グリュック王国大決戦~ヤケ酒レディ・マリリン親衛隊

    作者:海あゆめ


     北海道は帯広市。ご当地幹部ゲルマンシャークの本拠地となっていたグリュック王国は、混乱の中にあった。
     ゲルマンシャーク、それに司令官代理であった、レディ・マリリンをも失い、どうしていいか分からず、右往左往するゲルマン怪人達。
     そんな中、グリュック王国敷地内のマルクト広場付近に、騒がしい酒宴の席が設けられていた。
    「うおおぉぉん!!」
    「レディ・マリリン様……なぜ……なぜ……っ!」
     ドイツ名産のビールを煽り、ゲルマンペナント怪人達がべろんべろんに酔っぱらっている。
    「もう、あのぷるんぷるんのマリモ羊羹を拝めないとは……」
    「いいや、何を言っている! レディ・マリリン様の魅力はあのおみ足だろう!」
    「俺……一度でいいからあのハイヒールで踏まれたかった……」
    「私は、あのお胸に顔をうずめてみたかった……」
    「あの鞭で尻を叩いて欲しかった……!」
     酔いが回っているせいか、自らの性癖を垂れ流す怪人達。そう、何を隠そう、彼らは、阿寒湖のご当地怪人にして、グリュック王国の司令官代理、レディ・マリリンを陰ながら見守る親衛隊だったのだ。
    「くそう! こうなったら今日はとことん飲むぞ! レディ・マリリン様バンザーイ!!」
    「レディ・マリリン様バンザーイ!!!」
     各々のゲルマンペナントを掲げ、なみなみと満たされたビールジョッキを激しくぶつけ合い、ヤケ酒を煽って盛り上がるペナント怪人達。
     可哀そうに。彼らの瞳には、涙が滲んでいる……。
     

    「みんな、新潟ロシア村での戦い、お疲れ様! やったね! あのゲルマンシャーク様を倒しちゃうなんて、やっぱりみんなはすごいっ!」
     ぱちぱちと拍手をしながら、班目・スイ子(高校生エクスブレイン・dn0062)は教室に集まった灼滅者達を出迎えた。
    「……そういや、帯広のグリュック王国ってどうなってんだべか」
    「はい! そこ!」
     ふと、よぎった疑問に首を捻った、緑山・香蕗(高校生ご当地ヒーロー・dn0044)に、スイ子は、びしっと指をさす。
    「今日はね、グリュック王国大攻略のためにみんなに集まってもらったんだよ」
     ゲルマンシャークが灼滅されたことにより、グリュック王国を覆っていた、灼滅者を強制的に闇堕ちさせる結界は消失した。王国内のご当地怪人達も、指揮官を失い、混乱している。
     つまり、今がグリュック王国を完全に落とす絶好のチャンスなのだ。
    「このまま放っておいて、王国再建とか他の組織に国民大移動とかされても困るし、今のうちにみんなで乗り込もうってわけなの」
     そう言いながら、スイ子は机の上にグリュック王国の地図を広げた。
    「ここに集まってくれたみんなに向かってもらいたいのは、ここだね。マルクト広場っていうとこ」
     この広場の一角に、10人のゲルマンペナント怪人達が集まっているらしい。
    「この怪人さん達はねぇ、レディ・マリリンのファンだったみたい。レディ・マリリンのあんなコトそんなコト想像しては泣きながらビール飲んで酔っ払ってるよ」
    「本気で駄目な大人ってやつだな、それ」
     香蕗も思わず真顔で呆れる。
     ゲルマンシャークと共に、阿寒湖のご当地怪人であったレディ・マリリンも灼滅された。
     レディ・マリリンはグリュック王国で司令官代理としての役職を務めていた。ダイナマイトなボディに、過激なコスチューム。そんな彼女に心を奪われていたゲルマンペナント怪人達が、ヤケ酒に浸っているという。
    「そこにさ、みんなで突撃しちゃおっか! うん!」
    「泣きっ面に蜂ってやつだな」
     何だか少し気の毒な感じもするが、放っておいても良い事なんてひとつもないだろう。ここは一気に攻め入るのが得策だ。
    「うっし! したっけ行くべか! ゲルマン怪人を完全にぶっ潰すチャンスなんだろ?」
    「だね。今回の作戦が成功すれば、ゲルマン怪人の勢力は日本からいなくなるはずだよ。みんな、がんばってきてね! いってらっしゃい!」


