京ごよみ ~茶甘味と桜で巡る宇治~

    作者:一縷野望

     古都京都。
    『昔』と『現在』がごく自然に混在しているのは、古に都が置かれた土地ならでは。
     武蔵坂学園より西に位置するこの地にて薄紅が開くのは少しだけはやい。

    「ちょっとマニアックって言ったら、宇治の人に怒られるかな」
     灯道・標(小学生エクスブレイン・dn0085)は悪戯めいた言葉を遊ばせる。
     京都といえば観光名所はそれこそ星の数。その中で少女が行こうと誘っているのは、京都駅から奈良方面へ電車で20分ほど揺られた先にある、茶の里宇治。
    「お茶の名所……なん、ですね」
     手の平の画面に招いた観光案内に、機関・永久(中学生ダンピール・dn0072)は紫を僅かに眇める。
    「桜を見るなら塔の島かな。お茶屋さんが並ぶ『平等院表参道』から5分とかからないし」
     宇治川に浮かぶ小さな島は、自然公園としても市民に親しまれている。標曰く、こちらより桜の背が低いらしい。
    「だから桜の花と目があうんだよね」
     薄紅に撫でられた頬を思い出すように少女は触る。
     また、円山公園を見事に彩るしだれ桜がここでも見る事ができる。ぽつりとひとつ、されど見事に枝を広げ咲き誇る姿が見られる。
     塔の島を散策してもよいし、花見舟に乗り川側から眺めるのもまた一興。こぢんまりとした花見舟は手頃な値段で楽しめるのだ。
    「抹茶スイーツ?」
    「ん。お茶の味が本当に濃くて、美味しいよ」
     お茶屋さんがやっているカフェはどれも落ち着ける店構えだ。
     メニューは、茶を練り込んだシンプルな茶団子をはじめ、洋風の抹茶ソフトも抹茶シェイクにシフォンケーキに抹茶ワッフル、それらに野点のお茶がついたセットもある。
    「標さんは……そっちが、目当て?」
    「内緒」
    「俺は楽しみ、です」
     少年の朧な笑みを拾い上げるように少女はより明確な笑み浮かべ、通りすがりの誰彼へと声をかける。
    「ね……キミも、行かない?」
     二人より、沢山の人とならきっともっと愉しい。きままを集めて作った宝物を心の硝子瓶に閉じ込めよう。
     ――ねえ、雅やかな風の中、ひやり水含みの桜に頬撫でられに、少し足を伸ばしてみませんか?


    ■リプレイ


     ――忍者倶楽部のオーダーに店は桜の前に鮮やかな紅の縁台を設え出迎えた。
     小次郎は袖で手を温め賑やかな仲間へ頬を緩める。
    「あれ、いらないのですか?」
     顔を逸らす京介に真夜は残念気。
    「ケーキなんて洒落たもん…茶団子食べてみるか?」
     近づく雪雨の唇。
    「って、そのまま」
    「すみません」
     両手は塞がっていたからとの雪雨は茶団子を隼へ「あーん」
    「せ、拙者にか!?」
     かき氷の早食いとはしゃぐ隼の声が裏返る。
    「はい…わっ」
     式夜へ甘味差し出す真夜にこつん、辛うじてケーキ直撃回避。
    「女の子は大事にせんかぁ!」
    「免疫ないんだから」
     抹茶チョコと交換であーんできちゃう式夜とは違うわけで。
    「柳さん大丈夫ですか?」
     小次郎はこまめにフォローしつつ、雪雨からのあーんを避ける京介に苦笑。
     点てる抹茶の香りに背筋が伸びるが、それも一瞬――やはり賑やか。
    「で、とりさん、こっからここまで全部?」
    「…って食えるわけねぇだろっ」
     勇弥とさくらえは友人見つけ隣の席へ。
    「永久、それほしー」
     茶ラテに抹茶シュー…永久のを片っ端からつつく標ににんまり。
    「とりさんよければ半分こするけどどーよ?」
    「しょうがないな」
    「勇弥さん、甘いね」
    「機関くんには負けるかな?」
    「あ…お二人も」
     四分割。
    「そういや宇治金時とか言うもんな」
     一颯はワッフルを織へ。
    「うん。たべる」
     小豆が頬にでも気づかず織はパフェお返し。
    「顔に付いてんぞ」
     指で掬い取りぺろり。
    「一颯もついてるよ」
     織は身を乗り出すと舌でちろり。
    「!」
     赤面の理由、小首を傾げる織には絶対伝わらない。
     シフォンケーキが舌でとけ幸せ。お礼と直が掬ったアイスは七星に届く前に、
    「ああ…お花の方が、先に食べてしまった、みたい」
    「食い意地のはった桜にしてやられたな」
     葉が擦れるように笑み交わし七星は猩と来たかっただろと言葉を解いた。
    「はい。こんなに素敵ところなのだもの…」
     でも今は先輩の心遣いが嬉しい。


