古き都の櫻模様

    作者:東城エリ

     蕾が膨らみ、誘われるように樹から樹へと淡いピンク色を広げていく。
     春の花の絨毯。
     青々とした木々と櫻の対比。
     山裾から順に下千本、中千本、上千本、奥千本と称えられ、櫻の原種であるシロヤマザクラの樹々の数は3万本に及ぶ。
     奥千本まで花開いたその姿は見惚れる美しさ。
     人目万本の通りの景色。
     若葉と一緒に芽吹くシロヤマザクラは、凛とした美しさを醸し出す。
     朝霧の中の櫻、青い空の下の櫻、闇を背に妖艶な姿を見せる櫻。
     咲き綻び始めた櫻色の風景の中、緩やかな時間を過ごし、花見をするのはとても印象的な思い出になるだろう。
     春の花を愛でに。
     友人との語らいに。
     恋人との甘いひとときに。
     名桜と呼ばれる櫻の来歴を目にしつつ、ゆっくりと櫻を愛で、奥へと登って行けば、咲き乱れる櫻の谷を一望出来る。
     少し遠出になるが、たまには良いのではないだろうか。

    「皆さん、お花見はいかがですか?」
     昼空の下で、お花見をしながらお弁当を食べたり、茶屋で抹茶と葛菓子を堪能したり、櫻染めした淡い布小物や、櫻を使った香水などもある。
     とても楽しい時間を過ごせると思いますよ。
     観櫻にいきませんかと、斎芳院・晄(高校生エクスブレイン・dn0127)が誘う。
    「本葛を使った葛菓子、美味しいんだよ」
     御門・薫(藍晶・dn0049)は、春のお出かけに嬉しそうに笑顔を浮かべた。
    「朝は朝靄の中の風景を、昼は青空の中の風景を、夜は灯りに照らされる幻想的な風景を見ることが出来るでしょう」
    「朝と夜は少し肌寒いと思うよ、昼はそんなことないけど。そのあたりはストールとかで調節するといいんじゃないかな」


    ■リプレイ

    ●霧櫻
     澄み切った空気の中、眼前に広がるのは霧靄に浮かぶ櫻の海。緑の木々と調和し乍らも、今は櫻が主役だと咲き誇る。花弁が露に濡れ、しっとりとした美しさを見せていた。
     風に乗り花弁を散らすのは、咲くのが早かった下千本の櫻だろう。
    「上りし日 受け燃ゆるか 朝櫻」
     ほう、と一息つく。肌に感じる湿度を含んだ冷たさに流希は、贅沢な時間だと満足げに笑みを浮かべた。
    「わぁ、歩いている間も櫻が溢れていてとても綺麗」
    「ほんと、綺麗なぁ」
     想々の感想に、智之が同意する。
     ふわりと花弁が落ちた先に想々が気づき、爪先立ちで背伸びした。
    「え、ああ…」
    「えへへ、記念です」
     手帳に挟むと照れて格好つかねぇなと智之が笑った。
    「はやおき したら いいこと あるね」
     クロは深呼吸をする。一瞬スケッチブックに視線を落とすが、眼差しを櫻へと向ける。心に焼き付ける様に。
     ふわりとゴスロリの裾を膨らませ、悠祈が地面にしゃがむと落花して間もない櫻の花弁を掌に乗せていく。持ち帰り押し花にするのだ。
     櫻が風に揺すらされ香りとさざめきの音色を奏でる。
    「温まり乍ら櫻をのんびり眺めませんか…?」
    「助かる」
     裕也の申し出に静鵺は頷きつつ、注ぐか? と言葉を続けた。
     早く訪れた甲斐があったと、ゆるりと陽に照らされ、色を変える様を楽しむ。
    「もう少し櫻を楽しんでから、向かいませんか?」
     良いお店があるのだと、ドナが柔らかな笑みを浮かべた。
    「洵哉さんと見られる事を嬉しく思います」
     共にあるのが嬉しいのだと、ラインは気持ちを言葉に込める。
     ベンチに並んで座り、櫻に包まれる感覚に酔う。綺麗に咲いて、すぐに散る美。
    「儚い所が櫻の良い所だと思いませんか」
     洵哉はそう言うと、来年も共に来ましょうと約束を交わした。
     神楽と神華は繋いだ手の温かさを感じながら歩く。
     櫻の下で櫻餅を朝ご飯代わりにして食べる。満開の櫻。はらはらと降る花弁。
    「ん。動かんで」
     神楽が神華の髪に触れるのを感じる。
    (「どうしよう」)
     食べるのに夢中だった神華は急に恥ずかしくなって頬を桜色に染めた。
     十織は寝癖の髪と共に欠伸をし乍ら朝霧の櫻を見やる。夢の中を歩く感覚。
     ふと鞄を探り取り出したのは握り飯。
    「有難く頂く」
    「まだ少し温かいだろ。足りないのならこっちも貸すぞ」
     差し出された腕に喬市は呆れ気味に見るが、食べ終えた後手を取った。繋いだ手をポケットに隠して。
     春陽はクレイとシグマの様子に微笑ましい気分になる。
     和服姿のクレイは前に浴衣を着た時より様になっているし、シグマは眠気に負けそうだ。
    「花弁集めで競争するか?」
     落ちてくる花弁を捕まえて、寒さを忘れようという提案。
    「一番取れなかった人が一番取れた人に団子奢るとかどう?」
    「奢りと聞いたら負けないわよ!」
     クレイに春陽が食いつく。
     やる気になった仲間にシグマはよーいドンと声を掛けた。
    「この光景をアンティークにするとしたらどんな物に当て嵌めますか?」
     无凱の鈴束とバングルが小さな音を奏でる。
     晄は櫻の情景を見つめ乍ら口にした。
    「彫金で豪奢にしたいですね」
    「僕は砂時計、星の砂、木彫りの首飾りも良いですねぇ」
     スケッチブックに描いて見せる。
    「うん、これから良い事ありそう」
     紗羅はスイーツボックスからドーナツを取り出し、霧の中から現れる様子を眺め、幸せそうに微笑んだ。
     晴れやかな空が広がり始めていた。

