グリュック王国大決戦~落日のペナント怪人

    作者:田島はるか

     池のほとりに、なにやら複数の影が集まっている。
    「ゲルマンシャーク様が灼滅されてしまった今、我々は何をすべきだろうか」
    「せめて、ここにレディ・マリリン司令官代理がいてくれれば……」
     口々に嘆いているのは、ゲルマンペナント怪人たちだ。心なしか、ペナントに張りがなく、意気消沈しているさまが見てとれる。
     そこへ、新たなゲルマンペナント怪人の一団が通りかかった。
    「こんなところにいたのか、同志たちよ。……何をしているんだ?」
    「池を眺めている」
     見たままの返答だった。
     膝を抱えて座るゲルマンペナント怪人たちの姿には、そこはかとない哀愁が漂う。
    「お前たちも、一緒に池を眺めようではないか。癒されるぞ」
    「それでいいのか?」
    「なに?」
    「貴様はそれでいいのかと聞いている」
    「どういう意味だ」
     怒気を含んだ声で訊ねるペナント怪人。
     新たにやってきたペナント怪人は、落ちていた石を池に投げる。水面を石が跳ねた。
    「……考え事をするときには、ジャーマンポテトが必要ではないかと言っているのだ」
    「お前……よく分かっているな」
     ふたりのペナント怪人は、そうしてがっしりと握手を交わした。
     

    「みんな、新潟ロシア村での戦い、おつかれさま! ご当地怪人の中でも、ゲルマンシャークを討ち取ることができたってのは、ホントにすごいぜ。これでひとまずカタがついた……って言いたいところなんだけど、みんなには、あともう一働きお願いしたいんだよな」
     集まった灼滅者達を前に、深沢・祥太(高校生エクスブレイン・dn0108)はそう切り出す。
    「ゲルマンシャークが灼滅されたんで、あの北海道のグリュック王国から、灼滅者を闇堕ちさせるっていう恐ろしい結界がなくなった。おまけにゲルマンシャークを失ったゲルマンご当地怪人たちは、指揮官がいなくて混乱してる。このままみすみす放っておいたら、また新しい組織ができるか、他の組織の戦力になるか……とにかく、あんまりいいことはないからな。ここで一気に、グリュック王国を攻略しちまおうってことになったんだ。
     今なら、グリュック王国のご当地怪人たちは全く連携が取れてない。一気に攻め込んで各個撃破するには、最適のタイミングってこった。慌ただしくて申し訳ないけど、ひとつよろしく頼むぜ」
     そう言って、祥太は今回倒すべき敵についての説明を始める。
    「皆に担当してほしいのは、グリュック王国の中にある、グリムの森ってところにいるゲルマンペナント怪人たちだ。森って言っても、連中がいるあたりは観覧車とか遊具がある、ただの遊園地だと思ってもらっていい。
     そのグリムの森の中にある池のほとりで、ゲルマンペナント怪人たちが寂しそうに体育座りしてるんだ」
    「……あの、もう一回」
    「寂しそうに体育座りしてるんだ」
     遠い目をして繰り返す祥太。
    「ジャーマンポテトをやけ食いしたり、将来について答えの出ない論争を続けたり、池の周りで追いかけっこをしたり、石で水切りの練習をしたり……」
     あれ、なんだか楽しそうですね?
    「そんな現実逃避もしつつ、基本的には池のほとりでたそがれてるんだ。ずらっと並んで。それも12体」
    「多っ!?」
    「だいじょうぶ。あいつら、ゲルマンシャークが灼滅されて落ち込んでるしな。大して連携も取れちゃいないし、お前らが力を合わせれば、逃がさず倒しきれるはずだぜ」
     戦闘になれば、ゲルマンペナント怪人たちは、ご当地怪人としての力を振るって応戦してくるようだ。
    「逃がす?」
    「ああ、何体か、ちょっと弱気になってる連中がいるみたいでさ。劣勢を悟ったら、そいつらは逃げていきかねない。まあ、周囲はわりと視界もいいし、逃げようとするヤツがいたってすぐ分かるはずだ。数が多いのが厄介だけど、うまく挑発すりゃ、最後まで逃げたりしないで戦ってくれるんじゃないかな。
     まあ、何も考えずに突っ込んでいっても、何とかなるとは思うぜ」
     ちょっと気の毒な気もするけど、放っとくのもマズいし、と祥太は続ける。
    「慌ただしい話で悪いけど、このチャンスを逃すわけにはいかないからな。きっちりカタをつけてほしい。よろしく頼むぜ」


