刺青羅刹・新宿迷宮の戦い~役割を果たす時

    作者:陵かなめ

    「なるほど、刺青羅刹にはああいう手合もいるのか。正直、俺の勝ち目は薄そうだな」
    「鞍馬天狗の軍が来ます! 外道丸さん、どうしますか……!?」
    「あいつの狙いはお前じゃなく、明確に俺の『刺青』だ。そして俺よりも強く、こちらの陣容も筒抜けっぽいな。力量と情報で敵わないなら、俺達にあるのは地の利だけだ」
    「地の利……あっ、昨日教わった『大勢と喧嘩する時は狭い場所で』、ですね!」
    「その通り。それに、奴等の狙いが俺なら、俺が移動すれば街にダメージは無ぇ。
     新宿迷宮で籠城戦だ。全員俺についてこい!」
      
    ●依頼
     教室に現れた千歳緑・太郎(中学生エクスブレイン・dn0146)は、表情を引き締め語り始めた。
    「みんな、集まってくれて有難う。今回の依頼なんだけど、刺青羅刹の外道丸と鞍馬天狗の決戦に介入することになったんだ。最初に状況を説明するね」
     太郎の説明によれば、朱雀門から外道丸の情報を得た鞍馬天狗は、アメリカンコンドルを撤退に追い込んだ精鋭と、外道丸の拾い物を回収に同行したロード・パラジウムと共に、歌舞伎町の外道丸の勢力を襲撃、圧倒的勝利を得たとのことだ。
     敗北した外道丸は、敗残の仲間を引き連れて、新宿迷宮に撤退。籠城の構えを見せている。
    「生き残った外道丸配下は、少数だけど精鋭だよ。鞍馬天狗も、数の有利を使えず苦戦すると思う。でもね、苦戦するだけで、数の優位は揺るがない。外道丸が負けちゃって刺青を奪われるのは、間違いないんだ」
     鞍馬天狗による刺青の強奪を阻止するには、灼滅者の手で外道丸を灼滅しなければならない。
     また、ダークネス同士の構想の隙をつく事が出来れば、鞍馬天狗やロード・パラジウムの灼滅すら可能になるだろう。
    「全部の目標を達成することは出来ないんだけど、より多くの戦果を得られるよう、祈ってるね」
     一旦言葉を切り、太郎はくまのぬいぐるみをぎゅっと握った。
    「話を続けるね。次に、戦場の状況だよ。外道丸は、新宿迷宮に籠城中。智の犬士カンナビスが捜索し、ロード・パラジウムが狙っている何かは、外道丸が保護しているんだ。そして、新宿迷宮の深部を鞍馬天狗の精鋭が探索中だよ」
     新宿迷宮の浅い階層は、鞍馬天狗配下により制圧されている。大規模な襲撃があれば、鞍馬天狗は撤退を始めるだろう。
    「それから、鞍馬天狗が灼滅或いは撤退される状況になれば、ロード・パラジウムも撤退するよ」
     鞍馬天狗とロード・パラジウムを灼滅或いは撤退させれば、外道丸勢力を攻撃することが可能になる。
    「この状況で、優先するべき目的を考えて、戦いに備えて欲しいんだ」
     最後に、太郎は集まった灼滅者達を一人一人しっかりと見た。
    「色々考えることがあると思うけど、みんなで相談して、より良い結果になるよう頑張ってね!」


    参加者
    海野・歩(ちびっこ拳士・d00124)
    龍海・光理(きんいろこねこ・d00500)
    ギィ・ラフィット(カラブラン・d01039)
    愛良・向日葵(元気200%・d01061)
    篠原・小鳩(ピジョンブラッド・d01768)
    蛙石・徹太(キベルネテス・d02052)
    有栖川・へる(歪みの国のアリス・d02923)
    ドナ・バティーニュ(金糸の旋風・d12443)

