グリュック王国大決戦~ニートになるもんっ!

    作者:ライ麦

    「まさか、ゲルマンシャーク様が灼滅されてしまうとは!」
    「私達はどうすればいいんでビア?」
    「こんな時に、レディ・マリリン司令官代理さえいない、あぁどうすれば」

     突然のゲルマンシャークの訃報に、ゲルマンご当地怪人達は混乱し、右往左往するばかりだった。
    「ほんっと、どうすればいいのよ……急にこんなことになって、将来のビジョンがまったく見えないわ……」
     ビアガールはそう零しながら、適当に就職情報誌などめくってみるが、ビアガーデンの季節はまだ先。当然ながら良さげな求人など見つからない。それ以前にあったとして就職できるんだろうか。あまりの先の見えなさに、次第にイライラが募ってくる。
    「あーもうめんどくさい! 今までは上の言うこと聞いてればそれでよかったのに! いきなり今後の身の振り方を考えるとか、できるわけないじゃない!」
     ついにキレて就職情報誌を破り捨てる。もう何も考えたくない。
    「……もういいや私引きこもる! ニートになる!」
     破り捨てた就職情報誌の代わりにマンガ雑誌、ジャーマンポテト、それにビールを手に、ビアガールは自室へとずんずん歩いていった。

    「先日は新潟ロシア村の戦い、お疲れ様でしたっ!」
     桜田・美葉(小学生エクスブレイン・dn0148)が頭をぴょこんっと下げる。
    「特に、4体のご当地幹部の中でも最強と思われるゲルマンシャークを討ち取れたなんて! やっぱり、灼滅者の皆さんはすごいですっ!」
     頬を上気させ、目を輝かせながら、やや興奮気味に美葉は語る。
    「それでですね! ゲルマンシャークが灼滅された事で、灼滅者を闇堕ちさせるという結界が無くなったグリュック王国を攻略する作戦を行う事になったんです」
     ゲルマンシャークを失ったゲルマンご当地怪人達は、指揮するものもおらず、混乱している。だが、この混乱から立ち直れば、再組織化されるか、他の組織の軍門に下るなどして、新たな脅威になるのは間違いない。
    「グリュック王国には多数のご当地怪人がいますが、連携は全くとれていません。今なら、一気に攻め寄せて、それぞれのご当地怪人を各個撃破する事ができると思うんです。戦いでお疲れのところ、申し訳ないのですが……よろしくお願い致します」
     そう言うと、美葉は改めて帽子を押さえて頭を下げた。

     続いて、詳しい説明に移る。
    「皆さんに倒して欲しいのは、ビアガールです。今回担当するビアガールは、かつてはホテルだった建物の一室に引きこもってニート生活をしています」
     なんじゃそりゃ、と突っ込みたくなるが、ビアガールなりにゲルマンシャーク亡き後の身の振り方を考えた結果らしい。でもそれって結論を出すのを先延ばしにしてるだけのような気もする。
    「元より廃墟ですし、引きこもってると言ってもドアには鍵もかかっていません……むしろ、かかりません。突入に際して特に気にすることはないでしょう」
     突入すれば、ジャージ姿で寝転んでマンガ雑誌を読みながら、ジャーマンポテトをつまんでいるビアガールの姿を見ることになるだろう。ヒキニートっていうかむしろ干物。
    「もちろん皆さんに気付けば立ち上がって応戦してくるでしょう。その際には、大ジョッキで殴ってきたり、アルコールの泡で包み込んできたりします。ビールを飲んで自らを回復させたりもするようですね」
     やけ酒か。
     ともかく、一通りの説明を終えて美葉は言う。
    「皆さん、お疲れかもしれませんが、これが成功すれば、ゲルマンご当地怪人は日本から駆逐されると思います。あともうひとふん張りです! 頑張ってくださいね!」
     そう激励した後一言。
    「あと、皆さん分かってると思いますが未成年の飲酒は法律違反ですよっ! 勧められたとしても、決して飲まないでくださいね!」
     飲まねぇよ。


    参加者
    影道・惡人(シャドウアクト・d00898)
    海堂・月子(ディープブラッド・d06929)
    リリアナ・エイジスタ(オーロラカーテン・d07305)
    エルシャ・プルート(スケッチブックと百面相・d11544)
    松沢・次郎(実はレモンは苦手・d14283)
    富山・良太(ほんのーじのへん・d18057)
    燭・照咲(灯す光・d22062)
    影門・開明(本当にニート・d24049)

