グリュック王国大決戦~さよならのバウムクーヘン占い

    作者:悠久

    ●グリュック王国の動乱
     北海道帯広市――。
     ゲルマンご当地怪人が本拠地、グリュック王国は、前代未聞の混乱に包まれていた。
    「まさか、あのゲルマンシャーク様が……!」
    「私達はどうすればいいんでビア?」
    「こんな時に、レディ・マリリン司令官代理さえいない、あぁどうすれば」
     新潟ロシア村にて勃発した、大規模戦闘。
     その最中、彼らを統率していた四大ご当地幹部の1人、ゲルマンシャークが灼滅されてしまったのだ!
     突如として指揮系統を失ったゲルマンご当地怪人達は右往左往。
     これからどうすればいいのか、どうするべきなのか。混乱の収まる気配は微塵もない。
     そんな中、王国入り口に程近いレーダー門の傍に佇む1人の怪人がいた。
    「王国を守る、他国へ身を寄せる、守る、身を寄せる……」
     ぺりぺり、ぺりぺり……と。
     手にしたバウムクーヘンを1枚ずつ剥がしていくのは、扇形の頭部を持つバウムクーヘン怪人!!
     何層もある生地を使い、花占いならぬバウムクーヘン占いを行っているらしい。
    「ううむ……我輩はいったい、どうすればいいクーヘン……」
     ぺりぺり、ぺりぺり。
     いつまでも続く終わらない占い。
     哀愁に満ちたその姿は、急速に迫る王国の終焉を暗に示しているように見えた。

    ●決戦、次いで大決戦!
    「皆、新潟ロシア村での戦い、本当にお疲れ様」
     未だ興奮冷めやらぬ中、教室に集まった灼滅者達へ、宮乃・戒(高校生エクスブレイン・dn0178)が深々と一礼した。
    「君達の活躍で、4大ご当地幹部最強とも呼ばれるゲルマンシャークが灼滅することができた。大殊勲と言って間違いないよ。本当に、君達は凄いね」
     戒の顔には満面の笑み。
     だが、すぐに脇に抱えたファイルから資料を取り出し、慌しいようでごめん、と前置きする。
    「ここに集まって貰ったのは、ゲルマンシャークの本拠地、グリュック王国を攻略する作戦を行うためなんだ」
     なんでも、彼の怪人の灼滅により、灼滅者達を強制的に闇堕ちさせる結界が消滅したというのだ。
     指揮系統を一気に失ったことで、王国内は大混乱に陥っている。
     とはいえ、混乱から立ち直ってしまえば、再び組織化されるか、あるいは他のご当地組織に組み込まれ、再び勢力を取り戻すだろう。
     だが、今ならば王国内へ一気に攻め寄せ、ご当地怪人を各個撃破することも可能だ。
    「だから、君達にもうひと頑張りをお願いしたいんだ」
     と、戒は灼滅者達へ数枚の資料を配った。
     記されているのは、王国内の見取り図と――扇形のバウムクーヘン?
     いや、よく見たら顔がある。ご当地怪人の頭部だ。
    「バウムクーヘン怪人。ドイツ発祥ではあるけれど、ゲルマン化した日本のご当地怪人みたいだね」
     バウムクーヘン。
     日本ではすこぶるメジャーだが、本場ドイツではわりと珍しい類の伝統菓子とのこと。
     そのため、この怪人は日本における発祥の地・関西のご当地怪人として活動していたようだ。
    「君達の突入時、彼は入園ゲートから程近い場所にあるレーダー門の傍らにいる。どうやら、自分のご当地愛の源であるバウムクーヘンを1枚ずつ剥がすことで、これからの身の振り方を占っているらしいんだ」
     花占いならぬ、バウムクーヘン占い。
     ……想像するに、なんとなく哀れを誘う姿である。
     バウムクーヘン怪人が使用するサイキックは、ご当地ヒーローと同じものと、まんまるのバウムクーヘンを振り回してこちらを拘束する技だ。
    「ちなみに、ご当地ビームはあつあつのキャラメルらしいよ。……そういえば少し前に流行ったよね、キャラメルがけのバウムクーヘン」
     美味しそうだね、とどこか呑気に笑うものの、すぐに戒は表情を引き締めて。
    「今回の作戦が成功すれば、ゲルマンご当地怪人は日本から撤退……いや、駆逐されることになると思う。疲れているだろうけど、皆、もう少しだけ頑張って欲しい」
     君達の活躍に期待しているよ、と告げる戒へ。
     任せておけ――灼滅者達の返す言葉と視線は、とても頼もしいものに感じられた。


