刺青羅刹・新宿迷宮の戦い～その手につかむものは

■リプレイ

●探索
　新宿迷宮の浅い階層を、灼滅者達は歩いていた。迷宮の中は暗かったが、彼らの頭や腰に装備された明かりのお陰で、十分な光量を確保出来ている。
　先頭を歩くのは、日野森・沙希（劫火の巫女・d03306）。彼女の耳は、手元のトランシーバーに繋がったヘッドホンで覆われていた。彼女の後ろを、地図を手にした東間・玄（エセ忍者・d25274）がついて歩く。玄の手にある地図にはスーパーＧＰＳによるマーカーがくるくると踊り、彼はそれを見ながら現在地を沙希に伝えていた。二人の後に、黒い服に身を包んだソフィリア・カーディフ（春風駘蕩・d06295）が続く。
　御神楽・フローレンス（高校生エクソシスト・d16484）の衣服から紡がれるのは、アリアドネの糸。迷宮の入り口を起点とした赤い糸は、彼らのたどった道筋を正確になぞっていた。
「いつもより大変だけど、みんなで学園に帰れるように頑張ろう」
「敵は倒せる時に徹底的に倒しておくに限るの」
　最後尾を歩くクレイ・モア（おばかちん・d17759）の言葉に、久瀬・一姫（白のリンドヴルム・d10155）が頷く。ここで十分に戦力を削いでおけば、後々の戦いが有利になるだろう。
　足音を殺して進むソフィリアの後ろで、城戸崎・葵（素馨の奏・d11355）は周囲に気を配っていた。彼らは鞍馬天狗勢力を襲撃するべく行動しているが、逆に相手側から奇襲を受ける可能性もあるのだ。
　複雑に曲がりくねった通路を抜け、彼らが少し開けた場所へ出ようとしている時。葵の瞳は、１体の羅刹の姿を捉えた。周囲に他の敵の姿は無い。単独行動をしている最中なのだろう。
「１体、見付けたよ」
　葵が仲間にそう告げるのと、羅刹が灼滅者達の手にしている明かりに気が付くのとは、ほぼ同時だった。
「てめぇら、いつの間に入って来やがった！」
　羅刹が叫び、腰に佩いた日本刀を引き抜く。その隙に、玄が羅刹の足元へ予備のライトを投げ付けた。からんからん、と派手な音を響かせて、ライトは羅刹の姿をはっきりと浮かび上がらせる。
「神に祈る時間をあげる」
　もぐもぐしていたバランス栄養食を飲み下し、リズリット・モルゲンシュタイン（シスター・ザ・リッパー・d00401）は仲間達の前に躍り出る。
「悔い改めなさい、3秒で」
　彼女の抜き放った日本刀の冴え冴えとした輝きが、戦いの始まりを告げた。

