本棚の国のアリス

    作者:志稲愛海

    「……つまんなーい」
     モデル風イケメンから、ペディキュアを塗らせていた足を取り返して。
     はあっと溜息をつくのは、フランス人形かと見紛うほど整った顔立ちの少女。
     水色と白を基調とした甘ロリ風のドレスに、ふわふわのミルクティー色の髪。吸い込まれそうな瞳はアリスブルー。
     そして人形の様な可愛らしい容姿ながらも……非常に成熟した、色香漂う身体つきをしている。
     さらに彼女の周囲にいる取り巻きは、この少女ほどではないにせよ。
     男女関係なく、その全員が、様々なタイプの美形揃いであった。
     だが、そんな取り巻きたちを見回した少女は。
    「あーつまんなーいっ。そろそろ、新しい可愛い子ちゃんでも探してこようかしら」
     もう一度大きく溜息をついて、そう呟きつつも。
     メイド服を着た美少女の取り巻きに持ってこさせた少女漫画雑誌を、適当にパラパラと捲り始める。
     ――その時。
    「! これだわ」
     突然少女は瞳を輝かせ、食い入るように雑誌に視線を落としてから。
     ぐるりと、もう一度自分の取り巻き達を眺めつつ、興奮したように続ける。
    「真面目系美形……今足りない属性は、まさにこれよ!」
     少女が手にした少女漫画、その内容はというと。
     生徒会長と副会長の優等生イケメン2人と主人公の女の子の、学園恋愛漫画。
    「知的な雰囲気の優等生タイプって、フラフラすぐついてくるチャラ系よりも落とし甲斐ありそうだしぃ……」
     そう少女は、一人でぶつぶつ言いながら――決ーめたっ♪ と。
     怖いほど綺麗なアリスブルーの瞳をふっと細め、笑むのだった。
     

    「皆さん、ダークネスの行動が未来予測で察知できました」
     五十嵐・姫子(dn001・高校生エクスブレイン)は、そう集まった皆に告げて。
     ぺこりと頭を下げ、続ける。
    「ダークネスは、バベルの鎖の力による予知がありますが。エクスブレインが予測した未来に従えば、それをかいくぐり、ダークネスに迫る事が出来るでしょう」
     強力で危険な敵ではあるが……ダークネスを灼滅する事こそ、灼滅者の宿命。
     厳しい戦いになるかも知れないが、未来予測されたダークネスをこのまま放っておくわけにはいかない。
    「今回の未来予測ですが。ある淫魔の行動が確認されました」
     姫子はそう言いつつ、ペンギン柄のファイルから資料を取り出す。
    「淫魔の名前は、加々美・亜莉朱(かがみ・ありす)。彼女は、県立図書館でターゲットを探しています。図書館という静かな空間で、いかに好みのタイプを見つけて落とせるか、遊戯感覚のようです」
     亜莉朱は、肩より長いふわふわのミルクティー色の髪と大きなブルーの瞳を持つ高校生の少女。実年齢よりも幼く見える美形の容姿で、実年齢よりも色気溢れる成熟した身体つきをしている。
    「淫魔の能力を使えば一瞬なのですが、亜莉朱は好みのタイプを落とす過程や達成感を愉しもうとしているようです。ですが、攻略に成功したら自分へのご褒美タイム、相手を貪り尽くして殺すか意志のない人形のような信望者にしてしまいます」
     今回の亜莉朱のターゲットは、『真面目で知的そうなタイプ』らしい。
     県立図書館という静かで他の人の目も多い中、そうあっさり落ちそうにない真面目美形を攻略すること。
     そしてその過程を十分に愉しんだ後、あとは食い散らかすか人形の如き信望者にしてしまうというのだ。
     図書館に向かい、彼女の気を惹き誘き出し、目論見を阻止して欲しい。
    「真面目そうな美形であれば、性別や年齢は問わないようです。まずは彼女の気を惹くことが重要ですので、今回は皆さん総出で囮をするのが良いかと。亜莉朱は真面目なタイプを攻略すべく、普段の甘ロリな格好ではなく、大人しい子の雰囲気や格好を装っていますが。とても目を惹く容姿ですので、見ればすぐに彼女だと分かるかと」
     だが、ただ闇雲に囮をするのではなく、どこのコーナーや場所でどんな本をどう見ているのか。雰囲気や周囲の状況を考えたり、もし声を掛けられた時にどう反応するかなど、色々工夫してみて欲しい。 
     そして亜莉朱は功略後、図書館を出て人のいない場所にターゲットを連れ込み弄ぶだろうので、うまく誘き出して彼女の目論見を打破するという手順になりそうだ。
    「亜莉朱は淫魔ですので、淫魔のサイキックを使用してきます。サウンドソルジャーの皆さんと同じ種類のものですね。そして彼女の武器は、解体ナイフです。さらに彼女は、お気に入りの取り巻き4人を強化し配下として連れています。取り巻きの戦闘力はさほど強くはなく、全員がバイオレンスギターを持っています。ダークネスは圧倒的な戦力を持つので無策で戦うと勝つのは難しそうです。色々と工夫してみてください」
     亜莉朱自体も強力なダークネスである上に、取り巻きも連れているという。
     だが、取り巻きが近くにいたら攻略が面白くないと、図書館内では取り巻きたちは彼女から離れたところにそれぞれいるらしい。敵は強力なダークネスであるが、そんな隙などをうまく利用しエクスブレインの情報を元にうまく立ち回れば、優位に戦闘ができるかもしれない。逆に何の策も取らずぶつかるのは危険なので、慎重に事を運んで欲しい。
    「未来予測の優位はあったとしても、ダークネスの戦闘力を侮る事はできません。皆さん全員で協力して、必ず生きて帰ってきてくださいね」
     姫子はそう、皆を見回して。
     よろしくお願いします、と、改めて頭を下げたのだった。


