グリュック王国大決戦~嗚呼幻のビアガーデン

    作者:佐伯都

    「あぁ、ゲルマンシャーク様! まさか灼滅とは!」
     まだ春浅い、そこかしこに雪が残るグリュック王国は騒然としている。
     『司令官代理レディ・マリリンおよびゲルマンシャーク灼滅』の急報は、要塞化が進むグリュック王国を根底から揺るがすものだった。そもそもラグナロクダークネスの灼滅など、誰が想像しえただろう。
     いまだ建設中とは言え、ラグナロクダークネス傘下にある以上ここは盤石――誰もが昨日まで、そう信じて疑わなかった。それなのに。
     盛大に嘆きながら泡がこんもり乗っかった頭を抱えてうずくまる、エプロンドレス姿のビアガール。
    「ビアガーデンシーズンになったらガイアパワー集まり放題、とか思ってたのにいいぃ! うわあああん!」
     今や幻と消えた初夏のビアガーデンを思い、涙に暮れるビアガールのそばをオロオロ右往左往するゲルマンペナント怪人。慰めようにも、かける言葉が見つからないようだ。
    「ああもうどうしよう、これから私たちどうなっちゃうのおぉ!」
     
    ●グリュック王国大決戦~嗚呼幻のビアガーデン
    「皆、まずは本当にお疲れ様。そしておめでとう。ご当地怪人の計画の完全阻止はもちろん、ゴッドモンスターを人間へ戻しただけじゃなく、ラグナロクダークネスまで」
     もちろん敗北するつもりの者など誰一人いなかったに違いないが、縫村・針子とカットスローターをはじめ強大なダークネスを数多く倒し、グリュック王国の要塞化を着々と進めていたはずのゲルマンシャークさえ灼滅したのだ。
     ラグナロクダークネス灼滅を筆頭とした戦果を大殊勲と言わず何と表現すべきか想像もつかない、と成宮・樹(高校生エクスブレイン・dn0159)は感慨深げにいったん言葉を切る。
    「……なかなか切欠を掴めずにいたけど、ゲルマンシャークの灼滅でグリュック王国の結界消滅が確認された」
     件の、灼滅者を闇墜ちさせる結界のことだ。ゲルマンシャーク、レディ・マリリンまで失ったことで内部は相当混乱しており、この機に乗じて攻略してしまえば後顧の憂いを絶つことができる。
    「ご当地怪人の何が嫌って、あの組織力が……混乱から立ち直ればどこかの軍門に降るか、カリスマに長けた者が再組織して新たな脅威になるのは間違いない」
     それを断つ千載一遇のチャンス、ということだ。
    「ゲルマンご当地怪人のビアガールがいるのは、グリュック王国の入国ゲートを入ってすぐ目の前、ビュッケブルグ城の裏手にある庭園。何かわんわん泣きながら、3人くらいのゲルマンペナント怪人と車座になってヤケ酒を煽ってる」
     ……何かちょっと可哀相になってきたらしく、樹は手元のルーズリーフを眺めて溜息をついた。
     要塞化が進んでいたとはいえ、元々は廃墟だった場所だ。壮麗な建物だったビュッケブルグ城はあちこち壊れたり窓が割れたり何だりしており、そんな場所の裏手でヤケ酒とかかなり切ない。
    「さっきも言ったけど、グリュック王国全体が混乱しているから侵入に関して対策する必要はない。ゲートからすぐの場所だから、迷うこともないね」
     ビアガールはゲルマンペナント怪人共々、相当飲んでいるが、戦闘になれば千鳥足ながら果敢に抵抗してくるだろう。侮るのは禁物だ。
    「何より今回の作戦が成功したなら、日本からゲルマンご当地怪人を駆逐できる。あともうひといき、頑張ってきてほしい」
     吉報を待っているよ、と樹は未来予測を書き留めたルーズリーフを閉じた。


    参加者
    住矢・慧樹(クロスファイア・d04132)
    加賀谷・彩雪(小さき六花・d04786)
    希・璃依(死亡フラグダンサー・d05890)
    契葉・刹那(響震者・d15537)
    大豆生田・博士(凡事徹底・d19575)
    牧瀬・麻耶(高校生ダンピール・d21627)
    ユリアーネ・ツァールマン(殉教の黒刃・d23999)
    空月・陽太(魔弾の射手の弟子・d25198)

