グリュック王国大決戦~酒と泪とシャークと女

    作者:宝来石火


     ゲルマンシャーク灼滅さる!
     その報はグリュック王国に残るゲルマンご当地怪人達の中に激震を走らせた。
    「嘘ーセージ! ゲルマンシャーク様が敗れるなんてありえないヴルスト!」
    「しかし、現にそういう報告が多方から来ているのだ! 我らのエニグマ通信網に間違いはない!」
    「わ、我々はこれからどうすれば……」
     規範と規律を持って知られるゲルマンの怪人達も、予期せぬ事態に浮足立つ。ゲルマンシャークに加え、レディ・マリリン司令官代理も失ってしまった今、彼らを統率する地位にある者も、能力を持った者も居なくなってしまったのだ。
    「少し……外の風にあたってくるビア」
     ゲルマンご当地怪人ビアガールの一人が、シュワシュワと泡を弾けさせつつ、フラフラと戸外へと出て行った。
     ひゅう、と冷たい風が吹く。
     頭の泡が風に乗り、音も立てずに千切れて飛んだ。
     暦の上では既に春だが、北海道はまだまだ寒い。冷えたビールをキューッといくのが心地よいのは、もうしばらく先の話……。
     無意識の内にそんなことを考えていた自分に気付き、ビアガールは苦笑した。
    「ふふ……私もすっかり、この国のビールの飲み方に慣れてしまっていたビアね……」
     ドイツでは、夏には夏、冬には冬のビールを楽しむ。
     こんな寒い時期には温めた黒ビールにハチミツやスパイスを加え、体の内から暖を取ったものである。
     自分達が遠い異国の地に来ているのだと、ビアガールは改めて思い知らされた気分だった。
    「ゲルマンシャーク様……貴方を失ったこの哀しみが癒えるまで、弔い酒に浸ることをお許しくださゴクゴクゲェーップ」
     涙ながらに手にしたジョッキを空にしたビアガールは、フラフラと駐車場の方へと千鳥足で歩いて行った。
     

    「まずはみんな、お疲れ様……本当に」
     春休みにあっても常と変わらぬ制服姿のまま、鳥・想心(心静かなエクスブレイン・dn0163)は集まった灼滅者達に、激戦を労う言葉をかけた。
     武蔵坂学園の生徒の中にも少なからず被害はあった――が、ゴッドモンスターの救出を始めとして、数々の強敵を討ち取ったこの戦争。控えめに言っても灼滅者達の大殊勲といえるだろう。
    「中でも、ゲルマンシャークを倒せたのは大きかったね。彼を失ったグリュック王国からは、灼滅者を闇堕ちさせるあの厄介な結界が失われたようなんだ。
     更に、ゲルマンご当地怪人達は司令塔を失って混乱の坩堝にある……この機を逃す手はない、というわけだよ」
     ゲルマンシャークを失ったショックと、指揮系統が崩壊した混乱から、ガタガタのグダグダになっているグリュック王国のゲルマン怪人達。しかし、彼らに時間を与えれば、自分達で組織を再編するなり、他のご当地幹部の下に身を寄せるなりして、再びダークネスの一組織として脅威になってしまうだろう。
    「そうなる前に、一気に叩く。統制のとれていないご当地怪人を、それぞれ各個撃破してしまおうというわけだね」
     この場に集められた灼滅者には、ゲルマンご当地怪人のオーソドックスなタイプの一、ビアガールの一人を灼滅してもらいたい……と、想心は言う。
    「彼女達とはこないだ戦ったばかり……って人もいるかな?
     一応説明しておくと、彼女の使う技は――目の前の相手を殴りつける大ジョッキ殴りに、アルコールの泡を浴びせかける範囲攻撃。宴会を開いて自分と仲間を回復することもできるけど……彼女が一人の所を狙うんだ、あまり効率のいい回復手段とは言えないね」
     彼女は一人、グリュック王国にある広い駐車場の片隅で、ボロボロのトラバントにもたれかかり、日のある内からビールを浴びるように飲んでいるという。灼滅者達と相対したなら大いに絡まれることだろうが、まぁ、気にせず灼滅すればいい。
    「君達も疲れているだろうけど……今、ここに集まってもらっている皆は、やる気が疲労を凌駕している、そんな面々のはずだ。
     掃討戦、もう一頑張りお願いするよ」


