刺青羅刹・新宿迷宮の戦い~ラビリンス大乱戦!

    作者:日向環

    「なるほど、刺青羅刹にはああいう手合もいるのか。正直、俺の勝ち目は薄そうだな」
    「鞍馬天狗の軍が来ます! 外道丸さん、どうしますか……!?」
    「あいつの狙いはお前じゃなく、明確に俺の『刺青』だ。そして俺よりも強く、こちらの陣容も筒抜けっぽいな。力量と情報で敵わないなら、俺達にあるのは地の利だけだ」
    「地の利……あっ、昨日教わった『大勢と喧嘩する時は狭い場所で』、ですね!」
    「その通り。それに、奴等の狙いが俺なら、俺が移動すれば街にダメージは無ぇ。
     新宿迷宮で籠城戦だ。全員俺についてこい!」
      

    「鞍馬天狗の行動をキャッチしたのだ!」
     拳をググッと握りしめる木佐貫・みもざ(高校生エクスブレイン・dn0082)。
    「歌舞伎町の外道丸の勢力を襲撃して、圧倒的な勝利を収めたのだ」
     朱雀門から外道丸に関する情報を得た鞍馬天狗は、アメリカンコンドルを撤退に追い込んだ精鋭と、外道丸の拾い物を回収に同行したロード・パラジウムと共に、外道丸を襲撃したのだという。
    「負けちゃった外道丸は、敗残の仲間を引き連れて、新宿迷宮に撤退したのだ」
     そこで、籠城の構えをみせているらしい。
    「生き残った外道丸配下は、少数だけど精鋭なのだ。数の上では圧倒的に有利な鞍馬天狗側も苦戦は避けられないのだ」
     とは言うものの、戦力差は如何ともし難く、このままでは外道丸が敗北し刺青を奪われるのは確実だろう。
    「それはちょっと、あまりよろしくない展開なのだ」
     鞍馬天狗の手に刺青が渡るのは、できるだけ避けたい状況だ。
    「そこで、みんなの出番というわけ」
     この抗争に横やりを入れ、鞍馬天狗が外道丸から刺青を強奪してしまう前に、灼滅者の手で、外道丸を灼滅する作戦を展開することになったという。
    「ダークネス同士の抗争の隙をつく事ができれば、鞍馬天狗やロード・パラジウムの灼滅も可能だと思うのだ」
     だが、全ての目標を達成する事は不可能だ。
    「より多くの戦果を得られるように、みんなの健闘を祈っているのだ」
     みもざは、両手の拳を握りしめた。
    「さっき言った通り、みんなが作戦行動を開始する時には、既に外道丸は新宿迷宮に籠城中なのだ。残念だけど、歌舞伎町での戦闘には乱入できないのだ」
     それでは予知から外れてしまう。
    「どうやら外道丸は、智の犬士カンナビスが捜索して、ロード・パラジウムが狙っている何かを保護しているようなのだ。その何かをみんなが奪還できるかどうかは分からないけど、狙ってみても良いと思うのだ」
     しかし、正体が不明なだけに未知の危険も付きまとう。
    「鞍馬天狗の精鋭は、新宿迷宮の深部を探索中のようなのだ。新宿迷宮の浅い階層も、鞍馬天狗配下により制圧されているのだ」
     籠城している外道丸の元に辿り着く為には、鞍馬天狗配下により制圧されている浅い階層を強引に突破する必要がある。
    「だけど、大規模な襲撃があれば、鞍馬天狗は撤退を始めるのだ」
     また、鞍馬天狗が灼滅或いは撤退される状況になれば、ロード・パラジウムも撤退を開始する。
     何れにしても、鞍馬天狗の勢力下の階層を突破する為には、鞍馬天狗とロード・パラジウムを灼滅或いは撤退させなければならない。そうしなければ、外道丸勢力を攻撃することができないからだ。
    「優先すべき目的を考えて、戦いに備えて欲しいのだ」
     難しい作戦ではあるが、是非とも成功させたい作戦でもある。
    「成せば成るのだ! 壁は高いほど、突破しがいがあるのだ! 頑張ってきてね!」
     みもざは力いっぱい、灼滅者たちを激励するのだった。


    参加者
    鹿島・狭霧(漆黒の鋭刃・d01181)
    梅澤・大文字(張子の番長・d02284)
    姫宮・杠葉(月影の星想曲・d02707)
    四季咲・玄武(玄冥のレーネ・d02943)
    楯守・盾衛(シールドスパイカ・d03757)
    羊飼丘・子羊(北国のニューヒーロー・d08166)
    天城・兎(赤兎の騎乗者・d09120)
    備傘・鎗輔(極楽本屋・d12663)

