怪力乱神・燕の奇譚~猛気の女神と燕尾のスサノオ

    作者:志稲愛海

     伝承に伝わるその女神は、スサノオの吐き出した猛気から生まれたという。
     だが一見、人の様な姿をしている其の存在は……高い鼻に長い耳と鋭き牙を持つ、獣の如き容姿の邪神。
     そしてこの邪神・『天逆毎(あまのざこ)』は。
     天狗や天邪鬼の祖先といわれており、物事を逆さにしないと気の済まぬ性格で。
     意のままにならない事があれば、手が付けられぬほどに荒れ狂ったのだという。
     
     高い蒼天の彼方から降り注ぐ、太陽の光。
     だが鬱蒼としたその森の奥底に届くのは、葉陰からちらちらと稀に射す木洩れ日のみ。
     そんな静かに森を覆う闇の中。不意に現われた其れは、真白の炎。
     狼の如き獣――スサノオであった。
     その姿は、真白の身体に、尾だけが藍黒色を帯びていて。艶やかな色の長い尾は、切れ込みの深い二股の、いわゆる燕尾形である。
     そして昼に潜む闇に姿を見せた燕尾の獣が一声遠吠えし、何処かへと去っていけば。
     白き炎獣の居た場所にかわりに現われたのは――獣の如き顔の、凶暴で天邪鬼な女神であった。
     

    「みんなのおかげでね、ついに『燕尾のスサノオ』の尻尾を掴めたよ!」
     飛鳥井・遥河(中学生エクスブレイン・dn0040)は教室に集まった皆を見回して。これもみんなが今まで古の畏れを退治してくれたからだよ、と笑んでから、察知した未来予測を語り始める。
    「今回、尻尾を掴んだ『燕尾のスサノオ』と接触する方法はね、2つあるよ。1つ目は、スサノオが古の畏れを呼び出そうとした直後に接触する作戦。2つめ目は、スサノオが古の畏れを呼び出して去っていこうとしてる時に接触する作戦だよ」
     提示されたスサノオと接触する方法は、以下の2つ。
     1つ目は、スサノオが古の畏れを呼び出そうとした直後に接触を行う作戦。
     この作戦を選択した場合、6分以内にスサノオを撃破できなければ、古の畏れが現れてスサノオの配下として戦闘に加わるという。古の畏れが現れた後は、スサノオが戦いを古の畏れに任せ撤退してしまう可能性も大いにあるため、短期決戦で臨まなければならない。だが6分以内にスサノオを倒すことができれば、古の畏れは現れる前に消滅するので、短期決着にもし自信があるというならばこの方法が適切だろう。
     2つ目は、スサノオが古の畏れを呼び出して去っていこうとする時に接触する作戦。
     古の畏れからある程度離れた後に接触すれば、古の畏れが戦闘に加わることはない。そしてもしこの時スサノオと戦闘した場合、勝利した後に古の畏れとも戦う必要があるが。スサノオと戦闘になった際、時間制限はないため、スサノオに向き合う時間を気にしなくてもいいということだ。だがスサノオと古の畏れを倒す場合は、それ相応の実力と継戦能力が必要となるだろう。
     
