グリュック王国大決戦~落日のビュッケブルグ城

    作者:小茄

    「なんて事だ……あのゲルマンシャーク様が……」
    「レディ・マリリン司令官代理もご不在、こうなっては我々ももはや……」
    「さっさと身の振り方考えた方がいいかもー?」
     主たるゲルマンシャークを失い、グリュック王国は大混乱のさなかであった。
    「お待ち下さい」
    「はっ?! お、お前は!」
     と、そこに居たのはゲルマンちっくな軍帽と軍服、何故かその下にスクール水着を身につけた1人の少女。
    「誰だっけ……?」
     顔を見合わせるソーセージマンとビアガール。
    「ゲルマン潜水艦怪人です! コホン、我々の受けた任務はあくまでこの王国を守る事。ゲルマンシャーク将軍を失った事は痛恨の極みですが、我々はあくまでゲルマン怪人としての誇りを――」
    「はぁー、と言ってもこのシーズンオフじゃ雇って貰える場所も無いわよねぇ」
    「取りあえずソーセージを食いつつ考えるか」
    「わしゃさっさと逃げる事にするかの」
     少女は必死にアピールするが、バイト情報誌を読みつつ目もくれないビアガールを始め、他の怪人達もまともに取り合わない。
    「ふん、ゲルマン軍人はいかなる時でもうろたえず、職務に忠実なのだ。わが艦はこれよりビュッケブルグ城中庭の守備任務に就く」
     浮き足立って混沌とする怪人らを余所に、少女は数体のゲルマンペナント怪人を連れて部屋を後にした。
     

    「本当にお疲れ様。貴方達の奮戦によって、恐らく四天王最強のゲルマンシャークを討ち取ることが出来ましたわ」
     ぱちぱちと手を叩くのは有朱・絵梨佳(小学生エクスブレイン・dn0043)。
    「で、ゲルマンシャークを討ち取った事で、結界を失ったグリュック王国をこの期に攻略してしまう事になりましたの」
     灼滅者を闇堕ちさせると言う結界がなくなり、しかもゲルマンご当地怪人らは大いに浮き足立っている。
     攻め込むのにこれほどの好機は無いだろう。
    「この期を逃せば、彼らは再組織かされるか、もしくは他の組織に合流すると考えられますわ。そうなる前に、各個撃破致しましょう」
     怪人は現在、指揮を執る者もなく、連携も全く取れていない。じゃあいつ叩くの? ……と言う奴である。
     
    「貴方達に担当して頂きたいのは、ゲルマン潜水艦怪人と3体のゲルマンペナント怪人ですわ」
     彼女らは、グリュック王国内にあるビュッケブルグ城の中庭を守備している。
    「浮き足立つ怪人も多い中、最後までグリュック王国を守って、ゲルマンシャークに殉じようという腹づもりの様ですわね」
     そんな勇ましい潜水艦怪人と、共感したペナント怪人3体が中庭で待ち構えている。
     広く見通しも良好。そして他の怪人達が増援として参戦する事もない。戦場としては理想的だろう。
     
    「作戦が成功すれば、ゲルマンご当地怪人は日本から駆逐されるはずですわ。このチャンスを活かして参りましょう!」
     そう言うと、絵梨佳は灼滅者達を送り出すのだった。


    参加者
    灯屋・フォルケ(Hound unnötige・d02085)
    土方・士騎(隠斬り・d03473)
    ピアット・ベルティン(リトルバヨネット・d04427)
    アレクサンダー・ガーシュウィン(カツヲライダータタキ・d07392)
    ソフィアリ・ガーランド(ブルーイッシュライト・d08803)
    狗崎・誠(猩血の盾・d12271)
    悪野・英一(悪の戦闘員・d13660)
    ジョージ・ハチジョウ(グリーン・d24896)

    ■リプレイ


     ご当地幹部四天王の中でも最強の呼び声高いゲルマンシャーク。彼を失った衝撃は計り知れないものであった。
     特にゲルマンシャークの拠点であったグリュック王国は、舵取りを失った船の如く、ただただ右往左往するばかり。
     他勢力への合流を模索する者、取りあえず当面の生活費を求めてバイト先を探す者、ただただ困惑する者、様々である。
     その上――
    「て、敵襲だー!」
    「なんだと!? ど、どうすれば」
    「どうするもこうするもあるまい、こんな状況で戦えるか! わしは自室に戻る!」
    「私はさっさとおさらばよー!」
     この機に乗じて灼滅者が大挙として押し寄せて来たのだから、混乱に更なる拍車が掛かるのは必定であった。

