刺青羅刹・新宿迷宮の戦い~辿るは刺青の向かう先

    「なるほど、刺青羅刹にはああいう手合もいるのか。正直、俺の勝ち目は薄そうだな」
    「鞍馬天狗の軍が来ます! 外道丸さん、どうしますか……!?」
    「あいつの狙いはお前じゃなく、明確に俺の『刺青』だ。そして俺よりも強く、こちらの陣容も筒抜けっぽいな。力量と情報で敵わないなら、俺達にあるのは地の利だけだ」
    「地の利……あっ、昨日教わった『大勢と喧嘩する時は狭い場所で』、ですね!」
    「その通り。それに、奴等の狙いが俺なら、俺が移動すれば街にダメージは無ぇ。
     新宿迷宮で籠城戦だ。全員俺についてこい!」
      
    「この間の新潟での戦い、おつかれさま。グリュッセル王国に引き続き、刺青を持った羅刹・外道丸と鞍馬天狗の方で新たな動きが確認出来た」
     新学期が始まって早々、桜雪は教室に集まった灼滅者達に労いの言葉を掛けると同時に分厚い資料を渡していく。
    「場所は新宿迷宮。外道丸はこの新宿迷宮に籠城しており、鞍馬天狗は外道丸を追いかけて新宿迷宮へと向かうんだ」
     先日行われた新潟ロシア村の戦いにて撤退した鞍馬天狗達はアメリカンコンドルを撤退へと追い込んだ精鋭とロード・パラジウムと共に歌舞伎町の刺青羅刹・外道丸を襲撃。この戦いは鞍馬天狗達の圧倒的勝利に終わった。そして、外道丸は生き残った仲間達を連れて新宿迷宮に撤退し籠城。
    「鞍馬天狗に外道丸の情報を与えたのは朱雀門高校だ。だからこそ、ロード・パラジウムも同行している。その目的は外道丸が保護している何かの回収らしい」
     続けて桜雪はロード・パラジウムが回収しようとしているものについては不明だ、と言葉を続けた。
    「新宿迷宮での戦いだが、外道丸の配下は少数精鋭。鞍馬天狗側も今回は数の有利を使う事が出来ないんだ。……とは言っても、数字的に見れば鞍馬天狗の方が仲間を多く率いている。苦戦はするだろうが、外道丸は新宿迷宮でも敗北するだろう」
     もしも、外道丸が鞍馬天狗に敗北する事態となれば、外道丸の刺青は鞍馬天狗に奪われることとなる。
     資料を捲る指を止め、桜雪は教室に灼滅者達に視線を向けた。窓の外に広がるのは長閑な春であるのに、教室内の空気はどこか重い。軽い音を立てて、桜雪が近くの窓を少し開ければ、爽やかな風が入り込んでくる。
    「……と、ここまでの話は武蔵坂学園が何もしなかった場合の話だ。視えた未来は変えることが出来る。……危険なのは重々承知だが、このまま何もしない訳にはいかない」
     鞍馬天狗による刺青の強奪を阻止する為には、外道丸を灼滅する必要がある。また、今回の抗争の隙をつく事ができれば、鞍馬天狗やロード・パラジウムの灼滅も可能だろう。
     この好機とも言える新宿迷宮での戦い。
     ――見逃せる訳がないであろう。
    「各戦力についてだが、大まかには先ほど言った通りだ」
     知る事の出来たその情報を、桜雪は淡々と告げていく。
     新宿迷宮に籠城中の外道丸側は、外道丸に少数精鋭の配下。そして外道丸は何かを保護している。一方の鞍馬天狗側の勢力はと言えば、配下と精鋭、ロード・パラジウム。数は外道丸側よりも多い。
    「更に詳しく言えば、鞍馬天狗の配下は新宿迷宮の浅い階層を制圧。精鋭は深部を探索中と言ったところか」
     桜雪は外道丸や鞍馬天狗と並ぶ文字を色の違うチョークで囲みながら、一番最後に武蔵坂学園と文字を書いて矢印を引いた。
    「黒板を見ても分かる様に、外道丸勢に攻撃をしようと思ってもその前には鞍馬天狗達がいる。鞍馬天狗とロード・パラジウムを何とかしないと外道丸勢には何も出来ないから気を付けてくれ」
     大規模な襲撃があれば鞍馬天狗は撤退を始めるし、鞍馬天狗が灼滅されるか撤退すればロード・パラジウムも撤退をするだろう。
     知り得た情報を灼滅者達へと伝えた桜雪は小さく息を零し、ゆるりと口を開いていく。
    「やる事や気を付けないといけない事が多い上に、オレからみんなに伝えられる情報はたったこれだけだ」
     情報があればあるだけ、作戦は成功しやすくなる。しかしながら、伝えられるのは僅かなもの。
    「あれもこれもと下手に手を出せば何も得る事が出来ない可能性もある。何を優先するのか。そのために何をすべきなのか、よく考えて作戦にあたって欲しい」
     何を選び取り、それがどうなるのか。
     全ては灼滅者達の選択と行動にかかっているのだから。