     春生まれの幼馴染みは着物でカフェの前を過ぎる。
    「お団子美味しいっ」
     お茶がつまった紙袋を下げ湊は「アイスも」と南音にねだる。
    「のんびり食べてると全部食っちまうぞ」
    「あ、待って」
     塔の島に入る橋の袂で改めて。
    「似合うね、格好いい」
    「…ッ」
     かき混ぜる髪はきちりと結われていて、だから照れ隠しはデコピン。
     抹茶ソフトを二人で舐めれば渋さより甘さが溢れた。
    「進学おめでとう誉」
     共に過ごせるのが嬉しいと、誉は素直に返す。
    「月末の地獄合宿、どうなんですかね」
     気恥ずかしさからか京介の声は上ずる。
    「誉がいれば地獄でも楽しめそう…」
     なんてね。
     戯けも川の花のように微笑で流されて。
     薄紅の中金糸が遊ぶ。その様に見とれるも一瞬。
    「ソフト気をつけて!」
     ほら無事ネと誇らしげにシャルロッテから差し出されたソフトに律は舌を伸ばす。
    「ん、美味い」
     お礼は茶団子。もう一口頬張ったら頬に柔らかなタオル。
    「元気、でマシタ」
     気遣いが/笑顔が嬉しくて――押し花にして綴じ込めよう。
     賑やかな一団が甘味を手に橘橋を渡る、天剣絶刀の面々だ。
    「荷物いいんですか?」
     九白は荷物でいっぱいのギィを振り返る。
    「いいからいいから。部長なんて、こんな時の雑用係っすよ」
     晴れやか笑顔に明日等はふふっと唇を傾がせる。
    「手を繋ぐぐらいならって思ったけれど」
     その男気のせいで今は難しい。
    「ふふっ、今年の桜も綺麗だねー」
     説得と退治の去年とは大違いとは架乃。
    「ふぅん、本当に目の高さに桜が咲いてるっす」
    「写真とは比べ物にならないです」
     間近の薄紅にギィとリヒターは瞳を瞬かせる。
     その背後では、
    「一口! 一口だけで良いから食わせろよ!」
     セシルの声でスイーツ交換会開始。
    「どうぞ。抹茶の苦味と程よい甘さが絶妙です」
    「シェイクも中々よ」
     九白と明日等のお裾分けいただきます!
    「わけるといっぱいおいしーです」
     めりるのももちろんいただき!
    「うん、甘さの中の苦み…奥が深い」
    「あー、それも食べたい!」
     架乃が頬張るソフトにも手をのばすセシルの頬をアモウがちょん☆
    「ほら、ついてるよ」
     ぱくりつまめばのどかな幸せ。
    「ギィ君もひとくちいかがですか?」
     ひとしきりつまんだ後でリヒターがさしだすソフト。さらに淡い香りは…?
    「ギィさん誘ってくれたお礼ですよー」
     めりるが集めた綺麗な花弁。半分はお土産とはにかむ少女、部長として企画した甲斐ががあったというもの。
    「はい、並んでー」
     猫につられる明日等を架乃が呼び寄せて、最後は桜の元で記念撮影――皆の元に駆け込みハグするアモウの「チーズ」で、笑顔がぱっと花咲いた。
    「さぁ、可愛い彼女を褒め称えると良いわよ!」
     桜のワンピにルビーの涙、春陽は手を広げ。
    「惚れ直した」
     大切に身につけてくれて嬉しいと月人。
    「にやけてると口に何か入ってくるぞ」
     ふざけあい。例えばあなたがお爺ちゃんになってものんびりお花見。
     その気持ち変らなければプロポーズはその内。
    「♪」
    「あんまり勢いつけて食べるとむせるぞ?」
     灯の破顔に秋乃は我儘が叶ったとほわり。
    「あ、灯ちゃんも食べる?」
     そっと握った指、委ね熱を分かち合う。
    「…これからも、よろしくな」
    「?」
     優しい面差しから嬉しい言葉と悟る秋乃。心に抱いたのは灯の言葉と奇しくも同じ。
    「花灯路 過ぎ往く花は 咲く花か 我に教えよ 宇治の春風」
     ウルスラの凛とした謳を由良は舞う桜と共に聴く。
    「ここの桜すごいでゴザルよ!」
     はしゃぐ様はいつもの親友。
