禍ツ面

    作者:来野

     早朝。朝焼けの空が美しい。
     白い炎がゆらりと揺れた。雑木林を過ぎるその姿は、あたかも一頭のオオカミだ。
     全身くすんだ灰の色。口の端に覗く大きな牙は、イスカの嘴の食い違い。スサノオに違いない。ル、と一声吼えていずこかへと消えた。
     街の一角、脇本陣の蔵の中で、微かな物音が立ち始める。カタタ、カタタ、カタタ。
     震える歯が鳴っているような、小さな何かが笑っているような。それが突如、荒々しい破壊の音へと変わった。
     蔵の奥で古い柳行李が引き裂け、中から鈍色の靄が立ち昇っている。靄を吐いているのは、怪鳥の面。闇の中を飛び回り、凝った気を肉体へと変えた。
     じゃらり。
     宙に浮いた足首で鎖が鳴った。怪鳥の嘴が奇声を発する。呻きか叫び、あるいは咆哮。
     蔵の外、掃除中の老婆が竹箒の動きを止める。
    「何の音でしょ?」
     
     春眠、暁を覚えず。机に突っ伏していた石切・峻(高校生エクスブレイン・dn0153)が、肘で筆巻きを落とした。むくりと頭を持ち上げる。
    「スサノオが」
     教室内の誰かが続きを受けた。
    「古の畏れを呼び出す?」
    「うん。灼滅をお願いします。お婆さんが危ない」
     頷いた峻は筆巻きを拾い上げ、皆へと向き直る。
    「出現ポイントは、歴史のある宿場町。脇本陣と呼ばれる大きな屋敷の蔵の中だ」
     マーカーを手にして描き始めた蔵の図はえらく簡素だが、それでもそこそこの大きさだとわかる。高さは二階建て程度。格子のはまった窓がいくつかあり、正面の扉は左右に開く二枚の大きな引き戸。
    「蔵の中の荷物は疎らで、そう多くはない。古の畏れは中央の奥にいる。舞いの面を着けた人の姿だけれど、この面にはいわくがあって……」
     峻は顔の前に掌を広げ、語り始めた。
     昔、鬼才と呼ばれる面打ちがいた。ノミを振るえば木目に凄みが宿り、着けて舞う者は天下を取る。そんな噂のせいで、誰もが彼の打つ面を欲した。
     とはいえ丁寧な仕事ぶりゆえ作品は少なく、どうにも手に入らない。才を羨む者もいたが、面打ちはただの職人だ。金を積もうがおだてようが、無いものは無い。
     このままでは天下一となる前に老いてしまう。しびれを切らしたある男が盗みに入った。
     まんまと手に入れた翡翠色の面。しかし着けると同時、男は絶叫した。焼け付く痛みに顔が歪む。剥がそうとすればするほど肌に張り付き、メリメリと嫌な音を立てる。
    「名手でもない男がきりきり舞いをして、死ぬまで踊るしかなかったらしい」
     魔がさすとはいうが恐ろしい。
     峻はため息を落とした。いわく言いがたい顔つきで、自らの頬をこする。
    「古の畏れは床から伸びる鎖に繋がれていて、長さの分だけ宙に浮く。毒の靄を吐き、羽根をばら撒いて突き立てる。舞うと回復し、近づく者は手や足の鉤爪と嘴で引き裂く。面は、灼滅されない限り外れない」
     それと、と続けた。
    「蔵の前に、この屋敷のお婆さんがいる。物音を聞いて扉の鍵を開けようとしているので、できれば助けて欲しい。お孫さんのいる年齢だから君たちの心配をするだろうが、話してわからない人ではない」
     鍵を入手すれば、正面から中に入ることができる。
    「ただ、戸を開ける人は気を付けて欲しい。相手は遠距離攻撃も持っている」
     面が祟るのか。誰かが首を捻った。
     峻は黙って考える。ややあって、筆巻きの紐をくるりと解いた。
    「問題の面の内側には、短い紐がついている」
     咥え紐といい、それを咥えて着ける形式らしい。筆巻きの紐を噛んでその所作を示す。
    「何かを仕込むのはたやすいと思うけれども、言い伝えでは面の呪いということになっている」
     そんな逸話も長い時の中に朽ちかけている今日この頃だった。
    「敵は苦痛と恐怖に取り憑かれている。君たちの顔にも攻撃が向きかねない。それでも必ずやり遂げてくれると俺は信じる」
     黒々とした眼差しを真っ直ぐに注ぎ、峻は口を閉じた。


