夜闇を裂く灯台の光が、暗い海に飲み込まれていった。相模灘と駿河湾の境にあり、かつて難所として恐れられたこの海域には、多くの船が沈んだという過去がある。
その逸話――畏れを、スサノオはこれから呼び出そうとしていた。
古の畏れとして。
「アオオ……オォオオ……オオオ……」
背後の岸壁に、長い遠吠えが何度もこだまする。幾度も重ねて響いた呼び声が、その時ついに、波間に漂う何者かの腕を捕らえた。べしゃりと、スサノオの足元に海草の絡みついた掌が叩きつけられる。水の中から、浮かび上がってくる――。
「オカ……オカ、ダ! ヨウヤク、オカニ!」
ぞろぞろと列を成して、海から上がるかつての水死者たち。しかしそれらの手首には、海草に紛れた『鎖』が手錠のようにはまっていて、その長さ以上の上陸を許さない。時折運悪く波に引かれて、また海の中に没していく者もいた。
「…………」
スサノオは、それ以上の地獄を見届けずに踵を返す。傷で潰された片目の下に、けだものの牙が小さく覗いた。
「ずいぶんとお待たせしてしまいましたわね。年度をまたぎましたが、ようやくスサノオの居場所が掴めましたの。正確には、スサノオが古の畏れを生み出そうとしている場所、ですけどね」
進級進学のお祝いもそこそこに、鷹取・仁鴉(中学生エクスブレイン・dn0144)は黒板に地図を貼り出した。静岡県の石廊埼灯台を中心としたものである。
「この海岸線に、スサノオが現れますわ。皆様には深夜零時にこの地域へ向かっていただき、スサノオとの直接対決を狙っていただこうと思いますの。
戦い方は、二つありますわ。
一つは、スサノオが古の畏れを呼び出そうとした直後に襲撃を行うこと。ただ、6分以内にスサノオを撃破できなかったならば、古の畏れが現れてスサノオの配下に加わりますの。そうなると、スサノオは戦いを古の畏れに任せ、自身は撤退をしてしまう可能性もありますわね。
もう一つは、スサノオが古の畏れを呼び出して、去っていこうとする所を襲撃を行うこと。ある程度離れていただければ、古の畏れが戦闘に加わることはありませんが、スサノオとの戦闘に勝利した後、その古の畏れとも戦う必要がありますの。時間制限はありませんが、必ず連戦となってしまいますわね。
それぞれ一長一短ある作戦ですので、どちらを選ぶかは皆様にお任せいたしますわ。それで、スサノオと古の畏れの戦闘能力ですが――」
スサノオは、狼型のダークネスである。その単体での実力は、学園の灼滅者よりも上であるため、戦闘は必ず全員で行って欲しい。
使用するサイキックは、エフェクト【毒】を持つ神秘・遠単の『邪視光』、エフェクト【捕縛】を持つ術式・近単の『蜘蛛幕架け』、ならびにエフェクト【orヒール】を持つ神秘・近単の『肉食み』の三種類である。これまでにこのスサノオが呼び出してきた古の畏れの使用してきたものに、よく似た効果を持つようだが……。
加えて、古の畏れの情報も必要だろう。今回現れるのは、仮に『船長』と呼称する個体一名と、その配下の『水夫』が6名、合わせて7名だ。そのどれもが手にした櫂を使い、バベルブレイカーを思わせる派手な攻撃を行ってくる。スナイパーとなる船長を最後尾に、前衛にクラッシャー4名、中衛にジャマー2名という布陣を取る。
「今回が、このスサノオを倒せる最初で最後のチャンスとなりますわ。この機会を逃さず、見事皆様が結果を出してくださることを、この仁鴉、期待させていただきますわね」
参加者 | |
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九牙羅・獅央(誓いの左腕・d03795) |
柾・菊乃(薊之姫命・d12039) |
九十九坂・枢(飴色逆光ノスタルジィ・d12597) |
アイリ・フリード(紫紺の薔薇・d19204) |
薛・千草(ダイハードスピリット・d19308) |
葦原・統弥(黒曜の刃・d21438) |
木場・幸谷(純情賛火・d22599) |