    ■リプレイ

    ●突撃! グリュック王国のニートさん
    「エクスブレイン桜田・美葉の情報をもとに現場へ急行するエルたち。そこで待っていたのは……」
     エルシャ・プルート(スケッチブックと百面相・d11544)が、あらぬ方向に向けてフリップを掲げる。まるで「テレビの前のみんな」に説明するかのように。
     とにかく、待っているのはヒキニート通り越して干物なビアガールである。
    「何と言うか……何処にでもダメ人間は居るんだね」
     富山・良太(ほんのーじのへん・d18057)が呟く。それでも敵の本拠地だし、と油断なく辺りを見回しながら。
    「リーダーを失った途端にニート宣言はどうなのかしら……」
     海堂・月子(ディープブラッド・d06929)も肩をすくめる。ビールジョッキ片手にゴロゴロしてジャーマンポテトをつまんだり?
    「ニート生活とはいえ、これはちょっと羨ましくないな」
     エクスブレインからの情報を反芻し、影門・開明(本当にニート・d24049)が言う。ニートっていうより干物だもの。
    「羨ましくはないけれど、平和そうなトコロに乗り込むのは少し気が引けるわ」
     月子の言葉に、リリアナ・エイジスタ(オーロラカーテン・d07305)も頷く。
    「正直、もうちょっと怪人らしくしてくれるといいんだけどね。ボクらが悪者みたいだ」
     ため息をつく彼女とは対照的なのが、影道・惡人(シャドウアクト・d00898)。
    「放っときゃいんだろけど、折角の据え膳だ、スッキリさせてもらおーじゃねーか」
     彼は敵に対する感情は欠片も持ち合わせていない。ただ闇堕ち防止のため、行きずりに灼滅するだけ。
     だが、それぞれの感情がどうであれ、目的は変わらない。
    「せめて、さくっと灼滅してやろうじゃないか」
    「そうね、さっさと片付けて勝利の美酒に酔いましょう」
     開明と月子がそう話す傍ら、 松沢・次郎(実はレモンは苦手・d14283)は飲んでいたレモン牛乳のパックから口を離して言う。
    「それにしたって、干物オバサンはこっちが数人がかりでかかんなきゃ倒せそうもないダークネスだ。軽口は挑発だけにして油断はしねえぞ」
     その通り、ダークネスはどんなにネタっぽいヤツであっても一対一では絶対に倒せない強敵。誰よりも警戒している良太が頷き、中君を前に注意深くドアを開ける。罠……などはなさそうだけど。念のために燭・照咲(灯す光・d22062)がサウンドシャッターを展開し、リリアナはアルティメットモードで変身して。最終決戦というには気の抜けすぎた相手だけど、雰囲気ってあるじゃない!
     ともあれ、固まって部屋に突入した灼滅者達が見たものは。
     やっぱりジャージ姿で寝転んでマンガ雑誌を読みながら、ジャーマンポテトをつまんでいるビアガールの姿だった。おまけにこっちに背中を向けてボリボリ尻を掻いていた。話には聞いていたけど、ちょっと目を覆いたくなる光景。
    「途方に暮れる気持ちは分からなくは無いけどね」
     思わず呟く良太。
    「身の振り方を考えてニート……ご当地怪人も大変なんだね……」
     エルシャもしみじみとそう書かれたフリップを掲げた。
     もちろん、突入に気付いたビアガールは胡乱な目でこちらを見る。寝転んだまま。
    「何よ、アンタたち」
    「ぁ? ただの強盗に決まってんだろ」
     ライドキャリバー 「アームド・ザウエル」に跨り、惡人は言う。狙うはあなたのお命。
    「ニート生活に幕を引きに来たわ」
     月子も進み出、リリアナはサイキックソードでマンガ雑誌や食べかけポテトを切り払って挑発する。
    「悪いけどそんなニート生活させて置けないよ。怪人だし」
    「ニートもどうかとは思いますが、やる気を出されても困るので、灼滅させていただきます」
     良太が殲術道具を構え、ビアガールはやれやれと首を振った。
    「……要するに灼滅者ってことね」
     いかにも大儀そうに、「どっこいしょ」と声を上げて立ち上がる。なんかもう哀愁すら覚える姿だ。しかしに惡人とっては『物』に過ぎず。
    「おぅヤローども、やっちまえ!」
     その声に呼応するようにザウエルが唸りを上げ、
    「溺れる夜を始めましょう?」
     月子は婉然と笑って挑発の手招きをする。黒い花びらのような影業が浮かびあがった。