    参加者
    不知火・レイ(クェーサー・d01554)
    各務・樹(エクリュ・d02313)
    五十峯・藍(スペードギア・d02798)
    弥堂・誘薙(万緑の芽・d04630)
    ギュスターヴ・ベルトラン(救いたまえと僕は祈る・d13153)
    小野屋・小町(二面性の死神モドキ・d15372)
    崇田・來鯉(ニシキゴイキッド・d16213)
    ロバート・ケイ(深い霧の渇望者・d22634)

    ■リプレイ

    ●斜陽の王国
     北海道帯広市、グリュック王国――。
     そこは幾度となく武蔵坂学園と敵対し、灼滅者達を苦しめてきたゲルマン怪人達の本拠地だった。
     だが。現在、彼らは指導者を失い、混乱の只中にある。
     その隙に乗じて、灼滅者達は王国の入場ゲートを潜り抜けた。
     見張りはいない。易々と進入できた敷地内を走りながら、不知火・レイ(クェーサー・d01554)は厳しい表情を浮かべる。
     ここに来るのは二度目だ。
     一度目は闇堕ちし、朱雀門高校のデモノイドロードとして活動していた際のこと。
    (「……闇堕ちしていたとはいえ、自分の行動に対して何か責任を取りたい」)
     ゲルマンシャーク亡き今も、その決意は変わらない。
     弥堂・誘薙(万緑の芽・d04630)は、霊犬の五樹と共にひび割れた石畳を走り抜けて。
    「あれだけ学園に衝撃を与えた王国も、これで最期とは……あっけないものですね」
     誘薙は、どこか哀れみを含むため息をついた。
     色々と釈然としない思いを抱えつつも、崇田・來鯉(ニシキゴイキッド・d16213)は事前に頭に叩き込んだ見取り図どおり、目的地であるレーダー門を目指した。傍らには、霊犬のミッキーも続く。
     なるべく静かに進めるよう、服装には注意を払っている。だが、それも不必要だったのでは、と感じられるほど、敵がこちらに気付く様子はない。
     やがて見えてきたレーダー門の傍らには、扇形の頭部を持った人影が佇んでいた。
     ゲルマン化した日本のご当地怪人・バウムクーヘン怪人。彼は灼滅者達に背を向け、手元のバウムクーヘンをぺりぺりと剥がすことに集中していた。
     事前の打ち合わせどおり、奇襲を仕掛けられそうだ、と。
     五十峯・藍(スペードギア・d02798)は仲間達からそっと離れ、怪人の横手へ向かった。万が一、怪人が逃亡を試みたとしても防ぐことができるように。
    (「バウムクーヘン占い、ですか。……なんだか可愛いですね」)
     追い詰められた時、その進退を自らのご当地愛で占う。
     なんとも哀愁漂う行為ではあるものの、客観的にはほのぼのとした光景である。
     徐々に接近する灼滅者達にまったく気付く様子のない怪人に、ロバート・ケイ(深い霧の渇望者・d22634)は複雑な思いを抱いていた。
     学園に来て、いくつかの大きな戦いも経験したが、いまだ人の形をしたものと戦うのは抵抗がある。
    (「だが……一応この怪人は人、なのだろうか」)
     なにせ頭部がバウムクーヘンである。判断に困るのも無理はなかった。
     とはいえ、灼滅しなければいけないことに変わりはないから。
     気配を殺し、音を立てずに。
     タイミングを伺うのは、箒に乗って忍び寄る各務・樹(エクリュ・d02313)。
    (「……今よ!!」)
     彼女の目配せと同時に、灼滅者達は一斉に怪人へ奇襲を仕掛けた。
     哀愁漂う背中に、ギュスターヴ・ベルトラン(救いたまえと僕は祈る・d13153)はブレイジングバーストを放った。爆炎をまとう弾丸が次々と命中し、怪人のあちこちを燃やす。
     こんがり焼けていくバウムクーヘン型の頭部からは、たちまち甘い香りが漂って。
    「バウムクーヘンたべたいなー♪」
     思わずそう口ずさんだメロディーはひどい音程だった。音痴なのだ。
    「さぁ、断罪のお時間やでぇ!」
     スレイヤーカードを開放した小野屋・小町(二面性の死神モドキ・d15372)は、現れた大鎌で怪人の背中をばっさりと斬り付ける。
    「覚悟しぃや、怪人!」
     好戦的に笑む小町。
     ようやく振り向いた怪人は灼滅者達の姿を認めると共に、わなわなと体を震えさせた。
    『ま、まさか……貴様らは武蔵坂の!』
     気付いたところでもう遅い。
     怪人の体から飛び散る火の粉が、戦闘の始まりを示していた。

