刺青羅刹・新宿迷宮の戦い~望む結末を

    作者:カンナミユ

    「なるほど、刺青羅刹にはああいう手合もいるのか。正直、俺の勝ち目は薄そうだな」
    「鞍馬天狗の軍が来ます! 外道丸さん、どうしますか……!?」
    「あいつの狙いはお前じゃなく、明確に俺の『刺青』だ。そして俺よりも強く、こちらの陣容も筒抜けっぽいな。力量と情報で敵わないなら、俺達にあるのは地の利だけだ」
    「地の利……あっ、昨日教わった『大勢と喧嘩する時は狭い場所で』、ですね!」
    「その通り。それに、奴等の狙いが俺なら、俺が移動すれば街にダメージは無ぇ。
     新宿迷宮で籠城戦だ。全員俺についてこい!」
     「どうやら鞍馬天狗が動いたようだ」
     集まった灼滅者達を前に神崎・ヤマト(中学生エクスブレイン・dn0002)はそう話を切り出した。
     新潟ロシア村の戦いで撤退した刺青羅刹・鞍馬天狗。
     朱雀門から情報を得た彼はアメリカンコンドルを撤退に追い込んだ精鋭と、外道丸が拾ったというものを回収する為に同行したロード・パラジウムと共に歌舞伎町の外道丸の勢力を襲撃し、圧倒的な勝利を得た。
     襲撃を受けて敗北した外道丸は残った仲間を引き連れ、新宿迷宮に撤退して籠城の構えを見せている。
    「生き残った外道丸の配下は少数だが精鋭で、逆に鞍馬天狗は配下が多いものの、それを優位に使えず苦戦するようだ。……が、数の優位がある以上、外道丸が敗北するのは目に見えているな」
     外道丸の敗北は彼の刺青が奪われる事を意味する。これを阻止する為には灼滅者達の手で外道丸を灼滅しなければならない。
     また、このダークネス同士の抗争の隙を付く事ができれば外道丸だけではなく、鞍馬天狗やロード・パラジウムを灼滅する可能性も見えてくる。
    「全ての目標を達成する事は不可能だが、お前達の行動次第では多くの戦果が得られる筈だ」
     そう言いうとヤマトはぐるりと灼滅者達を見渡し、机に置いた資料を手に取った。
    「外道丸は現在、新宿迷宮に籠城している」
     資料をめくり、ヤマトは説明をはじめる。
     智の犬士カンナビスが捜索し、ロード・パラジウムが狙う何かは外道丸が保護しており、その外道丸はヤマトが話したように生き残った少数の精鋭と共に籠城している。
     外道丸が籠城する新宿迷宮の浅い階層は既に鞍馬天狗の配下が制圧しており、彼の精鋭は新宿迷宮の深部を探索中で、大規模な襲撃があれば鞍馬天狗は撤退を始めるようだ。
    「鞍馬天狗が撤退、もしくは灼滅されるような状況になればロード・パラジウムも撤退し、外道丸を襲撃する事ができる筈だ」
     数において優位な鞍馬天狗とパラジウム。迷宮からこの勢力が灼滅あるいは撤退すれば籠城している外道丸勢力を攻撃する事が可能となり、灼滅する事ができるかもしれない。
    「優先すべき目的を考え、その上で今回の戦いに備えて欲しい」
     真摯な表情でヤマトは灼滅者達へと視線を向け言うと、説明を聞く灼滅者達も表情を引き締め頷いた。
    「今回の作戦は情報が十分ではない分、難しいものとなるだろう」
     資料を閉じ、灼滅者達を前にヤマトは言葉を続ける。
    「だが、それでも頑張って欲しい。……必ず全員で戻って来てくれ」


    参加者
    睦月・恵理(北の魔女・d00531)
    龍海・柊夜(牙ヲ折ル者・d01176)
    夜鷹・治胡(カオティックフレア・d02486)
    神座・澪(和気愛々の癒し巫女・d05738)
    龍田・薫(風の祝子・d08400)
    小柳・深槻(ミツキツツキ・d12723)
    遠藤・穣(反抗期デモノイドヒューマン・d17888)
    氷灯・咲姫(月下氷人・d25031)