    参加者
    エステル・アスピヴァーラ(おふとんつむり・d00821)
    神夜・明日等(火撃のアスラ・d01914)
    ルーパス・ヒラリエス(アスピリンショット・d02159)
    黒崎・白(白黒・d11436)
    リューネ・フェヴリエ(熱血青春ヒーロー修行中・d14097)
    宮守・優子(猫を被る猫・d14114)
    八神・菜月(徒花・d16592)
    佐島・マギ(滑走路・d16793)

    ■リプレイ


     北海道は帯広市。混乱の渦中にあるグリュック王国に、灼滅者は潜入する。
    「ここがグリュック王国っすか……」
     キョロキョロと辺りを見回しながら、宮守・優子(猫を被る猫・d14114)は感心したように息を漏らした。
     かつては一般的なテーマパークとして人々を賑わせたであろうグリュック王国。ご当地怪人幹部のゲルマンシャークが運び込まれて以来、ここはゲルマン怪人達の拠点となってしまった。
     ゲルマンパワーに満たされた王国内は、灼滅者達を強制的に闇堕ちさせる力をも有していた。しかし、その栄光は長くは続かず、先の戦いでゲルマンシャークが灼滅されたことにより、王国は失脚した。
    「むー、ようやくこのはた迷惑な王国をどうにかすることができるのね~」
     エステル・アスピヴァーラ(おふとんつむり・d00821)の言う通り、ゲルマンシャーク亡き今、このグリュック王国は最早機能していない。今というこの時こそ、王国内に残っているゲルマン怪人達を一掃し、日本からゲルマン怪人勢力を追い出す絶好のチャンスだった。
     今日は多くの灼滅者達がグリュック王国に潜入している。この場に集まった一行の目的は、マルクト広場に集まるゲルマンペナント怪人達の灼滅である。
    「こっちだよ」
     以前、グリュック王国からの生還を果たしたことのあるいろはの案内も頼りに、マルクト広場へと向かう。
    「うおぉぉぉん!!」
    「レディ・マリリン様ぁぁぁ!!」
     だんだんと、広場に近づくにつれ、騒がしい声が聞こえてくる。
    「うわ……何あれ……」
     とうとう目に入ってしまった光景に、八神・菜月(徒花・d16592)はドン引きした。ペナント怪人達が、ビールでぐだぐだに酔っ払っているではないか。
    「レディ・マリリン様ばんざーい!」
    「ぷるぷるマリモばんざーい!!」
     しかも、泥酔状態というやつだ。彼らが件の、阿寒湖ご当地怪人、レディ・マリリン親衛隊だ。間違いない。
    「あんなカビの生えた羊羹みたいな人のファンなんて気が知れないですね」
     遠巻きに様子を窺いつつ、黒崎・白(白黒・d11436)がズバリ言い放つ。顔には微笑を浮かべているものの、その目は軽蔑の色に染まっている。
    「ほんと、カビの塊みたいな怪人相手によくここまで心酔できるもんだね……まあ、どーでもいいけど」
    「どうでもいいなんて、駄目ですよ、菜月。シャークと配下には同情してあげないと……」
     ひそひそと、菜月と白はレディ・マリリンについて悪態をつく。一体、レディ・マリリンの何がそうさせたのか、彼女はすでに灼滅されたというのに酷い言われようである。
    「うおおぉぉぉっ!!」
    「今日は飲むぞおぉぉっ!!」
     その一方で、ペナント怪人達は、レディ・マリリンを失った悲しみをぶつけるように、涙を流しつつビールを煽る。これが典型的なヤケ酒というやつだろうか。
    「盛り上がってるわりには、なんか、すっかり戦意を無くしているみたいだけれど……」
    「全く、だらしのないオジ様方ですね!」
     呆れてため息をつく、神夜・明日等(火撃のアスラ・d01914)の横で、佐島・マギ(滑走路・d16793)も、思わず憤慨する。
    「いい年してヤケ酒っすか……てか何歳なんすかね?」
     続けて優子がそう首を傾げるが、ペナント怪人だけによく分からない。だが、唯一言えることは、彼らはまるで駄目な大人だということである。
    「なんというか……ダメ人間の臭いがするな」
     応援に駆けつけていた流希も、ついついそんなことを口にする。だが、この状況はこちらにとってみればこの上ないチャンスだ。
    「これよぉ……今のうちに取り囲めねーかな」
     ふと呟いた、リューネ・フェヴリエ(熱血青春ヒーロー修行中・d14097)に、皆も頷いた。これだけベロベロに酔っ払っているのだ。何とかすれば、かなりの所までこっそり詰め寄る事ができるはずだ。
    「……わかったわ。ここは私に任せて頂戴」
     視線は前へ向けたまま、ルーパス・ヒラリエス(アスピリンショット・d02159)は仲間達に軽く片手を上げてみせてから、堂々とした歩みでペナント怪人達の元へと近づいていく。
    「うぅっ、レディ・マリリン様ぁ……」
    「何故、あのような素晴らしいお方が……」
    「そうよ、もし女になるならああいう強くてカリスマのある女がいい。彼女はそう思わせる女だったわ」
     そうして流れるような動きで酒宴の席に交じり、ルーパスは大胆にもペナント怪人相手にお酌を始めた。
    「そうだろう、そうだろう! 女になるなら、あの方のような美しいお胸に!」
    「そうだ! あのセクシーなおみ足に!」
     ノリノリで答えるペナント怪人達。すごい。溶け込んでいるルーパスがすごい。今のうちだ。彼が怪人達の注意を引いている間に、取り囲んでしまえばこっちのもの。灼滅者達は、じりじりと距離を詰めていく。
     わりと危うげなく陣形を整えた仲間達に、ルーパスはちらりと視線を寄越した。
     そろそろ、頃合である。
    「異色肌で熟女で豊満。希少価値よねぇ。他の小娘たちとは比べ物にならない。恐ろしい敵ではあったけれど惜しい人を亡くしたものだわ」
    「そうだそうだ、恐ろしい敵……なにっ!? 敵だとっ!?」
    「ええい! 貴様、何奴!!」
     ここでようやく気がついたペナント怪人達が身構えた時にはもう、灼滅者達は辺りをすっかり取り囲んでいた。
    「むぅ、このたゆん好きどもめ、成敗してやるのですよ、覚悟~」
    「そんなにお胸がお好きですか。そんなに……お好きですか……死にましょうね?」
     エステルは、むっと唇を尖らせ、マギも冷め切った目つきの微笑を怪人達へと送る。
    「ぬぅっ、しまった! 図られたのか……っ!」
    「マリリンには俺のダチが世話になったからな……この借り、親衛隊のお前達に返させてもらうぜ! Allez cuisine!」
     力を解放したリューネが、現れたハンマーを大きく振るい、構えた。
    「ぐぬぬぬっ、灼滅者共め! レディ・マリリン様の仇、我らがとってみせようではないか! いいだろう! かかって来い!!」
    「ふん、覚悟しなさい! すぐにでも、あんた達の崇拝するレディ・マリリンに逢わせてあげるわ!」
     泥酔状態のくせにいきがってみせる怪人達に、明日等はライフルの銃口を向けて鼻で笑ってやる。
     ゲルマン怪人達との、最後になるかもしれない戦いが、今、始まった。