    参加者
    笹塚・麗華(高校生神薙使い・d00046)
    紅月・チアキ(朱雀は煉獄の空へ・d01147)
    逢時・巡(彼者誰の余韻・d02238)
    レイ・アステネス(中学生シャドウハンター・d03162)
    神宮時・蒼(幻想綺想曲・d03337)
    草壁・悠斗(蒼雷の牙・d03622)
    春川・暁奈(ペパーミント・デイブレイカー・d03813)
    坂村・未来(中学生サウンドソルジャー・d06041)

    ■リプレイ

    ●本棚の国の品定め
     所狭しと本が並ぶ、知の宝庫・図書館。
     シンと静かな館内の独特の空気感は、読書に没頭するには最適だ。
     だが本に没頭する人々の視線を奪うのは――魅惑的な色香。

    (「随分と、こだわりのある淫魔……ですね。でも、その企み……、潰します……です」)
     でもきっとそれは、よりゲーム感を楽しむ為の拘りだろう。
     そして純文学の本棚から1冊、本を手にした神宮時・蒼(幻想綺想曲・d03337)。
     それと同時に。
    「太宰に興味があるの?」
     耳をくすぐる、甘い声。
     思わず誘われた視線の先には、吸い込まれる様な、アリスブルーの瞳。
    「その『斜陽』にこんな言葉があるの。『人間は恋と革命のために生まれてきたのだ』って」
     蒼の手にある本を見てから、亜莉朱はまた別の本を手に取って。
    「そして、『少なくとも恋愛は、チャンスでないと思う。私はそれを、意志だと思う』ってね」
     同じ太宰治の『チャンス』を蒼へと渡しながら、にこり微笑む。

