三時・d05749)
    七生・有貞(アキリ・d06554)
    英・蓮次(凡カラー・d06922)
    明日・八雲(十六番茶・d08290)
    水城・恭太朗(耐久踏破・d13442)
    江之村・かよ(バッカスの果樹園・d19566)

    ■リプレイ

    ●集う食材達
    「俺達は料理されるんじゃない。俺達がハンバーグを作り上げていくんだ!」
    「コーチ……!」
     高らかに宣言する松下・秀憲(午前三時・d05749)に、英・蓮次(凡カラー・d06922)がきらきらした視線を送る。
     これから戦いを迎えるに当たって、彼等の士気は十分と言えるだろう。
    「美味しくなろうぜ!」
    「おー!」
     通常とは形が違うが、これも『おいしくなぁれ』と称されたESPである。効果の程は実際食われた時に分かるのかも知れない。
    「お前も美味しくなれよ」
    「ああ」
     そんな秀憲が肩に置いた手を、七生・有貞(アキリ・d06554)が生返事をしながら叩いて払った。
    「……大人しく美味しくなっとけって。な?」
    「やめろ頭に手を置こうとするな」
    「喧嘩はだめだよー」
     じゃれつく二人を横目に、江之村・かよ(バッカスの果樹園・d19566)が鏑木・カンナ(疾駆者・d04682)の身支度を整えていく。
    「いつもの事でしょ、あれは?」
     これからの展開を考えれば清潔感は欠かせないだろう。言うなればこれらは下拵えだ。
    「お呼ばれするんだからちゃんとしないとな」
     明日・八雲(十六番茶・d08290)も手を洗うべく水道の蛇口を捻り、その後ろで水城・恭太朗(耐久踏破・d13442)が服を脱いだ。
     服を?
    「きょんちゃんあの」
    「え、なに?」
     おもむろにパンツ一枚になった恭太朗は、勢いよく出した水を頭から被り、水垢離を敢行した。
    「水気は後でしっかり落としておくね……」
     次のクリーニング対象を探していた江之村は恭太朗からそっと目を逸らした。

     それぞれに準備を整えた彼等は、プレートを確認して中央のテーブルの席についていく。肉、肉、タマネギ、卵、パン粉にニンジン、インゲン……そしてソース。
     席に着いた一同の視線が、自然とソースの席に集まる。
     皆の視線は概ね同じ疑問を孕んでいた。
     ――誰? と。
    「……梅ちゃん?」
    「あ、梅澤か」
    「帽子とマントが無いとわかんないねー」
    「これを使うと良い。名札だ」
    「お前等……!」
     胸に『うめ』と書いた付箋を貼り付けられた梅澤・大文字(張子の番長・d02284)がふるふると震える。
    「そろそろ良いだろうか」
     それを遮ったのは、聞き慣れない声。
     気が付けば、埃混じりだった空気の匂いは払拭され、暗かった部屋には温かな明かりが灯っている。それらはきっと、この晩餐会館が健在だった頃の姿なのだろう。
    「ようこそ、私の晩餐会へ」
     そしてテーブルの上座に、そいつは居た。

    ●品評会のはじまり
    「……ほう」
     テーブルについた一同をざっと見て、シャドウが一つ感嘆の息を漏らす。
    「ふふ……皆今日の為に仕上げて来た良い食材揃いよ」
    「良い心掛けだ」
     カンナの不敵な笑みに、シャドウの体表の無数の口が弧を描いた。
    「ならば見定めさせてもらおう。まずは目を引く緑とオレンジ。名乗りたまえ」
    「私? 勿論ニンジンだけど」
     金髪を弄りながらカンナが立ち上がる。それに伴い輝くのは全身に身に付けたオレンジ色のアクセサリだ。
    「別に目立ちたい訳じゃなくて、派手な色で気分を明るくしてんのよ」
     栄養だけじゃなく気分もアゲる……これこそ付け合わせの役割だと彼女は語った。
    「そして自他ともに自信を持っておすすめするインゲンがこの俺です」
     続けてそう名乗り、秀憲がド緑の髪をかき上げる。
    「昨日は丁寧にトリートメント、枝毛もなく完璧に仕上げてきました」
     使ったのは勿論ノンシリコンだとオーガニックさのアピールも欠かさない。
    「あとえーと出身は京都、京野菜という太鼓判付きです」
     産地保証か。自らの言葉に秀憲の顔が引き攣る。
    「因みに神奈川でのびのび育てられた結果がこの色よ。関東でも良い野菜は穫れるし!」
     同様にカンナも産地アピールを行う。『鏑木さんが作りました』的な写真が秀憲の脳裏に浮かんだ。かろうじて噴き出すのは堪えたようだが。
    「単一の食材として素晴らしい」
     それらのアピールに対してシャドウの評価は高かった。しかし。
    「だが主張が強すぎないか添え物どもよ」
     保留だ、とシャドウは断じた。