三科・遙(霧雨・d24180) |
●夜の異形
石廊埼灯台付近の林。灯台の明かりは、夜を殺しきるには弱く、標とするには強い。
白赤を交互に切り替えるその光は、一匹の狼――スサノオの影を暗がりの底に伸ばしていた。その光源を、スサノオは一顧だにすることはない。
足音もなく、風のように林を駆け抜けたスサノオは、荒い舗装路に出たところで足を止め、ふと後ろを振り返った。その知覚範囲へ踏み込んだ灼滅者たちは、もはや気配を隠す意味はないとして、スサノオの周囲に続々と姿を見せていく。
「おお、止まれって言う前に止まったぞ、あいつ」
まず出てきた木場・幸谷(純情賛火・d22599)は、ここで初めて携行ライトを点灯させた。灯台とは別の光源が、周囲の地勢を露にする。
「なら、遊んでやろうぜ? ほーら、お手したそうにこっち見てる」
「そうしましょう。このスサノオと会えるのはこれっきり、という話でしたし」
葦原・統弥(黒曜の刃・d21438)の声が、幸谷とは逆側から現れた。進む爪先から順に、車道の奥からゆっくりと歩み寄ってくる。
「ここで、討ち取ります」
「…………」
スサノオは、統弥の目をじっと見据えていた。警戒の色が、ありありと浮かんでいる。
そんな獣の左方に、冷たい気が人の形を取ったような、言い知れぬプレッシャーが凝結し始めた。三科・遙(霧雨・d24180)、ノーライフキングの姿を半身に現す人造灼滅者。じゃり、と足下のアスファルトを鳴らすスサノオに、氷の如き水晶の腕先が突きつけられる。
「死者の思念を、眠りを、愚弄することは許さない……スサノオッ!」
ごう、と吹き付ける気迫の対面に、そして丁度スサノオの四方を閉じる位置に、アイリ・フリード(紫紺の薔薇・d19204)が立ち塞がった。巨大な殲術道具、駆動衝角【Crux】の銃身が、灯台から伸びる赤の光を受けて輝く。
「……やっと、この目で見る事が出来た。スサノオ……もう逃がさない、此処で消えてもらうよ」
「ウゥウ……ガアアァウァアッ!」
すると、スサノオの顎と『両目』が開いた。無事な眼球の反対側、傷に潰れて虚となったはずの眼窩に、灰白色の濁りが詰め込まれているのが見える。
その濁りを、柾・菊乃(薊之姫命・d12039)は穢れたものと直感した。
「来ます! 敵の目に注意してください!」
菊乃は暗色の忍装束を外し、闇の中から抜け出す。警戒の言葉に灼滅者たちが身構えるのと、あの濁りが脈打ちながら溢れ出すのとは、ほぼ同時であった。
カァン――ゴアアアアアア!
『邪視光』の猛威が、アスファルトまでも破壊していく。暴風をやりすごしたメディックの薛・千草(ダイハードスピリット・d19308)は、パーカーのフードを直すよりも周囲確認をこそ急いだ。
「統弥さん、ですね! 負傷は――」
千草はWOKシールドを構え、ある事実に気づく。『ワイドガード』は、この距離からでは……!
比喩でなく、顔から血の気が引いた。しかし、
「――ッ!」
判断は咄嗟。引きつりかけた笑顔で駆け出した千草と、中衛で動く九牙羅・獅央(誓いの左腕・d03795)とが、戦場ですれ違う。
「今のが、畏れから得た力ってやつなのか……? こりゃ、確実に仕留めないとだな」
獅央は熱い息を吐き残し、その場から消えた。刹那、殺人鬼としての戦闘技巧が、スサノオの背後へと彼を誘う。
「その脚、貰うぜ!」
一閃、宣言どおりの部位に斬撃を通す。血飛沫撒いて跳ね退いたスサノオへと、さらに九十九坂・枢(飴色逆光ノスタルジィ・d12597)が狙いをつけた。
「おとなしゅうしとき。あんたの動きを止めるんが、私のお役目やからな」
枢は立ち位置と距離を調整し、スサノオに向けて影業纏う右腕を伸ばす。と、空いた左手でポケットを探り、中から小粒の飴を取り出した。
「さあて、大サービスの2発目や!」
舌上で転がしながら、さらに枢は上半身を時計回りに巡らせた。引かれる右腕と入れ替わりに、左腕からも影業の触手が伸びていく!
