グリュック王国大決戦~腹黒ビアガール 禁断の泡祭り

    作者:日向環


    「ゲルマンシャーク様ぁ! ゲルマンシャーク様ぁ!」
    「何故、お戻りにならないのです!?」
    「ゲルマンシャーク様がお隠れになられたというのは、本当なのか!?」
    「信じられない……。ゲルマンシャーク様は最強のはず」
    「我々はどうすればいいのだ……」
     口々に嘆きながら、右往左往するゲルマンご当地怪人たち。

    『ラグナロクダークネスにしてご当地幹部たるゲルマンシャーク、死す!!』

     この訃報は、瞬く間にグリュック王国全土に広がり、本土防衛の為に待機していたゲルマンご当地怪人たちは激しく動揺した。
    「黒ビアーん♪ 各々方、黒々と動揺しているビアい(場合)じゃ、ないビアーん。やつらはきっと、ここに攻めてくるビアーん」
     彼女の名は、黒ビールのゲルマンご当地怪人・ビアガール「シュバルツ・ドライ」だ。慌てふためく同胞たちを横目に、ひとり平静を装っている。
    「姐さん。美しいおみ足が、あわあわと震えておりまする」
    「余計なこと言わなくていいビアーん! 氷点下エクストラ怒り泡MAX!」
    「お許しください、姐さん!!」
     余計なツッコミを入れてきた配下のゲルマンペナント怪人に制裁を加えると、ビアガール「シュバルツ・ドライ」は、いまだに右往左往している同胞たちを一瞥する。
    「こんなことしてるビアいじゃないビアーん。やつらが頑張って戦ってくれている隙に、ワタシはとんずらするビアーん。オマエたち、死んでもワタシを逃がすビアーん」
    「シュバルツ・ドライ姐さんの為に!」
    「はーいる、ビアーん!!」
     決死の表情のゲルマンペナント怪人に、ビアガール「シュバルツ・ドライ」は満足そうな笑みを送った。


    「新潟ロシア村の決戦はお疲れ様なのだ。大勝利と言っても、けごんではないのだ!」
     たぶん「過言」と言いたかったのだろうが、いちいち突っ込んではいられないと、灼滅者たちは、真新しい高校の制服を着て上機嫌の木佐貫・みもざ(中学生エクスブレイン・dn0082)の顔をぼんやりと眺める。激戦の疲れが抜けきれていない自分たちに、急遽召集を掛けたということは、緊急の仕事があるということだ。灼滅者たちは、黙ってみもざの次の言葉を待つ。
    「四大ご当地幹部の中でも最強と言われていたゲルマンシャークを打ち破ったことは、歴史的勝利なのだ!」
     ゲルマンシャークが灼滅されたことによって、グリュック王国の周辺に張り巡らされていた「灼滅者を闇堕ちさせる」という結界も消滅していた。
    「グリュック王国を攻略する一大作戦を展開することになったのだ!」
     絶対的な指揮官であったゲルマンシャークを失った、ゲルマンご当地怪人たちは、指揮する者が不在となったことで大混乱のさなかにあるという。この混乱の隙をついて、一気に攻め落としてしまおうというのである。
    「混乱から立ち直って再組織化されたり、他の組織の軍門に下ったりしたら、ちょっと厄介なのだ。新たな脅威になる前に、とっとと全滅させちゃった方がいいのだ。出る杭は打たれるのだ!」
     ぜんぜん意味が違うが、みもざがいうと何となく説得力があるから不思議だ。
    「グリュック王国には、多数のご当地怪人が残っているのだ。だけど、てんでんばらばらで全く連携が取れていないようのだ」
     今ならば一気に攻め寄せ、それぞれのご当地怪人を各個撃破する事ができるだろう。
    「みんなには、このビアガール『シュバルツ・ドライ』を撃破してもらいたいのだ」
     みもざは、手配書風に作成した怪人の似顔絵ポスターを灼滅者たちに配る。ビールの色が黒いのは、黒ビールの怪人だからだそうだ。
    「ビアガール『シュバルツ・ドライ』は、ビュッケブルグ城の裏で、北海道の観光ガイドとにらめっこしているのだ。どうやら、みんなが攻め込んでくることを予測したらしくて、脱出する為のルートを探しているようなのだ」
     日本に詳しくない彼女は、たとえグリュック王国を脱出したとしても路頭に迷ってしまう。だから、予め脱出ルートをシミュレーションしているだという。
    「とりあえず逃げてから考えればいいのに、先に考えてから脱出しようとするから、脱出し損ねちゃうんだよね」
     哀れなりビアガール「シュバルツ・ドライ」。
    「配下に3体のゲルマンペナント怪人がいるのだ。ビアガール『シュバルツ・ドライ』に忠誠を誓っているので、何が何でも彼女を守ろうとするのだ。でも、シュバルツ・ドライは配下を捨て駒としか見てないのだ」
     哀れなりゲルマンペナント怪人。
    「これが成功すれば、ゲルマンご当地怪人を日本から駆逐することができると思うのだ。頑張ってきてほしいのだ!」
     みもざは灼滅者たちを激励する。
    「北海道のお土産は……あれれ?」
     既に灼滅者たちは、相談の為に場所を移動してしまっていた。