    ■リプレイ


    「鞍馬天狗と外道丸が争ってる所を漁夫の利を得よう、ってね。私らは美味しいトコだけ頂く、ってコトで」
     鹿島・狭霧(漆黒の鋭刃・d01181)が周囲の様子を確認しつつ、ひとりごちた。尤も、全てが上手くいった場合の話だ。
    「こっち」
     先導は、四季咲・玄武(玄冥のレーネ・d02943)と楯守・盾衛(シールドスパイカ・d03757)の役目だ。
    「まさか、こんな大きな作戦になるとはね…」
     備傘・鎗輔(極楽本屋・d12663)が呟いた直後、前方から戦闘音が響いてきた。
    「着いたようだぜ」
     盾衛が振り返った。突如、地鳴りのような声が轟く。
    「うおおおお!!」
     押し寄せる鞍馬天狗配下の羅刹たちの声だ。
    「この中に突っ込むのはまずいぜ」
     天城・兎(赤兎の騎乗者・d09120)が言った。しばらく様子を見た方がよさそうだ。手近な物陰に身を潜ませ、しばし戦況を見つめる。
    「ちっ。また来やがったのか…。次から次と、キリがねぇぜ」
     苛立たしげな外道丸の舌打ちが聞こえた。大柄な羅刹を鬼神変の一降りで粉砕すると、傍らにいる護衛の一人に顔を向ける。
    「あいつは逃がしたな?」
    「へい、ご命令通りに。…後は、やつの運次第ですがね」
    「上出来だ。これで、少なくとも俺らの巻き添えを食らうことはねえってわけだ。この後の身の振り方は、あいつ自身が決めるだろうぜ」
     外道丸はニタリと笑った。保護していた者についての話だろうか。
    「どうしやす?」
    「この喧嘩、もう勝負はついてる。…俺らの負けだ」
    「あっしらがここで連中を食い止めやす。外道丸のアニキは…」
    「馬鹿か、てめぇは? おめぇら犠牲にして逃げたんじゃ、外道丸さんの名折れだ」
     下っ端どもが鞍馬天狗配下の羅刹たちと殴り合ってる様子を、外道丸は目を細めて眺める。
    「…いいじゃねぇか、負けが確定してる喧嘩も。だが、ただじゃ負けねぇ」
    「承知です。あの世まで、お供いたしやす」
     護衛は外道丸に対して深々と一礼すると、奮戦する下っ端達の方に向き直る。
    「いいかお前ら! 外道丸のアニキがいるかぎり、俺らに負けはねぇ! 死に物狂いで戦いやがれ!!」
    「「「おお!!」」」
     勢いを増す下っ端達。鞍馬天狗軍は徐々に押され始める。
    「失せろ!!」
     外道丸は鞍馬天狗軍に突っ込むと、刺青の力を解放する。放たれたオーラが巨大な蛇を形作る。鎌首の数は8本。八岐大蛇だ。
     5人の屈強な羅刹が、一撃で葬り去られる。
     しかし、鞍馬天狗軍の方が圧倒的に数が多い。数にものを言わせて押し返してきた。
    「怯むなぁ! 歌舞伎町の心意気を見せてやろうぜ!!」
     外道丸が配下を鼓舞する。すると、まるで潮が引くように、突如として鞍馬天狗軍が撤退し始めた。
    「おお、やったぁ!」
    「おとといきやがれ!」
     勝利を確信し、下っ端達が歓声をあげている。
    「…鞍馬天狗の撤退を確認」
     トランシーバーに連絡が入ったらしい。玄武が小声で知らせてくれた。
     リーダーである鞍馬天狗が撤退したことにより、部隊も撤収することになったと見るべきか。
    「どういうこと? 外道丸ちゃん」
     声に反応して様子を窺うと、厚化粧をした刺青羅刹が訝しげな表情を浮かべていた。鞍馬天狗軍が急に撤退した理由を測りかねているようだった。
    「連中の方が押していた。何があった?」
     腰の曲がったご老体が、背後の外道丸を振り返っている。
    「俺達に畏れをなして、逃げやがった…ということでは無さそうだな」
     外道丸は不満そうに鼻を鳴らす。そして、あらぬ方向に顔を向けた。
    「…なぁ、灼滅者さん達よぉ?」
    「!?」
     灼滅者達は思わず息を飲んだ。気付かれていたのだ。身を潜ませていたことに。
     ここまでの成り行きを見ていた灼滅者達は、弾かれたように飛び出すと、素早く臨戦態勢を取った。
    「あやめママたちは左の方にいるやつらを頼む。親分さんたちは正面。お前らは右にいるやつらを叩け」
     外道丸は素早く指示を飛ばした。次の瞬間、右手側に別の気配を感じ、外道丸は首を捻った。
    「あんたを倒したかった。暮れの新宿戦争から、ずっと」
     蛍光迷彩帽を被った少年が、外道丸を見据えていた。
    「おっと、まだいたのか。なら、おめぇらの相手は、この俺だ」
     目の前に現れた灼滅者達を一瞥すると、外道丸は口の端を僅かに引き上げた。
    「蛙石! おれが行くまで、くたばんじゃねぇぞ!」
     梅澤・大文字(張子の番長・d02284)が怒鳴る。蛙石・徹太(キベルネテス・d02052)は、照れくさそうに帽子の鍔を落とした。


