豆乳なんかに負けたりしない!

    作者:飛翔優

    ●牧場娘の悩み事
     起床して、学校にいく前に牛の世話。
     帰宅して、着替えた後に牛の世話。
     幼い頃から牛と育ち、出会いも別れも繰り返してきて牧場娘、相良胡桃。今もまた晴れやかな日差しが降り注ぐ中、牛の頭を撫でながら静かに語りかけている。
    「いつもいつも、おいしい牛乳をありがとうねー。……ほんと、美味しいのにねー」
     手は止めず、静かな溜息とともに瞳を閉ざす。心に想いを巡らせる。
     今、彼女の友人間では豆乳が密かなブーム。勧められて飲み、試してみたこともあるけれど、やはり牛乳のほうが美味しかった。
     そう語ろうとした時、聞こえてきた言葉。
     牛乳を馬鹿にする言葉。
     本心で言っているわけではないのはわかっている。単なる、少しだけ質の悪い悪口なのだということはわかっている。
     それでも……と、胡桃は深いため息一つ。
     心の闇も言葉を一つ。
     ――そんな友人は懲らしめてやればいい。そのための力をお前は持っている。
    「あ」
     不穏な気配に気づいたのだろう。牛が、頭を擦り付けてきた。
     胡桃は小さな息を吐き、笑顔で牛を撫でていく。
    「ごめんねー、心配させちゃって……うん、大丈夫。大丈夫だよ」
     闇に身を委ねてはならない、自分が我慢すれば済むことだから。
     ……それでも、闇は静かに積み重なり……。

    「後は、牛乳を飲んできたからか背が高くてスタイル抜群胸も大きい……ですか」
     教室でメモを眺めていた桜乃宮・萌愛(閑花素琴・d22357)は、小さな言葉とともに立ち上がる。
    「どちらにせよ、今なら間に合うはずですね。知らせましょう」
     エクスブレインへと伝え、相良胡桃の救済策を寝るために……。

    ●放課後の教室にて
    「それでは葉月さん、後をよろしくお願いします」
    「はい、萌愛さんありがとうございました! それでは早速、説明を始めさせていただきますね」
     萌愛に頭を下げた後、倉科・葉月(高校生エクスブレイン・dn0020)は灼滅者たちへと向き直った。
    「北海道の地、とある牧場の一人娘、高校一年生の相良胡桃さんが、闇堕ちしてご当地怪人と化してしまいそうな事件が発生しています」
     本来、闇堕ちしたならばダークネスとしての意識を持ち、人としての意識は掻き消える。しかし、胡桃は人としての意識を保ち、ダークネスにはなりきっていない状態なのだ。
    「もしも胡桃さんが灼滅者としての素養を持つのであれば、救いだしてきて下さい。しかし、完全なダークネスと化してしまうようであれば……」
     そうなる前に、灼滅を。
     葉月は地図を広げ、町外れの牧場を指し示した。
    「胡桃さんの家がここ。当日の放課後を少し過ぎた時間帯、彼女はこの場所で家の手伝いをやっています」
     内容は牛の世話。故に、接触は容易いだろう。
    「ただ、牛が側にいるはずなので、少しだけ広い場所に誘導する必要があると思います。牛を巻き込むことを、胡桃さんも望まないでしょうから」
     というのも、相良胡桃。高校一年生の女の子。生まれた時から牧場で過ごし、家を手伝って来た、のんびり元気な牧場娘。
     出会いも別れも沢山したという牛との絆は、自他ともに認めるほど強固。肉体だろうが精神だろうが、傷つけることは望まないだろう。
    「闇堕ち仕掛けているきっかけですが、どうも、友人間では豆乳が密かなブームみたいですね」
     その際、軽い調子で友人がこぼした牛乳への悪口。それが降り積もり闇を抱くに至ったのだろう。
    「それら、いくつかの要素を留意して説得を行えば、うまく収まるのではないかとも思います。そして……」
     説得の成否に関わらず、ご当地怪人と化した胡桃と戦うことになる。
     ご当地怪人としての姿は、牛柄のビキニ風衣装に身を纏ったスタイル抜群の女性。
     力量は八人ならば十分倒せる程度で、破壊力に優れている。
     技は加護ごと貫くミルクホーン。抱きつき優しく締め上げるミルクホールド。牛乳を飲むことで傷を癒やしながら力を高めるミルクパワー。
    「以上で説明を終了します」
     葉月は地図など必要な者を手渡し、締めくくりへと移行した。
    「本来は家の手伝いなどを率先して行う、優しい女の子……ちょっとしたきっかけで、道を踏み外しかけてしまっただけ、そう思います。ですのでどうか、最良の結末を。何よりも無事に帰ってきて下さいね? 約束ですよ?」


