刺青羅刹・新宿迷宮の戦い~新宿迷宮強襲作戦

    作者:飛翔優

    「なるほど、刺青羅刹にはああいう手合もいるのか。正直、俺の勝ち目は薄そうだな」
    「鞍馬天狗の軍が来ます! 外道丸さん、どうしますか……!?」
    「あいつの狙いはお前じゃなく、明確に俺の『刺青』だ。そして俺よりも強く、こちらの陣容も筒抜けっぽいな。力量と情報で敵わないなら、俺達にあるのは地の利だけだ」
    「地の利……あっ、昨日教わった『大勢と喧嘩する時は狭い場所で』、ですね!」
    「その通り。それに、奴等の狙いが俺なら、俺が移動すれば街にダメージは無ぇ。
     新宿迷宮で籠城戦だ。全員俺についてこい!」
     ●夕暮れ時の教室にて
     集まった灼滅者たちを出迎えた倉科・葉月(高校生エクスブレイン・dn0020)。目元を小さく引き締めながら、落ち着いた調子で説明を開始した。
    「朱雀門から外道丸の情報を得た鞍馬天狗が、アメリカンコンドルを撤退に追い込んだ精鋭、外道丸の拾い物を回収に同行したロード・パラジウムと共に、歌舞伎町の外道丸勢力を襲撃。圧倒的勝利を得ました」
     と言っても、倒しきれたわけではない。
     敗北した外道丸は敗残の仲間を引き連れて、新宿迷宮に撤退し籠城の構えを見せている。
    「生き残った外道丸配下は少数ですが、精鋭。鞍馬天狗側も、数の有利を使えずに苦戦することでしょう。しかし、苦戦するだけ、数の優位は揺るぎません。……まず間違いなく外道丸が敗北し、鞍馬天狗側が刺青を奪ってしまうでしょう」
     鞍馬天狗による刺青の強奪を阻止する為には、灼滅者の手で、外道丸を灼滅しなければならない。
     また、ダークネス同志の抗争の隙をつく事ができれば、鞍馬天狗やロード・パラジウムの灼滅すらも可能となる。
    「全ての目標を達成することは不可能かもしれません。ですが、より多くの戦果を望める状況……どうか、全力を尽くしての行動をお願いします」
     小さく一礼した後、葉月は具体的な説明へと移行する。
     外道丸は新宿迷宮に籠城中。その外道丸が、智の犬士カンナビスが捜索し、ロード・パラジウムが狙っている何かを保護している。
     鞍馬天狗の精鋭は新宿迷宮の深部を探索中。新宿迷宮の浅い階層は、鞍馬天狗配下により制圧されている。
    「大規模な襲撃があれば、鞍馬天狗は撤退を始めると思います。また、鞍馬天狗が灼滅あるいは撤退する状況になれば、ロード・パラジウムも撤退するでしょう」
     鞍馬天狗とロード・パラジウムを灼滅あるいは撤退させれば、満を持して外道丸勢力を攻撃することが可能となる、というわけだ。
    「優先すべき目的を考え、戦いに備えて下さい」
     以上で説明は終了。葉月は、落ち着いた調子で締めくくった。
    「ダークネスの精鋭との戦い、厳しいものになるかと思います。しかし、皆さんが全力を尽くせば成し遂げられる……そう、信じています。ですので……どうか、ご武運を。何よりも無事に帰ってきて下さいね? 約束ですよ?」


    参加者
    西明・叡(石蕗之媛・d08775)
    斉藤・歩(炎の輝光子・d08996)
    エルシャ・プルート(スケッチブックと百面相・d11544)
    亜麻宮・花火(実は・d12462)
    篠歌・誘魚(南天雪うさぎ・d13559)
    成身院・光姫(小穿風・d15337)
    ラツェイル・ガリズール(ラビットアイ・d22108)
    闇薙・ナナ(ナモナキカゲ・d25640)

