お父さんの靴下がとても臭いの

    作者:雪神あゆた

     ミナミはお父さんのことが好きだった。
     お母さんとらぶらぶ~なお父さん。
     お手伝いをすると、頭を撫でてくれるお父さん。
     お誕生日やクリスマスはプレゼントをくれるお父さん。
     ちなみに、去年のクリスマスにくれたのは、大きなクマさんのぬいぐるみだ。そのぬいぐるみはお気に入りで、ミナミの部屋に大事に置いてある。
     ミナミは、クマさんも好きだけど、やっぱりお父さんが大好き。
     ミナミは今、そのお父さんの部屋に来ている。
     お父さんが持っている漫画を借りようと思って。
     ふにゃ。
     何かを踏みつけた。
     ……靴下だ。お父さんが脱いだまま、置きっぱなしにしていたんだろう。
     洗濯機のところに持っていってあげないと。
     ミナミは靴下を拾い上げる。
    「……う!?」
     臭い。
     かなり臭い。
     靴下が臭い。
     ってことは、どういうこと?
     お父さんの足の裏がこんなに臭いってこと?
     自分が大好きなお父さんが?
     こんなに臭い?
    「うわわああああああっ。最低っ! もうなにもかもいやああっ!」
     靴下を投げ捨てたミナミの体が、変化していく。爪がのび、腕や足に獣のような毛が生え……。
     
     教室で。
    「大変です。小学生のミナミさんが、お父さんの靴下の臭いで闇堕ちし、イフリートになってしまいました!」
     五十嵐・姫子(高校生エクスブレイン・dn0001)は説明を続ける。
    「普通なら闇堕ちすれば、人の意識を失い、心までダークネスになってしまいます。
     けれど、ミナミさんは、人の意識を遺しており、ダークネスの力を持ちながらも、ダークネスになりきっていません。
     けれど、放っておけば、ミナミさんは完全なダークネスになってしまうでしょう。
     その前に、現場に行き、彼女と戦い、KOしてください。
     ミナミさんが、灼滅者の素質を持つのであれば闇堕ちから救うことができるでしょう。
     そうでなければ……灼滅してしまうでしょうが」
     灼滅者が行くべき現場は、広島市の一軒家。一階の部屋に、イフリートになりつつあるミナミがいる。
     玄関の扉も、部屋の扉も、鍵はかかっていないし、家の中に、ミナミ以外の人もいない。
     ミナミに接触するまで障害はない。
    「接触後はミナミさんと戦わなくてはいけません。ミナミさんは強敵です。
     でも、ミナミさんはまだ、理性が残っていて、此方の言葉を理解できます。
     皆さんが言葉をかけ心に届けば、ミナミさんは弱体化するでしょう」
     大好きなお父さんの足が臭い、たまらなく臭い、その事実にショックを受け、世の中に絶望し、闇堕ちしてしまったミナミ。
     彼女の心をどう解きほぐせばいいか。灼滅者の知恵を発揮する時かもしれない。
     しかし言葉だけでは、彼女は元には戻らない。
     彼女と戦いKOしなくてはならないのだ。
     ミナミは戦闘になれば、イフリートの技と無敵斬艦刀相当の技を使ってくる。
     特に、戦艦斬り相当の技は威力が高く警戒がいるかもしれない。
    「お父さんの足が臭い……お父さんが好きな小学生の女の子にとっては、ショックなことかもしれません。
     でも、だからといって、闇堕ちしていい筈がないですよね。
     どうか、ミナミさんの力になってあげて下さい。お願いします!」


    参加者
    アリシア・ウィンストン(美し過ぎる魔法少女・d00199)
    旅行鳩・砂蔵(桜・d01166)
    小鳥遊・優雨(優しい雨・d05156)
    リヒト・シュテルンヒンメル(星空のミンストレル・d07590)
    薛・千草(ダイハードスピリット・d19308)
    九条・御調(星謡みの陰陽師・d20996)
    フェリシタス・ロカ(ティータ・d21782)
    清浄・利恵(根探すブローディア・d23692)

