グリュック王国大決戦~見~つけた

    作者:立川司郎

     それは壮絶な戦いであったと聞く。
     その戦いで、主立ったダークネス幹部はことごとく消滅し、ダークネス組織にとって歴史的な大敗であるといえよう。
     主を失った彼らがどのような有様であるか、語るまでも無い。
     現実逃避する者。
     戦い気力を失っていない者。
     まだ信じられないで居る者。
     そしてここにも、その報告を聞いて狼狽するゲルマンご当地怪人達が居た。グリュック王国内のビアレストランで、ビアガールが残して行ったビールを浴びるように飲み続ける、十数人のゲルマンペナント怪人達である。
    「嘘だ! ゲルマンシャーク様がお隠れになるなど……あってはならない!」
    「あってはならないって言ったって、もう居ないものはしょうが無いな」
    「貴様、そのようなやる気の無い様はなんだ! そこになおれ!」
    「うるさい、とりあえずビール飲もうぜ」
     このように、声だけ聞いても全く統一感が感じられない。
     主のない組織など、このようなものである。
     しかし彼らの元にも、魔の手……いや灼滅者の手は伸びる。灼滅者襲撃の報告を聞いた彼らは、浮き足だった。
     闘うか?
     それとも、皆と合流して立て直す……。
    「逃げようぜ」
    「いやもう時間的に無理、とりあえず隠れて凌ごうぜ」
     かくして君達がビアホールのドアを開けた時、そこはしんと静まりかえっていた。
     テーブルの上に置き去りにされたビールグラスを除いて。
     ……居る。
     たしかにこのビアレストランには……十三人、ペナント怪人が隠れて『居る』のだ。
     
     ほっと息をつくと、相良・隼人(高校生エクスブレイン・dn0022)は皆に笑顔を見せた。
    「あの柴崎もゲルマンシャークも片付けたんだってな。……皆、ご苦労さん」
     隼人からのねぎらいの言葉は、また新たな戦いの幕開けでもあった。
     その事に気付いている灼滅者達は、彼女の次の言葉を待つ。隼人が話し始めたのは、残ったゲルマン怪人達の残党処理であった。
     未だグリュック王国には、多くのゲルマン怪人達が残されている。
    「だがゲルマンシャークが居ねぇ今、恐れるものなんざ無い。遠慮無くご当地怪人どもをぶっ叩いてきてくれ」
     主だった指揮官を失い、彼らは今混乱している。
     今のうちに叩けば、他の組織に編入されるなどの脅威は無くなる。
     隼人が示したのは、グリュック王国にあるビアレストランであった。
     ドイツ風の木組みの建物であり、中は吹き抜けのある二階建て。二階の席からは、一階の客席が見渡せる。
    「封鎖するのは簡単だ、入り口は正面と裏口の二カ所だ。窓は容易に開かないようになってるから安心しろ」
     ただし、封鎖し終わってもペナント怪人達はおびえて隠れたまま出てこない。
     テーブルの下に居るのか。
     キッチンに居るのか。
     君達は、息を殺して隠れているゲルマン怪人を一体一体見つけて片付けるのだ。
    「……どうだ、一体一体追い詰めて片付けるのは面白いだろう?」
     隼人はにんまり笑った。
     どっちが悪役だかわかりゃしない。
     グリュック王国の残党刈りが成功すれば、ゲルマンご当地怪人を日本から駆逐する事が出来るであろう。
    「期待してるぜ」
     隼人は悪役のようにからからと笑って送り出すのであった。


    参加者
    穂邑・悠(火武人・d00038)
    加藤・蝶胡蘭(ラヴファイター・d00151)
    長久手・蛇目(憧憬エクストラス・d00465)
    天羽・桔平(信州の悠閑神風・d03549)
    逢瀬・奏夢(番狗の檻・d05485)
    人形塚・静(長州小町・d11587)
    柴・観月(しあわせの墓標・d12748)
    天羅・クイン(大悟徹底たるは我にあり・d25362)