    ■リプレイ

    ●闇からの奇襲
     エルシャ・プルート(スケッチブックと百面相・d11544)が、明後日の方角に意気揚々とフリップを掲げていく。
     ――新宿迷宮潜入完了!
     カビの臭いが交じる空気が湿り気を帯びている、新宿地下迷宮の浅い階層。幾人かの灯りだけが頼りとなる、己等を含む総計十二班の灼滅者たちが作戦を遂行する場所。
     三人くらいならば並んで歩ける大きな通路を、亜麻宮・花火(実は・d12462)は瞳を細めて見つめていた。
    「今回は大掛かりな作戦だから、緊張するな」
     短き言葉を紡いだ後、花火は仲間と共に拠点となりうる場所を探すために歩き出す。
     地図があれば良かったのだけれど、とは誰の言葉だっただろうか? 手探りで歩きまわること十数分、入口部分の3分の1ほどが瓦礫に塞がれている袋小路を発見した。
    「拠点はここでいいでしょう。休めさえすればいいです」
     瓦礫の影に身を潜めれば見つかる事もないだろうと、この場を拠点と定め篠歌・誘魚(南天雪うさぎ・d13559)が糸を結びつける。
     改めて、鞍馬天狗一派探索へと移行した。
     成身院・光姫(小穿風・d15337)はナノナノの小結丸と共に先頭に立ち、聞きなれぬ足音や声がしないか耳をそばだてる。目を凝らし、前方に見知らぬ灯りがないかの確認も逐一行った。
     代わりに、己等の灯りは最小限。本当に必要な時以外は会話も無線連絡もしないと定めていく。曲がり角に到達した際には壁に背を預け、向こう側をじっくりと確認してから進んだ。
     三つ目の曲がり角に到達した時の事。曲がり角の先で小さな光が動いている事を発見し、光姫は身振りで仲間たちに伝えていく。
     ――光の数的に敵だと思う。
     最初に、エルシャがスケッチブックを用いて返答した。
     灼滅者たちは口を開きかけた後、言葉に出して気付かれては不味いと感じたかエルシャのスケッチブックを借り、筆談で相談を行っていく。
     結論は、相手は恐らく鞍馬天狗一派。単独行動メインで次の階層への道を探っているのか巡回しているのかはわからないが、周囲に他の気配もしない以上、仕掛けるチャンス。
     ――エルたちの役割は陽動。がんばらないと。
     エルシャがスケッチブックに掲げたように、彼らの役目は鞍馬天狗一派の陽動。今はただ、攻撃を仕掛ければ良い。敵の数を削る事ができればなお良い。
     ――それじゃ……。
     ――ほな、5秒後に行こか!
     行動開始を促すエルシャに、光姫が笑顔で号令を書き記した。
     カウントを行うさなか、光姫は想い抱く。
     直接殴り合いたいという思いはあったが、今はまだそのための腕もない。
     他の連中に花を持たせると決めてきた。だからこそ、外道丸を鞍馬天狗一派が獲らぬよう全力を尽くすのだ。
    「っ!」
     五つ目のカウントを刻んだ時、光姫は曲がり角の影から飛び出した。
     一人寂しく浮かぶ光を、その主を倒すため……。

     飛び出した瞬間、光は灼滅者たちの方へと向けられた。
    「誰だ!」
    「遅いよ!」
     構わない、より明確に位置がわかるようになったと、花火が巨大な篭手に内蔵していた祭壇を展開し光の周囲を囲む結界を作り出していく。
     結界に囚われたか、光は灼滅者たちへと向けられたまま動かない。
    「みんな! 敵が痺れたよ!」
    「おらよっ!」
     即座に炎を腕へと纏わせて、斉藤・歩(炎の輝光子・d08996)が殴りかかる。
     炎上し、位置がより明確になった敵……頭に黒曜石の角を生やした羅刹へと、闇薙・ナナ(ナモナキカゲ・d25640)が轟音響く雷を浴びせかけた。
    「虎の威を借る狐さん達には、お仕置きをしてあげますね?」
    「てめぇら……」
     揺らめく炎の内側で、羅刹は顔を憤怒に染めていく。咆哮と共に結界の外へと抜けだして己を炎上させた歩へと視線を移した。
    「させないよ!」
     羅刹が腰を落とした直後、花火が間に割り込んだ。
    「ちっ」
    「っ!」
     姿勢を変えずに放たれた正拳突きを、盾を軸に受け流す。
    「そこ!」
     勢いを殺しきれぬ羅刹の背中に、拳を七回ほど刻み込んだ。
    「がっ、は」
    「……」
     勢いは完全に灼滅者たちの側。一気に畳み掛けていけばかえって被害も少ないだろうと、西明・叡(石蕗之媛・d08775)は霊犬の菊之助を向かわせると共に光輪を引き寄せ、解き放つ。
    「援護射撃が必要かしら」
     縦横無尽に舞う光輪が、炎上する羅刹の体を刻み込んだ。
     力量は羅刹の方が上だとしても、数も状況も灼滅者たちのが我が圧倒的に有利。程なくして、羅刹は炎に抱かれ消滅した。