    ■リプレイ

    ●戦い前に
     物陰に身を潜め、海野・歩(ちびっこ拳士・d00124)は辿り着いたその光景を見ていた。既に探索用の犬変身は解いている。
    「うおおおお!!」
     押し寄せる鞍馬天狗配下の羅刹達。
    「ちっ。また来やがったのか……。次から次と、キリがねぇぜ」
     外道丸は舌を打つ。飛び掛かってきた大柄な羅刹を、巨大化させた腕の一降りで粉砕すると、傍らにいる護衛の一人に顔を向ける。
    「あいつは逃がしたな?」
    「へい、ご命令通りに。……後は、やつの運次第ですがね」
    「上出来だ。これで、少なくとも俺らの巻き添えを食らうことはねえってわけだ。この後の身の振り方は、あいつ自身が決めるだろうぜ」
     外道丸はニタリと笑った。
    「どうしやす?」
    「この喧嘩、もう勝負はついてる。……俺らの負けだ」
    「あっしらがここで連中を食い止めやす。外道丸のアニキは……」
    「馬鹿か、てめぇは? おめぇら犠牲にして逃げたんじゃ、外道丸さんの名折れだ」
     下っ端どもが、鞍馬天狗配下の羅刹たちと殴り合ってる様子を、外道丸は目を細めて眺める。
    「……いいじゃねぇか、負けが確定してる喧嘩も。だが、ただじゃ負けねぇ」
    「承知です。あの世まで、お供いたしやす」
     護衛は外道丸に対して深々と一礼すると、奮戦する下っ端達の方に向き直る。
    「いいかお前ら! 外道丸のアニキがいるかぎり、俺らに負けはねぇ! 死に物狂いで戦いやがれ!!」
    「「「おお!!」」」
     気合いを入れ直し、勢いを増す下っ端達。鞍馬天狗軍は徐々に押され始める。
    「失せろ!!」
     外道丸は鞍馬天狗軍に突っ込むと、刺青の力を解放する。放たれたオーラが巨大な蛇を形作る。鎌首の数は8本。八岐大蛇だ。
     5人の屈強な羅刹が、一撃で葬り去られる。
     しかし、鞍馬天狗軍の方が圧倒的に数が多い。数にものを言わせて押し返してきた。
    「怯むなぁ! 歌舞伎町の心意気を見せてやろうぜ!!」
     外道丸が配下を鼓舞する。と、まるで潮が引くように、突如として鞍馬天狗軍が撤退していく。
    「おお、やったぁ!」
    「おとといきやがれ!」
     撤退していく鞍馬天狗軍を見て、下っ端達が歓声をあげた。
    「どういうこと? 外道丸ちゃん」
     訝しげな表情を浮かべ、厚化粧をした刺青羅刹が外道丸の脇に寄ってきた。
    「連中の方が押していた。何があった?」
     腰は曲がっているが、まだまだ眼光鋭いご老体が、背後の外道丸に顔を向けてくる。
    「俺達に畏れをなして、逃げやがった……ということでは無さそうだな」
     外道丸は不満そうに鼻を鳴らす。そして、あらぬ方向に顔を向けた。
     龍海・光理(きんいろこねこ・d00500)の背が冷やりとした。
    「なぁ、灼滅者さんたちよぉ?」
     愛良・向日葵(元気200%・d01061)が仲間を見る。篠原・小鳩(ピジョンブラッド・d01768)が小さく頷き返した。
    「行きましょう」
     ドナ・バティーニュ(金糸の旋風・d12443)がそう言うと、身を潜めていた灼滅者達が弾かれたように飛び出した。
    「あやめママたちは左の方にいるやつらを頼む。親分さんたちは正面。お前らは右にいるやつらを叩け」
     外道丸は素早く指示を飛ばした。
     その指示に従い、外道丸配下がそれぞれのチームに向かう。
     そして、最後に残った自分達の気配を感じたのだろう、外道丸は首を捻った。
    「キミみたいなワイルド系も嫌いじゃないけど、ここまで追い詰められた時点で『終わってる』からね」
     最高の最期を与えるのもいい女の務めさ♪ と、有栖川・へる(歪みの国のアリス・d02923)がその場に降り立つ。
    「あんたを倒したかった。暮れの新宿戦争から、ずっと」
     武器を構え、蛙石・徹太(キベルネテス・d02052)が外道丸を見据えた。
    「おっと、まだいたのか。なら、おめぇらの相手は、この俺だ」
     目の前に現れた灼滅者達を一瞥すると、外道丸は口の端を僅かに引き上げた。
    「蛙石! おれが行くまで、くたばんじゃねぇぞ!」
     梅澤・大文字(張子の番長・d02284)が怒鳴る。蛙石・徹太(キベルネテス・d02052)は、照れくさそうに帽子の鍔を落とした。
    「とりあえず、足手まといにならないでください」
     華宮・紅緋(クリムゾンハートビート・d01389)はそう言い残し、対峙する敵との戦いへ向かって行く。
     しかし、紅緋と同行とはお目付け役が居る気分だ。ギィ・ラフィット(カラブラン・d01039)は僅かに口の端を持ち上げた。
    「少しばかり派手に行くのは見逃してくださいな」
     言って、無敵斬艦刀を構える。
     周りでは、別のチームが激しい音を立て戦いを始めていた。
     今は自分達で外道丸を抑える。仲間の戦いを信じて、灼滅者達は外道丸へ向かって駆け出した。