    ●春風と共に
     青空の下に広がる櫻の絨毯。櫻の下で見上げれば、櫻の濃淡を楽しめる。枝と枝が交差して、櫻を繋ぎ一つの美しさを形作る。
     華やかな櫻のもとで花見を楽しもう。
     毛氈の敷かれた長椅子に白焔と三日月は並んで座り、葛菓子と団子、抹茶を味わう。静かに寄り添うように。
     話の話題は互いの第一印象で一緒に戦う内に、背中を預けられる存在に変わった事。
    「そして今に至る…と」
     白焔に着物の事を尋ねられ、三日月は一張羅で気合いが入っているのだと応えた。
     向かい合うように座り抹茶を味わう。話は将来の事に移っていた。
    「我の夢は騎士として皆の平穏を守ることじゃ」
     ダークネスを根絶するのでは無い所がみそじゃと姫月。
    「俺は鮮やかに色づいた心を映す剣を探す」
     鉄次は祖父から託された思いと、自分が抱く夢を静かに語る。
    「広い世界を見てまわりたい。そんな事を考えますね」
     皆無は未だ見ぬ世界に思いを馳せる。
    「さしあたっての目標はムキムキになる事じゃ」
     華奢な二の腕に力を入れて見せた。
     透はこからもこんな風に過ごせたら良いなと夢うつつな気分で思う。
     櫻を堪能した後は、櫻の香水選び。聖也と音は互いの香りをイメージして贈り合うのだ。自分の選んだ香りを身に纏ってくれると思うと、選ぶのにも力が入るというもの。
    「ンじゃ約束通り交換しようぜ」
    「えっへへ、ありがとっ。聖也の気に入る奴だといーなぁ…」
     櫻が香る度、この幸せを思い出せる様にと願って。
     重蔵は地元である横浜の事を思い出し乍ら話し、和装の竜胆の手を取り、ゆっくりと歩く。途中、軒先に並ぶ和小物を眺め、手に取って見せる竜胆に重蔵は愛おしそうに微笑む。
     ついて出たのは素直な気持ち。
    「櫻綺麗だけど、竜胆のがもっと綺麗だぜ。和服、似合ってる」
    「あ、ありがと」
     桃子との初デートで戒士は浮かれていた。自分の為に手作りお弁当まで用意してくれたのだから。
    「美味しいっす、桃子さん!」
     戒士の食べっぷりに、桃子も嬉しそうに微笑む。
    「戒士くん、お弁当がついてるよ?」
     戒士の口元から摘んで取ると自分の口へと運ぶと、ね? と微笑んだ。
     飲むのは初めてだと紗月の用意した櫻茶。ヒオの用意した和菓子たち。
    「かんぱーいっ」
     大人達とは違うけれど、と気分だけでもと口にする。恵理も紗月と同じ様に思ったのか、用意したのは塩抜きした櫻と櫻の蜜で作ったシロップを炭酸水に混ぜ入れた。
    「気分だけですけど…ね?」
    「乾杯♪」
     盛り上がる気分と共に掲げられるグラス。
    「もなかの皮が上あごにくっつくですよーぅ」
     櫻餡のもなかを味わうヒオの声が響いた。
     櫻の下でのお弁当。美味しそうなおにぎりやおかずも並ぶ中、エイダに握って貰ったロシアンおにぎり。具は一葉が選んだ物だ。
     エイダが作ったと言う事で、青士郎は文字通り飛びつく勢いで手に取る。綺麗な三角にはなっていなくても、愛情は籠もって居る。隣でエイダが止めようとするが、エイダがそんな事をする筈がないと手に取り口へ。
     一瞬の間。滲み出てくる味。
    「ッッ!? 馬鹿な俺が負ける筈が…」
     水花の用意して来たお茶をいれ、エイダが青士郎に差し出す。綺麗に色が出ていると感心し乍ら。
    「他は大丈夫かな」
    「たぶん大丈夫ですよ」
     薫に聞かれ、一葉が応える。
    「私はこれかな」
     水花が選ぶと、薫と一葉も続く。そして一斉に口へと運んだ。
    「内地はやっぱり櫻が早いねー」
     道産子の志歩乃は二度目になる櫻を迎え思う。
     持ち寄ったお弁当が広げられる。
    「白パンに好きなだけ乗せたり挟んだりしてください」
     優雨は余り料理はしないが、サンドイッチの具作りだけは手伝わされていたので、上手く出来たと思う。
    「サンドイッチの照り焼きがパリパリして食感も楽しいね」
     千歳は温かなオニオンスープにパセリを添えて配り終えると、美味しそうな香りのする料理に手をつけた。
    「波織さんの煮物、味染みてて美味しいわ」
     煮物はいつも適当に作っているなとシグは自身を振り返る。