    「主張が強いと言うなら君もか。名乗るついでに何故脱いでいるのか教えてくれ」
     立ち上がったのは勿論恭太朗だ。
    「俺は誇り高き穢れ無き純粋なるパン粉」
     修飾過多な名乗りを上げた彼は、全身の白を見せ付けるようにポーズを取る。
    「繊細さと白さを際立たせる為に服を脱ぎ体温を下げてきた。それだけだ」
     冒頭の水垢離もこのための布石。血の気を引かせることで白さをさらに強調している……!
    「あんなに白い水城、初めて見たわ……本気なのね」
    「唇が紫に見えるが……その清廉な白さの前では霞むな」
     カンナが感嘆するほどの白さである。シャドウもこれには満足したのか、敵対する相手を目の前に、明らかに警戒を解いてみせた。
     許可、とでも言うのか。
     それを見逃す理由も無く、恭太朗はシャドウにティアーズリッパーの一撃を加えた。
    「これが……パン粉で素材を融合させる……水(城)の力……!」
    「ああ、完成品が楽しみだぞパン粉よ」
     避けも反撃もしないまま攻撃を受け、シャドウは次の食材の吟味に移る。
    「次は君達だ。主張の強さで彼等に負けていては話にならんぞ」
     指名されたのは今回の主役、肉の英と江之村だ。
    「……それなりに鍛えてはあるようだな」
     まずは英を注視し、シャドウはそう評する。
    「その通り! これでやわらかすぎない、パンチのきいたハンバーグが作れるという事だよ」
     筋トレの成果を披露するようにして英が応えた。だがそれに対するシャドウは少々物足りなさそうだ。
    「お肉はこっちにもあるよ!」
     このシャドウは質は元より、量についても要求している。それを見て取り、江之村がポーズを取ってアピールする。
    「さ、最近の趣味はダンス! アウトドア派で健康なお肉、悪い物も食べてないよ!」
     豊満な体を強調し、彼女は懸命に言葉を並べた。
    「も、もちろん英君との相性もばっちり!」
    「そ、そうそう! 連携力ばっちり!」
    「なるほど。肉質も違い、相性も良さそうだ」
     英を巻き込んだアピールが功を奏したか、シャドウが頷く。
     拳からの雷と、指輪から魔法弾。二人の攻撃をまともに受け、シャドウの姿が一瞬揺らいだ。
    「わ~んカンナ先輩~」
    「よくやった……よくやったわ江之村、あんたが主役よ!」
     すぐに形を取り戻したシャドウは、待ち切れないとでも言うように品評を続けた。
    「よし、次だ」

     タマネギとして名乗りを上げたのは、もこもこと服を着込んだ八雲だった。
    「甘めのシュガーボーイ風タマネギ流厚着をしてきた!」
     言いつつ、服を肌蹴てパーカーの下のパーカーを示してみせる。
     そしてその下にはシャツ、その下にニット、さらにニット、続けてインナー!
     髪色も何となく飴色タマネギに見えなくも無い。
    「層の厚さは及第点だな」
     シャドウの警戒心が薄れるのを見て取り、八雲はスレイヤーカードから武装を展開し、炎を纏った右腕を振るう。
     しかし。
    「ん。だが戦闘用に『着て』いるのはそれ一枚か?」
     呟いたシャドウはフライパンを持った腕を顕現し、それを受け止めた。
    「拍子抜けだな、次」
     次に水を向けられたのは卵の席、七生だ。
    「俺の生まれは2003年。11歳だ」
    「ふん、まぁ新鮮さはそこそこか」
     それでは微妙に物足りないのか、シャドウの反応は薄い。だが七生の主張はここからだ。
    「それだけじゃねぇ。俺は超能力で18歳に変身できる。ここではしないが、超イケメンだ」
    「ちょーいけめん……」
    「自分で言った……!?」
     どよめく外野を無視し、神妙な表情で七生は続けた。
    「だが羽ばたく時を待たず、ハンバーグにして食べられてしまうわけだ」
    「然り。それが卵の宿命だ」
     シャドウの口達が愉快気に歪む。
    「気に入ったぞ哀れな卵よ。運命に抗う事を許そう」
    「そいつはどーも」
     大仰に語るシャドウに、七生は魔力を込めた一撃を見舞う。流し込まれたそれはシャドウの内側で爆発し、その身体を一瞬大きく膨れ上がらせた。
    「風船かよ……」
     ぷは、と口から煙を吐き、シャドウが元の大きさに戻る。ダメージの程を窺い知る事は難しそうだ。