    参加者
    巽・空(白き龍・d00219)
    沢崎・虎次郎(衝天突破・d01361)
    黒沢・焦(ゴースト・d08129)
    椎葉・武流(ファイアフォージャー・d08137)
    加賀見・えな(日陰の英雄候補生・d12768)
    マサムネ・ディケンズ(乙女座ラプソディ・d21200)
    桜乃宮・萌愛(閑花素琴・d22357)
    ミラ・グリンネル(お餅大好き・d24113)

    ■リプレイ

    ●牧場娘の選ぶ道
     平和な時間が流れる夕刻前。牧草が風になびき、艶やかな色合いを輝かせている北海道の牧場へと、灼滅者たちはやって来た。
     家屋と思しき建物に近い場所で牛の体を拭いている背が高くてスタイル抜群の女性……相良胡桃と思しき女性を発見する。
     灼滅者は頷きあった後、その女性へと近づいた。
     近づいてなお気づかぬ様子だったから、椎葉・武流(ファイアフォージャー・d08137)が若干大きな声で挨拶の言葉を発していく。
    「その牛あんたのかい? 名前、何て言うんだ?」
    「んー、この子の名前はウシオくんだねー……っと?」
     武流の言葉を受け、胡桃は小首を傾げながら立ち上がり振り向いた。
    「お客さん? なら、営業所はあっちの方だけど……」
    「何だか元気が無さそうだったからちょっと心配で……」
     牧場の入口側に設けられている建物が示されていく中、巽・空(白き龍・d00219)が静かな調子で語りかけた。
     眉を潜めていく胡桃の心を引き寄せるため、沢崎・虎次郎(衝天突破・d01361)が更なる言葉を重ねていく。
    「ちょいと闇を知ってる、って言えば分かるっすかね? だから、そのことを話すために少し時間が欲しいんっすけど……あ、後場所も移して……」
    「……」
     胡桃は押し黙り、静かに瞳を瞑っていく。三十秒ほどの時を経た後に小さな息を吐き、一人淡く微笑んだ。
    「分かった。ちょっと待ってて、この子のお世話を終わらせちゃうから」
     意は、了承。
     灼滅者たちは世話が終わるのを待った後、今の時間帯は牛たちから離れた場所にある牧草地帯へと誘導した。

     静かな風が吹く牧草地帯。胡桃が改めて話を……と切り出してきたから、灼滅者たちはダークネスのこと、灼滅者のこと、武蔵坂学園のことをかいつまんで説明する。
     説明した上で、空が胡桃を促した。
    「まず、悩みなどを教えてくれませんか?」
    「……私の悩み、か。そうね……」
     促されるまま、胡桃は語る。
     この牧場で生まれ育ってきたこと、牛乳に育てられてきたこと。牛はもちろん牛乳も大好き。だからこそ、友人に牛乳を馬鹿にされた時に悲しくなってしまったこと……。
    「深い意味じゃないことはわかってるんだけどね。でも、やっぱり……」
    「……牛乳っていいですよね♪」
     語るにつれて暗くなってしまった胡桃の心に灯りを灯すため、空が微笑み語りだした。
    「ボクも毎日飲んでるのです! そのままだけじゃなく、食材として料理に使ったりとか!」
     不安や寂しさに襲われた時は温めたミルクを飲むと、不思議と落ち着く。それは、他にはない魅力の一つ。
    「だからこそ、牛乳を悪いことに使ってほしくはないかなって……牛さん達も、悲しむと思うから」
     初めて足を運んだ牧場、眺めが良くてほのぼのして素敵だとの想いを抱いた。だからこそこの場を乱してはならないと、強い想いで胡桃の瞳を見つめていく。
     思いが伝わったのだろう、胡桃は優しく微笑んだ。
    「ふふっ、ありがとう。そう言ってもらえると嬉しいよ」
    「牛乳は万能食品ですよね」
     だからこそ、桜乃宮・萌愛(閑花素琴・d22357)も声を上げるのだ。
    「加工すればチーズにもヨーグルトにもなって カルシュウムで骨粗鬆症予防になる優れもの! おまけにスタイルもよくなります!」
     牛乳への思いを伝えるため、指でもババンとVサイン!
     流れに乗る形で、ミラ・グリンネル(お餅大好き・d24113)も言葉を挟んでいく。
    「オネーサンもなかなかセクシーなスタイルですネ! それが本当のカウガールですネ! でもミラも負けないデスヨ! 牛のミルクパワー凄いですヨネ……ミラもミルク大好物デス」
     胸元の開いた衣装で豊満に育った果実を魅せつけつつ、ツナギに包まれてなおスタイルの良さを主張する胡桃を褒めていく。
     胡桃は破顔し、口を開いた。
    「はは、ほんと。あなたも良いスタイルだね。羨ましいよ」
     空気も軟化し、優しい風が吹き抜ける。
     心を通じ合わせた段階で、次なる言葉は……。