●月狼吼
片目を閉じたスサノオは、立体的に襲い掛かる影業に対し、巧みな脚捌きで回避を試みた。が、当てることを重視した枢の操作が、わずかにそれを上回る。
「ほらそこ、とったで」
バシィと音立てて、影業がスサノオの胴を捕らえた。すかさず――。
「菊乃差配、あと、あんじょうよろしゅう」
「はいっ!」
菊乃が続く。灼滅鎧『白南風』の袖を後ろへ振り送ると、鬼化した腕がそこに現れた。
「このちからで……いざ、参ります!」
と、菊乃は半身の構えで前へ跳んだ。高速で後ろへ過ぎ去る風景の奥に、四肢を開いて低く構えるスサノオを据える。
「たああああぁぁっ!」
「フゥ……フゥウウウウッ!」
まるで天を摩るようにして、鬼神変が落ちた。その轟音が止まぬうちに、アイリもスサノオへと肉薄する。
「此方からなら!」
アイリは、スサノオの潰れた目の側、死角と思われる角度から攻め上がった。大きく広げた両腕で二連装バンカーを振り回し、敵の大外から叩き付けにいく。
「!?」
が、その攻撃は空を切った。姿勢を乱さないよう体を回すアイリは、スサノオが向こうの路上に着地するのを見つける。寸前で跳ばれたらしい。
「フ、いい勘してるよ……!」
「気を落とさないで、アイリさん。僕たちは確かに、あのスサノオを追い詰めているんですから」
遙は静かに呟いた。アイリと入れ替わりにバベルブレイカーを構え、丁寧に間合いを詰める。
「さあ」
その視線に剣呑さが混じると、瞬きの内に遙の武器がスサノオを突いていた。キィイイイイと高音の唸りを上げる杭が、敵の肉体を螺旋に抉っていく。
「……僕も、体勢を整えないと」
と、膝を震わせながら統弥が立ち上がった。先の『邪視光』によるダメージは、未だ深刻なレベルで体に残っているらしい。
統弥は歯を食いしばり、集気法による自己回復に専念する。淡い青の光に包まれた彼に、するとスサノオが振り向いた。冷たい汗が背筋を落ちていく。
「く……!」
「あはは、ビビんなよ! はい、スマイルスマイルー!」
眉間に皺を寄せた統弥の目の前に、唐突に幸谷が現れた。己の頬を指で吊り上げ、そうやって大仰な笑顔を作ってみせる。
「……心配すんな。やらせねぇから」
笑顔のまま振り返り、幸谷は夜空を見上げた。スサノオは星を背景に跳躍し、その額の先に、白い釣鐘状の投網が形成されている。
「あれは、絡新婦の!?」
思わず叫ぶ統弥を背後に置いて、幸谷はあの『蜘蛛幕架け』に立ち向かっていった。釣鐘は当たる直前で大きく口を開き、幸谷の全身をごくりと飲み込む。
すると――風が吹いた。海風とも山風とも違う、人の意思が呼んだカミの風。
「私の役目はただ一つ」
千草がその始点にいる。蜘蛛糸の檻が見る間に解けていき、スサノオは不機嫌そうに低く唸った。
「戦線の維持、ですからね」
今の千草は、ディフェンダーとして戦場に立っている。回復量で想定条件を満たせないならば、ダメージの分散によって全体の被害を抑えることができないかと、そう考えたのだ。
「そーか。あんたがそうしてくれるんなら、俺が出張る必要はねぇな」
