グリュック王国大決戦~残念会強襲作戦

    作者:天木一

    「……なん……だと!?」
    「ええ!? 嘘でしょう!」
     男が口に銜えていたソーセージをポロリと落とし。女が手に持っていたビールジョッキが落下した。パリンと砕け散って中のビールが飛び散る。
    「な、なんと……ゲルマンシャーク様が討ち死に、ですと?」
     黒、赤、黄の3色のペナント顔をしたゲルマンペナント怪人が顔をしかめる。
     怪人達は花吹雪やクラッカー、飾りつけに食事等、祝勝会の準備をしている最中だった。
    「おい、お前がゲルマンシャーク様が帰ってきたらビール掛けをしようなんて言うから……」
    「そんなこと言ったらアナタだって食べきれない程のソーセージを用意して祝勝会をしようってノリノリだったじゃない!」
    「まて、まて、ケンカはいかん。今は我々の今後の身の振り方を考える時ですぞ……」
     おろおろと落ち着きなく途方に暮れる怪人達。
    「どうすればいい……どうすれば……よし、飲もう!」
     ソーセージ顔の怪人がビールジョッキを一気飲みし始める。
    「ちょっとちょっと、そんな、お酒なんて飲んでていいの?」
    「ビアガールのお前がお酒なんてとは言い草だな。まあ、お前も飲め飲め、これが飲まずにやってられるかってんだ!」
     ソーセージを齧り、新しくビールを注いではごくごくと飲み干す。
    「どうせ次のトップが決まるまでやる事なんてありゃしないさ。それだって相当揉めるだろうよ。だったら俺達下っ端は飲むくらいしかやることはねーよ」
    「はぁ……もう、しょうがないわね。じゃあソーセージもらうわよ」
     焼きたてのソーセージをカリッと齧り、ビールジョッキの顔をした怪人も飲み始める。
    「ゲルマンシャーク様のご冥福を祈って!」
     ペナント怪人も諦めてビールを飲み始めた。もう何もかも忘れたいと残念会が始まる。
    「やけ酒だやけ酒! ゲルマンご当地怪人の未来に乾杯!」
    「「かんぱーい!」」
     ヤケクソにジョッキを交わす音が響いた。
     
    「やあみんな、先日の戦いはお疲れ様だったね。みんなの力で見事に勝利を得る事ができて良かったよ」
     能登・誠一郎(高校生エクスブレイン・dn0103)が灼滅者達を出迎える。
    「そんな戦いが終わったばかりで悪いんだけど……実はゲルマンシャークを倒した事で、灼滅者を闇堕ちさせるという結界が無くなったグリュック王国に対する攻略作戦が始まるんだ」
     敵本拠地への侵攻と聞き、灼滅者は身を乗り出すように話を聞く。
    「ゲルマンシャークを失った今、ゲルマンご当地怪人は指揮系統を失って浮き足立っているんだ。この機に一気に敵拠点を攻略して欲しいんだよ」
     時間が経てばいずれ誰かがトップに立ちゲルマンご当地怪人を纏めるか、他組織に吸収されるだろう。
    「敵に時間を与えるのが最も愚策だからね。今回の作戦はスピードが命だよ」
     誠一郎の言葉に灼滅者は頷く。そこで隣から貴堂・イルマ(中学生殺人鬼・dn0093)が歩み出た。
    「ここからはわたしから説明を引き継ごう。皆が攻めるのは、パーティ会場で残念会を開いて飲み食いしている怪人達だ」
     祝勝会が駄目になり、残念会と称してやけ酒をあおっているのだという。
    「会場にいるのはソーセージマン、ビアガール、ゲルマンペナント怪人の3体。酔っ払うほど飲んでいるようだ」
     敵の士気は低く、襲撃されれば逃げ出す可能性が高い。
    「全員を倒すのは難しいだろう、優先順位は戦闘力の高いソーセージマンかビアガールのどちらかの灼滅。可能であればゲルマンペナント怪人も倒したいところだ」
     敵全員がまともに連携して戦えばこちらが勝てない可能性もある。
    「今回の作戦にはわたしも同行させてもらう。この機に乗じてグリュック王国を攻略してしまおう」