    参加者
    雨月・ケイ(雨と月の記憶・d01149)
    明石・瑞穂(ブラッドバス・d02578)
    姫条・セカイ(黎明の響き・d03014)
    松下・秀憲(午前三時・d05749)
    坂村・未来(中学生サウンドソルジャー・d06041)
    狼幻・隼人(紅超特急・d11438)
    シャルロッテ・カキザキ(幻夢界の執行者・d16038)
    ソフィ・ルヴェル(カラフルジャスティス・d17872)

    ■リプレイ


     グリュック王国は激震に揺れていた。
     絶対的な指揮官を失ったゲルマンご当地怪人たちは、混乱のさ中にあった。
     きりもみ状態で吹っ飛び、呪いの言葉を残してレーダー門の前で爆死するソーセージマンを横目に、ビュッケブルグ城の裏手へと回り込む。
    「んー、まぁ頭失った連中って哀れよねぇ。とはいえ、指揮官失って右往左往してる今がチャンスね」
     あちらこちらで敢え無く討ち死にしていくゲルマンご当地怪人たちを一瞥し、明石・瑞穂(ブラッドバス・d02578)は小さく肩を竦めた。同情の余地はないし、もちろんする気もない。纏めて叩き潰して、グリュック王国を奪還する絶好の機会でもあるのだ。
    「ううう~。何か変な臭いがします…」
     相棒のライドキャリバー・ブランの上で、ソフィ・ルヴェル(カラフルジャスティス・d17872)は少々ぐったりしている。
    「ビールの臭いやな。未成年には、確かにこれはきっついで」
     狼幻・隼人(紅超特急・d11438)が顔を顰める。一部のご当地怪人たちが、自棄になって酒盛りをしていたので、そこらじゅうで強烈なビール臭がする。霊犬のあらかた丸が、先に帰ってもいいかと涙目で訴えてきている。可哀相だが容認はできない。
    「大丈夫ですか?」
     姫条・セカイ(黎明の響き・d03014)が気遣っているのは、シャルロッテ・カキザキ(幻夢界の執行者・d16038)だ。病み上がりの為なのか、はたまたこのビール臭のせいなのか、少し顔色が悪い。
     熱を出して寝込んでいるうちに、彼女の祖国からやってきた奴が華々しく散ったのだ。しかし、配下はまだ残っている。なので、病み上がり直後で体調が充分回復しきっていなかったのだが、この作戦に参加した。
    「いえ、大丈夫。奴らには…二度と祖国の土は踏ませない。…向こうじゃまともに動けないかもしれないけど」
     セカイに笑みを返し、シャルロッテは前方をみた。ローラント像の脇でまた一人、ソーセージマンが爆死している。
    「さて、私たちのターゲットは…あれかな?」
     辺りを眺め見ていた雨月・ケイ(雨と月の記憶・d01149)が、一点を指示した。3体のゲルマンペナント怪人と、1体のビアガールがいた。全体的に黒っぽい色をしたビアガールなので、彼女がシュバルツ・ドライに間違いないだろう。
     周囲の喧騒を余所に、4体で顔を突き合わせて何かを見ている。
    「さすがに少しは隠れたり、逃げたりしている事と思…あ、あら?」
     あまりにも堂々としているので、些か呆れ気味にセカイが言うと、その声が聞こえたのか怪人たちがこちらに顔を向けてきた。だがすぐに、関心がなさそうに顔を背けた。また顔を突き合わせて何かを見、あれやこれやと議論している。きっと観光ガイドを見て、脱出ルートを議論しているのだろう。
    「…あー、あー、マイクテストマイクテスト…」
     突然、瑞穂が拡声器を持ち出し怪人たちに向ける。
    「OKね。あー、ご当地怪人に告ぐご当地怪人に告ぐ。アンタ達は完全に包囲されていまーす。ムダな抵抗はやめて、大人しく武器を捨てて投降しなさーい。アンタのお母さん…あれ、ご当地怪人にそんなモンいたっけ?」
     振られた坂村・未来(中学生サウンドソルジャー・d06041)が、ゆるゆると首を横に振る。
    「…まぁいいや、お母さん若しくはそれに近い人は泣いてるぞー」
     若干棒読み気味だが、それはわざとである。
    「うるさいビアーん! 今はそれどころじゃないビアーん!」
     怒られてしまった。
    「面倒だ。とっととやるぞ」
     松下・秀憲(午前三時・d05749)が身構えた。
    「変身! カラフルキャンディ!」
     鼻を摘まみながらソフィは声高らかに叫び、カードデッキを掲げて変身ポーズを取った。
     次いで、シャルロッテがシュバルツ・ドライを見据えると、
    「何か文句あるの!?」
     泡を飛び散らしながら威嚇してきた。
    「この悪夢からだけは…目覚めさせない」
     シャルロッテはスレイヤーカードを解放する。
    「『夢の中なら…ヤれる』」
     力と技の大型のガンナイフを構え、その銃口を怪人に向けた。


