「なるほど、刺青羅刹にはああいう手合もいるのか。正直、俺の勝ち目は薄そうだな」
「鞍馬天狗の軍が来ます! 外道丸さん、どうしますか……!?」
「あいつの狙いはお前じゃなく、明確に俺の『刺青』だ。そして俺よりも強く、こちらの陣容も筒抜けっぽいな。力量と情報で敵わないなら、俺達にあるのは地の利だけだ」
「地の利……あっ、昨日教わった『大勢と喧嘩する時は狭い場所で』、ですね!」
「その通り。それに、奴等の狙いが俺なら、俺が移動すれば街にダメージは無ぇ。
新宿迷宮で籠城戦だ。全員俺についてこい!」
「さあて、お耳を拝借。ちっとばかし長くなるがよーく聞いとくれ。どうにも、新宿の方で大きな動きがあったようなんでねえ」
黒革の手帳にペンを走らせていた尾木・九郎(若年寄エクスブレイン・dn0177)は、眼鏡を押し上げ口を開いた。
先日、朱雀門から外道丸の情報を得た羅刹、鞍馬天狗。九郎の話では、その鞍馬天狗がアメリカンコンドルを撤退に追い込んだ精鋭を率い、ロード・パラジウムと共に歌舞伎町の外道丸を襲撃したのだという。その結果は――鞍馬天狗勢の圧倒的勝利。
「負けちまった外道丸は仲間を引き連れて、新宿迷宮に逃げ込んだようなのさ」
外道丸は生き残った配下と共に、新宿迷宮で籠城の構えだ。鞍馬天狗はそれを数で捻じ伏せようとしているが、生き残っただけあって外道丸の配下は少数精鋭、事態はそう簡単に運ばないだろう。それでも、数の優位は揺らがない。外道丸を待つのは敗北し刺青を奪われる未来だと九郎は言った。
「誰と誰が戦おうが、僕の知ったこっちゃないけどねえ。だがこのままじゃ、外道丸の刺青が鞍馬天狗の手に渡っちまう。それだけは避けなきゃいけないのさ」
そして、それを阻止するためには灼滅者達の手で外道丸を灼滅しなければならない。
「それにさ、外道丸だけじゃないよ。上手くやりゃあ敵さんの隙をついて、鞍馬天狗やロード・パラジウムだって狙えるかもしれん」
全ての敵を灼滅することは難しいだろうが、少しでもいい結果を出せるよう最善を尽くして欲しい。そう九郎は灼滅者達に告げた。
「さて、まずは状況を整理するとしようか」
そう言って、手帳を見ながら九郎は黒板に向かった。そして黒板の上の方に白のチョークで『外道丸、新宿迷宮に籠城中』と書く。次に外道丸に向けて矢印を引き『鞍馬天狗、外道丸を襲撃。現在精鋭が新宿迷宮の深部を探索中。浅い階層も配下によって制圧済み」と書いた。そして、『鞍馬天狗』の文字の近くに『+ロード・パラジウム』と書き足す。
「大規模な襲撃があれば、鞍馬天狗は撤退を始めるようだねえ。そんで鞍馬天狗が撤退、もしくは灼滅されるような事態になりゃあ、ロード・パラジウムも撤退してくだろ」
とん、と『ロード・パラジウム』の文字を突いて九郎は言う。それから、『鞍馬天狗』と『ロード・パラジウム』の文字の上に大きくバツ印を書いた。
「鞍馬天狗とロード・パラジウムがいなくなりゃ、今度は外道丸勢に攻撃を仕掛ける事も可能になるねえ」
九郎は『外道丸』を丸印で囲んでそう言った。そして、その横に『+?』と文字を追加する。
「あとさ、前に智の犬士カンナビスが新宿の地下で何かを探してたって話、覚えてるかねえ。ロード・パラジウムもそれを狙ってたって何かさ」
その何か『?』が、どうやら外道丸によって保護されているのだという。つまり、今回その『?』を灼滅者達の手で確保することも可能だということだ。
「まあ、二兎を追う者は一兎をも得ずって言うだろ? だからこそ、お前さん達は何を優先するのか。それをきっちり決めて向かうことが肝心だろうねえ。それを決める為の情報が少なくて僕としても心苦しいんだけどさ。お前さん達次第で今回の戦い、多くの兎を手にすることも出来るかもしれないよ」
九郎はそう言って灼滅者達を見渡すと、気をつけてと呟きその背中を見送るのだった。
参加者 | |