    ■リプレイ


    「魔法使いはダンジョンアタックの華……なんてね。やれやれです」
     暗視ゴーグル越しに見る迷宮を目の当たりにし、睦月・恵理(北の魔女・d00531)が言うと後ろを歩く氷灯・咲姫(月下氷人・d25031)も懐中電灯を手に、
    「ここが新宿迷宮……あの大都市の地下にこんな場所があったなんて……」
     周囲を注意深く見回しながら思った事を口にした。
     ここ新宿迷宮は現在、刺青羅刹・外道丸と鞍馬天狗の勢力が争っている。灼滅者達はこの戦いに介入し、劣勢である外道丸の刺青が鞍馬天狗に奪われないよう、複数のチームで行動していた。
     あるチームは刺青を奪われる前に灼滅すべく外道丸の襲撃に向かい、またあるチームは争いの中で探し物を追うパラジウム襲撃に向かっており、現在この場にいるメンバーは鞍馬天狗の勢力に背後から奇襲攻撃する役割を担っている。
    「俺達もココには来たことあるし、その点で少なくとも天狗のヤローに引けはとらねーだろうさ」
     過去に訪れた事のあるこの場所を消音用の靴で歩く夜鷹・治胡(カオティックフレア・d02486)も仲間達と共に隠密行動を取っていた。
    「パラジウムや鞍馬天狗を見つけられればいいんですけどね……もし見つけたら、他の班に応援要請しましょうか」
     咲姫の言葉に小柳・深槻(ミツキツツキ・d12723)が頷くと、
    「直接因縁を果たせないのは残念だけど、精々パラジウムの鼻をあかしてやろう」
     霊犬・しっぺを連れ、龍田・薫(風の祝子・d08400)も悔しさを滲ませた言葉を口にした。
     薫はパラジウムと対峙した事がある。それが芳しくない結果に終わった事もあり、どうしても自分の手で倒したいと思っていたのだが、今回の作戦で鞍馬天狗を撤退させる為には参加チームの半数以上の奇襲が必要だった。
     パラジウムを倒したいという思いを他のチームに託し、今回は奇襲する事にしたのだ。
     望まずデモノイドヒューマン化させられたという遠藤・穣(反抗期デモノイドヒューマン・d17888)もまたパラジウムや彼女が下った朱雀門を許せないでいる。
     注意深く索敵する中、気配を嗅ぎ付けた穣の合図に応じて仲間達は姿を隠す。注意深く龍海・柊夜(牙ヲ折ル者・d01176)が見ると、その先に羅刹達の姿が見えた。
     暗視ゴーグル越しに見える羅刹の姿は1体。警戒もせずぶらぶらと歩いているその様子は、攻撃を受けるなど微塵も予想していない。
    「鞍馬天狗、得体の知れへん相手や。今は早々にお帰り願おか……」
     神座・澪(和気愛々の癒し巫女・d05738)が言うとLEDライトを頭に装備するナノナノ・らぴらぶも武器を手にする仲間達と共に頷いた。
     仲間からよく見える程度に先行する恵理からも合図が出た。
     戦闘開始である。
     