    参加者
    蛙石・徹太(キベルネテス・d02052)
    月岡・朗(虚空の紅炎・d03972)
    有馬・由乃(歌詠・d09414)
    風舞・氷香(孤高の歌姫・d12133)
    亜麻宮・花火(実は・d12462)
    御印・裏ツ花(望郷・d16914)
    九形・皆無(僧侶系男子高校生・d25213)
    小森・弾子(魔女を穿つ森・d25985)

    ■リプレイ

    ●朝焼けが呼ぶもの
     朝も早い刻。夜に洗い上げられた大気には、薄っすらと水の気配が漂う。
     景観法によって一線を守った街の中心、脇本陣の蔵の前で老女が竹箒の動きを止める。扉の向こうから異様な呻き声と鎖の鳴る音が漏れ聞こえていた。
    「何の音でしょ?」
     傍らの木蓮の幹に箒を立てかけて扉へと向かった、その時。正面の門から子供たちが駆け込んでくる。
     先頭の蛙石・徹太(キベルネテス・d02052)と月岡・朗(虚空の紅炎・d03972)は、子供と言ってはそろそろ失礼にあたる年頃か。年老いたこの屋敷の主は、腰を伸ばして首を傾けた。
    「おはようございます。何か、ご用?」
     そう訊ね、応えを待っている。頭ごなしの叱責はない。
     その後も続々と仲間が駆けつけて、最後の一人、小森・弾子(魔女を穿つ森・d25985)が口火を切った。眼差しは足元を見ている。
    「わたしの猫、ここに入っていったの。かぎかかってて開かないの」
    「あれを開けようとしたの?」
     いかにも子供といった物言いを聞いて、老婆が見たのは蔵の扉。口を開きかけて当惑げに眼差しを逸らし、かける言葉に迷う。
     訪れた静けさの中から聞こえるのは、化け物じみた呻き声と羽ばたき、そして鎖の音。どうにも気まずい。
     仲間の携えた鞄の中で、御印・裏ツ花(望郷・d16914)が気配を押し殺していた。どうしてそのようなことができるか。猫に姿を変えているからだ。彼女が、迷子の猫の役どころだった。多少窮屈でも今はじっとしているしかない。
    (「折角なら後味悪くならないようにしたいもの」)
     そうした裏ツ花の心遣いを裏切り、雲行きは怪しい。どう言い逃れるべきか。周囲を見回し、有馬・由乃(歌詠・d09414)が口を開く。
    「いえ……蔵の中に入ってしまった、かもしれないんです。警戒心の強い猫で」
     そうしている間に徹太が蔵の戸口と老女の間に入り、風舞・氷香(孤高の歌姫・d12133)が由乃に続く。
    「知らない人が近づくと引っ掻くかもしれません」
     老婆が頷く。
    「そう。猫のお名前は?」
     弾子が片手を差し出す。
    「名前、ねこ。多分、出られなくて困ってるの。おばあさん、かぎ持ってたら貸して」
     老婆が黙って彼女を見る。目を合わせないまま、弾子は続ける。
    「ちゃんと返す。大丈夫」
     聞き分けのない子供と思われてしまおうが、掌を大きく広げた。朗が彼女の兄を装い、背から頭を下げる。
    「一晩中探していて、この中から鳴き声が聞こえたんだ。すごく小さな声で、怯えているか弱っているかしているのかもしれない。協力してくれれば嬉しいのだが」
     亜麻宮・花火(実は・d12462)が、菓子箱を差し出す。広島銘菓もみじ饅頭。
    「ここはわたしたちに任せて! おばあちゃんはあっちで休んでいなよ」
     そして、蔵の中の電気のスイッチはどこかと訊ねた。
     老女が視線を向けた先は、彼らから少し離れたところに立った九形・皆無(僧侶系男子高校生・d25213)だった。人造灼滅者である彼には角がある。それが見つからないように気を配っていた。その装いは、僧形。托鉢僧に対するように手を合わせ、老女は皆に向き直った。
    「猫よりもずいぶん大きな獣が入り込んでいるかもしれませんよ」
     弾子の手の上に、鍵を置く。
    「スイッチは入って右手の壁に。お菓子は猫が見つかったら皆で頂きましょう」
     見つかるように。そう願って、子供たちの元から離れる。
     皆無の手が、虚空を撫でた。木蓮の白い花びらを散らして、柔らかな風が戦ぐ。
     直後、倒れた老婆は、その意識を風に持ち去られていた。