    ●激戦
    「外道丸、あんたの命数も尽きる頃っす」
     悠然と立つ外道丸に向け、ギィが一気に走りこむ。
    「ほお? おもしれぇこと言うじゃねぇか」
     ニヤリと笑う外道丸が見えた。
    「自分たち武蔵坂学園が引導を渡すっすよ」
     武器に宿したオーラが揺れる。外道丸の名を最初に聞いたのはいつだったか。歌舞伎町に根を張る豪傑も、本気の軍勢に攻められこのざまか。いい機会だ。
     無敵斬艦刀『剥守割砕』を勢いのまま振り下ろす。黒い軌跡が微かに一本残った。
    「その首、自分たちがいただくっすよ」
     通常ならば敵の躯体を抉り取るような激しい一撃だ。
    「ふっ」
     攻撃は命中した。だが敵は揺らがない。外道丸が口の端を持ち上げた。
     ギィは咄嗟にその場を飛び退く。
     外道丸は見せ付けるように腕を上げた。
    「ならよぉ、しっかり相手をしてやるよ」
     浮かび上がるのは緋牡丹の刺青。開放された刺青の力が、オーラとなって外道丸を守る。
     あの守りを撃ち破るのは容易ではないだろう。だがこちらも引くつもりは無い。
     軽やかにステップを踏み、へるが外道丸の頭上へと飛び上がった。
    「ねえ、最期に言い残すことがあれば聞きたいな」
     大鎌を手元でくるりと回し、落下の勢いを乗せて振り下ろす。
     刃が敵の身体を綺麗に撫でた。外道丸が衝撃に足を踏ん張る。
     その様子を見て、徹太も駆けた。
     外道丸に向かい、堕ちたりしないで逝ってしまった奴を知っている。最後まで人として戦った。だから、自分も。
     バベルブレイカーを担ぎ、徹太は思う。
     ダークネスなんかの手を取るものか。誰にも言わないけれど、決めたのだ。
    「俺も自分を通す。ただの意地だよ」
     ジェット噴射で、その懐に飛び込む。
    「あんたはダークネス。俺の敵」
    「ほお」
     面白そうに外道丸が目を細めた。
     かまわず、死の中心点めがけ巨大な杭を撃ち出した。めいっぱい力をこめて、敵の身体を貫かんと踏ん張る。
     外道丸がけん制するように足で薙ぎ払いをかけてきた。サイキックによる攻撃ではないが、足を取られるわけにはいかない。徹太は素早く敵の動きを避け、距離を取った。
     出来た間合いに小鳩が走りこむ。
     話し合いで戦うことを回避できれば一番いいと思う。けれど、この敵が素直に聞いてくれるとも思えない。
    「少なくとも、私は精一杯皆さんを守るために頑張ります、ね」
     槍を大きく回転させ、外道丸に払いをかけた。
    「ちぃ」
     向けられた外道丸の怒りの視線が全身に突き刺さるようだ。
     だが、仲間を守ると決めた。
     次の攻撃に備え、槍を構えなおす。
     同じく仲間を守るような位置に立ち、ドナがクルセイドソードから破邪の白光を立ち上らせた。
     自分自身、戦力としては心もとないと感じている。だが。
    「だからこそ盾として、全力で皆さんが無事に敵を倒せるように動きます」
     繰り出した斬撃が、外道丸に掠った。同時に、己の肉体の守りを固める。
    「ぽちはディフェンダーでよろしくね~♪」
     霊犬のぽちを伴い、歩も戦場を駆ける。
     まだ外道丸から直接攻撃を受けた仲間が居ない事を確認し、構えたナイフから毒の風を呼び起こす。
    「うりゃ~っ、どっくどくだよ~っ!」
     激しい毒の暴風が外道丸に襲い掛かった。
    「ふんっ」
     外道丸は煩そうに纏わりつく毒を振り払うような仕草を見せる。
     そこへ、マテリアルロッド・ルベルスティアを手に光理が迫った。
    「休ませません」
     勢い良く殴りつけ、ありったけ魔力を流し込む。力は敵の中で暴れ、やがて体内から爆ぜた。
    「……っと」
     外道丸がバランスを崩し、一つ後ろにステップを踏んで下がった。
     与えた一つ一つのダメージは小さいが、確実に相手の体力を削っている。
    「みんな、がんばろう~♪」
     向日葵は仲間を励ますよう声をかけた。
     同時に、癒しを込めた温かな光を自身へ向ける。少しでも癒す力を高め、仲間を支えようと強く思う。
    「あたし達が外道丸を抑えている間に、他の皆が羅刹をやっつけてくれるよね☆」
     向日葵の言葉に、皆が顔を上げた。そうだ、自分達が目の前の強敵を抑えている間に、他のチームがそれぞれ対峙した敵を撃破してくれるだろうと。
     その役割を確認し、皆次の一手を構えた。