    「きゃっ」
     静寂に突如上がる、叫び声。
     椅子に座り活字を追っていた坂村・未来(中学生サウンドソルジャー・d06041)は縛った黒髪を揺らし、散らばった本を拾って。
     亜莉朱へと渡した後、他人には興味がない様子で再び本に視線を戻した。
     そんな未来に礼を言い、微笑む亜莉朱。
     同性なのに、直視すると心奪われそうなその存在感。だが相手は宿敵、惑わされたりはしない。
     亜莉朱は、未来の手にある本――ゲーテの『ファウスト』を目にして。
     くすりと笑み、彼女の耳元で囁く。
    「……『あなたがこの世にある限りは、私の術でたんと面白い目を見せて差し上げます。まだ人間が見たこともないような面白いものをね』」
     ファウストを誑かした、悪魔の台詞を。

    (「初めてのお仕事、張り切っていきましょー!」)
     取りあえず、日本文学の本を1冊手に取りつつも。
     って、冷静に張り切るってどうやれば……? と首を傾ける、春川・暁奈(ペパーミント・デイブレイカー・d03813)。
     でも、初依頼に臨む気合は十分! まずは淫魔を誘い出すべく、知的に読書……ですが。
    (「何だか難しい言葉がたくさんあって頭がこんがらがってきました……」)
     うぐぐ……知的に、知的に……! と、文学少女っぽい柔和な表情を懸命に心掛けながらも、難解な日本語と格闘を繰り広げる。
     その時。
    「随分マイナーで渋い作品読むのね」
     その作家さん好き? と、ふいに掛けられた声。
     そして振り向いた暁奈は、亜莉朱に、こくりと頷いてみせる。
     ……本当はその作家の名前すらも、漢字が難解で読めないのだけれど。

    (「面倒な性格をしていることで……。まあ、そのお陰でこちらも手が打ち易い訳ではあるが」)
     読んでいた歴史書から、草壁・悠斗(蒼雷の牙・d03622)はすぐ傍にいる少女へと視線を移して。
     本棚上段に懸命に手を伸ばす亜莉朱に、どの本? と声を掛けてみる。
     そして指定の本を取ってあげた後。
    「貴方も歴史が好き?」
     そっと触れた柔らかな手に思わず顔を上げれば、自分の姿だけを映す、アリスブルーの色が。
     亜莉朱はその両の目を細め笑み、続けた。
    「歴史書を読むと、どの国のどの時代にもいるんだなって思うの」
     好色だとか淫乱だとか……いわゆる悪女って、と。

    (「あまり図書館で勉強したことは無かったけど、これはこれでいいわね~」)
     勉強用のラウンジで、さらりとペンを走らせていた笹塚・麗華(高校生神薙使い・d00046)であったが。
     ふと視線を上げた後、握っていたペンをさり気なく机の上に滑らせる。
     そして重力に逆らわず、カチャリと床に音が響いた後。雪の様に白くしなやかな手がそれを拾い上げる。
    「随分熱心だけど、受験生?」
     そんなに根詰めてたら疲れない? と、ペンを麗華へ渡す亜莉朱はにこり微笑むも。
    「勉強の邪魔をしないでほしい」
     素っ気無く参考書へと視線を戻す麗華。
     だが、それにめげることなく。
    「息抜きもね、たまには必要よ?」
     亜莉朱は彼女の肩に、優しく手を掛けた。
     
     眼鏡に学ラン姿の、真面目そうな黒髪の少年。
     彼が紅月・チアキ(朱雀は煉獄の空へ・d01147)だとは、一瞬、誰も分からないだろう。
     そんな夕焼けを映した髪の色を黒に染め臨むチアキが今、睨めっこするのは。
    (「本……何書いてあるかさっぱりだけど見てるだけなら何とかなるよな?」)
     何だか難し気な、宇宙工学の本。
     その内容が理解できず、思わず難しい表情するも。
    「人工衛星の仕組みをきちんと解説した一般書って、殆どないわよね。子供向けか専門向けばかり」
     ふいに声を掛けてきた少女に、興味のない素振りをするチアキ。
    「今、この本を読んでいる途中なんだ。気が散るからやめてくれ」
     そんな彼に、亜莉朱はくすりと笑んで。
    「ごめんなさい。でも……」
     貴方は難しい顔より、笑った方がきっと素敵よ? と。囁く様に、続けた。
     
