おっぱイフリート闇堕ち事件

■リプレイ

●山林とめひょー
「……人間何が切欠で堕ちるか分からんな……」
　木々の間から差し込む朝日に御統・玉兎（鳥辺野にかかる月・d00599）は目を細めた。
「そうね……人の事言えた義理じゃないけど」
　微妙な表情で続けた湯乃郷・翠（お土産は温泉餅・d23818）がちらりと横を見れば、そこにいたのは、十文字・瑞樹（変わり始めた夢追人・d25221）。
「まあ発端は少しアレかもしれないが、それでもそのままイフリートにさせるわけにはいかないな」
　人除けの為のＥＳＰ行使者と意図せぬ遭遇への備えとしての護衛戦力からなる殺界形成組は、瑞樹が殺気を放って一般人の踏み込まない作りつつ、ただ待っていた。
「後はどちらが先かか」
　残る面々の連絡か救うべき少女の来訪か、そのどちらかを。
「皆のほうが接触するのが早いとは思うが」
　手にした携帯電話に目を落とす瑞樹は後者をやや否定的に見て、翠は二人のやりとりを見つつまったく関係ない疑問を口にした。
「でもおっぱイフリートって……どんな感じかしら」
「いや、どんな感じといわれてもな」
「なあ」
　困ったように顔を見合わせた二人から見られた翠がたじろいだことを他の面々は知らない。
「……ええ、羨ましくなんてないわよ」
　と言ったことも。
「なんだか大変なことになっちゃったねーっ！」
　そう、殺界形成組の面々同様、闇堕ちに至った経緯を話題にしつつ山林の中に居たところまでは同じだったとしても。
（「ひょんなことで闇堕ちしてしまうことも、あるものなんですね」）
（「……人間、何が原因で闇堕ちするかわからないもんだな」）
　アイリス・テナティエル（鳳凰天使・d23336）の発言に思うところあったのか、反応したのは、焔宮寺・花梨（珈琲狂・d17752）と大空・焔戯（蒼焔狼牙・d23444）。
（「俺ら人造の苦労って、一体……。素質か、素質の差なのか……？」）
　中でも焔戯は朝なのに全力で黄昏れているように見えた。
「よくわかんないけど、すっごく恥ずかしかったのかなーっ？　助けられるなら助けてあげたいよねーっ！」
「そうですね。なってしまった以上、私たちの手で助け出さないと」
　無邪気そうなアイリスの声が謎の対比を作り出しているが、救いたいという所は花梨だけでなく焔戯とて同じだろう。
「あっ、そうだ。あの子、アカリちゃんって言ったかなー？　ねー、カズマくん替えの服とおっきなバスタオルを持ってきたから預かっててもらえるかなーっ？」
「えっ、え？　あ、うん……って、まさか渡す役までオイラじゃないよね？」
　いきなり荷物を漁りだしたの行動に気圧されつつ頷いたものの鳥井・和馬（小学生ファイアブラッド・dn0046）はすぐさま問い返す。きっとエクスブレインに女の子扱いされたことが残っていたのだと思われる。
「炎が来ない位置で待機しててね、悪戯しちゃダメだよー？　えへへーっ♪」
　もっとも返ってきたのは答えとは違う反応だったりするのだが。

●であい
「や、しないから！　……あるぇ、オイラの質問スルー？！」
「あー、女性の着替えだし、持つのは女性でいいんじゃないですか？」
　即座に叫びつつもいつもの扱いになったことに愕然とする和馬に助け船を出したのか、ツッコミ属性持ち故に口を挟んだのかはわからない。ただ、一之瀬・梓（紫紺の霊眼・d02222）が会話に加わったのは事実で。
「めひょぉぉぉぉ」
　悪意さえ感じそうなタイミングでどこからともなく少女のモノらしき鳴き声が聞こえてきたのも事実だった。
「声からするとあっちかな」
　WOKシールドを構えて久遠・赤兎（自爆兵装ブラックショック・d18802）が向き直れば、反対方向からは物音。
「そちらでもあれは聞こえていたようだな」
