忌火の車を背負う猫

    作者:六堂ぱるな

     
     雪解けがすすみ、木の芽も膨らむ里。
     半分だけの月でも、その姿を浮かび上がらせるには充分だった。

     純白の身体、両耳の先と尾の先だけが墨に染まった姿。ニホンオオカミに良く似たそれは、何かを待つように天を仰ぐ。 

     その音を聞いても人は春雷と断じただろう。
     轟々たる響きを伴い、大八車を牽いて天から落ちたのは、子牛ほどもある炎をまとった二匹の猫。首には闇でできたような鎖がかけられ、辻に留め置かれていた。
     
    ●罪人を連れ去る妖
     渋い顔でファイルを見下ろしていた埜楼・玄乃(中学生エクスブレイン・dn0167)が、眼鏡のブリッジを押し上げた。席を勧めて立ち上がる。
    「三度目ともなると、いい加減スサノオの尻尾を掴みたいが……古の畏れだ」
     岩手県の遠野、昔語りのメッカのような場所ではあるが。
     今回は少しばかり注意が必要そうな状況と言える。というのも、野辺送りの列に古の畏れが突っ込んでくるからだ。
    「昔は罪人や業の深い者が死ぬと、地獄へ連れ去られると信じられていた」
     その地獄へ運ぶ『火車』なる妖怪が、スサノオによって甦ってしまったわけだ。
    「『火車』によって一般人に被害が出ないようにしてもらいたい」
     
     古の畏れは遠野市の郊外、山里の四つ辻に現れる。例によって動ける範囲は限られているが、その辻に葬儀を済ませた一団が通りかかるのが問題だ。
    「野辺送りとは火葬場まで、死者の近親者が棺を担ぎ葬列を作って行くことを言うのだが。少し評判の悪いご老人だったようでな」
     『火車』の姿には諸説あるが、色々と混じってしまっているらしい。死者を乗せる大八車に長い柄をつけ、その両端を炎をまとった大きな猫が咥えて突っ込んでくる。
     猫は虎毛と三毛で、共にファイアブラッドと同じ能力を有する。時折雷を落とし、二匹で牽く大八車をぶつけたりもするようだ。
     葬列が通りかかるのは午後6時なので、それより早くカタをつける必要がある。
     
     ファイルを閉じて、玄乃は不愉快そうに眉を寄せた。
    「もう少しでスサノオの動きが掴めそうではあるんだが……。ともあれ今回も奴を捕捉はできん」
     古来日本では、死者に猫を近づけることを嫌ってきた。それと業の深いものを襲う、地獄の責め苦とが合わさってしまったのであろう。
    「『火車』は遺体を狙って襲いかかる。生前の評判はどうあれ、亡くなった今、妖に蹂躙されるなどあってはならんことだ。何としても防いでくれ」


    参加者
    七篠・誰歌(名無しの誰か・d00063)
    ベルタ・ユーゴー(アベノ・d00617)
    神薙・弥影(月喰み・d00714)
    伐龍院・黎嚇(龍滅のツルギ・d01695)
    ミゼ・レーレ(黒紫のウンブラ・d02314)
    土方・士騎(隠斬り・d03473)
    高倉・奏(拳で語る系シスター・d10164)
    戯・久遠(悠遠の求道者・d12214)