     よろしく頼むと頭を下げるイルマ。
    「この作戦に成功すれば、日本にいるゲルマンご当地怪人の勢力を壊滅させる事ができるんだ。ゲルマンシャークにも勝てたみんなだからね、きっと成功すると信じてるよ」
     信頼の言葉と共に誠一郎は灼滅者達を見送った。


    参加者
    黒瀬・夏樹(鈍色逃避の影紡ぎ・d00334)
    鷹森・珠音(黒髪縛りの首塚守・d01531)
    無堂・理央(鉄砕拳姫・d01858)
    クラリーベル・ローゼン(青き血と薔薇・d02377)
    銀夜目・右九兵衛(ミッドナイトアイ・d02632)
    如月・春香(クラッキングレッドムーン・d09535)
    姫乃川・火水(ドラゴンテイル・d12118)
    泉夜・星嘉(星降り・d17860)

    ■リプレイ

    ●パーティ会場
     グリュック王国にある大きなホールに続く道を、灼滅者達が慎重に進む。
    「どうやら他に敵は居ないようね」
     周囲を警戒して様子を窺っていた如月・春香(クラッキングレッドムーン・d09535)が、他に気配がないのを確認した。
    「うー。大人のフリしちょらんとやる気でんのよー」
     幼女の姿で鷹森・珠音(黒髪縛りの首塚守・d01531)は周囲の音を封じる結界を張って、会場の大きな扉に近づこうとする。その時、普段は18歳の姿で行動している所為で思わず転びそうになる。
    「おっと、怪人たちに気付かれないようひっそりこっそりな」
     そこへ姫乃川・火水(ドラゴンテイル・d12118)が腕を伸ばして支え、しっかりと立たせてやる。
    「ありゃ完全に酔っ払っとるな」
     そーっと開けた扉から中を覗いた銀夜目・右九兵衛(ミッドナイトアイ・d02632)の視界には、ぐだぐだと愚痴を垂れている怪人や寝ている怪人の姿が映った。
     中は大きなパーティ会場となっていた。だがそこに居るのはたったの3名。飾りつけもそこそこに、酒瓶や食べ散らかした皿が散乱していた。
    「たくよーやってられるかってんだ!」
    「ああ、ゲルマンシャーク様~、うえ~ん、アタシの人生計画が~」
    「すーすぴー、すーすぴー」
     ソーセージマンはビールジョッキを手に、目を据わらせて誰も居ない方向へ愚痴っている。ビアガールは泣き上戸なのか、飲んでは喚いていた。ゲルマンペナント怪人に至っては、赤く酔い潰れた顔をぺたりとテーブルに貼り付けて眠っていた。
    「うわーお酒臭い……」
     ドアの隙間から流れるツンと臭うアルコール臭に、無堂・理央(鉄砕拳姫・d01858)は顔をしかめて鼻をつまむ。
    「あれだけ脅威だったグリュック王国も栄枯盛衰というか何というか……」
     軍服のような改造制服に身を包んだ黒瀬・夏樹(鈍色逃避の影紡ぎ・d00334)は、会場の寂しい様子を見て思わず呟く。
    「さて、では仕掛けるか」
    「うむ、今のうちに準備を始めよう」
     クラリーベル・ローゼン(青き血と薔薇・d02377)の言葉に貴堂・イルマ(中学生殺人鬼・dn0093)も同意して、パーティ会場の扉を一つを残して開かないよう塞ぎ、ワイヤーでトラップを仕掛けていく。殺傷能力のあるものではなく、足止めする為のものだ。
     仕掛け終わっても、周囲の状況など全く見えていない怪人達は気づく様子も無い。
    「早期決着を目指していくぞ、狙いはビアガールだ!」
     泉夜・星嘉(星降り・d17860)は一直線にビアガールに向かう。

    ●残念会
    「ん~なにー? ビールならそこにあるから自分で勝手に注いで……」
    「じゃあ、勝手にさせてもらうよ!」
     物音にビールの催促かと気だるそうに答えるビアガールに向け、星嘉は駆ける勢いを乗せて縛霊手を腹に叩き込む。
    「きゃっ! 何するのよ!?」