    ●闇よりの
     各々の容態を確認し、歩が安堵の息を吐きだした。
    「大掛かりな治療は……必要なさそうっすね。探索を続けるっすよ」
     簡単な治療で万全の状態を整えた後、灼滅者たちは鞍馬天狗一派の探索を再開する。
     ――それから数十分。一度も、鞍馬天狗一派と遭遇する事はなかった。
     灯りは最小限、言葉も最小限とはいえ、隠密準備の不足が祟り巡回する敵に悟られてしまっているのか。あるいは、各所で一度目の戦闘が行われ鞍馬天狗一派が警戒を強めたか。
     ――相手が二人以上で行動するようになって、見つかりづらくなってるのかもしれないね。
     エルシャが推察をスケッチブックに書き記し、灼滅者たちは小さく頷き返していく。
     静かなため息も吐いた後、ラツェイル・ガリズール(ラビットアイ・d22108)は肩を小さくすくめた。
     ――地図があれば、もう少し楽に探索できたかもしれませんね。
     今となっては叶わぬ願い、対処していく他にないのだと、灼滅者たちは再び歩き出す。
     先頭は変わらず、光姫と小結丸。
     常に音と光を警戒し、仲間たちを導いていく。
     ……一人と一匹では、全方位をカバーするには至らない。仲間たちも警戒こそしていたものの、その精度は高くない。
    「っ! あんたら、うし」
    「遅ぇ!!」
     光姫が後方からの接近に気づいた時、敵はすでに間合いの内側。準備をする暇もなく、本日二度目の戦いが開幕した。

     強引に体を割り入れて、誘魚は後方へと……敵の前へと立ち塞がった。
     構わず放ってきたに頬を張られながらも、揺らぐことなく鞭剣を引き抜いた。
     素早く敵は三人の羅刹、全員が前衛だと判断し、鞭剣を振り回し始めていく。
    「剣の嵐よ吹き荒れて奴らを切り刻め!」
    「襲撃を受けました、しかし……」
     しなる剣が羅刹たちに襲いかかっていく光景を横目に、誘魚はインカムに報告を行いながら周囲を観察していた。
     進路側から、何かが近づいてくる気配はない。恐らく、三人で仕掛けてきただけなのだろう。
    「囲まれてはいません、救援は必要ありません」
     囲まれていな以上、打開できる。ラツェイルは改めて羅刹たちへと向き直った。
    「邪魔をするなら焼き払います!」
     書物を開き、ページを捲る。
     手を止め禁呪を唱えていく。
     羅刹たちは炎上するも、怯む様子などは微塵もない。
    「この程度、あったけぇくらいだぜ! なあ!」
    「おうよ!」
    「……」
     一戦目とは違い、灼滅者たちが仕掛けられている状況。数の有意も、8対3とかなり緩和されてしまっている。
     ならばまずは確実に削っていく他に術はない。戦闘意欲を削ぐだけでも構わないと、誘魚は腕を肥大化させていく。
    「あなたの拳と私の拳、どちらが痛いのでしょうね」
     薄く、冷たく微笑みながら、己へと襲いかかった羅刹の頬を殴り返す。
     後方にて戦況把握に務めていた叡は、菊之助を前方へと向かわせながら声を張り上げた。
    「ナナ、まずは立て直すわよ」
    「ええ、承知しているわ」
     歌い始めていく叡に呼応し、不機嫌そうに目を細めていたナナもまた高らかなる音色を響かせる。
     襲撃を受け、浅くはないダメージを負っているだろう仲間たち。しかし、果敢にも攻めていく様子を見せている。
     ならば、支える立て直す。状況さえ整えば本格的な反撃に移れると、ナナは朗々と歌い続けていく。
     気に入らない天狗様の鼻をへし折りに行く。全力を尽くすとの思いを詩に込め。
     力強きリズムを編みこみながら、仲間たちを強く、激しく駆り立てる。
     隣に立つ叡と共に。いつまでも、いつまでも……状況がひっくり返る、その時まで……。