     互いに静かな時を感じるだけの間を開けた後、沢崎・虎次郎(衝天突破・d01361)が穏やかな調子で口を開いた。
    「牛乳、美味しいし栄養だって素晴らしいっすよね! その素晴らしさは胡桃が一番わかってる筈っすよ?」
     友達が悪口を言った時も、大した悪意がないと受け止め心に秘めていた胡桃。故に抱えてしまい闇が生まれ、虎次郎は仲間と共に救い出すためにやって来た。
     静かな眼差しを送る中、胡桃は小さく頷いていく。
    「そうね。同年代の子には負けない自信はあるわ」
    「なぁ」
     だから、武流は尋ねた。
    「お前の想いに証なんて要るのか? 確かに自分の好きな物をディスられたら頭くるだろうけどさ」
     胡桃の想いを確かめるかのように。
    「それでもお前の牛乳が好きって想いは曲げられないし、曲げる必要もない。それで牛乳の味が変わる訳でもないんだ。そして、お前と同じ様に牛乳を美味いと感じる人は他にもいるんだ。信じろって。小さい頃からの想いを」
     あるいは、今一度原点へと立ち返らせることができるよう。
     静かに瞳を細めた後、胡桃は静かな息を吐く。
     口をつぐみ、考え始める様子を見せていく。
     結論が良き方向へと導かれることを願い、黒沢・焦(ゴースト・d08129)が言葉を投げかけた。
    「日頃お世話をしてくれる牛さんはあなたにすごく感謝してるはずですよ。それに牛乳を飲む人も牧場の人に感謝してます。俺も牛乳大好きですしね。お風呂上りの牛乳とか大好きです。だから少し人が牛乳の魅力に気づいて無い時があっても、牛乳と牛さんを信じてこれからもお世話してあげてほしいです。牛さんも今のあなたはきっと怖いと思いますよ」
    「……」
     怖い、との言葉に思い至るところがあったのだろう。胡桃は顔を上げ、頷いた。
    「そう……だね。少し、様子のおかしいところもあった。だから、私は……うん、この力は、必要……っ」
     言葉の半ばにて、胡桃の体が光に包まれた。
     ご当地怪人への変貌が始まったのだと判断し、灼滅者たちは距離を取り武装する。
     各々の準備が整った時、光の中から一人の女性が降り立った。
     胡桃が元々持ち合わせていたのだろ抜群のスタイルに、布地の少ない牛柄ビキニ。健全な青少年には少々目に毒な姿を前にして、武流はうろたえた。
    「しまえ! 隠せ! 目に毒だ!」
     無論、ご当地怪人に応じる様子はない。ただただ言葉なく身構えて、灼滅者たちを睨みつけている。
     視線を受け止め、加賀見・えな(日陰の英雄候補生・d12768)は小さく口ずさんだ。
    「正しき牛乳への愛、取り戻し、守るために力を貸して下さい!」
     剣を引き抜き、切っ先をご当地怪人へと向けていく。
     後方にてサポート役を担うマサムネ・ディケンズ(乙女座ラプソディ・d21200)は群青色のエレキを爪弾き、炎を吹き上がらせて駆け出した。
     英語で豆乳はSoy Milk。女子に大事なホルモンや美容に良いと聞く、栄養価の高い飲料。
     しかし、マサムネ自身は背が高くなれるうしちちミルク派。頑張って牧場やっている頑張りやな胡桃を救うため、ご当地怪人を打ち倒すために炎を走らせし棒を振るうのだ。
     ご当地怪人は腕で受け止め、炎上しながらも押し返す。
     静かな息を紡いだ後、焦を目指し駆け出して……。