    ■リプレイ

    ●ないているひとはなぐさめましょう
    「な、何だか……可哀想ですね」
     春浅い寒風が吹きつける、帯広市郊外はグリュック王国跡地。
     放置されたままの入国ゲートに身を隠した契葉・刹那(響震者・d15537)がおどおどと小声で呟いた。霊犬のさっちゃんを伴った加賀谷・彩雪(小さき六花・d04786)も小さく首肯する。
    「ちょっとだけ可哀想な気もするですが……決着、つけないと、ですね」
     荒れ放題のビュッケブルグ城庭園がすぐそこに広がるが、城に近い箇所には車座になっているやたら目立つ色のペナント。風向きの関係でほんのりここまでビールの匂いと、調子っぱずれの演歌が聞こえてくる。
     演歌。……演歌?? と希・璃依(死亡フラグダンサー・d05890)は思わず傍らのナノナノと顔を見合わせた。なぜ演歌。
    「だいたいペナントって言われてもあの色じゃ……ただの三角の国旗だよな」
    「ま、ここはさくっと戦後処理と参るッス」
     なんとも微妙な顔でペナント怪人をながめる住矢・慧樹(クロスファイア・d04132)に、牧瀬・麻耶(高校生ダンピール・d21627)は軽く首をかたむける。
     主君の消えた国でヤケ酒とは、一応気持ちは分からなくもない。しかし、多少気の毒ではあるが麻耶としては容赦してやる理由もない。
     ならばここは手早く片付けて帰るべき、と麻耶は内懐からスレイヤーカードを抜く。
    「気になること、いろいろ、あるけど。慈眼衆に、アフリカンパンサー、他の勢力は、動いてこないのかな?」
     ゲルマンシャークが灼滅された今、ここに残っている分のガイアパワーをむざと見逃すとも考えにくい、とユリアーネ・ツァールマン(殉教の黒刃・d23999)は考えている。そんなことを呟くユリアーネを、大豆生田・博士(凡事徹底・d19575)は気遣わしげに眺めた。
    「ゲルマンシャークもまさか自分が倒されるとは思ってなかっただんべなぁ。人生には3つの『さか』があるって聞いたけんども、正にそれだべか。まぁしっかし、急に幹部がいなくなると妙にあっけないだなや」
    「残党狩りだからね。もっと遠くまで逃げなかったことを後悔させる――時間もやらず、さっさと灼滅させてしまおうか」
     からりと陽気に笑った空月・陽太(魔弾の射手の弟子・d25198)が、懐から魔導書を取り出した。
     一瞬、呼吸を計るような沈黙が落ちる。
    「今だっ、突撃ー!」
     そして璃依の声と、刹那と博士のキャリバー・しもつかれが発するエンジン音が響き渡った。心なしかなんとなく全体的に赤いような気がするペナントが3枚、一斉に振り返る。
    「カチコミだぜっ!」
    「ビアガールが飲んだくれてどうすんスか」
     次々と垣根か何かだったらしき低木を慧樹や彩雪、そして麻耶が躍り越えてきても、アルコールのせいもあるのかペナント怪人はただひたすら右往左往するばかりで、こちらが驚くくらい何の役にも立たない。
    「ちょっと、何、何なのコレ! うわあぁん誰かたーすけてえぇぇ!」
    「襲撃だペナ! 貴様ら、どこから現れたペナー! 誰か、誰か!!」
    「どこって普通に入国ゲートから……って、こんなに飲んだくれて! 見苦しい酔っ払いは灼滅だぞ、情けない!」
     璃依はへろへろの及び腰で逃げ回る、ゲルマンペナント怪人とビアガールの情けなさすぎる姿に思わず一喝した。
     そこら中に山と積まれたビール樽やら底に泡が残るジョッキのピラミッドやら、はたまたむしりコマイやソフトいかにおやつカルパス、個包装豆菓子の大袋にチーズ鱈やら、おつまみの袋が大量に散乱している。
    「うえぇぇん、だってだってゲルマンシャーク様をあんたらが灼滅するからあ! ビアガール仲間でも再就職先全っ然決まらない子いるのに! 書類送っても面接すらしてくれない所だってあるんだからっ!」
     うんまあ、頭がまるごとジョッキとか、そんなのバベルの鎖がなくたって普通に履歴書で落ちる。