「めひょおぉぉん」
　僅かな緊張を取り去った瑞樹の声に示しをあわせたかのように山林へ少女の泣き声が響く。
「……あの奇声が獣の唸り声に変わったらアウトだな。それまでにどうにかしないと」
「奇声って」
　割とシュールな状況にもかかわらず平静に語る焔戯へとパンフを丸めた翠が声を上げたのは、彼女もまたツッコミ属性持ちだからこそ。
「何にせよ、もう時間もあまりないのは事実か」
　一度目と比べて近くなった音源に呟いたのは誰だったか。
「燃え咲かれ、我が焔！」
　スレイヤーカードを取り出した花梨が封印を解き、他の面々も声の方を警戒する中で、そはあらわれた。
「めひょーっ」
「っ」
　茂みを突き破り、だんっと四つ足で着地した少女の姿を見て恐れおののいた者が一名、目を背けた者はたぶん二名以上。
「人目に触れたらトラウマになるかもしれないしね、目撃者が男性なら眼福なのかもしれないけど」
　極力動揺を抑えるようにして口を開いたのは、恐れおののいた者だった。
「めひょ」
　一歩踏み出すだけで、とんでもない呼称の原因になったものがはずんで揺れる。
「このまま放っておく訳にはいかないしな、サクッと倒して正気に戻って貰おうか」
　目のやり場に困るから、などと直接的なことは言わない。ただ、玉兎は蒼玉守護せし紅翼、つまり殲術道具を振りかぶり。
「いくぞ」
　跳ぶ。
（「……にしても、闇堕ちしてるならもっと獣っぽくならないものか」）
　いつの間にかイフリートの、黒狼の姿に変わっていた焔戯は声を発せず嘆息しつつ光の刃を撃ち出した。
「ひょっ」
　取り乱して居ようとも狙われたことは察知して、少女こと明里は地面を蹴る。この時、追い込まれたとは気づかずに。
「今なら――」
「め」
「正気に戻りなさい！」
　花梨が激しくかき鳴らすギターの音をＢＧＭに。衝撃波にすくませた少女の身体は雷を纏う拳に跳ね上げられ、次の瞬間には宙を舞う。
「早めに戻らないと大変よ」
　黒歴史的な意味でと翠は補足しない、ただ。
「っ」
　次の瞬間目にしたのは、前に進み出た仲間の背中。
「めひょぉぉぉっ」
「くっ、きっちり反撃してくるか。だが、私の役目は守ること」
　平手を叩き付けられた場所から炎に包まれつつも、瑞樹は怯まない。
「めひょっ」
　身体が焼けるにも頓着せず身体を低くして、飛びずさった少女に追いすがる。
「闇堕ちはさせない　絶対にだ」
　下から上へと昇る雷は爆ぜる音に悲鳴が重なり少女の身体は再び宙を舞うのだった。

●めひょー　やるねお嬢ちゃん
「フォルン」
「がうっ」
　主の声に応じて一声鳴いた霊犬が浄霊眼で炎に包まれた味方を癒す中、もう一方の霊犬は斬魔刀を振り抜いて炎の奔流から抜け出したばかりだった。
「コナ」
「わうっ」
　大丈夫だと言うかの様に花梨へ応じつつも、毛皮についた火は消えていない。
「大丈夫ですか？」
　梓の立っている場所から戦場に生まれた風が吹き抜けるまでは。
「めひょっ」
　風に炎をかき消され突っ込んでくるライドキャリバーから少女は地面を転がって身をかわし。
「ねえ」
「っ」
　身を起こそうとして気づく、殲術道具を振り抜く寸前の赤兎がいつの間にか目の前に立っていたことに。
「そのくらいなら恥ずかしくないから！」
　説得を聞く耳を持たない、といわれても敢えて語りかけたのは、言わずには居られなかったからか。
「めびょっ」
「ほら、私とかそれなれに露出高いとか言われるし！　……あれ？」
「うっ、めひょぉぉべっ」
　白光を発す一撃を振り抜き、首を傾げる赤兎の前から斬撃をかわしきれなかった少女の身体が地面で跳ねてから飛び起き、飛来する魔法弾に撃ち落とされる。
「逃がさないからねーっ！」
「行くぞ」
