黒長靴のスサノオ~滝神様の花婿~

    作者:篁みゆ

    ●滝神様の花婿
     とある山中に『それ』はいた。ごうごうと水が流れ落ちる滝を見上げ、何か思案しているようにも見えた。『それ』はゆっくりと視線を滝壺に移し、そして、一声鳴く。
     それ――白き炎のような体毛の大きな狼は足先だけが黒く、まるでブーツを履いているようだ。血の色の瞳は滝壺をじっと見つめている。すると。
    「……あああ、口惜しい……菊は俺の許嫁じゃあ……祐之介めぇ、菊がほしいからといって俺ぉぉぉぉぉぉっ!」
     恨みを言葉にしながら滝壺から現れたのは、着物と髪を振り乱した一人の若い男。彼を戒めていたと思しき縄はすでに解かれており、彼の手に握られている。
    「祐之介えぇぇぇぇぇぇっ!」
     

    「来てくれてありがとう。また、スサノオによる事件が起ころうとしているんだ。向かってくれるかい?」
     教室を訪れた灼滅者達に、和綴じのノートをめくりながら神童・瀞真(高校生エクスブレイン・dn0069)は告げる。だがそれまでと違うのは……。
    「スサノオにより、古の畏れが生み出されようとしている場所が判明したんだ。つまり、今回はスサノオを止めるチャンスが有るよ」
     ざわめく教室内。瀞真は静かに続ける。
    「今まではブレイズゲートと同じように、スサノオは予知を邪魔する力を持っていたんだけど、スサノオとの因縁を持つ灼滅者が多くなったことで、不完全ながらも介入できるようになった」
     スサノオと戦う方法は2つあると瀞真は言う。
     1つ目は、スサノオが古の畏れを呼び出そうとした直後に襲撃を行う事。
     この場合、6分以内にスサノオを撃破できなかった場合、古の畏れが現れてスサノオの配下として戦闘に加わる。古の恐れが現れた後はスサノオが戦いを古の畏れに任せて撤退してしまう可能性もあるので、短期決戦が必要になる。
     6分以内にスサノオを倒した場合は古の畏れは現れる前に消滅するので、短期決戦に自身があるならば、この方法が適切だろう。
     2つ目は、スサノオが古の畏れを呼び出して去っていこうとする所を襲撃する事。
     古の畏れから、ある程度離れた後に襲撃すれば、古の畏れが戦闘に加わることはない。ただ、この場合スサノオとの戦闘に勝利した後、古の畏れとも戦う必要がでてくる。スサノオと戦う場合の時間制限はないが必ず連戦となる為、それ相応の実力と継戦能力が必要となる。
    「スサノオの攻撃方法だけど、毛を伸ばして縛り付けるような攻撃、まるで嘆きのような声での攻撃、咎人の大鎌と影業相当の攻撃をしてくるよ。一体だからといって侮っていると、痛い目にあうかもしれないね」
     一応、古の畏れについても説明しておくよと瀞真は告げる。
    「昔、この滝の付近には大きな村があってね、滝には女性の神様が住んでいると信じられていたらしいんだ。何年かに一度、神様に花婿を捧げる儀式があって、村人の中から若い男を選んで、滝の上から滝壺へ落としていたという」
     かなりの高低差がある上に儀式は凍える程の寒い季節に行われるという。身体を縛られて落とされたら、まず助からない。
    「今回古の畏れとして呼び出されるのとその『花婿』として命を落とした男のうちの一人。正敏という彼には菊という許嫁の女性がいたんだ」
     けれども村長の息子の祐之介はずっと菊に惚れていて横恋慕していたという。ある年、『花婿』を決めることになった時、祐之介は裏から働きかけて正敏を『花婿』にさせたのだ。
    「滝壺に落とされる直前に正敏が見たのは、祐之介に肩を抱かれる菊の姿だったらしい。村はもうこのへんにはないのだけれど、昔話として老人達の口から口へと語り継がれていたらしいね」
     攻撃方法は縄を使った攻撃、冷たい水を波のようにして襲いかからせる攻撃、そしてバトルオーラ相当の攻撃だ。
    「君たちがどういった選択をするかによって戦法も変わるだろう。よく話し合って考えて欲しい」
     無事に帰ってくるんだよ、瀞真はそう告げた後付け加える。
    「スサノオは予知し辛い。今回が倒せる好機だから、必ず倒して欲しい。頼むよ」
     パタン、と彼はノートを閉じた。