    ●蔵の中
     短く息を吐いた皆無は、
    「私が」
     一言告げて老婆をその場から運び出す。他者の痛みをただ見ているのはつらい。だが、役目は果たさなくてはならない。だから黙々と。
     弾子が徹太に鍵を渡す。受け取った徹太は、逆の手を外へと振り、
    「開ける。距離取れ」
     扉の中央直線上を避けるよう指示する。
     厳重さに見合った音を立てて錠前が外れた。それと同時、扉の向こうの異音が急に途絶える。スレイヤーカードを解放した徹太の両手が、重たい扉を勢い良く開く。
     ガラリ。
     闇に満ちた蔵の床に、一条の朝日が差し込む。死に絶えたかのような静寂。それは長いように思えて一瞬だった。徹太の右手が、まっすぐに前へと伸ばされている。左手で帽子を目深にずり下げた。
     BANG!――弾丸は、黒く水っぽいハート。放つ二指が、わずかに揺れて反動を殺す。遠くで鎖が悲鳴を上げた。
     バサ、バサリという激しい羽音は床の上で騒ぎ、気づけば鈍色の靄が戸口の隙間から外へとあふれ出している。一身に受け止めた徹太の肌が見る間に糜爛を始めた。触れた頬、舌、気道まで一気に爛れさせる、それは猛毒。呼吸がつらい。
     目の当たりにした朗が立ち位置を代わり、
    「アルフォンス」
     霊犬に回復を命じる。皆無が縛霊手を構えて駆け戻った。由乃が懐中電灯を片手に、カードを解放する。
    「今を春べと咲くやこの花」
     あふれ出した靄が薄れ始めると、また、蔵の中に走る光の帯が見えた。扉の脇に寄った由乃は、静かに口を結ぶ。暗がりの奥で骨ばった手が床を撫で、ゆっくりと浮き上がるのが垣間見えていた。ぞろりと並ぶ鉤爪。羽ばたく音から再び飛翔しているのだとわかる。が、このままでは明るいこちらだけが良いように狙い撃ちされる。
     低く構えた由乃の背後から、微かな物音が聞こえてきた。槍を携えた裏ツ花が髪を背に払って腰を上げるところだった。足元に転がった鞄は、大きく口を開けたまま。
    (「拷問のようでしたわ」)
     それはそれとして。
    「明かりを灯さないとなりませんわね」
     暗がりを窺う裏ツ花の脇で、花火が蔵の内を指差す。
    「入ったら右側だよ」
     花火自身はビームの準備を整え、点灯役のサポートに回るつもり。反対側の扉近くに移動した。氷香が同じ側に回って、スレイヤーカードを手にする。
    「……さあ、唄を紡ぎましょう」
     利き手で槍の柄を掴み、下段に構えて突入に備える。
     花火が右手を上げた。――GO!
    「紅く舞い散れ! もみじ饅頭ビーム!」
     転がり込むと同時、戸口左手側からビームを放つ。時ならぬ紅葉に再び騒ぐ鎖。軌道を曲げて別方向へと跳ねるビーム。衣装箱が一つ砕けて飛んだ。
    (「鎖に弾かれた?」)
     だが灼滅者側も機を逃さない。壁に手を触れさせて、裏ツ花が逆へと走る。その手許を照らすのは、由乃の懐中電灯。
     裏ツ花の指先が固い感触を捕らえた。黒いタンブラスイッチ。間髪入れずに弾く。
    「お、ぅぅ、ぁあ」
     前方頭上から、気色の悪い声が降ってきた。浮かび上がる翡翠色の面。そして、シ、という耳鳴り程度の風切り音。
    「っ……ぁ!」
     槍柄を翳した裏ツ花の手の甲に、それでも庇いきれなかった耳朶に、首筋に、赤い羽根が突き立つ。消えると同時に傷が開き、血煙が上がった。
     同じように槍を構えた氷香が、奥歯を噛んだ。
    (「これでは、届きません」)
     一撃、螺穿槍を見舞ってやりたいのに、相手は虚空。ならば、どうする。武器を入れ替えようとした氷香の背後から、魔の一矢が飛んだ。
    「ぅぉあぁ――ギァ、ッ!」
     盛大に羽根が散る。中空で暴れた古の畏れが、その場で墜落した。
     放った弾子がビハインド・大に命じる。
    「ちゃんとわたしたちを守るのよ。いいわね」
     そして前に向き直る弾子。
    「おっきいのね、カラス。カラス? カラスでいいのかしら」
     床の上でもんどり打つあれは、多分、違う。しかし、大きいのは確かだ。あるべき尊厳も失している。
    「あれくらいおっきかったら、いっぱい当たる」
     頷いた。
    (「わたしでも刺せる。まだ上手く刺せないけど。上手く刺せるようになる」)
     その時、皆無と彼の祭霊光を受けた徹太が扉の内へと辿り着いた。
     さあ、立て直そう。
     正面から朗、右手から氷香が駆ける。