    ●よっぱらいはおひきとりください
     相当アルコールが入っているとは知らされていたもののどうやら奇襲が相当ショックだったようで、怪人達の頭からは応戦とか抵抗という単語が綺麗さっぱりすっぽ抜けているようだ。
     つい拍子抜けしたような気分で刹那が呟く。
    「な、何だかこう、調子が狂いますね……」
    「帰る所なんてないし、就職もできないんじゃ私たちどうやって生きていけばいいのおお!」
     さらにその場にへたりこんで本格的に泣き出してしまったビアガールに深々と溜息をつきつつ、麻耶は目元を覆った。
    「再就職先とか捜してたんッスか……と言うか、就職必要なんスか……」
    「そんなの当たり前でしょはたらかざるものくーべからずって、こっちのくにのゆーめーなことわざにも……ぷハァー」
    「言ってるそばから飲むとか話す気あるのか!?」
     えぐえぐ泣きながら大ジョッキを煽ったビアガールに全力でツッコんだ慧樹の後ろ、陽太は無表情のままバスターライフルのトリガーへ指をかける。だめだこいつらはやくなんとか(と書いて灼滅)しないと。
    「ビアガーデン、ねぇ。花見の宴会とかじゃダメだったんすかね?」
    「北海道の花見シーズンは確かにGWかそれ以降だから売れそうだけど……意外と寒いのよ……」
     いえ飲む人は飲むんだけどねうふふふふ、とジョッキを握りしめたまま激しく虚ろな目で斜め45度上を見るビアガール。幸か不幸か麻耶は知らなかったようだ、半年雪が降り、どうかしたらGW中にも吹雪く事がある、それが試されすぎた大地北海道、である。
    「慈眼衆に、アフリカンパンサーは……来ない、のかな?」
    「グリュック王国は脅威のイメージでしたが、トップが倒されてしまえばこんなに脆い物なのですね……」
     ユリアーネの呟きにふと刹那は周囲を見回してみるが、敷地の外に広大な十勝平野が広がる以外は、荒れ果てた廃墟が目に入るばかり。強制的に闇墜ちさせる結界もすでにない以上、本当の意味でここが陥落するのはもう時間の問題だ。
     戦闘中にでも、というつもりではいたが、慧樹は以前から気になっていた疑問をぶつけてみる。
    「と言うかさ、お前ら、ドイツからどうやって来たんだ? 今後はドイツ怪人のなかでシャークの代わりに誰かが総統になるの?」
    「あぇ? 私たち何に乗って来たんだっけぇ、アイン・ペナ」
     多少眠くなってきたのかほにゃほにゃとビアガールが尋ねると、ゲルマンペナント怪人の真ん中にいた者がハイハイハイ! と勢いよく挙手した。
    「ツヴァイ・ペナがお答えするペナ! それはゲルマンー、シャぁークさぁまのおー、ひっこぉー、せんー♪ でございますペナ!」
    「ドラーイ・ペナもォー、教えてやるペナー♪ 生粋ドイツビールはぁー、麦芽と酵母! 水! そしてかぐわしきホオオォォップのみいいい!」
    「「「永遠なーーり、ドーイチュビアーーー!!」」」
     びあー♪ とビアガールも一緒になってジョッキを掲げ、ペナント怪人共々ごっきゅごっきゅと酒杯を煽る。
    「うはぁーいさーっすがペナ三兄弟ー、ものしりー!」
    「そんな、褒められると照れるペナ、恥ずかしいペナ」
    「アイン・ペナはぁー、ゆくゆくはどいちゅびあーの、ちょっとしたいざかやをぉ、開くのがぁ、夢でありましたぺなぁ……」
     へにょへにょとペナントを萎れさせ肩を落とした怪人の背中を、ドライ・ペナ、ツヴァイ・ペナと名乗った二人の怪人が慰めるように優しく叩く。男泣きにむせぶアイン・ペナ。
    「……ただの、よっぱらい……です」
    「んだな。どこからどーー見てもただの酔っ払いだなや」
     とりあえず見守っていた彩雪と博士がややドン引き気味なのも何のその、ダークネスご当地怪人の名が号泣していそうな勢いでビアガールとゲルマンペナント怪人は酒杯を重ねていく。