---|---|
風宮・壱(ブザービーター・d00909) |
古樽・茉莉(百花に咲く華・d02219) |
真純・白雪(白蛇の神子・d03838) |
伊勢・雪緒(待雪想・d06823) |
倉澤・紫苑(ソニックビート・d10392) |
リュカ・シャリエール(いばらの騎士・d11909) |
セレスティ・クリスフィード(闇を祓う白き刃・d17444) |
桜木・心日(くるきらり・d18819) |
●渦巻く思惑の最中を駆ける
東京は新宿、その地下に広がる『新宿迷宮』は今、幾多の思惑で入り乱れていた。外道丸、鞍馬天狗、ロード・パラジウム――そして武蔵坂学園。彼らの思惑は時に交差し、迷宮の中で渦を巻く。そして迷宮深部進む8人の灼滅者達もまた、その只中をひた進んでいた。
「だいぶ進みましたけど、パラジウム……いませんね」
それは何度目の分岐点だっただろうか。立ち止まり、現在位置を確認すべく地図に目を落とした古樽・茉莉(百花に咲く華・d02219)は溜息をついた。
今回『ロード・パラジウム』襲撃を担当する4班。各班は揃いのインカム型トランシーバーを携え、事前に表記を統一した地図を手に、東西南北に分かれての捜索に当たっていた。茉莉達が担当しているのは『西』方面だったが、捜索開始から現在までパラジウムとの接触はない。
「んーっとね、この辺にもいないみたい」
周囲の『業』を感じとろうと神経を研ぎ澄ませていた桜木・心日(くるきらり・d18819)も、そっと目を開けると仲間達へ告げた。それに頷いて、灼滅者達はさらに奥へと進もうとした――その時。
『南班、パラジウムと接触っ。戦闘を開始します……!』
ザァという短いノイズに次いで、インカムから飛び込んできた千巻(d00396)の声。連絡役を担う真純・白雪(白蛇の神子・d03838)と、予備のトランシーバーを所持した風宮・壱(ブザービーター・d00909)は反射的に顔を見合わせた。
「みんな! 南班がパラジウムと接触したみたいだよ!」
白雪の言葉に灼滅者達の顔に緊張が走り――そして、それは瞬時に闘志の光へと変わる。
南班の元へ急ぐべく、まずは他班と別れた出発点を目指して灼滅者達は迷宮内を駆けた――だが。
「すんなり目的地まで行かせてくれると嬉しいんだけどなー。そういうわけにもいかないわよね」
倉澤・紫苑(ソニックビート・d10392)が呟いた通り、それは決して単調な道ではない。心日の鼻を頼りに極力戦闘を避け、回避できなければ壱が音を封じた上で迅速に敵を片付け――しかし、刻々と過ぎていく時間。
出発点へ戻ると、白雪と壱はそこから迷宮深部へと伸びる『糸』を見つけた。南班の蝶胡蘭(d00151)と千巻が、各班の連絡役達へと残していったであろう『アリアドネの糸』だ。その糸を追い走り始めてしばらく、不意に先頭を走っていた白雪と壱が再び足を止める。
「どうしたました? 急がないは仲間達の危ないであるます」
勢いのまま2人を追い抜いて、たたらを踏み立ち止まったリュカ・シャリエール(いばらの騎士・d11909)が不思議そうな表情を浮かべる。
「今、連絡が……」
そう呟き、白雪はインカムに触れながら耳を澄ませる。果たして、届いたのは吉報か、それとも――。
『こちら南班のニコ・ベルクシュタイン。パラジウムと接触の後、配下のデモノイド3体と戦闘。合流した東班とともに、すべて撃破した。これより、撤退を開始する』
ノイズに交じって届いたニコ(d03078)の声が告げたのは『南班撤退』の報であった。南班はパラジウムと接触後、配下のデモノイドと戦闘。パラジウムはその隙に迷宮の先へと進んでいったようだ。そして駆けつけた東班は去ったパラジウムを追い、遅れて北班もそれに続いたという。
南班との通信を終えた白雪と壱は現在の状況を把握しようと東班、そして北班に連絡した。――が、双方呼びかけに応える気配はない。恐らくは戦闘中――特に東班はすでにパラジウムと接触している可能性が高かった。