    参加者
    勿忘・みをき(誓言の杭・d00125)
    雨谷・渓(霄隠・d01117)
    鹿嵐・忍尽(現の闇霞・d01338)
    詩夜・沙月(紅華の守護者・d03124)
    中島九十三式・銀都(シーヴァナタラージャ・d03248)
    新沢・冬舞(夢綴・d12822)
    佐倉・結希(ファントムブレイズ・d21733)
    アレン・クロード(チェーンソー剣愛好家・d24508)

    ■リプレイ

    ●嘆き呼び寄せて
     水の流れる音がする。この音に寄り添った道を行けば、目的の滝の下までたどり着けるはずだ。その証拠に、歩むにつれてだんだんと水音が強くなっていく気がする。
     強くなっていくのは水音だけではない。肌をピリピリと刺激するような禍々しい気配、これはスサノオと、喚び出されようとしている古の畏れのものだろうか。
     八人の灼滅者達は慎重に山道を進んでいた。今回は古の畏れを呼び出したスサノオが去る時に攻撃を仕掛ける方針となっている。古の畏れを呼び出したスサノオを追って撃破した後、古の畏れと戦うのだ。だから彼らは息を潜め、滝の下のスサノオを視認できる位置まで近づく。
     声を上げるわけにはいかない。事前に作戦のすり合わせは何度もした。だから、大丈夫なはずだ。互いに仲間を信じる。
    (「まさに尻尾を掴んだという奴にござるな。この好機、必ずものにせねばいかんでござる」)
     鹿嵐・忍尽(現の闇霞・d01338)の見つめる先には、白い毛並みを水滴を含んだ風に揺らす一体の狼――いや、スサノオがいる。今までは喚び出されてしまった古の畏れを鎮めることしかできなかった。そこにスサノオの姿はなかったのだ。だが、今回は違う。忍尽の思う通り漸く掴んだ尻尾、この機会を逃す訳にはいかない。
    (「……数々の悲しい古の畏れを生み出したスサノオ。これ以上犠牲を出さない為にも、必ず此処で倒します」)
     風に揺れる銀の髪を片手で抑え、詩夜・沙月(紅華の守護者・d03124)はもう片方の手をぎゅっと握りしめる。実際に目にした悲しい古の畏れの姿、今も覚えている。
     その隣でじっとスサノオを見つめるのは佐倉・結希(ファントムブレイズ・d21733)。
    (「幻獣と戦うなんて夢みたいやけど、その強さに気圧されたりはせんよっ。みんなと一緒に全力で叩き潰します!」)
     憧れ色に染まった瞳のうちにも、確固とした闘志が見えた。
    (「何を理由に古の畏れを呼び起こすのか、理由は分らないが、いたちごっこは此処でお終いにしよう」)
     雨谷・渓(霄隠・d01117)ももちろん今回の接触でスサノオを倒しきるつもりでいる。眼鏡の奥の瞳がその意志を真っ直ぐにスサノオへと放つ。漆黒の視線を突き刺す新沢・冬舞(夢綴・d12822)はエクスブレインの説明を思い出していた。
    (「やはりスサノオは自身が呼び出した花嫁達の力を一部得て、進化するダークネスなんだな」)
     エクスブレインから説明されたスサノオの攻撃方法は確かにかつてこのスサノオが喚び出した古の畏れに由来するものだった。
    (「……それにしても、瀞真が言う通り、黒長靴をはいているようだ」)
     このスサノオは足先の毛だけが黒い。長靴を履いているようなスサノオは、吠える。それに呼応するように滝壺の水が不自然に盛り上がっていく。
    「ああぁぁぁぁぁ……」
     最初は言葉にならぬ呻き声をあげていたそれは、段々輪郭を確かにして、一人の男の姿になる。
    「……あああ、口惜しい……菊は俺の許嫁じゃあ……祐之介めぇ、菊がほしいからといって俺ぉぉぉぉぉぉっ!」
     乱れた着物と髪。手に握られた縄。恨み言を零す彼は滝上様の花婿、正敏だ。
    (「彼の受けた仕打ちを考えれば多少の同情は禁じ得ませんが、それはそれ。死んだ人には速やかに安らかに眠ってもらいましょう」)
     恨みで醜く歪んだ正敏を見るアレン・クロード(チェーンソー剣愛好家・d24508)の瞳は凪いでいる。つ、と動かした視線の先には、スサノオ。
    (「あとついでにスサノオをボコボコにしましょう」)
     どっちが本命でどっちがついでなのかわからぬ言葉ではあるが、どちらも倒すという意志には変わりない。
     タッ……古の畏れの出現を確認したからだろう、身を翻したスサノオは軽快な足取りで山道へと入る。視線で合図を交わし、灼滅者達は距離を保ったままそれを追った。中島九十三式・銀都(シーヴァナタラージャ・d03248)は隠された森の小路を使用して、スサノオを見失わないように最短ルートを駆けてゆく。仲間達が、それに続いた。
     走った時間はそれほど長くはない。けれども狼の身体を持つスサノオの駆ける距離だ、短時間でも古の畏れからは十分に距離をとったところだろう。エクスブレインの指示にあったと思しき開けた場所に段々と近づく。
    「連戦だな、みんな気合入れていくぞ」
    「……必ず倒す。それだけだ」
     銀都の、潜めているが気合を感じされる言葉に一同は頷き、勿忘・みをき(誓言の杭・d00125)は低く告げて一番に飛び出した。