●襲撃
「あなた達の悪巧みはお見通しなのですっ」
　沙希の華奢な腕が異形のそれへと変化し、羅刹の腹を抉る。前衛を担う仲間達より少しだけ退いた位置から、一姫は突撃槍を繰り出した。螺旋の捻りを得た一撃は、羅刹の肩を貫く。
　羅刹は受けた傷を気にした風も無く、抜き身の日本刀を振りかざした。まっすぐに下ろされたその刃を、一姫に代わってソフィリアが受け止める。
　ロード・パラジウム達が探していたものが何なのか、少し気になるけれど。クルセイドソードで日本刀を押し返し、ソフィリアは藍の瞳で羅刹を凛と見据える。それは、そちらへ向かった皆が何とかしてくれる筈だ。今はそのためにも、己が為すべき事を。聖剣が破邪の輝きを帯び、切り付けたソフィリアに盾の加護を与えた。
　油断は出来ない戦いだ。葵は指先に癒しの光を集めながら、傍らのビハインドへ呼び掛ける。
「ジョルジュ、どうか無理だけはしないように」
　頷くような仕草をしてジョルジュは羅刹へと迫り、ベールに覆われた素顔を晒した。
　ジョルジュの隣に玄のライドキャリバーであるヴォーバンが並び、銃声を響かせる。
「ロックな鎮魂曲を贈ってやるよ！」
　バイオレンスギターをかき鳴らし、フローレンスは輝きの十字架を作り出す。十字架の放つ光線に合わせて、霊犬のシェルヴァが六文銭を放った。
　クレイのクルセイドソードに輝きが宿り、羅刹を肩から斜めに切る。
「どうしても生きて帰らなきゃいけないからな、悪いが死んでもらうぞ、天狗ども！」
　顔をしかめた羅刹に向けて、玄は縛霊手に内蔵された祭壇を展開した。
　リズリットの足元からするりと影が伸びて、羅刹の体をばくんと呑み込む。現れたトラウマの攻撃を避け、羅刹は月のごとき衝撃を前衛に浴びせた。
　沙希は神楽鈴に魔力を込めて、羅刹の脇腹を強かに打つ。内に流し込まれた力が、羅刹の中で暴れ回った。ソフィリアの足元から影が伸び、羅刹に絡み付く。一姫はハートの飾りを先端に付けたマテリアルロッドを振るい、魔力の矢を飛ばした。
　ロード・パラジウムも外道丸も気になるところではあるけれど。仲間の様子を見て、葵は霊力を指先に集める。僕達は僕達の仕事をしなければ。
　フローレンスはギターを爪弾き、癒しの調べを奏で上げる。クレイの剣が羅刹の胸を貫く。非物質と化していた剣は傷跡を残さず、ただ霊魂のみを傷付けた。その後ろで玄がガンナイフの引き金を絞り、羅刹の足元を撃ち抜いた。
　よろめきつつも羅刹は腕を異形化させ、一姫の体を鋭くうがった。バトルドレスに鮮やかな血がにじむ。
　羅刹がリズリットの影を避けた隙に、沙希は手にした神楽鈴に炎をまとわせる。
「地獄の炎で苦しみながら灼滅されるのです」
　澄んだ高い音を奏でながら、沙希の鈴は羅刹を燃え上がらせる。それに次いでソフィリアの影が羅刹をきつく縛り上げ、悲鳴じみた声が喉からしぼり出された。やがて影から解放された羅刹はその場に倒れ伏し、そのまま消滅する。
　一息をつこうとした灼滅者達へ、それを許さないとばかりに乱雑な足音が聞こえ始めた。

●受難
「いたぞ！　灼滅者のガキどもだ！」
　腹に響く男の声に、灼滅者達は表情を引き締めた。灼滅者達の襲撃に気付いた羅刹達は、どうやらチームを組んで巡回を始めていたらしい。
　こちらへ向かって来るのは、先程の羅刹と同じく、日本刀を手にした男女２体の羅刹。
　覚悟を決めるしかない。灼滅者達は、武器を握り直した。
　羅刹たちが位置を取った場所は、どちらも前衛。しかし立ち位置から察するに、どちらかと言えば女は男のサポートを担当するようだ。
　ならば先に狙いを付けるべきは――。
「女の方から倒しましょう！」
　即座に判断を終えたクレイは、白光を放つ斬撃を女に見舞った。葵が祭霊光を紡ぐ傍ら、フローレンスは裁きの光条を作り出す。鋭い光は女の胸を貫き、苦鳴じみた声が上がった。玄が縛霊手の祭壇を展開し、女を痺れで捕らえる。ジョルジュが素顔を晒した後に、シェルヴァが斬魔刀を振るう。
　ぱん、と女が手を打ち鳴らし、癒しの風が羅刹達を包む。次いで、男の腕が肥大化した。
　異形化した男の腕に勢い良く殴り付けられ、一姫のドレスが血で染まる。痛みと衝撃に耐え切れず、彼女はその場に倒れ伏した。
「精鋭ではないけれど、それなりの使い手みたいね」
「ええ。油断はできません」
　呟くリズリットの影に続いて、ソフィリアは再び自らへ盾の加護を与えるべく聖剣を振りかざす。影に頭から呑み込まれた女に、破邪の一撃が襲い掛かる。刺繍を施されたリボンが、その勢いで大きくふわりと揺れた。
　巫女装束の裾を舞わせながら、沙希は女へ肉迫する。細身の体に不似合いなほどふくれ上がった腕は、女の腹を的確に抉った。葵が指先に癒しの力を集め、クレイに向けて飛ばす。フローレンスはそれに続けて、大樹より作られしギターの音を響かせた。荒々しい調べが、仲間達への癒しとなる。
　クレイの剣が非物質と化し、女の胸を刺し貫く。玄がガンナイフの引き金を絞って、乾いた音を奏でた。
　ぱちん、と指を鳴らして、女は風の刃を作り出す。渦巻く力の行く先は玄。男が彼との距離を詰めて、日本刀を頭上から一直線に振り下ろした。葵がすぐに祭霊光を飛ばすが、全ての傷を癒す事は出来ない。
　リズリットから伸びた影を避けた女へ、ソフィリアのオーラが迫る。沙希は神楽鈴に炎をまとわせて、女の二の腕へ力強く叩き付けた。フローレンスが三日月を思わせる弓から癒しの矢を放つ間に、クレイは必殺の光線を放った。
　ソフィリアの影に締め付けられて、ぐらり、と女の体が傾いだ。けれどすぐに体勢を立て直し、彼女はもう一度ぱちんと指を鳴らす。
　渦巻く風の刃に切り刻まれ、玄の体がどうと地に倒れた。