    参加者
    四方屋・非(ヒロイックシンドローム・d02574)
    浅凪・菜月(ほのかな光を描く風の歌・d03403)
    藤倉・大樹(希望導く闇の狩人・d03818)
    リュシール・オーギュスト(お姉ちゃんだから・d04213)
    西明・叡(石蕗之媛・d08775)
    霧渡・ラルフ(愛染奇劇・d09884)
    ミカ・ルポネン(暖冬の雷光・d14951)
    黒芭・うらり(高校生ご当地ヒーロー・d15602)

    ■リプレイ

    ●落日のペナント怪人
     グリュック王国。
     かつては遊園地として賑わい、やがてその本来の役目を終えたこの地は、ゲルマン怪人たちの拠点として一時の栄華を取り戻し――そして今、ふたたびの終焉を迎えようとしていた。
    「瓦解した王国の成れの果て、か。混乱してるには違いないんだがな……」
     顎に手を当てる四方屋・非(ヒロイックシンドローム・d02574)。
    「なんていうか……すっごくかわいそうな状況だよね……でも放っておくわけにもいかないし……」
     浅凪・菜月(ほのかな光を描く風の歌・d03403)も微妙な表情だ。
     彼女の視線の先に、ひとつの池がある。かつては水も澄んでいたのだろうが、今は王国の中に立ちこめる空気にも似て、どんよりと濁っていた。
     そしてそのほとりに――膝を抱えて並ぶ、ゲルマンペナント怪人たち。
    「ボク達ですらゲルマンシャークを討ち取れて驚いているところがあるんだから、向こうはもっと衝撃だったんだろうねぇ……」
     しみじみと呟くミカ・ルポネン(暖冬の雷光・d14951)。
    「哀愁を誘う姿ではあるんだけど……後顧の憂いは断っておかないとね」
     西明・叡(石蕗之媛・d08775)が肩をすくめる。その相棒である菊之助に、黒芭・うらり(高校生ご当地ヒーロー・d15602)の傍でやる気を見せている黒潮号、そしてミカに寄り添うルミと、揃った霊犬たちの姿は見るからに頼もしい。
    「やるなら徹底的に。理に適っていますネ♪」
     口角を上げた霧渡・ラルフ(愛染奇劇・d09884)には、半分ドイツの血が入っている。とはいえ、その事実は決して、ゲルマン怪人達への慈悲に繋がりはしない。「全くだわ」と頷くリュシール・オーギュスト(お姉ちゃんだから・d04213)。
    「俺はドイツって結構好きなんだけど、怪人達を見過ごすわけにも行かないしな」
     藤倉・大樹(希望導く闇の狩人・d03818)が腕を組んだ。
     うらりが一歩踏み出す。地元を愛するご当地ヒーローとして、寂しそうにやさぐれるご当地怪人達の姿は、少々見るに耐えない。
     ペナント怪人達を取り囲めるよう、横隊の布陣でそっと近づいて行く灼滅者達。怪人達は、何やらこそこそと囁き交わしているようだ。
    「ジャーマンポテト」
    「トルテ」
    「テューリンゲン……あっ!」
    「ふっ、貴様の負けのようだな」
     どうやらしりとりの最中だったようです。
    「……頼むからもう少し緊張感もってくれ」
     頭痛がしてきたのか、非が顔をしかめた。

     奇襲はせず、まずは充分にこちらへ意識を向けさせてから、戦いを始める。それが今回の方針だ。
     不意を討たれて驚いた怪人達が逃げ出す可能性や、後の説得を考えても、この選択は妥当と言えるだろう。
     合図のもと、灼滅者達はペナント怪人達の前に姿を現す。
    「――武蔵坂学園、参☆上!」
    「なっ!?」
     朗々と響き渡るうらりの声に、ペナント怪人達は慌てて立ち上がる。万が一にもその声で加勢が来ることのないよう、菜月がサウンドシャッターで戦場を覆っていた。
    「あっ、いかん、足が痺れて……」
    「だから正座はやめろと言っただろう!」
    「し、しかし、たまには姿勢を変えねば飽きてしまうではないか」
     …………。
    「いい加減にしろ! ドイツに正座があるか!」
     今すぐ家に帰りたい衝動に襲われながら、非が思わず叫ぶ。
    「えーと、落ち込んでるところすいませんが、灼滅者です」
    「ああ、これはどうも、ご丁寧に」
     腰の低いペナント怪人が、今にも名刺を差し出しそうな勢いでミカにお辞儀をした。
    「さて……グリュック王国は返してもらうよ!」
     八人と三頭が敵と対峙したところで、リュシールが高らかに声を上げる。
    「せー、のっ!」
     かくして、戦いの火蓋は切られた。