　動きを「制約」された少女にアイリスがにっこり笑めば、この機に乗じるとばかりに玉兎が追いうつ流れ。
「かふっ、うくっ、め、めひょーっ！」
「がるっ」
　オーラを集中させた拳のラッシュに撃たれつつも少女が噴き出した炎を手に集めて叩き付けようとすれば、飛び込んできた霊犬が盾となり。
「めひょあっ？！」
　手傷を負わせつつも、次の瞬間何かに斬られて膝をつく。
「斬弦糸かな？」
「はい」
　張り巡らされた鋼糸に突っ込んだのだ。
「ねぇ、オイラ手を貸さなくて大丈夫？」
「もっちろん、だから替えの服はよろしくねーっ？」
　微妙に申し訳なさそうな声で聞いてくる和馬に答えるとアイリスはバベルブレイカーを構えて片膝立ちのままな少女へと走り出す。
（「しかし、やはり目のやり場に困るな」）
　四つ足の分、視線の位置が低い誰かが微妙な顔をしつつ撃ち出す魔法光線という支援を受けながら。
「めひょおっ！」
「いっくよーっ！」
　肉薄する敵を知覚して立ち上がる少女アイリスが交差し。
「「っ」」
　双方がほぼ同時によろめく。
「流石にそろそろ弱ってきたみたいね」
「のようだな」
　バベルブレイカーを手に畳みかけるタイミングを見計らっていた仲間の言葉を瑞樹は首肯すると愛用の日本刀を上段に構えて地を蹴った。
「め、ひょ」
　バランスを崩しつつもとっさに反応しようとした少女の足を縫いつけるかの如く機銃の弾がはじければ、振り下ろされる斬撃を避ける術はなく。
「めきょっ」
「もう終わりにしましょ」
　謎の悲鳴をあげた少女の意識を、続く一撃が刈り取った。

●言葉の重み
「うぐぐ……」
　自分の用意してきた服と大きなバスタオルを押し上げる少女の膨らみを見比べて、翠は思わず唸っていた。
「はっ、早く着ないと風邪を引くわよ、男性陣も話せないし」
　促す声が何処か上擦ってしまったのを責めることは誰にも出来ないと思う。
「そ、そうだよね」
　はっとした表情で少女はペースを少し速めつつ用意された衣服に腕を通し出す。
「えへへっ、誰も見てないから大丈夫だよーっ！」
　たぶん、そんなアイリスの言葉にも背を押されたのだろうが、当然ながらこの間男性陣は別所待機である。
「和馬は……またこんな仕事なんだな」
　例えば、腑に落ちない表情をした和馬は焔戯に肩を叩かれていた。手にしていた着替えは花梨の手に渡って既に無い。
「あ、うん……オイラッテナンナンダロウネ」
「まぁ、あれだ。とりあえず忘れろ」
　本来なら助けた少女に向ける言葉だったかも知れないが、話し相手になった和馬の顔を見るとその言葉を使わざるを得ず。
「大丈夫、怖くないよ？　……私も貴方と似たような事をしたことがあるの。私の場合は、残念だったけど」
「えーっと、怖くないというか……これ、前のボタンがとまらな――」
　着替えの手を止めてまごついた少女を安心させようと声をかけた花梨は、自分の胸に目をやったまま少女からの残酷な答えに凍り付く。
「せいっ」
「へぷっ」
　たぶん、条件反射的に翠が丸めたパンフで叩いて無ければ、微妙な空気がもう少し続いたかも知れない。
「き、着替えならたくさんあるんだから駄目なら他のも試してみれば良いじゃない」
　そも、自分のサイズに合わせてきた灼滅者持参の着替えならばともかく、エクスブレインがわざわざ用意した着替えのサイズが合わないと言うことは考えにくい。
「大丈夫。明里ちゃんはかわいいから、絵になるって！」
　という赤兎のフォローが胸元のボタンを留められず際どい格好になっている少女に向けるモノとして適当だったかは、さておき。
「ごめんなさいっ、お待たせしました」
「まぁ、寝起きというのは寝ぼけてたり夢によっては変なテンションで目が覚めたりするからな。あまり気に病まない事だ」