    参加者
    一橋・智巳(強き『魂』を求めし者・d01340)
    水澄・海琴(かっとおふすたいる・d11791)
    神楽火・國鷹(鈴蘭の蒼影・d11961)
    深海・るるいえ(深海の秘姫・d15564)
    安藤・小夏(片皿天秤・d16456)
    神子塚・湊詩(藍歌・d23507)
    奏川・狛(獅子狛楽士シサリウム・d23567)
    牙島・力丸(風雷鬼・d23833)

    ■リプレイ


     寒風すさぶ4月の北海道に、少女の声がこだましない。
    「……グリュック王国よ、私は帰ってきたー……!」
     目標以外のダークネスに見つからないよう、力一杯小声で叫ぶという器用な芸を見せつける深海・るるいえ(深海の秘姫・d15564)。
     王国へ潜入した経験を持つ彼女を先頭に、六人の灼滅者達はグリュック王国駐車場へと向かっていた。
     ……そう、六人である。
    「二人とも、無事だと良いけど」
     先行した仲間を憂い、神子塚・湊詩(藍歌・d23507)は呟くように言葉を漏らす。
     情報を引き出すべく神楽火・國鷹(鈴蘭の蒼影・d11961)が先行して王国内に進入し、安藤・小夏(片皿天秤・d16456)が霊犬ヨシダを連れてそのカバーに当たったのだ。
     相互の連絡手段や合流手順も決めていないため、不測の事態があったとしても素早い対応ができるとは限らない。
     何はなくとも、ビアガールを確認できるところまで急ぎ歩を進める六人である。
    「大切な上司を失ってヤケ酒かっくらう。
     気持ちは……解らないでも無いですけどね」
    「うんうんっ。ここはいっちょ、思い切り絡まれてきますか!」
    「そ、それはまぁ程々で……」
     酒に溺れるビアガールに、幾らか同情を見せる奏川・狛(獅子狛楽士シサリウム・d23567)に、何故だか妙に楽しそうな水澄・海琴(かっとおふすたいる・d11791)。
    「オレ、酔っぱらいの話し相手なんてイヤだぜー?」
    「なぁに、一発ぶん殴って酔いを覚まさせてやりゃいいのさ」
     酒臭いのはお断りだと牙島・力丸(風雷鬼・d23833)が閉口すれば、一橋・智巳(強き『魂』を求めし者・d01340)が笑って言って、力丸の頭をくしゃくしゃ撫でくり回す。
    「やーめーろーって……! お、あれ小夏じゃないか?」
     智巳の頭を鬱陶しげに振り払っていた力丸が、駐車場脇の茂みにしゃがみ込む小夏の姿を目に止めた。
     小夏の側も仲間に気付いて手招きする。
     アイコンタクトを交わし合い、茂みに集まる灼滅者達。茂みの向こうでは、先行した國鷹がビアガールと何やら話しているのが見て取れた。彼の脇に佇んでいるヨシダは、主の命令に忠実に、いつでも護衛に飛び出せるよう身構えている。
    「やぁやぁお待たせー。
     ……で、首尾はどんな具合? 何か聞き出せた?」
    「だいぶ苦戦してるみたい。
     ……酔っぱらい相手だし、ねー」
     海琴の問いに、苦笑を浮かべて小夏は言う。それでも、ビアガールのマシンガンのような愚痴を頷き笑って宥めてすかし、彼女を怒らせてしまうという最悪の事態は回避しているようだ。
    「ただ、攻撃こそされてないけどマズいことになってて……みんな、すぐに飛び出せる準備を――」
     小夏がそう言うが早いか、ビアガールはごっきゅんごきゅんと手にしたビールを煽ってみせる――と、その場に居た灼滅者全員が嫌な感覚を感じ取った。
     ビアガールがジョッキをぐいと煽るたび、彼女のサイキックエナジーが高まっているのだ!
    「まさか、あれ……『ゲルマン大宴会』になってます!?」
     そう。酔っぱらいを持ち上げて機嫌を取る國鷹の話術は確かに、彼女を怒らせはしなかった。が、調子づいて盛り上がったビアガールの酒は弔い酒から仇討決起を誓う宴の酒へと変じてしまっていたのだ!
     二人と一匹で戦端を開くわけにもいかず、眼前でダークネスが自らの能力を高めるのを指を咥えて見ているしかできなかった……先行し、少数で情報収集に当たったことが裏目に出てしまった形だ。
    「これでもう三回目なんだよっ! みんな、急いで戦う準備して!」
    「準備なんざ」
     皆に臨戦態勢を促す小夏の横を、轟っ、と炎の盛る音を残して、赤い影が跳んだ。
    「この腕一つあれば充分ってなッ!」
     茂みの中からただの一跳びでビアガールまで躍りかかった、智巳が手にするは、拳一つ。轟炎の如きオーラを纏った拳に、バチリバチリと稲妻が走る。
     この戦いにおいて智巳が成さんとする事はただ一つ。とにかく叩き、とにかく殴り、敵を灼滅することのみ。