となれば、状況は一刻を争う。だが、南班撤退となれば問題となるのは――。
「どうしよう、糸が消えちゃう」
ここまで、辿ってきた道標がなくなってしまうということ。白雪は困惑顔で、仲間達の顔を見つめ。
「……追いましょう。こっちへ向かったのは間違いないですし」
茉莉がそう、答えた。例え道標はなくとも進まなくては。この道の先には今もパラジウムを追う仲間達の背中があるのだからと。
「えぇ、行きましょう。地図や迷路は苦手、ですが……私も頑張ります。八風も、一緒に皆様を守るのですよ」
頷いて、伊勢・雪緒(待雪想・d06823)は傍らの霊犬、八風にそう声をかけた。すると八風も『任せて』とばかりに黒い目を輝かせてそれに応える。
そして西班は、地図と自分達の勘とを頼りに先へと進み始めた。
「どうか間に合って下さい……!」
祈るような思いで駆けるセレスティ・クリスフィード(闇を祓う白き刃・d17444)は、否応なしに急く気持ちを抑え『冷静に』と自分に言い聞かせる。東班とパラジウムがすでに戦っているとすれば、あとは時間との戦いだった。だからこそ、冷静に最善の判断を下さなければならない。
一方、周囲を警戒しながら走る壱の脳裏に、ふと過ったのは友人の顔だ。別れ際に『じゃーね、中でまた会おうね!』と拳を合わせたセンダツ――純也(ソウク・d16862)と再会することは叶わなかった。が、彼が戦って切り拓いた道を壱は全速力で走る。
「……!! みんな、ちょっと待って……!」
と、心日が息を飲み仲間の背に呼びかけた。振り返ったリュカが何事かと問おうとし――目を閉じ『業』に神経を集中させている心日を見て、すぐさま雪緒へとヘッドライトを消すようアイコンタクトを送る。
『この先に、誰かいるみたい。とっても大きい業……パラジウムかも』
一心に『業』を辿り、そっと息を吐き出した心日。その小さな手のひらが触れ、雪緒に流れ込んだ心日の声なき声。それにやはりアイコンタクトで応えた雪緒は、八風と共に通路の先へと進み――。
(「……! パラジウムさん発見……!」)
通路の先、曲がり角の向こうをそろりと覗き込んだ雪緒の目に飛び込んできたのは、探し続けた姿。どこへ行こうというのか、足早に歩いてくるパラジウムは行く手に潜む灼滅者達にまだ気付いてはいないようだ。雪緒はそろりと顔を引いて、背後で息を殺している仲間達に頷く。――ついに、パラジウムへと辿りついた。
●見えぬ糸を手繰った先へ
行く手を塞ぐように姿を現した灼滅者達の姿に目を瞬かせたパラジウムは――。
『次から次へと……そのしつこさ、称賛に値しますわ』
心の底からうんざりした表情を浮かべて、踵を返した。
「待て、パラジウム!」
だが、ようやくパラジウムと接触できたのだ。ここで逃がす訳にはいかないと、走り出したパラジウムの背を灼滅者達も追う。パラジウムは迷宮の通路を走りながら、すぐ後を追ってくる灼滅者達の姿をちらりと振り返り、やがて。
『このまま追いかけっこをしていても……時間の無駄ですわね』
狭い通路を抜けた先、不意に開けたスペースでパラジウムは諦めたように歩みを止めた。すかさず灼滅者達はパラジウムを包囲するように展開し、その退路を塞ぐように立つ。
「もう、逃げ道はどこにもありませんよ、ロード・パラジウム」
冷笑を浮かべた茉莉。パラジウムはその言葉に片眉を上げ、ウロボロスブレイドでヒュンと空気を裂いた。
『逃げ道? わたくしが退く必要がどこにありまして?』
高速で鞭剣を繰りながら、瞬時に灼滅者達との距離を詰めるパラジウム。そして流れるように前衛達を切り刻んで、笑う。
『わたくし、時間がございませんの。あなた方が退くというのならそれで結構ですけれど……退く気がないのでしたら、とっとと死んで下さる?』