    「さーてと、そんじゃ残敵掃討、いってみましょーか」
     瑞穂が、ん~~と大きく伸びをする。拡声器を足元に転がすと、邪魔にならないように右足でひょいと蹴り飛ばす。
    「そこまでです、悪の怪人たち! もう逃げることは叶いません! 覚悟してください!」
     ソフィはグランに跨ると、怪人たちに向かってビシッと指を突き出した。
    「ねぇ、ちょっと聞きたいビアーん。成田空港ってどこにあるビアーん?」
     馴れ馴れしく近寄ってきたシュバルツ・ドライが、北海道の観光ガイドに添付されている地図を広げる。
    「教えてくれたら、この子たちやっつけていいから」
     配下のゲルマンペナント怪人たちを指差す。
    「いいわね? あんたたち」
    「「「び、ビアーん…」」」
     少し悲しそうに、ゲルマンペナント怪人たちは返事をしている。
    「あのね、成田空港っていうのは…」
     北海道の地図とにらめっこしていたところで、成田空港が見つかるわけもない。この怪人たちは成田空港がどこにあるかも分かっていないらしい。
     ケイは呆れ返って、大きな溜め息を吐いた。
    「部下を自分が逃げる為の駒としか見ていないなど…それが上に立つ者のする事ですか! 恥をお知りなさいッ!」
     堪忍袋の緒が切れたセカイが一喝した。しずしずと前に踏み出すと、二振りの小太刀を構えた。
    「ひっ!」
     その迫力に押され、シュバルツ・ドライは勢い良く後方に下がった。
     セカイはそのまま、情熱的な舞を踊るようにゲルマンペナント怪人たちに斬りかかった。
     今の流れで自分たちが攻撃されるとは、これっぽちも考えていなかったペナント怪人たちは回避もままならない。
     ワンテンポ遅れて踏み込んだ秀憲は、ペナント怪人たちの間をすり抜け、ビール怪人に鬼神変を叩き込んだ。黒ビールの泡が飛ぶ。
     同じく隼人もペナント怪人たちの間を抜け、尖烈のドグマスパイクをぶち込んだ。
    「うぎゃん!!」
     変な声を上げて、黒ビアガールは仰け反った。
    「いくよブラン! アクセル全開、全力攻撃です!」
     ソフィを乗せたブランが疾走する。ゲルマンペナント怪人たちの頭上を飛び越え、シュバルツ・ドライ目掛けて突っ込む。
    「びょへ!」
     アメちゃんダイナミックの直撃を食らったビール怪人が、頭から泡を撒き散らす。
    「あ、あんたたち! ちゃんとワタシを守らないとダメビアーん!!」
     ちょっとヒステリックになって、部下を叱咤する黒いビアガール。
    「はーいる、ビアーん!!」
    「シュバルツ・ドライ姐さんの為に!」
    「我ら3人、鉄壁の盾とならん!!」
     気合いを入れなおすゲルマンペナント怪人たち。区別するために怪人A、B、Cと表記することにする。
    「健気だな。だが、それだけに哀れだ…」
     どす黒い殺気をペナント怪人たちに向けて放ちながら、未来は呟いた。何とも救いようのない連中である。
    「余計なお世話かと思いますが、忠誠を誓う相手を間違えているのでは?」
     シュバルツ・ドライに代わって抗雷撃を受けたゲルマンペナント怪人Aに、ケイが同情気味に声を掛けた。
    「俺たちの気持ちが、お前なんかに分かってたまるかー!!」
     何故か泣き叫ぶペナント怪人A。きっと、いろいろと複雑な思いを抱えているのだろう。
     未来は呼吸を整え、無慈悲な歌を口ずさみ始めた。本来なら、「伝説の歌姫を思わせる神秘的な歌声」によって相手を催眠状態へ誘うのがディーヴァズメロディなのだが…。
    「ぐ、ぐぉぉぉぉぉっっっっ!!」
     耳を押さえ、悶絶しながらゲルマンペナント怪人Cは意識を失った。「眠った」というよりは、「気絶した」という表現が正しそうに思える。
    「…歌は苦手、だ…」
     口から泡を吹いて気を失っているペナント怪人Cから、未来はそっと視線を外した。
    「観光ガイドがあるって事は…ずいぶん余裕な様子ですね?」
     シュバルツ・ドライを庇ってきたゲルマンペナント怪人Bをブランとともに蹴散らし、ソフィは黒ビール怪人に尋ねた。観光ガイドを買ってくる余裕があったのだから、とっとと逃げれば良かったように思うのだが、
    「…お嬢さん。それは、言いっこなしでさぁ」
     ペナント怪人Bが何故か江戸っ子言葉を使いながら、ソフィの右肩にそっと手を置き、首を左右に振った。