    ●燃えよゲルマン魂
     ――はずだった。
    「はっ、話せば分かる! 話し合おう!」
    「暴力はんたーい!」
     一歩踏み出しかけたうらりとリュシールが、思わずつんのめる。
     及び腰で平和を訴えてくる怪人達。風になびくペナントが、一瞬だけ白旗に見えたような気がした。
    「そうだ、お前達にこれをやろう! だからここはどうか穏便に!」
    「いやポテトはいらんから!」
     何というか。
     ……あんまりである。
    「しょうがないなぁ、もう……これはサービスよ」
     ため息と共に、うらりは担いできたラジカセのスイッチをオン。
     そして鳴り渡る、勇ましいドイツ音楽!
    「こっ、これは!」
    「なんとゲルマンパワーに満ちた音楽か!」
    「少しは元気が出た? それじゃあ、今度こそ……行くよ!」
     うらりが反対の手に担いでいたマグロ、もといアルテマグロウェポンを操り、一気に敵との距離を詰めて突き出す。標的となったペナント怪人が「うひゃっ」と情けない声を上げた。池を背後にし、文字通り背水の陣を敷いたゲルマンペナント怪人達は、慌てふためきながら応戦の体勢を整える。
    「私の歌も聞いてもらえるかしら」
     ラジカセを伴奏代わりに、リュシールの唇から紡ぎ出されるドイツの戦歌。その伸びやかな歌声は、聞き惚れるように立ち止まったペナント怪人の魂を容赦なく揺さぶっていく。
     そこへすかさず非の拳が襲いかかった。たちまち戦場に満ちた濃密な殺気はラルフのもの。
    「菊、行ってらっしゃい。ワタシも行くわ」
     叡の言葉とほぼ同時に飛来するのは、しなやかな白蛇を思わせる白金色の光輪。主に名を呼ばれた菊之助は、力強く地面を踏みしめ、ペナント怪人の前に立ちはだかる。
    「一気に決めるよ!」
     白光と共にミカの剣が一閃。ルミも援護に飛び込んでくる。皆を守る盾となる彼が傷つかないようにと、菜月が護符を飛ばした。大樹が紅蓮斬を浴びせれば、ペナント怪人はふらりと倒れ、池の中へと消えていく。
    「ああ! 同志よ!」
     あっという間に仲間を倒され、動揺する怪人達。とはいえ、早速「弔い合戦だ!」と襲ってくる者はせいぜい半数。残りの半数は、「やっぱり世の中そんなもんだよな……」だのなんだのと呟きながら、やさぐれ気味に構えている。
    (「しかし……なんとなく俺達の方が悪者に感じるのは何故だろう?」)
     怪人達の反応を眺めていると、どうにも不思議な感覚に襲われる。
    「容赦する訳には行かないけど、一寸やりづらいわね」
     そんな大樹の表情を見て、リュシールが同意するように声をかけてきた。
     とはいえ、灼滅者達にそんな余裕があったのもここまで。
    「あいつは……あいつはなあ! 誰よりもジャーマンポテトを愛していたんだ!」
     怪人の叫びと共に、めくらめっぽう放たれる破壊力を込めたビーム、巻き起こされる大爆発。「後に続け!」と襲いかかってくる怪人達。一発ずつは致命傷にはならないが、なにぶん数が多いのが問題だ。
    「っ!」
     情熱あふれる赤いビームを受け、ミカの白衣に穴が空く。遅れてじわりと滲む赤は、ビームではなく血の色だ。視線を走らせて戦場を確認する。さすがに全ての攻撃を庇いきることはできない。非、うらりの黒潮号、加えてラルフも肩口を押さえているし、黒地の戦装束のせいで分かりにくいが、叡もいくらか傷を負った様子だ。今のところはばらばらに攻撃を仕掛けてきているが、もしこの攻撃を誰かに集中されれば、無事では済むまい。
    「赤身光線!」
     ビームにはビームで。うらりの放った一撃が、怪人の一体を直撃した。