    「ふふ。桜と目が合う…なんて、可愛い表現」
     手が届く桜は新鮮で。
    「ユラ…」
     進学祝いと花舟への誘い、どちらも嬉しいです。
    「花びらを掴まえ願い事をすると叶うらしい」
     逃げるように地へ急ぐ花捕まえて、六は願う。
     ――ずっと陽丞君と居られるように。
    「ね、何をお願いしたの?」
    「陽丞君は?」
    「俺のお願い事はね…」
     六の願いの成就。
     小さく瞬き、後は溢れるばかりの気持ち。やっと編めたのは「楽しいな」
     夏、秋、冬…そして春の桜、伊織との日を辿り氷霧は瞳を眇める。
     恋になりて初めての緊張、それすら愛おしくて。
    「しかし京都の桜、はいつみても綺麗やねぇ」
    「俺は初めてでしたが、こんなにとは…」
     繋げば返る素直な笑みに跳ね上がる伊織の鼓動。
     どちらからともなく「また来年、此からも」と紡がれた。
    「どうだ、よく見えるか?」
     大切に抱えられ、頬撫でる薄紅にナターリヤは瞳ぱちくり
    「わ、わ、ほんとにメ、あいましたのです…!」
     甘味はんぶんこにはしゃいだ少女はあどけなく、幸せのお裾分けに智之は和む。
     ひとしきり桜と戯れた後、
    「コロッケ、こんどいっしょに…!」
     予想外、でも可憐な誘いに指切りげんまん。
    「これから和をします! って感じだろ?」
    「気合入ってんな…!」
     自慢げに胸逸らすクレイに梛は吹きだしシグマは拍手。
     眠りを誘うぽかぽか陽気、眠気を祓うはもちもち団子!
    「シグマが立ったら紛れそうな?」
    「幹の黒い桜があるかよ」
    「桜の幹は黒いって…」
     のほほんと見守るクレイ曰く、花より団子。
     いやどうせなら。
    「花も団子も」
     にっと笑う梛、今を愛おしむシグマ――クレイが隠し撮り、見せるとなんて言うかな、なんて。
    「宇治と言ったら抹茶だよね!」
    「どれもおいしそうなんだもん。我慢はよくないよねっ」
    「花より団子…両方楽しみたいのよね♪」
     ねー! 矢宵と和奏、瞳はじゃんっとお団子にソフトクリームを掲げてみる。
    「ね、折角だし交換しよ! 永久くんもどうぞだよぅ」
     碧月もソフト、実は和奏とお店を変えてみた。
    「…微妙に、違う」
     交換会。一口ずつ味わって食べる永久は、平べったい飴ちゃんをざらり皆の掌へ。
    「テツくんも食べれたら良かったのにね」
     撫でられきゅるり。
    「わーもふもふ♪」
     桜飾りわんこ、庵胡ちゃん大人気でもっふもふ。
     中学最後の年、和奏という仲間も増えて幸先良くスタートです☆
    「花を愛でながらテイータイムしません?」
    「萌愛さん、お目が高い!」
    「俺、ぜりぃー買いたい、です」
     鞄から覗くお土産もさる事ながら、クッキーとぜりぃーがクオリティ高し!
    「試食して吟味しました」
     得意気に胸逸らす萌愛。桜の元で話題は参拝再開した平等院へと移りゆく…。
     日本を好きになって貰いたい、案内人は明と恋。
    「明くん詳しいね」
     平等院見学では恋も一緒に感心の聴講生。
    「桜、綺麗だネー。青空にピンクってすっごい素敵!」
     空を染める薄紅にサルバドールは翡翠を輝かせた。
    「京都は桜の名所でもあるからな」
    「マッチャの粉がかかってるの、美味しいなぁ」
    「そ、そーだ! えっとね…」
     恋が説明するは抹茶の歴史、知る地名『有楽町』もそこ由来と聞き、サルバドールは興味深げに頷いた。
     …次は秋の紅葉だね!
     ユエは五度目ぐらいで炉亞に振り返る。
    「とても綺麗なのに…儚く感じます。散り急いでるような…」
    「でも」
     穏やかな眼差しでユエを包むように、
    「散った桜は冬を越えてまた綺麗な花を咲かしてくれるのです、なんて」
    「そ、っか」
     なら寂しくないと、差し出された左手にほわり手を重ねる。二人が向うは甘味のお店。