    「イチ君は頑張ったね…」
     瑞樹は努力をねぎらいつつも、バナナinおにぎりからはそっと視線を逸らす。
    (「でもごめんバナナは食べられないよ」)
    「櫻…壮観」
     風に揺れる櫻を見上げるイチは得も言われぬ感情が沸き出でて涙が溢れそうになるのを隠す様に隣にいるくろ丸に顔を埋めた。
    「一寸分かるわ」
     壱は頷き、眼差しを櫻へと向けた。
    「花梨の淹れる珈琲を甘くして、甘い和菓子と一緒に食べる。これ至福」
     芥はまったりとした一時を堪能する。
    「一部、花より団子の奴等がいるな」
     零那は花梨と共に、ゆっくりと観櫻を楽しむ。日頃お世話になっている零那に何か恩返しをしたいと考えるが、今の雰囲気が心地よくて浸っていたいと思わせる。
    「あははニアちゃん引っ張らないでよー抜けちゃうよー。いや一寸待って、抜けるマジ抜けるから!」
     最初は軽かった唄音の声音が段々マジになっていた。手は頭上のアホ毛を必死に防御している。
    「はっはっはっ、ニアは可愛いなー」
     咲楽はニアの仕草にうんうんと頷いて笑っている。年寄りの眼差しのよう。
    「あ、ミストおにーちゃん! どーん☆」
     止めに入ったミストの鳩尾を可愛いかけ声と共に殴る。
    「…ぐはぁ!?」
    「平和だねぇ…」
     エリは転がってきたミストに膝枕をし、優しく撫でた。その手に重ね優しく包み込む。
    「和気藹々とこうして花見出来るというのは幸せな事だな」
     しみじみと芥が言う。
     少し場を離れていたヘキサが戻って来た。
    「オラァ! 即席サクラ吹雪だァー!」
     集めてきた山盛りの花弁を一段高い所から、ヘキサが思いっきりぶちまけた。
     並ぶのは数々の力作。
    「えへへ、張り切って作り過ぎちゃった…。お味は如何?」
     京音はプロ級の腕までを存分に発揮した料理を並べる。
    「何はともあれ、カンパーイなのです!」
     かなめ全種類制覇を目指し、頬袋にため込むリスの如く、幸せそうに口へと詰め込んでいく。
    「…凄い勢いで食べ物が減っていくな」
     とりあえず飲み物の準備をしておくかと流人はコップにお茶を注ぐ。
    「どれも美味しそうです」
     真琴は取り皿を手に迷う。
    「日本舞踊学部に入ったことだし、得意の舞を披露するよ」
     磯良は神主服姿で皆の前に立つ。
    「この前練習した成果を、です」
     真琴が横笛の口にそっとつける。
    「1番、殺人鬼×タンバリンのジョー、参ります!」
     情がタンバリンを鳴らし加わる。
    「へいへいへーい!」
     知子が景気よくじゃかじゃかとウクレレを掻き鳴らす。
     ノリノリで磯良が踊るのを詞水は笑顔で見つめる。
    「凄いです」
     賑やかな後は、炎次郎と相棒のミナカタの漫才。霊犬ミナカタの可愛らしい仕草につい微笑ましい気分で笑顔に変わる。
    「お口に合うと良いのですが。今後とも宜しくお願いします」
     靱のナノナノ型の栗最中を嬉しそうに詞水が受け取る。
    「こうして大勢で楽しむのも、悪くないな」
     久遠は皆が満ち足りた表情をしているのを満足げに眺めている。
    「みぃ…まだまだ、皆さんと、お喋りしたい、のに…眠たく、なって…」
     春の陽気に誘われる様に初子がほんの少しの微睡みにおちていく。夢の中で兄姉に会える事を願って。
     虎之助は即席のお茶漬けを作ると、落花してきた櫻の花弁を3枚程浮かべた。
    「櫻茶漬け、風流じゃね?」
    「風流…なのか、これ?」
     花より団子かと突っ込みつつも、手は差し出していた。
     腹具合も、気持ちも満ち足りた気分なのに落ち着かない。夕眞は虎之助の膝を借り、ごろりと寝転がった。
     鐐に用意して貰った場所で広げるは重箱弁当とロールサンド、そして御茶屋で購入した和菓子達。
    「いつもながらに美味しいよ♪」
     織姫は口にしたお茶は少し苦いかなぁと呟いた。
    「この葛菓子美味しい~♪ 見た目も綺麗だよね」
     どうやったら作れるのだろうと夏奈は味わい乍ら考える。趣味の菓子作りで自分も作れたらと思うから。
    「お、花弁」
     抹茶に浮かんだ花弁に鐐は笑みを浮かべた。