    「うおぉぉっ! 覚悟ぉぉぉっ!!」
     ペナント怪人が、ご自慢のペナントをこれでもかと言わんばかりにはためかせて突っ込んでくる。
    「おおお! これがいわゆる一つのハタ人間ってやつっすね!」
    「旗ではない! ペナントと言えーっ!!」
    「わっ、とと!」
     向かってきた怪人の一撃を、優子はしっかりと受け止めた。
    「うー、おふとん、いくですよ~」
     エステルも、霊犬のおふとんにそう指示を出しつつ、シールドを展開して怪人達からの攻撃に備える。
     泥酔状態とはいえ、相手は腐ってもダークネス。しかも数も多い。油断は禁物だ。
    「ご当地ヒーロー同士力を合わせて、北海道の平和、取り戻そうぜ! コロ夫!」
    「おう! よっしゃ! 行くぜ!!」
     攻撃の流れを持っていかれないように、リューネと、緑山・香蕗(大学生ご当地ヒーロー・dn0044)は早いテンポで戦線を飛び出していった。
    「速攻! もらったぁ!!」
     リューネの振り被ったハンマーが唸りを上げる。
    「がばぁっ!」
    「はっ、どうだ、効くだろ?」
     前のめりに地面に突っ伏す怪人をみおろして、リューネは不敵に笑ってみせる。
     開戦までにじっくりと機会を待っていた灼滅者達と、不意打ちを喰らう形となってしまった怪人達。戦闘の流れを掴んでいるのは、圧倒的に灼滅者達の方だった。
    「うぅっ、ぶぶぶぶ、ゲルマンシャーク様ぁ……レディ・マリリン様ぁ……!」
    「可哀想にね、途方に暮れてしまって」
     酔っているのか、泣いているのか。おそらく両方だろう。情けない声を上げて掛かってくる怪人を前に、ルーパスは槍を低く構えた。
     まずは怪人の攻撃を受け止める。体を強く打たれるも、ルーパスの傍らには、まるで呪いのように回復をしてくれるウツロギがいるおかげで、負った傷も気にならない。
    「ま。殺すけど」
     ためらいなく、一気に突き刺す。ちょっぴり可哀想な気もするが、そうも言ってはいられない。
    「うばばぁぁっ!!」
    「臭い!」
     襲い掛かってきたペナント怪人から、強烈なビール臭。堪らず、マギは鬼と化した片腕で怪人の横っ面を、右ストレートではっ倒した。
    「お酒臭いのは好きくないでございます!」
     蔑んだ目で怪人を見やりつつ、パタパタと鼻の辺りを仰ぐマギ。その強烈な臭いは、後方でライフルを構えている明日等の元にも……。
    「……っ、あんまり長引かせない方がよさそうね」
     眉をしかめ、明日等は狙いを定めつつ引き金を絞った。マルクト広場を満たす、むせ返るようなアルコールの香り。もたもたしていては、こちらまで気分が悪くなってしまいそうだ。
    「だぁぁぁっ!」
    「死ぬぃえー! 灼滅者どもぉぉっ!」
    「見えてた。つまんないね」
    「やる気あるんですか?」
     勢いよく飛び掛ってくるペナント怪人をひらりとかわして、菜月と白は背中合わせに立って互いの死角を補った。
     美しい装飾の施された槍杖を構えて、菜月は心底面白くなさそうにため息をつく。
    「もっと予測を超えた行動できないの?」
     華奢な印象を受けるその武器とは反対に、大きく異形化した腕を払い、反撃に転じる。
    「はっはぁ! ほざけ小娘共! 数で押してしまえばこちらのものぉぉっ!!」
     ここまでコケにされて、怪人達も黙ってはいない。新手のペナント怪人のペナントが激しく揺れて、ビール臭いビームが飛んでくる。
    「……っ!」
     一瞬、反応が遅れて、白は目を見開いた。そんな彼女の目の前に、霊犬の黒子が飛び出してくる。
     体を張って主を守ったのだ。
    「助かりました。いい子ですね」
     すっかりビール臭くなりながらも、健気に主の顔を見上げ、鼻をピスピスと鳴らす黒子の頭をひと撫でし、回復を施してやりながら白はペナント怪人をじろりと見やる。
    「…………」
    「ヒッ! なななな、なんだその目はっ! やるというのかぁぁっ!!」
    「むいっ、こっちに向かうといいのです、盾でぺちゃんこにしてあげるのです~」