    「チャンス到来、ですね。ここで一気に、攻め落としたい所です」
     ソフィアリ・ガーランド(ブルーイッシュライト・d08803)は、逃げ惑い、或いは各個撃破されてゆく怪人達を横目に見つつ、足を速める。
     彼女らの一隊が目指すのは、ゲルマンシャークの居城であったビュッケブルグ城。
    「ここも閑散としているな」
     狗崎・誠(猩血の盾・d12271)は、標的でない怪人に妨害を受けぬ様警戒するが、思いの外すんなりと城内への侵入を果たすことが出来た。
     もはや指揮を執るものもおらず、組織的な抵抗は皆無と言って良さそうだ。
    「追撃の灼滅者攻撃でグリュック王国へのダメージは加速した。……げふん、何でもありません」
     ぼそぼそと何事か呟くジョージ・ハチジョウ(グリーン・d24896)。
     主を失い、今後の方針も固まらぬうちに速攻を掛けたのだから、さすが武蔵坂汚いと言う所だろうが、これも戦争である。
     抵抗を受けぬまま進行を続けた一行は、ついに目的地である中庭へと到達する。
    「何だお前達は!」
     ザザッと素早い動きで灼滅者の前に立ちはだかるペナント怪人。三色旗の黒、赤、金はそれぞれ勤勉、情熱、名誉を表わすと言われている。
    「……Guten Tag.Matrose」
     ドイツ出身で自身も日独のハーフである灯屋・フォルケ(Hound unnötige・d02085)は、なおも城を防衛せんと務める船乗りへ、敬意を込めてそう挨拶する。
    「貴様ら、この城を……王国を落とそうと言うのか。だが容易くはいかぬぞ!」
     勇ましく応えるのは、ゲルマン軍人風のコートに軍帽を身につけた少女風の怪人。……ただ、なぜか口元にはシュノーケル、そしてコートの下にスクール水着を纏っている。
    「将軍を失ってなお、職務を全うするその忠義、真見事です。しかし……、貴方は潜水艦怪人……陸上に出てもはや潜水艦と言えるのでしょうか……?」
    「い、言えるに決まってるだろう! 潜水艦だって常に海に居るわけではないわ!」
     と、先制の口撃を始めたのは悪野・英一(悪の戦闘員・d13660)。
    「せめて噴水の中から出てくるとか意表を突こうとするべきだと思うぞ。忍んでこその潜水艦だろうに、堂々と陸に上がってどうする」
     苦しい反論を続ける潜水怪人へ、続けて言うのは狗崎・誠(猩血の盾・d12271)。
     覚悟を決めた相手と正面からぶつかるのは得策ではなく、その戦意を少しでも削ごうと言う狙いである。
    「(……噴水から、そう言うのもあったな)……いや、私は逃げも隠れもせぬ!」
     言われてからふと気づいたように、潜水艦怪人は中庭の噴水に目を向けるが、後の祭りである。しょうがないので格好を付ける事にした様だ。解りやすい。
    「うんうん、潜れない潜水艦って唯の船で潜水艦である意味無いよね。どうして潜らないの? もしかして潜れないの? そんな事ないよね?」
     内心気が引ける部分はあるにせよ、ピアット・ベルティン(リトルバヨネット・d04427)は哀れむような視線を向けつつ更に問いかける。やるからには容赦なく、だ。
    「なっ、何を戯れ言を! 私はだな――」
    「まさに。ゲルマンシャークに殉じ様とするその心意気は天晴れ! だが潜水艦を司る者としては失格だ。主の本意を汲み取りその隠密性を生かして有志を脱出させるべきだった」
     何か言おうとする怪人の言葉を遮り、口を開いたのはアレクサンダー・ガーシュウィン(カツヲライダータタキ・d07392)。
    「なっ、それは……と言うか、私は潜水艦を司る者ではなく、私が潜水艦だ!」 
    「全くですね。潜水艦は本来、単独でも重要な任務に就くことが多く、例え指揮系統を失っても、艦の責任者は部下の生命と貴重な敵情報を生きて持ち帰るのに全力を尽くすハズなんですが……貴女はどちらも出来てませんね」
     怪人の弁解などどこへやら、呆れたように言うフォルケ。
     先ほどは敬意を表した彼女も、任務とあれば手心はなしだ。
    「な、何なんだ貴様らは! ……私を……ゲルマン軍人を侮辱するつもりか!」
    「中佐殿を侮辱する事は我々が許さんぞ!」
     怒りを露わにする怪人。ペナント怪人達も、かなり怒っているようだ。
    「問答無用、かかれ!」
    「おおっ! 我らのゲルマン魂を見よ!」
    「ビュッケブルグ城、取らせてもらう」
     気炎を上げる怪人達を見据え、蝕喰の柄に手を掛けつつ言う土方・士騎(隠斬り・d03473)。
     武の心を尊ぶ彼女は、策を弄せず正面から勝負に行く心づもりなのだろう。
     かくして、ビュッケブルグ城の一角において、意地と誇りを賭けた最後の戦いが始まろうとしていた。