    ●われものはたいせつにあつかいましょう
    「話は終わりか」
     そろそろ我慢の限界だったらしく、物騒な音をたててバスターライフルを引き起こした陽太が狙いをつけた。威嚇発砲とばかりに、おつまみの袋が散乱する地面へ白い射線が走る。
    「何する、危ないペナ! 当たったら怪我するペナー!」
    「いやああ怖い怖い! いきなり撃つとかなんなのよお!」
    「灼滅者だからな」
     フードを脱いでひんやり無表情を晒したまま、これ以上ないくらいのド正論で呟き、陽太はバスターライフルのレバーをがしょんと引いた。
     わざわざ陽太に言われてようやっと我に返ったらしく、ペナント怪人とビアガールがよろめきながらも立ち上がる。呆気にとられていたユリアーネもまた、右手のクルセイドソードを打ち払うように構えて臨戦態勢に入った。
    「気になること、いろいろ、あるけど……まずは目の前のことから、片付ける!」
    「お前達がゲルマンシャーク様を灼滅さえしなければ、我らが路頭に迷うこともなかったのだペナ! ここで返り討ちにしてやるペナ!」
    「そんなもん知るか! ペナントなんてじいさん世代のお土産だろー!!」
     何かこう着地点が逆恨みというか全然違う話になった気がするものの、慧樹は妖の槍【明慧黒曜】へ業火を奔らせる。漂うアルコール臭に不快感を覚えるが、それを断ち切るように最も手近なペナント怪人、アイン・ペナへと渾身で得物を叩きおろした。
    「まぁ、あれだ。ちょっと季節間違えたッスね」
     気だるげに紅蓮斬を放った麻耶たちが選択していたのは、確実な掃討を喫するための一体ずつの集中攻撃。
     アルコールから醒めるどころかろくに体勢すら整えないままだと言うのに、すでに殲術兵器も解放済みのやる気満々(すぎる)灼滅者に袋だたきにされればひとたまりもない。
    「なによおお、よってたかってわーきんぐぷぁをいじめてええぇえ!」
    「さっちゃん、行くですよ……!」
     ペナント怪人らが放つ深紅のビームをかいくぐり、霊犬さっちゃんと共に彩雪は戦線のカバーへ入るため前へ出る。よろりとたたらを踏んだビアガールが一体どこから取り出したものか、なみなみとビールが注がれた大ジョッキを掲げた。
    「んもおおおペナ三兄弟、みんなやっつけちゃえ! ゲルマン大宴か、」
    「させねえべよ! 必殺、ご当地かんぴょうビ~~~~ム!」
     狙い澄ました博士のバスターライフルが火を噴き、レーザービームに似た射線がビアガールを白く灼いた。両手に掲げていたビールジョッキのいくつかが、粉々に割れ砕ける。
    「撃たないで危ない危ない! 割れ物! これ割れ物おお!!」
    「だから本物のジョッキ混ぜるの危ないと何度も言ったペナ……」
    「本物のジョッキじゃないと気分出ないじゃない! って、アイン・ペナぁああ!!」
     刹那の歌声のせいか、アイン・ペナと呼ばれた怪人の元々あやしかった足元が更にぐにゃぐにゃしてきた。そこを見逃すことなくユリアーネの制約の弾丸が追い打ちをかける。
     再度ゲルマン大宴会でアイン・ペナのカバーに入ろうとしたビアガールの目の前、陽太の影が蠢いた。
     薄墨色の影へ呑みこまれたアイン・ペナが悲鳴を上げる。ペナント怪人が抱くトラウマなど陽太には想像もつかないが、もはや体力も残り少なかったアイン・ペナがそこで力尽きた。
     ぺしょんと空気が抜けるように潰れた影喰らいの下から、ところどころビールらしき液体に濡れたペナントが一枚、風にさらわれどこかへ消える。