    ●ご当地怪人は名乗れない
     優しく抱きすくめるように、ご当地怪人が仕掛けてきたミルクホールド。
     焦はバックステップで回避した直後、体のバネを活かしてフロントステップ。ご当地怪人の懐へと踏み込んだ。
    「そこだ」
     剣を引き抜く勢いのまま切り上げて、二歩ほど後退させていく。
     すかさずミラが張り巡らせていた結界を起動し、ご当地怪人の自由を削ぎ落した。
     が、ご当地怪人はミラをロックオン。結界による拘束を振り切り、身構えるミラに抱きついていく。
    「ノー! そんな優しく抱きしめないでクダサイ! ミラと胡桃のバストがポロリしちゃいマス!」
     若干の身長差はあるものの、誤差の範囲。
     果実が真正面から落ち潰され、少々教育に悪い景色が生まれていく。
     更に、ミラの姿は胸元の開いたバニースーツ。一方、ご当地怪人が布地の少ない牛柄ビキニというのだからなおさらだ。
     もっとも、ミラに苦しげな様子はない。ただたあご当地怪人は優しく、甘くミラを抱きしめ続けている。
    「……優しく締め上げるだけなら助けなくていいんでしょうか?」
     ミラが瞳を細めつつ、そういうわけにも行かないだろうと自答し剣を振り下ろした。
     上手く引き離されたミラを治療するために、焦のナノナノが軽やかにハートを飛ばしていく。
     焦は静かな息を吐いた後、ご当地怪人の背後へと回り込んだ。
    「……広くて良かったな。何かを傷つける心配もない」
     手首を返し、剣を振るい、ご当地怪人の足を切り裂いた。
     若干バランスを崩す様子も見せたから、萌愛がすかさず踏み込み拳を連打する。
     一発、二発と重ねるうち、明らかにご当地怪人の動きは鈍った。
     五発、六発と続けたなら、顔をうつむかせながら動きを止めて……。
    「っ!」
     フェイクだったのか、はたまた偶然歯車が噛み合ったのか。
     閃光を宿した拳を引き退こうとしていた萌愛の体を、ご当地怪人が抱きとめた。
     一瞬体を硬直させたものの、萌愛はすぐに受け入れ優しく抱きしめ返していく。
    「胡桃さん、自分を手放さないでください! 堕ちたら、牛達はどうするんです!? あの子たちが大切と思うように、あなたの事大切と思ってるはずですよ」
     闇の中に眠り、されどご当地怪人を抑えてくれているだろう胡桃を元気づけるため。胡桃を救うとの思いを、改めて投げかけるため。
     呼応したか、ご当地怪人の拘束が緩んだ。
     すかさず萌愛が退き距離を取っていく光景を眺めつつ、マサムネが静かな言葉を紡いでいく。
    「なぁ胡桃っち…。お前さん、元気に頑張って、牧場のお手伝い頑張ってた健全女子だろ? そんな娘が怪人に堕ちるとか想像したら。不似合い過ぎてオレちょい涙が出てくらぁ……」
     返答はない。
     ただ、ご当地怪人が動くこともない。
    「オレ、好きだぜ牛乳。背が高くなれる健康飲料。暖かくして飲むとな。灼滅者として覚醒したての頃の、嫌な記憶で眠れない夜もベーヤー級に安心なんだ。だから……な。明るく輝く牧場娘に戻って欲しい。オレだけじゃない。皆もそう思ってるはずだ」
     まっすぐに見据え、ギターを鳴らし、優しい音色を牧場中に響かせる。
     落ち着いた音色を受け止めながら、バニースーツの胸元を直しながら、ミラもまた言葉を投げかける。
    「女の子ばかり狙う所業もこっちの男子を惑わす孔明の罠デス。ミラ知ってマス!」
     どこかずれたような言葉だが、あながち間違いでもないのかもしれない。女怪人とはそういうものなのだから。
     もっとも、萌愛は小首を傾げていた。
     曰く、いまいちよくわからない。なぜ、そうなのか、一部男性陣の動きが少々おかしいのかわからない、と。
    「……」
     しばし考えた後、分からなくても良いのだと結論づけ、棒付き飴のような形状と鮮やかな色をした杖に魔力を注ぐ。
     治療を受けた後にふりあげて、ご当地怪人に殴りかかった……。