     奥千本の元まで歩くと、西行庵までもうすぐ。
    「ここから見る景色が一番好きだな」 
     明莉の言葉に心桜も視線を向ける。圧巻の光景に声を失う程。
     西行について語り合い、互いの気持ちも自然と口に出来た。
    「俺は欲張りだから、櫻の花だけじゃ嫌だけど」
    「わらわもじゃ」
     重ねられた手の温もり。心桜の心を照らしてくれる花あかりに寄り添って。

    ●妖艶
     夜空を背景に灯りによって照らされた櫻は、昼よりも一層濃く、眼前に迫ってくるような錯覚さえ感じさせた。
     視界に入る情報が絞られているからだろう。静かな雰囲気の中を、櫻を愛でるのも悪くない。

     緩やかな散歩を終え、お弁当を広げ味わう。
     砌はアルベルティーヌが少しでも元気になってくれたらと。
    「あ、アルビィさん、付いているよ? ううん、ご飯粒じゃなくて、ほら櫻の花弁」
     そっと髪に触れて、掌に乗せて見せた。
    「まぁ」
     ふわりとアルベルティーヌは砌に笑顔を向けた。
    「しかし、夜櫻は狂気を呼ぶと言うが、確かに魅せられるものがあるなぁ」
     誰歌は腕の中の温かさに身も心も満たされる。
    「…はい誰歌。あーん」
     フローレンツィアは誰歌の膝上で葛菓子を持った手を伸ばす。
    「…ああ、夜櫻は本当に綺麗だ」
     鏡花は僅かな光に照らされる雪の様に舞う櫻に、友人と共に過ごす贅沢を満喫する。
    「乙やねぇ」
     アイネストはFourSeasonsのオリジナルブレンド紅茶、さくらブレンドに降ってきた櫻の花弁が混ざったのを見て呟いた。
    「ウン、ハジメテだけど、すんげ気に入ったー!」
     尚都はお菓子と共に櫻の色香に酔う。
    「皆さんと一緒で良かったですわ。でないと夢から帰って来られなくなりそう、ですもの」
     藤乃は昼の賑やかさから別世界に来たような感覚に身を委ねそうになる。
    「夢に迷った時はきさが連れて帰るよ!」
     希沙が藤乃の手を取ると、尚都とも手を繋ぐ。
    「櫻吹雪は日本のご当地の誇りだよな!」
     健は風に運ばれて来る花弁を身体で受けた。
    「おう、日本の誇りには同意だ。これは外せねぇ!」
     供助は白と葉の対比に見入る。
    「供さん健くん写真撮ろ!」
     櫻と共に皆の笑顔がファインダーに収められた。