    ●堕ちたる食吐悲苦鳥
     片手にロッドを掴み、もう片方の手を前に差し出しかけて、朗はほんの一瞬、行動に迷った。怪鳥が、ずるりと身を起こす。周囲には衣装箱や古道具。
    (「火を使うと延焼するかもしれない」)
     そう判断をつけると同時、フォースブレイクの一撃を突き込んだ。
    「ア、グォッ!」
     どぅっと腹に響く衝撃に、敵が身を揉む。足元のガラクタを蹴り退け、朗へと襲い掛かってきた。顎に向かって鉤爪を振るい、ザクリとやってもまだ足りずに肩に掴みかかる。
     氷香が槍穂を突き出し、その凶行を払った。
    (「……古の畏れはこれで3度目ですね」)
     ヴンッという唸りを上げた槍穂が、鳥の肩口を貫く。爪が肉を抉って離れた。ガタンという音。古い桐箪笥を蹴倒して、怪鳥が足元をふらつかせる。
    「ゥ……ッ、オオゥ」
     両手で頭を掻き毟り、面に爪を立て、右にぐらり、左にぐらり。苦悶するその姿が、奇怪な舞となっていた。折れてひしゃげていた翼が、次第に元の姿を取り戻し始める。
     怪鳥が、爪先で床を蹴った。鎖が荒れる。
     飛翔する。
     見て取った刹那、花火が桐箪笥の抽斗を引いて上へ上へとよじ登り始めた。あらん限りの足場を探して梁を目指す。
    「オゥォォ……ッ」
     この気配。徹太が傍の仲間を突き飛ばし、諸共に茶箱の陰へと身を翻した。
    「毒が来る」
     トトッと軽く下がった氷香の前には弾子のビハインド、由乃と裏ツ花の前には朗。下がりかけのそこを、鈍色の靄が襲う。
     眼鏡が幸いして朗の眼球は持ちこたえたが、肌は異変を起こし激痛に苛まれる。弾子の手の甲も糜爛を始めた。むせ返る。苦痛。そして異臭。劇薬でも浴びせかけられたかのようだ。
    「風を」
     古道具を盾に身を伏せて、皆無が片手を差し伸べる。靄を吹き払う清めの風。砕けた道具類や埃が諸共に舞い上がる。梁を掴んだ花火が顔を背けてそれに耐え、大きく体を振った。
     飛び降りざま、虚空から繰り出す拳。
    「夜空に輝け! スターマイン!」
    「……?!」
     古の畏れの方が見返る。が、一呼吸遅い。バササッという乱れた羽音をばら撒き、跳ね、再び床へと叩き付けられた。二転、三転し、肘で床を押して立ち上がろうとしたその眼前、巨腕が翻る。
    「グッ……ガッア!」
     由乃の腕の一振りが、怪鳥の胸元をごっそりと削いだ。そこに駆け込む徹太の手には、紅蓮の炎。
    「職人なんか怨念も執念も情念も区別なく籠めるんだ」
     翼を目掛けて灼熱を突き込む。
    「……灼滅したらちゃんと砕けんだろな」
    (「憑かれるのは勘弁。顔メリとかおかしいだろ効果音。踊るためじゃないけど仮面は間に合ってる」)
     ゴッと勢い良く火の手が上がった。蔵の壁が赤く照り、様々なものの影が黒く踊る。ゆらり、ゆらり、形を歪め。
    「……ギ、ッ……!」
     熱さとまばゆさに目を細め、裏ツ花が手にしているのはバベルブレイカー。
    「着ければ幸運を呼ぶ代物が、何を間違ったか不幸を呼ぶ物に為ったということでしょうか」
     度を知らぬ異形を眼下に据え、天へと向けた杭の先を真下へと返した。
    「人の念が宿るとしたら誰のものなのやら」
     バタバタともがく古の畏れが、仰向けに灼滅者たちを見た。見ている。緑色に彩られた面の二つの穴から覗くのは、あれは、目だ。そして、まだ掴みかかろうと腕を伸ばす。
    「楽にして差し上げます」
     ドッという一撃は、最期の鼓動だった。
    「ヒ……」
     仮面の奥で、目がせわしなく動いた。嘴がおかしな動きをし、鉤爪が面を掻き毟ろうとして硬直する。どろりと何かが溢れ出て、そして、鳥の顔に亀裂が入った。
    「ァ……ガッ」
     からり、と面が落ちる。床は炎に照らされて赤い。どろどろととろけ崩れる古の畏れ。
     皮一枚。それが失われれば、人の顔を見分けることは難しい。誰とも知らぬ者ならばなおさら。
     黙って見据える灼滅者たちの影が、黒々と揺れていた。