    参加者
    左藤・四生(覡・d02658)
    近衛・朱海(蒼褪めた翼・d04234)
    志賀神・磯良(竜殿・d05091)
    乙宮・立花(仮想のゆりかご・d06338)
    咬山・千尋(中学生ダンピール・d07814)
    神乃夜・柚羽(燭紅蓮・d13017)
    カリル・サイプレス(京都貴船のご当地少年・d17918)
    宇佐・紅葉(紅蓮浄焔・d24693)

    ■リプレイ

    ●迷宮を進み
     外道丸と鞍馬天狗を追い、新宿迷宮へと足を踏み入れた灼滅者達を待ち構えていたのは、暗闇と複雑に絡む道であった。奥へと潜る外道丸。追う鞍馬天狗達は迷宮の上層階を制圧している。絶対に成功するとは言えぬ作戦。少しでも成功させる為には浅い階層にいる鞍馬天狗側の勢力を襲撃する必要があった。
    「分かれ道だ。次はどっちに行く?」
     目の前に並ぶ分かれ道を照らす光は左藤・四生(覡・d02658)の照明光。久方振りに入る新宿迷宮。その姿は以前に入った時と今のところは変わっている所は無くて。
    「次は右だよ。左の道は行き止まりみたいだね」
     志賀神・磯良(竜殿・d05091)が視線を落とす紙は新宿迷宮の地図。入った者を迷わせる様に作られた通路。ESPの 力で地図上に現在地を表示させれば、迷わずに進むことが出来る。あまりにも広い迷宮に数多の分岐と階層に自然と灼滅者達は班に分かれて動くこととなった。
    「 ここが新宿迷宮……ねぇ」
     ――よくもまあ、こんなとこ造ったもんだぜ 。
     ぼんやりと照らし出された道の奥の視線を向けながら宇佐・紅葉(紅蓮浄焔・d24693)が言葉を漏らす。
    「カリルさん、その色の違う柱に気を付けて下さい」
     よく照らさねば見えぬ隅の物陰。迷宮に新たな変化が無いかと隅を照らそうとしたカリル・サイプレス(京都貴船のご当地少年・d17918)が柱に掌を重ねようと伸ばしかけた瞬間、神乃夜・柚羽(燭紅蓮・d13017)は声をかけた。以前の報告書から迷宮内に罠が仕掛けられている事は把握している。
     伸ばしかけた手をカリルが引っ込めれば、仲間から借りた照明で物影を確認する。闇の中に隠れる者は無く、異常は無い。
    「柚羽ありがとうございますのです。パラジウムさんの退路を見つけられれば、と思ったのですがなかなか見つけられないのです」
     今回は事前に知りえた情報が少ない。過去の手段から警戒する点は幾らでも考えられるのだ。
    「……ん」
     トランシーバーから聞こえてきたノイズ交じりの声に乙宮・立花(仮想のゆりかご・d06338)が応える。不明瞭な音の中から意味のある声や音を拾い上げ様とすれば近衛・朱海(蒼褪めた翼・d04234)が立花の名を呼んだ。
    「何か来るわ。皆も気を付けて」
     不意打ちを受けない様に、誰かが必ず四方を確認して進む陣形。警戒していたからこそ朱海が気付いた足音はどんどん灼滅者達の方へと向かってくる。場所はやや広めの部屋、先の分からぬ道へと進むよりかは、戦いやすいこの場で戦う方が良いであろう。
     羅刹が二体。
     灼滅者達の姿を確認した羅刹達は顔を見合わせれば、示し合わせたかのようにこくりと頷き戦闘の構えを見せてきた。
     