　とっかえひっかえ着替た一人ファッションショーな時間は終わりを迎え、男性陣の元にやって来た少女へ最初に声をかけたのは、玉兎だった。何を言えばいいのやらという困惑も着替え待ちの間に決着を見たのかもしれない。
「恥ずかしい所を目撃したのは弟さん……家族なんだろ？　普段の君をよく知ってる」
「う、うん」
　顔を赤くしつつ肯定する少女へ「なら」と続けたのは梓。
「寝ぼけていたことだった十分理解してくれるはずだしわざわざ蒸し返したりはしないさ」
　内心の冷や汗を押し隠したフォローの中、少女の肩に手を置き。
「それに、俺が思うに君みたいに可愛い子ならそういうポーズも様になってるだろうし、一度見てみたいくらいだな」
　シメの台詞と共に渾身のイケメンスマイル。まさに「それってナンパしてるんですか、してるんですよね、あずにゃん」と言うべき構図だった。
「そして新たなカップルが誕生する流れか。デジャヴだな、和馬」
「あー、うん」
　言われてみればそんなこともあったよねと頷いた純粋灼滅者と声をかけた人造灼滅者、ファイアブラッド二人分の生温かい視線が梓達に注がれて。
「それと明里さん、良かったら武蔵坂学園にきてみない？　あなたと同じような人も多いし色々力になるわよ。　ホラ、彼氏も武蔵坂学園の灼滅者だし」
「「ちょっ」」
　翠の提案にカップルの声がハモる。
「あ」
　たぶん、直後に誰かのお腹が空腹を音で訴えなかったら、二人は続けて抗議していたと思う。
「一応人数分食事を用意してきたが……歯磨きしてからにするか？　空腹だと視野が狭くなるからな、頭に糖分を回して少し冷静になって、オレ達の話を聞いて欲しい」
　少し長くなるかもしれないが大切な話だ、と前振りして持ってきた「朝食」を並べ出す辺り、当人が否定しても玉兎はおかんなのだろう。
「す、すみません」
「一緒に珈琲でも、いかが？」
　再び顔を赤く染めた少女へ花梨は湯気の立つ珈琲を差し出して、始まる朝食時間。
「（私もサラシを巻いて胸を隠している……似たような事が昔にあったので、恥ずかしかったであろうキミの気持ちは少しだけわかるかもしれない）」
　説明を兼ねた時の中で、瑞樹は他者に聞こえないよう明里へ囁く。
「（だからこそ同じような者が出ないように、出てしまったら救うために力を貸してほしい。彼氏の為にも）」
「彼氏じゃないよぉ！　あ」
　思わず叫んでから少女は失敗に気づくが、時既に遅し。実際付き合うか付き合わないかに関係なく、色恋沙汰とは時に大きな弄られポイントとなるのだ。
「まぁ、あれだ。とりあえず忘れろ」
　本日二度目の台詞を口に出して気遣うと、焔戯は遠い目をする。
「俺なんてリアルにイヌ科動物だしな。保健所とか狂犬病とか心配されたりしたし。給金はビーフジャーキーとか……餌皿とかで用意されてるし」
　自分で言ってて悲しくなってきたと影を背負う焔戯もまた弄られの素質があるということか。
「んーっ、炎使うみたいだし、なんだか親近感わいてきたよーっ！　良かったらお友達にならないーっ？」
「なるほど、まずはお友達から？」
　この流れの中、色恋路線とは関係ない提案をしたアイリスの言葉を歪んで受け止めたのは誰だったか。
「なんでそっちの流れに帰結するの？　おかしいよ？」
「めひょーっ！」
「ちょっ、『めひょー』はもうい――」
　どんどん混沌の色合いを帯び行く山林の中、賑やかな朝食時間はもう少し続くのだった。

作者：聖山葵	重傷：なし 死亡：なし 闇堕ち：なし
種類： 公開：2014年4月12日 難度：普通 参加：8人 結果：成功！
得票：格好よかった 0／感動した 0／素敵だった 1／キャラが大事にされていた 10
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