    「ぐおっ?!」
     不意に背後から切りつけられ男は声を上げた。突然の、しかも背後からの攻撃を避ける事はできる筈もなくざっくりと服ごと切り裂かれてしまう。
    「刺青が欲しいんなら、刻みつけたる!」
     恵理に切り裂かれた痛みに振り返る羅刹へ魔導書を手に澪はハートの紋章を刻み込み、柊夜がクルセイドソード・Traitorで切りかかると深槻は仲間達へ炎を翼をはばたかせた。
    「とっととくたばりやがれ!」
    「ざけんな! テメーみてえなガキどもにやられっかよ!」
     ぼたぼたと血を流し、それでも治胡の攻撃を避けた羅刹だが、
    「いくよ、しっぺ!」
     しっぺと共に、紅に染まる手で三尺余りの日本刀を振り回す薫の攻撃を受け、倒れそうになる。血塗れた手で体を支え、踏みとどまるところに穣と咲姫の攻撃が向いた。
    「ガキが!」
    「上等だオラァ! かかってこいや!」
     空を切る音を立て、穣めがけ羅刹が生み出す風の刃が襲い掛かる。が、剣を手に深槻が素早く動き、防いでみせた。
    「ナマイキなんだよテメーら!」
     声を上げる羅刹に、咲姫が構える薄紫のバラの装飾を施した小型縛霊手・Sterling Silverから結界が放たれた。
     今回の作戦は鞍馬天狗勢力の背後奇襲、戦力削りである。今戦っている羅刹との戦闘だけに時間をかける訳にはいかない。
     だが、羅刹は思った以上の奮闘を見せた。
    「ウチが笑って踊ってられる内は、誰も倒させへんえ♪」
     露になった肌を紅潮させた澪は珠の様な汗を浮かべ、踊るように風を呼び仲間達を癒すとらぷらびもまた傷を癒した。
     それを見た羅刹があからさまな舌打ちをする。
    「それにしても、しぶといヤローだな」
    「さっさとくたばれってんだよ」
     早く倒したいところなのだが、あっさりとは倒れてくれない。ぼたぼたと床に血をこぼしながらも持ちこたえる羅刹を前に、治胡と穣は言葉を交わす。
     柊夜が背後に回り込み攻撃すると深槻、治胡も得物を手に続きダメージを与える。
     切りつけられた腕や足から流れ出す血は止まらず、羅刹の服を紅に染めた。ふらりと体勢が崩れる瞬間を薫は見逃さなった。
    「これでもくらえ!」
     風の刃を生み出し、しっぺも薫と呼吸を合わせるように動き羅刹へと攻撃する。攻撃を受け、動きが鈍ると腕がだらりと下がった。
    「さっさと消えろ!」
    「ごめんなさい、こちらも忙しいので凍ってて下さいっ!」
     立て続けの攻撃を受け、血を流す羅刹に穣のDMWセイバーと咲姫のフリージングデスが直撃。うめき声を上げ、男はばたりと倒れた。
     まずは一人。
    「さ、みんな、元気に行こ♪」
     上気した顔で浮いた汗を拭う澪は仲間達を鼓舞するように、奇襲を知らしめるように大きな動きと声をかける。
     地図を確認しつつ、気付かれないよう注意しながら灼滅者達は行動した。しばらくすると、暇そうに周囲へと視線を投げている羅刹を発見した。
     警戒をしてはいるがさほど集中しておらず隙だらけで、こちらも奇襲をかける事ができそうだ。
     灼滅者達は視線だけで意志を交わし、タイミングを計ると無防備な背後に切りかかった。
     2体目の羅刹は先ほどより年若く経験も浅いようだった。不意打ちを受けうまく対応する事ができず、なすすべもなく攻撃を受けてしまう。さほど時間をかける事なく倒す事ができた。
    「これで2体目ね」
     羅刹を倒し、息をつく恵理の隣で咲姫は元気な笑みを浮かべた。
    「まだまだこれからですね!」
     そう。まだまだこれからだ。
     仲間達は警戒を続ける中、
    「……新手が来たようだな」
     ひくりと穣の鼻が動く。新たな敵の気配に仲間達の表情は引き締まった。
     