    ■リプレイ

    ●どうしてそんなに臭いの
     灼滅者たち八人は、一軒家の廊下に立っている。目の前に扉。扉の向こうからは、悲鳴と騒音。
     灼滅者たちは扉を開けた。
     部屋の中では、タンスや本棚が倒れ中身が床に散らばっている。部屋中央には、虎の姿したイフリート。闇堕ちしかけた少女、ミナミだ。
    「どろ、ぼ、う……?!」
     ミナミは灼滅者を睨む。目は血走り、狂気を感じさせた。
     九条・御調(星謡みの陰陽師・d20996)と小鳥遊・優雨(優しい雨・d05156)は彼女にゆっくり近づいていく。
    「初めまして、あなたがミナミちゃんね?」
    「こんにちは、ミナミちゃん」
     御調は友好的な笑みを浮かべ。優雨はサウンドシャッターを使いつつ、丁寧に。
     挨拶に、しかしミナミの警戒心と狂気はきえない。灼滅者に跳びかかる気配を見せている。
     アリシア・ウィンストン(美し過ぎる魔法少女・d00199)は、杖を真上に投げた。サイキックソードを振りつつ、杖をキャッチ。戦闘の構え。
    「ふむ。今のミナミは、元のミナミではないみたいじゃのぅ。ならばその闇を解き放ちつつ、説得するかのぅ」
     アリシアはマジカルロッドの先をミナミへ向けた。魔法の矢を放つ。
     優雨も『Cocytus』を振り、氷柱を生成。
     御調は札を投げる。札に催眠の力をこめて。
     矢と氷柱がミナミの胴に刺さり、札が額に貼り付いた。
    「ガ……オオッ!」
     ミナミは苦しげに鳴いたが、動きは止めない。
     前脚の爪を伸ばし、剣の様に変化させ振る。
     爪が、アリシアの肌を切り裂いた。傷は深い。
     リヒト・シュテルンヒンメル(星空のミンストレル・d07590)が霊犬・エアレーズングを連れて、アリシアに駆け寄る。
     リヒトは小さな光輪をアリシアの元に集わせ、エアレーズングも清らかな眼で彼女を見つめた。光の輪と瞳の力がアリシアを癒していく。
     リヒトは視線をミナミへ移す。そして訴えた。
    「お話しましょう? 僕達はあなたを人の姿に戻しに来たんです」

    「ぐる……?」
     リヒトの訴えの意味が分かったのか分かっていないのか。ミナミは警戒するように、姿勢を低くする。
     清浄・利恵(根探すブローディア・d23692)はそんな彼女を安心させるよう、落ち着いた声を出す。
    「そうだ。聞いてくれ、ミナミくん。父上の足は臭いのだろう。だが、なぜ父上の足は臭いのか?」
     ミナミの目が利恵を向いた。利恵はゆっくり頷いた。
    「臭いは足に多量の汗がつくと発生する。ならば何故、父上は多量の汗をかくか。――それは、仕事に尽力しているからじゃないかな。……君や母上の生活が為に」
     フェリシタス・ロカ(ティータ・d21782)が利恵の言葉を引き取った。
    「つまり、足の匂いは、大好きなミナミの喜ぶ顔が見たい、そんな想いでパパが頑張っている証なのよ?
     アナタの笑顔と幸せを願って、頑張ってきた証なのよ?」
     フェリシタスは相手の目を見ながら、励ますように言う。
    「大丈夫。臭わないパパでいて貰う為の方法は、きっとあるわ。一緒に、調べましょう。そのためにも、戻ってらっしゃいな?」
     薛・千草(ダイハードスピリット・d19308)は、革靴とスプレーを取り出してみせる。
    「これらには殺菌や消臭効果があるそうです。他にもいいものがあるかもしれません。一緒に解決策を考えませんか? そうすれば、きっと大丈夫ですから」
     笑顔をたやさず言葉を贈る千草。
    「ミナミさんのお気持ちは痛いほど分かります。でもね。闇に負ければ、お父様もきっと悲しみます。今のあなたと同じように」
     ミナミは首を動かす。利恵、フェリシタス、千草、三人の顔を交互に見る。
     ミナミは、何度も何度も首を動かし三人の顔を見比べる。三人の言葉が、ミナミの胸の奥の何かを刺激したのか。
     旅行鳩・砂蔵(桜・d01166)は目を閉じ、皆の話を聞いていた。
     不意に目を開く。
    「己の愛する者の『におい』が、好ましくない『におい』だった。確かに許し難い理由だ。世界の不条理に絶望してしまうのもわからんでもない。
     が――お前が父親に絶望してしまう『理由』には、ならない」
     断言する砂蔵。
     ミナミは、歯ぎしりする。何かを堪えているのか。砂蔵はさらに言葉を突きつける。
    「思い出せ、お前の父親への愛は、世界よりも重かったのだと」