     ゲルマンペナント怪人たちは善戦した。
     シュバルツ・ドライを守る為に死に物狂いで戦った。
     だが、勢いのある灼滅者たちの敵ではなかった。
    「姐さんを頼む…ッ」
     秀憲の鬼神変をまともに浴び、ゲルマンペナント怪人Aは後を仲間に託して散った。
    「俺は、ここまで、らしい…」
     シュバルツ・ドライを狙った隼人の尖烈のドグマスパイクが、ゲルマンペナント怪人Cに叩き込まれた。がくりと膝を突くと、ペナント怪人Cは俯せに倒れて小さく爆発した。
    「お別れです。…アメちゃんカラフルキック!」
     ソフィの必殺キックが、ゲルマンペナント怪人Bを捉えた。
    「ぐわっ!! …すまねぇ。とうちゃん、国にけーれそうにねぇや…」
     無念そうに笑むと、ペナント怪人Bも逝った。
     彼らが、何のためにそこまでしてシュバルツ・ドライを守ろうとしたのかは、さっぱり分からない。
    「ちょっとぉ! あんたたちが倒されちゃったら、ワタシはどーやって逃げたらいいの!?」
     北海道の観光ガイドを抱きしめたまま、途方に暮れるシュバルツ・ドライ姐さん。どうやら、逃げることしか頭にないらしい。
    「どないする? アレ…」
     オロオロしているだけのシュバルツ・ドライを、隼人は指し示した。
    「問答無用!」
     かける情けなどないと、瑞穂はM37フェザーライト・カスタムを構えると、トリガーを引き絞る。
     仲間たちがあまり負傷してくれないので、ちょっと仕事に飢えていたようだ。ビール怪人を狙撃する瑞穂は、生き生きしていた。
    「こうなったら破れかぶれよ! 氷点下エクストラ怒り泡MAXぅぅぅ!!」
     もやはこれまでと、シュバルツ・ドライは玉砕覚悟だ。巨大泡を大放出すると、すぐさまアルコールの泡も飛ばしてきた。
    「ぶしゅん!」
     鼻から泡を吸い込んでしまったあらかた丸が、大きなくしゃみをする。セカイ、秀憲、隼人、そしてソフィとブランも泡塗れだ。アルコールの泡を浴びてしまったシャルロッテは、気分悪そうにその場に座り込んだ。
    「まったく…。配下を捨て駒としか考えていないとか、実に悪の怪人らしいですね」
     泡を振舞って上機嫌のビール怪人に向かって、ケイがバベルブレイカーを構えて突っ込む。
    「あなたには、かける情けもビールもありません!」
    「ぎょへっ!」
     蹂躙のバベルインパクトの直撃を食らって、シュバルツ・ドライは自分の泡に塗れながら、腰が砕けたようにその場にへたり込んだ。腰つきがちょっと色っぽい。泡塗れの足がセクシーだ。
    「(ご当地怪人ってセクシーな奴多いけど、大体顔が残念なんだよなぁ…)」
     表情を変えることなく、あられもないビアガールの姿をガン見し、秀憲は心の中でそう思った。顔さえ見なければ、目の前の光景もかないエッチっぽい。
    「何か逃げる敵を追うってのは弱いものいじめみたいでアレやけど、こっちもそんなに余裕あるわけや無いし、やれる時にやったろか」
     隼人のブレイジングバーストが怪人に襲い掛かる。
    「わちっ! わちちっ!」
     炎に包まれたシュバルツ・ドライは、その辺を転がりまわった。スカートが捲れあがって凄いことになっている。
    「(ご当地怪人って…以下同文)」
     相変わらず表情を変えずに、秀憲はその様子を眺め見ている。
    「ぜーぜーぜー」
     怪人は虫の息だ。
    「ま、不利な状況でよくやったわねぇ…。最後に何か言い残したいコトとかあるー?」
     銃身で自分の右肩をトントンと叩きながら、瑞穂が尋ねた。
    「ふ、ふわははは! か、勝った気でいるのか!? 笑止! わはは…」
    「足が震えてる」
    「はは…は!?」
     強がっているだけだったらしい。
    「トップが消えても戦い続ける覚悟。若しくは形振り構わず逃げる覚悟。そいつがお前たちには足りなかったのさ、シュバルツドライ」
     未来は二振りのチェーンソー剣を振るう。見も心もズタズタに切り裂かれた怪人の前に、優雅な動作でセカイが詰め寄る。
    「これで終わりにしましょう。貴女方の野望も泡と消えるのですッ!」
     そのまま、すっとすれ違う。
    「な、何よ!? まだ終わりじゃ…あれ?」
     気がついた時には、体が三分割されていた。太刀筋がまったく見えなかった。
    「黒ビアーん♪」
     シュバルツドライは黒い泡となり、消滅していった。