     吹き飛ぶビアガールの体が宙で引っ張られて止まる。その体には霊糸が巻きついていた。
    「今だよ!」
     糸を手繰り引き寄せた星嘉の言葉に、仲間も一斉に続けて仕掛ける。
    「先日の戦いから時をおかずにこうして来れた。流れは今みども達にある。ならばそのまま押し切ろう。まずは、あの戦いの成果をより強固なものとしていくのだ」
     クラリーベルは細剣を抜いて斬り込む。鋭い刃は横一線にビアガールを斬り裂く。
    「叩けるうちに叩いちゃうよ」
     その後ろから夏樹は剣を振るう。その刀身は鞭のように伸びてしなり、ビアガールの足を貫いた。
    「ひぎっ」
     痛みに顔を歪め、抵抗するビアガールはビールジョッキを投げつける。
    「そんな投げ方じゃ当たりはしないよ」
     理央の取ったファイティングポーズはボクシングスタイル。フットワーク軽く飛んでくるジョッキを右へ左へと躱して踏み込むと、右のストレートがビアガールの顔面を捉えた。
    「もうお目覚めの時間なんよ、だから目が冴えるまでしっかり起こしてやるんじゃよ!」
     崩れ落ちそうになるビアガールに、珠音がオーラを纏った拳で連打を浴びせて倒れさせない。
    「なんなのよこれは!?」
     ビアガールは屈んで身を投げるように拳から逃げる。だが正面には銃口があった。
    「カッカッカッ、予想通りの動きやで」
     口元を歪めた右九兵衛は、首筋からコードの繋がった巨大なライフルを構える。敵の動きを演算して予想し既に射撃ポイントへ銃口を向けていた。チャージされたエネルギーが撃ち出される。それは巨大な光の渦となってビアガールを呑み込む。
    「続けて行くわよ」
     そこへ春香が続けて放った光は、眩く周囲を照らして突き進む。光条を受けてビアガールは悶え苦しむ。
    「まずはビアガール、お前からだ!」
     火水は全身を覆う白と青のバトルコスチュームとなり、怯んだ敵にビームを撃ち込む。
    「痛い……てばっ!」
     反撃に頭から黄色い液体を周囲にぶちまけるビアガール。液体の触れた絨毯はジュウッと音と立てて溶けた。
    「お前の敵はこっちだぜ、来いよ!」
     火水が手で招く様に挑発するとビールジョッキを投げてくる。
    「ここで仕留めさせてもらう」
     真っ直ぐに駆け寄るイルマは青白く輝く剣で飛来するジョッキを斬り捨て、上段から振り下ろす刃がビアガールの顔にひびを入れる。
    「きゃあああ! アタシの磨き上げた顔がぁ!」
     その悲鳴に二人の怪人も漸く周囲の異常に気付いた。
    「な、何事だ!?」
    「敵襲! 敵襲ですぞ!」
     おろおろとソーセージマンは周囲を見渡し、ペナント怪人はベリッとテーブルから顔を剥して立ち上がった。
    「やだ……コイツらゲルマンシャーク様を倒した灼滅者じゃないの!?」
    「灼滅者……だと……。あの怪人と見れば老若男女問わずに皆殺しするという……」
    「ひぃっ、拙いですぞ、奴らはよってたかって怪人を虐殺するという噂ですぞ!」
     突然の襲撃に焦る怪人達。その顔には嫌な汗が流れ、目は状況を打開する何かがないかを探して周囲を泳いでいる。
    「ビアガールを倒すんだ、狙いを集中していくよ!」
     そこへ夏樹はワザと狙いが分かるように声を張って、攻撃する敵を指差して告げる。
     その言葉を聞き、ソーセージマンとペナント怪人の視線が既に全身傷だらけでぼろぼろのビアガールに集まった。
    「ちょっと、ねえ……」
     ビアガールがその視線に不安を覚えて声をかけようとした時、二人の怪人は頷き合う。
    「ビアガールを倒したければ俺を先に倒すんだな!」
    「まてまて、拙者が先にお相手するですぞ」
     二人の怪人は自分が相手だとその場で張り合う。
    「ふ、二人とも……いいえ、アタシが狙われてるなら、アタシがここで食い止めるわ、だから二人は……」