    ●勤勉・情熱・名誉
     ラルフの展開した除霊結界が、血気盛んなペナント怪人達に襲いかかる。その効果は明らかだった。標的にした相手のいくらかの手を止められただけでも、戦況は随分と変わる。
    「菜月」
    「私は大丈夫。それより前衛のみんなが……」
     ビームが掠めた腕が痛むが、気にしてはいられない。心配そうに見つめてくる大樹に笑顔を作ってみせ、菜月は清めの風を吹かせた。
    「……未だに慣れないんだけど」
     呟きと共に、叡がギターの弦をかき鳴らす。
    「!?」
     衝撃的なその音に、すわ攻撃か、と身構える怪人達。琵琶を思わせるその音は叡の容姿に似合ってはいたが、ギターでどうすればこんな音が出せるのか。いやそれ以前に、この音楽が味方を癒しているという事実に驚くべきか。
    「クロマグロ・ダイナミック!」
     弱気そうなペナント怪人がうらりに担ぎ上げられ、「ひぃ!」と情けない声を上げて爆発する。
    「Achtung!」
     そこへ容赦なく振り下ろされるリュシールの剣。次の敵は、と顔を上げた彼女の視界の隅に、挙動不審な怪人の姿が映った。あれは、もしかして。
    「逃がさないで!」
     よく通る叡の声。襲い来るペナント怪人に刀と化した片腕を叩きつけ、非は大きく息を吸う。
    「普段いいだけご当地自慢する割にゃ、土地を捨てるとはプライドのないこったな」
    「ち、違う! これは戦略的撤退だ!」
    「要するに、逃げるんだろう?」
     大樹の鞭剣の刃が狙うのは、抜き足差し足で戦場から逃亡しようとしていた怪人の一体。
    「ドイツを象徴する国旗を広める役を担うのが、貴様らペナント怪人だろう。その貴様らが敵前逃亡するようでは、母国の権威も地に堕ちるな」
    「なっ……」
    「そんなざまでは、貴様らにはご当地怪人たる資格すらない。まだ矜恃が残ってるなら、最後まで戦いゲルマン魂を見せてみろ!」
    「い、言わせておけば!」
     大樹の狙い通りに色めき立つペナント怪人。けれどどこか、まだ迷いがある気配。
    「情けないわよ!」
     叱咤の声を飛ばしたのはうらりだ。
    「あなた達のリーダーは、ゲルマン魂は不滅と言って、最後まで戦い抜いたわ。なのにあなた達は……」
     うらりとその手に握られたマグロが、怪人達を睥睨する。
    「あなた達も同じゲルマンの名を背負うなら、立って最後まで戦いなさい! お相手はこの私達が務めてあげるわ!」
    「くっ……!」
     だが、それでもまだ、「どうせ俺なんて」といじけている怪人達が残っている。
    「何てざまよ! ゲルマンシャークもレディ・マリリンも、最後まで立派に戦ったのよ?! その配下なら、もうちょっとしゃきっとしなさいな!」
     両手で剣を操りながら、リュシールが叫ぶ。
    「選びなさい、逃げて包囲されて無様に倒れるか、それともせめて踏み止まって、ブルトン人の私に対しても誇れるドイツの心意気を見せてくれるか!」
     うなだれていた怪人の一体が、その声に顔を上げた。ラジカセはまだ、勇壮なドイツの音楽を奏でている。
    「――我が手には必殺の剣Hauteclaire! 受ける汝には何がある!」
     高く清らかなリュシールの声。動力剣の切っ先が、一体の怪人に向けられる。
    「ああ……そうだ、我々には、この旗があるぞ!」
     そのペナントは、心なしか晴れがましくピンと張っているようだった。