    「姫宮流鬼法と暗殺戦舞が通じるか…任務を遂行し戦を楽しむのみ」
     姫宮・杠葉(月影の星想曲・d02707)は武器を構え、外道丸を見据える。しかし、まずは眼前の敵を倒さなければならない。
    「いよゥ外道ン子チャン、早速だケド華死合(はなしあい)で解決しよウぜー! って、その前に邪魔なのを片付けないとな」
     外道丸には向かわせじと、目の前に立ちはだかった3人の護衛を見て、盾衛は言い放った。
    「赤兎、仲間を守れ」
     天城・兎(赤兎の騎乗者・d09120)はライドキャリバーの赤兎のシートをポンと叩いた。
    「わんこすけ、頼んだよ」
     鎗輔も霊犬を前衛に送り出した。
    「日本列島! 全国各地! ご当地愛がある限り! 北国のニュー☆ヒーロー羊飼丘・子羊、参上!!」
     羊飼丘・子羊(北国のニューヒーロー・d08166)は元気よく声をあげながら、護衛達に向かって突っ込んでいく。
    「狙うは外道丸の首一つ、ってね。それじゃいってみましょうか」
     狭霧が横に並び、子羊と共に駆ける。
    「アニキの元には行かせねぇ!!」
     護衛達が受けて立つ。その周囲に下っ端達が集う。
     護衛達は持久戦の構えだ。だが、ここで時間を取られるわけにはいかない。あの外道丸を相手に1チームだけでは荷が重すぎる。
    「オラ痺れが足りねェゾ、バチバチ来いやァ!」
     盾衛が除霊結界で下っ端達を一掃する。
    「流石、外道丸の取り巻き。生半な手管でどーにかなる相手じゃないわね。敵ながら見事なモンだわ。それじゃ――」
     強烈な一撃を食らった狭霧だったが、直ぐに体勢を立て直し、2本のナイフを構える。
    「こっちも全力で行くとしましょうか!」
     ティアーズリッパーで反撃。
    「姫宮流は暗殺が鬼…力押しは滅びとその身に刻め」
     星辰を巧みに操り、杠葉が止めの黒死斬を放つ。
    「急げ、やばい!! …持ちこたえろ、蛙石!」
     大文字が友人の背中に檄を飛ばした。既に2人が倒れている。開戦当初にはいたはずの霊犬の姿も見えない。
     子羊と兎が、協力して護衛の1人を倒す。
    「どけぇ!」
     大文字が下駄を鳴らして突進する。残った1人にバベルインパクトをお見舞いする。
     体勢を崩した護衛に、玄武と鎗輔の攻撃が直撃した。
    「アニキ、すまねぇ…」
     護衛は外道丸の方に顔を向けると、その場に崩れ落ちた。