     他の仲間達の働きもあり、襲撃は成功したようだ。
     先ほどまで無警戒にうろついていた羅刹達だったが、今は数人でチームを組み周囲を警戒するように歩く様子が見て取れた。
     今、灼滅者達の視界の先にいるのは2人組の羅刹。
    「みんな、準備はええ?」
     澪の言葉に仲間達は無言で頷き、そのままそっと背後に迫り、切りかかった。
     先程と同様に背後からの奇襲攻撃が見事に成功した。灼滅者達からの不意打ちを受けた羅刹達だったが、
    「お前達か、さっきからウロチョロするガキ共は」
    「こっちはヒマじゃねーんだよ!」
     チームを組んでいるだけあり、連携を意識した攻撃を繰り出してくる。
     素早く動き最初に若い羅刹が柊夜へと攻撃すると、それを武器で受けたところへ年上の羅刹が切りかかる。
    「大丈夫か?」
     思った以上にダメージを受けた柊夜を深槻が癒し、腕から流れる血がぴたりと止まる。その様子に安堵し、治胡と共に薫としっぺは羅刹へと攻撃した。
     それまで戦ってきた敵は単独行動をしていたが、連携を意識し戦う2体の羅刹との戦いは思ったよりも手こずってしまう。だが、数の上で勝る灼滅者達が優位であった。
     しっかりと示し合わせて戦う灼滅者達の攻撃を受け、少しずつ羅刹は押されていく。
    「ありがとう、澪さん」
     受けたダメージが癒え、例を言う恵理に澪はにこりと笑み、らぷらびもまた攻撃を受けた他の仲間たちを癒した。
    「さっさと消えろ! ガキが!」
    「消えるのはテメーだ!」
     治胡に向いた拳を深槻が防ぎ、その隙を突いて治胡は拳を羅刹へと叩きつけた。激しい連撃に男の顔はダメージの重さにぐっと歪む。
     ぐらりとバランスを崩しふらつくその体に、薫としっぺの攻撃が追い打ちをかけるように叩き込まれた。
     立て続けの攻撃を受け、若い羅刹は傷を負った個所から血を流した。腕を伝い、ぼたぼたと血が流れ落ちる。
    「す、すんません……」
     口から血があふれ、若い羅刹はその場にばたりと倒れた。年上の羅刹はその体を起こすが、既にこと切れており、握る手はだらりと落ちてしまう。
    「おい、しっかりしろ! ……チクショウが!」
     相棒を倒され、一人となった男は自暴になり殴りかかってくる。
    「死ねよガキが!」
    「させません!」
     がつん! 咲姫へと向いた鬼と化す腕は恵理の剣によって阻まれる。
    「ありがとう恵理さん!」
     礼を言い、咲姫はバスターライフルを構え、ビームを放つ穣に続いて魔導書・CrimsonGlory&Duftgoldを手にゲシュタルトバスターを放った。
     激しい爆発が起こると羅刹の体はもろに爆発に巻き込まれた。ようやく姿があらわれると、既に体力が限界に近いのか、足取りは重く、ふらついている。
     手負いの羅刹1体と灼滅者達。勝負はもう着いたも同然である。
    「あとちょっと!」
     咲姫の言葉に頷き、恵理はぎりっと剣を握りしめ、
    「これで最後です!」
     ざん!
     構えるクルセイドソードの一撃で羅刹の体を斬り裂いた。服が紅に染まり、斬り裂かれた胸を押さえるがあふれる血は止まらない。
     それでも威厳を損なわずにぎろりと灼滅者たちを睨み、
    「ち、チクショウ……ガキが……」
     ごぼりと口から血を吐き、羅刹は倒れた。
     
     ●
    「とりあえずこんなもんか?」
     倒した羅刹達の姿が消えていくのを目にしながら穣が言う中、
    「足音……?」
    「みんな、気をつけて」
     柊夜と深槻が察した気配と足音に仲間達は身を隠す。
     足音は徐々に近付いてくる。気付かれないよう、注意深く視線を向けると羅刹達が整然と移動していた。
     様子からして鞍馬天狗の本隊だろう。移動する彼らからはどこか苛立つ雰囲気が見て取れた。
    「整然と撤退しているみたいだけど、どこか苛ついているように見えるね」
     薫の言葉にしっぺも同意するように尻尾を振った。
     武蔵坂の奇襲を受け、襲撃に気付いた鞍馬天狗はこれ以上の行動を諦めたのだろう。彼らの苛立つ雰囲気はそれが如実に現れていた。
    「鞍馬天狗は撃破できなくても、刺青を得ようという彼の目的を挫く事が出来ましたね」
    「そやな♪ これで作戦は成功やね♪」
     咲姫と澪が言葉を交わすと隣でらぴらぶも嬉しそうに澪の周囲を飛んだ。
     本隊が移動する以上、彼らと共に撤退する鞍馬天狗を討つ事は叶わないが、
    「決着はいずれまた、だな」
     治胡が言うように、いずれ討つ機会は訪れるだろう。
     パラジウムもまた、撤退しているだろうか。探ってはみるが、姿を見つける事はできなかった。
     できる事は全てした。あとは他の仲間達を信じるだけだ。
    「えへへ、みんなお疲れ様や♪ さ、帰ろ♪」
    「そうね、そろそろ行きましょう」
     澪と恵理の言葉に仲間達は頷き、敵と接触しないよう注意しながら撤退を開始する。
     それぞれが秘めた思いの結末――望む結末を迎える事ができるかどうかはいずれ分かる事だろう。

    作者:カンナミユ 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2014年4月22日
    難度:やや難
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 5/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 1
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