    ●この思いを
    「なるほど、なかなか」
     首に手をかけ外道丸が笑った。
     鞍馬天狗配下の羅刹達との戦闘でダメージを負っているはずなのに、それを感じさせない余裕の笑みだ。
    「じゃあよぉ、今度はこっちから、行くぜ?」
     外道丸が腕を振り上げる。
     禍々しいオーラがうねり、八つの大蛇を形作った。刺青の力を解き放った八岐大蛇だ。
    「来ますっ」
     小鳩の声と当時だった。
     八岐大蛇は、前衛の仲間に激しく襲い掛かってきた。あるいは殴打し、あるいは嵐のように薙ぎ払い、容赦無く灼滅者達を追い詰める。
     特に、クラッシャーとして最前線に立っていたギィとへるは、まともに攻撃を喰らい受身を取ることもできずに地面に打ち付けられた。
    「みんな、まだまだ頑張って~っ♪」
     急ぎ、歩が夜霧を展開させる。仲間を守り包み込むような霧は、確かに仲間の傷を癒した。
     だが。
    「あ……づ……」
     ふらふらとドナが立ち上がる。
     何と言う一撃だろうか。体力を根こそぎ削り取られた感覚だ。
     目の端には、かろうじて意識を繋いでいるギィとへるの姿が映った。ディフェンダーに居た自分さえ、これほどのダメージなのだ。次に攻撃を受けると、彼らは沈んでしまうだろう。
    「いけません、回復を」
     すぐに判断し回復に回る。ドナが撃ち出した回復の光が、ギィを癒した。
    「へるちゃん、今回復するからねっ!」
     向日葵は声をかけ、鋭い裁きの光条を放った。
     自分は仲間を癒す。それだけはしっかりと。
    「ぁ……、私も、まだっ」
     小鳩は、シャウトで自身の回復をはかった。
    「は、回復感謝っす。まだいけるっ」
    「外道丸を灼滅するまではって、ね♪」
     ギィとへるが、再び立ち上がる。
    「ほお、関心関心。だが、次はどうだろうなぁ」
     外道丸の声に、光理と徹太が飛び出した。
    「何だろうと、お前を灼滅するまではっ」
     徹太はオーラを集中させた拳で、何度も相手を打ち付ける。
    「皆はやらせませんよ」
     光理は両手に集中させたオーラを、外道丸へと放出させた。
     二人の攻撃が外道丸の体を押し返し、仲間との距離を取らせる。
     出血した部分を無造作にぬぐい、外道丸が舌打ちをした。やはりダメージは与えているのだ。
    「ならよぉ、やるかやられるか、だなぁ」
     不機嫌そうな声でそう言い、外道丸が走った。
     見る間にその片腕を巨大化させる。
     あれは、先ほど大柄な羅刹を一撃で粉砕した――。
     相殺させようとギィが無敵斬艦刀を構えるが、それよりも先に敵が間合いを詰めた。
    「ら、ぁっ」
     外道丸が腕を振り下ろす。
     この攻撃は、マズい。一撃で灼滅者の身体を砕いてしまう。
     そう感じた、その間へ、ぽちが身体を滑り込ませた。
    「! ぽちっ」
     思わず歩が声を上げた。
     外道丸の一撃は、ぽちの身体を容赦なく打ち砕く。回復する間もなく、その場からぽちが消滅した。
     だが、その光景に胸を痛めている暇などない。
    「攻撃の手は、止めないよっ」
     動揺する前にすべきことを、と。へるが力を振り絞り、再び外道丸へ跳んだ。
     今度は死角へ回り込み、急所を狙う。
     数箇所を斬り裂くと、外道丸が一瞬足を止めた。
    「外道丸、羅刹はどうして刺青に拘るんすか? そもそも誰があんたに入れ墨を彫った?」
     ギィもまた、紅蓮斬を繰り出す。