    ■リプレイ

    ●彼岸より来たるもの
     春先の里の四つ辻。
     大気にさざなみを立てるように、弥影の放つ人を払う殺気が広がってゆく。
     不穏な空気漂う夕暮れ時、ふらりと姿を現した灼滅者たちは、ところどころ雪の残る畦道をそれぞれに観察した。雪解けで少し土が緩んでいるようだ。周辺が畑で、少し盛り上げられた畦道での戦闘は注意が必要かもしれない。
     慎重に周辺を確認するミゼ・レーレ(黒紫のウンブラ・d02314)の傍らで、土方・士騎(隠斬り・d03473)がため息をついた。
    「辻には魔が憑きやすいというが、厄介なものを留め置いてくれたな」
     辻は現世と来世の境界線だという話を聞いたことがある。
     戦いに備えて闘気を練りながら、戯・久遠(悠遠の求道者・d12214)が首を振った。足元では彼の霊犬・風雪が見事な白銀の毛皮をまとい、腰を落ち着けて主を見上げている。
    「火車、か。伝承通りならば、粛々と見送るところだが」
    「畏れいうんはほんま日本のどこにでもあるもんやね」
     ぱたんと民俗学の本を閉じて、ベルタ・ユーゴー(アベノ・d00617)は天を仰ぐ。遠野物語、妖怪図鑑と色々読んだが、およそこの国は、古の畏れを甦らせようと思えば枚挙に暇がない。
    「古の畏れ……そんなものを呼び起こしてスサノオは一体何がしたいんすかねえ」
     高倉・奏(拳で語る系シスター・d10164)は呟いて首を捻った。妖怪ばかり選んで甦らせているようにも見える。
    「妖怪大戦争でも起こしたいんでしょうか」
     彼女のビハインド、神父様が暇そうに寄りかかるのに顔をしかめつつの言葉に、ベルタの脳裏を以前遭遇したスサノオのことがよぎった。あのスサノオのように、このスサノオも力を蓄えていっているのだろう。その意味では奏の言葉は笑い話ではない。
    「そのうち一人百鬼夜行でもできそうや」
     それはちょっと迷惑すぎる。ちらりとベルタの民俗学の本を見やって、神薙・弥影(月喰み・d00714)がぽつりと漏らした。
    「子牛大の猫って、可愛げなさそう……」
     物事には程度と言うものがある。猫はあの大きさだから可愛いんだと思う、というのが彼女の考えだ。
    「あ、でもモフモフだったら話は別よ?」
    「もふもふしてるだろうなぁ……でも火がついてるからな」
     猫檀家であればまだしも可愛げがあったであろうが、と落胆するのは七篠・誰歌(名無しの誰か・d00063)だ。猫好きにとっては悩みどころの相手と言える。
    「惜しい……なむとらやー」
    「でも葬儀で死者が増えるとか、笑えないものね」
    「やはり許し難い存在だな、ダークネス共め」
     弥影が畦道の彼方へと目をやっている間に、伐龍院・黎嚇(龍滅のツルギ・d01695)は思わず呟いていた。
     もうすぐ、火葬場へ向かう葬列がやってくる。
     生前がどれほど卑しい人間であったとしても、その骸を蔑ろにしていいという訳ではない。それも古の畏れ等という意志なき存在になど、させてはならない。
     怒りを含んだ黎嚇の言葉が聞こえたように、辺りには低い雷鳴が響き始める。

     辻には時ならぬ黒い雲が立ち込め、数度稲光が閃いた。
     黒い雲を押し分けるように、白地に茶色い模様の入った足がぬっと現れる。さっ、とその足を包むように燃え立つ炎が雲を追いやり、露わになるのは三毛猫。傍らには茶の鯖虎縞の猫が、やはり炎に身を包んで目を光らせる。二匹は大八車の長柄を咬み、灼滅者たちを警戒するように全身の毛を膨らませた。

     奏が腕を組んだ神父様と共に、真正面から猫たちと相対する。
    「かのご老人が生前どんな方だったかは存じませんが、これより先は黄泉の国の管轄!」
    「全ては神が決める事。その老人の魂は無事に神の身許へ送り届ける。彼はそこで裁かれるべきだ」
     この場の全ての音を漏らさぬべく遮断しながら、黎嚇がずいと前へ出た。
    「そして、貴様等畏れは神の身許へ送るまでもない、この伐龍院が裁きを下す! 裁きの光を受け、無へと帰るがいい!」
     二匹の猫が金の瞳を爛々と輝かせ、威嚇の声をあげた。