    ■リプレイ

     扉を開けると、レストラン内部はしんと静まっていた。きちんと片付けられたテーブル、その幾つかにはまだ食べ物が残っている。
     飲みかけのビール、まだ湯気を立てているソーセージが『先ほどまで誰かが居た』事を臭わせていた。
     ……たしかにここには、居る。
    「それじゃあ封鎖を始めようかしら」
     人形塚・静(長州小町・d11587)は、ほっそりとした声で言った。
     キャビネットの下に隠れていた二人は、物音に気付いてこっそりドアを押し開いた。隙間からは、ドアを封鎖する為に椅子を抱えている穂邑・悠(火武人・d00038)が見える。
    『なんかドア封鎖されてる』
    『もう俺等、ここにいるって見つかってるんじゃね?』
     小声で話す声が、灼滅者にはまだ聞こえていないようである。
     のんびりとドアの前に椅子を積み上げると、悠が一息ついた。最後にその前に椅子を一つ置くと、加藤・蝶胡蘭(ラヴファイター・d00151)がそこにデンと座った。
     腕組みをした蝶胡蘭は、三白眼でレストランを見まわしている。
     ……なんだろう。
     こう……。
    「睨み、きかせすぎ」
     決して女の子らしいとは言いがたいその様子に、悠が笑う。
     決してここを通さぬという、蝶胡蘭の意志と力の現れではあるが、それは隠れていたペナント怪人達を威圧する効果がきちんと出ていたようだ。
     その様子をこっそり見ていたペナント怪人達が、ガクガク震える。
    『なにあれ怖い』
    『何か偉い人っぽくね?』
     キャビネットの下で、ドアをカタカタさせながら二人は震えていた。
     それを地獄耳で聞きつけた蝶胡蘭は、満面の笑み(ただし殺界形成付き)を浮かべた。
    「封鎖はこんな感じで良いかな。それじゃあみんな、私はここで見張ってるから後はよろしくな」
    『偉い人だ!』
    『何をよろしくするんだ』
     小声で話しているんだから、ペナント怪人の声は聞こえているはずがない。
     傍を歩きながら、長久手・蛇目(憧憬エクストラス・d00465)は調子の良い声をあげる。
    「ヘイ姉御! 後は俺達に任せてくださいっす!」
    「おい誰が姉御だ」
     と否定しつつ、蝶胡蘭はふと笑う。
     あくまでも、優しく笑った蝶胡蘭であるが(ただしry)。
     間違いない。
     あれは殺る気だ。
     殺す気と書いて「やるき」と読むアレである。
    『絶対アレ、素手でリンゴとか潰すタイプだって』
    『まじで? ペナント頭からバリバリ食うの? 食われるの?』
    「あーっと、手がすべった」
     最後まで言う事なく、キャビネットにオーラキャノンが炸裂した。派手に炸裂した一撃がドアを弾き、中にいた二人を吹き飛ばす。
     サッと回避した蛇目の横をふっ飛び、床に転がる二人。
     顔を上げると、悠と蛇目が覗いていた。
    「さすが姉御!」
    「ゲームじゃ、主人公は家の物をぶっ壊してアイテム探すしね」
     悠が蛇目とそう話す。
     いいから姉御は止めろ、という蝶胡蘭の言葉をかき消す勢いで、悠が一本背負いを繰り出した。
    「折角だから、壺の中にでも入ってろよ!」
    『ここ壺無いですからぁぁぁぁぁぁぁ』
     投げた先に置かれていた大鍋に頭を突っ込み、ペナント怪人はピクピク痙攣しながら動かなくなったのであった。
     まずは一人、と呟いた悠と、もう一人が視線を合わせる。
    『まって、私倒しても経験値1だから』
    「塵も積もれば山となるって言うっすよね。百体倒したら経験値百っすよ」
     蛇目がクネセイドソードでペナント怪人をつつく。
     ペナント怪人は逃げ出した。
     だが、蛇目は回り込んだ。
     蛇目は経験値1を得た。
    「やった! サクサク片付けちゃいましょうぜ!」
     蛇目は声を上げると、片手にクルセイドソードを持ったままぐるりと見まわしてドアの傍まで戻って来た。
     声を掛けながら残った椅子やテーブルの下を覗いているが、時折入り口の方を振り返るのも忘れない。
     入り口に一人残った蝶胡蘭の事も、しっかり注意を払っていた。
     一方、悠も二階部分にちらりと視線を向ける。
    「とりあえず、一階からだな」
     と悠が声を上げたのは、二階に聞こえるようにとの狙い。
     さて、あと十一人はどこだ?