●撤退
　リズリットの刃が鋭く閃き、弧を描く。その一撃で喉を裂かれた女は、ひゅっと空気の通り抜ける音を鳴らして仰向けに倒れた。じきに、その姿も見えなくなる。
「一人倒したぐらいでいい気になるなよ！」
　男は刀の切っ先で緩い円を描き、風の刃を呼ぶ。足元から襲い来る衝撃に耐え切れず、フローレンスが倒れた。
　しゃらん、と鳴ったのは沙希の神楽鈴。猛る炎をまとった一撃は、男の腹を正確に打ち据えた。ソフィリアの両手にオーラが宿り、荒々しい音と共に男に放たれる。葵がバイオレンスギターをかき鳴らして、低下した仲間の武器の機能を取り戻した。ジョルジュが掌から霊障波を放ち、男の胸を傷付ける。
　ぐにゃりと音がしそうなほどの勢いで、男の腕が変形する。恐るべき勢いで繰り出された拳を、クレイがまともに引き受けた。
「さすがに２体相手にするのは……厳しいですね……」
　はは、と小さく笑って、彼はその場に崩れ落ちた。これで戦闘不能者は４名。中でも、一姫の傷は深いようだ。対して、これまでの戦いでほとんどダメージを受けていない男には、まだまだ余力がある。
　引き際を誤るべきではない。ソフィリアは藍の眼差しを仲間達へ向けた。
「撤退しましょう！」
「分かったわ」
　リズリットは刀を鞘に収め、一姫を肩に担いだ。他の灼滅者達も、それに続いて仲間達を担ぎ上げる。
「おいおい、どこに行くんだ？　俺はまだ元気だぜぇ！」
「しつこい人は嫌われますですよ！」
　後退を始めた灼滅者達に、男はゆがんだ笑みを浮かべて追いすがる。沙希はその顔面へ、異形化した拳を叩き込んだ。
　今まで歩いて来た道を逆向きにたどり、灼滅者達は走る。追い掛けて来る男の足音は、暫くの間は聞こえていたが、しんがりを務める沙希が更に二、三度攻撃を加えると途切れて消えた。
「どうやら振り切ったようだね」
「このまま脱出しましょう」
　意識の無い仲間を担いだまま、葵とリズリットは頷き合う。
　やがて、灼滅者達の目に外の光が見え始めた頃。何処からか、鞍馬天狗撤退の報が聞こえて来た。

作者：牧瀬花奈女	重傷：久瀬・一姫（白のリンドヴルム・d10155）  死亡：なし 闇堕ち：なし
種類： 公開：2014年4月22日 難度：やや難 参加：8人 結果：成功！
得票：格好よかった 7／感動した 0／素敵だった 0／キャラが大事にされていた 0
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