    ●彼岸へ帰さんとするもの
     纏う炎はどこか昏く、およそこの世の炎とも思われない。
     古来より猫と死者は密接な関係にあったと聞くが、送り火にしては些か度が過ぎよう。ミゼはそっと囁いた。
    「黄泉よりの遠路を労えぬのは気の毒だが、お引取り願おうか」
    「ダークネスである妖怪もどき達なんかにゃー好きにはさせませんよ! 行きましょう神父様! 我らに神の御加護あれってね!」
     意気盛んな奏の言葉に、ビハインドの神父様がへいへいと言いたげに肩を竦める。
    「喰らい尽くそう…かげろう」
     弥影がカードを解放した途端だった。
     かーっと牙を剥いた虎毛の猫が鳴くと同時に、その体を包む炎が渦を巻いて広がって前衛を襲った。咄嗟にミゼの前には奏が、士騎には神父様がカバーに入る。
    「武装瞬纏!」
     カードの解放と同時に練り上げられた紺青の闘気が全身を覆い、久遠を火炎から守る。
    「これしきで怯まへんで!」
     咄嗟に誰もカバーが入れなかったベルタが炎を振り切ると、横をかすめて三毛猫が巨大な爪を閃かせて士騎を襲った。踏みとどまって切り裂かれた神父様の身体が炎に包まれる。
    「葬儀の列に乱入するなんて随分と無粋ね」
     生前がどうであれ、親族との別れの時間を邪魔するものじゃない、と弥影は思う。
     奏と呼吸を合わせて左右に散ると、同時に縛霊手から祭壇を展開した。動きを封じる結界が火車全体を襲い、軋む音をたてて発動する。その隙に士騎の前を離れた神父様が大八車へと顔を晒した。
    「畏れといっても侮れんな、伝承通りか」
     ぽつりと呟いた士騎が腰を落とし、刀の鯉口を切る。
    「ならば妖退治といこう」
     まずは炎に包まれた大八車へと、影の尾を引くような刀の一撃でトラウマを捻じ込んだ。
     味方の被害を見て攻撃を中止した黎嚇は、『Black Transience』を構えて気配を虚ろにし傷を癒す霧を展開させる。
    「我流・紅鏡地大!」
     後に続いた久遠から前衛の前に、不可視の盾が広がると同時に回復し、神父様の炎は風雪の浄霊眼が消し止めた。
     ベルタがクルセイドソードを構えて三毛猫に斬りかかる。素早くかわそうとした猫はしかし、麻痺で反応が遅れた。ざっくりと切り裂かれる後ろでは、大八車が闇をまとったミゼの大鎌に深々と斬りつけられている。

     お返しとばかり、今度は三毛猫が大波のような炎を前衛へとぶつけてきた。しかし麻痺がきいているのか、先ほどまでの精度がない。
     士騎を庇った奏が少しばかり余計に炎に巻かれた。
    「この熱気、これが浄化の忌火か……中てられて楽しいものではないな」
     先ほどよりは勢いを減じているとはいえ、ミゼが思わず漏らす。
     姿勢を低くした虎毛の猫の全身を稲光が舞い、黎嚇へと雷が迸る。火線上に飛び込んだ神父様が代わりに受けてよろめいた。
    「神父様、しっかりして下さいよ!」
     少しばかり気遣わしげな奏の頭を小突き、戻った神父様が霊障波を放って三毛猫の足を止める。その隙に精神を引き裂く一撃を加えた奏に続いたのは弥影だった。
    「地獄の業火と比べれば生ぬるいだろうけど、なかなか効くのよ?」
     魔導書を滑った指が指し示すまま、魔力の炎が二匹の猫と大八車を包みこむ。
     仲間の残っている傷を癒しながら、久遠は炎に巻かれて苦しむ猫へと囁いた。
    「生憎、常世に行く予定は今の所無いのでな。早々にお引き取り願おう」
     同意するように鳴いた風雪が、癒しの力で神父様を包む。軽いフットワークで三毛猫の前へ回り込んだ誰歌は不敵に笑った。
    「それじゃあ、お相手願おうか」
     言葉と同時に鋼をも打ち砕く拳が放たれる。躱す間もなく、体が浮き上がるほどの衝撃に三毛猫が苦鳴をあげた。
     同時に黎嚇が後方から大八車へと、クルセイドソードで避けようのない一撃を加える。手応えからすると、大八車の方が破壊は早いか。迷ったが、既にかなりのダメージを与えている三毛猫を優先したほうがよさそうだ。
     三毛猫への集中攻撃を定めた黎嚇の後方から、ミゼの放つ漆黒の弾丸が三毛猫の身体に撃ち込まれた。毒に苛まれ始める三毛猫の左右に、ベルタと士騎が布陣する。
    「覚悟はええか?」
    「火車よ、退け」
     肩から精神を引き裂くベルタの一撃を受け、よろけた後脚を士騎の死角からの攻撃が引き裂く。