    「それで、まずは『燕尾のスサノオ』だけど。戦闘にもしなったら、燕尾のスサノオは今まで生み出してきた古の畏れの能力が合わさった感じの攻撃を仕掛けてくるよ。そして最初に生み出した『橋姫』のように、一番最初にスサノオに姿を認識された人の性別によって、スサノオの攻撃手段がかわってくるよ」
     この『燕尾のスサノオ』は、以前の古の畏れ『橋姫』のように、最初に認識した人物の性別によって戦闘スタイルが変わるという。女性が一番に接触すればスサノオは『男型』の攻撃スタイルに、男性だとスサノオは『女型』の攻撃スタイルになるようだ。
    「女性を最初に認識した場合の男型は、橋姫の男型と同じく日本刀と、次に呼び出した古の畏れ『古戦場火』と同じ無敵斬艦刀とバトルオーラのサイキックを使ってくるよ。そして男性が最初に接触した場合の女型は、橋姫の女型と同じく鋼糸と、3番目に呼び出した『百々目鬼』と同じ縛霊手とバトルオーラのサイキックで攻撃してくるんだ。どっちを選ぶかはみんなの作戦次第だからお任せだけど、最初に認識される人はそれなりの危険が伴うかもから、慎重にね」
     それから遥河は次に、今回生み出される古の畏れについても語る。
    「状況によっては出現しないかもだけど、次は古の畏れ『天逆毎』についてだね。伝承通り、鋭い牙でみんなの得物を噛み砕こうとしたり、強烈に投げ飛ばしてきたり、荒れ狂って殴りかかってきたり、炎を吐き出したりしてくるよ。あと、シャウトも使ってくるみたい。それで伝承の天逆毎は天狗の祖先って言われてるからか、配下に1体の天狗もいるよ。天狗は、持ってるうちわで怒りを煽る風を巻き起こしたり、力を与える癒しの風を吹かせたり、衝撃を与える竜巻を発生させたりしてくるんだ。能力的には天逆毎より劣るけど、その分、体力があるみたい」
     戦場は、昼間の森の中。鬱蒼としていて昼でも少し暗いが、周囲に戦闘に支障になる障害物などはなく、一般人が現われることも滅多にないという。
     
     遥河はそこまで説明を終えた後、改めて皆を見回して。
    「スサノオはオレらの予知を邪魔する力を持ってるから、今回の接触はまたとない機会だよね。スサノオを倒すにしてもこれは絶好のチャンスだよ。だからこの機会に、『燕尾のスサノオ』がこれ以上危険な古の畏れを呼び出さないよう、必ず阻止して欲しいんだ」
     それにしてもスサノオって謎が多いけど本当はどんな存在なんだろうね……と、遥河はそう小さく呟きつつ首を傾げた後。
    「燕尾のスサノオも古の畏れも、すごく強敵だから……作戦は慎重にね」
     気をつけていってらっしゃい、と、灼滅者達を見送るのだった。


    参加者
    龍宮・神奈(戦狩の龍姫・d00101)
    久瑠瀬・撫子(華蝶封月・d01168)
    森本・煉夜(斜光の運び手・d02292)
    皇樹・桜夜(家族を守る死神・d06155)
    千景・七緒(揺らぐ影炎・d07209)
    中津川・紅葉(咲き誇れや風月の華・d17179)
    湊元・ひかる(コワレモノ・d22533)
    神隠・雪雨(ブラックアンプル・d23924)