獅央は風呼びをやめ、妖の槍を中段に構える。穂先の空気がゆらゆらと震えたかと思うと、鋭利な氷弾が作り出された。
「なら、俺は俺で思いきり行くぜ!」
叫び、氷弾をさらに巨大なものへと作り上げていく。限界まで達したそれを、獅央は裂帛の叫びと共に射出した。
「いッけえッ!」
ダイアモンドダストを軌跡に残し、氷結の楔がスサノオの後ろ足を包み込む。すると、スサノオの口元から、繊維質の物を断つ音と、粘る液体を啜る音が重なって聞こえ始めた。
「ハァ……ア……じゅ、ずち、ぶじゅ……」
スサノオが、己の肉を食む音。
「ウォアアアアアアアアアァァァオォ!」
口の端からの滴りをそのままに、狼は月に向かって吠えた――。
●明暗
「きゃああああああっ!」
――最後まで仲間を守りきった千草の背中が、どう、と地面に叩きつけられる。その後ろから、険しい表情の遙がサイキックソードを突き出した。
「許さないと、そう言ったはずだ」
剣先からあふれ出た光刃が、スサノオの体を容赦なく切り裂いた。遙の目の前で飛び散る血が、敵の毛皮の全てを朱に染める。
「ハ、ハハ、どうしたよ犬っころ。そろそろ年貢の納め時ってか?」
汗だらけの幸谷が、ある種凄惨な笑みを浮かべながら影業を立ち上げた。トラウマを呼び起こす暗闇の波を、彼は指先一つの仕草でけしかける。
「で――その片目、どうした?」
「!!」
スサノオは襲い来る『影喰らい』に一瞬だけ視線を当てたようだが、しかしすぐに全身を包み込まれ、見えなくなった。戦いの果て、スサノオが疲労困憊の体で出てきた所に、同じく肩で息をする統弥が立ち塞がる。
「もう一度、応えろ……『フレイムクラウン』っ!」
炎冠の銘を持つ無敵斬艦刀が、主の手によって掲げられた。その高みから、重力以上の勢いをもってスサノオの眉間へと駆け出していく。
「おおおおおおおお!」
――クリーンヒット。地面との衝撃で跳ね返ろうとするスサノオの体を、統弥はさらに膂力を込めることで地面に押し付けた。切り伏せる、という言葉に相応しい一撃。
と、アイリがその側でバベルブレイカーを再装填する。スサノオの潰れた目に、恐れが浮かんだ。
「……ゴメンね。僕たちは一人一人じゃ弱いから、こうでもしないと勝てないんだよ……!」
即座に発射した杭が、ついにスサノオの腹を貫通した。Cruxの二種の杭が、敵に噛み付いたまま、白煙を上げて回転し始める!
「新宿からの因縁、此処で……終わらせる!」
ギュィイイイイイッ!
悲鳴を上げる暇もなく、スサノオの体は粉々に破砕された。
肉片が、夜空の中に蒸発していく。
「……ん」
目を開けた千草は、自分が地面に寝転がっていることに気づき身を起こそうとした。その額を、隣に添う枢にそっと抑えられる。
「私、は」
「無理せんでええよ。千草さん、こっぴどくやられてもうたからね。いわゆる重傷や」
枢による心霊手術の真っ最中だったらしい。しばし、その感触に身をゆだねる。
「スサノオは灼滅できたんよ。で、こっからどないしよかと、そういう話でね――」
ピリリリリリッ!