    ●狭間での鍔迫り合い
     三毛猫が威嚇の鳴き声をあげた。既に体は自らまとうものとは別の炎に焼かれ、行動の自由を許さない麻痺に侵され、からみつく影にまとわりつかれている。苛立ちのままに体を稲妻が奔り、撃ちだされた雷は士騎を襲った。
     咄嗟に刀で受け、魔除けが輝く。しかし雷の圧力に耐え切れず、魔除けが弾け飛んだ。
    「私の罪も、まだ貴様に喰わせてやるわけにはいかんのでな」
     なんとか相殺しきったところへ、虎毛の猫からも巨大な雷が迸る。
     直撃を覚悟した士騎だったが、滑りこんでその一撃を引き受けたのは久遠だった。乾いた空気が弾けるような音をたてて雷を受け止める。
    「激しい攻撃だが、受け切れん事も無い」
    「……助かった」
     士騎の吐息混じりの一言と同時に、神父様と連携攻撃を仕掛けた奏の影が、巨大な口を開けて三毛猫を飲みこんだ。凄まじい悲鳴があがる。鋭い爪でやっと影を引き裂いて出てきたところへ、誰歌の放った真紅の逆十字が叩きつけられる。
     壮絶な悲鳴を上げて、三毛猫が遂に倒れた。
     同時にその身体が自身の纏う炎に焼かれ、灰のように白く変わる。炎で温められた空気が空へ昇るのに巻き上げられ、灰は見る間に散った。
    「次は大八車だな!」
     黎嚇が放つ裁きの光が大八車に直撃した。エクスブレインの予想の通りなら、この車はじきに一人でに動き出す。早めに破壊してしまいたいところだ。
     弥影の足元から滲むように現れた影は狼の姿をとると、ベルタの影と息を合わせて大八車へ襲いかかった。影の束縛から逃れようとぎしぎし音をたてる、大八車の死角から加えられた士騎の斬撃が、一部を剥ぎ取って切り裂く。勢い余って横滑りした車体に迫ったミゼの『紫翼婪鴉の紅嘴』が、黒い影の尾を引いて振りかぶられ、深々と斬りつけてトラウマを植えつける。
    「我流・堅甲鉄石!」
     前衛の防御力の底上げを兼ねた回復を飛ばす久遠へ、風雪からも癒しがかけられた。霊犬の気遣いに久遠が頷いてみせる。
     まだ戦いは続く。仲間を守るためには倒れるわけにはいかない。