    ■リプレイ

    ●掴んだ燕尾
     鬱蒼とした森を侵食するのは、闇。
     昼間とは思えぬ薄暗さは、ざわざわと枝葉を鳴らす樹々の仕業で。
     同時に、それらが大きく風に揺れ擦りあう度、その隙間から、木洩れ日が微かに零れ落ちる。
     だが刹那……昼の闇に生じた其の灯火は。
     木洩れ日とはまた異なる色をみせていた。
     それは、燃え上がる真白。
    (「ようやくスサノオ本体とご対面ですか」)
     皇樹・桜夜(家族を守る死神・d06155)は森を包む闇に潜みながらも、ゆらり揺れる白き炎――スサノオを見据える。
     真白き身体に、艶やかな藍黒色の燕尾。
    (「いい加減古の畏れを呼び出すのは厄介ですのでしっかり灼滅しましょう」)
     桜夜は成すべき事を改めて心に思いつつ、現われた『燕尾のスサノオ』の動向をそっと窺う。
     桜夜は以前、このスサノオによって生み出された古の畏れと対峙した事があるが。ようやく今回、その元凶の尻尾を掴んだのだ。
     いや、それは桜夜だけではない。彼女と共にこの場に赴いた灼滅者の半数が、燕尾のスサノオが生み出した古の畏れの事件に携わっていた。
     だからこそ――その『縁』が、これまでスサノオの力で阻まれていた未来予測を可能にしたのだ。
    (「ほら、逃げられなかったろう」)
     仲間達と共に静かに木陰に身を潜めながら。
    (「ルカが繋いでくれた縁、無駄にはしない。必ずここで仕留めてやる」)
     千景・七緒(揺らぐ影炎・d07209)は、級友の予知した通り現われた白き炎を、確りとその瞳で捉える。
     灼滅者達とエクスブレインの手でようやく掴んだその尻尾を、決して逃さぬように。
    (「……私情を挟むんじゃ僕もまだまだかな」)
     それは、確かに私情なのかもしれない。
     だが、友から託された案件だからこそ。七緒がこの依頼に臨む気持ちが人一倍強くあるのも、また事実だ。
     そして同じく、『燕尾のスサノオ』と過去に縁のある、森本・煉夜(斜光の運び手・d02292)は。
     闇夜に照る白き獣の遠吠えを耳にし、新たに現われた存在へと、一瞬目を移した。
    (「須佐之男命の気から作られたという天逆毎がスサノオによって蘇る、か」)
     鬱蒼とした森に吼えるのは、獣の如き容姿の邪神、『天逆毎』。
     伝承によれば天逆毎は煉夜の知る通り、須佐之男命の猛気から生まれたという。
     だが。
    (「必然なのか因縁なのかは分からないが、折角の機会だ。禍根は断ってしまうとしよう」)
     すぐに、天逆毎から燕尾のスサノオへと戻る、煉夜の視線。
     灼滅者達が今回選んだのは、『スサノオが古の畏れを呼び出し去っていく時に接触する』作戦。
     暴れ狂い木々を薙ぎ倒す天逆毎に背を向け、白き炎の辿る道筋を追い始める灼滅者達。
     そんな仲間達に続きながらも。
    (「……畏れと戦ったことも無いのに、スサノオとも、なんて……」)
     チェックのハンチングを握り締めつつ、猛り狂う畏れを振り返った湊元・ひかる(コワレモノ・d22533)の気は、正直重いが。
     古の畏れに感付かれぬ程度に距離を取るべく、仲間と共に一歩を踏み出す。
    (「さて、古の畏れとスサノオ……。ほんの僅かでも彼らに関する何かを掴めればいいのですが」)
     そして神隠・雪雨(ブラックアンプル・d23924)がスサノオを追うべく、隠された森の小路を発動させようとしたが。
    「……!」
     道を作るべく動き始めた植物達が、ざわざわと音を鳴らしたのだった。
     音を立てず尾行しなければ、スサノオや天逆毎に気付かれてしまうかもしれない。
     幸い、風に揺れた木々のざわめき程度にしか思われなかったのか、敵に悟られはしなかったが。
     物音を立てることを良しとしないと心得ている雪雨は森の小路を成さず、隠密に森の中を歩き出したのだった。

     太陽の光が届かぬ深い森の中を、ゆらり移動する白き炎。
     だが……そんな白の揺らめきがふと動きを止めた、その理由は。
    「おや、そんなに急いでどちらへ?」
     たおやかな笑みを絶やさず、淑やかな身のこなしで。しかし確りとスサノオの往く手を阻むように姿をみせたのは、久瑠瀬・撫子(華蝶封月・d01168)であった。
    (「いよいよスサノオとのお目見え。今回はきつい戦いに成りそうですが、やるしかないですね」)
     そう、撫子は、スサノオの戦闘スタイルを『男型』にする為の囮。
     周囲に潜む仲間達にも緊張の色がみえる。
     ――その時だった。
     ウオォォーーン、と……そう白き獣が一鳴きした、瞬間。
    「殺戮・兵装(ゲート・オープン)」
     スッと着物の袖から取り出したカードに、撫子がそっと口付けし唱えれば。その手に瞬時に握られるのは、炎を従えた、身の丈よりも長い十文字鎌の槍。
    「!!」
     刹那、男型と成ったスサノオの巨大な鉄塊の如き刀が唸りを上げ、撫子へと振り下ろされる。
    「来ると判ってれば、耐えられない事はないです」
     だが、予め攻撃に備え構えていた熟練の灼滅者である彼女を一撃で沈める事は叶わず。
    『……!』
     囮の撫子に気を取られている敵へと牙を剥くのは、燃え盛る揺らぐ陽炎。
     そんな潜伏場所から飛び出した七緒の奇襲こそ、咄嗟にスサノオはかわすも。
    「いよいよ最終決戦ねっ。今までの縁もここで御仕舞! 相見える事が出来て嬉しいわ」
     もふもふをほふりにっていうと早口言葉みたいね! と、いつも通り天真爛漫に笑んでから。
     中津川・紅葉(咲き誇れや風月の華・d17179)は、ばさっと扇子を華開かせ、これまで二度も縁のあった、古の畏れを生み出した元凶へと改めて向き合う。
    「さあ、存分に死合いましょっ♪」 
     三度目にして尻尾を掴んだ燕尾の獣と、刹那に戯れる為に。