    ●哀愁の戦い
    「怪人さん、その占いは最後まで行わなくて大丈夫ですよ」
     言葉と共に藍の前に現れたのは歯車型のシールド。一瞬で広がり、前衛の仲間達へ護りを与える。
    「逃がしたりはしません。俺達と一戦交えて頂きます」
     静かに見据えるその先、バウムクーヘン怪人へ斬りかかったのはロバートだ。
    「まずは動きを止めさせてもらう!」
     その言葉はどこか荒さを秘めて。死角を突いた一撃が、正確に怪人の急所を断つ。
     だが、奇襲に動転していた怪人も冷静さを取り戻し。
    『我輩はこんなところで敗北するわけにはいかんクーヘン……!』
     動きこそわずかに鈍っているものの、放たれたのはあつあつのキャラメル。
     だが、紙一重で避けた樹が一瞬で怪人に肉薄し、その頭部を薄く剥がすように斬撃を繰り出した。
    「その年輪、ぜんぶ綺麗にスライスしてあげるわよ?」
     怪人に哀れみを寄せるつもりはない。親しい人がこの地で闇堕ちさせられたことを想うだけで、怒りは戦意と化して湧き上がる。
    「あと、キャラメルに頼るのはどうかと思います」
     呆れたような誘薙の言葉と共に生まれたのは、樹を始めとした前衛の姿を隠す、濃い霧。
    「流行りのものより、僕はチョコ掛けの方が好きです。……五樹はどうですか?」
     主の言葉へ呼応するように夜霧から飛び出した五樹の斬魔刀が、さらに怪人の頭部をスライス。
     炎でうっすら焦げたバウムクーヘンの欠片にひと吠え。どうやらお気に召したらしい。
    『わ、我輩の頭がどんどん小さくなっていクーヘン!!』
    「ははっ、悪いが灼滅されてもらうぜ!」
     焦る怪人、その隙だらけの背中へ、ガトリングガンを連射するギュスターヴ。
     その口調は荒っぽく、愉快そうな笑みも合わさり、どちらが悪役なのか判断に迷う姿である。
    「つうか、占うなら自分の頭をはがせってハナシだよな!」
    『そんな痛いことは御免なのでクーヘン!』
     怪人はどこからともなく大きなバウムクーヘンを取り出し、ギュスターヴめがけて振り回した。
     だが、命中寸前、レイが滑り込むように移動して彼を庇う。
    「痛いのか、それ……」
     いちいち哀愁を誘う怪人だ、と。
     どこか同情を覚えつつも、レイは躊躇うことなく利き腕を蒼き砲身へと変化させた。
     至近距離から放たれた死の光線によろめく怪人。その体を拘束するように放たれたのは、小町の操る封縛糸。
     ヴァンパイアミストの使用も考えたが、効果範囲となる同列にいるのは同じくジャマーのギュスターヴ。2人ともダメージよりは状態異常の付与を主に行うポジションであるため、相手をより不利な状況へ追い込む攻撃方法を選択したのだった。
    「さぁ、どんどん縛ったるで!」
     きつく怪人の体を戒め、好戦的に笑う小町。
     一瞬、完全に動きが止まった怪人へ――來鯉が駆けた。
    「……そもそも、だね」
     と、マテリアルバット『キヌガサ』を大きく振りかぶり。
    「バウムクーヘン発祥の地は、関西じゃなくて広島なんだよーーーっ!!」
     放たれた一撃は、その手に握られたバウムクーヘンごと怪人の体を大きく吹き飛ばした。
     なんということでしょう。
     地面へ転がった怪人は、呆然と來鯉を見つめ。
    『……ナヌ?』
    「ナヌ、じゃないっ!」
     ――と。來鯉の胸の内、渦巻く様々な鬱憤が一気に噴出した。
    「本ッ当に色々なところで誤解されてるけどさ、バウムクーヘンが日本で初めて作られたのは1919年の広島だからね!? これ以上、間違った知識を広めないでくれるかな!!」
     その怒りに呼応するように、ぺちぺちと発射されるミッキーの六文銭。
    『あっ痛い、痛いクーヘン! でもなんだか、体より心が痛いクーヘン……』
     燃えたり縛られたり足止めされたりしている怪人。
     その背中に、さらなる物悲しさが生まれた瞬間である。