     一方で、裏口には柴・観月(しあわせの墓標・d12748)や天羅・クイン(大悟徹底たるは我にあり・d25362)、人形塚・静(長州小町・d11587)が回っていた。
     周囲にあった椅子を、いくつかキッチンにある裏口に立てかけた。少しは心理的圧迫になっただろうか、と考えながら振り返る。
     しばし眺めたクインが、釣り糸を引っ張ってドアノブに結んだ。
    「鈴も付けて……と、一丁上がり!」
     逃げようとすれば、鈴が鳴るという仕組みである。
     なるほど、と感心する観月。
    「準備出来たね。じゃあ、かくれんぼしようか」
     ぽつり、と呟くように言った。
     バリケードの前には静が待機し、何者をも通さぬ覚悟。構えたガトリングガンが、どうにも物々しい雰囲気を醸し出していた。
    『セーラー服とか着てほしいな』
    『古いなお前』
     小さな声が冷蔵庫から聞こえた……気がした。
     セーラー服で銃を構えていると何なのか判らない静は、反応を示しようもなく首をかしげる。
     観月が歩き出した所で、表の方で悲鳴が響く。
     ビクリと物音が響いたのは、冷蔵庫の方である。そうっと観月が覗き込むと、コンセントが外れているのが見えた。
     そろり、とプラグをクインの方に見せる観月。
    「俺、鬼の役苦手なんだよね」
     息づかいや、隠れ損ない。
     その他の痕跡。
     見つけたら、放置は出来ない訳で。
    「ああ、なんかノド渇いたな」
     クインが大きな声で、そう観月に言った。
     底に冷蔵庫があって、多分キンキンに冷えた飲み物が入っているはずである。
    「ビールは駄目よ」
     静に言われて、クインはぷらりと手を振って答えた。
     クインは未成年だからビールは飲めないものの、ビール以外もこのレストランには置いてあったと思われる。
    「ビールは飲めないけど、烏龍茶ならあるよな」
    「そうだね、烏龍茶飲みたいね。あ、丁度ここに冷蔵庫が在るよ」
     どこか嬉しそうに、観月が言う。
     観月が手を伸ばしたその時……中から一人飛び出した。あっ、と思うと上の段から更にもう一人、そして隣の冷凍庫から一人。
     マテリアルロッドで観月が背中から一撃食らわせると、静に声を掛ける。
    「二人、行ったよ」
    「おい逃げんな!」
     逃げる二人を、後ろからクインが首根っこを羽交い締めにする。暴れる二人に冷気の炎を背後から叩きつけ、炎で凍らせていった。
    『あれ? これ今焼かれてる? それとも冷蔵庫の中なの?』
    「両方……かな」
     にんまり笑ってクインが答える。
     暴れた一人が抜け出し、冷えたビール瓶を投げつける。キンキンに冷えたビールが、ガンガンクインや観月の頭部に炸裂した。
    『俺達は自由だ!』
    「人形塚!」
     クインの制止を振り切って、二人は駆け出す。
     真っ直ぐ向かった裏口には静が立っていたが、さっと身を翻すと二人を躱した。そう、後ろにはしっかりとくくりつけられた釣り糸と鈴の山が、椅子とともに封鎖している。
     派手な音をさせながら、二人が転がり込んだ。
     起き上がりざまに、静のガトリング連射が叩き込まれる。全弾撃ち尽くす勢いで撃ちまくると、ほっと静は息をついた。
     あーあ、と呟きクインと観月は見下ろした。
    「はい、お疲れ様」
     とってもいい笑顔で、観月が言った。