    ●燕尾の獣
     右手に握るは、牙を剥く龍。左手に携えるは、大切なものを護る為の覚悟と、龍の鱗を纏う盾。
    「強敵っつーけどな……そういう相手と戦える方が、俺は燃えるんだよ! 全力でやらせて貰うぜ!」
     そしてその心には、常に怯まない勇気が。
     これまで静かに潜んでいた鬱憤を晴らすかのように。
     龍炎開放、一気に最戦線へと踊り出るのは、龍宮・神奈(戦狩の龍姫・d00101)。神奈の掲げた護龍盾が、燕尾のスサノオへと叩きつけられる。
     その間に、自身に受けた傷をすかさず撫子が癒し、めーぷるを前に送り出した紅葉が、指先に集めた霊力で念入りに囮を担った彼女の傷を塞ぐ。
    「殺しがいがあるといいですね。楽しませてもらいましょう」
     桜夜はそう清楚に漆黒の瞳を細めた後。 
    「死の境界、さあ、狩りの時間だ!」
     解放の言の葉と共に好戦的な彩りをその目に宿して。燕尾の獣を狩らんと、螺旋を描く鋭撃を繰り出す。
     煉夜も続き、敵の動きを少しでも鈍らせるべく。素早くその懐へと踏み込み、高速回転させた杭の尖撃を真白の身体へと見舞って。
     決して逃がすまいと。死角からの七緒の斬撃が、スサノオの足取りを鈍らせるべく放たれる。
    「大きな犬みたいですね……」
     ナノナノがぷうっと懸命にシャボン玉を飛ばす中。
     あの人がこの生物と相対したら何を思うのだろう、と。敵を蝕む漆黒の弾丸を撃ち出しながらもひかるが思い浮かべるのは、恩人の姿。
     だが目の前の獣は雪の様に真白だけれど……浮かぶその色は、燃える様な彩り。
     そして獣の炎の色に負けぬよう舞う白は、雪雨が揺らす着物の袖に降る白雪。前衛の仲間達に一気に振り下ろされた斬撃や冴え冴えとした一閃は、成した男型の猛々しさを誇示する様な強烈な威力を誇るが。少し頬を染めながらも仲間の傷を塞ぐべく、その背中にぴとりと寄り添って。雪雨は集めたオーラで包み込み、仲間へと癒しを施していく。