    ●嗚呼、流浪のご当地よ
     灼滅者達とバウムクーヘン怪人の戦いは、ほぼ互角のまま続いていた。
     いくら哀愁を漂わせているとはいえ、ご当地怪人は立派なダークネス。そう簡単に灼滅できる相手ではない。
    「……っ、厄介な!」
     怪人の振りかぶったバウムクーヘンの穴に腕を拘束され、レイは忌々しげに舌打ちひとつ。次の瞬間、裂帛の気合いと共に縛めを吹き飛ばす。
     定期的に周囲を警戒しているが、敵の増援が現れる様子はなかった。
     おそらくは、どのご当地怪人も己のことで手一杯なのだろう。
    (「なんにしろ、好都合だ」)
     目の前の敵に集中できるのだから、と。レイは再び己の腕を蒼い刃へと変化させる。
     一方、藍は攻撃の分散を狙い、歯車型のシールドを前面に展開して怪人へと突撃。
    「貴方の占い方、面白くて好きです、よ」
     けれど、手加減はしない。
     正念場とも言える決戦で、けして倒れぬようにと全力を尽くし。
     怪人の振り回すバウムクーヘンとシールドが衝突。ぎりぎりの拮抗の後、攻め負けたのは怪人の方。
    『くっ……こしゃくなクーヘン!』
     だが、体勢を崩しながらも怪人は藍の体を掴み、力いっぱい投げ飛ばした。
    「すぐに回復します!」
     地面へ投げ出され、痛みにうめく藍へ、誘薙は急いでシールドリングを射出する。
     回復の邪魔をされないよう、五樹の六文銭で怪人をけん制しつつ、
    「ていうか、そろそろ語尾に無理がある気がしますよね……」
    「……ふふ。回復、ありがとうございます」
     どこか呆れたように呟く誘薙へ、立ち上がった藍がほんのわずかに表情を緩める。
     と、六文銭射撃が止んだ瞬間、黒々とした影が怪人を飲み込んで。
    「あー腹減ったなーあの頭の部分食べられねーかなー」
     大きく伸びた影の支点、ギュスターヴが乱暴に頭を掻いた。
     周囲に漂うのは、怪人の放つキャラメルや焼けたバウムクーヘンのいい匂い。抗い難い誘惑にも程がある。
     と――その時、怪人が不意に苦しみ始めた。トラウマが発現したのだ。
    「へぇ。ご当地怪人にもそういうの、あるんだな……っと!」
     少し反応が楽しみだ、と小さく笑って。
     間髪入れずに繰り出されたロバートのジグザグスラッシュが正確に命中。怪人の傷、もといトラウマをさらに深めた。
    「この隙にガンガン行くでぇ!」
     続いて、小町の斬弦糸も命中。――上手い具合にトラウマが加速していく!
     次の瞬間。
    『わ、我輩の祖国は結局どこなのだクーヘン!』
     苦しみ悶える怪人が泣き叫ぶように口にしたのは、己の身に染み付いた悲哀だった。
     ドイツの伝統菓子でありながら日本で市民権を得て。
     広島で初めて製造されたにも関わらず、怪人の愛するご当地は、関西。
    「……怪人、意外とメンタル弱いなー」
     しみじみと呟くギュスターヴ。とはいえ、この隙を逃す手はない。
     小町の振るう大鎌が怪人の体力を削り取り、ロバートのナイフが敵の動きをさらに鈍らせる。
     半ば自棄のように放たれたキャラメルビームを頬に掠らせながら、放たれた藍の黒いスペード。込められた毒の痛み。
     怪人が体勢を崩した瞬間を逃すことなく、來鯉が接近する。
    「真の広島ご当地愛、見せてあげるよ!」
     誤解されがちなバウムクーヘンに対する想いを込めて。
     怪人の体を掴み、地面へ思い切り叩きつける――!
    『ぐふっ……!』
     痛みに悶絶した怪人へ、即座にレイが肉薄して。
    「お前の流浪も、ここで終わりだ」
     蒼き刃が、バウムクーヘンの層を剥ぐよう頭部を切り裂いていく。
    「さあ、最後の一層まで逃さないわよ! ……覚悟なさい!!」
     きつく怪人を見据え、樹は刹那のうちに抜刀。凄まじい速度でその頭部を切り刻んだ。
     その言葉どおり、最後の一層まで木っ端微塵にするような、目にも止まらぬ斬撃。
     そして――彼女が刀を納めると同時に、怪人の体が地面に伏した。
    「あのときの怒り、今、きっちりお返ししたわよ」
     ゲルマンシャークもレディ・マリリンも、もういない。
     ゲルマンご当地怪人との戦いに、ようやく勝利したのだ――と。
     樹は、小さく安堵の息を吐いた。