    ●ああまぼろしのびあがーでん
    「あああ、そんな、アイン・ペナ!」
    「そんなに寂しいなら、敬愛するヤツと同じ運命を辿らせてやろう」
     次の目標であるドライ・ペナへの攻撃を援護しつつ、璃依はビアガールへ言い放った。ナノナノには前衛への攻撃を庇わせ、自らは斬影刃でゲルブバリアーの防御を崩しに行く。
    「これでもくらうペナ! 怒りのシュヴァルツダイナミぃぃいック!!」
    「その台詞、そのまま返すべよ!」
     ややオーバーモーションで殴りにきたドライ・ペナを紙一重で避け、博士はすれちがいざまにツヴァイ・ペナもろともリップルバスターへ巻き込んだ。至近距離からの追撃をまともに浴びて、アルコールの入った脚では踏ん張りがきかず冬枯れの芝生へ倒れ込む。
     すぐには起き上がれぬと見て取った刹那が、間髪いれずにペナント怪人二人を包む結界を展開した。問答無用で霊的因子の強制停止を食らえば、さしもの怪人も決して軽くは済まされない。
    「さっちゃん、今です!」
     回復は充分と見てとった彩雪が、霊犬と共に攻勢へ転じる。周囲に浮遊する光輪の軌道を指先で巧みに操り、芝生の上でもがくドライ・ペナへと撃ちだした。
     よっぱらいに奇襲を成功させたその時点で、まず灼滅者の勝利は動かぬものとなったと表現していいだろう。ふらふらよろよろでも果敢に応戦しようとする心意気は流石だったが、いかんせん今の彼等はどこからどう見てもよっぱらい。素面ならどうにかなりそうな局面でも、当人が千鳥足ではどうにもならないのだ。
    「これで、最後……!」
    「斃れろ」
     細身の片刃剣を華麗に操るユリアーネと、最後方から恐怖すら覚えるほどに狙いすました射撃を浴びせる陽太の前に、ついにドライ・ペナとそれを追うようにツヴァイ・ペナが沈黙する。
    「ううぅ、ひどい……ひどいよお……」
     ついに荒れた垣根際へ追い詰められたビアガールは、うぐうぐと涙目になりながら両手のビールジョッキを持ち上げた。見回してみれば博士や陽太が油断なく銃口を向け、いつでも距離を詰められる位置にはユリアーネが剣を構えている。
     被弾が多ければ回復、そうでなければ攻め手にと自在に柔軟に立ち回る刹那が睨みをきかせるすぐ目の前、完全に攻勢へシフトした彩雪と霊犬の隙を突けることは難しそうだ。
    「逃げるのは無理そうだし……ああもう、灼滅者! ご当地怪人ビアガールの名に恥じない散り様、とくと焼きつけるがよい!」
     じゅわっ、とビアガールの頭頂部に、こんもりと白い泡が蘇る。黄金色のビールをなみなみ注いだジョッキを両手に迫るビアガールを、慧樹の妖冷弾、麻耶の黒死斬が襲った。それでも止まらない。
    「うあぁぁ!」
     まずい、と判断した璃依がとっさに後衛へ注意を呼びかけ、ビアガールへオーラの光球を放つ。狙いあやまたずクリーンヒットした攻撃に大きく半身をのけぞらせてよろめいた所を、刹那の歌声がとらえた。
     ジョッキに乗った白い泡を灼滅者へと叩きつけようと渾身で振りかぶった、その動作の途中でビアガールの頭部に亀裂が入る。そのままふらりと一歩二歩、あらぬ方向へ脚を踏み出したビアガールが声高らかに叫んだ。
    「異国に倒れたゲルマンご当地怪人よ永遠なれ!!」
     一瞬の間を置いて、ビアガールの姿かたちが崩れまぶしいほどの金色に輝く液体へ変化する。そのまま重力に従い冬枯れの芝生の上にぶちまけられたそれは、美しく透明感のある黄金色が特徴のピルスナー、に見えた。

    作者:佐伯都 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2014年4月15日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 3/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 8
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