    「うう、酒くせぇ…黒ビールは甘くて香ばしいらしいけど」
     服に染み込んでしまった臭いを嗅ぎ、秀憲が眉根を寄せる。
    「まー、お前のこと思い出すのは成人してからかな」
     今日の戦いを肴に友人たちとジョッキを煽るのは、まだ数年先のことだ。
    「んーご当地っておいしそーなのおおいけど、ビールは良くわからんなぁ。大人はあんなのがええんやろうか?」
     隼人がビールを口にできるのは、秀憲より更に数年後だ。
    「私も3年後には…Schwarzbierを呑む…? あ…みんなも…食べる?」
     何処からともなく取り出したソーセージを頬張りながら、シャルロッテは言った。
    「あーそういや、こいつらもう巨大化せんのやな。ちょっと残念というか、あれはあれでスリルあったんやけどな」
     ソーセージをあらかた丸と分け合いながら、隼人は何か物足りなさそうに白い歯を見せた。
    「みんな片付いたみたいです」
     ブランに乗ってグリュック王国内を一回りしてきたソフィが、仲間たちに報告する。
    「これにて無事任務完了ですね…。さて、木佐貫さんへのお土産は何にいたしましょうか」
     セカイが思い出し笑いを浮かべた。
    「あ、そうか。みもざちゃんにお土産頼まれてたわねぇ…んー…いっか、メンドくさいからバター飴で」
     ビュッケブルグ城をぼんやりと眺めていた瑞穂が、思い出したように応じた。
    「北海道土産はジンギスカンキャラメルやっ。ちゃんとみもじゃに買っておかんとなっ!」
     隼人は既に決めていたらしい。
    「今はちょっと懐が寂しいので、なんかその辺の持って帰っても差し支えない物をおみやげにましょうか」
     何か拝借できるものはないかと、ケイは周囲を物色し始めた。
    「ゲルマン怪人達の活動はこの戦いでほぼ幕、だな」
     ポツリと未来が呟く。思い上がった身勝手な振る舞いには、必ず滅びが訪れる。
    「Rest in peace,black beargirl.and…」
     未来はそこで言葉を切り、僅かに思案すると
    「Have a good dream from tonight at least,German villans」
     と続けた。
     グリュック王国は静けさを取り戻した。
     兵どもが集った王国も、今や夢の跡。
     灼滅者たちは踵を返すのだった。

    作者:日向環 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2014年4月15日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 1/感動した 0/素敵だった 3/キャラが大事にされていた 5
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