    ●羅刹斬りて進む道
     漆黒の棺に仕込んだのはガトリングガン。ライドキャリバー――バーガンディに跨る咬山・千尋(中学生ダンピール・d07814)はガトリングガンの銃弾を羅刹に打ち放てば、怯んだ羅刹の身体にバーガンディごと突撃する。
     いつもであれば後方からの支援が多いけれども、今回はそうではない。
    「大丈夫、僕にも出来る筈」
     いつも仲間達のやる役割をこなせば良い。
     四生は地を蹴り、片腕を巨大化させた異形の腕へ。それを千尋が攻撃した羅刹に振り下ろせば、背後にいる紅葉が放つのは己の魂を削り生み出す凍てつく炎。その冷たさはゆっくりと羅刹達の体力を奪っていく。
     まるで舞う様に腕を動かした磯良が呼寄せるのは清らかな風。考えていたのとは違う一手となってしまったが、それでも仲間を癒す事には変わりない。青い眼を向ける霊犬――阿曇と共に仲間達の身を癒していく。
    「さっきの、分かれ道……片方は、行き止まり……。……追い込めない、かな……」
    「確かに、ここじゃ挟み撃ちに合うかもしれないのです!」
     見える物も見えない物も、全てを爆破させる禁呪を紡いだ立花に青い視線を向けたカリルは至近距離まで羅刹との距離を詰めて己の魔力を叩き込み、羅刹の体を内から壊していく。
    「なら私はこちらを」
     今いる場所から先程の分かれ道まで遠くはない。柚羽が身を低くし死角に回り込めば、もう一体の羅刹へと迫り繰り出す斬撃は殺意を込めたもの。
     朱海が爆炎の炎弾で羅刹を襲えば、じりじりと羅刹達の足は後方へと下がっていく。しかし、羅刹達もただ攻撃を受けているだけでは無い。
    「かはっ……」
     朱海に叩きつけられた異形の腕。その凄まじい力は、朱海の体を吹き飛ばし壁へとめり込ませる。破邪の剣が齎した己の身を守る盾の力すら感じさせぬような羅刹の膂力。ずるりと折れた膝が地に付けば砕けた瓦礫がぱらぱらと降る。
     相手は鞍馬天狗で無く羅刹。確かに精鋭達では無いけれども、その力は確かに灼滅者が束にならねば倒せぬもの。
     羅刹と灼滅者達の一進一退の攻防。
     押しては返す鬩ぎ合い。
    「こっちも忙しいんだよ……!」
     翻る漆黒の袖に乱れ咲くは月下の花。作り出した紅葉の冷たい炎。それは羅刹達が前に戻らぬ様に地を舐め、辺りに冷気を振りまいた。灼滅者達と羅刹の間で燃える炎。
     この場を制することが出来たのは灼滅者達であった。
    「ふふ。これであとは奥に追い詰めるだけだね」
     風を仲間達に向けながら、磯良の青い瞳に映るのは疲労の色を見せ始めた羅刹達の姿。その背後の闇の向こう側には行き止まりが待っているだけ。
     狙うのは迅速に敵の戦力を減らす事。
    「行くか?」
    「……うん。そろそろ片付けたいからね」
     ぱちり、と僅かに爆ぜる音。四生の杖の変化に気が付いた千尋が夜を告げる茜の瞳をゆるりと向ければ頷きが一度。それで充分であった。
     バーガンディのアクセルをフルスロットルに、羅刹達へと向かいながら機銃掃射で弾丸を吐き出せば、千尋の握る破邪の剣は鮮血の色。羅刹の生命を奪う斬撃。羅刹から離れた瞬間に四生の雷が羅刹を襲えば、充満するのは肉の焼ける臭い。
     その臭いを押しのける風圧はあまりにも鋭くて。風の刃は後方に控えていた阿曇の身を深く刻む。伏した阿曇はもう動けない。
    「……佐助」
     気を引き締めて気合を入れる様に、立花は柔らかに霊犬――佐助の頭を撫でれば、もう片方の手は異形の腕へと膨らみ巨大化していく。仲間へ癒しを向けた佐助の姿を視界の隅に映し、立花は駆けた。
    「……一体何を企んでいるのだか」
     様々な勢力が動き始めている。それがどの様な結果を齎すのかを柚羽はまだ知る事は出来ないけれども、今回の外道丸と鞍馬天狗にロード・パラジウムの動きは厄介事を引き起こす種になりそうで。潰せるのなら潰したい所。
     だから、これはその為の一手。鞍馬天狗が率いる羅刹は、ここにはまだまだいるのだから。
     命を傷付けることの出来る剣。
     動くたびに小さく鳴る鈴音。音が止まったのは羅刹の命に深い斬撃を与えた瞬間。
    「これでお終いですね」
     崩れ消えゆく羅刹に、それは静かな言葉であった。
     