    ●あなたはお父さんを……
    「ぐああああああああ」
     ミナミは喚いた。床を何度も蹴る。
     苦しげに喚きよだれを零しながら、走りだす。
     ミナミの燃える体が、千草に激突。
     千草はだが、痛みを顔に出さない。
    「かなりの力ですが……それでも……最初より多少は弱まっていますね。これなら……」
     分析しつつ、素早くワイドガードで防御を固める。
     そう。灼滅者の言葉はミナミに届き始め、彼女を弱体化させつつあるのだ。
     ミナミが、激しく暴れているのは、自身の弱体化に混乱しているからだろう。
     利恵は千草の横を通過し、ミナミへ迫る。
     利恵の手には、一振りの剣、EclairLame『雷光刃』。
    「君の動き、痺れさせてもらうよ」
     利恵はミナミの側面に回り、足の付け根に、剣の切っ先を突きたてた。
     激痛に、ミナミの動きが鈍る。
     フェリシタスは視線を鋭くさせた。
    『畳み掛けるなら、今』とばかりに、軽やかに動く。相手の眼前に飛びこみ、上段から神霊剣を叩きつけた!
     次々に炸裂する灼滅者の技。
     それでも、ミナミは一分かけて体勢を立て直し、口から炎を吐いた。
     後衛を焼こうとするその炎を、砂蔵は跳んで回避。
    「隙だらけだ。確実に当てる」
     砂蔵は黒髪を揺らしつつ、着地。間髪いれずライフルの引き金を引く。バスタービーム。正確にミナミの脚を射抜いた。
    「があっ」
     首を逸らせるミナミ。

     アリシアは相手が怯んだ隙に、口を開く。
    「ミナミ、足が臭い位、人として乗り越えるのは必須なのじゃ……」
     アリシアは感情を抑えた声で諭す。
    「父親が本当に好きならば、気にならぬか、別の理由を見つける筈ではないかのぅ?」
     ミナミは、
    「うわあああああっ」
     いやいやするように首を振る。手足をでたらめに動かした。
     御調は自分の胸に手を当てて語りだす。
    「私も、実を言うと父の体の臭いが苦手なの。……でも……それでも、大好きなの」
     ミナミの獣耳が、ひくり、と動いた。動きを止め、御調を見つめる。
     視線を受け、御調は微笑みを返す。
    「ミナミちゃんもお父さんのこと、大好きなんだよね。だから、余計に辛くてショックだったんだよね。だからそんなに怒った……」
     優雨が御調の言葉を引き継いだ。
    「でも、ミナミちゃんはこのままでいいの? このままだと、大好きなお父さんに会えなくなってしまいます。頭も撫でてもらえません」
     そこまで言うと、そんなの駄目でしょう、と首を横に振る。
     リヒトが、それだけじゃありません! と声を張りあげた。
    「獣になってしまったら、お父さんを傷つけてしまうかもしれません。新しい思い出も作れない。そんなの、悲しいじゃないですか!」
     全身の力をこめ、精一杯に想いを伝えるリヒト。
    「………そんなの……いや」
     ミナミの虎の口から、震える言の葉。
     優雨は金の瞳でミナミを見つめる。ミナミの目は潤んでいた。優雨は告げる。
    「なら、お父さんに会いたいと思って下さい。強く、強く願って下さい」
     リヒトは一歩、二歩、とミナミに近づく。先ほどより語気を強め。
    「あなたが強く願えば、あとは僕たちが絶対に助けます。だから願って……そして戻ってきてください、ミナミさん!」
     ミナミは動かなかった。やがて、声を絞り出す。
    「もとに……もどり、たい……」
     目がより一層潤み、零れた雫が虎の毛を汚した。