「ああ、俺のだ。……見つかったんかねえ」
と、側に控えていた獅央の携帯電話が鳴った。ハンズフリーモードにしてみると、今は別働している二名――菊乃と遙からの連絡が周囲に流れていく。
『もしもし、菊乃です。千草さんのご様子はどうですか?』
「ちょうど今起きた所だ。もう心配いらないぜ」
『そうですか、それはよかったです……。それで、えっと、古の畏れについてですけど』
その言葉を聞いて、この場に残った灼滅者たちの何人かはある方角を向いた。その先に古の畏れが残されているはずだが、ここからでは林や地形に阻まれて見ることができない。
であれば、あの場所に行けば見えるのではないか……そう考え付くのが、この場においては自然なことであった。回復と心霊手術は残った者に任せ、負傷の少ない菊乃と遙がその役を引き受けたというわけである。
『灼滅者だからかもしれませんが、ここからだとよく見えますよ。……正に、地獄です』
「うっわ、マジかよおっかねえ……。ぶるぶる」
遙の落ち着いた声色が、かえってその恐ろしさを増大させるような気がして、獅央は半ば本気で身を震わせていた。と、千草が携帯電話ごしに観測班たちへ話しかける。
「あ、薛です。ご心配おかけしました。……ところで、『ここから』というのは、やはり?」
問いつつも千草は、彼らの現在位置については確信に近いものを感じていた。彼女が見上げる先で、白と赤の閃光が、交互に切り替わり続けている――。
『お察しの通り、灯台です』
――その下で小さく、菊乃のカンテラが点灯していた。
●沈める亡者、鎮める生者
「あぎゃあああああ!」
逃げ惑う獅央の絶叫が岸壁にこだまする。そんな彼の後ろから、鎖を引く古の畏れたちが隊列を組んで追いかけてきていた。
「オオ……アァ……オカノモノメ……!」
「ヒキズリコメ……シズマセロ……ワレラノ、ナカマニ!」
「怖いこと呻かないでええぇぇ!」
怪談嫌いである獅央は、目の端に涙を浮かせながら走り続けていた。稀に、その逃走経路上にいた別の古の畏れを必死の思いで切り倒しながら。
「ったく、今日の主は贅沢な試練を寄越すじゃねぇか……『レーヴァテイン』っ!」
ガォオンッ!
炎剣を振るう幸谷は、台詞に反して心から楽しそうに笑っていた。この戦いが、実際のところ余裕のない――特に回復サイキックは、ほぼ底を突いている――ものであるという悲壮感は、彼のそんな明るさによって少し救われているようだった。
「とどめっ!」
炎上する『水夫』に、アイリがすかさず止めを刺す。槍となって敵を突いた影業『Vinculum』が、そしてゆっくりと彼女の足元に吸い込まれていった。
「みんな、大丈夫……? あと一息だよ、頑張ろうね」
「ええ、でしたら私ももうしばらく辛抱です。無理は致しませんが……」
千草が、アイリの背中に隠れるように腕を伸ばした。風刃が解放され、鋭角のカーブを描いて古の畏れを巻き込む。
「……当てるだけでしたら、なんとか」
「オノレ! コナマイキナ、オカノモノメガ!」
一回り大きな『船長』が、激昂してこちらに突進を仕掛けてきた。その進路上に、統弥が汗を拭いながらゆらりと立つ。
「コゾウ! キサマカラ、ワガ『カイ』ノシミトシテクレル!」
と、『船長』の突いた櫂は、しかし豪快に空を切った。統弥は既に、別の手下を切り倒している。
「単なるワンパターン……愚直にすぎますよ!」
「ヌゥウウウウウウッ!」
統弥の挑発に、肉のこそげ落ちた顔を歪ませる『船長』。次の瞬間、その表情が明らかな苦痛の徴候を示した。
「グッ! ガ……ハ……!」
「船長さん! あなたで、最後です!」
菊乃の縛霊手『大墓公阿弖流爲』が、敵の腹に食い込んでいた。内蔵された祭壇が、すかさず浄化の網を織り上げる。
「――遍く闇を、打ち祓い給え!」
縛めの閉じる中で、『船長』は光に包まれるようにして消えていった。
「はあ、ようやくやな。ようやく私も、心置きなしに糖分に浸れるわ」
枢はそう言ってマドレーヌの包みを取り出し、ぴり、と開いた。最初の一口の幸せを噛み締めながら、ふと、見晴らしのよい岬へ歩み寄る。
遙がそこにいた。胸に手を当て頭を垂れた彼は、海底の彼らに祈りを奉げているようだ。
「……おやすみなさい、安らかに」
黙祷を終え、しばらく闇夜の海を眺めた。
波間にはもう、浮かびくる亡者の姿はない。
作者:君島世界 |
重傷:薛・千草(パワースラッガー・d19308) 死亡:なし 闇堕ち:なし |
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種類:
公開:2014年4月20日
難度:やや難
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 4/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 6
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