    ●悪人正機
     下半分をなまこ壁で覆った蔵は、焦げて煤で汚れても焼け落ちるまでにはいたらなかった。時に耐えた堅牢さで、辛うじてその役目を全うしている。朗の用いたサウンドシャッターのお陰で、騒ぎを聞きつけた者はいない。
     扉の外に見えるのは、静かな朝の光景だ。
     溶け落ちた古の畏れは割れた面を呑み込んで揮発し、消えた。裏ツ花がバベルブレイカーをカードに戻す。
     更なる苦しみは、ここで絶たれた。もう苦悶の声は聞こえない。
     徹太が口にした。
    「悪人も善人も末は同じ。土に還って、そのまま沈んでろ」
     外から朝の風が吹き込んでくる。嫌な匂いが晴れるまで少し時間はかかろうが、それも休息の合間だろう。
    「かぎ」
     弾子が拾い上げた鍵は、彼らの血を浴びて錆びているかのような色だった。軽く振って拭う。
     佇む裏ツ花が、口を開けたまま転がっている鞄を見た。
     また猫、『ねこ』になってあの暗がりに入って、そして――
    「……」
     皆が周囲を見回す。
     ねこの面目のためにも、まずは、ここを片付けることからか。
     扉の外、朝焼けはいつの間にか薄曇りの空へと変わっていた。いずれ雨雲へと変わるだろう。
     灼滅者たちには、今少しの間、休息の時が流れ続ける。その手には、花火が配ったもみじ饅頭が握られていることだろう。
     

    作者:来野 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2014年4月6日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 12/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 1
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