傲慢な笑みを浮かべるパラジウム。だが、紫苑は斬り裂かれた傷口から血を流しつつ、負けずにロッドを振りかざした。
「ここで何をしたいのか知らないけど、そう簡単に好き勝手されるわけにもいかないのよね」
叩きつけられた紫苑のロッドから流れ込む魔力。身の内から爆ぜたパラジウムは、くっと小さく苦悶の声を上げて灼滅者達を睨む。
「倉澤さんの言う通りです。ロード・パラジウム、ここから先へは行かせません」
強力な敵を前にセレスティの顔には緊張が色濃い。が、肩を並べる仲間達へシールドを広げながら、セレスティは真っ直ぐにパラジウムを見据えていた。
「よっし、俺も行くよ! こっちだ、パラジウム!」
にっと笑った壱が、遊ぶようにコインを指で弾き――展開したシールドを遠慮なくパラジウムの異形化した身体に叩き込む。
『くっ……! 決めましたわ! わたくし、あなたから殺して差し上げます』
だが怒りをあらわにしたパラジウムへ今度は雪緒が注射器を突き立て、それを振り払おうとしたところへ八風が斬魔刀を咥え躍りかかった。
「灼滅する、確実に……」
リュカの瞳から光が消え、撃ち出された拳が次々にパラジウムの身体を穿つ。
「いい加減に鬱陶しくなってきた悪縁を断ち切る良い機会です……」
リュカの拳を受けよろめいたパラジウムへと、茉莉は符を構え。
「全員とはいかなくても、一人二人にはこの世から退場していただきましょう」
放たれた符は心惑わすように、ひらりひらりと宙を舞った。
「少しでもわたし達側に状況を傾けさせるためにも……みんな頑張ってるんだから、わたしだって頑張るよ!」
新宿迷宮を進む道々、インカム越しに交わした仲間達の声が白雪の耳にはしっかりと残っている。その思いを胸に激しく掻き鳴らされたギターは唸りを上げ、音の波がパラジウムを襲った。
「僕だって! みんなのこと、守るんだよ!」
前線でパラジウムと相対する紫苑の前で、心日の小光輪が盾となる。
パラジウムを前にした灼滅者達の思いは1つだ。どうあっても、パラジウムの思い通りになどさせはしないと。その強い思いに、パラジウムはただ苛立ちを募らせて。
『これ以上、わたくしの邪魔はさせなくってよ!』
「リュカ! くっ……! やっぱ痛いなっ……!」
パラジウムが降らせた酸の雨から、覆い被さるようにして咄嗟にリュカを庇った壱。焼けるような痛みに苦悶の声を上げる壱を見て、パラジウムは高笑いを辺りに響かせた。
しかし紫苑の杭に『死の中心点』を貫かれ、さらにはセレスティの破邪の剣に斬り裂かれれば、笑い声は怒りの金切声へと変わる。
その怒りを煽るように壱は再びシールドを手に地面を蹴った。だが、壱自身が負ったダメージも大きい。それをカバーすべく、雪緒のオーラが壱の身体を包み込んで癒す。
『あぁぁぁぁぁぁぁ!! 邪魔! とっとと倒れなさい!』
リュカの撃ち出した冷気の氷柱をギリギリのところで躱し、パラジウムは腕を異形化させ灼滅者達へと迫る。魔道書を手にした茉莉と、ライフルを手にした白雪。2人の放った光線はパラジウムを貫き、傷口からは血が溢れ出た。それでも、パラジウムは止まらない。心日はリュカを守るよう光輪を展開させたが――。
『あら残念、こちらですわ!』
禍々しい刀へと変じたパラジウムの利き腕が振り下ろされたのは、白雪。斬り裂かれ膝から崩れ落ちながら、薄れゆく視界の中に仲間達の姿を捉えた白雪は。
「み、んな……あとは、まかせる、ね」
そう呟いて、ぷつりと意識を失った。
●そして、思惑の芽は摘み取られ
ドサリと白雪が倒れた音が、やけに大きく響いた。パラジウムは険しい表情の灼滅者達を眺め、いい気味とばかりに微笑みを浮かべる。
『さあ……次はどなたかしら?』
そう言い終わるや否や、風を切りパラジウムの脳天へと力一杯叩きつけられたロッド。悲鳴を上げて爆発したパラジウムに、紫苑はロッドの先を突きつけ宣言した。
「次はそっちの番よ、パラジウム」