     八岐大蛇が蹂躙する。
     また2人、地に倒れた。もう限界だ。
    「無事な人は負傷者を抱えて、早く撤退を!」
     外道丸を牽制しつつ、狭霧が叫んだ。赤兎とわんこすけが負傷者の回収を手伝う。
     大物やくざを撃破したチームが、外道丸の正面に回り込んだ。彼らが外道丸の注意を惹きつけてくれている。今のうちだ。
    「手間取ってすまない。後は任せろ」
     大文字と兎が、負傷者を守るように前へ出た。
     玄武と鎗輔が退路を確保している。
    「うにゅぅ…、あとは任せたよ」
     海野・歩(ちびっこ拳士・d00124)はそう声を掛けると、負傷者を連れて撤退していった。
     隙を突いて外道丸の側面に回り込んだ杠葉が、黒死斬を繰り出すが躱されてしまう。
    「シンプルにいこうか。”相手を倒した方が勝者で強者”だ」
     子羊がヒーロー☆ロッドを振り下ろした。
    「これ程の強敵とは戦ったことが無い。でも絶対勝つ…」
     玄武が、もう一方の班の前衛陣へ向けて夜霧を送り込む。その霧に紛れて、八重沢・桜(泡沫ブロッサム・d17551)と海千里・鴎(リトルパイレーツ・d15664)が外道丸に肉薄した。
     深手を負っていた朝倉・くしな(初代鬼っ娘魔法少女プアオーガ・d10889)に、鎗輔が癒しの矢を放つ。
     外道丸の周囲を覆っていた緋牡丹の障壁を粉砕しようと、渾身の一撃を叩き込む灼滅者達。
     バギンッ!
     鈍い音が響いたと同時に、緋牡丹の花弁が散る。
    「お見事です!」
     緋牡丹の障壁に粉砕に成功した仲間達に、子羊が声を掛ける。
     好機だった。
     灼滅者達は一斉に攻撃を仕掛ける。
     さしもの外道丸も、ガクリと地面に片膝を突いた。
    「テメェ、手加減しやがったな。舐めてんのか?」
     外道丸の声だ。自分達の位置からはその表情までは確認できないが、声音からは怒りが感じ取れた。
     借りを返しただけだというやり取りが聞こえる。
     嫌な予感がする。
     あの外道丸が、こんなに簡単に屈するのか。
     向こうの班が、外道丸に共闘を申し出ている。
    「これ以上の戦闘は無意味だわ。大人しく降伏しなさい。悪い様にはしないわよ」
     援護するように、狭霧も続けた。
     外道丸が右手をゆっくりと挙げるのが見えた。向こうの班は気付いていない。
     危険だ。
     盾衛の頭の中で何かが弾ける。
    「待て! 気を抜くんじゃねぇ!!」
     盾衛が注意喚起したが間に合わなかった。
     八岐大蛇が、くしなと鴎を食い千切るのが見えた。わんこすけも巻き込まれ、消滅する。
    「赤兎行け!」
     追撃しようとする外道丸に向かって、兎は相棒に特攻の命を下した。
    「むん!」
     巨大化させた腕の一振りで、赤兎は木っ端微塵に粉砕された。だが、注意を逸らすことには成功した。
    「こっちだ外道丸!!」
     兎、狭霧、大文字、そして子羊が外道丸に突撃する。
    「早く撤退しろ!」
     怒鳴りながら、大文字が外道丸の腰の辺りに組み付いた。
    「男に抱き付かれても嬉しくねぇ」
    「好きで抱き付いてんじゃねぇ!!」
     体を大きく捻ると、外道丸は大文字を強引に振り解く。その勢いのまま、八岐大蛇が暴れ回った。
     直撃を食らい、4人が膝を突いた。
    「駄目だ下がって!」
     子羊に癒しの矢を放った鎗輔が、悲鳴に近い声をあげた。回復量が全く追い付かない。それは闇の契約を狭霧に送り込んだ玄武も同じ感想だった。
    「離れて!」
     杠葉が星辰を振るい援護する。だが外道丸の動きの方が早い。巨大化させた腕を振り上げる。狙いは目の前にいた狭霧だ。
    「お嬢!!」
     兎が飛び込む。振り下ろされた腕をまともに食らった兎の体が、ぐにゃりと折れたように見えた。
    「天城君!?」
     呼吸はしているようだ。安堵に胸を撫で下ろしたのも束の間、またも出現した八岐大蛇が暴れ回る。
     狭霧も子羊も、その一撃を耐えきるだけの体力は残っていなかった。大文字だけが意地で踏みとどまる。
    「さて次は…」
     外道丸は女装家達と戦っている班へ目を向けた。あちらに加勢に向かわせるわけにはいかない。
    「その刺青は力と共に災いも呼ぶ。それでは誰も守れない」
     外道丸の攻撃力は、想定を遙かに上回っていた。玄武は倒れている仲間達に目を向け、悔しげに唇を噛むと前へと歩み出た。外道丸の鬼神変の一撃には、ディフェンダーですら耐えられない。八岐大蛇の猛威も想像以上だった。自分ができることは、もう前に立つことしかないと玄武は覚悟を決めた。
    「外道が鬼を狩るもまた鬼が所業…姫宮流鬼法・鬼風」
     疾風の如く、杠葉が襲いかかった。勢いを乗せた鬼神変。
    「甘い!」
     外道丸は鬼神変で相殺してきた。
    「ヘイ、鬼サンこちらァ」
     フェイント気味に盾衛が黒死斬を放つ。腕を掠めたが、掠り傷程度。気がつくと、巨大な腕が目の前に迫っていた。
    「!?」
     凄まじい衝撃と共に、盾衛の意識は途絶えた。
    「漢・梅澤を忘れんなぁ!!」
     左足を引きずりながら激走していた大文字が、玄武を抱えあげると外道丸の前から離れる。
    「まだ動けたのかよ」
     呆れたように外道丸は言った。
    「…あと、頼むぜ」
     大文字は玄武を下ろすと背を向けた。祖父の形見のマントと帽子を脱ぐと、そっと地面に置く。
    「…ちょっと遅くなるかもしれねぇけど、絶対帰るからな」
     そう呟き、左手首の腕時計に口づけを落とした。
     大文字の全身を灼熱の炎が包む。
    「馬鹿が2人か。面白ぇ」
    「2人?」
     杠葉が訝しげに眉根を寄せると、闇に身を堕とした鎗輔が、自分の脇を通り過ぎていく。
    「仲間が無事に生きて戻れるなら、僕一人の闇堕ちなんて安いものだよ」
     鎗輔は小さく笑んだ。
    「さあ、死合おうぜ!」
    「ぐおおお!!」
     身構えた外道丸に、大文字と鎗輔が突撃する。凄まじい気と気のぶつかり合いだ。
    「くらえ!」
     外道丸が鬼神変を繰り出す。それを大文字が真っ向から迎え撃った。
    「なっ!? 相殺しただとぉ!?」
    「…相手は2人だけじゃないのよ?」
     予想していなかった事態に動揺した外道丸は、杠葉の接近を許してしまった。懐深くに潜り込んだ杠葉は、全身全霊を込めて黒死斬を放つ。
    「がっ」
     外道丸の体勢が大きく崩れた。
     鎗輔の撃ち出した古書ビームが、外道丸の右胸に直撃した。
    「もらったぁ!!」
     猛烈な勢いで飛び込んできた大文字のバベルブレイカーが、外道丸の「死の中心点」を貫く。
    「ぐっ。がはっ!」
     外道丸はふらふらとよろめいた後、大きく息を吸い込んだ。
    「やるじゃねぇか」
     心底楽しそうな笑みを浮かべると、その場にどかっと胡座を掻いて座した。
    「決着は付いたよ」
    「…ああ」
     玄武の言葉に、外道丸は大きく肯いた。未だに奮戦している仲間に、チラリと視線を送る。
    「すまねぇ、あやめママ。先に逝ってる…」
     呟くと、視線を戻してきた。
    「俺の負けだ。あの世に来たら、俺んとこに遊びに来い。茶ぐらいご馳走してやる…ぜ」
     だしぬけに、がくりと首が垂れた。
     外道丸は動かない。
    「倒せたの?」
     杠葉は半ば放心状態で、外道丸を見つめていた。
     今にも動き出すのではないかと警戒をしていたが、やがてその警戒を解いた。
     刺青の羅刹・外道丸――死す。