    「そもそも潜水艦は防衛に向いて……」
    「まだ言うか!」
    「失礼、変身を忘れておりました。コード……Combatant! 変……身!」
     尚も言葉を紡ごうとする英一は、怪人に遮られたのを切っ掛けに一礼。スレイヤーカードを解放する。
     同様にジョージも、ベルトを用いて蒼と緑のフルメタルアーマーを纏う。
    「猪口才な! こいつを食らえっ!」
     ――ダダダダッ!
     一斉に火を噴くペナント怪人の機関銃。
     対して灼滅者達は散開し、前衛は一気に間合いを詰める。
    「援護します」
    「ゲルマンシャークが寂しくない様に、同じ場所に送ってあげるの!」
     バスターライフルの引き金を引くフォルケ。同時にピアットは結界を展開する。
    「ぐうっ!」
     眩い光線がペナント怪人を射貫き、結界が怪人達を飲み込むのに呼応した士騎は、低い姿勢から刀を振り抜き、ペナント怪人の足首を斬り付ける。
    「お、おのれぇっ!」
     怪人はぐらりとバランスを崩し、7.92ミリ弾が明後日の方向へ飛ぶ。
    「行くぞ!」
     立ち直る暇を与えぬ波状攻撃は、アレクサンダーのライドキャリバーより放たれる機銃掃射。
    「がふぁっ!」
     ペナント怪人は全身に数発の直撃弾を受けて吹き飛ぶ。
    「ハンス、死ぬな! その様な命令は出していないぞ!」
    「済みません……中佐……先に逝かせて頂きます」
     呼びかける潜水怪人に辛うじてそう答えると、がくりと絶命するペナント怪人。
    「私達も、負ける訳にはいかないのです」
     ――バッ!
     若干追撃を躊躇わせる空気もあるが、ソフィアリはそんな空気を吹き飛ばすように神薙刃を放つ。
    「ペナントは布だよな。――……布は、燃えやすいよな?」
    「な、なにっ?」
     時を同じくして攻撃を仕掛ける誠。放たれた禁呪がペナント怪人らに追打ちを掛ける。
    「ぐわぁぁっ! 炎がぁ!」
    「イーーー! イーー!」
     ――ドシュッ!
     火だるまになって悲鳴を上げるペナント怪人に対し、螺旋突きを見舞う英一。
    「クルツ!」
     ペナント怪人は、ぶすぶすと煙を上げながら崩れ落ちてそれきり動かなくなる。
    「貴様らの事は忘れぬ……」
     潜水怪人はつかの間彼らの冥福を祈ると、すぐさま灼滅者達を睨み付ける。
    「主の死した王国は終焉するのみ、もう諦めるといいの」
    「……例えそうだとしても、幕を引くのは貴様らではない! 我々自身だ! 1番から4番、てーっ!」
     ――バシュッ!
     発射管より扇状に放たれる魚雷は、灼滅者に接触せずとも至近で次々に炸裂する。
     ――ドンッ! ドンッ!
    「イ゛ェ゛ァ゛ーーー!」
    「どう考えてもミサイルだと思うの! 詐欺なの!」
    「トーピードクライシス(魚雷の作動不良)を克服した我がゲルマンの技術を見たか! 行けギュンター!」
    「はっ!」
     ――ババババッ!
     突撃銃を手にしたペナント怪人は、灼滅者が魚雷の爆発から完全に立ち直るよりも早く、追撃を掛ける。
     が、数と質に勝る灼滅者達。清めの風を起こすピアットに回復を任せ、すぐさま反撃に転じる。
    「まずは、このモブっぽいのから倒しましょう」
    「あぁ、ファイアブラッドの性なのかな。燃やしたくて堪らない」
     ソフィアリの召喚する紅い逆十字。次いで燃えさかる誠のクルセイドソードが容赦無くペナント怪人を打つ。
     ――バッ!
    「グリュック王国……万歳!」
     ――ドーンッ!
     最後の力で手榴弾のピンを抜いたペナント怪人は、跡形も無く吹き飛ぶ。
    「……くっ……! 例え最後の一兵になろうと……私は屈しない!」
     拳を握りしめて、尚も魚雷発射管に注水を開始する潜水怪人。
    「その忠義は、実に素晴らしい! どうです、是非私の(悪の)組織に入りませんか!? ゲルマンシャークは滅んだ今、無意味に力を振るっても仕方ない……解ってるはずでしょう?」
     そんな彼女へ、ジョージは誘いを掛ける。
    「ナイン(否)! 私は降伏の訓練など受けていない! まだ戦える!」
     当然の如く突っぱねる潜水怪人に引導を渡すべく、灼滅者は再び得物を握り直す。