    ●思い出すべきこと
     泣きながらミナミは室内を駆けだす。再び攻撃を仕掛けるつもりか。
     フェリシタスはミナミを目で追い続け、口の中で呟いた。
    (「……説得は成功したみたいね」)
     そう、ミナミの動きは大幅に鈍っていた。瞳の狂気も和らいでいる。
     リヒトと千草も、ミナミの様子にそれぞれ拳をぎゅっと握りしめる。
    「ミナミさんも、自分の中で必死に戦ってくれてるんですね……」
    「その努力を無駄にはできませんね。早く闇を祓ってあげましょう」
     彼女を助けるため力をふるおう。決意しあう三人の目の前でミナミが動く。
     剣のように伸びた爪がフェリシタスの体をえぐった。
     が、それはリヒトにとって予測済みの行動。リヒトは、エアレーズングにミナミを刀で牽制するように指示。そして自身はシールドリングでフェリシタスを包んで癒す。
     フェリシタスは即座に体勢を立て直す。床を蹴って相手の背後に。そしてミナミの後ろ足を――斬る!
    「ひゃあああんっ」
     悲鳴をあげるミナミに、千草は正面から接近。注射器の針で眉間を刺した。毒をミナミの体内に注入する。
     その後も灼滅者は、攻撃を当て続けた。ミナミの体に無数の傷ができる。
     ミナミは口を限界まで開き、
    「グアアアアアッ!」
     今まで一番大きい雄叫びをあげる。
     直後、ミナミの傷が塞がっていく。己の魂を燃やし、肉体を活性化させたのだ。
     しかし、攻撃は止まった。
     利恵は機を逃さず、光の刃を撃ちだした。刃で肌を裂く。
     出来た傷口に、砂蔵は気の塊を投げつける。
     塊を受けふらつくミナミ。彼女の胴に、黒く長いものが巻きつく。御調の影縛りだ。
     闘いながら、利恵は呼びかけ続ける。
    「父上は足が臭くなっても、家庭を、君達を守ろうとしていた。それは愛だ! ぬいぐるみを、父上から受け取った愛を、思い出してくれ!」。
     砂蔵はあくまで淡々と、けれど迷いのない顔で言葉を発する。
    「そうだ、思い出せ。お前を戻すのは、お前を救うのは、お前自身だ。そのために……思い出せ」
     御調は幼子に対するように優しく微笑んだ。
    「ね、もう一度、お父さんに大好きって言いに行こう。だから戻っておいで」
     ミナミは倒れたまま、三人を見上げる。彼女の首が縦に揺れた。
     優雨は彼女の側面に立っていた。囁くような声で言う。
    「ミナミちゃん、分かりました。後は私たちが何とかしますから、もう少しだけ、頑張ってくださいね」
    『朧月』という名の闘気を纏った腕を振る。黒死斬。ミナミのスネに深い傷ができ、ミナミは横転した。
     アリシアはロッドを握り締め宣言。
    「正しい力の使い方を身に刻むがよい!」
     アリシアはロッドを振りあげ、ミナミの顔面に叩きつけた。さらに、ミナミの体内で魔力を爆発させる。
     爆発はミナミを戦闘不能に追いやった。ミナミは目を閉じる。彼女の体が虎から人へと戻っていった。

    ●みんなが来てくれたおかげで
     ミナミを生きたまま助けることに成功したのを確認し、リヒトは体から力を抜いた。
    「助けられてよかったね、エア」
     エアレーズングと視線を交わし、笑うリヒト。
     やがて、ミナミは目を開けた。
     アリシアは彼女の傍らでしゃがみ込む。
    「ミナミ、目覚めたかぇ」
     手を出し彼女を助け起こした。
    「あ、あの、あの。ありがとうございます」
     立ち上がると、ミナミは緊張した面持ちで頭を下げる。
     優雨と利恵は彼女の頭に手を置く。
    「よく頑張りましたね」
    「そうだね。父上も母上も、君の様な子を持てて幸せだろう」
     闇に抗ったミナミを称えながら、二人はともに頭を優しく撫でる。
     それでもなお、恐縮した様子のミナミ。
     砂蔵は彼女の肩を軽く叩く。
    「戦闘中に言った通りだ。俺達は確かに言葉を送った。が、それを受け取り闇から逃れたのは、お前自身だ」
     フェリシタスはしゃがみ込み、彼女と視線を合わせた。
    「お帰りなさい、ミナミ。よければ、私達と一緒に来ません、か……? 歓迎します、よ?」
     そして説明する。灼滅者のことや学園のことを。
     ミナミはしばらく考え込んでいたが、ゆっくりと唇を動かす。
    「私、皆のお話をもっと聞いてみたい……だから、学園に行きたい……」
     御調は、なら決まりね、と顔をほころばせた。そして言う。
    「その前に掃除と御片付けをしないとね。任せて、掃除と片付けは得意なんだから!」
     戦闘をした部屋はやはり散らかっている。
     仲間達も御調に同意し、掃除の準備を始めた。
     ミナミも掃除の準備に取り掛かる。掃除機を片手に、ミナミは再び礼の言葉を口にする。
    「みんな……本当に、ありがとう……みんながきてくれたおかげで、お父さんを好きな気持ちも無くさずにすんだ……」
     千草はそんなミナミを見ていたが、そっと目を閉じる。そして、
    「(やっぱりミナミさんはお父さんのことを愛していたのですね……守ることができて、本当によかった……)」
     微かな微かな声で、呟いたのだった。

    作者:雪神あゆた 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2014年3月31日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 1/感動した 2/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 4
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