    ●形勢逆転
     戦闘面に全力を注いでいる者が多かったのが幸いしたのだろう。
     叡は曲調を軽やかなるものへと変えた後、笑顔で歌詞に織り交ぜた。
    「立て直しは終了した、天秤はこっちに傾いたわ!」
     金の双眸が見つめる先、五歩分ほど羅刹たちが後退。逃げる様子こそないものの、外傷の少ない灼滅者陣営に対して、炎に炙られている羅刹たちの体には遠目からでもわかるほどの深い傷跡が刻まれている。
     勢い衰えても戦意は削がれぬか、最も傷の深い羅刹が誘魚へと殴りかかった。
     素早く菊之助が庇い、後方へと殴り飛ばされていく様を見て、叡は視線を移していく。
     菊之助はすぐさま立ち上がった。
     ダメージが尾を引いている様子もない。
    「菊……大丈夫みたいね。アンタたち、そろそろ反撃に移るわよ!」
    「了解や!」
     即座に光姫が呼応して、小結丸が巻き起こした竜巻の中心へと影を解き放っていく。
     影に拘束された羅刹へと、エルシャが体中を巡っているオーラを打ち出した。
     ――今、ここが決めどころだよ!
    「させるかぁ!」
     追撃は許さぬと、歩に殴りかかっていく別の羅刹。
     花火が間に割り込んで、七色に光る炎のきらめきが如き闘志で受け止めた。
    「この程度の攻撃には負けないよ!」
     跳ね除けると共に、結界を展開。影に縛られた羅刹は動くこともできず、闇に溶けた。
     誘魚は即座に、花火が拳を阻んだ羅刹へと向き直る。
    「そろそろ辛くなってきたのではありませんか?」
     蛇鞭を振り回し高めた力を、体中を巡る魔力を星の光を宿したという棍棒に充填した。
     無造作に振り下ろし、交わされるや体を捻り横に薙げば、羅刹の横っ腹を打ち据える。
     爆発する魔力に押され壁に押し付けられた羅刹へと、ラツェイルが魔道書を開き一筋の光線を発射。左肩を貫き羅刹を壁に縫い付けた。
    「畳み掛けましょう」
    「くそっ!」
     なおも身を起こそうとする羅刹。
     残る一人はカバーしようと殴りかかるも、光姫らに阻まれかなわない。
     場が整っている内に、確実に……といったところか。ナナが、影より黒き棍で身を起こしかけた羅刹を指し示し激しき雷音を轟かせた。
    「歩さん、今です」
    「ああ、そろそろケリ、付けようか?」
     雷の残滓が導く先、歩は拳を打ち込んだ。
     一発、二発、三発と重ね、足りぬと知っているから最後の一撃だけは外し背を向けていく。
     猶予が与えられたと感じたか、焦点の定まらぬ羅刹は静かな息を――。
    「がっ!?」
     ――代わりに血を吐きだした。
     炎の軌跡描く回し蹴りが、羅刹の頬を捉えたから。
    「だから言ったろ? 蹴り付けるって、な」
     笑う歩の見つめる先、羅刹は反対側の壁へと叩きつけられた。
     ゆっくりと姿を薄れさせていく羅刹から視線を外し、歩は最後の一人へと向き直る。
    「そういや何時からだ? 鬼が天狗の下っ端に成り下がったのは。それともアイツは、魔王尊だったりするのかい?」
    「ちっ」
     挑発には応じず、羅刹は踵を返して逃げ出した。
     深追いはせず、伝達開始。探索再開。程なくして、理路整然と撤退していく鞍馬天狗一派を確認した。
    「作戦成功、っすね」
     己等の役目は終了と、歩が肩の力を抜いていく。
     後は、別の作戦を遂行する仲間の役目。成功を祈り、一足先に帰還しよう。

    作者:飛翔優 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2014年4月22日
    難度:やや難
    参加:8人
    結果:成功!
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