    「「どうぞどうぞ」」
     声をハモらせると、ソーセージマンとペナント怪人は一目散に逃げ出した。
    「え? え?」
     思わず目を丸くして展開についていけないビアガール。
    「今更戦っても意味は無い、ここはビアガールに任せた!」
    「拙者敵の襲来を仲間に報せねばならぬゆえ、後はお任せいたしますぞ!」
     逃げる二人の後姿を呆然と見ていたビアガールは我に返る。
    「……ここはみんなで力を合わせて立ち向かおうって場面でしょ!」
     怒りを込めて投げたビールジョッキがソーセージマンの後頭部を直撃した。鈍い音が響きそのまま昏倒し動かなくなる。
    「あー、ありゃあかん。直撃しとるわ」
     右九兵衛はその様子に、思わず自分が喰らったように痛そうに目を細めた。

    ●仲間割れ
    「……コホン、よくもやってくれたわね! ソーセージマンの仇は討たせてもらうから!」
     仕切りなおしたビアガールは灼滅者に向けてビールジョッキを投げつける。クラリーベルが斬り払うと、地面に落下したジョッキは爆散するように周辺を破壊した。
    「仲間割れとか、本当に末期だね。でもその隙を突かせてもらうよ!」
     夏樹は影を蛇腹剣のように変化させて振り抜く。影の刃が巻きついてビアガールの動きを封じた。
    「クカカッええ格好やな。ほんなら好きにさせてもらおか」
     右九兵衛の構えた銃口から無数の弾丸が放たれる。飛礫はビアガールの体を周囲のテーブルごと穴だらけにしていく。
    「近づかないで! 痴漢! 変態!」
     ビアガールは圧力を掛けた液体を勢い良く飛ばして弾幕を張る。
    「俺に任せろ! 奴奈川ビーム!」
     火水はご当地奴奈川の力を込めたビームを放つ。ビールとビームがぶつかり押し合う。
    「これで止めだよ!」
     その間隙を縫って飛び散る液体を避けながら理央がビアガールに組み付く。そのまま相手の姿勢を崩し頭から地面に投げ飛ばした。
     ピキッっと割れる音がすると、ビアガールの頭に入ったひびが大きくなり、そのまま真っ二つに割れた。
    「ぎゃあああっビールが漏れちゃう~」
     溢れるビールを手で塞ごうとしてもどんどんと液体は漏れ、とうとう中身を失ったビアガールはごろんと頭のジョッキだけを転がして消え去った。
    「な、何故扉が開かないのですかな?」
     ワイヤーに足を取られ転びながらも、何とか扉に取り付いたペナント怪人は、扉を開けようとガチャガチャと弄ったところで、扉がワイヤーでガチガチに固定されているのに気付いた。
    「残念! そこは行き止まりなんじゃよー!」
     珠音は長い髪をかき上げ靡かせる。すると髪に仕込んでいた鋼糸がまるで髪が伸びるように敵に襲い掛かり、巻きついて動きを封じた。
    「掛かったのじゃ!」
    「うおお!?」
     怪人は巻きついた糸で体中を傷つけながらも、力尽くで脱出しようとする。
    「みどもから逃げられると思ったのか、この場から1人も逃がすつもりはない!」
     クラリーベルは青薔薇の意匠を施した細剣に炎を纏わせる。鋭い踏み込みと共に放たれた突きは、正確にペナント怪人の胸を貫いた。だが怪人は動きを止めずに扉を壊そうと拳を固めた。
    「そうはさせん、ここでお前たちを倒す!」
     イルマの影が獣の形となって飛び掛かり、怪人の腕に喰らいついて動きを止める。
    「ひぃぃ、もうビアガールはやられてしまったのですかな!?」
     視界の端に倒れたビアガールを見た怪人は、ジャンプして土下座した。
    「ゆ、許して欲しいんですな。拙者は別に悪い事はなにもしてないですぞ」
    「駄目だね」
    「人でなしぃ!」
     春香が冷徹に告げると、怪人は飛び掛かる。対する春香は、三日月のようなボディのギターを振り抜いて叩き落した。そこへビハインドの千秋が腕を振るい吹き飛ばす。