     医学関連の書籍は最奥に陳列されており、他から完全に死角になっている。
     レイ・アステネス(中学生シャドウハンター・d03162)は医学書や薬学書を数冊選び、小脇に抱えて。
     見晴らしの良い閲覧用の机に移動する。
     ――その時だった。
    「!」
    「きゃっ」
     誰かがぶつかった衝撃と共に、どさりと床に落ちる医学書。
     そしてそれを拾おうと伸ばした手に絶妙に重ねられる、綺麗な白い手。
     顔をあげれば、潤んだ大きな瞳がじっと自分を見ている。
    (「遊戯感覚って……女性は怖いな」)
     レイは、漂う亜莉朱の色香にそう思いながらも。
     私も医学に興味あるんだ、と。そう微笑む彼女から視線を外して。
    「悪いけど、これからこの本を読みたいんだ」
     最初は素っ気無い態度を取ってみるレイ。
     だが亜莉朱はレイの持つ本に目を向け、尚も話掛けてくる。
    「EBMね……どうしても本で見ると統計学とかが絡んじゃって一歩引いちゃうのよね」
    「そうだね。患者がいてこそ、なんだろうけど」
     レイも彼女と駆け引きを楽しむかのように、言葉を交しながら。
    (「振られたらどういう態度になるのか興味ある……が恐ろしい事になりそうだ」)
     そっと、肩を竦める。

     静寂に響くのは、逢時・巡(彼者誰の余韻・d02238)がぱらりと捲る頁の音と。
    「星が好きなの?」
     少女の、甘い声。
     だがその声よりも本に煌く星に興味を奪われているか様に、ただ相槌を打つ巡であったが。
    「星って綺麗だし、天文学的にも面白いわ」
    「……今、俺達が見てる星って何億年も前に消滅してる物もあるんだ」
     ふと視線を上げ、朝焼け色滲む桃の癖っ毛をふわり揺らして。
     綺麗なのに不思議だね、と、静かに言葉を零す。
    「私達の見ている夜空は、過去の光かもしれないわね」
     亜莉朱はそう頷き、そっとミルクティー色の髪をかきあげた後。
    「ね……よかったら、沢山一緒に星の話、しない?」
     ぞくりとするほど官能的な吐息を漏らすかの如く、誘いの言葉を紡ぐ。
     もっと落ち着いて話せる場所に行かない? ――と。