     ぱしゃん…。
     漕ぐ度に柔らな水音、水上を滑る花弁。
     主役の桜を引き立てるよう白に黒の帯と若草の和装に身を包む、新たな一歩を踏み出す二人。
     はしゃぐ凰呀は、アリスの仕草に目を奪われる。見事な景色に溶け込むようで…。
     桜。
     力強く、儚く、そしてなにより美しい…それを感じ取るように。
    「お、お嬢も着物…めちゃ似合ってて綺麗…よ」
     照れた声がまた笑みを呼ぶ。
     牡丹は藤に着付けてもらった着物に照れる。
     桜は見てと詠うよう、そう寿ぐ様が沙慧には花の精に見える。
    「そんな、畏れ多いわ」
     髪に遊ぶ花びらにはにかんで羽衣は礼を添え。
     橋の下、しばし途切れる桜道――再び広がる薄紅に空も川も溶けあって。瞳輝かせる沙慧。
    「そのお顔、わたしの一番の想い出になるわ」
     サングラスごしでも桜の艶やかさは充分わかる。
    「黒は何を買ったんだ?」
     心葉に黒はソフトクリームを、
    「ほれ、あーんっと」
    「…甘い、な」
     花より団子派の黒、心葉からの茶団子は一塩と頬を緩めた。
    「また、君とこうして遠出をしたいものだ」
     彼女へ手を貸し降りる彼は囁く。
    「さーって次はどこ行くかねぇ」
     次は。
    「ぶっ! ははは、マキナ全然気づかんねんもん!」
     桜に目を奪われていた彼女に悪戯。秀憲のデジカメにはぼんやり顔で桜を一杯つれた貌。
     ひとしきり笑った後、遠目の赤い橋が目に止まった。
     後で…此からも一緒に歩こう。
     京の川は好きとの声に故郷が愛され嬉しい彼。
     …手つなぎ微睡む。心地よい場所にある肩が愛おしい。
     船が進む度後ろへ行く景色を振り返りたいと、緋頼は鈴音のカメラを指さし請うた。
     説明書から学んだ後で、
    「じゃぁ、ひよひよ、これからはいろんなものを撮影しましょ」
    「色々ですか? それでは、鈴音さん」
     はいチーズの不意打ちに、慌て笑顔の鈴音。
    「も、もう一回」
     焦る顔すら眩しくて、緋頼に憧れと羨望が滲む。
    「今日は全部央くんの奢りねっ!」
     それで例の件はちゃらとシェイク片手に薄紅を眺める横顔に、央はぽつり。
    「嫌われたと思ってた」
    「別に怒ってないよ~?」
     恥ずかしかっただけとひよりは赤面を水面に映す。
    「舟でお花見って優雅な感じだよね~」
     安堵に口元を綻ばせ、以後空と水面へ視線を移す。
    「…綺麗だな」
     良き絆なおし日より。
     桜の道筋辿る百花に目を細めるも危ないと注意が零れる。
    「えあんさんと一緒だもん♪」
     無邪気さに笑み誘われて。
     エアンの金糸、透かし見える薄紅に百花は目を奪われた。
    「えあんさん、写真撮ってあげる♪」
     うきうきも閉じ込めたシャッターの後、彼は彼女の肩を抱きよせ二人で写る。
     ――共に在れば其処は幸いに満ちる。
    「きれい…」
     翳した掌をすりぬける薄紅にチェーロは年相応の笑み。心の錘がひとつひとつ外れていくようで。
    「素晴らしい情景でございますね…」
     日本は西と東でまた趣が違うとロジオンも満足げ。
    「…チェーロ」
     頭の花弁を摘み取るキース。
    「ロジオン、お前も花びらすごいぞ」
    「お揃いでございますね」
     口元飾るひやり。年も見目も違う三人は表情を綻ばせる。
     花見への誘い、紡がれた礼には、
    「俺はただ、自分が花見をしたくて誘っただけだ」
     満足げ。
    「本当に家族みたいよね」
     サンドウィッチが詰まったバスケットをあける姫恋に、父は荷が勝ちすぎと、双葉は照れて瞼を下ろした。
    「双葉おとーさん…」
    「あ、あぁ」
     頬を朱に染め懸命な呼び声に口元が緩んだ。
    「おいしいのです…」
     照れ隠しで頬張った娘手放しの笑み。
     桜絨毯を行く舟の上、母の愛が篭もるパンは『家族』の心に染みる。
     …降りる彼女の手を取り島へ。
     花見のお礼と共に「姫おかーさん、双葉おとーさんっ」と今一度呼ぶは幼き声。
     花見舟に座る鞠音はまるで誂えられたよう。でも水面の薄紅に興味をそそられる様が、人。
     …散る定めを知る花弁は、自分以上に思索するのか?
     …死は訪れて初めて胸に落ちる。悔いなく咲き誇ったなら潔き終わりは何も残らぬだろう。
     問答の意図を白焔は問う。
    「物思いに耽る、練習です」
    「斬新な答えだ」