    ●戦士の誇り
    「ドイツ軍人は狼狽えない……ゲルマン怪人にその誇りはないのかしら?」
     叡の視線の先にもまた、やさぐれ気味の怪人が一体。
    「それはそれ、これはこれだっ!」
     開き直り気味に撃ち出されたビームが、叡を狙い撃つ。
    「やれやれ、下っ端がこの程度では上のゲルマンシャークも大したコトないんでしょうネェ」
     せせら笑いを漏らし、ラルフは肩をすくめてみせた。
    「ああ失礼! もう死んだんでしたっけ? ……我々に殺されて!」
    「黙れっ!」
     ラルフ目がけて突撃してくる怪人。とっさに目を閉じたが、衝撃を感じない。目を開ければ、そこには白衣の背中がある。
    「日本では『背中の傷は武士の恥』って言うんだけど、そっちにはそういう言葉はあるのかな?」
     白衣の裾を翻し、ミカが訊ねる。彼が怪人との間に割って入り、攻撃を受け止めたのだ。
    「ここで逃げ出すような奴らに、恥を背負ってまで生きる勇気はあるの?」
     菜月の歌声がミカの傷を癒す。だが、前衛で盾となり続けてきた彼の身には、かなりのダメージが蓄積しているはずだ。酷い有様の白衣がその証拠。ルミが心配そうにしているが、そのルミも無事とは言い難い。「替わろう」と大樹が前に出た。ペナント怪人達の起こす爆発を食らったミカに比べれば、大樹の傷は浅い。
    「我々はもう、逃げない!」
     吹っ切れたような怪人の声。
     にっ、と非が笑う。
    「なら、せめて祖国に恥じない戦いをしてみろ」
    「当然だ!」
     残る怪人は八体だが、どの怪人も相当のダメージを追っているはず。仕掛けるなら、ここか。
    「やっと怪人らしくなってきたじゃないか! 最後の大花火、付き合ってやるよ!」
     剣を振りかぶり、敵の只中に突入しながら、一言。
    「リーダー不在の今、活躍した奴は次のリーダーになれるんだろうな」
    「!」
    「ここで私を倒せば、さぞ評価されるんだろうなぁ」
     わざとらしい声音で、非は怪人達に迫る。その足が、何かを引っかけた。
    「……あ」
     手のついていなかったジャーマンポテトの皿が、うっかり池の中へ。
    「き……貴様! 貴様だけは、絶対に許さん!」
    「そうだ! よくも我らの魂を!」
     粗末にした食べ物に心の中で手を合わせつつ、「それがどうした!」と非は喝破する。今のうちに回復と建て直しを、という思いは伝わっただろうか。
    「覚悟ッ!」
    「来い!」
     心をひとつにした怪人達は、対峙する非へと集中砲火を浴びせ。
     そしてその背中に、大きな隙を作っていた。

     さて、とリュシールは残る怪人達を見る。皆、すでに満身創痍だ。
    「……残したい言葉くらいは聞いてあげるわ。準備の出来た人からかかってらっしゃい!」
     その言葉を待っていたかのように、怪人達は揃って空に向かって敬礼し。
    「――ゲルマンシャーク様に、栄光あれ!」
     最後まで、逃げることなく戦い抜いたのであった。

    ●さらば栄光の日々よ
    「……Auf Wiedersehen」
     呟いた後、ラルフはふうっと嘆息した。
    「しかし……消えてしまうとは残念ですネ」
     ペナントのひとつも残っていれば、回収していこうかと思っていたのだが。
    「食いかけのジャーマンポテトならあったぞ」
    「それは結構デス」
     だよな、と苦笑して、大樹は残された皿を見る。ドイツの習慣に従って弔うとしたら、土葬だろうか。形だけでも、と小さな土の山を作り、ジャーマンポテトを供えてみた。
    「みんなつらくて大変なときだったのに……ごめんね」
     菜月がそっと目を閉じ、祈る。立場の違いゆえに、このようなことになってしまいはしたが、しかし。
    「次は、ご当地ヒーローとして生まれてくるといいな」
     心優しい恋人の隣で、大樹も静かに祈りを捧げる。

    「さて……引き上げる前に、しばらく王国内を捜索してみましょうか。書類なり作戦書なり、何か見つかるかもしれないわ」
    「ああ。私も賛成だ。連中がどこかの組織に鞍替えしようとしていたんなら、その痕跡も残ってるかもな」
     上体を起こしながら、非が声を上げる。
    「四方屋先輩、もう大丈夫なの?」
    「問題ない。もとより、命までくれてやるつもりはなかったしな」
     うらりに向かって、余裕ぶった表情で片手を挙げてみせる。
    「行こうか」
     池の水面に、風がわずかな波をつくる。そこにはもう、戦いの気配は残っていなかった。

    作者:田島はるか 重傷:四方屋・非(崩れゆくイド・d02574) 
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2014年4月15日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 4/感動した 1/素敵だった 2/キャラが大事にされていた 2
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