     端っこの椅子の山の後ろに隠れていた二人を悠と蛇目が倒し、キッチンの倉庫に居たのが2人。これで9人となり、残りは4人である。
    「もう一階には居ないようね。ここには私が残るから、二階をお願い」
     静は、静かになった裏口のバリケード前に立ってクインと観月に言う。
     桔平は階段の上を見上げて、声をあげた。
    「あとは二階だけだね、そろそろ二階調べようかなー!」
     天羽・桔平(信州の悠閑神風・d03549)の声に反応して、がたんと物音がした。
     ちらりと逢瀬・奏夢(番狗の檻・d05485)は霊犬のキノを見下ろし、二階に向かうように声を掛ける。念のため、階下には観月や悠が残る事にした。
     悠は、吹き抜けから目を離さない。
     影を纏わせた奏夢が、階段をギシリと音をさせて上がっていく。艶のある木の階段は、乾いた音を響かせた。
     そっと左手で手すりに触れると、冷たい感触が伝わった。
    「さて、残りの4人はどこかな。……このあたり?」
     手前の椅子を蹴飛ばして、奏夢が問いかける。
     一つ、二つと手前から椅子を蹴った。
     時折空気を切り裂くようなキノの吠え声が響き、どこかで驚いたようにカタンと音がする。それを聞きながら、奏夢は歩く。
    『……行ったか?』
    『向こうの階段から下りたんじゃね?』
     ぽつりと会話する声。
     耐えきれなくなったのか、ロッカーから一人が飛び出した。釣られて、もう一人椅子の下から這いだして吹き抜けに向かう。
     あの手すりを越えたら、俺は自由だ!
     ……と言ったかどうかは判らないが。
     とても安堵した様子で、二人は手すりを蹴った。動じもせずに、奏夢はそれを見送ったわけであるが……むろん、下に皆待機していたのを知っていたからである。
     手すりごしに下を見下ろすと、奏夢はふうとひとつ息をついた。
     訳が分からないのは、残った二人である。
     気付くと、すぐ傍で声がした。
    「……ねえ、あと二人なんだよね」
     まるで耳元で囁くように、明るい声が聞こえる。
     桔平は、ソコにしゃがみ込んで喋り続ける。
    「そろそろもう、いいんじゃないかな。Ist es schon gut?」
     丁重に、桔平はドアをノックする。
     それは、バベルインパクトでの激しいドアノックで、ドアが多少壊れたが気にしない。返事がないので、桔平はもう一度ノックした。
     ……ガラリと食事用のエレベーターのドアが破壊され、中から三角座りのペナント怪人が二人姿を現した。
    「もういいかい?」
     桔平の問いかけに、ペナント怪人は手にしたソーセージをパニック状態でぶん投げた。言っている言葉が聞き取れないが、やってやるぜ、とかそんな意味合いであろう。
     閉鎖空間である事を良い事に、桔平はレーヴァテインで燃やし尽くす。投げつけられた熱々ソーセージを、奏夢がキャッチした。
    「熱いじゃねえか……!」
     表情一つ替えずに奏夢はキレると、桔平とともに集中攻撃を食らわせた。
     そして一分後、空になったエレベーターが静の横に辿り着いたのであった。チンと音を立てたエレベーターは、ドアも無い。
     ちらりと見つめると、静は声をかけた。
    「もう居ないわよ」
     お疲れ様、と言うと静は室内を見まわした。
     ……さて、この後片付けは誰がするべきなのだろう。

    作者:立川司郎 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2014年4月15日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
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