     女装家達も一掃されていた。
     外道丸の退路を断つために奮戦していた班の被害も、甚大のようだ。
    「パラジウムには逃げられたみたい」
     玄武はトランシーバーで状況を確認していた。パラジウムは撤退、外道丸が保護していたロード・ビスマスとの接触には成功したものの、確保までは至らなかった模様だ。
    「…ぐっ。そろそろやばそうだ」
     闇堕ち後、どうにか自我を保っていた大文字と鎗輔だったが、危険な状態になり始めていた。
    「ちょっくら旅に出てくらぁ」
    「ここにいるみんなに、迷惑掛けられないからね」
     そう告げると、2人は新宿迷宮の闇の中へと姿を消していく。
     彼らが闇堕ちしなければ、外道丸に勝つことはできなかっただろう。それ程まで、強力な相手だった。
     2人が去っていった闇をしばし見つめた後、杠葉と玄武は負傷者の救護を開始する。
    「…これ、預かっておくよ」
     玄武は、大文字が残した帽子とマントを、大事そうに拾い上げるのだった。

    作者:日向環 重傷:鹿島・狭霧(漆黒の鋭刃・d01181) 楯守・盾衛(シールドスパイカ・d03757) 羊飼丘・子羊(北国のニューヒーロー・d08166) 天城・兎(赤狼・d09120) 
    死亡:なし
    闇堕ち:梅澤・大文字(食卓の番長・d02284) 備傘・鎗輔(極楽本屋・d12663) 
    種類:
    公開:2014年4月22日
    難度:やや難
    参加:8人
    結果:成功!
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