    ●羅刹は待たぬ
    「立花、他の班はどうなっているか分かる?」
    「……駄目。聞こえない……」
    「ふふ。そう。ありがとう」
     風を起こしながら磯良が立花に尋ねれば返ってきた答えはある程度予想していたもの。浮かべる笑みに反して磯良の身は既に満身創痍。けれども、自分が傷を負っていたとしても磯良にとって優先すべきは仲間達であった。
     二体の羅刹を倒した灼滅者達。しかし、休む間もなく聞こえてきたのはまた足音。戦場の音を消して戦った所で外道丸達のいる深部へと向かった仲間、同じく浅い階層を制圧している仲間達がいれば、気付かれるのは時間の問題。そして気づかれれば、敵を排除しようと羅刹達はより警戒する。
     他の班からの情報がない。こちら側としても連絡する手すら惜しい。どこも自分達と同じ様な状況なのだろう。
    「あまり、良い、状況じゃない……」
    「あぁ。けどなんとかするしかないっす」
     足りぬ回復を補うように、後方の者達へ立花が風を呼び出せば、その言葉を聞いた紅葉は瞳を細める。
     視線の先には羅刹が三体。
     雌雄一対となった匕首を握れば解放するのは蓄積された呪い。振るえば生まれる風は癒しでは無く毒孕む竜巻で。
    「余裕ぶってると苦しくなるぜ。床でも這ってな」
     刃先を羅刹達へと向ければ、周りの空気も巻き込んで竜巻は羅刹達の方へと向かって行く。
    「そう……苦しくなるわ」
     朱海の指がガトリングガンの引鉄に触れればその銃口を羅刹へと向けた。
    「今よりここが焦熱地獄。羅刹骨まで灰となれ!」
     思い引鉄を引いた瞬間、体全体を襲う衝撃は炎弾を放った確かな証拠。
     空気を引き裂き進む弾丸は羅刹の体にめり込めば、そこからさらに爆発する。身を焦がす炎はじわりと、動けば動くほど大きくなる。
     しかし、そんな事もお構いなしに振るわれた羅刹の腕と風の刃。仲間に向けられた巨大な腕をカリルが身を挺して庇うも、問題は二体の羅刹が作り出した風の刃。その先にいるのは、回復を担うのはただ一人。
    「大……丈夫、さ……」
     ぐらりと傾く体を止める力を磯良は残していない。そして聞こえる獣の悲鳴。叩く軽口に音は無くて。磯良の意識が途切れるとともに、鋭い風から磯良を庇おうとしたヴァレンの姿も消えていった。
     回復を担う磯良が倒れ、嫌な沈黙が灼滅者達の間に流れる。
    「行くぞ」
     沈黙を最初に破ったのは千尋であった。握るバーガンディのグリップ。エンジンは狭い迷宮に響きそうだが、防音対策は既に施している。
     放つ弾丸は数えきれぬ程、続く様に四生が鬼の腕を振る合間に柚羽がカリルに向けるのは癒しの力。続くカリルと立花も回復に撤していく。
     闘気を雷に変えて繰り出す朱海の打撃に羅刹の足が僅かに折れる。
     しかし相手は三体。呼び寄せられたのは、傷を治してしまう風。そして羅刹達の猛攻の矛先は四生と紅葉に向けられる。
     防御と回復を重点に置いた構成。確かにそれは強力な攻撃を受けてさえも崩れぬ程の力であった。けれども、何か決定的なものが足りない。
     そして、細かな認識の違いがここに来て大きく響いてきている。
     長引く戦い、繰り返される攻防。
     羅刹の元に駆け行けば、叩きつけるのは己の魔力。振るう杖が叩いたのは、丁度、人で言えば心臓の位置。一体の羅刹が倒れるのを四生が知るよりも前に衝撃が四生を襲う。
    「……ごめん」
     足を引っ張らない様に、前衛で奮闘した四生。羅刹の拳が四生の体を天井の方へと殴り飛ばせば、次にその腹に叩き込まれたのは別の羅刹の拳。叩きつけられた体を動かす事が出来なくて。どんどんと暗くなっていく視界、荒い息に混じり微かな血の気配を喉の奥から感じたのが最後であった。
    「あと二体なのです。どうするですか?」
     仲間に癒しを施しながら、カリルは聞く。撤退までの人数と、残された戦力。羅刹達も消耗しているとはいえ、倒せるかと問われればその答えは何とも言えぬもの。
     撤退の事を考えぬのなら可能だったかもしれないが、ここには多くの敵がいる。
     灼滅者達の脳裏にちらつくのは闇への誘い。
     しかし、その誘いは最後の切り札。
     