紫苑の台詞を合図に、灼滅者達はパラジウムへと飛びかかる。息をつく間も与えずに次々と攻撃を重ねれば、他班との戦いも経ているパラジウムには苦しそうな気配が滲み始めた。しかし、ターンを重ねるごとに傷を負っているのは灼滅者達とて同じ。
「ごめ、ん……私……も、ここまでみたい……」
パラジウムの繰る鞭剣が襲いかかり、白雪に次いで紫苑も倒れた。庇おうと伸ばした手はあと1歩届かず、セレスティは唇を噛んでパラジウムへ白光を放つ剣先を突きつける。
「さぁ……そろそろ決着をつけましょう」
セレスティの斬撃を受け、ついによろめいたパラジウム。この機を逃すまいと壱も掌から炎を迸らせ、その奔流がパラジウムを呑み込む。
「リュカさん、私がお守りします! 八風!」
パラジウムの前にその身を晒して攻め続けていたリュカ。傷口を押さえ、それでも尚引くまいと走り出すリュカを雪緒のオーラが包み込み、同時に八風が浄霊眼を向けた。
(「大事なファミーユ……それに今は友達が傍にいるんだ。対吸血鬼の決戦存在として、何があろうとも……!)」
雪緒達に背を押され、リュカの剣が炎を宿す。激しく燃えさかる剣はパラジウムへと。
「もう少し、あと少しなのに……!」
焦ったような声音で言いながら、茉莉は集束した両の手のオーラを放出した。だが、その焦りはパラジウムに不利を悟らせない為の演技でしかない。
『あなた方も、よくやったのではなくて? けれど命が惜しいなら、潮時ですわ』
それに気づかず、パラジウムは灼滅者達に撤退の選択肢をちらつかせた。勿論、灼滅者達にそれを受け入れるつもりはない。
「私は諦めません……。ロード・パラジウム、あなたはここで倒します!」
「僕もだよ! 諦めないんだから!」
セレスティが力強く言い放ち心日がそれに続けば、パラジウムを囲む灼滅者達も口々に同意の言葉を投げかける。
『まったく、呆れましたわ。……完全に時間切れのようですわね』
退く気配を見せない灼滅者達に、パラジウムは溜息をついた。その視線が周囲をちらりと見渡し――。
『仕方がありませんわ。残念ですけど、あの子を連れ戻すのはまたの機会に』
肩をすくめたパラジウムは、退路への道を塞ぐ壱を鬱陶しそうに見て――利き腕で壱の身体を薙ぎ払った。壱はその衝撃に床へと叩きつけられ、力尽きる。
『では、わたくしはここで失礼いたしますわ。……ごきげんよう』
パラジウムはそう言うなり駈け出すと、伸びる通路のうちの1本へと飛び込んだ。
「……っ! 待ちなさい、パラジウム!」
茉莉はパラジウムを追って通路へと飛び込んだが――しかし、すでにその姿はなく。
「逃げられてしまいましたね……。もしパラジウムの退路が潰しておけたなら……」
茉莉の隣に並んで、セレスティは悔しげに呟いた。そんな2人の背に、倒れた仲間達の傍に膝をついた雪緒がそっと声をかける。
「残念ですが……でも、パラジウムが狙っていた何かを手に入れることは防げました」
やはり悔しげだった心日も、雪緒の言葉に小さく頷いて。
「そうだよね……。とりあえずみんな、お疲れさまっ」
心日の微笑に、灼滅者達はやがて小さく微笑みを返した。
さぁ、倒れた仲間達が目覚めたら――帰ろう、武蔵坂へ。
作者:温水ミチ |
重傷:風宮・壱(ブザービーター・d00909) 死亡:なし 闇堕ち:なし |
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種類:
公開:2014年4月22日
難度:やや難
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 11/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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