    「まてまてまて、違うんですぞ、そうじゃ……あー! ソーセージマンが逃げようとしていますぞ!」
     地面を転がり蹲ったペナント怪人が指差して叫ぶ。それに釣られて視線を向けるが、ソーセージマンは倒れたままだった。
     視線を戻すと、ペナント怪人が逃げようとしていた。だがその前に行く手を阻む人影があった。
    「ここを通りたかったら僕を倒していくんだね!」
     待ち構えていた星嘉が扉への道を塞ぐ。
    「お嬢さん、邪魔すると痛い目を見ることになるんですな」
     怪人が殴り掛かってくるのを、星嘉はビームを放って迎え撃った。体を焼かれながらも、怪人は拳を突き出す。星嘉はそれを腕で受け止めた。
    「いいんですかな、こんな事をしている間にソーセージマンが逃げてしまいますぞ!」
     二度は引っかからない。そう皆が思った時、ガサッと物音が聞こえた。音がした方を見るとやはりソーセージマンの倒れている姿。
    「ん? 何か違うような……?」
     夏樹は違和感を覚える。だがじっと見ても指一本動く事はない。勘違いかと視線を戻すと、ソーセージマンはじりじりと地面を這って違う扉へと向かっていた。
     だが灼滅者が視線を向けると絶妙のタイミングで死んだふりをする。
    「動いて……ないよね?」
    「怪しいなら殴ってみればいいんだよ」
     夏樹の疑問に理央があっさりと解決方法を述べる。そして近づき拳を放った。するとまるで焼いたソーセージが跳ねるように、油を噴出してソーセージマンは跳躍する。

    ●パーティの終わり
    「ここまで来ればもはや死んだふりをする必要もない!」
     そのまま扉に向けソーセージを幾つも打ち込んだ。熱々のソーセージは跳ねながら扉を打ち壊す。
    「さらばだ、灼滅者たちよ! ビアガール、ゲルマンペナント怪人、お前達の犠牲を無駄にはしない!」
     壊れた扉の向こうに消えていくソーセージマン。だが何かにぶつかる音と共に、その体は吹き飛ばされ室内へと戻ってきた。
    「なあ!?」
     それを行なったのは、外に控えていた手伝いに集まった灼滅者十名だった。
    「裏方として詰めていたのですが、役に立ちましたね」
     跳んで来たソーセージマンを巨大な杭で受け止めて、押し返した絶奈が扉を潜る。
    「歯を食いしばれっ!」
     続けて扉から中に入って来た太郎は翼のような盾で殴りつけると、油を撒き散らしながら怪人は吹き飛ぶ。
    「飲んで呑まれてまた飲んで、そして灼滅ッ!」
     宙を舞う敵を拓馬が放ったビームが貫く。
    「くそっどけどけー!」
     怪人はソーセージを撃ち込みながら突進して道をこじ開けようとする。
    「残念やけど、ここはうちらが通さへんで」
    「ボクもいるよ! ここは絶対に通さないからね!」
     魔剣の姿となった七音は、飛んでくるソーセージを切り裂き打ち落とすと、ミーシャも白兎印の槍を連続で突いて、邪魔なソーセージを串刺しにした。
    「こんなところで死んでたまるか! 俺には祖国のソーセージを広める夢があるんだ!」
     ソーセージマンは諦めずに必死に油を吐き、ソーセージを撃ち込んでくる。扉を守るために動けない灼滅者は被弾していく。
    「ソーセージ置いていくなら逃がしてやってもいいけど? ……なんてね」
     若干本音の混じった言葉を告げながら、殊亜は不規則に弾けて跳ぶソーセージをライドキャリバーに乗って撥ね飛ばす。
    「ばっかやろーーーー!! お前らはなんでそんなに笑いを取るんだよ!」
     面白すぎて倒し難いじゃないかと、璃理は怒りながら槍を振るった。
    「どんどん撃つよー、回復は任せて貰いやしょう」
     ウツロギは次々と矢を放ち、仲間の傷を癒していく。
    「もう逃げるのは諦めた方がいいんじゃないかな?」