    ●撤退する者達
     出来る限り最善の状態に近づける必要があるから。立花は指先に集めた霊力を千尋に向けた。
    「どちらにせよ、あいつらのいる道が入り口までの最短距離だ。あいつらを撒いて、別の道を進むのも難しいだろう」
    「ええ。それにまだ行けるわ」
     撤退条件は仲間半数が戦えなくなった時。
    「この地の底を一体でも多くの鞍馬天狗の墓場にしてあげる」
     朱海の藍の瞳はまっすぐ羅刹の方に向けられる。そこに一切の迷いは無い。
     飛び交うのは弾丸と癒しの力。
    「人造だってなあ、こんくらい出来るんだよっ!」
     小回りの利いた動きで紅葉が異形の腕で羅刹を殴りつければ、羅刹が呼ぶのは癒しの風。それは多くの者を癒すことの出来る風であるが、治癒の力はその分小さくなりやすい。
     唸るエンジン音と共にバーガンディの突撃。立て続けに繰り出される生気を奪い去り、千尋のものにする赤い斬撃。離れゆく車輪と入れ違いになる様に、輝くのは朱の光。
    「すぐに回復が追い付けなくなるわ」
     零す言葉は厳しいもの。気合と共に声を上げれば、朱海は飛び上がり一度に羅刹との距離を詰める。斬撃は破邪の力を持つ一撃。それは、いつもよりも一段と羅刹の体を深く傷つけて。
    「回復するのです!」
     朱雀門か、はたまた鞍馬天狗か。どちらにせよ、企んでいるのは悪い事。それを阻止したい気持ちを抱きながらカリルは癒しの力に変換したオーラを仲間へと流す。
    「あと、少し……」
     攻撃と回復。どちらの役割も果たすことの出来る立花が風を呼び仲間達の傷を癒していく。攻撃手が減った事で羅刹達の動きにも焦りが見え始めている。
    「羅刹なのに天狗っていうのが……何でなのだろうかと思うのですが」
     ぽつりぽつりと言葉を零せば、柚羽はその身を集中させていく。鬼なのに天狗。天狗なのに鬼。呼吸を整え、握りしめた剣の感覚を確かめる。
    「これで凍えな!」
     柚羽を追い抜くのは冷気を纏う紅葉の炎。羅刹達を飲みこめば、更に生まれる死角に柚羽は瞳をゆるく細める。
     服も体も何もかも引き裂いていく感覚。
     炎が消えれば、そこに残る羅刹は一体。
    「何か……来る」
     沈黙の中、微かに聞こえてきたのは整然とした足音。立花の声にカリルが最も前に飛び出して武器を構える。
    「早く皆はどこかに隠れるのです。僕は絶対大丈夫です」
     この足音は仲間の者とは違うであろう。連絡はまだ何も来ていない。
     動けぬ仲間を引き摺り、足音から逃げる事は出来なくともここは迷宮。どこかに隠れる事なら出来る筈だ。
     ヒーローは仲間を護るもの。ならば、京都貴船のご当地少年の出番であろう。
     仲間達の戸惑う視線。けれども、目の前の羅刹の羅刹が戦いを終える様子は無い。
    「行こうぜ。ここで止まっていても全滅するだけだ」
     倒れた仲間をバーガンディに乗せた千尋が言葉を吐く。足音の主が敵であれば、見えるのは暗い結果。灼滅者達が向かうのは未だ進んいない闇の奥。最後の一瞥。カリルが羅刹を杖で打とうと駆けだしていた。
     光と気配を消して、灼滅者達は闇へと紛れる。
     隠れるには適した小道の奥、灼滅者達が見たのは羅刹では無く苛立ちを滲ませた鞍馬天狗と精鋭達。
     そして暫くしてから聞こえてきた、重い足音と少年の僅かな声。
    「……ほら、大丈夫だったの……です」
     灼滅者達の前に現れたのは、傷だらけになりながらも笑みを浮かべたカリルの姿。力尽きぐらりと傾く体を朱海が受け止める。
    「鞍馬天狗は健在。でもあの様子だと刺青は手に入れられなかったのね。……外道丸とロード・パラジウムはどうなったのかしら……」
     視線が自然と向かう先は、鞍馬天狗達が歩んで行った道だった。
     

    作者:鳴ヶ屋ヒツジ 重傷:左藤・四生(覡・d02658) カリル・サイプレス(京都貴船のご当地少年・d17918) 
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2014年4月22日
    難度:やや難
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 5/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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