    「では最後に……」
    「ソースはこのおれだ!」
     シャドウが言い終わる前に、梅澤が椅子の上へと立ち上がる。
    「他の食材を生かすも殺すもおれ次第! まさに料理を支配する番長ってワケさ! 押忍!」
     迫り、食いつかんばかりのアピールはなおも終わらない。梅澤は自らの胸板をナイフで切り裂き、噴き出す赤を炎に変えた。
    「!?」
    「うめさわーー!?」
    「アーッハッハッ血のソース血のソース! フランベフランベ! ジューシー&セクシー!」
    「良いから一旦座んなさい、ね?」
     これにはシャドウどころか仲間達も泡を食った。
     急な出血にふらつき、椅子から引き摺り下ろされていく梅澤を、シャドウは呆気に取られて見送った。
    「……じゃじゃ馬な食材が多いが、その分食らう時が楽しみだ」
     シャドウは気を取り直してそう言うと、調理のための腕を具現化した。

    ●お料理の時間
    「ところで、食材以外も連れ込んでいるのか?」
     指摘されたのは八雲とカンナ、そしてかよのサーヴァントだ。
    「おかゆはおかゆだ!」
    「お子様ランチに玩具は付き物!」
    「むいむいは……えーと。隠し味かな?」
    「……良いだろう、まとめて調理してくれる」
     広げた腕には人間を刻むに足る巨大な包丁が握られていた。
     自傷した梅澤を祭霊光で癒しつつ、八雲がおかゆと共に最前列へ。かよに背を押されたむいむいもそこに並んだ。
     振り下ろされた両腕は刻み、そして皮を剥ぐために。ナツメグを乗っけたむいむいは良い囮になったようだが、狙いはすぐに『食材』達へと向いた。
     守勢に回るおかゆ、突撃をかけるハヤテの後ろからカンナのガトリングが火を噴き、シャドウの身体をより赤く染めていく。
     総力を挙げての削り合いは、灼滅者側が僅かに優勢だった。そこには戦闘前に与えたダメージの影響も少なからず関係しているだろう。
     焦れたシャドウはさらに二本の腕を具現化し、手にした赤熱フライパンとフライ返しが前衛陣を纏めて炙った。
    「たまごおおおおいきてええええ」
     八雲が対抗するようにシールドを展開し、それに堪える。
     そしてその影から転がる卵のように七生が飛び出し、人差し指を敵へと向けた。
    「肉その2! 行くぞ!」
    「う、うん!」
     伸びたかよの影がシャドウの腕を絡み取り、七生の指先から生じた漆黒が本体を穿つ。
    「七生伝家の宝刀DEAD BLASTERだー! デッドつまり死。これは強いイィ!」
     指先に息を吹きかけ決めポーズを取る七生に恭太朗が煽りを入れた。
    「ひでのりわあああたすけてええええ」
    「あっすうううううう!」
     抵抗ゆえか集中攻撃を浴びた八雲に、秀憲が光の輪を展開する。
    「ふむ」
     秀憲は回復に走り、カンナはシャドウに対する状態異常付与に徹している。
     その様子を見て取ったシャドウは考えを改めたようだ。
    「付け合せの役割はしっかり心得ていたようだな。先程の評価は撤回しよう」
    「ご丁寧に品評どーも、それじゃ今度はこっちが審判……つっても結果は決まってますけど!」
     カンナの裁きの光がシャドウを魔と断じ、続けて秀憲の肥大化した腕が槌の如く振り下ろされた。
     直撃を受けたシャドウは揺らぎ、そして変化が現れた。
     これまで受け続けたダメージの影響か、体表に在った無数の口が一つ一つ閉じていく。
    「摘み食いは礼儀に反するが、仕方あるまい」
     その言葉を最後に、全ての『虫食い』が消えた。