    ●対峙――スサノオ
     もう、姿を隠す必要はない。スサノオの前に踊りでたみをきは、素早く盾を広げ、前衛の仲間達の守りを固める。
    「神と同じ名を持つその武勇、見せて貰おう」
     告げ、その些細な動きさえ見落とさぬとでもいうように青の視線を向ける。ビハインドがその視界に入り込み、霊撃を撃ち込んだ。
    「平和は乱すが正義は守るものっ! 中島九十三式・銀都参上! 迷走劇場を終わらせに来たぜっ」
     名乗りを上げた銀都はスサノオの背後に回りこみ、影を伸ばす。白いスサノオの身体を黒い影が縛り上げてゆく。先手を取ることが出来たゆえにまだ回復が必要無いと判断した沙月は、喚び寄せた風を狼へと放った。
    「その力、どんなものなのだろうな」
     口元に笑みを浮かべ、冬舞はスサノオの死角へと入り込むと、一気に刃を振るった。確実に「入った」手応えはあった。それでも呻かぬというのはさすがスサノオというところか。
     結希の魔力を含んだ霧が後衛を覆い、攻撃力を引き上げる。渓の槍から放たれるつららは鋭く冷たく、スサノオの毛並みをかき分けるようにして穿つ。底上げされたその力を、狙い定めて叩きこむのはアレン。素早く死角に入り込み、振るうのは『吸血鬼処刑用鋸斧【血断】』。回る刃がスサノオの身体を抉り裂いた。盾を広げた忍尽の横をすり抜けて、霊犬の土筆袴がスサノオへ太刀を振り下ろした。
     グル……ルルル……。
     もちろんスサノオとてやられたままで居るはずはなく。低い唸り声は灼滅者達を敵と認めた怒りの篭ったもの。放たれたのは黒い波動。狙われたのは後衛。だが、灼滅者達とてみずみずと仲間が傷付けられるのを見ているつもりはない。
    「後ろだ」
     いうが早いか、みをきは沙月を庇うように立つ。
    「土筆袴、佐倉殿をお守りするでござる!」
     みをきの注意喚起に反応し、忍尽は命を放つ。土筆袴は従順・忠実にその命を守り、結希を庇う。忍尽もまた、アレンの前へと立った。ディフェンダーであるとはいえ、スサノオの一撃は重く感じた。それでもみをきは白光を放つ斬撃を叩き込むことに躊躇いを見せず、ビハインドも彼を追うように攻撃を仕掛けた。
     銀都の手にした祭壇で構築される結界はスサノオの動きを鈍らせる。沙月の喚ぶ清らかな風が前衛を癒やし、清めゆく。
     まだまだ戦いは始まったばかりだ。