     問うような言葉に、外道丸が口の端を揚げた。
    「お前、そんな事を気にする余裕が、どこにあらぁ」
     最後に見たのは、自分に肉薄した巨大な腕だ。
     確かに相手の力を削り取ったはずなのに。自分の回復に回したはずなのに。
     そんな事お構い無しに、全てを破壊する一撃。
     外道丸の鬼神変をまともに受け、ギィの意識が暗転した。
    「ほら、そこのお前も、同じように逝けや」
     返す刀で、外道丸が腕を振り下ろす。
    「な――」
     二連続での強烈な攻撃。
     避けることも、相殺することもかなわず、へるも攻撃を受け吹き飛んだ。
     意識を失ったギィとへる。二人に回復をと、誰も口にしなかった。今回復をしても、とても戦線復帰できる状態ではないことが見て取れるのだ。
    「散れ、狙い撃ちされる」
     徹太の叫び声に、残った仲間が地面を蹴る。
    「は、逃がさねぇよ」
     外道丸は、腕を大きく掲げた。
     二人を欠いた前衛に、再び外道丸の大蛇が迫った。八匹の蛇は、薙ぎ払い、殴打し、連続して苛烈な攻撃を仕掛けてくる。
     止めとばかりに繰り出された大蛇のスラッシュに、小鳩とドナの体が吹き飛んだ。
    「く……ぁ」
     岩肌に背を打ち付けられ、小鳩は一瞬呼吸を忘れた。手足が上手く動かない。
     早く戻って、皆を守らないと。
     ただそれだけを思ったが、同時に自分がこれ以上戦えないと気づいた。
    「……申し訳……ありま、せ……ん」
     ドナもまた、酷く地面に打ち付けられ、立ち上がることができなかった。
     手足の感覚が無くなり、意識が薄れていく。
    「小鳩ちゃんっ ドナちゃん!!」
     向日葵の悲痛な叫びが響いた。
     その時、次の一撃を放とうとしていた外道丸が一瞬足を止めた。
    「無事な人は負傷者を抱えて、早く撤退を!」
     鹿島・狭霧(漆黒の鋭刃・d01181)の叫び声に、光理がはっと顔を上げる。
     大物ヤクザと護衛の羅刹を相手にしていたチームが、それぞれの敵を撃破し加勢に来てくれたのだ。
    「撤退しましょう」
     4人の仲間が倒れた今、自分達は撤退するしかないのだと。
     光理の言葉に、徹太が悔しさで顔を歪ませる。
     ライドキャリバーの赤兎と霊犬のわんこすけの手を借り、倒れた仲間達を何とか回収した。
    「手間取ってすまない。後は任せろ」
    「はじめまして、外道丸さん、八重沢桜と……いいます……」
     自分達を庇うように前に出た大文字と八重沢・桜(泡沫ブロッサム・d17551)の姿を見て、歩が頷く。
    「うにゅぅ……、あとは任せたよ」
     どうか、外道丸を。その思いを託す。
     背後から戦いの音が聞こえてくる。
     他の場所へ向かった仲間はどうなったのだろう。
     だが今は、倒れた仲間を連れて帰る。灼滅者達は歯を食いしばりその場を後にした。

    作者:陵かなめ 重傷:ギィ・ラフィット(カラブラン・d01039) ドナ・バティーニュ(金糸の旋風・d12443) 
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2014年4月22日
    難度:やや難
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 10/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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