    ●罠の罠
     貸出カウンターへ亜莉朱と向かう巡に気付いたのは、最寄の宇宙工学コーナーにいるチアキだった。
     そしてチアキは他の皆に一斉メールを送り、事態が動いた事を知らせる。
     最低1人仲間が見え、貸出カウンターが確認できる位置をと心がけていた灼滅者達。
     そのため、いち早く淫魔の行動に気付く事ができたのだ。
     そして時間稼ぎに本の貸出手続きをする巡と、携帯を弄り待つ亜莉朱の横を抜けて。
     先行し図書館を出る、麗華にレイに暁奈、悠斗と未来。合流したチアキと蒼は、そっと館内で待機している。
     囮が時間を稼ぐ隙に。下見しておいた場所で淫魔を待ち伏せする班と、亜莉朱を尾行する班に分かれるという、今回の作戦。
     先行班が館内を出て暫くして、巡と亜莉朱も外へと足を向けて。それを追う、チアキと蒼。
     灼滅者達の作戦は、囮の危険性をぐっと減らすものだといえる。
     だが――かわりに。
    「……ついて、きてる……ですね」
     ぼそりと呟いた蒼に、チアキも周囲を見回しながら小さく頷く。
     自分達のすぐ後に館内を出た、男4人の姿。
     向かう方向からして、彼等は淫魔の配下である可能性が高い。
     巡が時間稼ぎをする間、亜莉朱も配下に連絡を入れたのだろう。
     館内にいた彼らが主人を追うべく集まる時間も、十分にあったのだ。
     ――その頃。
    「落ち着いて話せる喫茶店があるんだけど、この裏道からの方が近道なんだよ」
     柔らかく笑みそう促す巡。そしてさり気なく周囲を確認した後、素直に彼と並んで歩き出す亜莉朱。
     人の多い大通りよりも裏道の方が、彼女にも都合が良いからだろう。
     そんな亜莉朱と暫く会話を交わしながら。
     ふと巡は訊いてみる。どうして自分に声を掛けたのか、と。
    「楽しそうに本を読む貴方がね、本棚の国の空気にすごく溶け合ってるような気がしたから」
     そう紡ぎ出した亜莉朱に視線を向けた巡は、思わず綺麗な紫を湛える瞳を見開く。
     自分をじっと見つめるのは――抗い難い魅惑を放つ、アリスブルーの色。
     亜莉朱はスッと腕を伸ばして。さらに、こう続けた。
    「だからね……そんな貴方を、この私が、外の世界に連れ出したいと思ったの」
     そんな自分に触れようとする彼女の手を、そっと優しく取って。
     巡は足を止めると、こう言葉を返す。
    「俺もね、君を此処に連れ出したかったんだよ」
     ――次の瞬間。
    「!」
     亜莉朱は巡から素早く手を取り返し、表情を変えた。
    「これ以上の横暴は私たちが許しませんっ」
     うずうずと耐え切れないように潜伏場所から飛び出し、ビシイッと言い放った暁奈に続いて。
    「また会ったね、亜莉朱さん」
    「騙したようで悪いけど、でも、お互い様よね~?」
    「つーか、元々アタシにそんな趣味はないからな」
     レイと麗華と未来も得物を構え、素早く陣形を成して。
    「そういうわけだから観念するんだな、ダークネス」
     かけていた眼鏡をスッと外し、灼滅すべく敵を見遣る悠斗。
     そんな待ち伏せしていた灼滅者達を見て、亜莉朱はすかさず方向転換しようとするも。
    「おっと、どこ行くんだ?」
    「……逃がさない、です」
     駆けつけたチアキと蒼が、立ちはだかる。
    「ちょっと何これ! 今日はやたらいい獲物が沢山だなーって思ったらっ」
     本性を表した亜莉朱は、キーキー言いながらも解体ナイフを構えて。
     ジグザグに変形させた刃を、すぐ傍にいる巡へと放つ。
    「!」
     ダークネスである彼女の一撃は強烈で。生じたその傷から上がる、鮮やかな血飛沫。
     一人で相手をしていたら、どれだけ持ったか分からないが。
     でも今は、一人ではない。
    「春川暁奈、推して参ります!」
     バッと思い切り地を蹴った暁奈の拳が雷を帯び、淫魔の顎目掛け突き上げられると同時に。
    「『君の胸から出たものでなければ、人の胸をひきつけることは決してできない』さっき読んだファウストより、だ」 
     未来は一気に放出した殺気で目の前の宿敵を包み込みながら。
    「お前さんの言葉は誰の胸にも響かないとさ」
     自らのジャマー能力を高め、戦闘態勢を整える。
     そんな暁奈の攻撃をいなし、纏わりつく漆黒の殺気を振り払った亜莉朱は面白くなさそうに嘆息する。
    「そう……私が貴方達のメフィストフェレスでもなければ、貴方達が私のファウストでもなかったわけね」
    「や~ん、怒っちゃ嫌よ~。いい女は笑顔を絶やさないものなのよ~?」
     そう挑発する様に笑みながら、麗華が予言者の瞳を発動させた瞬間。
     狙いを定め放たれたレイの魔法光線が、亜莉朱に衝撃とプレッシャーを与えて。
     効率良く状態異常を付与できるようにと、バベルの鎖をその瞳に集中させる悠斗。
     巡も先程までの優しい微笑みから一変、無表情で死角から鋭く敵の身を切り裂き返す。
    「神の……刃……!」
     さらに蒼の成した渦巻く風が刃となり、宿敵へと襲い掛かれば。
     チアキの縛霊撃の霊力が網状を成し、敵を殴りつけると同時にその身を縛らんと唸りを上げた。
    「私、縛られるより縛りたいタイプなの」
     だが鬱陶しそうにそう亜莉朱は髪をかきあげた後。
     後は任せたわ――と、チアキや蒼の背後に鋭い視線を向けた。
     そこには、漸くやって来た4人の淫魔の配下。
     そしてそんな増援に灼滅者が気を取られた、一瞬。
    「!!」
    「じゃあ、まったねー♪」
     配下達が揃って現われた、しかも灼滅者の手が薄い図書館の方角へと、一気に駆け出す亜莉朱。
     彼女の目的は、新しい標的を自分のものにする遊戯を楽しむこと。
     つまり今の彼女にとって、この場に留まる意味など皆無なのだ。
     彼女の逃亡を予測しきれておらず、そんな行動に一瞬虚をつかれる灼滅者達。
     そして僅かに遅れつつ、それを阻止しようとするも。
     バイオレンスギターを振り上げる配下達が、そうはさせじと立ち塞がる。主人に捨て駒にされたことも、知らずに。
     そして亜莉朱はふわりミルクティーの髪を靡かせ、ぱちんとウインクを投げてから。
     灼滅者達の前から、まんまと姿を消したのだった。