    ●逃れられぬ
    「やっぱりカッコいいなぁ……その強さが羨ましくさえ思います」
     凛とした佇まいでその強さを誇示するスサノオに、思わず結希が言葉をもらす。ここまでその強さを身に刻まれている灼滅者達。敵ながら羨ましく思えても仕方のないことかもしれない。
     でも、負ける訳にはいかない。結希は『ーClose with Talesー』を手にしてスサノオに接近すると、一気に叩き込む。傷を負わされていてもやはりどこか楽しそうな冬舞は解体ナイフを手の中でくるりと回し、結希の攻撃を受けて若干揺らめいた白い身体に突き立てる。
     囲まれたスサノオは時折退路を探すように視線を彷徨わせた。けれどもスサノオに注意を払っていたみをきや沙月がその様子を見逃さず、包囲に隙ができることは殆どなかった。その結果、灼滅者達に多数の傷を負わせているスサノオも、次第に弱ってきたのだった。
    「少しは、弱ってもらえましたか?」
     深く食い込んだ刃を更に押しこむようにしてアレンはスサノオに声をかける。もちろん帰ってきたのは呻きに似た唸り声。
     果たして逃れられぬのはどちらか――灼滅者達の猛攻は続く。これは、このまま畳み掛ければ押し切れそうだと判断したから。
     沙月とみをき、そして忍尽が的確な回復を施してくれるから、他の者は安心して攻めゆくことができる。銀都の一撃でスサノオは初めて「キャン」と悲鳴を上げた。
    「転々と現れては、古の畏れ呼び起こすスサノオ達。誰かを傷付ける前に在るべき場所へ帰って頂きましょう」
     渓は手にしたバベルブレイカーに力を込める。地を蹴るようにスサノオに接近すると、ありったけの力を込めて杭を撃ち込んだ。
     ……!
     最期は悲鳴さえ上がらなかった。倒れたスサノオは地に縫い付けられたように横たわり、そして、ゆっくりと輪郭を曖昧にしてゆく。
    「貴方の旅も終わりです。お疲れ様、少し休んで下さい」
     敬意を払った全力の一撃を受けたスサノオは、ゆっくりと……散った。

    ●対峙――滝神様の花婿
     スサノオのを倒しはしたものの、灼滅者達の被害も軽微では済まなかった。この後古の畏れと戦うため、休息を取り、傷の深い者には心霊手術を施して次の戦いへと備える。
     うぉぉぉぉぉ……滝へと近づくにつれて恨み声も近づいてくる。木々をかき分けるようにして灼滅者達が滝壺の近くの開けた場所に躍り出ると、花婿――正敏の瞳が輝いたように見えた。同時に前衛を襲ったのは、大量の水。濡れそぼった前衛の男性達を、正敏は恨みの篭った瞳で見つめている。
    「死して尚も嘆くとは、それでは菊も呆れた事でしょう」
     濡れたことに気を取られた様子もなく、渓は冷静につららを放つ。冬の水の冷たさ以上の冷気の塊が、正敏を穿った。
    「気持ちは凄くわかるけど、いつまでも恨んでると女々しくてカッコ悪いですよっ」
    「俺の苦しみがお前にわかるかぁ……」
     霧の魔力を得た結希は、雷を帯びた一撃を叩き込む。結希に正敏の苦しみはわからない。それは当然のこと。わかりたいともあまり思わない。想像することはできるかもしれないけれど。
    「愛しい人を奪われて呼び出されたのに相手を間違えるとはな……そこが甘い」
     冬舞の挑発に怒りを覚えたようだったが、正敏には冬舞の素早い動きを追うことは出来ない。死角に入り込まれ、深々と傷を付けられる。生身であれば、さぞかし派手に流血したことだろう。前衛に移動を済ませてあったアレンは盾を広げ、傷を癒しつつ守りを固める。忍尽もまた回復を重ね、先に被ったダメージを極力回復するように務める。土筆袴は命じられるまま、正敏へと突っ込んだ。
    「恨みを力に……か」
     みをきの精度の高い一撃が、常以上の深さで正敏を切り裂く。ビハインドがその傷口をえぐるように攻撃を重ねた。
    「……残された者と、残していく者、どちらも同じくらい、悲しい思いをしたのでしょうね」
     沙月の静かな呟きを、清らかな風が運ぶ。風は癒しの力となり、仲間達の傷を癒やす。
    「平和は乱すが正義は守るものっ! 中島九十三式・銀都参上! 迷走劇場を終わらせに来たぜっ」
     銀都の二度目の名乗りが水面に響き渡る。一度の依頼で二度も名乗るのは初めてだったが、まあ悪くはない。銀都は正敏に絡めた影で彼を縛り付ける。
    「おのれぇぇぇぇぇぇぇぇっ!」
     縄が冬舞に迫り、舐めるように彼を縛りとった。