     これほどの打撃を食っても、鯖虎柄の猫も大八車も、退く様子を見せなかった。それが『火車』であるからなのか、古の畏れとして留め置かれているからかはわからない。
     久遠へ向けられた炎をまとった爪の一撃へは、咄嗟に奏が割って入った。今まで通りのペースで彼が仲間を庇っていたら危険だ。同時に走り出した大八車の体当たりは、轢かれそうになったベルタの前に神父様が飛び出す。
     奏はなんとか持ちこたえたが、神父様は回復できないダメージが重かった。ふっとその姿が掻き消える。
    「例えどんな理由があろうと、蹂躙なんてさせません!」
     叫びと共に、再び弥影と連携して奏は相手を封じ込める結界を放った。更なる麻痺が大八車と虎毛の猫を襲う。動きが止まったところへ誰歌の拳が、割れよとばかりに捻じ込まれた。吹き飛んだ先で待っていた士騎の黒死斬が抉るように斬り込む。
     その途端、全ての箍が外れたように大八車が瓦解した。
     先ほどの三毛猫と同じように、纏っていた炎が身を焼いたかと思うと、やはり灰となって散っていく。
     その間も攻撃の手は緩めない。残された虎毛の猫へと黎嚇の神霊剣が唸る。ただでも炎に巻かれていた猫が苦鳴をあげたところへ、ベルタがその巨体を抱えあげると地面へと豪快に打ちつけた。
    「どや、効いたやろ!」
     猫らしくもなく受け身がとれなかったらしい虎毛が唸る。戦いの始めから弥影によって放たれた炎は虎毛の猫を苛み続けていた。繰り返し畳みかけられた除霊結界や絡みつく影で、その体も意のままには動かない。
     跳ね起きた猫の前に佇むミゼの周囲の空間が歪み、波立つその面から無数の刃が姿を現す。躱す暇もあらばこそ、雨のごとく降り注ぐ刃が猫の体を切り刻んだ。
     たたらを踏んだ猫へとダメ押しに、久遠がオーラを練り上げて狙いを定める。
    「我流・間破光耀!」
     掌から奔るオーラに撃ち抜かれた猫が炎を撒いたが、もはやまともに灼滅者には命中しなかった。
     奏の足元から伸びあがった影が虎毛の猫を飲みこみ、解放された途端に黎嚇が死角からの斬撃を加える。よろけるその前に立ったのはミゼだった。
    「私の今際の際に、また会おう。その時はもう少し静かである事を願おうか」
     繰り出された大鎌の斬撃は猫の体を深々と切り裂く。もはや立ち上がる力もなく、地面へと崩れ落ちる虎毛の首を狙い、士騎は刀を振るった。
    「さらば」
     絡みつく黒い鎖がはじけ飛ぶ。

     これが真実の火車であれ、人が恐れる気持ちが生み出した偽りの火車であれ。
     滅びの時ぐらいスサノオによって繋ぎとめられた宿命から解放しようという、彼女のせめてもの気持ちだった。

    ●春雷は去る
     虎毛の猫が灰のように散っていくのを確認し、灼滅者たちは構えをといた。少しばかり時間をかけてしまった。葬列が近くまで来ているかもしれない。
    「皆、怪我はあるか?」
     久遠が声をかけ、皆で手早く傷の残るものたちの治療を始める。
     戦場をさっと一瞥し、ベルタはスサノオの足跡が残っていないかを確認してみた。火車をここへ留め置いた以上、スサノオは少し離れた場所にいたはずだ。しかし、それらしき痕跡が見つけられない。諦めたベルタは箒でさっと畦道を掃き、なるべくここで起きたことの痕跡を消すことにした。
    「次の畏れまでに手掛かり掴んだるで!」
     ベルタは多少のことではへこたれない。こんな存在を放っておけはしないのだ。
    「激しい攻撃だったが、何とか凌げたな」
     久遠の言葉に苦笑が広がる。実のところ、限界まで味方を庇い続けた彼の怪我が一番重いのだ。主を見上げる風雪が心配げに見えるのも気のせいではあるまい。
    「今回も良い鍛錬になった」
     満足げにしている久遠の治療を終えた奏が、立ち上がって畦道の彼方を眺めた。
    「行きましょうか。野辺送りの邪魔になってもいけませんし」
    「それがいいだろう」
     黎嚇が頷く。一行は殺界を解くと撤収を始める。

     ふと、士騎の耳を遠雷がくすぐった。
     仰げば春が来たばかりの東北の空。既に姿はなくとも、確かにここにいたスサノオの後を追わねばならない。
    「さて、次はどこに現れるやら」
     ひとりごちた士騎の傍らを吹き過ぎる風は、ひとひらの桜の花びらを運んでいった。

    作者:六堂ぱるな 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2014年4月3日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 8/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 0
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