    ●干物! ビアガール
    「アンタたちなんかさっさと倒して、ヒキニート生活を満喫するわ!」
     そこは「ゲルマンシャーク様の仇!」とかじゃなくていいのか。ともかく、ビアガールは景気づけに一杯飲んだ。ついでにげっぷまでした。もう干物すら通り越してオヤジに見える。次郎は油断なくワイドガードを展開しながら顔をしかめた。
    「うっわー、ヒキニートっつーかマジで干物オバサンだなこりゃ。さいしゅーしょくとかいう前に人として終わってね? あ。オバサンダークネスだった。それに飲むならレモンぎゅ」
     言い終える前に大ジョッキが彼を襲った。ビールを煽った上での一撃は強烈で、腕でガードしながらでも膝が地面に着きそうになる。
    「何よ! そもそもアンタたちがゲルマンシャーク様を灼滅したりしなければニートにならなかったのに! ……そうよアンタ達のせいよ!」
     やっぱり根に持ってたんだろうか。そう吼えるビアガールに、今度はリリアナが真剣に怒る。
    「人の所為にしないでっ。自分で選んだんじゃない。そんな気持ちで怪人やらないでよっ!」
     そんな風に思うのはプロレスに感化されている為か。つい、悪役にも美学(?)を求めてしまう。勢いのまま、サイキック斬りで斬りかかった。
     一方で、惡人は淡々と銃撃。
    「な事ぁどーでもいんだよ。感情は戦闘の前と後にだけありゃいんだ、今は欠片もいらねぇ」
     勝てばいい。他人の目や評価も気にしない。そんな彼を、ザウエルが機銃掃射でサポートする。
     続いて良太とエルシャが前衛を回復させ、月子が鬼神変で殴りかかり、照咲は炎を宿らせた武器を叩きつけた。
    「まずはアルコールを飛ばします」
    「こちとら一応未成年なんでね。アルコールに用はないんだよ」
     開明も影でビアガールを飲み込み、アルコール拒否。
    「いえ、だらだらニート生活にビールは欠かせないわ!」
     それは単なる自論に過ぎないが。ビアガールはそう言うとアルコールの泡を噴出させ、前衛陣を包み込む。ビール泡の匂いを嗅いで、エルシャはちょっとくらくら。
    「未成年の飲酒ダメ絶対!」
     そう書かれたフリップを、泡の中から腕をめいっぱい伸ばして出す。少しお酒臭すぎる攻撃、できるだけかわしたい、とリリアナは体を捻った。
    「ビールは後で好きになるかも知れないけれど、今はまだいいや……太るって言うし」
     彼女が漏らした本音に、次郎も同意。
    「あんな泡ばっかの何がうまいんだかなー。俺、あんなん飲むくらいだったらおこちゃまでいいや」
     レモン牛乳あるし、と噴出した泡を見ながらポツリ。確かにこれはすごい泡、ビール好きな人でも泡ばっかのはノーセンキューかもしれない。
    「それに、ドイツのビールは常温で出てくるとか聞いたことあるのです……ぬるいビールなんて美味しくないのです!」
     照咲の発言に皆の視線が集中。彼女は今回のメンバーのうち最年少である。照咲は少し慌てたように魔導書を抱きしめた。
    「……えっと、飲んだことはないですよ?……ですよ?」
     あったら困る。まぁ、読書家の彼女のこと、何かの本にでも書いてあったのかもしれないし。開明は特に気にしないことにして、祝福の言葉を風に変換した。癒しの風が泡を吹き飛ばす。戦いはまだ続きそうだ。