     手数では圧倒的な灼滅者。だが相手は、格上のスサノオ。
     ひらりと艶やかな燕尾を振って。ふわり軽い身のこなしで、向けられる攻撃を凌いでいるかと思えば。男型の腕力を振るい、二本の刀や漲るオーラで灼滅者達を薙ぎ払ってくる。
     だが幸い、今の敵は燕尾のスサノオ1体のみ。時間制限なども特にない。
     余裕は決してないにせよ、何をするにしても、集中してスサノオだけを相手取れる戦況であるのは確かだ。
    『ウォォオオ、オオォ……ンッ!!』
     刹那、空に吼えるスサノオ。その身体を、淡い癒しのオーラが包み込む。
     いくら強敵とはいえ、回復の手数が多くなっている敵をみれば……燕尾のスサノオの体力も、底がみえているのかもしれないと。受けた傷は回復手に任せ、一斉に攻撃へと転じる灼滅者達。
    「こっちです……!」
     まるで大きな犬のようなスサノオに、お手、と思わず真剣に言いそうになりながらも。
     囮を担った撫子がいる為か、スサノオの集中攻撃を受け気味な前衛から、ナノナノと共に比較的ダメージの少ない自分の方へと。懸命に敵をひきつけようと、影を伸ばすひかる。
     その間に、癒しの力をもって、戦線をしっかりと支える雪雨は。
    「皆さんの背中は、私がお守りします!」
     久しぶりに戦う圧倒的格上の強敵相手に。誰も怪我させはしないと、気合を入れて臨む。
     そして、まるでたおやかに舞うが如く。
    「逃がしなどしませんよ」
     執拗な燕尾のスサノオの超弩級の一撃を見切り、長い十文字鎌槍を自在に操る撫子が絶妙なタイミングで放ったのは、白き炎を打ち貫く冷気のつらら。
    『ガ……ッ! グアアァッ』
     その衝撃に大きく揺らいだ敵を見逃さずに。
     さらに畳み掛けるのは、息のあった連携攻撃。
    「回復は任せて! 二人の腕の見せ所ね。期待してるわっ♪」
     紅葉はそう同じクラブの戦友達にウインクしつつ、ひらり舞い踊るかの様に、集めた霊力で状態異常を祓って。
    「いくぜ、俺に続けっ!」
    「繋げるぞ」
     堅き龍の護りが施された盾を大きく振るい神奈が叩きつけると同時に、煉夜が詠唱圧縮し成した魔法の矢が、燕尾の獣へと唸りを上げて。めいぷるも、ナノー! と一緒に頑張って、ふわふわハートを戦場に飛ばす。
     そんな三人と一体の連携を、友達同士裏山、と微笑ましく眺めてから。
    「下拵えはしといたよ。格好いい所見せてね?」
     七緒の狙い澄ました斬撃が真白き足の腱を斬り裂き、さらに敵の身を揺るがせれば。
     彼の下拵えを決して無駄にせず、すかさず得物を振るうのは、桜夜。
     強烈に殴りつけたそのロッドの衝撃が、白き炎の内側で大きく爆ぜた刹那。
    『ガアァ、アアァァ……ッ!!』
    「さて、次は畏れ戦です。皆様頑張りましょう」
     静かな森を振るわせる程の断末魔を上げた後。
     燕尾のスサノオは跡形もなく、静けさの戻ってきた闇の中、消滅したのだった。