     ――バジィッ!!
     
    「ビアァーッ!?」
     愚痴と酒とに溺れ、全身隙だらけだったビアガールの懐深くに踏み込んでの、抗雷撃。
     ビアガールの体は泡を舞い散らせながら、宙に飛ぶ。
    「くっそーっ、先越された!」
     拳を握った力丸が飛び出したのは、その直後だ。
    「風雷鬼様のお通りだぜ!」
     叫びとともに開放される羅刹の力。額には黒く輝く角が生え、その右腕は鬼の剛腕へと忽ち変じる。
    「ぶっ飛ばしていくぜー!」
     ボゥッ、と。
     風を切るのではなく、風ごと砕かんばかりの勢いで叩きつけられる鬼神変が、ビアガールの体をアスファルトへとめり込ませた。
    「――ッ!?」
    「続きますっ! 転身っ!」
     軽やかに舞い出た狛が高々と天に叫べば、そこにもう彼女の姿はない。
     そう。その瞬間、狛の体は、沖縄はシーサーのご当地怪人シサリウムの姿へと転じるのだ。
     怪人の姿を持つヒーロー、獅子狛楽士シサリウムは、正義と沖縄を愛する心を胸に天高く跳んだ。
    「お酒に漬け込むならこれが一番グース! コーレーグースキィック!」
    「ビビビアーッ!?」
     島唐辛子のオーラとともに繰り出された必殺のご当地キック――コーレーグースキックが、地にめり込んだビアガールへの焼けつくような追い打ちとなって叩き付けられた。