    ●王国の終焉
     まだわずかに息があるバウムクーヘン怪人へ、藍は静かに近付いた。
    「ねえ、怪人さん。最期に俺の未来を占ってくれませんか? 貴方が刻んだものを受けて、俺はこれからも戦っていきたいから」
    「……よい、クーヘン」
     頷く怪人。だが、その手はバウムクーヘンをぺりぺりとはがし終える寸前、動きを止めて。
     訪れた沈黙。けれど、藍には――灼滅者達には既に視えている。
     今、この時がグリュック王国の終焉なのだ、と。
    「……ああ、タッパー持ってくるの忘れてた! バウムクーヘン持って帰れるかなって思ったのに!」
     呑気に叫ぶギュスターヴに、誘薙も自分の腹部をさすって。
    「なんだか僕もバウムクーヘンが食べたくなってきました……え、五樹も?」
     傍らの霊犬もひと吠え。激戦の直後とは思えないほど、のどかだ。
    「これで、少しは誤解がなくなるといいんだけどなぁ」
     と、來鯉はひどく疲れた顔でため息をついて、霊犬のミッキーを撫でた。
    「……うん、他の敵がこっちに来る様子はない。そっちはどうだ?」
     周囲を注意深く探っていたロバートが、箒で空に飛び上がった樹へ声を掛ける。
    「んー、よくわからないかな。でも、とりあえず、わたし達に近付いてくる敵はいないみたいだよ」
     ぐるりと周囲を見回し、そう報告する樹。
    「ほな、終了……っと」
     小町は、手にした大鎌をスレイヤーカードに納めた。
    「帰ろか、みんな」
    「……うん、そうだね」
     変異させていた寄生体を元に戻すと、レイは王国の中央、堅牢にそびえるビュッケブルグ城を仰いだ。
     ここに来るまで、本当に色々なことがあったけれど。
    「さようなら」
     呟くようにそう告げて、レイは静かに目を閉じて。

     ――グリュック王国にまつわる事件で喪われた全ての命へ、黙祷を捧げた。

    作者:悠久 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2014年4月15日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 3/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 6
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