    ●社会になんて出れないまま
     良太が破邪の白光で切り裂き、親友の中君が霊撃を浴びせる。回復の必要が薄いと判断したエルシャも攻撃に加わり、続くリリアナがジェット噴射で飛び込んで「死の中心点」を穿った。その隙に月子は転がっていたジャーマンポテトをつまんで咀嚼する。
    「なかなか美味しいわ、確かに一杯欲しい所ね?」
     涼やかに笑みを浮かべながらも、
    「私のジャーマンポテト!」
     と突進してきたビアガールは黒い花弁のような影で縛り上げる。振り下ろされた大ジョッキは、まるで影を滑るかように軽やかに回避した。
    「何処を見ているの? アナタの相手はこっちよ」
     口元に笑みを湛えたまま、ビアガールを見やる。ビアガールは悔しげな表情を浮かべたが、纏わりつく影を振り払う術は持たない様子。それを見て月子は
    「ビアガールはキュアが出来ないわ、搦め手も有効よ!」
     と仲間を促す。
    「ジャマーの本領発揮なのです」
     月子の言葉を聞いて、照咲は素早く死角に回り込み、ジャージごと切り裂いた。
    「服も邪魔なのです」
     はらはらとジャージの切れ端が落ち、ビアガールはばっと自分の体を覆う。
    「いやんエッチ!」
     赤くなって言うが、干物っぷりを見せつけられた後だと色気も感じない。
    「ぁ? 勝ちゃ何でもいんだよ」
     元より敵に無関心な惡人には特に通じない。防御力の下がったその体にオーラキャノンを叩き込み、ザウエルがさらに突っ込む。
    「ちょ、ちょっとは反応しなさいよ!」
     ビアガールも後衛を泡で包んで応戦。だが、泡で包まれたところで惡人は動じない。元より自身の身にも無頓着だ。
    「ぁ? なもん知るかよ」
     そう言う惡人だが、
    「油断できねぇし、回復しといた方がいいぜ!」
     と次郎は指先に集めた霊力を撃ち出し、回復させる。無論次郎もビアガールの格好なんて全く見てない。せっかくのセクシーな姿(?)をガン無視されてやけになったか、ビアガールはビールを思いっきり煽る。だが少しぐらい回復したところで、今までに掛けられた状態異常はそのまま。
    「行くよ、親友」
     良太が神霊剣で斬りかかり、中君が霊障波で続く。それを皮切りに、灼滅達は次々に畳みかけた。
    「くらえ、レモン牛乳ダイナミック!」
     次郎がビアガールを床に叩きつけ、大爆発させる。その一撃がビールによるパワーアップ効果を打ち消し、
    「アナタはどんな声で鳴くのかしら?」
     月子の艶やかな声と共に、黒い花弁のような影業が舞い上がりビアガールを絡め取る。そこをリリアナが
    「いくぞっ!!」
     と異形と化した腕で力一杯殴りつけた。
    「ごめんね、怪人さん。日本にはあなたの就職先もひきこもり先ももうないんだよ?」
     エルシャはそう書いたフリップを見せながら、マテリアルロッドをごいんとジョッキ頭にぶつける。
    「グ、グリュック王国は不滅よ……私は、ここでずっとニート生活し続けるんだから……」
     そう言いながらも、ビアガールの目は泳いでいる。内心では、グリュック王国の終焉を悟っているのかもしれない。そんなビアガールに向かって、開明は
    「我、ニートを極めしものせめて奥義で葬ろう……!」
     とオーラを拳に集束させ、凄まじい連打を繰り出した。
     最後に、照咲は体内から噴出させた炎を魔導書に纏わせ、ビアガールの前に立つ。
    「炭酸が抜けてアルコールも飛んだビールに存在価値はないのです」
     そして放たれたレーヴァテインが、ビアガールの息の根を止めた。

    ●ニートよ、安らかに眠れ
    「ニートのレベルが違うんだよ、レベルが」
     消え行くビアガールを見ながら、開明は不敵に笑う。
    「灼滅大成功っ!!」
     エルシャはさらさらとスケッチブックにそう書き込み、ぴょんっと飛び跳ねた。その傍ら、照咲は部屋の中を色々と探し始める。
    「……ジャーマンポテトとか、もしかして食べたら巨大化したりするんでしょうか?」
     転がっていたジャーマンポテトを恐る恐る突っついてみるが、戦闘中に月子がつまんでなんともなかったし、それはないだろう。巨大化フードを生み出す元となっていたラグナログ、ゴッドモンスターも救われたのだし。
    「目ぼしいものも特にないみたいだし、早く帰ろう」
     良太が促し、惡人も出口に向かって歩き出す。
    「帰りに一杯やってくか……ぁ? 珈琲だよ」
    「いや、一杯やるなら珈琲よりレモン牛乳だろ!」
     次郎がポケットからレモン牛乳200mlパックを取り出して力説し、賑やかな笑い声が起こった。
    「それにしても、ボクらがお酒飲める歳だったらどうなってただろうね?」
     去り際、ふと主を失った部屋を見てリリアナが呟く。
    「仲良く乾杯が出来る関係なら良かったのでしょうね。と言ってもアルコールは二十歳から、もう少し先の話になるわ」
     せめてもの手向けに、と月子は転がっていたジョッキに、部屋の片隅に残っていたビールを注いだ。引きこもる際、普通のビールも持っていったのだろう。
     滅びた王国の、滅びた主の部屋で、ビールは黄金色に輝いていた。

    作者:ライ麦 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2014年4月15日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 2/感動した 0/素敵だった 2/キャラが大事にされていた 6
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