     次々と連打される灼滅者達の攻撃。切って落とされた戦いの火蓋を前にして、國鷹は愛想笑いの仮面を脱ぎ捨て、刃を振るう。
    「茶番は終わりだ……溜めた力、吐き出してもらうぞ」
     得物の名はレインバスター。天頂の青を刀身の輝きとするサイキック斬りが、ビアガールを袈裟懸けに斬って落とす。
     ゲルマン大宴会で蓄えた力の一部が、その傷口から昇華して、散った。
    「だッ――騙したビアねー!?」
    「おねーさん、怒っちゃだめだめ♪ ほら、かーんぱいっ!」
    「ビアんっ!?」
     続けざま。横合いから飛びかかった小夏が、『稀』なる名を持つ盾を構えて、シールドバッシュで殴りつけた。
     ガシャンとグラスの弾けんばかりの音を立て、衝撃にビアガールの頭部がキンキンと震える。
    「ごめんねっ、ちょっと勢い強かった?」
    「こ、この小娘がーっ!?」
    「娘じゃないもーん」
     怒声を受けても笑顔を崩さず。
     小夏は飽くまで飄々と敵との間合いを見計らいつつ、ボソリと呟いた。
    「ホントはとことん飲ませて酔わせて、不意打つつもりだったのに、なー。
     まぁ、不意打ち自体はできたから結果オーライってことで!」
    「うぅん、これはなかなか邪神様信仰に向いている性格……」
     強かな小夏に、感心しきりのるるいえであった。
     一方。
     ビアガールに一太刀を浴びせ、一度距離をとった國鷹に、湊詩が話しかけた。
     ゲルマン怪人達の状況には彼もまた、少なからず興味があったのだ。
     ドーピングニトロによって肉体を暴走状態に持ち込む前に、確認できることはしておきたかった。
    「聞き出せたこと、何かあった?」
    「……これは聞き出したわけではなく、勝手に向こうが話してきたのですが。
     エニグマ通信網とは『エニグマ シミュレーター』とかで検索して出てきたアプリを使って文章を変換してから、普通にメールでやりとりするだけの連絡網だそうです」
    「いや、そこはせめてアプリ自前で用意しようよ!?」
     通信網にちょっぴり興味のあった海琴としては、衝撃のがっかりオチである。
    「酔っていたとはいえ、エニグマ通信網の秘密を外部に漏らしてしまうとは……」
     項垂れるビアガールの、その眼尻には涙が光る。
    「他にも騙されて色んなことを喋ってしまったビア……。
     私の生い立ちとか、服のサイズとか、ゲルマンシャーク様への熱い想いとか……でも金のソーセージマン様もちょっと素敵かもって思ってしまったり……」
    「結局、こんな下っ端では有用な情報は何も持っていなかった、ということのようです」
    「がーんビア! 弄ばれたビア!」
     もはや媚びる必要をなくした國鷹の心無い言葉に、ビアガールはますます傷ついた。
    「嗚呼、ゲルマンシャーク様……貴方さえご健在であればゴクゴクゴクリン」
     涙を飲んで(主成分はビール)ゲルマンシャークに思いを馳せる、そんなビアガールに海琴が問う。
    「ゲルマンシャークはむちゃくちゃ強かった……だが、わたしは正直、それくらいしか知らないんだ。
     ……姉さんから見て、ゲルマンシャークってどんな感じだったんだい?」
    「一言で言うなら……最高の男ビア。あれほど強く凛々しく逞しく気高く賢く勇ましく雄々しくシャークなお方は他にはいない……」
    「最後の一つがめっちゃ条件絞ってるからじゃねぇか?」
     智巳のツッコミは無粋だが、酔っぱらいの耳には都合良く入らなかったらしい。
     一方るるいえは、ビアガールの言葉にウンウンと頷いて同意した。
     彼女はかつてグリュック王国に潜入した際に敗れて闇堕ちし、一時的にゲルマンシャークを崇めていたこともあったのだ。
    「確かに、ゲルマンシャークは敵ながら天晴れだった。闇堕ちしてた時に、石化してた彼にシュールストレミングを供えたのも今ではいい思い出……」
    「グリュック王国七不思議の一つ、『ゲルマンシャーク様が何か臭い事件』の犯人はお前かビアーッ!」
    「うるさい! カツオのタタキを返せビーム!」
    「ビアーッ!?」
     壮絶な八つ当たり精神の込められたるるいえの邪神ビームが、ビアガールに降り注いだ。
     膝から崩れ落ちるビアガール。そのまま前のめりに倒れ――そうになる所を、寸前で両手に持ったグラスを立ててその身を支える。
     大きな眼を見開いて、ビアガールは灼滅者達を睨みつけた。
    「ゲルマンシャーク様はなー……あの厳ついお顔の中にもそこはかとない優しさが搭載されててなー!
     それを灼滅者ごときが……ごときに……灼滅……。
     って、お前達灼滅者じゃねーかビア!?」
    「今気づいたグース!?」
     狛ことシサリウムも思わず驚く衝撃の酔っ払いぶりであった。
     そりゃあ、まともな情報なんか引き出せるはずがなかったのである。
    「この怒りと悲しみの涙を貴様等の血で洗い流すビア!」
    「話の続きは闘いながら、か……仕方ない!
     戦・陣・光・臨(テンペストイグニッション)!」
     ビアガールの怒声と海琴のコードが、戦いの第二ラウンドの始まりを告げた。


     白翼が踊る。
     湊詩がしなやかにその身を捻れば、半拍、その軌跡を撫でるかのように翼端の金が陽光を払い、輝きを残す。
    「親しい人が居なくなった寂しさは、分からなくもないし」
     ふわり、と音もなく翼が広がり、ビアガールの視界から湊詩の身を隠した。
    「寂しく故郷に帰るだけなのは、虚しい」
     瞬間奔る、一条の閃光。
    「でも、倒すけどね。
     どうであれ、此処は僕達の場所だから」
    「び、ビァー……ッ!?」
     ビアガールは悲鳴を上げてその身をこわばらせる。
     それは契約の弾丸の一撃。翼の陰から放たれた、影さえ見せぬ一発必中のピーカブー。
    「……ひゃー! かっこいーっ!」
    「そういうのは、ちょっと照れるね……」
     小夏の黄色い声援に、湊詩は少しはにかんで、顔を隠した。