    ●いつか生まれ変わる日に
     十代後半の男性は皆、憎い祐之介に見えてしまうのだろう。そのおかげで十代後半男性の多い灼滅者達への正敏の攻撃は、ばらけることが多かった。一人に集中されない分、こちらが倒れるまで痛めつけられる確率は下がっていた。その上その条件の対象外である者は、集中して攻撃に回復にと動くことができる。正敏は、自分が徐々に追い詰められていることに気がついているだろうか?
     影で切り裂く渓の攻撃を正敏が避けた所へ、まるで予測していたかのように冬舞が入り込んで刃を振るう。
    「いい加減にしてください」
     結希の重い一撃。刃が正敏から離れきる前に不機嫌そうな表情のアレンの刃が食い込む。仲間が傷付けられたことを思うと、アレンの顔に怒りが浮かぶのも当然だった。
     先のスサノオとの戦いで、お互いの戦い方を肌で感じることが出来た。その分二戦目も、疲弊してはいるが仲間達の動きが先程よりもよくわかって、効率よく動けているような気がしていた。
    「この御仁の魂は気の毒でござるが、復讐する相手はもう何処にもござらん……もう一度眠って頂くでござるよ」
     身体の前で素早く印を結んだ忍尽は、7つに分裂させた光輪を放つ。黒い毛並みを揺らして土筆袴がそれを追った。
     みをきの『ADAMAS』が広がり、正敏を包み込む。濃い影の中から悲痛な叫び声が聞こえた。彼がどんなトラウマに蝕まれているのか、大体想像はつく。影が晴れるのが早いか、ビハインドは正敏を撃った。
    「菊うぅぅぅぅ……」
     嘆くように正敏は恋人の名を呼ぶ。傷めつけられた身体を押さえながら。きっと、もうすぐ「終わる」のだろう。
    「皆さん、あと少しです!」
     沙月が『蒼月』を繰り、アレンの傷を癒やしながら皆を奮い立たせる。それぞれ最良と思える攻撃を叩き込んでゆく。忍尽の動きに合わせるように土筆袴が攻撃を仕掛けた。交わす視線が褒め言葉を代弁して。
     時に庇い、庇われながら攻防は続いた。だがそれは長い時間ではなかった。正敏の動きが目に見えて鈍り、体勢を崩しても素早く戻すことができなくなっている。それを見て、銀都は機を悟った。
    「俺の正義が真紅に燃えるっ! 裁きの時だと無駄に叫ぶっ」
     握りしめた『逆朱雀』に炎を宿し、正敏の懐へと突撃する。
    「くらえ、必殺! 燃え散れ、これが貴様への洗礼の炎だっ」
    「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁっ……」
     袈裟懸けに炎纏った巨大な刀を振り下ろされて、正敏は声を上げた。後ひく叫びは山中にこだまして。そして。
     銀都が水の中に着地して顔を上げた時、そこに正敏の姿はなかった。

     ふわり……一瞬だけ風に乗った紅と白の菊は、吸い込まれるように滝壺へと落ちる。
    (「今度こそ、安らかに」)
     菊を投げた沙月は、祈りが届くようにと願う。
     紅菊の花言葉は「愛情」。白菊の花言葉は「誠実」。
    「……来世では、お二人が幸せになれますように」
     恨み声も遠吠えも聞こえなくなった山中に静かな祈りが響き渡る。
     きっと、いつか、その日が来ると信じて。

    作者:篁みゆ 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2014年4月15日
    難度:やや難
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 8/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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