     夜、燐光放つように灯る薄紅。
    「桜綺麗だねー」
     なんて、緊張で桜が目に入らない椿。
    「朱梨も来てよかった」
     追い掛けた背の隣に並ぶ幸い。
     手持ちぶさたな指を捕まえて、でも気恥ずかしくて。
    「これから色々な物を見ていこうね」
     答えようとしてまず緊張が見えたから、頬をつつき手放しの笑みで頷いた。
     息詰めて夜桜を見上げる冥はふと飛燕の瞳に気づく。
    「なんだ、花弁でもついておるのか」
    「ごめん、何でもないよ」
     唯。
    「君が時々見せる笑顔が素敵だから見たいな…って」
     秘めたる夜桜が開くよう望まれれば、
    「?…お前さんはよくわから んことを言うのだな」
     笑わぬわけにはいくまいて。
     踊るように歩く結理は錠の何より鮮やかで大切な、花。
    「ジョーったら花より団子派なの?」
    「俺はどっちも好きで、両方手に入れてェから」
     零す事なく。
     風に弄ばれた前髪かきあげ錠の頭へ視線を向ける。
    「そのまま」
     しゃがまれると悔しい。
     それが男前だと誇らしい。
     彼を飾った花弁は今の頁に、綴じた。
    「何かが化けて出ても不思議じゃないね」
    「…あら謡、物騒なこと考えるわね」
     先程「都市伝説が」と嘯いた唇で歌菜。
    「あぁ、標さん」
     無粋を承知で謡は1つの灼滅を口にする。
    「…今度は躊躇わない」
     例え闇に呑まれても。
    「ボクはおかえりを言いたいんだ」
     標が言ってくれたから口出しはなし――唯取り戻すと固く誓う。
    「ホント、灼滅者はずるいな」
     …その絆。
     灼滅者達は日常を縁に生きる。其れは桜のように儚くけれど誰かの胸に深く灼きつく、命。

    作者:一縷野望 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2014年4月18日
    難度:簡単
    参加:81人
    結果:成功!
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