     怯んだペナント怪人に、横から潜り込んできたエステルが、盾を構えた格好のまま勢いよく突っ込んできた。
     なんとか、イニシアチブは握っている。
    「背後は任せろですよ!」
    「おう、ありがとな! 任せた!」
    「はわー、いきますよー!」
     瑠理やレイラの援護を頼りに、香蕗もペナント怪人相手に立ち回った。
    「もうダメだぁ!」
    「どこへ行くのですか?」
     逃げ腰になる怪人には、蘭花が目を光らせている。
    「ペナント怪人さん! 改心して僕と文通してよ!」
    「そうだよ、この子を二代目マリリンとして見て文通してあげてよ」
    「くっ、くるなぁぁっ! お前なんかレディ・マリリン様じゃないやーい!! うわぁぁん!!」
     何故か、喜々としてペナント怪人を追い回す、フゲとシスティナ。
    「ふ、この変装、完璧や……! って、んなわけあるかい!」
     何を思ったか、レディ・マリリンっぽいダイナマイトなコスチュームで変装した七音がノリツッコミを披露していたり。
     そんな、若干迷走した手助けも加わりつつ、灼滅者達はゲルマンペナント怪人達を攻め立てていく。
    「さあ、行って!」
     戦況をじっと読んでいた明日等が、狙ったタイミングで指示を出す。
     エンジン音を唸らせ、駆け抜けてくライドキャリバーの後方から、明日等は再びライフルを構えた。
    「その酔いつぶれた状態のまま、葬ってあげるわ」
     冷静に、的確に狙いを決めて、撃つ。
    「ばはぁっ!」
     光線に貫かれ、立派な穴開きペナントになったペナント怪人が爆散した。
     勢い衰えない灼滅者達の戦線に、怪人達も次々と倒れていく。
    「うおぉぉぉっ!」
    「レディ・マリリン様の仇ぃぃっ!!」
    「近寄らないでくださいです」
     最後の力を振り絞って駆けてくる怪人達に体を向けて、マギは腕に装着した縛霊手を展開して祭壇を構築し、結界を張り巡らせた。
    「うっぎゃあぁぁっ!!」
    「お一人たりとも逃がさないですからね。覚悟するといいです」
     冷酷なマギの瞳が、暴発した怪人の姿を射抜く。
    「隙ありだぁぁっ……あ?」
    「弱すぎませんか」
    「つまんない」
     白の張り巡らせた結界が、怪人の動きを封じ、菜月の槍が、その体を貫いた。
    「ぐぅぅっ、まだだ! 我々ゲルマン怪人は永遠に不滅っ……!」
    「行くぜぇっ! 食らいやがれっ!!」
     リューネが、手の中で鮮やかに回したロッドを振るう。
    「ぎゃあぁぁっ!!」
    「む、無念……っ!」
     激しく巻き起こった風がペナント怪人のペナントをズタズタに引き裂き、散らしていく。
    「ぐぅっ、こ、ここまでなのか……!」
    「むい、もうこの王国はおしまいなのです、閉店なのです、だからあの世に出国させてあげるの~」
    「一枚、いや、一体たりとも逃がさないっすよ!」
     思わず後退りするペナント怪人の後ろに回った、エステルと優子。
     エステルは目の高さに剣を構え、優子は相棒のライドキャリバー、ガクに跨って、絶対に逃がさないといった気迫でペナント怪人を見据えた。
    「さあ、どうするっすか!?」
     優子の、猫の形をした影が、ペナント怪人を威嚇する。
    「……ええい! そうだとしても! ここで退く訳にはいかぬ! 志半ばで散っていった、ゲルマンシャーク様のため! そしてなにより、レディ・マリリン様のため!」
     叫びながら、最後に残ったペナント怪人が、ルーパスをビシっと指差した。
    「たとえ、貴様のようなアメリカかぶれのヒーローが相手でもっ……」
    「私は殺人鬼よ!」
     されたくない間違いをされてしまって、ルーパスの怒りのフォースブレイクがドンピシャリと決まった。
    「へぷんっ!」
    「全く、失礼しちゃうわ」
     手をぱんぱん、と払いながら、ルーパスは変な声を上げながら倒れていったペナント怪人を見下ろした。
     ボロボロになったペナントが、風にのって、飛んでいく……。