    ●天邪鬼な女神
     燕尾のスサノオを灼滅し、充分な休憩と心霊手術を行なって。
    「さぁ。油断せずに」
     スサノオも畏れも、きっちりし止めて帰りましょう。皆で――そう撫子は、荒れ狂う邪神と相対する。
     だがまず狙うは、天逆毎に付き従う天狗からだ。
     スサノオと、スサノオが生み出した古の畏れ。
     一体何を目的に動いているのかいまだわからぬ相手というのは、どこか不気味であるが。
    (「とはいっても、今はこれが上策と思って倒すよりほかの道はないか」)
     確実に仕留めるとしよう、と。
     尖烈な杭の一撃で、敵の回復手段を阻害しにかかる煉夜。
     スサノオ程ではないにしろ、強敵が2体。厳しい連戦に身を置けるのも、直前の休憩や心霊手術の賜物だ。
     それでも、伝承通り『天邪鬼』な古の畏れに、少々翻弄される灼滅者達。
    「!!」
     刹那、不意打ちのように突然後衛へと迫るのは荒ぶる炎。
     その邪悪な猛炎に包まれて。
    (「駄目だ、他の人の足を引っ張っちゃ」)
     ひかるを蝕むのは、炎の衝撃だけでなく……戦いへの恐怖と、愚図な自分への焦り。
     でも、炎と同時にそれを吹き消してくれたのは、仲間という存在。
    「雪雨ちゃん、私は後衛を回復するねっ」
    「では私は、前衛の皆さんをお守りします!」
     互いに声を掛け合い、紅葉が輝く霊気で、炎の衝撃を受けたひかるを回復すれば。巨大な氷の爪を有する得物を携えた雪雨も、燻る炎に負けず、自分達を庇うべく前に立つ神奈へと、指先に集めた癒しの力を施して。灼滅者達へと繰り出された天狗の猛攻を身を呈して受け、消滅するめーぷる。
     ひかるが思い浮かべる『あの人』も――誰かを守る為に戦っている。
    (「私はあの人と同じにはなれないけれど。少しでも、みっともない所見せないようにしないと……」)
     膝はまだ震えてはいるけれど。必死に地を踏みしめ、ふわふわハートを懸命に飛ばすナノナノと共に、番えた弓から彗星の如き矢を解き放つ。
     そして。
    『ギャ……ギャァ!』
     命中した一矢に声上げた天狗の隙を、決して見逃さずに。
     闇に煌く銀の髪を靡かせ、天狗へと爆ぜる殴打を見舞った桜夜に続いて。
     濡烏色の艶やかな長髪を天へと舞わせる撫子の、まるで桜花弁の如く火粉散る業火の奔流が敵の群れを包み込んで。まずは、天狗を仕留めたのだった。
     だが――次の瞬間。
    「! 危ない……ッ!」
     今度は前衛を包まんと放たれた天逆毎の炎に、いち早く反応して。
     皆の盾となったのは、紅葉。
     心霊手術を施す基準には若干満たなかったが、癒せぬ傷をスサノオ戦で負っていた彼女が、地に崩れ落ちる。多くの人が無事に帰れるように努力する……それが、彼女の強い思いだから。
     さらに、好き放題暴れまくる邪神に、同じく前に立っていためーぷるも遂に倒れるも。
    「親孝行な娘さんだことで」
     炎は僕らの領分なんだがね、と。
     七緒は陽炎揺らめく鋭い瞳を天邪鬼な女神へと投げて。
    『グアァァァ!!』
     その炎を否定する魔力の光線で、敵のその身を容赦なく貫く。
     そして、さらに猛り狂う猛気の女神の攻撃に歯を食いしばり耐えながらも、衝撃を与えていく灼滅者達。
     癒せぬ傷も再び蓄積し、余裕のない戦況。
     だが、もっと余裕がないのは……荒ぶる女神の方であった。
     自分を投げ飛ばさんと伸ばされたその腕を素早く掻い潜り、龍の如きポニーテールを天に靡かせて。
    「これで終わらせるぜ!」
    「天邪鬼な女神も、ここまでだ」
     神奈が思い切りその長い鼻面を護龍盾でぶん殴ると同時に。
     煉夜の成した冷気のつららが、その邪神の身を無慈悲にも的確に貫いて。
     古の畏れに、止めを刺したのだった。

    ●スサノオという存在
     スサノオとその古の畏れを、無事灼滅し終えて。
    「本当にお疲れ様でした」
     そう微笑む撫子の傍で、花供え余韻を噛み締めるひかる。
     そして幸い大怪我に至らなかった紅葉は、神奈の手を貸りつつ立ち上がって。
    「自分の仕事全うしたんだもの。何て無茶をしてって怒らずに褒めてね」
     そう笑いながらも続ける――「あなた」が無事でよかった、と。
     そんな彼女や皆の怪我の具合を確認しつつも。
    「この後、ご飯など一緒にいかがでしょうか」
     桜夜はそう、戦いを終えた皆を誘ったのだった。

     スサノオとは一体どんな存在か……謎はいまだ残るが。
     これでもう『燕尾のスサノオ』が、古の畏れを生み出す事はなくなった。
     縁を繋いでその尻尾を掴んだ、皆の手によって。

    作者:志稲愛海 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2014年4月14日
    難度:やや難
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 7/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 1
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