     綴の双子の姉に共に歩む人が出来た事、今年も一緒に櫻を見られて良かった事を話し乍ら、大人な気分を感じていたら、予想して居なかった言葉が星花に降ってきた。
    「卒業したら、結婚する?」
     疑問系で聞いてしまうのは、綴にほんの少し自信がないから。
    「何があっても迷惑とか無いし、綴と結婚したい。でも、私で本当にいいの?」
    「いいよ、星花がいい」
    「えへへ…。じゃー来年の櫻の時期に結婚しよ! 約束だからね! 指きり!」
     嬉しくて涙を浮かべながらも満面の笑みを浮かべると星花が小指を差し出す。
    「ありがと」
     来年の春も一緒に。

    「夜櫻ってのは、暗中に存在感がはっきりしてて、一層威圧感すら感じるな」
     着物姿のエウロペアに式夜が着流しの上着を掛けてやる。
    「それではそなたが寒いであろ? 少し近こう寄るがよい」
     上着を翻し傍らへと誘うが、式夜は背中から抱きしめる。
    「こら、何処を触っておる」
    「うむ。中々体温が高くてぬくいぬくい」
     幸せそうな式夜にエウロペアは、ま、よいかと身を寄せた。
     シェリーは七狼を見つめ、気持ちに寄り添えているだろうかと、視えない奥底へと想いを馳せる。
     ふと視線が合うと、花が綻ぶ様な笑顔を浮かべ、可愛らしい我が儘を口にする。
    「櫻よりわたしを観て?」
    「君越シにしか櫻を観てイない」
     七狼はシェリーの細い指に触れ、距離を縮める。寄り添って観ようと。
     再び櫻の季節が訪れ、一緒に過ごせる幸せを分かち合う。紫桜は何時までも柚姫を守ると誓う。
    「少し遅くなったけど…一年の記念に。柚姫にこれを…」
    「…これを私に? 指輪を目にする度に思い出して倖な気持ちになれますね。大事に、大事にさせていただきますね」
    「新しい誓いをこの夜桜の下で…ってな。ずっと幸せに居よう、柚姫」
    「はい」
     紫桜の言葉に柚姫は嬉しさを滲ませた。
     幻想的な情景に出てくるのは感嘆の溜息。蕩けそうな心地良さを感じ乍ら、月子は湊の頬に触れ撫でる。
    「湊君、私をずっと捕まえていてね」
     月子が指を絡めて来るのを湊はぎゅっと握り返す。
    「うん、ずっと。ずーっと離さないよ」
     寄り添い乍ら、延々と続く櫻の景色を共に追った。

     芥汰の膝上で夜深は包まれる様な気持ち。
     櫻を共に眺め、楽しい時間を過ごす。夜深の髪に舞い降りた花弁を摘む。
    「どっかで見た事のある色だ」
    「あイや? 同じ色?」
     そっと夜深の唇に触れさせた指を見て、芥汰は自分の顔が赤くなるのが分かった。
    「ん。ちゃんと此処に居る、ですね」
    「うん、大丈夫。ちゃんと此処に居るから」
     飲み込まれそうな程圧倒された雪緒は、清十郎の差し出された手を確りと握り、存在を確かめる。
     ひらひらと舞う花弁が雪緒を彩るのを見惚れるのだった。

     櫻の連なりを追いかける様に、奥へ奥へと歩いて行く。
     振り向けばあの世の入口の様にある櫻に錠は、何処か上の空の相棒に尋ねる。
    「なァ、お前は櫻と月は好きか?」
    「…んだな、櫻は嫌いじゃない。月は妙に好きになった」
    「マジで? 俺は月が嫌いだ」
     ぼんやりと応えた葉だったが、錠から放たれる寒気に現実へと引き戻された。
    「今が2人きりで良かったと心底想うぜ」
     相棒にしか見せたくない感情だと、吐露する錠。
     葉はコートの襟をかき寄せ頸を竦め乍ら、心の奥底が疼く様な歓びを感じている自分に、櫻の木の下に埋めて仕舞えたらと思う。

    「…Amour、Musique…――Misericorde」
     実は静寂の中、小声で大切な歌を口ずさむ。櫻たちの邪魔にならない様に小さな声で。

     櫻に魅入られている、それでも。
     櫻の競宴に惑わされても、足を運ぶのは誘われているから。
     仄かな甘やかさを風に含み、人の抱える気持ちを優しく包むと知っているから。

    作者:東城エリ 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2014年4月18日
    難度:簡単
    参加:102人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 16/キャラが大事にされていた 5
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