    「今一度、てーっ!」
     ――バシュッ!
     再び放たれる魚雷。
    「ぬっ!」
     しかし今度は、回避した灼滅者を追いかける追尾式だ。士騎は避けるのを諦め、魚雷を両断する。他の灼滅者も同様に、直撃を避けるべく防御する。
     ――ドドーンッ!
     次々に魚雷が炸裂し、地上にも関わらずバブルパルス(本来水中で発生した泡が膨張と収縮を繰り返す現象。魚雷や機雷などの水中兵器はこれによって標的を破壊する)が灼滅者を襲う。
    「……気概ある兵と戦えて、私も嬉しいぞ。すなわち君を倒せば、残るは烏合の衆ということ」
    「っ……ゲルマンは不滅だ! 例え私が倒れようとも!」
     切っ先を向けて言う士騎に対し、潜水怪人もまた、そう返す。
    「もしかして、シャークの事好きだったのかなぁ」
    「なっ、何を言っている!? す、好きとか嫌いとか……その様な浮ついた感情などではない!」
     再び仲間の傷を癒やしつつ尋ねるピアットに対し、怪人は解りやすい反応を示す。
    「ところで、何で下にスクール水着なんですか?」
    「うんうん、本人の趣味? それともゲルマンシャークの趣味だったりするのかなぁ?」
     ここぞとばかりに、疑問をぶつけるソフィアリ。
    「大体スク水にシュノーケルで潜水艦を自称するとは片腹痛い。そんな軽装備では海女さんにも潜水感で負けるわ。どう見ても南国の海できゃっきゃうふふと遊ぶ格好だろそれ」
     話題が服装に及んだ所で、誠はここぞとばかりにダメ出しをする。
    「だ、黙れ! これは最も機能性を重視した服装で……ええい、貴様らとくだらぬお喋りに興じる気はないわ!」
    「では、行きます」
     矢継ぎ早にあれこれ言われ、再び取り乱した様子の怪人へ、フォルケが仕掛けるのは黒い影。
    「っ……爆雷防御! この爆発は……ただの爆雷ではない?!」
     無数に降り注ぐ爆雷の雨を幻視し、うろたえる怪人。
    「辛さが足りないッッッ!」
     ――バッ!
     絶好の好機を逃すこと無く、ご当地ダイナミックを仕掛けるジョージ。
    「せめてもの情けだ。冥土の土産に自らのご当地を思い出させてやろう。海軍カレービーム!」
     アレクサンダーもこれに合わせ、トドメに向けたビームを放つ。
    「ううっ、ま、まだ……メイン、バラストタンクブロー! 急速潜行!」
    「イーーイイイーーー! イェ゛ァ゛ーーーー!」
     尚も体勢を立て直して反撃を試みる怪人に対し、英一は捨て身の戦闘員キック。
     ――ドカーン!
     怪人もろとも大爆発を起こす。
    「お前は逃げるべきだったんだ。部下の殉死を喜ぶ上司がどこにいる」
     ぽつりと、呟く様に言う誠。
     怪人は爆風に吹き飛ばされて倒れ伏し、虫の息だ。
    「っ……ゲルマン軍人として……最後に貴様達と戦えた事は、誉れだ……」
     軍帽を拾い上げて被り直した怪人は、辛うじて上体を起こすと、微笑を浮かべる。
    「散る桜、残る桜も、散る桜……横須賀の桜は見頃だぞ」
     ――ヒュッ。
     介錯人の如く刀を振り下ろす士騎。
     一行は、形は違えど士道に殉じた者の最後を見届けるのだった。


    「それ、どうするんですか?」
    「ゲルマンシャークの玉座近くにでも、と」
     ソフィアリの問いかけに答えつつ英一は、怪人が遺した軍帽の砂を払う。
     玉座の間のみならず、他の戦場も恐らくは決着が付いている頃だろう。

     かくして、灼滅者達は各々の標的達を倒し、グリュック王国攻略戦の勝利を確たるものとした。
     この戦いによって、長きに渡るゲルマン怪人達との戦いに一つのピリオドが打たれたのである。

    作者:小茄 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2014年4月15日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
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