     ――戦いは速やかに佳境へと差し掛かっていた。
    「ゲルマンシャーク様は寒空の下で服を眺めていた子供にわけもなくトランペットを買ってやるような優しさを持ってたらいいなと私は思うビア! だから脳天砕けろ!」
    「いい話だぁ……助手子ぉ、お酌付き合ってあげて……って助手子ーっ!?」
     ゲルマンシャーク偉人伝からいつのまにか全盛期のゲルマンシャーク様(予想)へと移り変わっていった話に涙をちょちょ切れさせていた海琴は、自らのビハインドの脳天に大ジョッキが叩き付けられた様を見て我に返った。
     るるいえのナノナノであるてけり・りを狙った攻撃を、助手子が庇ったのである。
     ビアガールはゲルマン大宴会で強化された攻撃を、酔っ払って戦術もマトモに考えられない頭で適当に辺りにばらまいているのだ。
     ついでに戦術だけでなく、喋る言葉もどんどん支離滅裂になってきている。るるいえと会話ができるほどに。
    「悲しい時はシメサバでも頭に乗せて踊れば楽しい気分になるぞ。いや、マジで」
    「なるほどビア。サバは足が速いからステップも三割増しビアね」
    「そう、稼ぎに追いつくマンボウなしともいう。アカマンボウだっていいじゃない、赤身だもの。いあいあ」
    「ゲルマンマンボウ、ゲルマンボウ……あらやだゴロがいい。ビアビア」
     聞くだけでSAN値の減りそうな会話を前に、力丸はらしくもなく強い脱力感を覚えた。
    「なぁコマ……ご当地ヒーローや怪人って、みんなあぁなのか?」
    「わたくしはご当地ヒーロー及び怪人への風評被害と断固戦うでグース」

    「やっぱ酔っぱらい相手は、力ずくでおとなしくさせんのが一番よな」
     どうしようもない光景を前に、そう言って、智巳は跳んだ。
     その手に握るは、紅蓮のハルバード、砕龍爆斧【イフォールト・ブラッド】。気魄に充ち満ちた斧の刃が、前後不覚のビアガールの脳天に狙い違わず叩き込まれる。
    「ビアーッ!?」
     アルコールに火が付くのではないかと思われるほど、気合の乗った龍骨斬りに、ビアガールはたまらず悶絶した。
    「まともに話せる口もないのなら、これ以上相手をする価値もない」
    「助手子のカタキーっ!」
    「し、死んでないよー? 今、ウチのヨシダとてけり・りちゃんが一生懸命回復してるよー?」
     國鷹のアンチサイキックレイが。海琴のホーミングバレットが。左右から一切の逃げ場を塞ぐように同時に叩きこまれ、ビアガールを中心に激しい爆炎が上がる。
    「やったか!?」
    「まだでグース!」
     シサリウムは叫んで爆炎の中へと飛び込むと、次の瞬間、ビアガールを背後から羽交い締めにして天高くへと跳び上がる!
    「びああ……うぅ、頭が割れそう……」
     酔いによる頭痛とこれから起こることへの予測から、ビアガールは二重の意味を持たせて呟く。
     シサリウムは落下地点に構える仲間に向けて、ありったけの声を張り上げた。
    「力丸、後は宜しくグース!」
    「まかせろ、コマ! 見せてやるぜ、人造灼滅者の力!」
     ビアガールを抱えて落下するシサリウムの体を、シーサーのオーラが包み込む。まるで、今にも悪鬼に喰らいつかんと牙を剥き出し、口を大きく開いているかのようだ。
     力丸は鬼の拳を固く握り、天へ向かって跳ね上げるように突き上げた。その様はさながら強く歯を食いしばった仁王の如し。
    「シーサーダイナミック!」
    「力丸スーパーアッパーッ!」
     二人の叫びが同時に響き、阿吽の技がビアガールの頭部へと突き刺さる。
     それは、誰も見紛うはずもない、決着の一撃だった。

    「ゲルマンシャーク様……今、私も貴方の下へ……」

     散る間際、正気を瞳に宿したビアガールはポソリと忠誠の言葉を残し、宙空で爆発四散した。
     かくして、ゲルマンご当地怪人ビアガールは酒と泪とシャークに殉じてこの世を去ったのである。

    作者:宝来石火 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2014年4月15日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
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