    ●遊戯の終幕
     亜莉朱こそ逃がしてしまったが。
     彼女の目論見を阻止したことは、確か。
     後は、目の前の輩を倒すのみ。
    「慣れないことやった分、思いっきり行きますよー!」 
     ストレス発散とばかりに繰り出された暁奈の硬く握られた拳が唸りを上げ、配下の足元を一撃でフラつかせれば。
     その隙を決して見逃さず、麗華の風の刃が敵の身を斬り裂いた刹那。悠斗の日本刀が月光の如く冴え閃めいた瞬間、止めを刺した配下だけでなく他の敵も巻き込み、纏めて衝撃を与えて。
    「……もっと早く光を失うべきだったんだ」
     浴びた疎ましい返り血に表情を歪め、呟きを零す巡。
     その足元にはまた1体、容赦無き斬撃に切り裂かれた配下が血に塗れ、崩れ落ちていた。
    「……旋律の中で、静かに眠れ……」
     そして蒼の奏でる神秘的な旋律が戦場を満たし、残った配下達を撹乱する。
     強力なダークネスがいない今、攻勢に出る灼滅者達は配下達の攻撃にも決して怯まず、残り体力の低い相手から順に集中攻撃を見舞っていく。
     チアキの異形巨大化した腕が激しく敵を殴りつけると同時に、レイの撃ち出したバスタービームがその身を的確に貫き、息の合った連携でまた1体配下を沈めれば。
    「サウンドソルジャーなのに歌ってないって? ……気にするな」
     大気を震わせる程の轟音を鳴らしながら。
     最後の敵へと振り下ろされた未来のチェーンソー剣が、宿敵のお眼鏡にかなった最後の配下を、呆気なく刻み倒したのだった。
     そして、淫魔の目論見を打破した灼滅者達は。
    「ふぅ~、終わったわね~。なんだか肩が凝っちゃった~」
    「……無事に終わったよう……ですね。……さすがに、緊張、しました……です」
     慣れない演技で凝った肩を叩いたり、依頼の成功を喜び労い合いながらも、素早く全員で撤退をはかる。
     魅惑的な彼女の瞳と同じ色をした――晴れ渡る空の下を。

    作者:志稲愛海 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2012年9月13日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 5/感動した 0/素敵だった 3/キャラが大事にされていた 4
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