     いろはが剣を振るい、跳んで扉を潜ろうとしたソーセージマンを叩き落としながら忠告した。
    「今のうちなんですな……」
    「どこに行くつもりだ?」
     騒ぎに乗じてこっそりと逃げようとしたペナント怪人を星嘉が引き止める。汗をたらりと流し、怪人は逃げ出す。だがそれよりも速く星嘉は縛霊手で掴んで動きを封じた。そして放り投げるとビームを撃ち込む。追い討ちに霊犬のはやぶさが咥えた刀で斬りつけた。
    「ぎょえ!」
     顔のペナントに傷がつき怪人は悲鳴を上げ、何とか壁に貼り付こうとする。
    「もう逃げられないわよ」
     春香の放った光が怪人を撃ち落とす。
    「この王国と共に滅べ」
     イルマは落下してくる怪人に下段に構えた剣を振り上げる。顔が半分ほど切断されはらりと落ちた。
    「い、いやですぞ、拙者はこんなところで死ぬ男ではないですぞ!」
     諦めの悪い怪人に、静かに潜んでいた兎衣が魔弾を撃ち込んで動きを一瞬止めた。
    「ナイスじゃ! 準備の時間はたっぷり! 黒髪縛り――蜘蛛ノ巣!」
     その隙に、珠音がまるで蜘蛛の巣のように鋼糸を張り巡らせ、逃げようとした怪人の全身を縛った。そしてピンと伸びた糸を指で弾く。すると糸は怪人を切り刻んだ。ペナントをバラバラに切断されて怪人は消えていく。
    「残ったのは俺だけか……くそぉっこうなったら戦ってやる! 1人でも多く地獄の道連れにしてやるぞ!」
     こうなっては逃げられないと腹を括ったソーセージマンがフォークを手に襲い掛かる。
    「決断するのが遅すぎだぜ、仲間を信じられなかったのがお前の敗因だ!」
     火水は斧を横薙ぎにしてフォークを弾く。だが怪人はくるりとフォークを1回転させて先端で火水の腹を刺す。火水は咄嗟に手でフォークを掴んで深手を避け、蹴りを腹に打ち込んで距離を離す。
    「ソーセージやったら、やっぱりこんがり焼かんとあきまへんなぁ」
     そこに銃口を向けた右九兵衛は引き金を引いた。轟音と共に撃ち込まれたのは燃え盛る弾丸の雨。
    「ぐわっ火が強すぎだ! これでは焦げてしまう!」
     ソーセージ顔に幾つも焦げ目をつけながら、フォークで弾いて凌ぐ。
    「クラブの先輩たちからお土産を頼まれてるんで、そろそろ終わりにさせてもらいます」
     夏樹は右手の鞭のような剣を振るい敵の足を斬ると、左手の影の剣をしならせて敵の後ろに回り込んだ刃が背中を斬り裂いた。
    「まだだ、俺はゲルマンの戦士ソーセージマンだぞ! この程度で……」
    「残念だけど、このラウンドでKOだよ」
     近づかせないと振り回すフォークを理央は上体を屈めダッキングで避けると、右の強烈なボディブロー叩き込み相手を前屈みにさせる。頭が下がったところへ左のフックで相手の意識を奪った。
    「さらばだ、仲間が地獄で待っているぞ」
     朦朧と千鳥足でふらつく怪人に、クラリーベルが細剣を一閃させる。閃光の後を遅れて炎が奔る。切断された顔が地面に落ちる前に、幾重にも閃光が重なり細切れとなったソーセージが炎に包まれる。
    「ゲルマン怪人に栄光あれ……!」
     最後にそう言い残して怪人は燃え尽きた。祭りの後の物寂しい空気だけが漂う。
     静寂の中どこかで戦いの音が聞こえた。まだ王国の攻略は続いている。灼滅者達は一息吐くと次の戦場へと向かう。
     誰も居なくなったパーティ会場は、まるでグリュック王国の行く末を暗示しているようだった。

    作者:天木一 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2014年4月15日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
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