     前衛へと迫るシャドウの様子に異常を感じ、その前に梅澤が立ちはだかる。
     仲間を庇う漢の背中。だがその目前で、シャドウの身体が中央から大きく裂けた。
    「……は?」
     そこにあったのは、人間一人を丸呑みできる程の巨大な口。
    「いただきます」

     ――がぶぅ。

    「うああぁうめちゃああああん!?」
    「梅澤が食われたあああ!?」
    「だだだ大丈夫まだ片足残ってる! 飲み込まれては――」
     慌てる一同の声を涼しげに聞き流し、シャドウはもしゃもしゃと口を動かす。
    「ジューシーと自称するだけの事はあるか。セクシーかどうかはともかくスパイスが効いていて熱……!?」
     品評の言葉に陽炎が混じる。
     シャドウの口の端から生じたそれは、次の瞬間紅蓮の炎に姿を変えた。
    「オラーーッ!!!」
    「熱っつぅおあああああ!?」
     爆音と火柱がシャドウの口をこじ開け、一人の男が立ち上がる。
     肩で大きく息をつきつつ、彼は自らの敵に真っ直ぐ指を突きつけた。
    「この業炎番長、漢梅澤を食おうとは良い度胸だぜーッ!」
     声が微妙に震えているが、直近の壮絶な体験を考えればこれも許容範囲の内だろう。
     再度複数に分かれた口から炎を吐き出しつつ、シャドウが呻く。
    「この熱、この刺激。認めようではないか、貴様こそが至高のソースであると……ッ」
     それに対し、梅澤は冷めやらぬ炎を纏った右腕をもう一度振りかぶった。
    「当たり前だッ!!」
     容赦の無い一撃がシャドウを打ち据え、吹き飛ばす。
    「俺の黒死斬は貴様の手足をもぐぞ」
     倒れ込むシャドウに恭太朗が追撃を加え、さらにその身体を英が捉えた。
    「おっしゃ行くぜー!!」
     立てた指先を天高く掲げ、英が叫ぶ。
    「えーい! えーい!」
     続く歓声と手拍子は仲間達のものだ。
     人体とは構造の違うが、そこは気合だ。英はシャドウを引っこ抜くように持ち上げ、後ろに向かって倒れこむ。
     上下逆さの状態で、シャドウは地獄の底へと垂直に落下した。
    「か……ッ」
     衝撃に耐えかねたか、シャドウは苦鳴を漏らして形を崩す。
    「ストロングハナブサの地獄投げだァ~! 料理の続きは地獄で食べなァー!」
    「えいちゃんかっけええええ」
     恭太朗の実況と八雲達の歓声が上がり、英が高々と腕を振り上げた。
    「これだけの食材を目の前にして、敗れるとは……!」
     勝利の雄叫びの下、シャドウの口が忌々しげに震える。
     最後に全ての口から黒煙を吐き出し、シャドウの姿は雲散霧消した。

    ●閉会
     テーブルについた状態で、一同は同時に目を覚ました。
     戦場を照らしていた照明は既に無く、突っ伏していたテーブルにも薄く埃が積もっている。
    「終わったか」
     ぼんやりとした頭を振って、七生が呟く。
     それは夢ではあったが、幻ではない。各々が抱える疲労と消耗、そして達成感がそれを物語っていた。
     約一名齧られはしたが、彼等は食われる事もなく、シャドウを退ける事に成功したのだ。
    「今更やけどなんなんやったんやろなあのシャドウ……」
     伸びを一つし、秀憲が言う。それに倣い、何名かは今回の相手に思いを馳せたようだが……。
    「今夜はハンバーグ作ろ」
     結局こういう結論に至った。
    「チーズハンバーグが良い」
     カンナの言葉に、七生が付け足す。
     ――ならばチーズは誰だ。そんな声が聞こえた気がした。

    作者:つじ 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2014年4月1日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 1/感動した 15/素敵だった 18/キャラが大事にされていた 6
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