     度重なる猛攻にたまらず……といったところだろう。ご当地怪人は何処かより瓶牛乳を取り出し、フタを開けて飲み始めた。
     豊満な胸を張りながらミルクパワーを充填していく様を眺め見て、空はぐぬぬと拳を握る。
     成長し育ったご当地怪人に比べ、成長過程の空のスタイルはお世辞にも良いとはいえない。
     比べる者がいなかったのは幸いか。
    「その心の闇ごと……打ち砕くっ!!」
     いずれにせよ抱いた思いを叩き込む事に違いはないと、ミルクパワーを砕くために全力全開で殴りかかる。
     牛乳を飲み終えたご当地怪人が一歩、二歩と退いていく様を横目に捉えつつ、えなは背後へと回り込んだ。
    「っ!」
     剣を振るうも、素早く振り向いたご当地怪人の腕に阻まれた。
     そのまま押さえつけながら、えなは小さく、けれど力強い言葉を投げかける。
    「大丈夫、みんな牛乳大好きですから! あなたの大好きな牛乳を自分が信じるんです!」
     言葉の終わりに弾かれながらも、バランスを崩すことなく距離を取った。
     一方、ご当地怪人は武流へと向き直り、頭に牛の角を生やしていく。
     加護ごと貫き砕くという、ご当地怪人自慢のミルクホーン。
     武流は焔の如きオーラで受け止めた。
    「その力は傷つけ、壊すための物じゃない。守るための物なんだぜ」
     優しい言葉を投げかけながら、振るうは焔走る光の剣。
     ご当地怪人を炎に包んだ時、虎次郎が拳に光を宿して飛び込んだ。
    「闇に堕ちた心で牛乳の良さをPRした所で、他人が受け入れると思うなっ!!」
     叱責を浴びせつつ、拳を連打。
     頬を張る右ストレートでご当地怪人に尻もちをつかせていく。
    「そこです!」
     見逃す理由などどこにもないと、萌愛が紅蓮のオーラを走らせたカラフルな杖で殴りかかった。
     脳天を捉えた直後、えなが剣を突き出していく。
    「……」
     肩を貫いた時、変化を感じた。
     ご当地怪人が倒れ胡桃に戻るのだと判断し、えなは剣を引いて駆け寄っていく。
     倒れていく胡桃を優しく抱きとめて、静かな笑みを綻ばせた。
    「でも、やっぱり……すごいです」
     自分とは違い抜群のスタイル……そんな感想を誰にも聞こえないくらい小さく呟いた後、振り向き戦いを終わりを告げていく。

    ●のどかな牧場の牛乳ガール
     胡桃を介抱する傍ら、己等の治療を行った灼滅者たち。
     治療を終え武装を解いた頃には胡桃も目覚め、静かな笑みを浮かべながら口を開こうとした。
     が、謝罪の気配を感じたからかあるいは素か……マサムネが、明るい声を響かせていく。
    「よっお帰り。わー……胡桃っちの笑顔眩しい! やっべ眩しい! ……でもその顔の方がお似合いだぜ? 笑顔はスッピン状態でも最強のお化粧だから、な?」
    「そうデスそうデス。胡桃も、ちょっと悲しくなっただけデスヨネ。ミラも鏡餅パワーで同じようになった経験あるデス! でも皆に励まされたデス。胡桃もミルク好きな気持ち大切にすれば平気デス!」
     ミラも同様に言葉を投げかけて、元気な笑みをはじけさせる。
    「……ふふっ、ありがとう。本当に、ありがとう……!」
     だからだろう。胡桃は謝罪ではなく感謝を述べ、満面の笑みを花咲かせた。
     笑顔が口火となって会話も弾み、優しい時間が訪れる。
     話題が牛へと移った時、ぼうっと牧場の牛を眺めていた焦が静かな調子で呟いた。
    「牛さんって可愛いですよねぇ。つぶらな瞳にすごく癒されますし、草をもしゃもしゃしている様はもう……」
     異論を挟む者はいない。灼滅者たちは胡桃と共に、牛たちの観察も開始した。
     胡桃の生還を、新たな灼滅者の誕生を祝いながら。
     この牧場が平和である、何よりも幸いな事実を喜びながら……。

    作者:飛翔優 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2014年3月26日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 0/感動した 2/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 5
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