     ペナント怪人のいなくなったマルクト広場には、零れたビールの匂いと破れたペナントの切れ端だけがひっそりと残っていた。
    「なあ、落ち着いたら王国内を探索してみないか? ……まあ、これといって何もなさそうだけどな」
    「そうなってくると、この王国ももう終わりよね」
     少し、困ったようにして笑うリューネの言葉に、明日等は小さく息をつく。
    「はー……疲れた。眠い。帰りたい」
    「お疲れさまです。ええ、本当に、疲れましたね」
     深いため息と共に悪態をつく菜月を、白は穏やかに宥めてやる。
     どっと、何かを持っていかれたような疲労感が色濃く残る。だが、もう終わったのだ。
     ゲルマンシャークを筆頭に始動していたはずのグリュック王国が、今、その歴史に幕を閉じようとしている。
    「悪は去ったのです……これでもうここで闇堕ちは起きないはずなのです」
     むん、とエステルはやり切った表情。
    「……形あるものは全て滅びる。やるせねぇわね」
     一方、ルーパスはどことなく哀愁を漂わせながら近くを少し歩いて回った。
     元々は、この場所も多くの人で賑わうテーマパークだったのだ。荒れ果ててはいるが、ドイツの街並みを再現した異国情緒溢れる空間は、なんとも見事なものだった。
    「しょぎょうむじょうです……ドイツは何パンが美味しいのでしょ?」
     疲労のあまりか、ふと空腹を覚えたマギが、大好きなパンの事を考え始める。
    「んー、お腹がすいて力が出ないってやつっすよー……ペナントって食べれたりしないっすかねぇ」
     同じく、空きっ腹を抱えている優子が、割れた石畳の上に落ちているペナントの切れ端をじっと見つめた。

     ここマルクト広場の一角を占拠していた、レディ・マリリン親衛隊、ゲルマンペナント怪人達の灼滅に成功した灼滅者達。
     他の場所へと向かっている仲間達の戦況はどうだろうか。グリュック王国の敷地内に、何か情報は残されていないだろうか。気になる点はいくつかあるが、今は、しばしの休息が、彼らには必要かもしれない。

    作者:海あゆめ 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2014年4月15日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 5/感動した 0/素敵だった 3/キャラが大事にされていた 3
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